黄輪雑貨本店 新館

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    「あらすじ」紹介ページ

    双月千年世界 目次 / あらすじ

    • はじめてこのブログに来たので何から読んでいいかよく分かりません!」と言う方へ。
      当ブログ最大量の長編小説、「双月千年世界」へは、こちらのページから各目次へ飛ぶことができます。
      その他の小説については、一度トップページに戻ってから、右の方にある目次を選んで下さい。

    • 目次は連載順に表示されています。「何が何だか分からないけどとりあえず最初から読んでみたい!」と言う方は、
      一番上の「蒼天剣」から読んでいくことをおすすめします。

    • 久々に来たけどどんな話かすっかり忘れた!」と言う方、
      ざっくり説明聞いてから本編を読んでみたい……」と言う方のために、各部にあらすじを設けています。
      各部(『第1部』とか『第2部』とか)にあらすじへのリンクを張っているので、そこから見てみて下さい。


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    琥珀暁 目次

    双月千年世界 目次 / あらすじ

    絵師さん募集中!

    黄輪雑貨本店 総合目次 (あらすじもこちらにあります)

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    「琥珀暁」地図(作成中……)

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    「双月暦」の暦
    双月世界の魔力・魔術観について
    双月世界の種族と遺伝 補足1
    双月世界の戸籍

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    1話目から読みたい方はこちら



    琥珀暁・往海伝
    1 2 3 4 5 6 7 8

    琥珀暁・彼港伝
    1 2 3 4 5 6 7 8

    琥珀暁・衝北伝
    1 2 3 4 5 6 7

    琥珀暁・改国伝
    1 2 3 4 5

    琥珀暁・歓虎伝
    1 2 3 4 5 6

    琥珀暁・交誼伝
    1 2 3 4 5

    琥珀暁・虎交伝
    1 2 3 4 5 6 7

    琥珀暁・信揺伝
    1 2 3 4 5 6 7

    琥珀暁・奸智伝
    1 2 3 4 5 6 7

    琥珀暁・平岸伝
    1 2 3 4 5

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    第1部;彼訪伝~邂朋伝
    第2部;狐童伝~金火伝
    第3部;
     前編 陥港伝~狐傑伝
     後編 彼心伝~北報伝
    第4部;
     前編 往海伝~歓虎伝
     後編 交誼伝~平岸伝

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    琥珀暁・乱心伝 7

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第259話。
    新たなメンバーと新たな計画。

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    7.
    「そんなことしてたんですかー。全然気付きませんでした」
     西山間部でのエリザの動向を聞き、マリアは目を丸くした。
    「確かにちょくちょくエリザさん、こっちにいないなーとは思ってましたけど、ふつーに商売してるんだとばっかり」
    「商売と言えば商売だろうな。取引するものが多少違うだけで」
    「それで尉官、3ヶ国を占領したってことですけどー、そのまま残り2つも攻めるだけじゃないんですか? エリザさんから手を貸してほしいって話があったってことは……」
     マリアに尋ねられ、ハンは短くうなずいて返す。
    「そうだ。ここまでは言わば、奇襲作戦だった。だが同じ手を何度も使っていては、奇襲にならなくなる。遅かれ早かれ、相手に手の内が知られてしまうからな。だからここからは、戦法を変えると言う話だ。その戦法の一つとして、俺たち遠征隊が動くことを要請されたんだ」
    「でもエリザさんも尉官も、戦闘を行うつもりはないんでしょう?」
     ビートの言葉にもうなずいて返し、ハンはこう答える。
    「そうだ。エマに言われて気付いたってのが癪だが――今、俺たちが実力行使に出れば、陛下に非難の口実を与えることになる。陛下は戦闘を行った俺たちを公然とそしり、何らかの処罰を与えるだろう。少なくとも、軍からの除隊は避けられない。エリザさんにしたって、どんな悪評を立てられるか分かったもんじゃない。そしてそれは、エリザさんの地位を大きく貶めることになる。
     俺たちにとっても、エリザさんにとっても、その展開は決して望ましくないものだ。である以上、エリザさんはそうならないよう、あらゆる手段を講じて回避するだろう」
    「回避とは、ちょとちゃうな」
     と、ハンの背後から声がかけられる。
    「エリザさん?」
    「アカン方の道に行かへんようにするのんは同じやけど、アタシが考えとるんは『もっとええ道の建設』やね。ただ本道を迂回するだけやと、獣道やら何やら通らなアカンやん? ソレはしんどいから、もっと通りやすくて楽でけて早よ目的地に着ける道バーンと引いたった方が、後々ええやん?」
    「なるほど。……それを言うためだけに来たわけではないですよね」
     ハンはエリザの背後に立っている、短耳の女性に目を向ける。
    「体調はもういいのか?」
    「はい。大分良くなりました」
    「そうか。……紹介する。彼女がさっき話した、シモン班の補充要員だ」
     ハンに紹介され、女性はかちりと敬礼した。
    「失礼します。メリベル・マイラ、19歳、上等兵です。ソーン尉官の元では資材管理を行っていました。至らない点は多々ありますが、よろしくご指導、ご鞭撻の程、お願いいたします」
    「ハンニバル・シモン、尉官だ。よろしく頼む、マイラじょ……」
     ハンが堅い挨拶で返そうとした途端、エリザが彼女の肩をぽんぽんと叩き、座るよう促した。
    「はいはいメリーちゃん、ほな挨拶済んだし一緒にご飯食べよか」
    「えっ、メリーちゃ、……えっ?」
     相手が目を白黒させるのを尻目に、エリザはマリアに目配せする。マリアも察した様子で、彼女に声をかけた。
    「あたしのいっこ下だね。あたしはマリア・ロッソ。よろしくね、メリーちゃん」
    「えっ、あっ、は、はい」
    「尉官はいっつもしかめっ面してるけど、人の言うことしっかり丁寧に聞いてくれる優しい人だから、何でも相談しなよ」
    「りょ、了解です」
     ビートも堅い挨拶を避け、気さくに声をかける。
    「ビート・ハーベイです。よろしくです、メリーさん」
    「……よ、ろしく」
     ハンは一瞬、くだけた態度で接する二人を叱ろうかと考えたが――。
    (そうすると多分、エリザさんが突っ込んでくるな。『ビビらせてどないすんねん』みたいなことを言って。だが、こっちでも萎縮させるのは、確かにあまりいい気分はしない。俺も倣うか)
     ハンはコホン、と空咳し、改めて挨拶した。
    「まあ、うちの班では気楽にやってもらって構わない。上官だ、後輩だからと言って、必要以上にかしこまったり、かしこまるのを強制したりはしない。だから俺も君のことはメリーと呼ぶが、それで構わないか?」
    「は、はい」
    「それじゃメリー、これからよろしく頼む」
    「よろしくお願いします。……あの、早速ですが、尉官」
     と、メリーが恐る恐ると言った様子で、手を挙げる。
    「なんだ?」
    「エリザ先生から、今度の軍事作戦にわたしが必要だと申し付けられたのですが」
    「……うん?」
     これを聞いて、ハンは首をかしげ、エリザに目を向ける。エリザはこくりとうなずき、こんなことを言ってきた。
    「ソコら辺は今から説明するわ。あとな、マリアちゃん、ビートくん」
    「なんでしょ?」
    「はい」
    「ゴメンやけど、アンタらその作戦、参加でけへんし」
    「……へっ?」
     突然の通達に、マリアもビートも、表情を凍り付かせた。

    琥珀暁・乱心伝 終

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    琥珀暁・乱心伝 6

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第258話。
    騒ぎだけを起こして。

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    6.
     エマの元部下を療養所に送ってすぐ、ハンたち3人は再度、エマについて話し合った。
    「あまりにひどすぎます。エマを即刻除隊し、本国へ送り返すべきでしょう」
    「極端なことは言いたくないですが、今回ばかりは俺もクーに同意します。一体彼らの他に後何人、同じように追い詰められた者がいるか。下手すれば自殺者が出かねない。そうなれば隊の士気が下がるどころじゃない。隊そのものが瓦解しかねません」
     二人の意見を聞き、エリザもうなずく。
    「アタシも同感や。やり口がエグすぎるわ。除隊と送還は決定や。
     でもその前に、どう言うつもりでこんなコトしたんか、しっかり聞きに行かなな。意味も目的も無くこんなんするヤツが工事の指揮なんちゅうアタマ使うコト、よおでけるはずもあらへん。何かしらの思惑があるはずや」
    「確かに」
     1分もかからず全員一致で結論を出し、3人はエマが収監されている懲罰房へと向かった。
     だが――。
    「……これは!?」
     懲罰房を監視していた兵士たちが軒並み床に倒れ、気を失っている。房も開いており、当然のごとく、中には誰もいない。
    「逃げおったな」
    「無茶苦茶だ」
     ハンは額を両手で覆い、深いため息をつく。
    「どうしますかね」
    「どうもならんわ。こんだけスパっとキレイに消えられたら、後を追うんも無理やろ。……とりあえず報告と、今後のお話やね」

     ハンたちは再度ゼロとゲートに連絡を取り、顛末を報告した。
    《冗談みたいな話だな。いや、マジなんだろうけども。……で、どうすっかって話だが》
    《ソーンに関しては不名誉除隊だろう。異論は無いね?》
    「ええ」
    「妥当ですな。無許可で房を抜け、その際に味方を攻撃したワケですし」
    《合わせて、指名手配だ。自軍に被害をおよぼした人間を放っておいて、今後さらなる被害が発生しないとは断言できない。積極的に捜索し、身柄を拘束するべきだろう》
    「了解しました」
     こうして、エメリア・ソーンは第2中隊指揮官から一転、お尋ね者として全軍に追われる身となった。



    「とは言え、捕まるとは思ってないがな」
     いつものように、ハンはビートとマリア、そしてクーを伴い、夕食を取っていた。
    「報告に上がってないし、陛下や親父からも聞いてないが、どうやらエマは魔術を使えるらしい。それも、相当の手練だ。でなきゃエリザさんの術を跳ね返したり、素手で懲罰房から脱走して兵士を倒したりなんてできないからな」
     ハンの推察に、マリアがこう続ける。
    「実際、あの後ソーン尉官の私室を憲兵班が確認したら、魔術書っぽいのが数点見付かったそうですし、長細い空き箱も残ってたらしいですよ。大きさと形からして、長いタイプの魔杖を入れとくやつっぽいって言ってました。エリザさんが使ってるのと同じくらいの」
    「魔術書『っぽい』? 魔術書じゃないのか?」
     尋ねたハンに、今度はビートが答える。
    「僕も見てみたんですが、文字が変なんです。僕たちの字じゃ無さそうなんですよ」
    「どう言うことだ? じゃあ、こっちの人間が魔術書を書いたってことか?」
    「いえ、北方の文字でも無さそうでした。一応、こっちの人たちにも見せてみたんですが、ぽかんとしてました。『見たことない』と。エリザさんも一緒に検分してたんですが、すっごい険しい顔されてました。エリザさんにも多分、何がなんだかって感じだったんだと思います」
    「そうか……」
     と、クーが手を挙げる。
    「療養所に送られた方たちは、ご無事ですの?」
    「ああ。エリザさんが色々話して元気付けて、うまい飯をたっぷり食べさせて、ようやく落ち着いたらしい。だけど3人のうち2人は、かなり衰弱してるらしくてな。しばらく軍務には就けそうにないだろう。
     ああ、そうだ。それで、残り1人のことなんだが、体調が戻り次第、うちの班に入れようかと思ってるんだ」
    「え、そーなんですか?」
    「ああ。元々真面目で勉強熱心なタイプだから、こっちの仕事にもすぐ、……いや」
     ハンはクーのひんやりした視線に気付き、ぱたぱたと手を振って返す。
    「今は測量させるつもりは無い。西山間部の状況も差し迫ってきているって話だし、こっちも動く必要があるとエリザさんから聞いてるからな。遠征隊の職務を優先する」
    「『今は』?」
    「……そんなににらむな。いずれ十分な余裕ができてから、職務の許容範囲内で行うつもりだ」
    「あなた、まだご自分で行うおつもりなのかしら? いい加減に、他の方にお任せなさいと申し上げたはずですけれど」
    「う……」
    「それより、西山間部の状況とは? エリザさんからの周知の他に、何か情報が?」
     尋ねられ、ハンはチラ、とマリアたちを一瞥しつつ答えた。
    「ああ。……そうだな、そろそろお前たちにも経緯を説明しておこう。むしろ現時点で知ってないと、この後の行動が取り辛いだろうからな」
    「と言うと?」
     首を傾げる二人に、ハンとクーは、これまでエリザが仕掛けていたこと――遠征隊に知らせぬまま、ミェーチ軍団および豪族らと接触し、西山間部5ヶ国のうち3ヶ国を陥落させていたことを説明した。

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    琥珀暁・乱心伝 5

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第257話。
    爪痕。

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    5.
    「あのっ」
     と、クーが声を上げる。
    「お父様、あの、わたくしは、その、エマに、ろくでなしと断じられたのですけれど」
    《……うん、そう聞いてる》
    「お父様もわたくしのことは、下劣で誇れぬ人間とお考えでしょうか?」
    《それは無い。遠征隊の助けがあるとは言え、まだ17歳と言う若さで、危険な勢力が存在する土地へ飛び込む勇気を持つ君を、誇りに思わないわけが無い。安心してくれ、クー》
    「……ありがとう、……ございます」
     クーがふたたび黙り込んだところで、今度はゲートが尋ねてくる。
    《ソーンのことで一つ、確認してほしいんだが、彼女もハン、お前と同じように4人で班を組んでたんだ。一緒に来てるはずだが、みんなそっちで元気してるのか?》
    「どう言う意味だ?」
    《俺がお前の親父だからってのを差し引いても、お前の声に元気が無いのはすごく良く分かる。相当やり込められたんだろうなって、調子で分かる。ソーンが着いてから1ヶ月やそこらでそんなに凹まされるんなら、ずっと付き従ってた部下は大丈夫かなって》
     これを聞いて、エリザが腕を組んでうなる。
    「ふむー……。言われてみれば確かに、ちょと気になるトコではありますな。後で確認してみますわ」

