黄輪雑貨本店 新館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    「あらすじ」紹介ページ

    双月千年世界 目次 / あらすじ

    度々「(小説の内容が)何が何だか分からない」というコメントをいただいているので、
    一応あらすじを紹介したページを設けてはいるんですが、それについてもやはり、
    「どこにあるのか分からない」とのご指摘を度々受けていました。

    というわけで急遽、ダイレクトに「ここから行けば分かる!」という記事を作成しました。
    ここです。

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    琥珀暁 目次

    双月千年世界 目次 / あらすじ

    絵師さん募集中!

    黄輪雑貨本店 総合目次 (あらすじもこちらにあります)

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    「琥珀暁」地図(作成中……)

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    「双月暦」の暦
    双月世界の魔力・魔術観について
    双月世界の種族と遺伝 補足1
    双月世界の戸籍

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    1話目から読みたい方はこちら



    琥珀暁・狐童伝
    1 2 3 4 5 6

    琥珀暁・錬杖伝
    1 2 3 4 5 6

    琥珀暁・鳳凰伝
    1 2 3 4 5 6 7

    琥珀暁・群獣伝
    1 2 3 4 5 6 7

    琥珀暁・南征伝
    1 2 3 4 5 6

    琥珀暁・駆逐伝
    1 2 3 4 5 6 7

    琥珀暁・金火伝
    1 2 3 4

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    第1部;彼訪伝~邂朋伝
    第2部;狐童伝~金火伝

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    琥珀暁・奔尉伝 3

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第96話。
    寄せ集め部隊の出撃。

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    3.
    「敵、まだ広場から動いてませーん!」
     監視塔にいるマリアから状況を伝えられ、その真下の中庭に集まった測量班と元討伐隊は顔を見合わせる。
    「動きは無し、か」
    「でもいずれ、来るはずです」
    「ビートの言う通りだ」
     彼らの前に立つハンが、全員に周知する。
    「それでは作戦について、詳しく説明する。
     俺たちは今からノースポートの付近に移動し、敵が動き出すまで待機する。敵が探査部隊を街から出してすぐ、俺とクーが姿を消して街に入る。
     探査部隊がある程度の距離を取った頃を見計らって俺が門を開け、残りの皆は街に侵入する」
    「探査部隊が出た直後なら、門も開いてんだろ? んな面倒臭えことしなくてもいいじゃねえか」
     そう返したロウに、ハンは首を横に振った。
    「確かに開いてるだろう。だが街の中に残っているだろう防衛部隊と、騒ぎを聞き付けて戻ってくるだろう探査部隊に挟み撃ちにされる危険が大きい。そうなれば一巻の終わりだ。
     前述した通り、俺はあんたたちがよほど自分勝手に行動しない限り、死んでくれなんて言うつもりは無い。生還優先で行動してもらう。
     話を戻すが、探査部隊が街を離れ、警備が手薄になった時点で街に侵入し、陽動を行う」
    「ようどう?」
     またもロウに話の腰を折られかけるが、今度はビートが話を継いだ。
    「要するに目一杯大騒ぎして、暴れてくれってことです」
    「ああ、うん。チマチマやるよりそっちの方が性に合ってる」
    「そりゃ良かった。あんたに任せるよ」
     ハンは多少イライラしながらも、話を続ける。
    「ある程度騒ぎ立て、探査部隊が戻ってくる気配を見せたら、今度は大急ぎで街を離れる。
     これを、探査部隊が街を出る度に繰り返せば、奴らもめげるだろう」
    「『出る度に』? 何度もやるのか?」
     今度はロウではない、別の者が質問する。
    「相手も多分、ある程度は意地になって探査しようとしたり、俺たちを潰しにかかろうとしたりするだろう。少なくとも4~5回は、陽動作戦を行う必要がある。
     何度もやる分、危険は大きい。だが、ここにいる皆の安全を確保するためだ。無論、『皆』にはこの作戦に参加する、あなた方も含まれる。決して『自分の命なんてどうでもいい』なんて自棄(やけ)にならず、自分の生命優先で行動すること」
     そこまで述べ、ハンは右手を挙げた。
    「それじゃ行くぞ! 気を引き締めてかかれ!」
    「おうッ!」
     ハンの号令に合わせ、陽動部隊は中庭を後にした。

     30分後、ハンたちはノースポートのすぐ側にある、森の中に陣取っていた。
    「この位置なら、探査部隊も意識を前に向けてるだろうし、俺たちがいることに気付かないだろう。
     探査部隊が出発し、門が閉まる前に、俺とクーが姿を消して中に入る。皆は探査部隊が完全に視界から消えたら、門前に集合してくれ。
     俺が門を開けたら、そのまま大声を上げて侵入。陽動作戦の開始だ。終了のタイミングは俺が知らせる。俺の合図が来たら、全員即撤退だ。間違っても戦闘を継続させるなよ。
     ……っと」
     話している間に門が開き、中からぞろぞろと、あの熊や虎じみた獣人たちが現れる。
    「**!」
     その中の一人が号令をかけたらしく、彼らは門前で整列する。
     その様子を眺めていたクーが、いぶかしげにつぶやく。
    「随分、練兵が行き届いておりますわね」
    「……そうだな」
     それに応じ、ハンはこう続ける。
    「武器や装備なんかの程度は、はっきり言えば俺たちより拙い。材質は木だとか石だとかばっかりで、青銅や鋼でできたモノなんか誰も身に付けてなかった。だから正直、俺たちより技術で劣ると考えてた。
     だが統率だとか指揮系統だとかは、俺たちと遜色(そんしょく)無いように見える。何よりどいつもこいつも屈強な体つきしてる。真っ向勝負したら、勝てるかどうか」
    「わたくしたちには魔術がございますわ。如何に彼らが優れた肉体を有していようと、距離を取って波状攻撃を仕掛ければ、ひとたまりもございませんでしょう」
    「どうだろうな」
     自信有りげなクーに対し、ハンは懐疑的に答える。
    「そりゃ昔は人の十倍も二十倍もあるバケモノを相手に、そうした方法で勝ってきたって話だが、向こうはバケモノじゃなく、人だ。
     人が作った技術が、人に破れないなんてことが……」「なんですって?」
     ハンの言葉に、クーは目を釣り上がらせる。
    「『人が作った』? あなたはち、……陛下が、人だと仰るのですか?」
    「君の陛下を尊ぶ気持ちは十分に理解しているつもりだが、その陛下ご自身が、『我は神にあらず、左様に呼び給うな』と仰られていたとも聞いてる。
     それよりクー」
     ハンはクーの口を掌で押さえ、にらみつけた。
    「敵が目の前なんだ。騒がないでくれ」
    「むぐ……」
     クーは顔を真っ赤にし、黙り込んだ。

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    琥珀暁・奔尉伝 2

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第95話。
    撹乱作戦の検討。

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    2.
     ロウが騒ぎ立てたために、皆は慌てふためいている。
     たまりかねたハンが、そこで一喝した。
    「静かに! 騒ぐな! 黙れええええッ!」
    「……っ」
     ハンがこれまで見せていた、穏やかな物腰からは想像もできなかったであろうその怒声に、場は一瞬で静まり返った。
     視線が自分に集まったのを確認して、ハンは咳払いをする。
    「……コホン。まず3つ、言うことがある。
     1つ。これから俺が言うことを、落ち着いて聞いて欲しい。まだ不確かなことが多いから、断言できることは少ない。だから回りくどい表現をしたり、はっきりしない言い方をしたりするだろう。それでも最後まで、静かに、落ち着いて聞いてくれ。
     2つ。基本的に、俺の言うことに従ってくれ。状況が状況だから、切羽詰まって命令口調になったり、納得してもらえないまま行動に移ってもらったりすることもある。だが、あくまで俺は、この砦内にいるノースポートの皆の命を守るために行動するし、そのために命令する。それを分かって欲しい。
     そして3つ」
     自分のすぐ後ろで棒立ちになっていたロウの鳩尾に、ハンは突然、裏拳を叩き付けた。
    「うぐぉ!?」
     ロウが顔を真っ青にし、うずくまったところで、ハンは続けざまに剣を抜き、ロウの首に当てる。
    「この2つを前提として、それでも勝手なことをする奴がいたら、最悪の場合、俺はそいつを動けなくなるまでボコボコにする。
     この状況で勝手なことをする奴が一人でも出たら、全員が道連れになって死ぬ危険があるからだ。全員がその勝手な奴のせいで死ぬくらいなら、俺はそいつを迷いなく殺すからな。
     分かったか?」
    「……わ、分かった」
    「き、聞きます」
     ロウを含め、全員がうなずいたところで、ハンは剣を収め、改めて状況を説明した。
    「……と言うわけだ。だから至急、対策を講じなければならない。
     だが真っ向から迎撃するのは、戦力面でも武器や備蓄の面でも不可能だ。と言って逃げるのも難しい。一番近い村落まで、ここから30キロメートル以上あるからな」
    「きろ?」
    「め……とー……?」
    「……って何?」
     何人かが、ハンの使った言葉にきょとんとする。が、先程のロウの場合とは違い、ハンは苛立ったりはせず、丁寧に説明する。
    「数年前に、陛下が度量衡(どりょうこう:長さと量、重さ)の単位を定められた。『メートル』もその一つだ。大まかに言えば、普通の大人が歩いて6~7時間はかかる距離だってことだ。
     この砦には子供や老人も少なくない。健脚な者でも6時間を要する距離を歩くとなれば、もっと時間がかかることは明白だ。対して、向こうには屈強な男共がゴロゴロ揃ってる。そいつらに6時間以上も捕まらず、無事逃げ切るなんてことは、はっきり言って有り得ないだろう。
     戦うのは無理だし、逃げることも不可能だ。だからこれ以外の対策を考える必要がある」
    「それ以外って……」
    「無くないか?」
     一様に顔を青ざめさせる町民たちに、ハンはいつも通りの穏やかな声色を作る。
    「要は、相手がこっちに襲い掛かってこなければいいんだ。
     引き返してもらうか、あるいは襲い掛かる対象を、別のところに用意すればいい」
    「……つまり?」
    「作戦はこうだ。
     敵の探査部隊がノースポートを出たら、すぐに5~10名程度の人間がノースポートに攻め込む。わざと大声を上げたり、音を立てたりしてな」
    「ええっ!?」
     ハンの作戦を聞き、一同は目を丸くする。
     それを受けて、ハンはこう続けた。
    「勿論、攻め込む役は俺たち軍の人間が中心になって行う。だが、街の奪還だとか敵の親玉を潰すだとか、そんな無謀なことをする気は無い。
     これはあくまで、敵に『ちょっとでも陣地を離れたら危ないぞ』と思わせるために行う作戦なんだ」
    「それって、どう言う……?」
    「大軍を挙げ、苦労して占拠した街を奪い返されたりなんかしたら、たまらんだろ?
     それに陸からじゃなく、海から来てるってことは、近隣に奴らの基地やら詰所なんかも設営されて無いってことだろうし、兵士の増員は難しいはずだ。それならうかつに兵を分散させてみすみす痛手を食らうよりも、温存策を採るはずだ。
     この作戦が成功すれば、相手は今度こそ、街から出なくなる。しばらくは皆の安全が確保できるはずだ」
    「街から出なくなる、って……」
     作戦を聞いて、不安の声が上がる。
    「追い出す方法は無いのか? いつまでもここで暮らすわけにも行かんし」
    「それはまだ無理だ。だが情報は軍本営に伝えてあるし、いずれ大部隊がノースポート奪還のためにやって来る。
     でもその時、あんたたちが死んでたりなんかしたら、俺たちは何のために奪還するんだって話になる。俺たち、いや、俺は、街の本来の持ち主であるあんたたちに、ちゃんと生きててもらいたいんだよ。奪還に成功する、その日までな。
     だから今は、生きてもらうことを優先し、敵を街に閉じ込めることで、危害を加えられないようにしておきたいんだ」
    「……まあ、うん。そこまで言われちゃ、なぁ」
     町民たちはようやく、納得した様子を見せてくれた。

