麒麟を巡る話、第220話。
罠の看破。
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5.「おおっ!?」
背後から聞こえて来た轟音に、司祭は上ずった声を漏らした。
「せ、成功……、したみたいですね」
「そうですな」
振り向くと、真っ赤に照らされた煙が曇り空へと昇っているのが見える。
「……しかし、……うーん」
「どうされました?」
「いくら大義のためとは言え、相手が賊であるとは言え……、罠に嵌めて皆殺しにする、と言うのは間違っていると思うのですが」
「聖職者らしいお言葉ですが、これは相手と我々の戦争であることをお忘れなきよう。
過去に2度、相手に痛手を負わされましたし、その際に犠牲者も出ています。同じ目に遭わせていけないと、そんなことを言っていては我々の墓が増えるばかりです」
「しかし……、しかしこれは……」
と、司祭の顔が強張る。
「ひっ……」
「どうされ、……」
兵士たちも司祭の目線の先を追い、そこで後方から小銃を構えた者たちが追って来ることに気付いた。
「ま、前からも来てます!」
「……ぬう」
前後から挟み撃ちにされ、一行は止まらざるを得なくなった。
「後もう少し撤収が遅れたら、……と思うとゾッとするぜ」
「やっぱり運がいいな、今日は」
煤だらけになったB隊隊員たちは、揃ってプレタたちに礼を言った。
「あんたが撤収させろって言ったらしいな。ありがとう、マジで助かった」
「いいわよ、そんなの」
「仲間って言ってる奴らを、見殺しになんてできないでしょ?」
ひらひらと手を振り応じるミニーノ姉妹に対し、グレゴはギリギリと歯ぎしりしている。
「いい気になるなよ……」
「なってたのは誰よ? 呑気にあの建物の前に突っ立ってたら、アンタも木端微塵になってたわよ、きっと」
「『過去2回成功したから今回もちょろい相手だ』、なんて思ってたんじゃないの?」
「……ぐぬ」
顔を真っ赤にし、黙り込んだグレゴに背を向け、プレタは拘束した兵士たちに尋ねる。
「で、アンタたちの本当の拠点はどこ?」
「誰が言うか」
「言わなきゃ痛い目見るわよ」
「……」
口を閉ざす兵士たちから視線をそらし、プレタは司祭を指差す。
「アンタが」
「ひえっ!?」
「ねえ、アンタ。昔のむごーい拷問って、聞いたこと無い?」
マロンはにやぁ、と笑って見せる。
「南海の話なんだけど、とある将軍が敵国に捕まった時に、こーんな拷問を受けたの」
「ど、どんな……、ご、拷問、でしょうか?」
「顔の前に火薬を積まれて、それに火を点けられるの」
「え……」
「勿論、将軍はそこから離れようとするけれど……」
「す、するけれど?」
「椅子にがーっちりと縛り付けられてるから、少しも身動きできないの。
丁度今のアンタみたいに、……ね」
「ひっ……」
マロンは魔術で指先に火を作り、それを司祭の鼻先に、そっと近付けて行く。
「パチパチ、パチパチぃ、……って音を立てて、火薬は次第に鼻先で燃えていく。
目の前がどんどん真っ赤になっていく。どんどん火が近付いて来る。
逃げなきゃ顔が大火傷を負うのは、確実。……でも、動けない」
「やっ、やめて……」
「ほら、すぐ近くに火が……」
指と鼻先が拳半分まで近付いたところで、司祭は泣いて白状した。
「いいい、言いますぅ! 6番通りの9丁目、『ホテル・ファミリア』ですぅ!
ほ、ほら言いました! 正直に! ね! ね!? だ、だからどうか火は、火はぁ~……」
「ありがと」
マロンはにこっと笑い、指先の火を消す。プレタは振り返り、号令をかけた。
「聞いた通りよ。みんな、行くわよ!」
「貴様が命令するな! するのは上官だ! つまり俺だ!」
グレゴが憤慨しつつプレタの前に立ちはだかり、命令し直した。
「行くぞ! 『ホテル・ファミリア』だッ!」
拘束した司祭と兵士たちをそのままにし、B・C隊はその場から駆け出して行った。
15分後、「ホテル・ファミリア」にて。
「これで小うるさい羽虫共がいなくなったと思うと、せいせいするわい……!」
未だ黒煙を上げる建物を窓辺から眺めながら、大司祭はワインをあおっていた。
「金火狐から買い付けた高性能爆薬、実に50キロ超……! 彼奴らが一挙に詰めかけたところで爆破すれば、ひとたまりもあるまいて!」
「そう、ですな」
嬉々とした表情を浮かべる大司祭に対し、部下の司祭らは浮かない顔をしている。
「しかし卿、いくら敵であるとは言え、その、殺すと言うのは」
「大司教からのご命令ではないか! 逆らえと言うのか!?
それにだ、どうせ我々天帝教に恭順せぬ異教徒! 死んだところで神が怒る道理も無し、だ!」
「……」
既に相当酔っぱらっているのか、大司祭の語気は次第に荒くなる。
「忘れたわけではあるまい、過去2度の屈辱を!? 既に滅びようかと言う国をわざわざ救ってやろうと慈悲の心を出してやった我々に、奴らは銃を向けたのだぞ! 天帝教への冒涜に等しいではないか! ならば神も助けてくれよう、目をつぶってくれようと言うもの!
これはむしろ奴らにとっての救済、贖罪なのだよ! せいぜいあの世で罪を贖わせればいいのだ! いひっ、ひひ、ひひひ……」
狂気じみた笑いを漏らす大司祭に、部下たちは眉をひそめていた。
が――その表情は次の瞬間、恐怖のそれに変わった。
室内にその「相手」が、多数詰めかけてきたからだ。
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