     通信後、3人はすぐ、エマの部下たちに会いに行った。
    「邪魔すんでー、……ちょ?」
     顔を合わせたその瞬間、エリザは彼らが正常でないことを瞬間的に察した。何故なら――。
    「……ちょと聞くで。ご飯食べとる?」
    「はい」
    「今朝何食べたん?」
    「パンと水です」
    「パン、何個?」
    「1個です。でも大きかったので」
    「ゆうべのお夕飯は?」
    「パンと水です」
    「……何個?」
    「1個です。でも大きかったので」
    「ついでに聞くけども、昨夜の昼食は?」
    「さあ……思い出せないです」
    「パンと水か?」
    「あ、確かそうです。何で分かったんですか?」
    「……とりあえずな、みんな。アタシと一緒に食堂行くで。ちゃんとしたご飯食べよし」
     3人が3人ともガリガリに痩せこけ、目の焦点も合わない状態で、うつろな会話をしてきたからである。
     普段から公務では仏頂面を通しているハンでさえ、この異常を見て、愕然とした表情を見せていた。
    「お前たち、この半月、いや、3週間か、あまり顔を見ていなかったが、その、エマ、……いや、ソーン尉官に、何かされたのか?」
     名前を聞いた瞬間、3人はびくっと震え、後退りする。
    「い、いえ」
    「尉官には懇切丁寧にご指導いただいております」
    「尉官には問題はありません。むしろ……」「アタシな」
     と、エリザがにこっと笑みを向ける。
    「『君のこーゆートコがダメなんだよね』とか言うて『指導』名分で訓録垂れるヤツは、大ウソツキや思てるねん。ソレな、公に見てダメやろなっちゅうのを注意してるんやなくて、その指導しとるヤツ個人が気に入らんトコを、いかにも短所に聞こえるような、もっともらしい言葉に言い換えてけなしとるだけなんよ。
     ソイツにかかったら、真面目で職務に忠実なんは『自分の考えも持てへんアホ』やし、思慮深くて明日のコトまできちっと考える子は『うじうじ悩んでばかりで行動せえへんグズ』になるし、はっきり自分の意見と相手の問題点を伝えようとするしっかり者は『空気の読まれへん狂犬』扱いや」
    「えっ……」
    「そ、それ……」
    「どうして、知って……?」
     エリザの言葉を聞いた途端、3人ともぼたぼたと涙を流し、その場に座り込んでしまった。
    「ええコト教えたるで。エメリア・ソーン尉官はな、今、懲罰房送りになっとるねん。なんでか分かるか?」
    「ど、どうして?」
    「本人がいらんコトばっかり考えて誰彼構わず噛み付くアホやったからや。『人にアホ言うヤツがアホや』っちゅうこっちゃ。
     せやからな、アンタらはアホでもグズでもキチガイでもあらへん。全然そんなコト無い。安心し。アンタらはでける子や。アタシはよお見てるで、アンタらのコト」
    「う……ううー……」
    「先生ぇ……」
     泣き崩れる3人を優しく撫でるエリザを眺めながら――クーはそっと、ハンに耳打ちしていた。
    「非道に過ぎませんか? 人をこんな風に追い込むなんて……」
    「まったくだ。……これはもう、無期限拘束なんて処罰じゃ生ぬるいかも知れん」

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    琥珀暁・乱心伝 4

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第256話。
    イワしたるッ!

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    4.
     強い揺れと爆発音が城中に伝わり、すぐに騒ぎになる。
    「今の何? 地震?」
    「いや、なんかドカーンって」
    「爆発か!? どこだ!?」
     その騒ぎをほのかに耳にしつつも、エリザは魔杖をなお、エマに構えたままでいた。
    「コレも防ぎよるか」
    「ガチって、本気でガチってコト? そりゃまあ、一瞬びっくりしたけどもね。でもコレっぽっちじゃねぇ。腕が鈍ってんじゃないね?」
     攻撃魔術が直撃したはずのエマは――机こそ粉微塵に吹き飛んだものの――平然と椅子に座ったままでいた。
     それでも、ようやくエマは立ち上がり、懐から短い魔杖を取り出した。
    「ま、マジだってんなら、私もマジで……」「フン」
     が、取り出したその瞬間、エリザはエマへ向かって駆け出し、彼女の顔を魔杖で思い切り、横殴りに引っぱたいた。
    「うごぁ!?」
    「相手の技に同じ技で対抗っちゅうのんは、その技に自信あるヤツのやるコトやな」
     姿勢を崩し、中腰になったエマを、エリザはさらに打ち据える。
    「ぐふっ!?」
    「しかも余裕綽々気取っとるヤツほど、ダラダラダラダラのんきにおしゃべりしよる。どこかの誰かさんみたいになぁ?」
    「て……っめ……」
     起き上がりかけたエマの頭を、エリザはもう一度、ごちんと音を立てて殴りつけた。
    「はう……っ」
     ぐるんとエマの目がひっくり返り、そのままどさりと倒れて気絶する。動かなくなったことを確認し、エリザは彼女の腰からハンカチを抜き取り、耳から垂れていた血を拭き取った。
    「ほんで技に自信あるヤツほど、その技でイワせられると思とるねんな。せやから真正面から殴り掛かられて、なんもでけへんっちゅうワケや。ボケが」
     と――吹き飛んだ扉の向こうから、ハンが血相を変えて飛び込んで来た。
    「え、エリザさん!? これは一体!?」
    「オハナシしとったんや。あとな、ハンくん」
     エリザはハンカチをエマの頭に投げ捨て、ハンに向き直る。
    「上長への反抗と素行不良、および軍規攪乱(ぐんきこうらん)っちゅうコトで、コイツ懲罰房送りな」
    「は……!? いきなり何を言うんですか!?」
    「おかしないやろ? 隊長のアンタに酒ブチかましよった上、副隊長のアタシにもアレやコレや減らず口叩いてけなしよった。話聞く限りやと、クーちゃんも泣かしよったみたいやしな。アタシら3人、上長やろ? 全員にツバ吐いといて、ソレが反抗やないワケ無いやろ。しかもコイツは隊でも一応の地位を与えられとる。ソレがコレやで? 放っといたら城ん中の空気がめちゃめちゃになるんは目に見えとる。軍規攪乱っちゅう名目は十分通るやろ。ソレで、ええな?」
    「い、いや、しかし」
    「しかしもかかしもあるかいな。早よ連れて行き」
    「……分かりました」

     その後、正式にエマの処罰が決定され、彼女には無期限の拘束が課されるとともに、彼女の持つ権限は停止され、ハンに移管された。



    「どう言うコトか説明してもらわなあきませんな」
     エリザ、ハン、クーの3人はゼロ、そしてゲートに連絡を取り、エマの素行不良を報告した。
    《どう言う……って、こっちが聞きたいくらいだ。一体何故、彼女がそんなことをしたのか。正直に言って、私もさっぱり分からないよ》
     困り果てたゼロの声に、ゲートも続く。
    《俺も同意見だ。こっちにいる時は――まあ、そりゃオテロの件とかあったけどさ――そんなメチャクチャなことするような人間じゃなかった。それは確かだ。俺が保証する。だからこそ、信じてそっちに送ったんだ》
    《ともかく、何か行き違いがあったか、それとも私たちも把握できていない要素があったか、……問題点は分からないが、こちらで把握していた分には、問題の無い人間だったはずなんだ》
    「さいでっか」
     明らかに納得していない顔をしつつ、エリザがこう返す。
    「ま、直近の問題としてはですな、シモン班の欠員埋めるために入ってきたエマちゃんがこうなりましたから、また空きが出たワケですわ。こっちで選ばせてもろてええですな?」
    《あ、いや、それは》
     言い淀むゼロに、エリザは押し込んで行く。
    「ソレともまたそっちから送ります? 今度はどんな人材です? ソレは今度こそ納得行く優秀で完全無欠な人材っちゅうワケですやんな? ほんで、その移送はすぐでけるんですか? エマちゃんのおかげで、去年からずーっと班編成に穴空いたままになるんですけども、また向こう2ヶ月、3ヶ月、ハンくん片手落ちの状態で待っとれっちゅうコトですか? この間もよお手が回らんかったのに、まだ待たせとく感じです?」
    《……分かった。そっちで決めていい。これ以上穴を空けたままは、確かに、うん、まずいよね》
     諦めに満ちた声色で、ゼロが答える。それを聞いて、エリザはハンとクーにニヤッと笑いかけつつ、平然とした声で応じた。
    「どーも。ほな、そうさせてもらいますわ」

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    琥珀暁・乱心伝 3

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第255話。
    怒りのおかん。

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    3.
     エマからの叱咤を受けた、その3日後。
    「なあ、ハンくん?」
     西山間部から戻ってきたエリザが、心配そうな顔でハンを見つめてくる。
    「なんです?」
    「アンタ、熱でもあるんとちゃう?」
    「は?」
     突拍子も無い言葉をかけられ、ハンは目を丸くする。
    「いきなり何なんですか」
    「いつものアンタやったら、アタシ帰ってくるなり『なんでいつも勝手なコトするんだ』ってけしかけて来るやないの。せやのに今回、ずーと待ってんのに一向に来よらへんやん。調子でも悪いんちゃうって」
    「そんなことはありません。健康です」
    「ソレやったらええんやけどね。あ、ほんでな、アンタ来たら話しようと思って待っててんけどもな」
    「話?」
     尋ね返したハンに、エリザはこう切り出した。
    「こないだ『頭巾』で言うた通り、今な、西山間部の5ヶ国のうち、ハカラ王国・レイス王国・オルトラ王国の3つがアタシら側になってんねんな。で、西山間部で残っとるんはスオミ王国とイスタス王国の2つやけど、こっちを攻めようと思たらどないしても、帝国さんの西山間部軍が出張ってきよるやん? ソレを何とかしようと思てな」
    「なるほど」
    「……ハンくん。ホンマに熱無いか?」
     そう言ってエリザは前髪をかき上げ、ハンの額にぴと、と自分の額を当てた。
    「無いです。何なんですか。近いですよ」
     顔を離したハンに、エリザは首を傾げて返す。
    「何なんですか、はこっちのセリフや。アンタ、いつものアレやったら『戦争なんてしません』やら何やら言うて突っかかるやんか」
    「無論、するつもりはありませんし、エリザさんもそうでしょう?」
    「……」
     答えた途端、エリザの目がすー、と細くなる。
    「ハンくん?」
    「なんです?」
    「エマちゃんに何や吹き込まれたんか?」
    「なんでですか」
    「ビートくんはアンタにずけずけモノ言うタイプやあらへんし、マリアちゃんはアンタが凹むようなコトは絶対言わへん。クーちゃんは強情張っても実は気ぃ弱いから、アンタがやいやい文句言うたら引っ込む娘や。となれば消去法で一人しかおれへんやろ」
    「……特には、何も」
    「『特には』? ほんならあるんやないの」
    「う……」
    「すっきり話しよし。いつものハンくんやないと、アタシも調子狂うわ」
    「分かりましたよ、もう」
     詰め寄られ、ハンは仕方無く白状した。
    「……と言われまして」
    「はぁーん?」
     途端に、エリザは今までハンが聞いたことの無いような、怒りの混じった鼻息を漏らした。
    「な、なんです?」
    「そんなもん、ハラ立つやんか。自分の子に罵詈雑言かまされて、頭から酒びっしゃーって被されたなんて聞かされたら」
    「あなたの子供ではないです」
    「似たようなもんやろ」
     くる、とエリザは身を翻し、すたすたと部屋の出口まで歩いて行く。
    「エリザさん?」
    「ちょっとオハナシしてくるわ」
    「いや、あの、西山間部の話は?」
    「そんなん後や」
     怒りのこもった声色でそう返し、エリザは大股で出て行った。

     エリザは勢い良くエマの執務室の扉を蹴飛ばし、ずかずかと中に押し入る。
    「邪魔すんでー」
    「邪魔すんなら帰ってね」
    「あいよー、……て何でやねんな。用があるから来とんやろが」
     机を挟んで相対し、両者ともにらみ合う。
    「で、なに?」
    「アンタ、随分好き勝手しとるらしいやないか」
    「別にカミサマのご神託が下ったワケでもなし、好きにやらせてもらって何が悪いね?」
    「けなして酒ブッかけるヤツがろくでなしの無礼者やなかったら、大抵のヤツは聖人やで」
    「へーぇ? じゃあ聞いたの、私に泣かされましたわって。ろくでなしの愚か者の上に恥知らずか、あのおバカ娘。三冠達成だ……」
     言い終わらない内に、エリザが魔杖を振り上げ、術を放つ。
    「『ショックビート』!」
    「ヘッ」
     が――これまであらゆる益荒男たちを、一瞬の内に沈めてきたこの魔術を――エマは斜に構えたまま、右手をひょいと挙げ、指を鳴らして弾いた。
    「……っ、う」
     直後、エリザの狐耳からぼたっと、血が垂れる。それを見て、エマはニヤニヤ笑っている。
    「さっすがぁ。反射術対策をしてたみたいだね。でなきゃ君は今頃、私の前でブザマ晒してたね」
    「アンタな」
     耳をぷる、と一振るいし、エリザは再度魔杖を向ける。
    「コレ以上アタシを怒らす気ぃか?」
    「勝手にプンプン怒ってろよ。バカを相手する気無いね」
    「よぉ分かったわ。死にたいらしいな」
    「安い挑発なんかするもんじゃないね。自分のバカを見せびらかすだけさ」
    「挑発ぅ?」
     エリザは魔杖を振り下ろし、火球を発生させた。
    「アタシがコケおどしなんかするかいな。ガチのヤツや」
     次の瞬間――部屋中に熱気と爆轟が発生し、窓と扉が残らず吹き飛んた。