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    琥珀暁・奔尉伝 1

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第94話。
    尉官、奔走する。

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    1.
     謎の敵集団に動きがあったことが瞬く間に伝わり、砦内は騒然としていた。
    「話は聞いたぜ、尉官さんよ。敵が来るって?」
     話を聞き付けやってきたロウに、ハンは首を横に振る。
    「確実じゃない。現状じゃまだ、来る『かも』って程度だ」
    「かも?」
    「確認できたのは、奴らが街の広場で集まって、隊列を整えてるってことだけだ。
     今のところマリアが街を監視してる。また動きがあれば、周知する」
     説明を受け、ロウもかぶりを振る。
    「んなトロいこと言ってる場合か?
     集まって、そんで終わりってわけ無いだろ? 集まる以上、何かしら行動するに決まってるぜ」
    「ああ。俺もそれは危惧している。十中八九、付近の探査を行うと見ている」
    「となりゃ、ここは危険だろう」
     そう返し、ロウは辺りを見回す。
    「向こうからも、この砦はギリギリ見える位置にある。『あいつらこっちに逃げてったかも知れん』と思って、真っ先にこっちへ来るって可能性は、相当高いと思うぜ」
    「そうだな。俺も同意見だ。だが実際にあいつらがこっちに来た場合、どうすべきか。そこから考えなきゃならないだろう」
    「どうすべき? 迎え撃つしかねーだろ?」
     ロウの言葉に、もう一度ハンは首を振る。
    「俺たちにそんな戦力は無い。あんたを始めとする元討伐隊の人間を集めたって、せいぜい十数名ってところだ。向こうはその4~5倍はいる。そんな状況で迎え撃ったとしても、砦内の半分以上が死ぬことになる。
     だから、真っ向からは戦わない。それを回避するべく行動するんだ」
     ハンの考えを聞いて、ロウはけげんな表情を浮かべている。
    「どうやるんだ?」
    「それは今から考える。ともかく、今は下手に動かないようにしてほしい。
     猫獣人みたいに耳や目の利く奴が向こうに大勢いたら、こっちが無闇に騒いでるのを気取られるおそれがあるからな」
    「は? このままじっとしてろって言うのかよ? んなことしてたらあっと言う間に攻め込まれちまうぜ」
     ハンがなだめても、ロウはまったく応じる姿勢を見せてくれない。
     仕方無く、ハンはこう返した。
    「……分かった。じゃあ戦闘の準備だけ整えておいてほしい。
     だがくれぐれも、大騒ぎしないようにしてほし……」
     ハンが言い終わらない内に、既にロウは大声を上げ、その場を駆け出していた。
    「敵が来るぞーッ! 迎え撃つ準備だーッ!」
    「……っ!?」
     ハンは絶句し――直後、ロウに駆け寄り、ぶん殴っていた。
    「何やってるんだ!? 止まれッ!」
    「いってえ!? 何すんだよ!?」
    「何すんだ、じゃない! 俺の言ったことが分かってないのか!?」
    「は? お前さん、戦闘準備しろって……」
    「静かにやれ! 騒ぐなと言ったはずだッ!」
    「なんだそれ? 聞いてねえぞ」
    「はぁ……」
     煙たがっているような顔をするロウに、ハンは頭を抱えつつ、こう続けた。
    「頼むから、自分勝手に行動しないでくれ。
     ただでさえこちらが圧倒的に不利な状況なんだ。一人ひとりがバラバラに動いたら、敵に『各個撃破して殺してくれ』と言っているも同然だ。
     ここにいる間は、俺の指揮に従ってほしい」
    「は? なんでお前さんの命令に従わなきゃならん? 俺はもう軍だの討伐隊だのを抜けたんだぞ」
    「じゃあ一人で敵陣に乗り込んで死ぬか? あんたが自由意志で死にたいって言うなら、俺は止めないぞ」
    「んなことするかよ。俺はただ、お前さんの勝手で動く気は無いって言ってるんだ」
    「いい加減にしてくれ。あんた一人のわがままで、ここにいる全員を危険にさらすな」
    「……」
    「……」
     二人とも黙り込み、互いににらみつける。
     と――騒ぎを聞き付けたらしく、その場にぞろぞろと、砦内の人間が集まってきた。
    「どうした、ロウ?」
    「敵とか何とか聞こえたけど……」
    「何かあったんですか?」
     集まってきた者たちから異口同音に状況を尋ねられ、ハンがそれに答えようとする。
    「ああ、今……」「敵だ! 敵が来やがる!」
     が、ロウがさえぎり、まくし立てる。
    「敵? ……って、あの虎みたいな熊みたいな奴ら?」
    「来るって、こっちに?」
    「ど、どうすんだ!?」
     ロウの言葉に、周囲は騒然となった。

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    2018年3月携帯待受

    携帯待受

    JAGUAR F-TYPE(X152)

    JAGUAR F-TYPE(X152)

    JAGUAR F-TYPE(X152)  JAGUAR F-TYPE(X152)

    2018年3月の携帯待受。
    ジャガーのF-TYPE。

    先月分の待受で色について云々していましたが、今回は今回でなんだこれ。
    えらくガーリーに仕上がってしまいました。
    ジャガーから「我々のイメージに沿わない」とか何とか言われて怒られやしないか、ちょっと心配。
    ガチのスポーツカーなのに……。



    次回もカラーに関して、twitterにてアンケートを行う予定です。
    ブログトップページ、もしくはこちらから、私、黄輪のTLに飛ぶことができます。
    よろしければご参加下さい。



    Calender picture application by Henry Le Chatelier

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    琥珀暁・古砦伝 6

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第93話。
    弛緩と緊張。

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    6.
     監視班が来るまでの間、ハンたちの班は変わらず監視を続けていたが――。
    (……う~、飽きたよ~。暇だぁ~)
     相手の動きがまったく無いため、元々から落ち着きのないマリアは、この作業に半ば興味を失ってしまっていた。
    「様子はどうだ?」
     一方で、それを見過ごすようなハンでは無い。
     監視塔に籠もっていたマリアを、度々訪ねてきていた。
    「変わりなしでーす」
    「そうか」
     ほとんど定型化したやり取りを交わして、ハンが塔から降りようとする。
    「あ、ちょっと尉官」
     と、それをマリアが呼び止めた。
    「どうした?」
    「今何時ですかー?」
    「2時半ってところだな。いや、3時前くらいか」
    「えー……。まだそんなくらいですかぁ。もう4、5時間は経ったかなーって思ってたのにぃ」
     だらけた声を漏らすマリアに、ハンは苦笑して返す。
    「気持ちは分かる。相手の動きが無さすぎて、正直俺だって、無駄なんじゃないかとは思ってる。
     だが万一ってこともあるだろ? その万一を見過ごしたりしたら、大変なことになる。その責任は忘れるな。
     気合を入れ直して、しっかり監視に当たってくれ」
    「はぁ~い」
     ハンが降りて行ったところで、マリアは単眼鏡を手にし、ノースポートの状況を伺う。
    (分かってるんですよー。分かってるんですけどねー)
     ここまでの2時間と同様、街には特に、変わった様子は見られない。
    (こっちに来てもう5日、6日くらい経ってますけどー、なーんにも起こらないんですもん。いい加減ダレてきちゃいますってばー)
     ハンにたしなめられたものの、あっと言う間に興味を失い、マリアは単眼鏡を砦内に向ける。
    (……お、ビートだ)
     ビートが砦の中庭で、壁にもたれつつ本を読んでいる姿が視界に入る。
    (勉強してるのかなー。……あ、反対側にシェロもいる。素振りしてる。
     真面目だなぁ、二人とも)
     と、ビートの側に白いものが近付いて来るのに気付く。
    (お? あれ、クーちゃんかな)
     単眼鏡の焦点をビートに戻し、二人の様子を眺める。
    (ビート、なんか嬉しそうだなぁ。クーちゃんから魔術、教えてもらってるのかなー)
     ビートとクーが仲良く談笑しているのを見て、マリアは思わず、ため息をつく。
    (……あーあ、何か憂鬱だなぁ。早く交代時間にならないかなぁ)
     マリアはもう一度ため息をつき、単眼鏡をノースポートに向けた。

     と――。
    (んっ?)
     街の広場に人影があるのを確認し、マリアは目を凝(こ)らした。
    (遠くて良く分からないけど、あれって街を占拠した奴らだよね?)
     大きな耳を持つ者たちが広場に続々と集まり、隊列を成していくのが見える。
    (あーゆーことするのって大体、何かやろうって時だよね? ……なんか、まずいっぽい?)
     マリアは単眼鏡から目を離し、中庭に向かって声をかけた。
    「ビート! 近くに尉官、いるー!?」
    「どうしました、マリアさん?」
     ビートがぎょっとした顔で返事し、尋ね返してくる。
    「街の方、なんか動きがあるっぽいから呼んできてー!」
    「は、はい! 了解です!」
     そう答え、ビートは慌てて走り出す。シェロとクーも状況を察したらしく、同じように駆け出して行った。
     その間に、マリアはもう一度街へと視線を向ける。
    (尉官は敵の数、50人くらいだろうって言ってたよね。広場に集まってるのって、10人か20人くらいかな。
     全員集合ってことじゃ無さそうだけど、……やっぱヤバそう)
     そうこうしている内に、ハンが青白い顔で塔のはしごを登ってくる。
    「どうした、マリア?」
    「見て下さい、尉官」
     ハンに単眼鏡を手渡し、マリアは状況を説明する。
    「今ですね、敵が広場にどんどん集まってるんです。隊列も組んでますし、何かやるぞって感じがします」
    「そうだな。その雰囲気はある」
     ハンも確認を終え、単眼鏡をマリアに返す。
    「何かする気でしょうか?」
     尋ねたマリアに、ハンは緊張した面持ちでうなずく。
    「でなきゃあんな風に集まらん。可能性として一番高いのは、近隣の探査だろう」
    「探査?」
    「敵がノースポートを占拠して以降、動きは無かった。と言うことは、街の外について何の情報も集めていなかったってことになる。だから集めに来るのさ。
     ただ、その範囲が問題だ。本当に周囲をぐるっと回るだけならいいが、この砦まで来られたらまずい。攻め込まれたらひとたまりもないからだ」
    「でも、この前は……」
     反論しかけたマリアを、ハンは「いや」と制する。
    「前回は近くに逃げ込める場所もあったし、成功の可能性は十分高かった。
     だがこっちに攻め込まれたら、今度は逃げ場が無い。この砦にいる全員を移動させたとしても、その大人数を収容できるような当てが、この近隣にはもう無いんだ。
     そんな状況でもし、逃げ出さなきゃならなくなったら、確実に半分以上が死ぬか、行方知れずになるだろう。
     だから、奴らがこっちに来るようなことがあれば、俺たちで迎え撃たなきゃならん。急いで準備するぞ」
     そう言ってハンははしごに飛び付き、大慌てで滑り降りて行った。

    琥珀暁・古砦伝 終

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    琥珀暁・古砦伝 5

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第92話。
    クーのおねがい。

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    5.
    「あ、そうそう」
     と、クーがぺち、と両手を合わせ、こう続けてきた。
    「マリアから伺ったのですけれど、ハンは監視班の方たちがご到着し次第、クロスセントラルへお戻りになるご予定ですのね?」
    「ああ、そうだ」
    「ではわたくしも、それに同道させていただいてもよろしいかしら?」
    「何だって?」
     尋ね返したハンに、クーはにこっと笑ってうなずく。
    「ええ。ご覧の通りわたくし、か弱き乙女ですもの。四六時中『インビジブル』で姿を隠すのも大儀ですし、信用おける方と共に帰路へ就いた方が、確実に安全でしょう?
     あなたなら、わたくしが不安に思うようなことをなさるおそれは、絶対に無いでしょうし」
    「帰路ってことは、君はクロスセントラルの人間なのか」
    「ええ。修行のために各地を周遊しておりましたけれど、先日父上より、『そろそろ帰って来なさい』と連絡をいただきましたので。
     ノースポートを訪れたのはそれが理由だったのですけれど、あいにくあのような事態に巻き込まれてしまい、どうしようかと思案しておりました。
     ですので、あなた方がクロスセントラルへご帰還なさると言うのであれば、わたくしもご一緒できないか、と」
    「なるほど」
     ハンは食事の残りを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼(そしゃく)しつつ、首を縦に振った。
    「んぐ……、いいぞ、一緒に来ても」
    「あら。てっきりお断りなさると存じていたのですが、よろしいのですか?」
    「勿論、自力で隣村まで行けないような幼子や老人とかなら断るところだが、君なら腕も立つし、万が一バケモノやら、あの『熊』や『虎』たちに襲われても、十分打破できるだろう。
     その代わり、俺たちが対処しきれないような奴が現れても、君だけを逃がすと言うようなことはできない。その時は一緒に戦ってもらうし、運が悪けりゃ一緒に死ぬ。
     それでいいなら、同行しても構わない」
    「ええ、異存ございません。よろしくお願いいたしますわ、ハン」
     クーはにこっとハンへ微笑み、隣のマリアにも笑いかけた。
    「あなたもよろしくね、マリア」
    「うん、よろしくねー」
     二人してニコニコしている様子を見て、ハンにふと、疑問が湧く。
    「そう言えばクー、君は今、いくつなんだ?
     随分若く、……と言うか幼くすら見えるが、話し方はとても大人びているように感じられるし、魔術の腕を考えても、相当修行を積んでるはずだ。
     ちなみにそこのマリアは18歳だけど、それよりは幼く見える。もっとも、マリアは性格的に幼いって部分があるから、判断材料にはしがたいが」
    「ちょっとひどくないですかー、尉官」
     マリアが唇を尖らせるのをよそに、クーが答える。
    「15歳ですわ。自分では、歳相応の見た目と存じておりましたけれど」
    「その年齢なら概ね納得できるな。魔術は別として」
     その言葉に、クーはまた、にこっと笑う。
    「僭越(せんえつ)ながらわたくし、魔術に関しては相当良い血筋を引いていると自覚しております。持って生まれた才能も、多分にあるのではないかと」
    「魔術に関しては、随分な自信家だな。
     だがその自信に見合う力を持っているのは、紛れも無い事実だ」
     食器を片付けながら、ハンは続けてこう尋ねる。
    「部下に釘を刺した身でこんなことを聞くのも何なんだが、君のその魔術の腕は、どうやって培われたものなんだ?
     技術も力量も、どう考えても尋常なものじゃない。一端の兵士であるビートが、手も足も出ないくらいの使い手だ。到底、そこいらをぐるっと回った程度で身に付く程のものじゃない。
     そんな凄腕の魔術師がまだ、たったの15歳だとは、俺には簡単に信じられない」
    「それを説明しなければ、同行は許可していただけないのかしら?」
     若干ながらも不機嫌そうな目を向けてきたクーに、ハンはかぶりを振る。
    「そう言うわけじゃない。それとは別の話だ。ただ単に、俺の個人的興味の問題だよ。
     これも前に言ったが、答えたくないことを無理に答えてもらう必要は無い。……まあ、なんだ。この話はもう、やめにしよう。
     出発についてだが、恐らく1週間後になる。それまでに準備を整えておいてくれ」
    「ええ、承知いたしました。
     では、わたくしはそろそろ就寝いたしますわね。おやすみなさいませ、ハン」
     すっと席を立ち、そそくさと離れるクーに、ハンとマリアは同時に声をかけた。
    「おやすみ、クー」「おやすみなさーい」
     クーは振り返ること無く、そのまま食堂を後にした。

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    琥珀暁・古砦伝 4

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第91話。
    最善策の検討。

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    4.
     夜が更け始めても結局、街には何の動きも見られなかったため、ハンは監視を切り上げ、屋上を降りて砦内へ戻った。
    (この調子じゃ交代に誰か監視させても、まったく成果は出ないだろう。それよりかぐっすり寝て英気を養ってもらってた方が、後々の旅路を考えたら得策だろうな。
     ……やれやれ。『得策』、か。現状、何がそうなるのか、判断が難しいところではある。そもそも自分たちが今ここにいる間、何をすれば最善なのかも、決めあぐねてるんだよな。
     まず、ここからクロスセントラルまで、馬車使っても10日以上かかる。連絡したのがもう3日か、4日かくらい前だから、監視班が来るのは最短でも、あと一週間はかかる計算になる。
     その間、ただこの状態を維持して監視を続けるのが最善の策だろうか? それとも相手を観察できる機会を狙って、何かしら行動を起こしてみるか?
     いや、論外だな。十分な人員も装備も無い俺たちが無理に行動を起こすのは、得策なんてもんじゃない。はっきり言って愚策だ。
     門前で騒ぐとか、壁越しに石放り投げるとかして多少突っつけば、そりゃ確かに何かしらの反応があるかも分からんが、それで相手を怒らせて囲まれたりしたら、馬鹿丸出しだしな。
     相手は少なくとも50人以上はいる。今度捕まったら、もう逃げられないだろう。最悪、その場で殺される可能性もある。
     やはりこのまま同じ作業を繰り返して、後は監視班に任せるのが最善策だろう。俺たちがわざわざ今、何か行動する意味も意義も無いし、不用意な行動を採れば、街の人間がいたずらに、危険にさらされるだけだからな)
     砦内の廊下を進み、階段を1つ、2つ降り、食堂へと進む。
    (だが、本当にこのまま監視だけしてて、親父はどう思うだろうか? 『いくらなんでも消極的すぎじゃないか?』とか思われたりしないかな。
     ……いや、親父がそんなこと言うわけないな。こう言う時は多分、『無理してまで前に進むな。できることだけやればいい』って言うだろうさ。俺も同感。しなくてもいい無理をして、後で辛くなったら、そこで挽回なんかできやしないからな。
     無理は、するべき時にするさ)