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    琥珀暁・乱心伝 2

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第254話。
    正論でボコ殴り。

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    2.
     しんと静まり返り、冷え切った卓の様子に構わず、エマは話を続ける。
    「ソレからさ、ソコのお二人さん」
     声をかけられ、ビートとマリアは慌てて顔を上げる。
    「はっ、はい?」
    「なんでしょ……」
    「なんでしょ、じゃないね。君ら、なんでココにいるね?」
    「え?」
    「なんでって、ご飯一緒に食べようって尉官、や、シモン尉官が」
     答えかけたマリアを、エマがギリッとにらむ。
    「私が聞いてんのはそうじゃないね。君らが常からこのハンニバル・シモン尉官殿と行動してるのは何のためだって聞いてんの、私ゃ」
    「や、それは、職務上の必要からで」
    「はー? 職務上の必要ねぇ?」
     バン、と卓を叩き、エマは声を荒げてマリアに詰問する。
    「その職務って何さ? こうしてコイツの愚痴聞き流すコト? 隊のカネで上手いメシ食べてレポートするコト? 違うだろ? コイツの行動に不足や不備が無いよう、補佐・補足するコトじゃないの?」
    「そ、そう、です」
    「じゃあ今君らがやってんのは何だよ? コイツが店のド真ん中でべちゃくちゃべちゃくちゃクソみたいな愚痴垂れ流してんのを見ようともしないで、『コレ美味しいねー』『もっかい食べよっかー』ってきゃあきゃあ楽しくおしゃべりして、まったく御大層な御身分でございますねっつってんだよ、私。そんなコトも分かんないかね? で、ココにいる意味聞いたら『ご飯食べに誘われましたー』って、君はアホか? ご飯食べんのが君の仕事じゃ無いだろ?」
    「す、……すみません、ソーン尉官。軽率でした」
     マリアも顔を青くし、深々と頭を下げる。
    「あとさー、ソコのお姫様」
     エマの口撃が、続いてクーにも向けられる。
    「ひゃいっ!?」
    「今、コイツに酒呑まして潰そうとしたね?」
    「そ、そんなことは」
    「したね?」
    「……は、はい」
    「ソレが君のやり方? コイツのアホみたいな愚痴を真面目に聞かない、ほっとく、果ては無理矢理酔い潰させて結論うやむやにしてまた明日、ってか? コイツらがアホなら君はろくでなしだね」
    「ろ、ろくっ!?」
     真っ向から罵倒され、クーの顔に一瞬、朱が差す。だがエマは怯むどころか、その様子を「はっ」と鼻で笑った。
    「なに? ろくでなしって自覚無いね? だとしたら君はろくでなしの上に愚か者だね。仮にもコイツは隊長で、君はお姫様だよね? だったら両方とも、ソレらしくカッコつけろってんだね。コイツが公の場で隊長らしからぬ下品なコト言い出したら、きっちり諌めるのが良識と地位のある人間のやるコトじゃないね? ソレをお酒無理矢理呑ませて潰すって、見下げ果てた品性の無さだね。お姫様が聞いて呆れるってもんだね。しかもソレをごまかす? 自分のやったコトに責任持てないってんじゃ、愚か者って言われても仕方無いって思わないね? ね? どうなのよ、お姫様?」
    「そ、れは……」
     きつい言葉を立て続けにぶつけられ、クーの目に涙が浮かぶ。それを見て、エマは更に声を荒げた。
    「なに? 親でも死んだの? なーんでこの程度で泣き出すね? ソレともカワイイ女の子だから、泣いたらごまかせるって? 困ったら解決せず片っ端からごまかすのが、君のやり方? おーおー、狡い女だねぇ。重ね重ねろくでなしでやんの」
     追い打ちを掛けられ、いよいよクーは泣き出してしまった。
    「ひぐっ……ひぐぅ……」
    「まったくさ、君ら何しにココに来てんのかって話だね。ちっとは自分のやってるコト、ちゃんと省みたらどうだね。ねえ、尉官殿?」
     エマは傍らに置いていた酒瓶を手に立ち上がり、ハンの頭にバシャバシャと酒を浴びせた。
    「ぐっ……」
    「ぐうの音もマトモに出せないね? 他人にケチつける前に、自分をちゃんと躾けろっての。
     じゃ、今日はこの辺で。じゃーね」
     言うだけ言って、エマは金を卓に置き、そのまま店を出て行った。
    「……あ、と」
    「い、……尉官?」
     髪からポタポタと酒を垂らしたまま、呆然とした顔で固まっているハンに、ビートとマリアが声をかける。
    「ひっく、ひっく、……ハン?」
     クーもグスグスと鼻を鳴らしつつ、心配そうに声をかけたところで、ハンが真っ青な顔をしたまま、すっと立ち上がった。
    「俺も、今日はこれで帰る。……悪いな。金は俺が払っておく。……おやすみ」
    「あっ、……はい」
    「お、おやすみなさい」
     残された3人は顔を見合わせたが、誰一人、何も言えないでいる。
     やがて、卓にこぼれた酒が乾き始めたところで、ビートが下を向き、ぽつりとつぶやいた。
    「……ひどいとは、思いますけど、でも、……何も言い返せませんでした」
    「うん……」
    「……わたくし、ぐす、帰り、ます」
     クーが泣きじゃくったまま、席を立つ。残った2人も、無言でその場を後にした。

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    琥珀暁・乱心伝 1

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第253話。
    晩餐の異変。

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    1.
    「いつも、いつも、いつもだ。いつも思うことだが」
     いつものハンたち4人、そして新たに加わったエマとで夕食を取っていた最中、やはりいつものように、ハンが酒の入ったグラスを片手に、愚痴を吐き始めた。
    「どうしてエリザさんは、俺たちを軽視するんだかな。今回のことにしても、俺やクーですら詳しい経緯を知らされないままで、いきなり『西山間部の国3つを陥とした』と言ってきた。そして既に、残り2ヶ国の攻略も検討中である、とも。真面目に訓練してた俺たちが馬鹿みたいじゃないか」
    「はあ」
    「そーかもですねー」
     この時点で既に愚痴を何周も聞かされているため、マリアとビートは生返事をしつつ、料理に目を向けている。
    「これ美味しいですね」
    「後でもっかい頼もっか」
     ハンの隣に座るクーも、いかにも飽き飽きした様子で、グラスの縁に指を当て、くるくると撫でている。
    「だからな、俺は……」
     話が一巡したところで、クーはそのグラスから手を放し、ハンに目を向けた。
    「ハン」
    「ん? なんだ、クー?」
    「ずっとお持ちになっていては、温もってしまうでしょう? こちらと交換なさい」
    「ああ、悪いな」
     クーから受け取ったグラスを手に取り、そのまま呑もうとしたところで――。
    「あのさ、ハン」
     これまでずっと黙々と酒を呑んでいたエマが、唐突に口を開いた。
    「エマ?」
    「黙って聞いてたけどさ、君って自分が特別な存在だと思い込んでるタイプのバカなんだね」
    「な、なに?」
    「ちょっと、エマ?」
     愚痴が終わることを期待していたらしく、クーが困った顔を向ける。
    「いいから」
     が、エマは構わず、話を続ける。
    「こないだも私言ったよね、遠征隊が今、ゼロからどんな期待をされてるかってさ」
    「ああ。戦闘を仕掛け戦果を収めるように、だろう?」
    「ソレさ、もういっこゼロの思惑があるってコト、分かってる?」
    「どう言うことだ?」
    「普段から君、平和主義者なコトほざいてるけどさ、ゼロんトコだってそう言うの、一杯いるだろ? そう言うヤツらが、遠征隊が北で力任せに侵攻してる、現地民を殺戮して回ってるって聞いたら、ソレを率いてるヤツ、つまり君や、何よりエリザのコトを、どう言う風に思うだろうね?」
    「そんな風に言われたら、それは確かに、悪人と思うだろう」
    「そう。そしてゼロは隙あらば、そう言う風に言ってやろうと狙ってるね。で、悪い評判をみんな君たちに押し付けて、自分はその成果だけを掠め取ろうとしてるね。つまり、実際に侵略した君たちをワルモノ扱いして遠ざけて、侵略した土地だけをもらっちゃおうって肚なのさ」
     これを聞いて、ハンはとろんとしていた目を見開いた。
    「ば、バカな! 陛下がそんな……」
    「おバカは君だね。傍から見てたら明らかだってのに、当事者の君が『陛下がそんな下劣な真似をするなんて有り得ない』って、盲目的に信じ切ってる。ソレがおバカでなくて何だよって話だね。
     エリザさえいなくなりゃ、残ったゼロは好き勝手なコトを言いたい放題。『遠征隊によって蹂躙された人々に補償を行う責任がある』とか何とかキレイゴト並べて、いいトコだけ全部持ってくつもりなのさ」
    「い、いや、そんな……」
     酔って赤くなったハンの顔が次第に、いつものように青ざめていく。畳み掛けるように、エマはこう続ける。
    「あとさ、君がマジで真面目に真剣に考えるべきなのは、ゼロは君のコト、どうなろうが構わないって思ってるだろうってコトだからね?」
    「な、なに?」
    「繰り返すけど、今のゼロが重視してるのはエリザを排除するコトだ。『多少の犠牲』は目を瞑ろうとするだろうね。その犠牲が例え、親友の息子だろうとね」
    「そんな……」
    「『そんなバカな』? 『自分だけは守られる』って? エリザと一緒にこっちに送り込まれといて、ソレでまだ、『自分は特別』『助けてもらえる』って思ってる? だとしたら相当おめでたいね。きっとゼロが君のコト死刑だっつっても、当然とか仕方無いとか考えるんだろうね、君」
    「う……ぐ」
     ハンはとうとうグラスを卓に置き、すっかり顔を青くして、黙り込んでしまった。

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    体育会系の血が騒いでんねやろ

    今日の旅岡さん



    虎海「あなたとお手合わせする時をわたくし、心待ちにしておりましたわ」
    猫藤「奇遇だね……あたしもだよ!」
    虎「春の雪辱、果たしてご覧に入れますわ」
    猫「ふっふっふ……返り討ちにしてやるさ」

    大江「たかが体育祭でテンション上がりすぎじゃない?」
    旅岡「体育会系の血が騒いでんねやろ」
    大「熱血かー」
    旅「あたしらには無縁の世界やな」
    大「だね」
    旅「ほんで春のヤツって、球技大会ん時の話やろか」
    大「結局あれって虎海さんがスタンドプレーして退場させられただけだよね」
    旅「雛ちゃん的にはキッチリ決着付けたいんやろ。熱血やし」
    大「熱血ねぇ」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    旅岡さんたちの学年の、アスリート女子ツートップとうわさされているこの両名。
    片や文武両道のスーパーお嬢様、虎海雅。
    片やプロもうならす超高校級エース、猫藤雛。
    かねてより「この二人の直接対決が見てみたい!」とささやかれていた。

    実は春の球技大会でも、バスケ部門にてこの両名がぶつかっていたのだが、
    そこで雅ちゃんはやらかした。
    開始2分で早くも一人で12点獲る猛攻を見せるも、
    調子に乗りすぎてダンクシュートまで決めてしまい、その結果、ゴールが破損。
    当然、試合は中断。雅ちゃんは先生に怒られ、そのまま退場となった。
    その後コートを換えて試合続行となり、雛ちゃん側のチームが逆転勝利した。

    ……が、そんな結果で満足するようなスポ根少女、雛ちゃんではない。
    機会があればもう一度ガチで対決したいと願っており、それが今日、叶うこととなった。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    そして閉会式の後、互いにやり遂げた顔で、ガッチリと握手する二人の姿があった。
    大江「漫画みたい」
    旅岡「ほんまやね」
    大「熱血だもんね」
    旅「やっぱりあたしらには分からん世界やな」
    大「そだね」
    旅「ほんでもあたしらも結構動き回ったし、お腹空いてもーたわ。
     後で黄さんのお店行かへん?」
    大「いいね」
    旅「あの二人も誘ってくるわー。折角やしこの機会にお互い、お友達になってもらおーや」
    大「おせっかい焼き」
    旅「そんなんちゃうて。おもろそうやからやん」
    大「……それはちょっと分かる」

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    琥珀暁・狐略伝 8

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第252話。
    西山間部戦、前半戦終了。

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    8.
     エリザが仕掛けた作戦は、以下の通りだった。
     まずミェーチ軍団と豪族らを共闘させることで、彼女は500を超える軍勢を、西山間部に確保することができた。これと並行し、標的国の農村部に対して人心掌握策を施し、村民と民兵を帝国から離反させるとともに、都市部へ侵入しても怪しまれない伏兵を育成したのである。
     これと同様の作戦を、エリザはハカラ王国だけではなく、レイス王国、そしてオルトラ王国にも仕掛けており、いずれも成功を収めていた。これにより、帝国は西山間部における支配圏の半分を、その状況も把握していない内に失うこととなったのである。



    「まだ帝国に動きは無いそうだ。どうやら気付いておらんようである」
    「ありがとさんです」
     ミェーチからの報告を受け、エリザはにこりと微笑む。
    「でも時間の問題ですやろな。将軍さんも拘束したままですし」
    「然り。半月や一月程度なら多少ばかり長居したとも取られるだろうが、それ以上経てば流石に怪しまれるだろう。どれだけ遅くともその頃には、帝国も状況を察するであろうな」
    「ほな、ちょと急いで次の仕掛けせなあきませんな」
     エリザの言葉に、ミェーチは目を丸くする。
    「次?」
    「このまま制圧した国に陣取るだけやったら、帝国さんがまっすぐ攻めてきはるやないですか。
     3ヶ国の制圧と抱き込みはでけましたし、おかげで兵隊さんも900人増えましたけども、ソレでもミェーチ軍団と豪族連合の500と合わせて、1400ですやろ? 対する帝国さんの、西山間部勢力の総数は……」
    「スオミ王国とイスタス王国の300ずつ、ソレから西山間部方面軍の1000で、合計1600っスね」
     シェロの回答に、エリザはうんうんとうなずく。
    「そう、数の上ではほぼ互角と言えば互角ですわ。でも正面衝突となったら、どんだけ犠牲が出ますやろな?」
    「相当数に上るだろう。こちらも、向こうも」
    「ただ、向こうは東山間部の帝国本国軍がすぐ後ろにいてはりますやろ? ソレまで引っ張って来られたら、状況は最悪になりますで」
    「仮にお互い半減したとして、こっちは700、西山間部勢力は800。で、帝国本国軍が3000って話っスから……」
    「……えーと」
     指折り数え、ミェーチが渋い顔をする。
    「700対2000くらい、……であるか?」
    「3800っス。なんで減るんスか」
    「失敬。と言うことは3倍、いや、4倍であるか」
    「ほぼ5倍っス」
    「おぅふ」
     ほおを真っ赤にしつつも、ミェーチは真面目な顔で話を続ける。
    「なるほど。正面決戦となれば、こちらが圧倒的に不利であるな。だが遠征隊の600、いや、増員したから1000? くらいであったか、それを参加させれば……」
    「あきませんな」
     ミェーチの意見を、エリザはぴしゃりとはねつける。
    「遠征隊は山の下です。ココまで来さすには峠道登らなあきません。一方で帝国本国軍は湖をぐるっと回った向こう岸。どっちの行軍が早いですやろな?」
    「むむむ、確かに。しかし魔術とやらでどうにか……」
    「ソコまで万能やありまへん。なんでもでけるんやったら、ハナから東山間部、帝国首都で決戦してますわ」
    「……さもありなん」
    「ちゅうワケで、西山間部勢力をこのまま北上させるワケには行きません。と言って、スオミ王国とイスタス王国にも同じ手を使うワケにも行きませんわ。そら3ヶ国で封鎖線敷いて人の行き来を止めてましたから、アタシらが何してたとかは知られてないでしょうけども」
    「あれだけ仰々しく封鎖していたのだ。それ自体がうわさに上っているだろう」
    「となると、警戒するヤツも出てくるでしょうね。『農村部で変なコトしてるヤツがいるぞ』だとか、『街の周りに豪族みたいなのがウロウロしてるぞ』だとか」
    「そう言うコトですわ。ココからは別の手で、攻めてかなあきません」