     食堂に着き、ハンは室内を見回す。
    「誰かいるか?」
     そう尋ねつつも、内心では返事を期待してはいない。
    (もう皆、寝てるだろう。マリアとかならまだ、のんびり茶でも飲んでるかもと思ったが、流石にいないか)
     厨房を覗くが、やはり誰の姿も見当たらない。
    (まあいい。それなら気楽だしな)
     かまどに置いてあった鍋からスープをよそい、パンを一切れ、二切れ皿に取り、がらんとした食堂の端の席に座って、食事の前で頭を垂れる。
    「そんじゃ、いただきます」
     挨拶し、頭を上げた瞬間――ハンの視界が、真っ暗になった。
    「……おい、何だよ。誰だ?」
     すぐに、自分の顔にひんやりとした、柔らかいものが当たっていることに気付き、冷静を装って尋ねる。
    「誰だと思いますー?」
     背後からかけられた女性の声に、ハンは呆れた口ぶりで答える。
    「マリアだろ。
     ……ん? でもお前、こんなに手、ちっちゃかったか? それに槍使いにしちゃ、ぷにぷにだぞ。訓練、さぼってるんじゃないだろうな?」
    「はずれでーす。声はあたしですが、手の方はー」
     顔から手が離され、ハンはくる、と振り返る。
    「わたくしです」
     そこには、クスクスと笑うクーの姿があった。
    「なんだ、君か。どうした?」
     尋ねたハンに、クーは一転、ぷくっとほおをふくらませる。
    「もう少し反応して下さってもよろしいのでは? 多少なりとも驚かせられたのではと、わたくし期待したのですけれど」
    「そりゃ驚いたさ。反応してないように見えるのは、訓練の賜物ってやつだ。想定外の事態にも、冷静に対処できるようにってことでな」
    「もう、つまらない方ですこと」
     つん、と顔をそらしたクーに、ハンはもう一度尋ねた。
    「それで、クー。何か俺に、用があって来たんじゃないのか?」
    「用が無ければ、声もかけてはいけないのかしら?」
    「ん、いや、そう言うわけじゃないが……」
     しどろもどろになるハンを尻目に、クーは彼の正面の席に座る。
    「お一人で寂しく晩餐(ばんさん)を召し上がっていらっしゃるのではないかと存じましたので、こうしてお話などして、場を温められればと」
    「ああ、そうか、うん。マリアも?」
     マリアもクーの横に座り、こくんとうなずく。
    「クーちゃんに誘われましてー」
    「流石に殿方と一対一と言うのは、不安ですから」
     そう言ってマリアの腕を取るクーに、ハンは肩をすくめる。
    「気にしすぎだ。君が思うようなことを俺がすることは、絶対に無い」
    「断言されても、それはそれで無礼に思えますけれど。わたくしに魅力が無いと仰られているようにも取れますし」
    「じゃあ、どう言えばいいんだ?」
     そう返したハンに、クーはいたずらっぽく笑って見せる。
    「わたくしの口から申し上げるよりも、あなたがご自分で懸命に考えて下さる方がわたくし、楽しく感じますわね。
     次回の回答に期待しておりますわ」
    「何だよ、それ……?」
     翻弄してくるようなクーの言葉に、ハンはただただ憮然とするばかりだった。

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    琥珀暁・古砦伝 3

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第90話。
    現役と古豪。

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    3.
     マリアたちが話している一方、ハンは砦の屋上で一人、ノースポートを単眼鏡で監視していた。
    (動きが無い。……と言うのは、非戦闘員なら、まあ、嬉しいことだろう。襲われなくて済むんだからな。だけど俺たちみたいな軍の人間にとっちゃ、手の打ちようが無くて面倒なんだよな。
     せわしなく襲い掛かってきたり、門前に出て守りをがっちり固めてきたりしてくるんなら、対応のしようはいくらでもある。だが奴ら、門を閉ざしたっきりで攻めも守りもせず、何の行動にも出て来ない。
     こうして離れたところから様子を伺っても、壁を登って様子を見に行っても、あいつら何にも動きを見せてこない。
     参ったね、どうも。こっちが勝手にうろうろ歩き回って、勝手に消耗してる気分だ。親父の現役時代みたく、バケモノ追い回したり追い回されたりしてる方がまだ、気が楽ってもんだろうな)
     単眼鏡から目を離し、ハンはその場に座り込んだ。
     と、誰かがはしごを登ってくる気配を感じ、ハンは声をかける。
    「誰だ? シェロか?」
    「誰だって言われても、お前さん、俺の名前なんぞ知りゃしないだろ」
     部下の誰でもない声でそう返され、ハンは面食らう。
    「なんだって?」
    「一応名乗るが、ロウ・ルッジなんて名前にゃ、心当たりなんて無いだろ?」
    「ああ、まあ。無いな」
     応答している間に、声の主が姿を現した。
    「でも顔は覚えてる。ノースポートで暴れ回ってたなってことは」
    「おう」
     ロウはハンの対面に座り、酒瓶を差し出した。
    「飲むか?」
    「いや、一応今は、仕事をしてるから。気持ちだけ受け取っておく。
     で、ルッジさんだっけ。用はそれだけか?」
     そう尋ねたハンに、ロウは「いや」と答える。
    「あの街の人間だからよ、今どうなってんのかってことは、ずーっと気になってる。
     だけどもお前さん、『イッパンジンは近寄るな』つって、砦から出してくれねーだろ?」
    「そりゃそうだ。いくらあんたの腕っ節が強いからって、相手は武装した集団だ。一人でノコノコ近付いてってもしあいつらが出てきたら、また袋叩きにされて捕まるぞ」
    「違いねえな。ま、そこは納得してるからよ、ここで眺めさせてもらおうって話だ」
     そう聞いて、ハンは単眼鏡をロウに差し出す。
    「使うか?」
    「ありがとよ」
     ロウは単眼鏡を受け取って立ち上がり、街の方へ顔を向けた。
    「そう言やお前さんの名前、シモンだったっけ」
     そのまま尋ねられるが、ハンは素直に応じる。
    「そうだ。ハンニバル・シモン」
    「シモンって、ゲート・シモン将軍の?」
    「親父だ」
    「そうか。あの人の息子か」
     その言葉に、ハンはきょとんとなる。
    「知ってるのか?」
    「軍がまだ『討伐隊』って名前だった頃、何度か一緒に戦ったことがある。もっともゲートさんは、俺のことなんざ覚えちゃいないだろうがな」
    「どうだろうな。親父は『共に戦った人間は忘れない』っていつも言ってたし、案外あんたのことも、覚えてるんじゃないかな」
    「だったら嬉しいがね」
     ロウはもう一度しゃがみ込み、ハンに単眼鏡を返した。
    「どうもな」
    「ああ」
     ハンは単眼鏡を受け取り、懐にしまいつつ、逆にこんな質問をする。
    「ちなみに階級は?」
    「一応、曹官なんてご大層なもんを付けてもらったが、性に合わなくってよ。
     そん時の上官に『これからは部下も付くぞ』なんて言われたからよ、『勘弁してくれ。俺は一人がいい』っつって、街に帰ってきたんだ」
    「損したな」
    「損なもんかい。街じゃ『討伐隊の英雄』って持てはやされたし、性に合う仕事をボチボチやりつつ、それなりに食っちゃ寝って具合な生活も確保できたし、言うこと無しってやつさ。
     むしろ故郷からずっと離れて毎日早寝、早起きを強制される生活の方が、俺にとっちゃよっぽど損だぜ」
     そううそぶくロウに、ハンは苦笑いを返す。
    「そんなもんかね」
    「ま、人によりけりって話だ。きっちりした生活がいいってヤツも大勢いるし、俺はそいつらを否定しない。代わりに俺の生活も否定したりすんなってことさ」
    「ああ。人によりけり、だからな。
     俺の部下にも一人、『のんびり食っちゃ寝生活ってしてみたいんですよー』とか言ってる奴がいるからな、約一名。
     俺がそんなタイプじゃないから、気持ちは分かるとか、そう言うことは言えないが」
    「あの『猫』ちゃんかい?」
    「その『猫』ちゃんだ」
     ハンがそう答えた途端、ロウはげらげらと笑いだした。
    「だろうな。そんなタイプだ」

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    琥珀暁・古砦伝 2

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第89話。
    双月世界の「魔法」と「魔術」。

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    2.
     食事と会議が終わった後、ハンを除く測量班の3人は、クーと話をしていた。
    「クーさん、いくつか質問してもいいですか?」
     そう切り出したビートに、クーはにこりと笑って応える。
    「構いませんわ」
    「あの、さっきマリアさんに渡してたハンカチ、魔術をかけてましたよね?」
    「ええ。ご覧になっていたのですね」
    「はい。それで、あの時なんですけど、魔術を3つ、同時に発動させてましたよね?」
     ビートにそう尋ねられ、クーは「あら」と返す。
    「お気付きでしたのね」
    「軍では魔術兵として鍛えられてきましたから、それなりに心得はあります。
     その経験から言って、あれはそんな簡単にできるようなものではないと、僕には分かってます。只者じゃないですよね、クーさん」
    「いえ、そんなことはございませんわ。教われば誰にでもできることですから」
     謙遜したクーに、ビートはぶんぶんと首を横に振った。
    「いやいや、そもそも『教わる』機会自体が無いんですってば。
     僕、9歳の頃に軍の訓練学校入って、それから卒配まで6年、ずっと魔術を教わりましたけど、一度に複数の魔術を発動させるような方法なんて聞いたことありませんし、きっと教官たちですら知らなかったはずです。
     一般人が魔術を習う機会なんて、訓練学校入るかどこかの工房行くかしかありませんが、そのどちらでも、そんなに高等な魔術を教わることは、まずありません。
     クーさんは一体、どこで魔術を学んだんですか? いえ、尉官から釘刺されてますし、あまり言いたくなければ、これ以上は聞きませんが」
    「えっと……」
     クーは困ったような顔を見せ、たどたどしく答えた。
    「そうですわね、確かにその、わたくしが使ったあの多段発動術ですとか、街で使った潜遁術ですとか、そう言った魔術は、……えっと、確かにですね、あまりと言うか、まったくと言うか、市井に広まっている類のものではございませんわね。
     その、……わたくしは父上から教わったのですけれど、父上は、何と言うかその、魔術の専門家と言うか、大家と言うか、……ええ、そう、ですから他の方よりお詳しくて、えっと、あまり一般的でない使用法についても存じていらっしゃると言うか、ええと、研究していらっしゃるのです」
    「はあ……」
    「そうなんですか」
     どことなく要領を得ないクーの説明に、ビートもシェロも、揃って首をひねる。
     そして、輪をかけて理解していないであろうマリアが、ひょいっと手を挙げる。
    「はいはーい」
    「どうされました?」
    「じゃあクーちゃんって、魔法使いなんですねー」
     満面の笑みでそう言ったマリアに、ビートもシェロも、苦い顔を向ける。
    (……マリアさん、何で今更、ソコなんスか)
    (それは今、重要な問題じゃないんですが。……と言うか)
     ビートも手を挙げ、マリアの指摘を訂正する。
    「『魔法』と言うのは的確な表現じゃないです、マリアさん」
    「ふぇ? どーゆーこと?」
    「『魔法』と言うその言葉は山の南から伝わったものですが、そもそもその表現を使ったのはモール氏、つまりこの世で――陛下と双璧を成す――最高かつ最強の存在です。
     モール氏と陛下は確かに『魔法(Magic Law)』を使えます。それはまさに『法則(Law)』、つまりこの世の理(ことわり)そのものを直に動かす御業(みわざ)なんです。
     一方で僕たちが使うのは『魔術(Magic Arts)』、即ちその法則の下で使用する、単なる『技術(Arts)』なんですよ。
     ですからクーさんを『魔法使い(Wizard)』と呼ぶのは的確じゃありません。『魔術師(Magician)』と呼ぶべきです」
    「……う、うーん? えーと、……えーと?」
     ビートの説明を、マリアはまったく理解できていないようだった。
     その反応を見て、ビートも説明を諦めたらしい。
    「……いいです、もう。
     とにかくクーさんは『魔術師』です。それだけ分かって下さい、マリアさん」
    「う、うん。それで……、いいのかな、クーちゃん?」
    「ええ、わたくしは魔術師ですわ」
     クーは先程と同様に、にっこりと皆に微笑みかけた。