    琥珀暁・狐略伝 終

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    琥珀暁・狐略伝 7

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第251話。
    狐の計略。

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    7.
     エリザに促されるまま、成り行きで武装解除させられた兵士たちは、仕方無く結婚式に参加していた。
    「さあ、飛び入りの方! どうぞ一杯!」
     村の者から酒を勧められ、言われるがままに受け取る。
    「どうも……」
     所在無さげにちびちびと酒をすすっているところに、エリザがニコニコしながら近付いて来た。
    「突然のお願い聞いてもろて、えらいすみませんなぁ」
    「何を……」
     何を勝手な、と文句を言いかけたが、その瞬間、いきなり弾き飛ばされた同僚の姿が脳裏に浮かび、口をつぐんでしまう。
    「……話を聞きたいのだが。先程、話してくれると言っていただろう?」
    「あ、はいはい」
     エリザがすとん、と横に座ったところで、先程エリザに倒されたその同僚が、恐る恐る手を挙げる。
    「さっきのは一体何です? 俺に仕掛けた、あの……」
    「魔術ですわ」
    「ま……じゅつ?」
    「知りまへんか? 南の邦から来た人らのコトは?」
    「うわさ程度です」
    「アタシも南の方から来てるんですけどもね、そっちでは有名な技術っちゅうか、学問的なヤツですわ」
    「はあ……?」
    「それより俺が聞きたいのは」
     先にエリザに話しかけられていた兵士が、再度口を開く。
    「ここで行われていることと、ボリショイグロブで起こっていたことだ。どっちもあんたが関わっていると言っていたが」
    「ええ。結婚式のコトはさっきお話しした通りですわ」
    「だが、新郎は豪族の者に見える。何故王国の人間と結婚するんだ」
    「そんなん本人たちの勝手ですやん。どっちも好きや、一緒に家庭作りたいて言うてるんですから」
    「いや、異邦人のあんたには分からんだろうが、そんなことは帝国が許すはずが……」
    「豪族の人らにとったら帝国さんの事情や法律なんか知ったこっちゃないですし、村の人らも、いらん横槍入れてくるようなもんに付き従うんやったら、まだ豪族さんらと仲良うする方がええやんな、と」
    「なに……!? じゃあ、帝国に叛意(はんい)を?」
     いきり立つ兵士に、エリザはニヤッと悪辣じみた笑みを見せる。
    「結局、帝国さんらに従っとるんは、力ずくで言うコト聞かされとるからですやん? もっと力があって、話が分かるような人らが近くにおるんやったら、そらそっちに付きますわ」
    「本当にそう思ってるのか? 豪族が帝国に勝てると?」
    「確かに正直なところ、豪族さんらだけで勝つんは無理ですわ。せやから、色々結託してますねん」
    「結託?」
    「ええ。豪族さんらとミェーチ軍団、ソレからアタシらですな」
     これを聞いて、兵士たちは顔を見合わせた。
    「ミェーチ軍団って、こないだ門前払いされたって言ってた、あの……?」
    「だろうな。で、そいつらが豪族と結託した、と。だが豪族と言ったって、ピンからキリまでいるだろう? 一体どこと……?」
    「ソコら辺もアタシが話付けましてな。豪族のみなさん、一致団結してくれましてん。おかげで今回の作戦、随分上手いコト行ってるみたいですわ」
    「なっ……」
     もう一度顔を見合わせ、再度エリザに向き直る。
    「あんた、何者なんだ? 帝国に反乱したり、豪族たちをまとめたり、……俺にはあんたが、とんでもない奴に思えてならない」
    「言いましたやん。ちょと商売しとるだけですて」
     この間ずっと笑みを絶やさず、不敵な態度でいたエリザに、兵士たちは絶句するしか無かった。
     ようやく一人が、卓に置かれた酒をぐい、とあおり、恐る恐る尋ねる。
    「その……、ボリショイグロブでの作戦にも加担してるって言ってたが、一体何をどうしたんだ? 曲がりなりにもハカラ王国の首都なんだから、守りは強固なはずなんだ。なのにいつの間にか、敵に侵入されていたし」
    「ああ」
     エリザはこの質問にも、笑って答えた。
    「最初に中に入ったんは、豪族の人らとちゃいますねん。農村から手伝いに来てもろた、短耳の娘らですわ。腕っぷしは無いですけども、魔術の覚えはええ子ばっかりで。
     ほんで巡回しとったり、詰所にいとったりしてはった兵士さんらを片付けてもろて、ほんで豪族さんらを招き入れた次第ですわ」
    「なるほど……。豪族はほとんどが、熊耳や虎耳だからな。短耳はそう言う点で、ノーマークになる。そもそも『帝国に反旗を翻すのは豪族だ』と言う思い込みがあったし、農村の村娘なんかに警戒するわけが無い。それにあんた、さっきは武器らしい武器も無しに攻撃したよな。それが魔術なのか?」
    「ええ、大体そう言うもんですわ」
    「武器も無し、『熊』や『虎』でもなし、そもそも明らかに兵士と分かる身なりでなし、……じゃ、そりゃ素通しする。こっちの防衛網は、最初から機能してなかったんだな」
    「そうなりますな」
     にこりと笑うエリザに、兵士たちはとうとう、反抗心も敵対心も削がれてしまった。
    「そうまで綺麗に作戦を組み立てられてるって言うなら、もう首都は陥落してるだろう。多分あのいけ好かない将軍も、西山間部基地に到着する前に捕まってるんだろうな」
    「ああ、トブライネン将軍さんですな? ええ、捕まえたそうですわ。さっきリディアちゃん、……あーと、お手伝いしてもろてる娘から連絡受けてます」
    「やっぱり。じゃ、俺たちの仕事は一つも無くなったってわけだ。……呑むかぁ」
    「そうすっか……」
    「あーあ……」
     彼らは揃ってため息を一つ付き、それから卓上の料理に手を付け始めた。

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    琥珀暁・狐略伝 6

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第250話。
    奇妙な結婚式。

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    6.
     民兵を召集するため、ハカラ王国の正規兵らは農村の一つを訪ねていた。ところが――。
    「ん? 祭り……か?」
     村の広場から音楽と人の声が聞こえてきたため、彼らはそちらへ向かう。
    「よーし、もっかい乾杯だー!」
    「おー!」
     広場ではめかし込んだ男女を囲むように、村の者たちが騒いでいる。
    「結婚式の最中、と言ったところか?」
    「みたいだな」
    「参ったなぁ。声、掛け辛いぜ」
    「ああ……」
     間の悪いところに出くわしたと、兵士たちは互いに顔を見合わせ、苦笑する。ところが――。
    「……待て。あの新郎、なんかおかしくないか?」
    「えっ?」
     言われて確認してみると、新郎には熊の耳が付いており、明らかに村の者ではない。
    「と言うことは沿岸部民か、……まさか、豪族?」
    「ま、まさか! そんなわけあるかよ!?」
    「王国の者と豪族が結婚なんて、あるわけ無いだろ?」
    「だ、……だよなぁ?」
     どう動けばいいか分からず、兵士たちはもう一度、互いに顔を見合わせる。と――。
    「あら、どないしはりました?」
     彼らの背後から、声をかけてくる者がいる。振り返るとそこには、やはり王国の者では無い、いや、この邦の者ですら無さそうな、狐の耳と尻尾を持った女性が立っていた。
    「な、……ん?」
    「お前は……?」
    「今日の結婚式を企画しましてん。いやね、新郎さんも新婦さんもオクテっちゅうか、なーかなか一緒になろうとしはらへんって周りがやいやい言うてたらしいんですわ。で、新郎さんからどないしたらええやろって相談されましてな、『せやったらちゃっちゃと結婚しはりよし』っちゅうて、アタシが色々手ぇ回したったんですわ」
    「い、いや、そんなことは、聞いていない」
    「お前は、誰だと、聞いてるんだ」
     そう尋ねられ、相手はようやく答える。
    「エリザ・ゴールドマンと申します。ちょと南の方で商売さしてもろてます。ところで皆さん、ハカラ王国の兵隊さんやとお見受けしますけども」
    「あ、ああ。急用で、民兵を召集しようと」
    「あらー、そら大変ですなぁ」
     エリザはあっけらかんと返し、ニコニコと笑みを浮かべる。
    「でもそんなに焦らんでええでしょ? 皆さんも、良ければ式に参加したって下さい。お客さんは多い方が楽しいですからな」
     思いもよらない提案を受け、兵士たちは面食らう。
    「は……? な、何を言うんだ?」
    「王国の一大事なのだぞ!」
    「こんなところでゆっくりしている暇など……!」
    「あら、さいでっか。ソレ、王国が占拠されたとか、そう言うお話です?」
     エリザの言葉に、兵士たちの顔が一様にこわばる。
    「なに……!?」
    「貴様、何故それを!?」
    「ソレもアタシが企画してますねん。あ、ソコら辺も聞きたかったら、詳しくお話さしてもらいますけども」
    「ふ、……ふざけるなッ!」
     兵士たちは剣を抜き、エリザに向ける。
    「貴様が襲撃を計画しただと!?」
    「あんまりそう言う物騒なもん、アタシに向けんといて欲しいんですけどな」
    「答えろ!」
    「ええ加減にせえへんと、痛い目遭うてもらいますよ?」
     そう返し、肩をすくめるエリザに、兵士の一人が襲い掛かる。
    「貴様あッ!」
    「あーもう」
     が、次の瞬間、兵士はばん、と何かが破裂するような音と共に、その場から弾き飛ばされた。
    「うあっ……!?」
    「せやから痛い目見るて言うてますのに」
     何が起こったのか分からない間に、一瞬で倒された仲間を目にし、兵士たちの顔から血の気が引く。
    「で、皆さんどないしはります? まだアタシにちょっかいかけはります? ソレともご飯一緒に食べます?」
    「……う、うう」
     兵士たちは完全に戦意を喪失し、剣を収める。それを受けて、エリザは彼らに手招きした。
    「とりあえず、そんなゴツい格好で参加されたら場違いですわ。礼服持って来てますから、そっちに着替えて下さい」
    「わ、わか、った」
     彼らは反論一つできず、エリザの言うことに従った。

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    琥珀暁・狐略伝 5

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第249話。
    王国の反撃作戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     30分後、城の大広間に集められた兵士を見て、将軍は苦い顔をした。
    「なんと! 30名もいないではないか!?」
    「申し訳ございません。思った以上に敵の動きが早く……」
    「ま、まあ良い。して、敵の動きは?」
     将軍に尋ねられるが、集まった兵士たちは一様に、首をかしげて返す。
    「それが……」
    「我が軍の者を拘束しては、どこかへと消えるばかりで……」
    「足跡を追おうにも、却って敵の罠にはまるようなものでして」
    「打つ手が無く、やむなく逃げ回るしかありませんでした」
    「ぐぬぬぬ」
     情けない返答に、将軍は顔を真っ赤にして怒鳴る。
    「役立たずどもめ! そんなしょぼくれた顔を並べて、それでもお前ら兵士のつもりかッ!」
    「も、申し訳……」
    「申し訳無い、申し訳無いと、いい加減聞き飽きたわ! 少しは申し訳をしてみたらどうだッ!? まったく、最前線が聞いて呆れるわい! 少しくらい、気骨のある奴はおらんのか!?」
     将軍は兵士たちと、その前でしょんぼりと立ちすくむ城主をにらみつけつつ、状況を整理する。
    「ともかく、このまま城に閉じこもっておっても、形勢が不利になるばかりだ! 早急に、何か手を打たねばならん。
     とは言えだ、そもそも敵が現れては引っ込み、強襲しては隠れるなどと言う卑屈な戦法を取ると言うことは、正面切って戦闘を仕掛ける度量も戦力も持っておらんと言うことだ。であればこちらが頭数を揃え、しらみ潰しに城下町を探れば、容易に撃退し得るだろう」
    「と言うことは……」
    「うむ。わしは部下と共に、帝国西山間部方面軍基地へ向かい、応援を呼ぶ。お前たちは城を守るとともに、農村を周って民兵を集めるのだ」
    「御意」

     将軍とその部下たちはボリショイグロブを抜け、南へと向かおうと試みた。ところが――。
    「なんだ、あれは!? とんでもない数ではないか……!?」
     武装した者が多数たむろし、道を塞いでいたのである。その厳重な封鎖線を目にし、将軍はうなる。
    「ぬぬぬ、考えおったな……。帝国本軍へ応援を要請する者がいるだろうと踏んで、こちらに大人数を割き、封鎖を仕掛けおったのか。なるほど、特に用事が無い限り、本軍がこんな田舎に足を運ぶはずも無し。一方で、王国からの知らせが無い限り、この異変に気付く者もおらん。こうして封鎖してしまえば、その芽を摘めると言うわけだ。
     このわしにしても、今回は半ば叱咤目的で来たわけであるし、大して手勢を率いておらん。……この人数では、あれだけ重厚な封鎖線を突破するのは不可能だ。戻るしかあるまい」
     苦々しい顔で封鎖線をにらみつつ、将軍は踵を返す。だが――。
    「……ぬ、ぬぬぬぬぬぬぅ」
     振り返ったところで、後方からも武装した者が迫っていることに気付く。
    「ほほう」
     と、そのうちの一人、大柄な虎獣人がニヤリと笑う。
    「誰かと思えば、帝国本軍のトブライネン将軍閣下ではないか。2年、いや、3年ぶりであるか」
    「む、む? ……ぬっ!? 貴様、ノルド王国のミェーチ将軍ではないか!」
    「既に流浪の身、もう将軍ではござらん。今はミェーチ軍団団長と名乗っておる。にしてもここで貴様に出くわすとは。大方、ハカラ王国の城主に気合いを入れに来たと言うところか」
    「貴様、わしにそのような尊大な態度を取って、許されると思うか!?」
     顔をしかめる将軍に、ミェーチは肩をすくめて返す。
    「言ったであろう。今の吾輩は帝国に尻尾を振る子飼いの身ではござらん。故に貴様が帝国の威を借りて脅しに来たとて、昔と違って毛ほども疎ましく無い。ところで将軍閣下」
     ミェーチは背後に並んでいた部下たちに、手で合図を送る。
    「こんなところでぼんやり突っ立っていると言うことは、ハカラ王国襲撃を帝国本軍に伝えるつもりで南下しようとしていたな? 当然、そんなことをされては困る。豪族も、我々もな」
    「なんだと!? では貴様、豪族と通じて……」
     将軍が怒鳴り出したその瞬間、彼は頭から布袋を被され、拘束された。

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    琥珀暁・狐略伝 4

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第248話。
    帝国属国の内部事情。

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    4.
     ハカラ王国の首都、ボリショイグロブ。この国は西山間部最北に位置しており、そのさらに北に点在する豪族らとの戦いの、最前線ともなっている。
     近隣の山々を知り尽くし、多方向から攻め込んでくる豪族に対抗する必要があるため、この国には他の各国よりも「機動力」が求められており、馬の飼育が盛んとなっている。
     当然、首都であるこの街には、あちこちに馬が繋がれており――。

    「臭いのう。獣臭がぷんぷんと臭うわ」
    「は……申し訳ございません」
     いかにも偉そうな格好と態度の男が、城の中から外を見下ろしながら、鼻をつまんで見せている。
    「屋内におっても、この臭さ。まったく垢抜けんところだわい」
    「汗顔の至りです。閣下御自ら、こんな僻地に足をお運びいただき……」
    「まったくだ。もう少しでもお前たちが役に立っておれば、このわしがこんな下賤な土地にまで来る必要など……」
     殊更にへりくだるこの城の主を、男は明らかに見下し、つらつらと罵倒の言葉をぶつけている。
    「そ、それで将軍閣下、今回のご用件をまだ伺っておりませんが」
    「うん? おお、そうであったな。いやなに、最近の豪族どもの動向が沈静化しておると聞いて、視察に参った次第である。本営の中には『とうとう我々に恐れをなしたか』などと楽観視する阿呆もおるが、わしは何らかの企みがあるものとにらんでおるのだ。故に豪族どもとの戦いの、最前線であるこの国を訪ねたのだが……」
    「はあ……。確かにここ数ヶ月、彼奴らと接触・交戦したと言うような報告は寄せられておりません。至って平和です」
    「それが臭い」
     そう切り返し、将軍はもう一度、窓の外に目をやる。
    「昨年の暮れまで跋扈しておった者どもが、こちらが何をしたわけでも無いのに、ぱたりと攻勢の手を止めるなど、何かしら企んでおるに違いない。であるからして、この周辺の警戒強化と共に、入念な偵察を行うよう命ずる」
    「御意」
     城主が平伏し、深々と頭を下げたところで――城に詰めている兵士が、慌てた顔で入ってきた。
    「た、大変です!」
    「なんじゃ、騒々しい。ここでは馬だけでなく、兵士もひぃひぃと鳴くのか」
    「し、失礼いたしました」
     城主はもう一度頭を下げ、兵士を叱る。
    「話の途中であるぞ! 一体何の用だ!?」
    「申し訳ございません! しかし今、襲撃を……」
    「襲撃だと!?」
     報告を聞くなり、将軍はかっと目を見開いた。
    「豪族どもか!?」
    「た、多分そうであると……」
     口ごもる兵士に、将軍は顔を真っ赤にして詰め寄る。
    「はっきり言えッ!」
    「あ、あの、攻撃と、多分、その、思うのですが」
    「ええい、ごちゃごちゃと! まず、何が起こっているのか言わんか!」
     散々怒鳴られ、兵士はぺこぺこと謝りつつ、しどろもどろに説明する。
    「し、失礼しました。ま、まずですね、城下町を巡回していた兵士が次々倒れまして、その端から、豪族と思しき者たちが現れ、縛り上げておりまして」
    「次々倒れて? いきなりか?」
    「そのそうです。しかし矢を射られた様子でもなく、突然、ばたりと。私も眼の前で、同僚がそうなるのを目にしまして、とっさにこちらまで戻りました」
    「ふむ。下手に助け起こそうものなら、お前も恐らく同じ目に遭っていただろう。その点は評価してやろう。だが豪族どもを一人も相手しなかったのか? やけに身なりが整っておるが」
    「もっ、申し訳ございません。多勢に無勢で……」
    「まあ良い。ともかく、敵に攻められているのであれば、こちらも打って出るだけの話だ。即刻兵を集め、迎撃せよ」
    「御意」
     城主はもう一度平伏し、兵士に命じた。
    「急いで集めてくれ。元々、兵士は首都に100名しかいないし、短期決戦を仕掛けられたら持ちこたえられんからな」
    「はっ!」
     兵士が敬礼し、その場を去ったところで、将軍がけげんな目を城主に向けた。
    「100名だと? 本軍より貴国には、常から300名を抱えておくよう命じられていたはずだろう?」
    「籍を置いているのは確かに300名なのですが、なにぶん、我が国もそう豊かではないので、常に城へ召し抱えるわけには……。残り200名は非正規兵、いわゆる民兵として通常は農村部におり、有事の際にのみ召集するようにしておりまして」
    「……まあ良い。いくらなんでも、100名すべて敵の手に落ちると言うことも無かろう」

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    琥珀暁・狐略伝 3

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第247話。
    西山間部方面作戦。

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    3.
     すっかり怯んだ王たちを前に、エリザはいつも通りにニコニコと笑みを浮かべながら、話を切り出した。
    「ほな早速、西山間部の侵攻作戦のお話しましょか」
    「あ、女史」
     と、一人がおずおずと手を挙げる。
    「なんでしょ?」
    「その話をする前にだな、その、さもしいと思われるかも知れんが……」
    「ああ」
     言わんとすることを察し、エリザはうなずいて返す。
    「皆さんに提示しとった条件がホンマかどうかっちゅうコトですな。ソレは保証します。計画完遂までご飯は支給しますし、おカネも相応にお支払いします。魔術についても、計画には必須ですからな。十分な指導を約束します」
    「うむ、大変ありがたい」
    「他に聞いときたいコトはあります? とりあえず今んトコ無い感じでしたら、アタシからのお話を進めさせてもらいますけども」
     一瞥し、誰も手を挙げないことを確認して、エリザは再度、計画の説明を始めた。
    「本作戦の主眼ですけども、コレは一般に『西山間部』と言われる5ヶ国、つまりハカラ王国、レイス王国、オルトラ王国、スオミ王国、イスタス王国の各支配地域をアタシらが奪うコトにあります。
     で、コレは特に留意していただきたいコトなんですけども、あくまでその5ヶ国の支配権をアタシらが奪い、代わりに統治するコトが重要であって、その国の人らを蹂躙しよう、虐殺しようなんちゅうコトはする必要はありまへんし、されても困ります」
    「うん……?」
     エリザの本意が今ひとつ汲み取れていないらしく、どの王たちもけげんな表情を浮かべている。それを受け、エリザはこう続けた。
    「そもそもアタシら、つまり南から来た遠征隊の目的は、この邦の人らと円満かつ有効的な関係を築くコトにあります。である以上、帝国さんみたく力ずくで支配するっちゅうようなコトは考えてませんし、するつもりもありまへん。協力いただく皆さんに対しても、同様に行動していただきたいと考えとります。
     ソレが嫌や、帝国と同じように他人を踏みつけて君臨したいっちゅう人がいるのであれば、協力はいりません。この場で退出していただいて結構です。ただし」
     そこでエリザは笑うのをやめ、薄くにらみつけた。
    「そんな人らはアタシらにとっては結局、帝国さんと同じ輩と見なしますし、同じように攻撃対象と見なすだけです。そして遠征隊の実力と実績を、いえ、アタシのコトを十分にご理解いただけとったら、ソレがどんな結末を迎えるコトになるか。ソレをよーく考えた上で、行動・発言するコトをおすすめしますで」
    「う、うむ、委細承知しておる」
    「安心召されよ、そのような肚は、全く無い」
    「然り。心配無用である」
     居並ぶ王たちが顔をこわばらせつつもうなずいたところで、エリザは元通りに笑みを浮かべる。
    「であれば、問題ありまへんな。本作戦においても、必要以上の敵対はしないようにお願いします」
    「と言うと?」
    「相手が投降するのであれば、そのまま拿捕する方向で。敵や言うてすぐ殴る、すぐ殺すっちゅうのんは、極力無しです。もっとも、相手が徹底抗戦するっちゅう態度取ってきたら、とことんかましたってええですけどな」
    「今一つ合点が行かぬ。女史は我々に結局、何をどうしろと?」
    「具体策はおいおい話していきます。とにかく念頭に入れてほしいのんは、『自分たちは極悪非道の帝国なんかとちゃうぞ』と、相手に思わせるコトです。ワルモノは帝国、自分らはその反対に位置しとるんやでと、敵にも、敵の下におる人らにも、そう思わせるんです。
     ソレこそが今回の作戦において、最大限の効果を発揮します。でなければ今までの戦いと何も変わりまへんし、結果も一緒です」
    「うむむむむ……?」
     エリザの抽象的な言葉に、王たちは一様に神妙な顔を並べるばかりだった。

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    琥珀暁・狐略伝 2

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第246話。
    豪族連合。

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    2.
     ミェーチと話している間に、会議の準備が整ったらしい。
    「女将さん、団長さん、用意ができました。こちらにどうぞ」
    「ありがとさん」
     使いの者に連れられ、二人は会議の場へと向かう。と、エリザが使いの肩をトントンと叩き、ニヤニヤ笑いながら尋ねる。
    「どないや?」
    「え?」
    「アタシは誤魔化されへんで? アンタ、こないだ指輪してへんかったやん。跡着いとるで、指」
     指摘された途端、相手の顔が熊耳の先まで真っ赤に染まり、慌てて手を隠す。
    「えぅっ、……あ、あー、こ、これは」
     その手にポン、と手を置きつつ、エリザはこう続けた。
    「お相手はどちらさん? や、当てたろか。隠そうとしたっちゅうコトは、村の娘とちゃうな?」
    「あっ、あっ、あわわ」
    「ああ、ああ、無理に言わんでええで。どの道、半月もしたらおおっぴらにでけるやろしな。そのつもりであの『お願い』やってもろてるんやし」
    「あっ、ええ、そうですね。あの、俺、……が、頑張ります、俺」
    「うんうん、よろしゅう」
     相手はかくんかくんと首を振って踵を返し、先導を再開する。そのやり取りを眺めていたミェーチもエリザ同様、ニヤニヤと笑っていた。
    「かっか、何とも青々しいものよ。傍で見ていて微笑ましいわい」
    「ホンマですなぁ」
    「はぅぅぅ……」
     その後、彼は一度も振り返ることなく、エリザたちを案内してすぐ、そそくさと離れていった。

    「遠方からはるばるご足労である、女将殿」
     部屋にエリザが入るなり、円卓に着いていたダリノワ王が立ち上がり、深々と頭を下げる。
     対するエリザもぺこ、と頭を下げ、挨拶を返す。
    「ご無沙汰しとりました、陛下。……っと、他の皆さんとは初対面ですな。アタシはエリザ・ゴールドマンと言います。南の邦から遠征隊と共に参りました。こちらではお店やら何やらを細々やっとります。よろしゅう」
     そう述べてもう一度頭を下げたところで、ダリノワ王と同様に席に着いていた、豪族の王たちが口を開く。
    「エリザと申したか、女史のうわさはかねがね聞き及んでいる」
    「絶世の美人と伺っておったが、なるほどなるほど、実に見目麗しい」
    「うわさに違わぬ美貌であるな。いや、眼福である。良き目の保養だ」
    「あらどーも」
     称賛を受け、エリザはにこりと微笑んで返していたが、別の者たちがこんなことを言い出す。
    「しかしわしが聞いていた限りでは、恐ろしき手練手管を用いる毒婦であるとか。左様には見えんな」
    「然り。どんな女丈夫がやって来るかと思っておったが、ただ乳がでかい程度の女ではないか」
    「一体どんな寝技でダリノワ王を口説いたやら。わしもあやかりたいものだ」
    「はあ」
     エリザはニコニコと笑みを浮かべたまま、左手をすい、と挙げる。
    「ほなちょっとお休みしはります?」
    「おう? 話が早いのう、ひひひ」
     その王がニタニタと下卑た笑いを浮かべたところで、ダリノワ王がさっと顔を青ざめさせる。
    「ち、ちと、カリーニン王よ。悪いことは申さぬ。謝った方が良いぞ」
    「うん? 何を怯えておる、ダリノワ王? こんな女一人に何を恐れ……」
     言い終わらないうちに、彼は白目を剥き、ばたん、と音を立てて卓に突っ伏した。
    「なっ……」
     突然のことに、他の王たちも目を丸くし、騒然となる。ダリノワ王も苦い表情を浮かべ、ぽつりとつぶやく。
    「……だから言ったのだ。阿呆な奴め」
     ただ一人、エリザはニコニコと笑顔を絶やさず、こう言ってのけた。
    「何や寝言抜かしたはりましたから『おねんね』さしたりましたわ。他に眠いなー、夢見たいなーっちゅう方いらっしゃいます? アタシの『寝技』、めっちゃ効きますで?」
    「……け、結構」
    「つ、謹んで遠慮申し上げる」
    「では、か、会議を始めよう」
     エリザの威圧で、王たちは完全に恐れをなしたらしく、これ以降、軽口や下卑た冗談を言う者はいなかった。

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    琥珀暁・狐略伝 1

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第245話。
    お国柄、お家柄。

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    1.
     双月暦24年5月下旬、エリザは数人の丁稚とロウを伴い、ふたたび西山間部を訪ねていた。
    「どないでっか?」
    「どう、とは?」
     この数ヶ月に渡り、旺盛な食欲を十二分に満たし続けることができたらしく、以前に比べて明らかに顔色の良くなったミェーチに尋ね返され、エリザはニコニコ笑って返す。
    「まず第一、ダリノワ陛下にお願いして、他の豪族さんらとも連携取られへんかって言うてた話ですけども」
    「問題無く進行しているようだ。傍から見ている分には、意外なほどすんなりまとまったと言う印象であるな。同じ帝国に狙われる身ではあるものの、お互い覇を競う間柄、そう簡単に手を組もう、連携しようなどと話がまとまりはすまいと思っていたのだが……」
     ミェーチはそこで破顔し、肩をすくめる。
    「事情はどこも同じであったのだろう。女史がかねてから提示していた諸条件――扶持と礼金、そして魔術指南を告げたところ、いずれも多少なり逡巡はあったが、結局はその条件を呑むことで協力を得ることができた」
    「上々ですな。ほんで、兵隊さんは全部で何人くらいに?」
    「豪族だけでも、総勢300と言うところである。吾輩の軍団を合わせれば、500に届くだろう」
    「そんだけいてはるんやったら、今後の作戦には十分ですな。で、もういっこ頼んでたんはどないでしょ?」
    「そちらも問題無い。……と言うか、吾輩には依頼内容自体に問題があるように感じるのだが」
    「前にも説明しましたやん」
    「う、うむ。勿論承知しておる。だが、不安が無いわけでは無い。言わば遊び呆けているようなものではないか」
    「ソコんところも詳細に説明しましたやん。戦うより仲良うする方が、っちゅうて」
    「うむ……うーむ」
     納得行かなさそうな表情を浮かべるミェーチに構わず、エリザは話題を変える。
    「ほんで、あっちの方はどないでしょ?」
    「うん?」
    「娘さんとお婿さんの話です。仲良うしてはりますか?」
     エリザがその話題を出した途端、ミェーチは一転、顔をほころばせる。
    「うむ、万事円満なようである。先日、ついにシェロより『此度の作戦が成功した暁には式を挙げる』と約束を取ってな」
    「あら、よろしいやないですか。おめでとうございます」
    「うむ、うむ。……あ、ときに女史」
     と、ミェーチが首を傾げつつ、こんなことを尋ねる。
    「そちらの邦では、夫婦とも元々の姓を名乗るものなのか?」
    「はあ、そうですな。……ん?」
     これを受けて、エリザも首を傾げる。
    「っちゅうと、おたくさんは違うんですか?」
    「うむ。夫の姓を名乗るのが慣習となっておる。が、家督を継ぐなどする場合には、その限りではないのだが。此度も吾輩の家を継いでもらうものと考えておったが、もしシェロの血筋が格ある名家であったなら、不都合もあろうかと考え、一度打診したのだ。ところがシェロの奴、妙な顔をしてな。『何故名を変えねばならぬのか』と問い返されてしまった」
    「はー……、そうですな、そらアタシも変な顔してまいますな。ちょっとこっちではあらへんような考えですわ」
    「左様であるか。では家を継ぐとしたらどうするのだ?」
    「兄弟姉妹がいてたら、分けっこですな。一人やったりいてへんかったりやったら、血筋の他の者にっちゅう感じですわ。ソレでもアカンかったら養子とかですな」
    「ふーむ……。吾輩の縁者は娘だけでな。妻も天涯孤独の身であったそうだし、本人も既にこの世におらん。となると二人に頑張ってもらわねばならんな」
    「そうですな。……あら? ちゅうコトは、ソコら辺の段取りはウチら式にやるっちゅうおつもりです?」
     エリザに尋ねられ、ミェーチは深くうなずく。
    「うむ。『舶来品』の方が何かとめでたくもあろう。それにこちらの慣習なぞ、結局は帝国の都合で作られたものばかりだ。我々に様々な辛苦を与えこそすれ、幸福などこれっぽっちも享受できぬ悪法ばかり押し付けるものであるからな。こちらから願い下げと言うものだ」
    「さいでっか」
     フンフンと鼻息荒く帝国を非難するミェーチに、エリザは薄く笑って返した。

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    その赤いの、何?