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    琥珀暁・古砦伝 1

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第88話。
    古い砦で。

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    1.
    「状況は?」
     尋ねたハンに、マリアは首をコキコキと鳴らしながら答える。
    「変わりないですねー。門は閉じたままですし、中から人が出て来る様子も無いですし」
    「相手の動きは全く無し、か」
    「そうですねー。……あれ? 尉官、登らないんですか?」
    「いや、一旦全員で会議しようと思ってな。今後の監視体制について」
    「今後って言えばー、本営からは何か、連絡ありました?」
     マリアの方から尋ねられ、ハンは小さくうなずく。
    「ああ。このまま何も無かったら戻ってこい、と。
     既に監視班もこっちへ送られてるらしいから、状況がこのままならそいつらと交代して、……って感じになる。
     そこら辺の伝達も兼ねて、会議で話そうと思ってた」
    「あらー、そうでしたか。
     でも、よーやく帰れますねぇ」
     そう返したマリアに、ハンはもう一度、今度は大きくうなずいて返した。
    「ああ。ただでさえ測量で3ヶ月もうろつき回ってたってのに、さらにここで足止めされたからな。いい加減、家が恋しいよ」
    「同感ですねー。こっちのお魚もすっごく美味しいですけどー、そろそろクロスセントラルで山海焼き食べたいですもん」
    「お前、本当にあれ好きだよな。
     と言うか、超肉食系だよな。イーストフィールドでもステーキ3枚、ぺろっと行ってたし」
    「この仕事、ガッツリ食べなきゃやってらんないじゃないですかー」
    「ま、そりゃそうだ。俺も親父から良く言われたよ、『食える時に食ってないといざって時にキツいぞ』って」
    「尉官はもうちょっと筋肉付けた方がいいですよー。痩せすぎです」
    「そうか? 腕とか腹筋とか、しっかりしてると思うんだけどなぁ」
    「顔が問題です。ほっぺた、こけてますし」
    「これは生まれつきだ」
     話の内容が堅い状況確認から緩い雑談に変わってきたところで、廊下の向こうからビートとシェロが現れた。
    「マリアさん、お疲れ様です。もうご飯できてますよ」
    「おつかれっスー」

     ノースポートを脱出したハンたち測量班一同は、村人たちと共に西の古砦へ移り、そこに建てられた監視塔から、街の監視を交代で行っていた。
     とは言え事件の発生から数日が経つも、正体不明の侵略者たちの動きはこの間、全く無く、一同は街を単眼鏡で遠巻きに眺めるばかりの毎日を続けていた。
    「本日もご苦労様です、マリアさん」
     白い少女、クーからお茶を差し出され、マリアは口をもぐもぐとさせたまま受け取る。
    「ありがとうございますー、……んぐ、んぐっ」
    「……いつも思うが、マリア」
     それを眺めていたハンが、苦々しい声を漏らす。
    「ちょっとくらい、綺麗に食べる努力をしようか」
    「えー、綺麗に食べてますよー、ほら」
     そう言って空になった皿をぺらっと見せるマリアに、ハンは頭を抱える。
    「そうじゃない。食べ方が汚いと言ってるんだ」
    「そですか?」
     きょとんとした顔になるマリアに、測量班一同とクーは揃ってうなずく。
    「言っちゃ何ですけど汚いっス」
    「たまーに欠片、飛んできますよね」
    「お召し物にもお汁、飛んでらっしゃいますわね。点々と」
    「あうー……」
     顔を真っ赤にし、慌てて服の食べカスを払うマリアに、クーがクスクスと笑いながらハンカチを差し出した。
    「はい、マリアさん」
    「えっ、……いやー、あの、汚れちゃいますし」
    「お気になさらず。汚れを拭うためのものですから」
    「あっ、はい、……どーも」
     素直にハンカチを受け取り、服を拭くマリアを見て、シェロが噴き出す。
    「ぷ、くくく……」
    「……なによー」
     一転、ほおをふくらませるマリアに、シェロは笑いをこらえつつ、こう返す。
    「いや、いつものマリアさんらしくないなって。
     尉官や俺たちが相手だったら、こーゆー時『全然気にしないで下さいよー』とか言って、強情張るのになーと思ったんスよ」
    「そ、そっかなー」
     服を拭き終え、ハンカチを返そうとしたマリアを見て、ハンがまた、苦い顔をした。
    「汚したハンカチを返すなよ。ドロドロじゃないか」
    「あ、……ホントだ、すみませーん」
     マリアがハンカチを引っ込めようとしたところで、クーがそれを手に取る。
    「お気になさらず。これくらいなら……」
     そう返しつつ、クーはぼそっと何かを唱える。
     途端に、ハンカチに付いていたトマトの汁は、綺麗に消えてしまった。
    「……すごい」
     成り行きを眺めていたビートが、驚いたような声を上げる。
    「なにが?」
     尋ねたシェロに、ビートが小声で返す。
    「汚れの分解と乾燥と――あとついでに生地のシワ伸ばしも――一瞬でやっちゃったよ、あの子。
     魔術が同時発動できるなんて、聞いたこと無い。なのにあの子、3つも同時にだなんて」
    「……何が何だか分からんが、すごいってことか」
    「う、うん。そう言うこと」
     二人が目を白黒させている間に、クーはすっかり綺麗になったハンカチを、腰に付けていたポーチにしまいこんでいた。

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    イラスト;黄晴奈(蒼天剣)

    イラスト練習/実践

    ボチボチ、天狐ちゃん以外の「双月千年世界」のキャラも描いていこうと思います。
    まずは第一作「蒼天剣」の主人公、黄晴奈から。

    線画版。


    最近の僕のツイッター見てる人は、僕がここ数週間、晴奈描くのに試行錯誤してたのをご存知かと思います。
    本日ギリギリに至って、どうにか満足できるレベルのものが制作できたので、こちらにアップしました。
    前2作の晴奈が可愛くならなくて、四苦八苦していました。
    (それでも、いつもの投稿時間である19:30には、間に合わないませんでしたが……)

    基本的にサムライな感じにまとめていますが、
    脚だけはミリタリーチックなブーツを履かせてます。
    と言うのも、現実的に考えると、草履や雪駄じゃ近接戦闘できないから。
    そんなんで蹴りつけたら、晴奈の脚が事あるごとに折れてしまいます。
    (実際、第6部で折りましたしね)

    髪は長めで、基本的にアップのポニーテールにしてます。こっちもサムライっぽく。
    下ろすと、腰まで届くくらい。
    今回は正面からの図なので見えませんが、後ろから見るとリボンっぽく結んでる設定。
    そのうち、背後からの絵も描きたい。折角、尻尾もあることですしね。



    続いてカラー版。


    基本は本人が好きな色で統一。
    羽織だけ系統が違いますが、これは彼女が属する剣術流派、焔流の色です。



    あと、密かに作っている設定資料から、晴奈の紹介。
    名前黄晴奈 / こう せいな / Seina Kou
    性別・種族・生年
    身体的特徴
    女性 / 猫獣人 / 493年
    髪:黒 瞳:黒 耳・尻尾:白、茶、黒の三毛
    身長:173cm 体重:56kg
    3サイズ:B77、H51、W79
    職業焔流剣士
    「蒼天剣」の主人公。
    火の魔術剣「焔流」の使い手。
    実の妹である明奈をはじめとして、
    色んな年下に慕われる妹思いの「姉キャラ」。

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    琥珀暁・陥港伝 7

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第87話。
    ノースポート脱出。

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    7.
     町民たちがなだれ込んできたのを見て、門前に陣取っていた敵が目を丸くする。
    「***! ***!」
     雰囲気から、どうやら「止まれ」と言うようなことを叫んでいるらしいが、いつの間にか魁(さきがけ)に立っていたハンが、それをかき消すように叫ぶ。
    「皆、止まるな! 全速力だッ!」
     それに応じるように、マリアが敵に向かって駆け出す。
    「とりゃーッ!」
     槍をぐるんぐるんと振り回し、その勢いのまま、槍の腹を敵のほおに叩きつける。
    「***~……っ」
     槍に引っ叩かれ、敵は歯を1本、2本と吐き出しながら、門の前から吹っ飛んでいく。
    「もいっちょお!」
     槍の勢いをまったく衰えさせないまま、マリアは2人目も弾き飛ばす。
    「**……!」
     それを見た3人目がいきり立った様子を見せたが、武器を構えるよりも前に、ハンがその懐に入っていた。
    「やらせんッ!」「**!?」
     ハンのタックルを食らった敵は門に叩きつけられ、そのまま気を失う。
    「よし、排除! 後ろは!?」
    「クリアっス!」
     シェロの返事を受け、ハンは門の閂を外す。
    「開いたぞ! 急げ、急げ、急げ!」
     開かれた門を、町民たちが勢い良く駆け抜けていく。
     大部分が逃げたところで、殿(しんがり)にいたビートの声が聞こえてくる。
    「敵、来てます!」
    「急げーッ!」
     町民全員が出たところで、ハンが門を閉じる。
    「頼んだぞ、マリア!」
    「りょうかーい!」
     一人残されたマリアは閂をかけ、横の壁に向かって走り出す。
    「***! ***! ***!」
     同時に敵の集団が角を曲がり、怒涛の勢いで迫ってくる。
    「よーい……、しょーっ、と!」
     マリアは3メートル近い垂直の壁を軽々と駆け上り、空高くジャンプして、そのまま壁の向こうへと消えていった。
    「*****ーッ!」
     敵集団は勢いを殺せず、次々と門にぶつかっていく。
     どうにか衝突を免れた者たちが仲間をかき分け、門を開けるも――。
    「……***!」
     町民の姿は、既にどこにも見当たらなかった。



    「助かったよ、クー」
     追跡を諦めたらしく、敵が正門を閉ざしたところで、ハンたちと町民らが姿を現す。
    「お礼には及びませんわ。当然のことをいたしたまでですので」
     クーが提案した作戦は、彼女が得意とする潜遁術――「インビジブル」を活用したものだった。
     彼女の術により、ハンたちは姿を消したまま、壁を越えるはしごの調達や逃走経路の確保が行えた上に、堂々と町民の側まで近寄り、ロウを始めとする元手練の協力を得ることもできた。
    「……でも」
     と、ビートがけげんな顔をしている。
    「クーさん、どこでそんな術を学んだんですか? 僕も軍で魔術教わりましたけど、そんな術、見たことも聞いたことも無いのに。
     それにそもそも、これだけ大量の人間を一度に隠せるなんて、並の魔力じゃ絶対できないですよ。クーさんは一体、何者なんですか?」
    「えっ、……と」
     素性を尋ねられ、クーは困った顔になる。
    「それについては、その……、詳しいことは申せません」
    「だそうだ」
     見かねたハンが、話に割って入る。
    「言いたくないって話を無理に聞く必要は無い。そうだろ?」
    「そ、そうですね。すみません、クーさん」
    「い、いえ。こちらこそ申し訳ございません、ビートさん」
    「あ、いや、そんな、全然」
     二人してぺこぺこ謝り合うのを見て、マリアがクスクス笑う。
    「もー、二人ともおっかしー」
    「えー……」「そ、そうですか?」
     周囲を含め、ひとしきり笑い合ったところで、ハンが手を挙げる。
    「もうそろそろ、日が暮れる時間だ。このままこんな野外に留まっていたら、折角逃げられたのに体を壊しかねない。
     ちょっと辛いかも知れないが、皆で西に移動しよう。1時間ほど歩いたところに昔、バケモノ討伐に使ってたって基地がある。そこなら200人全員、問題無く収容できるだろう」
    「あら、お詳しいですのね」
     そう返したクーに、ハンは肩をすくめて返した。
    「元々それが、俺たちの仕事だからな。
     本当、今日は柄にも無いことばっかりしたもんだよ」
    「ほんとですよねー」
    「まったくっスよ」
    「すごく疲れました」
     揃って気の抜けたことを言う英雄4人を囲み、町民たちはまた笑っていた。

    琥珀暁・陥港伝 終

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    琥珀暁・陥港伝 6

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第86話。
    ロウの逆襲。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     日は既に傾きつつあり、広場に集められた町民たちの中には、明らかに消耗した様子の者も少なくなかった。
    「はぁ……はぁ……」
     その中の一人が顔を真っ青にし、倒れ込む。
     それを見て、彼らを囲んでいた一人が、良く分からない言葉でわめき出す。
    「*******! **! **!」
     その虎獣人は倒れた老人に駆け寄り、持っていた棍棒を振り上げる。
     と――二人の間に、顔があざだらけになったロウが立ちはだかる。
    「おい、コラ! 何する気だ!?」
    「*****!? **!」
     虎獣人はわめきながら、ロウに向かって棍棒を振り下ろした。
     が、ロウはお構い無しに虎獣人の懐へと突っ込み、肩から勢い良くぶつかる。
    「**っ!?」
     虎獣人はそのまま突き飛ばされ、ごろごろと転がっていく。
    「どうだ、ちっとは効いたかこの野郎!」
    「***!」
     しかし他の者がわらわらとロウへ集まり、彼を袋叩きにする。
    「うぐっ、がっ、ぎっ、……げほっ」
     四方八方から殴られ、流石のロウも膝を付く。
    (畜生、こいつら数でガンガン小突き回しやがって……!
     一対一ならこんなヤツら、余裕でボコボコにしてやんのになぁ、クソっ)
     ロウが血まみれになって倒れたところで、ようやく打擲(ちょうちゃく)の手が止む。
     彼らが離れ、元の位置に戻ったところで、ロウは倒れていた者に声をかけた。
    「ゼェ、ゼェ、……大丈夫か?」
    「い、いや、それはこっちのセリフだろ。……大丈夫だよ、ロウ。横になったら大分楽だ」
    「おう、そっか」
     ロウはごろんと仰向けになり、歯ぎしりする。
    「あー……ッ、ムカつくぜ。
     俺が海の上で捕まったりしなけりゃ、アイツらの3、4人は……」
    「仕方無いさ、ロウよ。漁はお前さんの日課だからなぁ」
    「はぁ、情けねー……」
     苛立ちつつも――騒げばまた袋叩きに遭うため――ロウは黙って、そのまま大の字になっていた。
     と――とん、とんと自分の腕を指で突かれるような感触を覚える。
    「ん?」
     上半身を起こし、きょろきょろと辺りを見回すが、特に何も見当たらない。
    「どうした、ロウ?」
    「いや、……何でも」
     もう一度寝転んだところで、またとん、とんと腕を突かれる。
     それと同時に、ぺた、と腕に紙が貼られた。
    (何だぁ……?)
     はがして頭上に掲げると、その紙にはこう書いてあるのが確認できた。

    「助けに来た 合図したら暴れろ」

    (……は?)
     何のことか分からず、ロウはもう一度上半身を起こし、辺りを伺う。
     と、自分と同様に、小さな紙を握りしめながらきょろきょろと首を動かす者が、何人かいることに気付く。
    (他のヤツらにもコレが……? 何が何だか分からんが、……合図だと?)
     もう一度紙に視線を落とした、次の瞬間――頭上でドン、と爆発音が轟いた。
    「**!?」
    「*! *!」
     音に驚いたらしく、囲んでいた者たちが一様に上を仰ぎ、騒ぎ出す。
    (……っと、合図ってコレか!?)
     ロウは瞬間的に立ち上がり、まだ上を向いたままの敵に向かって駆け出す。
    「……っ!?」
     完全に虚を突かれたらしく、その熊獣人はロウのパンチで簡単に吹っ飛ぶ。
    「どーだこの野郎! ……よっしゃ、得物いただき!」
     ロウは熊獣人が落とした棍棒を拾い、他の敵に向かって駆け出す。
     と同時に、同じ指示を受けたらしい他の町民たちも、一斉に敵へ襲いかかった。
    「おりゃああああッ!」
     ばこん、と痛々しい音を立て、敵の顔に棍棒がめり込む。
    「**!? **! ***!」
     突然の蜂起で目を白黒させている敵を次々に叩きのめし、ロウは雄叫びを上げる。
    「よくも好き放題やりやがったなてめーらああああッ! 全員血祭りに上げたらああああッ!」
    「……っ」
     町民たちの反撃に加え、ロウの吼えるような怒声に怯んだらしく、敵の包囲が目に見えて緩む。
     それに乗じるように、どこからともなく声が響いてくる。
    「全員正門へ向かえ! 近くに動けない奴がいたら、助けてやってくれ! 繰り返す、正門へ急げ!」
     5人目の敵を打ちのめしたところでその声を聞き、ロウは後ろを振り返る。
    「じいさん! 歩けるか!?」
    「ちょ、ちょっと無理……」
    「分かった!」
     ロウは真っ二つになった棍棒を投げ捨て、老人を背負って駆け出す。
     他の町民らも正門へ向かって走り出し、広場は倒れた敵だけになった。

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    琥珀暁・陥港伝 5

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第85話。
    出会い。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     静かに壁を越え、街の中に入ったところで、尉官が無言でマリアの手を引く。
    (どこかに隠れよう)
    (了解でーす)
     二人はさっと身を翻し、近くの民家に滑り込む。
    「……よし。誰にも気付かれてなさそうだ」
    「どうしましょ? はしごは無さそうですけど」
    「ロープなんかはどうだろう」
     二人で家中を探り、壁越えに使えそうなものを探す。
    「……何にも無いな。ただ寝泊まりするためだけの家って感じだ」
    「かまどとか物置とかも無いですよねー? 一応ベッドとテーブルだけはありますけど。
     と言うか鍵すら無かったですよね、この家。びっくりするくらい何にも無いですね。もしかしてここ、物置小屋なんじゃないですか?」
    「外から見た限りじゃ、家だと思ったんだがな」
     そんな会話を交わしながら、尉官はベッドの下を覗き込む。
    「案の定、何にも無いな」
     口でそう言いつつ、尉官はベッドの下に手を伸ばした。
     すると――。
    「ん?」
     わずかながら、ふにっ、とした感触が手に伝わってくる。
     そして次の瞬間――。
    「なななな何をなさるのですかっ、ぶっ、無礼者っ!」
     何も無いはずの空間から突然手が伸び、尉官の手をつかんだ。
    「わわわたくしをどどどどうしどうしようといい言うのですかっ!?」
    「え? は? な、何だ?」
     何が起こっているのか分からず、尉官は面食らう。
    「ててて手を出すと言う言うのならばわわわわたわたわたくし、よよよ容赦いたいたしましませ、にぇっ」
     どもるような言葉の羅列が続いた後、唐突に黙り込む。どうやら舌を噛んでしまったらしい。
    「……えーと、お嬢ちゃん。大丈夫か?」
    「ひっ」
     ベッドの下に姿を現したその長耳の少女は、尉官の腕をつかんだまま、さらに奥へ潜り込もうとする。
     当然、尉官もそのまま引っ張られるのだが――。
    「こっ、来ないで下さい! ててて、手を離して!」
    「いや、君が引っ張ってるんだが」
    「え? ……あっ、あっ、失礼いたしました」
     尉官から手を離し、少女は再度、奥へ潜む。
     それを引き留めようと、尉官はやんわりと声をかけた。
    「言っておくが、俺たちは君に危害を加えるつもりは無い。
     街の人たちを助けるため、道具を探してるところだ。だから出てきてくれないか?」
    「……本当に?」
     ベッドの下から恐る恐る尋ねてきた銀髪の少女に、今度はマリアが答える。
    「本当ですよー。尉官はいっつも青白い顔してるし、大抵しょっぱい表情してますし、パッと見怖い人なのかなーって思ったりしちゃいますけど、実はとっても優しい人ですから、安心して出てきて下さいよー」
    「しょっぱい? 怖い? ……顔がか? 血色のせいか? そんなにか?」
     尉官がそう尋ねるが、マリアは応じず、ベッドの下と同じ目線までしゃがみ込む。
    「あたしはマリア・ロッソって言います。あなたの名前は何ですか?」
    「わたくしはくら、……いえ、クーと申しますわ」
    「クーちゃんですね、よろしくー」
     マリアは顔を挙げ、尉官に促す。
    「ほら、尉官も自己紹介して下さい。いきなり『出てこい』とか言っても、怖がらせちゃいますよ?」
    「それもそうだな」
     尉官も再度しゃがみ込み、クーに自己紹介した。
    「俺の名前はハンニバル・シモン。階級は尉官だ。周りからはハンって呼ばれてる。
     この街には元々、測量目的で訪れたんだが、変な奴らが街を占拠してるのに気付いて、それで町民を解放するため、街に忍び込んだんだ。
     どうだ? これで納得してくれたか?」
    「……クスっ」
     小さく噴き出すような声を挙げ、クーがベッドの下から這い出てきた。
    「ええ、納得いたしました。確かに悪い方では無さそうですわね。
     先程のことも――わたくしが姿を消していたことですし――不可抗力だったとしておきましょう」
    「先程?」
     尋ねたハンに、クーは顔を真っ赤にする。
    「あ、あなた、うら若き乙女に、あの状況をつぶさに説明しろと仰るのかしら?」
    「あの状況と言われても、何が何だか」
    「わっ、分からない方ですわね。あなたわたくしの胸を、……いえ、……何でもございませんわ。もう水に流しますから。もうお聞きにならないで下さいませ。
     ええと、ともかくあなた方は街の方々を助けに来られた、と言うことでよろしいのかしら?」
    「そう言うことだ」
     ハンがうなずいたところで、クーは窓の方をチラ、と眺める。
    「わたくしも昨日この街を訪れたばかりですので、あまり詳しい地理は存じ上げないのですけれど、この家を出て左に少々進んだところに、宿がございますわ。
     宿であれば、少なくともこの家よりも何らかの設備があるのではと」
    「なるほど。少々ってどのくらいかな?」
    「そうですわね……、わたくしも動揺しておりましたので正確には申せませんが、3分もかからなかったかと」
    「慌てて3分、か。多分、200メートルも無い程度だろうが……」
     ハンも窓の外にチラ、と目線を向ける。
    「宿までの道ってなると、どこの街でも大体見通しがいい、大通りに出るだろうからな。敵に見つからないように移動するのは難しい」
    「あたしの脚なら、ぱぱーっと……」
     そう提案したマリアに、ハンは首を振る。
    「うまく潜り込めてはしごなり何なりを手に入れたとしても、そこからビートたちのいる壁まで、はしごを持って戻らなきゃならん。結局、目立つ」
    「あ、そっか。……じゃあ宿の方に行く案はまずいっぽいですねー」
    「だな」
     と、二人のやり取りを眺めていたクーが手を挙げる。
    「あの、わたくしに考えが」