    今日の旅岡さん




    旅岡「暑くないん?」
    猫藤「暑いよ。すっごい暑い。10月の気温じゃないよね、マジで」
    旅「脱いだらええやん。あたしも半袖やで」
    猫「なんか負けた気がしてやだ」
    旅「何に?」
    猫「季節とか……自然? とかに」
    旅「……負けでええから脱ぎいや」
    猫「負けるの嫌だもん」
    旅「勝ってどないすんねん。っちゅうか勝つとか負けるとか無いやろ、そんなもん」
    猫「あたしの中にはあるんだよ。勝ち負け」
    旅「暑苦しいなー……もぉ」
    猫「……でも、正直言うと」
    旅「なんよ?」
    猫「暑さに負けてもいいかなとは思ってるところ」
    旅「アホやな。素直に負けたらこれおごったるよ」
    猫「さっきから気になってたけど、その赤いの、何?」
    旅「スイカジュース黄さんの店の新商品。あんた赤いのん好きやろ?」
    猫「……負けた!」

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    イラスト;猫(クルマのドット絵)

    習作・汎用


    10月の携帯待受を擬人化。
    と言うかこないだの猫藤さんの私服バージョンとなりました。

    線画。

    ……今年の夏も長い。おかげで衣替えが上手く進みません。
    ジャケットで出かけたら暑いのなんの。

    猫藤さんもしくじったようです。この暑い最中、スウェットにニット帽。
    10月なのになぁ……。暦から考えれば合ってるはずなのになぁ……。

    カラー版。

    パターン1。前回の記事で触れた通り、彼女の好きな色は赤と白。
    コーデも紅白で揃えました。
    待ち合わせしても遠くから一発で見付けられそう。


    パターン2。待受のカラーを忠実に再現、その1。


    パターン3。待受のカラーを忠実に再現、その2。

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    琥珀暁・新尉伝 6

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第244話。
    双月暦24年度北方計画。

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    6.
     第2中隊が到着してから一週間後、改めてハンとエリザ、クー、そしてエマの4人で、今後の計画について話し合われた。
    「まず、私の本来の仕事の話だけど」
     そう切り出し、エマが話を始める。
    「当初、資材の確保ができ次第、まずは沿岸部の主要な街道に――つっても1本だけどさ――煉瓦敷いて整備してこうかって話してたんだけどさ、現状の生産能力だと、その道完成させるのだけでも1年かかるんだよね。だからその計画進めるには、まずは煉瓦の生産設備が増設・増強されなきゃ話にならないねって言ってたんだけど……」
    「現状で既にいっぱいいっぱいやねんな。工房も人手も原料も燃料も、なんもかんも足らんし。アンタの言う通り進めようとしたら、30倍くらいに規模拡大せなアカンねんけど、そんなん現実的に無理やん? せやからとりあえずは砂と砂利引くくらいでええんちゃうかって提案してん」
    「で、その案で行くコトにしたね。ぶっちゃけ、現状でソコまでしっかりした道作ったってあんまり意味無いからね。その上を通るのなんてせいぜい荷車くらいだし、煉瓦道みたいな頑丈な作りにする必要無いだろって話だね。煉瓦と比べたら砂利も砂もあっちこっちで採れるし、ソレで道路工事進める。煉瓦は街の中だけに敷くに留めるコトにするね。ソレだけなら現状の設備でまかなえるし。
     で、次は戦争の話だけど」
     エマの言葉に、ハンは表情を曇らせる。
    「まあ、考えなきゃいけないよな」
    「陛下の本意だしね。でもコレも今、計画進めてるトコだろ?」
    「せやね」
     エリザが応じ、そのまま説明に入る。
    「西山間部における反帝国勢力――ミェーチ軍団と豪族さんらやね――の総勢は500くらいや。一方で帝国西山間部方面軍の兵力は1000、西山間部5ヶ国の各兵力は300ずつになっとるらしいわ」
    「いずれも300名なのですか?」
     尋ねたクーに、エリザはうなずいて返す。
    「せや。ちゅうのも、帝国さんからのお達しのせいらしいな。『300人以上兵隊増やすな』て、制限かけとるらしいわ」
    「反乱が起こった場合、鎮圧を容易にするためでしょうね。1000対300なら、十分可能でしょうし」
    「まあ、そう言うこっちゃ。沿岸部ん時は帝国本土から遠くてヒトがよお送れへんっちゅうのんもあったし、『賤民がなんぼ来たかて相手になるか』的なコト考えとったみたいで、ソコら辺の規制は緩かったけどな。
     一方で帝国本土に近い西山間部は、がっちり規制かけてはるらしいんやけど、その規制が今回、仇になっとるな」
    「確かに。対外勢力をまったく考慮していない構成ですからね」
     ハンの言葉に、エマがニヤッと笑う。
    「おかげで私らは随分楽できるってワケさ。でもエリザ、帝国のヤツらってまさかまだ、私らに対して対策してない感じなの?」
    「やってはいはるらしいけどな。でも今までの方針からぐるっと転換しとるようなもんやから、足並みは全然揃てへんみたいやで」
    「『帝国は覇権国家であり、敵国や敵勢力など一切存在しない』との考えでしたね、確か」
    「ソレを慌てて、『敵国が攻めてきた』とか言い出してるんだろ? 無様もいいトコだね」
    「ま、そんなこんなで、未だに沿岸部へ攻め入る算段すら付いてへんっちゅう話や。相手がまごついとるんやったら、アタシらにとっては好都合や。
     さっきも言うた通り、帝国軍以外の西山間部5ヶ国の各兵力は300ずつや。コレを各個撃破する形で進めようと思とるんやけども……」
    「けども?」
     尋ねたエマに、エリザは肩をすくめて返す。
    「まともにぶつかり合うたら、犠牲は出るわな。そんなん嫌やろ?」
    「理想論だね」
    「理想は大事やで。ソレに、人心掌握っちゅう観点からも重要やしな。『人殺しが征服に来よった』なんて思われたら、統治もクソも無いやろ?」
    「そりゃま、そうだね」
    「そもそも遠征隊は『友好的な関係を築く』っちゅう目的やし、ゼロさんも口ではそう言うてはるんやろ? せやからココは、ちょっとひねって攻めるつもりや。そのために色々準備しとったんやからな」
     エマにそう返し、エリザはいつものように、ニヤッと笑って見せた。

    琥珀暁・新尉伝 終

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    琥珀暁・新尉伝 5

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第243話。
    エマの経緯。

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    5.
     エリザが店の人脈を使い、エマのことを第二中隊の兵士たちからそれとなく聞き込み調査した結果、以下のことが判明した。
    「まず、コネ的なもんはほぼ無いわ。マジもんの実力で20歳の時、尉官に任命されたらしいわ」
    「それは――俺が言うのもなんですが――相当な出世ですね」
     驚くハンに、エリザが苦笑して返す。
    「アンタも確かに実力派は実力派やけど、ゲートの口添えがあったんは確かやからな。せやけどエマの場合、ソレもあらへんねん。
     アンタも知っての通り、今の軍やらゼロさんの周りやらで偉くなろう思たら、誰かしら権力者層の後ろ楯があらへんと、どないもならん。無ければ100匹バケモノ倒そうがものすごい魔力持ってようが、行けて上等兵か、曹官止まりや。事実、今おる尉官や佐官はゲートやらパウロさんやら、ゼロさんの側近の人らとつながっとるからな。
     せやけど、エマの場合はソレが無いねん。や、厳密に言うたら声は掛けられたらしいんやけども、……まーコレが傑作でな」
    「と言うと?」
     尋ねたハンに、エリザがクスクスと笑いを漏らしながら答える。
    「アンタが知ってるかどうか知らんけど、オテロっちゅう将軍おるねんけどな」
    「聞いた覚えがありますね。第4次ウォールロック北麓戦や第7次サウスフィールド戦で戦功を挙げた……」「ソレはええねん。人となりはどないや?」
    「ん、ん……」
     問われて、ハンは言葉を濁す。
    「俺自身は会ったことが無いので何とも言えませんが、良い評判は、あまり……。親父からも『あいつは女関係に汚い』と」
    「ソレやねん」
    「つまり、口説かれたと?」
     ハンの言葉に、エリザはいよいよ笑い転げた。
    「アハハハ……、らしいわ。でもな、どうもエマ、ソコでひっぱたきよったらしいねん」
    「なっ……? 仮にも将軍を、尉官がですか?」
    「エマのあの性格やったら、相手がゼロさんくらいの大物でも、やらしく口説かれたら蹴飛ばすやろな。ま、つまりそう言うヤツらしいわ。正直、ソレで軍での居心地は悪うなったっぽいけどな」
    「つまりここへ送られたのは、半分左遷だと?」
    「ソレもあるやろし、もう半分はホンマに道路整備と戦争準備やろな。……あー、と。話戻すけども、つまりコネについてはエマの方から全切りしよったらしいわ。部下の子らが言うてたわ、『自分から昇進の道潰しよった』っちゅうてな」
     と、ここでエリザは一転、神妙な顔をする。
    「でもな、ソコが妙やねんな」
    「と言うと?」
    「オテロさんひっぱたいたんは船出の半年前――つまり今から1年近く前の話らしいんやけど、その前はなんちゅうか、割と狡(こす)い子やったらしいわ」
    「狡い?」
    「偉くなるためには何でもするような、いけ好かんヤツやったっちゅう話や。さっきも言うた通り、偉くなろう思たら誰かしら偉いさんと関係持たなアカンからな。その当時のエマやったら、オテロさんの誘いに乗ってもおかしないヤツやったっちゅううわさもあるねんな。
     ほんでもっと詳しく聞いたら、どうもその前に、事故でケガしたらしいねん」
    「ケガを?」
    「せや。自分が敷いとった煉瓦道を検査で歩いとったら、煉瓦が崩れてそのまんま崖下まで転がってしもたらしいんよ。頭も打ったらしゅうて、1ヶ月くらい病院におったらしいわ。で、性格が変わったんも大体その辺りからちゃうか、と」
    「頭を打って性格が変わった、ですか。……なんだか胡散臭い話ですね」
     そう返したハンに、エリザも苦笑して見せる。
    「同感やね。ともかく、あの子にウラらしいウラは無いわ。誰かの差し金っちゅうようなコトも、まず考えられへん。となればアンタへの態度や進言は、あの子自身の損得にしかならん。ソコから言うたら、ウソつく意味が何もあらへん。アンタ怒らしたってしゃあないからな。せやから、言葉通りに聞いてええやろと思う。あの子が話した内容はほぼほぼ、あの子が言うた通りに判断して間違い無いやろな。
     で、コレはアタシ個人の意見やけども、あの子自身を信用するかせえへんかっちゅうたら、今はまだ、とりあえずっちゅう感じやね。よっぽど胡散臭いコト言い出さん限りは問題無いやろ」
    「ふむ……」
     特に反論する気も起きず、ハンはこくりとうなずいた。
    「エリザさんの言うことですからね。俺はそれを信頼してます」
    「そらどうも」

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    琥珀暁・新尉伝 4

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第242話。
    彼女は何者?

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    4.
    「どう言う意味だ?」
     尋ねたハンに、エマは肩をすくめて見せる。
    「ココ最近の陛下が暴走気味だってコトは、中枢でソレとなくうわさになってるね。実際、アロイ皇太子や君のお父さんをはじめとして、事ある毎になだめてる始末さ。
     で、そのなだめてる連中の一人が、私を遠征隊第2中隊の隊長に推したのさ。どっちかって言うと穏健派だって評判らしいしね、私。実際、戦闘経験なんて無いし、訓練もあんまり出てないしね」
    「つまりあなたも、積極的な戦闘は避ける姿勢であると?」
     クーの言葉に、エマはニッと笑みを浮かべる。
    「自分からしなくてもいい戦闘仕掛けるなんて、アホのやるコトさね。そして私はアホじゃないつもりだね」
    「では……」
     安堵しかけたところで、エマがこう続ける。
    「でもね、ソレなりに戦果を出さなきゃ陛下は納得しないね。私がココに来て何の進展も無い、何の成果も出ないってんじゃ、ソレこそ陛下は隊長を軒並み罷免する。遠征隊も総取っ替えして、今度はもっと好戦的な連中が送られるだろうね。
     そんなワケで、エリザ」
     くるんと向き直り、エマが尋ねる。
    「君なら可能な限り最速で最低限の被害で、かつ、最大限の戦果を挙げる策を進めてるだろ?」
    「そらまあ」
     横柄とも取れるエマの態度に構う様子も無く、エリザもニヤッと笑って返す。
    「今年のはじめから色々やっとったコトが、着々実ってきとるからな。時期さえ来れば、いつでも行動でけるで」
    「君がやるんなら問題無さそうだね。……ま、私からの話はコレくらいだね。
     あ、あとさ、ハン。君の班に欠員出てたって話だけど、当面は私がサブで入るコトになったから。スライドする形で、マリアってのがポイントマン。ビートってのはそのまんま。ま、ポジションなんかどうだっていいけどね。だから第2中隊も、私が動かしてない時は君の命令に従うコトになる。ソレでいいね?」
    「あ、ああ」
     一通りまくし立て終え、エマは唐突に席を立った。
    「じゃ、私はこの辺で」「待ちいや」
     と、エリザがニコニコと笑ったまま声をかける。
    「アンタに聞きたいコトあんねけど」
    「何でもどうぞ」
    「アンタ、いくつや言うてた?」
    「22」
    「ホンマ?」
    「ウソついてどうするね?」
    「……まあええわ。あともういっこ聞くけど」
    「どうぞ」
    「モールって知らん?」
    「なにそれ?」
    「ん……。知らんならええ」
     エリザからの質問がやんだところで、エマは「もういい? じゃーね」と言って、そのまま部屋を出て行った。
    「どうしたんです?」
     尋ねたハンに、エリザが首をかしげたまま答える。
    「いやな、なーんか話し方やら態度やら、アタシの師匠そっくりやなと思てな」
    「師匠? 確か、モールと言う方だと聞いた覚えがありますね」
    「せや。評判も聞いたコトあるやろ?」
    「一応は、親父から。かなり偏屈で気分屋だが、陛下に並ぶ『魔法使い』であったと」
    「まあ、大体そんなトコやね。アタシ、どうもあの子、師匠の娘かなんかちゃうんかと思たんやけど、22歳やったら計算合わへんねんな。アタシと旅しとる時辺りに産まれたコトになってまうし」
    「そんなに似てるんですか?」
    「まるで本人ちゃうかっちゅうくらいな。……ま、そのうちはっきりさせたるわ。
     あの子が言うた通り、今は計画も詰めの段階に来とるからな。ココでいらん諍(いさか)い起こしてワヤにしたないし、アタシはそっちに集中するわ」
    「承知しました。ところで……」
     ハンは部屋の扉をチラ、と見て、エリザに尋ねる。
    「彼女の身辺調査を行っておきましょうか? 今まで聞いた情報はすべて、彼女の口から出た話でしかありませんし、彼女が何らかの理由から嘘をついている、と言う可能性も少なくないでしょう。それを抜きにしても、どの程度信頼できる相手かどうか見定めないことには、連携の取りようがありませんし」
    「せやな。……や、ソレはアタシがお店の子使てやるわ。同じ隊長のアンタが主だってそんなコトしとったら、角が立つやろ。シェロくん時の二の舞になりかねへんで」
    「確かに。では、そちらもお願いします。その他に、俺やクーの方で動けることはありますか?」
    「んー……」
     エリザはメモをめくり、首を横に振った。
    「や、今んトコは特に何も無いわ。あの計画動かすんは今月の末やから、今まで通りソレに向けて、しれっと訓練と誘導さしとくくらいで」
    「つまりこれまで通り、と」
    「そう言うこっちゃ」

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    琥珀暁・新尉伝 3

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第241話。
    ゼロの肚の内。

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    3.
    「で、ちゃんと聞かせてくれないか」
     一通りの受け入れ手続きが終わったところで、ハンはクー、エリザを交え、エマから本土の情報を聞き出していた。
    「どうして陛下は方針転換したんだ?」
    「変換はしてないさ。口でしゃべってる分にはね」
    「あー、そう言うコトか」
     エマの返した一言に、エリザが反応する。
    「つまり『戦いたくなんかないけどなー』『戦ってほしくないなー』言うてて、その一方で『でも現地の人らは戦おうとしてるんやんなー』『困ったなー勝手なコトしとるなーあー困ったなー』とも言うてるんやな?」
    「そーゆーコトだね。陛下は、君たちが勝手に戦線を拡大してるって喧伝してるのさ」
     エマがうなずいたところで、ハンが憤った声を上げた。
    「そんなわけがあるか! 俺たちは、いや、俺は一度もそんなことを陛下に申し上げた覚えは無い!」
    「君やエリザが何を言ったかなんて、中央の人間は知らないね。陛下が『あいつらが勝手に』って世間に言っちゃえば、ソレが公然の事実ってヤツになるだけさね。今更君が中央に戻って根も葉も無いウソだって釈明したところで、誰も信じやしないね」
    「くっ……」
     苦々しい表情を浮かべ、ハンが黙り込んだところで、クーが手を挙げる。
    「でもどうして、父上はそんなことを仰っているのでしょう?」
    「ある程度は私の想像が混じってるけども」
     そう前置きしつつ、エマは最近の事情を説明してくれた。
    「こっちの邦――中央じゃ『北方』って言ってるけど――で遠征隊が沿岸部を下したって話が、中央に評判を巻き起こしてるね。『エリザが北方でまたえらいコトした』とか、『エリザが北方を征服しようとしてる』とか」
    「アタシが? ……や、問題はアタシがどうのやないな。ゼロさんがソレで気ぃ揉んではるんやな?」
    「多分ね」
     二人のやり取りがよく分からず、クーが口を挟む。
    「あの、それはつまり……?」
    「つまりな――こないだゲートからも聞いたけども――ゼロさんはおもろくないねん、自分が評判に上がらへんちゅうのんが。
     そら確かに戦争はしたくないんやろな。ソコは本音やわ。でも一方で、このまま放っといてアタシに評判全部かっさらわれる形になったら、ソレはソレで腹立つんやろ。せやから『現場判断』に任す形で――言い換えたら自分の責任にならへん形で――遠征隊がこっちで戦果を挙げ、間接的に自分の評判が上がるコトを期待してはるんやろ」
    「そう言うコトだね」
     これを聞いて、クーの心にじわ、と嫌な気分がにじむ。
    「父上がそんなことを……」
    「もう結構なおっさんだからね。ソレなりに名誉欲も承認欲もムクムク膨れてきてるのさ。ましてや20年前には、英雄として名を轟かせた男だ。そんな男が今、世間の話題を別の英雄にかっさらわれてるんだから、気分は良くないだろうさ」
    「信じられませんわ……。そんなはしたないことをなさるだなんて」
    「俺もだ」
     ハンはぎゅっと拳を握り、エマに向き直る。
    「今からでも陛下に抗議する。俺はそんなことのために、この邦に来たんじゃない」
    「いいよ、やってみたら? 適当な理由付けて更迭されるだけだろうけどね」
     エマに切り返され、ハンは一転、目を丸くする。
    「なんだと?」
    「私がココに来た理由が、マジで煉瓦(れんが)敷くためだけだと思ってるね? 君がやだっつった時の代替要員だろ、どう考えても」
    「う……」
    「陛下にしたって、元々から君も戦闘を嫌がってるってコトは承知してるさ。ココでごねるコトは予想済みだろうし、そんなら別の人間を用意するだけさね。勿論言うまでも無いし君がそんなアホなコトやるなんてコレっぽっちも考えてないけども、仮に私を閉じ込めるか何かしたところで、他のヤツが任命されるだけだからね」
    「……やるしか無い、と?」
    「だろうね。しかも『自発的に』ね。陛下のお望みはソレさ」
    「……~っ」
     突然、ハンは席を立ち、椅子を蹴っ飛ばした。
    「陛下は……俺に、汚れ仕事を押し付けたって言うのか!? ふざけるなッ!」
    「本当、ふざけた話だと私も思うね。ま、だからこそ私が来たってコトでもあるんだけどね」
     そんなことを言い出したエマに、ハンはまたもぎょっとした顔を向けた。

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    琥珀暁・新尉伝 2

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第240話。
    剣呑エメリア。

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    2.
     昨年ハンたちがそうしたように、やってきた船はまず沖に停泊し、そこから小舟が一艘、港へとやって来た。
    「どーも」
     小舟に乗っていた、ハンと同じ階級章を胸に付けた長耳の女性が、ぺら、と手を振って挨拶した。
    「君がシモン尉官でいいね?」
    「ああ、そうだ。ハンニバル・シモンだ」
    「私はエメリア・ソーン。エマでいいね。よろしくどうぞ。船はドコに留めたらいいね?」
    「港に誘導員を待たせてある。そっちの指示に従ってくれ」
    「どーも。……んで、そちらがクラム殿下でいらっしゃいますかね?」
     くるん、と顔を向けてきたエマに、クーは内心、ぞわりと嫌な感触を覚えた。
    (あ。直感いたしましたけれど、わたくしもこの人、苦手かも)
     一瞬言葉を詰まらせてしまったものの、どうにかクーは笑顔を作って応じる。
    「え、ええ。はじめまして、ソーン尉官。シモン尉官より貴官のお話は伺っておりますわ」
    「あ、そ」
     うやうやしいあいさつを2語で返され、クーは面食らう。
    「あの、ソーン尉官、それは」
     礼儀にうるさいハンが咎めようと口を開きかけたが、エマが先制する。
    「お堅いアレコレは結構。そう言うのめんどいんでね。私のコトもそちらのシモン尉官といつもやり取りしてる感じで話してくれればいいからね」
    「いや、しかし」
     再度ハンが反論しかけるが、これもエマはまくし立てて抑え込む。
    「君にしても、普段から彼女に対して『本日も御尊顔を拝しまして恐悦至極にございます』なーんて平身低頭してるワケじゃないだろ? 君とこの娘の距離感見てりゃ分かるね」
    「う……い、いや」
    「正直に態度晒すのといりもしない見栄張ってウソ付くのと、どっちが紳士的さ? 真面目な尉官殿ならどう答えるつもりかねぇ?」
     会ってから1分足らずの間に散々やり込められ、クーはただただ圧倒されていた。
    (かも、ではございませんわね。はっきり苦手な方です。なんだかエリザさんにも似ているような……)
     一方、ハンも初手から面目を潰されたせいか、素直にエマへ応じていた。
    「……そうだ。確かに君の言う通り、クラム殿下、いや、クーとは友人として親しくしている」
    「だろうね。そんなワケだから、私ともそーゆー感じでよろしく」
    「分かった。それじゃそろそろ、船を入渠させるぞ。問題無いな、エマ?」
    「ああ。じゃ、そーゆーワケだから、伝えといてね。よろしゅー」
     エマは乗っていた小舟に振り返り、部下に指示して、そのまま船へと戻らせる。
    「さてと」
     そこでもう一度くるんとハンに向き直り、エマは声を潜めつつ、ふたたび話し始めた。
    「皆が来る前に一度、コレだけは言っといた方がいいかなと思ってね」
    「うん?」
    「君らも何となく感じてるだろうけど、あの船、結構な人数が乗ってるんだよね」
    「ああ。陛下や軍本営からは、結局何名寄越すのか通達が無かった」
    「だろうね。そうしないと向こうの都合が悪いからね」
    「どう言うことだ?」
    「単刀直入に言おう。ゼロは、……ああ、いや、タイムズ陛下は、戦争する気になっちゃってるね」
     エマからとんでもないことを聞かされ、ハンは声を荒げた。
    「ば、……馬鹿な! そんなこと、あるわけが無いだろう!?」
    「声が大きい。みんなビックリするだろ? 黙って聞きな」
    「……ああ」
    「詳しいコトは後で説明するけども、ともかくこっちに寄越された600人はそーゆーつもりのヤツも大勢いるってコトを言っておきたかったんだ」
    「600人だと?」
    「無論、君が思ってるように、陛下は厭戦(えんせん:戦いを嫌うこと)派だった。いや、今も表面上は厭戦主義を採ってる。ソレは確かだ。……だからこそ今、君は戦うように仕向けられている。
     ソレが向こうの思惑だってコトは、まず第一に伝えておかなきゃと思ってね」
    「わ……わけが分からない」
     困惑した様子のハンに背を向け、エマはニヤッとクーに笑みを浮かべて見せる。
    「とりあえず疲れたしお腹も減ったし、でね。何かご飯とか無い、クーちゃん?」
    「く、クーちゃん? ですって?」
    「ソレとも殿下って呼ばれたい方?」
    「……クーちゃんで結構ですわ」
     憮然としつつも、クーはうなずいて返した。

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    琥珀暁・新尉伝 1

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第239話。
    新任尉官、来る。

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    1.
     双月暦24年5月、遠征隊の交代要員が北の邦に到着することとなった。
    「昨年、わたくしたちが訪れた頃より幾分早いご到着ですわね」
    「今年は暖冬だったらしい。南の方では」
     ハンとクーは談笑しつつ、沖の端にうっすらと見える船の到着を待ちわびていた。
    「だから出発は俺たちの時より1ヶ月以上早かったらしいんだ。とは言えこっち側の海に差し掛かったところで、寒気に阻まれたとか。……と言うようなことを、ここ数週間で聞いた」
    「どなたから? 父上からはここしばらく、通信を受けていないようにお見受けしておりましたけれど」
     尋ねたクーに、ハンは沖の船を指差す。
    「あの船の責任者からだ。……そうだ、クー。船が着く前に、いくつか注意しておくことがある」
    「注意ですって? あなた、また何かお小言を?」
    「いや、そうじゃない」
     ハンはぱた、と手を振り、話を続ける。
    「俺が言いたいのは、『相手に対して注意してくれ』ってことだ」
    「相手に? その、責任者の方にと言うことかしら」
    「そうだ。何と言うか……」
     ハンは首をひねりつつ、説明する。
    「かなり感情的と言うか気分屋と言うか、へんくつと言うか。話をしていて、やたら一方的にしゃべり倒したかと思うと、いきなり『じゃーね』って通信を切ってきたりする。正直言って、俺は相手したくないタイプだ」
    「あら……」
    「エリザさんだったら案外、気が合うかも分からんが」
     どことなく、げんなりした様子を見せるハンに、クーは恐る恐る尋ねてみた。
    「相手の方のお名前ですとか、階級や経歴はご存知ですの?」
    「ああ、名前はエメリア・ソーン。年齢と階級は俺と同じで、22歳の尉官。これまでクロスセントラル周辺の街道工事を手がけてたって話だ」
    「工事を?」
    「ああ。陛下からの紹介では、『沿岸部が君たちの影響により統治下に置かれたことだし、多少なりとも生活基盤を充足させる責任は、既に遠征隊が有してしかるべきことだと思う。だからこっちでそう言う仕事に長けてる人を新たに派遣するよ』と」
    「さようですか。でも、ハン」
     クーはハンの袖を引き、船を指差す。
    「それだけにしては、不釣り合いと存じられませんこと?」
    「と言うと?」
    「船の大きさです。わたくしたちが乗ってきたものとほとんど同じ、いえ、もしかしたらもっと大きいように見受けられますけれど、そんなに人員が必要でしょうか?」
    「うん? ……ふむ」
     クーの意見を受け、ハンも船の大きさを目測と指の長さとで測り、首を傾げた。
    「確かに大きいな。一回りか、二回りは。
     相当な人数を寄越してくれるのはいいが、確かに交代や工事なら、せいぜい200人程度のはずだ。だがあの大きさなら、こっちにいる600人と同数乗っていても、確かにおかしくない」
    「ねえ、ハン?」
     クーがもう一度、不安そうな顔をしつつ袖を引く。
    「わたくし、何か嫌な予感を覚えるのですが、本当にあれは、ただの交代要員と工事人員なのかしら」
    「それ以外、何があるって言うんだ?」
     いぶかしむハンに、クーは表情を崩さないまま、こう続ける。
    「お父様は、まさか、北の邦での戦線を拡大しようなどとお考えではないでしょうね?」
    「そんなはずは無い。有り得ない」
     ハンはきっぱりと、クーの不安を否定した。
    「元々遠征隊は、この邦と平和的な関係を築くために派遣されたものだ。その目的を歪めるようなことを、陛下がお考えになるはずが無い。
     それに、もし本当に、戦争を断行すると方針転換されたとしても、周囲が諌めないわけが無い。俺の親父だって、全力で止めに入るはずだ。何より陛下のお心が、そんな乱暴な手段を好まれるはずが無い。そうだろう?」
    「……であればよろしいのですけれど、本当に」
     ハンの意見を受けてもなお、クーが不安げな表情を崩すことは無かった。