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    琥珀暁・陥港伝 4

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第84話。
    町民救出作戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     マリアがびしっと手を挙げ、主張する。
    「決まってます! 町の人たちを助けてあげないと!」
    「それは勿論、そうだ。見捨てるなんて選択は絶対無い。だけどな、マリア」
     尉官は壁にもたれ掛かり、マリアを諭す。
    「壁の上からざっくり見た情報だけでも、敵の数は4~50人ってところだ。しかも全員武装してるし、明らかに俺たちよりデカい。
     対する俺たちは4人。しかも持ってる武器は俺が剣1本と、ナイフ1本。ビートが魔杖1本とナイフ1本。シェロも剣だけ。お前だって槍だけだろ? さらに言えば、防具は無し。
     これじゃ真っ向から行っても返り討ちだ。どう考えても勝ち目は無い」
    「でも、だからって……」
     反論しかけるマリアに、今度はビートが答える。
    「尉官が言いたいのは、助けないってことじゃなくて、僕たちが現状でできるのは何かってことですよ。
     僕たちの総力じゃ敵を全滅だとか追い払うだとか、そう言うのは絶対無理です。現状でできそうなのは、町民を救出することくらいだと」
    「ビートの言う通りだ。
     軍本営に連絡して応援をよこしてもらうって方法もあるが、1日や2日じゃ援軍は来られない。その間に町民が何らかの危険に晒される可能性もある。
     俺たち4人で、今すぐ救出する。そのためにはまず、俺たちに何ができるのか考えよう」
     尉官たちは輪になり、作戦を考える。
    「正門は閉まってた。恐らく裏には敵がいるだろう」
    「どーにかして倒せないっスかね?」
     そう提案するシェロに、マリアが肩をすくめる。
    「あの体格でしょ? 4人で不意を突けば1人くらい行けるかも知れないけど、正門守ってるってなると、多分2人か3人はいるだろーし」
    「それに1人、2人なら壁を越えられるでしょうけど、4人全員でとなると、道具が必要ですね」
     ビートの意見を受け、尉官がこう返す。
    「まず身軽な奴2人で街の中に入って、どこかではしごなり何なり調達して、残り2人も入れる、って流れになるな」
    「入ったとして、その後どうします?」
    「町民を助けるとなると、正門の突破は必須だ。子供や老人もいるだろうから、全員壁を越えさせるのは無理だろうし」
    「やっぱ倒さなきゃダメですかー……」
     げんなりした顔をするマリアに、尉官も頭を抱える。
    「かなり難易度が高いな。……まあ、でも、そうだな。町民を助ければ、突破できるかも」
    「なるほど。ノースポートは100人近く住民がいると聞きますし、数で押すわけですね」
    「それもあるし、軍や、その前身の自警団や討伐隊なんかに属してた人たちが結構移住してるって話も聞く。
     今は囚われてるとは言え、解放すれば少なからず助けになってくれるだろう」
    「でも尉官、どうやって町の人たちを助けるんですか?」
     マリアにそう言われ、尉官はもう一度頭を抱える。
    「……そこだよな」
    「真っ向からはまず無理、ってコトは、やっぱこっちも不意を突く感じになるっスよね」
    「ああ。包囲してる奴ら全員の気を引いて、その隙に町民を広場から連れ出す。後は態勢を整えて、正門を突破する。……ってのが妥当だろう」
    「どうやって気を引くんです?」
    「うーん……、現状じゃこれと言って、いい案は無いな。
     だが街中なら何かしら、陽動に使えそうなものもあるだろう。その辺りは街に入ってから考えた方がいい」
     尉官は立ち上がり、壁に目を向ける。
    「じゃあ、先に街へ入るのは誰にするか、だが。1人は確定だな」
     尉官の言葉に、ビートとシェロが揃ってマリアに目を向ける。
    「ですよねー」
     マリアも猫耳をポリポリとかきつつ、肯定する。
    「後一人はどうします? 尉官たち3人の中だと、ビートが一番体重軽いですよね」
    「じゃあ、僕が……」「いや」
     応じかけたビートを、尉官が制する。
    「身軽なのはいいが、戦力面で問題だ。あんなのに囲まれたら、魔術を使う間も無い。マリアだって槍の名手であることは百も承知だが、囲まれたらやっぱり厳しい。
     2人とも戦闘力がある奴の方がいいだろう。……と言ってシェロも無しだ」
    「え、何でっスか?」
     憮然とした顔をするシェロに、尉官はこう返す。
    「状況によっては戦うより逃げる場合が得策であることもある、……が、それをマリアが見極められるかどうか。
     そしてその状況で、マリアを止められるだけの力がお前にあるか?」
    「……確かに」
    「と言うことは、尉官があたしと一緒に?」
     尋ねたマリアに、尉官は深くうなずいた。

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    琥珀暁・陥港伝 3

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第83話。
    異邦人との接触。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     尉官たち4人は街の外壁側まで移動し、尉官と他2人を足がかりにして、マリアに壁をよじ登らせた。
    「どうだ、マリア?」
     尋ねた尉官に、マリアがぴょん、と壁から離れ、慌てた顔で答えた。
    「まずいっぽいですよ、尉官。街の人たち、縛られて囲まれてます」
    「縛られ、……何? 縛られてる?」
    「後、変な人たちがいます。いえ、短耳の人とか長耳の人たちもちょこっといるんですけど、何て言うか、うーん、変な耳の人たちがいるなーって」
    「変な耳? どう言う意味だ?」
     尉官に尋ねられ、マリアは自分の尻尾をぐにぐにと揉みながら、困惑した表情でしどろもどろに伝える。
    「あのですね、えーと、ほら、山の南の人たちって、狐っぽいって言うか、あたしみたいな猫獣人とか狼獣人の人たちと、ちょっと違う毛並みの人、いるじゃないですか? でも『狼』の人と『狐』の人って、ほら、あの、尻尾の大きさとか、耳のふさふさ感とか、結構似てたりしますよね? でも、あの、中にいる人、あの、街の人を包囲してる人たちがですね、なーんか、そう言うのと全然違うって言うか、丸っぽかったりちょこっとひねりがある感じだったりって言うか、……うーん、尉官が自分で見た方が早いと思いますよ」
    「俺もそう思う。ビート、シェロ、手を貸してくれ」
    「了解」「っス」
     マリアの説明が全く要領を得なかったため、今度は尉官が壁を登る。
    「よっこいしょ、……っと」
     慎重に壁の上へ乗り、尉官は街の様子を確認する。
    (……なるほど。確かにマリアの言う通りだ。何だあれ?)
     街の者たちらしき人間を、毛皮を羽織った者たちが武器を手にし、取り囲んでいるのが見える。
     そしてその者たちの半分は短耳や長耳と言った、尉官たちにも馴染みのある人種だったものの、残り半分は、猫耳に丸みを持たせたようなものや、もっと丸に近い耳を有していた。
    (うーん……、何だっけ? 丸い方の耳って……、例えば、……そうだな、熊? とかそう言う感じの奴だな。
     後、……猫っぽい感じの耳、あれは、……そうだな、こっちは何と言うか、南で見たアレだ。そう、虎って言ってたっけか。尻尾も太いし、縞々だし、似てるな)
     尉官は壁から降り、残りの2人にも見るよう促す。
     2人がよじ登るのを助けつつ、尉官はマリアと意見を交わした。
    「確かに見たことの無い人種だな。着てる服も妙だ」
    「ですよねー……? 武器持ってましたけど、あたしたちみたいな軍人と、何か違う感じもしますし」
    「軍人らしさはあると言えば、ある。茶色い熊耳の、2メートルありそうなデカい奴が上官で、囲んでる奴らが部下って具合だろう」
    「でも尉官、あの人たちが軍人だとして、どうしてこの街を封鎖してるんでしょう? 軍から何か通達とかありましたっけ?」
    「軍とは言ったが、『俺たちの』軍じゃ無いのかも知れない。陛下の影響下に無い、……例えば山の南とかに本拠地がある奴らなのかも」
    「でもあの格好、相当ぬくぬくしてそうですよ。あたし行ったこと無いですけど、山の南って結構暑いんでしょ?」
    「となると、こっち側か。……いや、それでもこの季節にあの格好は暑すぎる。もう5月だしな」
    「よっぽど寒がりとか?」
    「あいつら全員がか?」
     話が世間話じみてきたところで、残り2人も壁から降りてくる。
    「確認しました。僕の意見としては、片方は熊って感じですね」
    「ビートもそう思うか。シェロは?」
    「俺も同意見っス。熊獣人ってコトになるんスかね。もう片っぽは、猫っぽいような違うようなって感じっスけど。
     でもあんな奴ら、初めて見たような……」
    「そうだな、そこが一番の疑問だ。
     お前ら、あんな人種を見たことがあるか? 俺はまったく無い」
     尉官に尋ねられ、3人は揃って首を横に振った。
    「同じく」「全然っス」「僕もです」
     3人の反応を見て、尉官は腕を組んでうなる。
    「とりあえず現状での情報を整理すると、だ。『服も毛並みも見たこと無い奴らがこの街を制圧している』、となるな。
     うーん……、どうするかな」
     尉官は壁に手を当て、もう一度うなった。