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    2019年10月携帯待受

    携帯待受

    chevrolet spark

    chevrolet spark

    chevrolet spark  chevrolet spark

    2019年10月の携帯待受。
    シボレーのスパーク。

    残念ながらこのクルマ、日本で正規販売はしていません。輸入販売のみです。
    しかし可愛い。と言うことで今年の待受に採用しました。

    アメリカ車と言えば「大きい、ゴツい、燃費悪い」と言うイメージが付き物ですが、
    全長*全幅*全高が3640*1600*1550mmと、日本の軽自動車とほぼほぼ変わらないサイズ。
    欧州における分類も最小のAセグメントとなっており、エンジンも1.0L仕様のものがあるため、
    実質的に「シボレーの軽自動車」。
    日本で正規販売したら確実に売れると思うんですが、やはりアメ車のイメージではないのか……。



    次回もグラデーションの組み合わせについて、twitterにてアンケートを行う予定です。
    ブログトップページ、もしくはこちらから、私、黄輪のTLに飛ぶことができます。
    よろしければご参加下さい。



    Calender picture application by Henry Le Chatelier

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    琥珀暁・雄執伝 8

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第238話。
    両雄の確執。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
     話し合いから1時間後、ロイドから涙混じりの連絡があり、エリザはようやく安堵した。
    「ホンマにもう……」
    《ごめん、母さん、僕、こんなんなるなんて思わへんくって……》
     グスグスと涙声で謝るロイドに、エリザは優しい声をかけてやる。
    「アンタは何も悪ない。ゼロさんがアホみたいな勘違いしただけや。もう気にせんとき。……ああ、せや。ゼロさんからな、印刷技術に関しては山の北で広めんといてってお願いされたから、そっちでは誰にも言わんときや」
    《う、うん。分かった》
    「ま、南でどうのっちゅう話は無かったから、そっちは好きにしたらええやろけど。……でも、変やんなぁ」
    《って言うと?》
     尋ねたゲートに、エリザは疑問を述べた。
    「実際、アタシが印刷技術作ったワケやし、最初からゼロさん、アタシに相談するなり何なりしてくれたら、話は早かったんちゃうやろかと思うんやけども」
    《ふーむ……、確かにな。大体、『重要機密』って扱いも変だろ。そりゃすげえ技術だと思うけど、でもたかが製本技術だろ? 秘密にしとくような話じゃないと思うんだが》
    「せやねぇ……?」



     この疑問もゲートの調査により、1週間後に詳細が判明した。
    《どうやらな、ゼロは最近のエリちゃんの活躍っぷりが相当、悔しかったみたいなんだ》
    「アタシの?」
    《ほら、遠征隊の躍進も、ハンのって言うより、エリちゃんの手柄みたいに言われることがあるしさ。そうでなくても、山の南から来るヤツはみんな、ゼロよりエリちゃんの方を持て囃してるし。
     長いことこっちで王様だ、神様だって持ち上げられたせいか、ゼロもなんだかんだ言って、その気になってる節があるからな。その『カミサマ』が、もうひとりの『カミサマ』に人気を奪われたくないってことさ。
     で、印刷の件も、相談したらエリちゃんの手柄にされるかも知れないって思って、君に知られないよう密かに人を集めて、こっそり作ってたって話らしいんだよ》
     これを聞いて、エリザは首を傾げる。
    「ソレ、いつくらいからやっとったん? 少なくとも今年、去年の話やないやんな。だってアタシ、ココにいとるし。おらへんアタシを警戒するのも変な話やん?」
    《ああ。3年前からだってさ》
    「3年? なんでそんなかかるん? アタシ、アレ作るのんに1週間もかかってへんで?」
    《君ほど腕のいい職人はそうそういないし、ゼロだって毎度口出しできるほどヒマじゃない。そもそも機密って話だから、大掛かりにもできない話だろうし、合間合間でコソコソやってたんだろう。だからこその3年だろうな。とは言え、後もうちょっとで完成するところだったみたいだが》
    「あー……、そらまあ、確かに悔しいやろなぁ」
    《エリちゃん》
     と、ゲートが、どこか恥ずかしそうな声色で続ける。
    《すごいヤツとは勿論認めてるが、俺はハンみたいにゼロのことをカミサマ扱いしてないし、周りが何を言おうと、君も俺の中では、か、可愛い……その……ヨメさん……だ。だ、だからなっ、何が言いたいかって言うとだ、ゼロの肩を必要以上に持ったりしないし、君のことも等身大に応援する。いや、君が何かしたいって言って、それをゼロが止めに入ろうとしたとしても、だ。俺はその時、絶対、君の味方をする。
     そっ、それだけは、はっきり、言っとくからな》
    「……えへへ」
     エリザは自分の顔がにやけているのを感じながら、うんうんとうなずく。
    「うん、うん、ありがとな、ゲート。アンタにそう言ってもろたら、アタシ、めっちゃめちゃ嬉しいわ。……ホンマ、ありがと」
    《おっ、おう》
    「……ほなな。また連絡してや」
    《する、する。じゃ、じゃあな》



     この一件はどうにか収束したものの――これを契機に、ゼロとエリザの間には少しずつ、だが確実に、確執が深まっていった。

    琥珀暁・雄執伝 終

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    琥珀暁・雄執伝 7

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第237話。
    暴慮には暴策を。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     エリザの明確な脅しの言葉に、ゼロの声が揺らぐ。
    「や、やること? だって? な、何をするって言うんだ?」
    《自分の息子がいつまでもいつまでも無実の罪で捕まっとって、アタシがこっちで素直にゼロさんの命令に従っとるワケ無いですやろ? アタシにとってはそんなんより息子の命の方が、1000000倍大事ですわ。
     もしゼロさんが今、『うん』て言わへんのやったら、アタシは即刻帰って、兵隊集めてけしかけるくらいのコトはさせてもらいますで!?》
    「そ、それは……」
     このやり取りを聞いていたゲートは、内心肝を潰す。
    (そりゃマジでまずいだろって、エリちゃん? お前がマジでそんなことしたら、遠征隊はめちゃめちゃになっちまう。シェロの一件からして、ハン一人で600人を統率するのはまず無理だ。ってかエリちゃんがマジで帰るっつったら、絶対100人か200人はそれに付いてくだろうし。そうなりゃ遠征隊が瓦解しちまう。
     それに、マジでエリちゃんが帰ってきて挙兵なんかしてみろよ? 賛同するヤツはかなり出て来るだろう。それこそ、軍に匹敵するくらいの数が揃うことは目に見えてる。そんなのと戦う羽目になったら……! 負ければそのままエリちゃんの天下だし、勝ったとしても、ゼロは英雄から一転、『自国民を虐殺したゲス野郎』になっちまう――その戦い、勝っても負けても、ゼロの評判は地に墜ちちまうぞ!?
     この脅しもあんまりにもあんまりな話だが、でもゼロ、お前だってこんなことに、いつまでも意地になってたって仕方無いだろ?)
     ゲートの懸念を、ゼロも抱いていたのだろう――ようやく、ゼロはエリザの要求に応じた。
    「……分かった。今回の件は、君の言うことを信じることとする。今から連絡して、ロイドは保釈させるよ。……だけど、その代わり」
    《なんですのん》
    「印刷技術に関して、山の北側で広めることはしないでもらえるとありがたい。いや、極力しないでもらいたい。私たちが進めていた研究が無駄になると、困る人間もいるんだ」
    「そんなのお前だけじゃ、……いや、何でも無い。保釈されるってんならそれくらいいいよな、エリちゃん?」
    《ええ、その条件で。ほんなら、よろしくお願いしますで》
    「ああ」
     ようやく話がまとまり、通信はそこで途切れた。
    「ゼロ」
     と、ゲートが声をかける。
    「お前らしくないな。何だよ、今回の話は?」
    「……何が?」
     疲れ切った目を向けられるも、ゲートは追及をやめない。
    「横で聞いてた俺でも、お前の言ってることもやってることも、かなり無茶苦茶だってことは分かったぞ? そもそも極秘の研究だって言うなら、それをどうしてロイドが盗み出せると思うんだ? あいつにそんな技術も度胸も無いぜ?」
    「念には念を入れただけだよ。君だって機密が漏れたと分かったら、相応の対処を講じるだろう?」
    「それにしたって子供一人に因縁付けて投獄するなんて、明らかにやりすぎだ。処刑なんてもっととんでもないぜ。どうしたんだよ、まったく?」
    「……君の言う通り、確かにちょっと、僕は過敏になっていたかも知れない。彼女から何か言われなかったとしても、恐らく、処刑は取りやめただろう。数日取り調べれば疑いも晴れただろうし、いずれ保釈もされただろう。
     冷静に考えれば、確かに行き過ぎた処置だったよ。ああ、冷静さ、今の僕は」
    「お前、昔っから嘘が下手だよなぁ」
     ゲートはため息混じりに、こう言い返す。
    「冷静に見えないぜ、今のお前は。……いや、もうアレコレ言うのはやめとく。ロイドは俺が連れて帰るぞ。紹介したのは俺だし。いいよな、ゼロ?」
    「ああ。連絡しておくよ」
    「……じゃ、おやすみ。夜分遅くに悪かったな」
    「おやすみ、ゲート」
     それ以上は互いに会話も交わさず、目線を合わせることもせず、ゲートはその場を後にした。

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    琥珀暁・雄執伝 6

    琥珀暁 第5部

    神様たちの話、第236話。
    エリザとゼロの争議。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     エリザはすぐさまゼロに通信を送り、極力穏やかな声色を作って尋ねた。
    「今ですな、ゲートさんから聞いたんですけども、なんですか、ウチのロイドが捕まったとか? いや、なんかゲートさんの勘違いちゃうかーと思って、ちょっと今、確認取らさせていただいておりますんやけどもな?」
     が、ゼロはにべもなく、通信を切ろうとする。
    《話すことは無い。夜分遅くに非常識じゃないかな》
    「あのですなー」
     苛立ちを抑え、エリザはなおもやんわりと尋ねる。
    「ウチの息子が捕まったって聞いたら、確認したなるんが普通とちゃいますのん? ゼロさんかてアロイくんとかクーちゃんとか捕まったって聞いたら、こうして確認入れはりますよね? そん時に常識や何や、言うてる場合やと思わはります?」
    《まあ、そうだね。うん。でも私から言うことは何も無い》
    「ありますやんな? ゼロさん自ら連行したて聞いてますねん、アタシ」
    《形としてはそうなる。しかし投獄を決定したのは……》
    「ゼ・ロ・さ・ん・で・す・や・ん・なぁ?」
    《最終決定と言う意味で言えば、私にある》
    「で・す・や・ん・なぁ?」
     威圧感をにじませたエリザの声に、ようやくゼロも、まともな答えを返してきた。
    《……投獄の理由が聞きたいと?》
    「勿論ソレもありますし、ソレが納得行かへんもんやったら、アタシは即刻釈放を要求しますで。説明も何も無しでいきなり処刑なんて、公明正大で通っとるゼロさんがやるはずありまへんやろからなぁ?」
    《分かった。……ちょうど今、ゲートも来たらしいから、みんなで話そう》

     ゲートが会話に加わったところで、改めてゼロから、今回の件についての説明が成された。
    《罪状は『重要機密の窃取、および漏洩』だ。ロイドは現在私が中心となって研究していた技術を盗み出し、公に広めようとしていた。だからそうなる前に私が警吏に命じ、投獄させたのだ》
    「重要機密?」
    《それについては知らせられない》
    《言わなきゃ何がなんだか分からん。俺にも話せないことなのか?》
     ゲートに突っ込まれ、ゼロは渋々と言いたげな口ぶりで説明する。
    《書類や書物の大量製造を可能にするための技術開発だ》
    「ん? ソレって……」
    《そうだ。君の息子が持ち出したのは明白だ。あまつさえ、それをわざわざ私に見せに来た。大方、罪の意識を感じて申し出たのだろう》
    「ちゃいます」
     エリザは声を荒げ、それを否定した。
    「ソレはアタシから、ロイドに伝えたもんです。ゼロさんがしとったコトは、あの子は何も知りませんし、アタシも知る術はありまへん」
    《じゃあ何故、あの子は文字型を持っていたんだ?》
    「アタシが作り方教えたからです」
    《君が重要機密を知っていた理由は?》
    「そんなもん、知りません。アタシがこっちで、自ら考えて作ったんです」
    《信じられない。有り得ないことだ》
    「何がですねんな? 文字型作るのくらい、こっちで木材と鉛があれば簡単にでけますやろ? ソレともアタシのアタマでこんなアイデア、思い付くはずが無いとでも言わはるんですか?」
    《……それは、……いや、……君なら、確かに、……君の経験と技術があれば、……有り得ないことでは、無いと、思う》
    「はっきり言うときますで。この技術はアタシがこっちで一から考えて、作り出したもんです。ゼロさんトコが何してたか、アタシもロイドも全く知りまへん。ゼロさんが思とるようなコトは、全くありまへんからな。事実無根です。
     ちゅうワケで即刻、無罪放免したって下さい」
     畳み掛けるようにまくし立てたエリザに、ゼロは何も答えず、ただただ無言の時が流れる。
    《おい、ゼロ。何か言えって》
     たまりかねたらしく、ゲートが促すが、ゼロは歯切れ悪く応じるばかりである。
    《要求は良く分かった。至極当然の要求だ。それは良く分かっている。
     しかし、……その、……彼を釈放すれば、彼が印刷技術を広めることは、自明だろう。だが、その……、私の方でも、……研究を進めていたこともあるし、携わった人間が納得してくれるか……》
    《あん? 単にエリちゃんの方が、思い付くのも実用化するのも早かったってだけじゃないか。それが何だって言うんだ?》
    《だけど僕が先に、……い、いや、私が、……いや……》
    《お前、もしかして先に実用化されたのが悔しいのか?》
    《そ、そんな、ことは……》
    《仕方無いだろ、そんなの。別に競争してたわけじゃないんだし、さっさと釈放してやれよ》
    《……いや……しかし……》
     なかなか同意しようとしないゼロに、エリザはしびれを切らし、ついに怒鳴り出した。
    「あのですな、ゼロさん? いつまでもロイドを捕まえとく、何がなんでも処刑するっちゅうんやったら、アタシもやるコトやりますで!?」

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