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    琥珀暁・陥港伝 2

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第82話。
    呑気な測量班。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     人間の生息圏拡大によって、様々な問題が生じたことも事実である。
     食糧や経済と言った大きく重要なものから近隣住民同士でのいざこざに至るまで、ゼロ降臨以前には考えられなかった様々な問題が、この20年で表出し始めていた。
     勿論、それら諸問題に対して何も対策を講じず、放っておくようなゼロではない。彼の指導の元、大規模な畑や漁場を造ったり、「壁の山」やその南から貴金属を採掘して貨幣を鋳造したりと、彼は以前にも増して忙しなく動いていた。
     とは言え、その全てに介入できるほど、流石の彼も万能ではない。本拠地であるクロスセントラルから遠く離れた地域で問題が発生した場合には、代わりの者を送るようになっていたし、そうした人間を多数育成・準備しておくため、政府や軍も創成していた。



     彼らもそうして設立された軍に籍を置いており、数多くいる「ゼロの代理人」の一人から指令を与えられ、その任務に就いていた。
    「……よし。これで終わりだな」
     彼は測量機材を片付けつつ、離れたところで返事を待つ部下に手を振る。
    「おーい、こっちに戻って来てくれー」
    「はーい」
     軍に身を置く将校や兵士たちと言っても、誰もがバケモノ討伐を命じられるわけでは無い。
     今回彼らに与えられた任務は、山脈の北側地域――後に「央北」と名付けられる地域の、東側海岸沿いの地図を製作することであり、皆一様に、鎧も兜も無い、動きやすい軽装をしている。
    「おつかれさん。……もうこれで、この辺り全部完成だよな?」
    「いえ、まだノースポート周辺が残ってます」
    「ん、……そうだったか? 今までの、見せてくれ」
    「はーい」
     部下から作成した地図の束を受け取り、彼は一枚一枚、つぶさに確認する。
    「……確かに。とっくに終わらせたと思ってたんだが」
    「街だからむしろ、もう終わってるって思い込んじゃった、……って感じですかね」
    「そんな感じだな。
     まあいい。一休みしたらちゃちゃっと行って、すぐ取り掛かろう」
    「了解でーす」

     彼の班4人は測量を行っていた丘の上に座り、遅めの昼食に手を付けた。
    「ノースポート行ったら、ソコで一晩泊まりですかね」
    「ん? うーん……、そうだな。一日じゃ終わらないだろうし」
     うなずいた上官に、他の部下が嬉しそうに笑みを返す。
    「じゃあ晩ご飯と朝ご飯、海の幸食べ放題ですねー」
    「そうだな。俺もがっつり、魚とかエビとか食いたいな」
    「ここから見えるでしょうか、街」
     別の者からそう尋ねられ、彼は街のある方に顔を向ける。
    「単眼鏡使えばギリ、かな。マリア、お前なら無しで見れるんじゃないか?」
    「いやー、あたしでもちょいきついですよ」
     そう言いつつ、マリアと呼ばれた猫獣人は手をかざしながら、街に目をやる。
    「んっ、んー……、やっぱ無理です。黒い粒にしか見えないです」
    「流石に五感バリバリの『猫』でもこの距離は無理か。ほら、単眼鏡」
     彼から単眼鏡を渡され、マリアはもう一度、街を観察した。
    「……ん? んー?」
    「どうした? 単眼鏡でも見えないってことは流石に……」「いや、そうじゃなくてですね」
     マリアは首を傾げながら、単眼鏡を返した。
    「変なんですよね。なんか街の人、広場に固まってて動かないんです」
    「祭りか何かやってんじゃないスか?」
     そう返した同僚に、マリアはぷるぷると首を振る。
    「露店っぽいのも無いし、そもそも特にそんな行事やってそうな時期じゃないでしょ?」
    「それもそうか。尉官、何か見えます?」
     そう聞かれて、単眼鏡を返された彼は、自分でも街の様子を確かめてみた。
    「……うーん。確かに妙な気配がするな。少なくとも楽しそうな雰囲気じゃない」
    「俺にも見せて下さい」
    「ああ」
     単眼鏡を渡し、尉官は仲間たちに尋ねる。
    「どう思う? 不自然に人が集まって動かないって状況、祭りの他に何が考えられる?」
    「話し合いか告知か……、例えば町長が演説してるとか」
    「ソレか、事件ってコトもあるんじゃないっスか?」
    「事件?」
     おうむ返しに尋ねるが、尉官はすぐに首を振る。
    「……いや、ここで何を話し合っても、はっきりしないだろう。さっさとメシ食って、もっと接近してみよう」
    「了解っス」
     部下2人が敬礼したところで、まだ単眼鏡を覗いていた残り1人が「あれ?」と妙な声を上げた。
    「どうした、ビート?」
    「あの、海の方に何か、変な影みたいなのが……」
    「影?」
     単眼鏡を受け取り、尉官も海に目をやる。
    「……なんだ、ありゃ?」
     部下の言う通り、海に黒い影がいくつも浮かんでいるのが、尉官の目にも映った。

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    琥珀暁・陥港伝 1

    琥珀暁 第3部

    神様たちの話、第81話。
    拡がる世界。

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    1.
     時に、人間の行いは奇跡や神業と表現されることがある。

     ただの人間一人には到底成しようの無い偉業を成し遂げ、ただの人間一人にたどり着くことのできない叡智を手にし、そしてただの人間一人では決して得られない未来を掴み取る。
     一人では何も成せず、たどり着けず、獲得できなかったとしても、そうした人々が同じ目的の元に集まり、揃って力を奮い、互いに知恵を絞り、偏(ひとえ)に勇気を持って挑むことで、できなかった「何か」ができるようになる。
     人類の歴史は一人で築いたものではなく、無数の人間の協力と連携、共存によって築かれてきた。即ち人間にとって最も大きな、そして強力な武器とは、「団結すること」なのだ。

     この双月世界においてその真理を誰よりも良く、そして誰よりも早く理解していたのは、紛れもなくゼロ・タイムズその人である。
     彼は己一人が唯一無二の英雄となるようなことを厭(いと)い、己の知識と技術を人々に広く伝えると共に、その人々と同じ目線に立って動き、考え、戦うことで、人々を堅く団結せしめたのだ。
     その体制が10年、20年と続くうち、効果は如実に現れていた。人々は自らの生息圏を少しずつ、しかし着実に獲得していった。それは必ずしもゼロの指示に依るものでは無く、人々が己の心のままに、版図を拡大していったのである。
     かつて無数のバケモノに怯え、逃げ、そして蹂躙されてきた人々は、自らバケモノに立ち向かい、退け、自分たちの生活圏から駆逐していった。それに伴い、人々の心もまた、恐怖や諦観から解放され、新天地や希望に満ちた生活、幸福を次々に求めるようになっていった。

     そして双月暦22年を迎えた頃には、人々は最早「壁の山」を畏れるようなことも無く、かつて跋扈していたバケモノも、お伽話の類として扱うようになりつつあり――また、こうした突飛なことをうそぶくような者さえも、巷に現れ始めていた。



    「例えばさ、ずーっと行ってみたらどうよ?」
     ニヤニヤしながら語る狼獣人に、船に同乗していた短耳が呆れた顔を向ける。
    「ずーっとって、この海をか?」
    「そうだよ。岸も見えなくなるくらい、ずーっと遠くまで。そしたらよ、何かあるかも知れないだろ?」
    「無い無い。干からびて死ぬのがオチだ」
    「んなコト断言できねーだろ?」
     そう反論する「狼」に、短耳は皮肉げに答える。
    「やってみればどうだ? 間違い無くお前、そのまま死ぬだろうけどな。賭けてもいい」
    「おう、言ったな? じゃー俺は何か見付かる方に100クラム賭けるぜ。後悔すんなよぉ?」
    「やりたきゃ勝手にやれよ。でもな、ロウ」
     短耳は釣り糸を海から引き上げつつ、やはり皮肉じみた笑みを向ける。
    「やるなら俺を下ろしてからやれよ? お前と海のド真ん中で心中なんてまっぴらだ」
    「はっは、俺だって勘弁だぜ。
     ……もう今日はこの辺にしとくか。魚籠(びく)一杯だし」
    「だな。今日の稼ぎは、……ま、二人合わせて1千クラムちょっとってとこか。この分なら明日はのんびり寝ててもいいかもな」
    「そうか? 俺は出るつもりしてるが……」
     そう返したロウに、短耳がけげんな顔を向ける。
    「ロウ、何だってお前さん、そんなに海に出たがる? マジで水平線の向こうに漕ぎ出すつもりなのか?」
    「まあ、さっきのは半分冗談だけど、でもいつかやってみたいって気持ちはあるんだよな」
    「……お前なぁ」
     短耳はバカにしたような目をロウに向け、彼の肩をばしっと叩く。
    「沖ばっかフラフラ出てないで、たまにはヨメさん探ししたらどうなんだ? お前もう、結構なおっさんだろうが」
    「そんな気になんねえんだよ。どんな女見たって、ときめかないって言うかさ」
    「……まさかとは思うが、お前、男が好きとか言うんじゃないだろうな?」
     短耳の冗談を、ロウは鼻で笑う。
    「ばっか、ちげーよ。昔見た女が忘れらんねえんだ。
     アレ以上のいい女は、俺ん中じゃどこにもいやしねえんだよ」
    「やれやれ。見た目と違って青臭えな、お前さんは」
     話している間に仕掛けを回収し終え、二人は帰路に着く。
    「とりあえず帰ったらどうする? 朝メシ先に食うか?」
    「いや、風呂に行くよ。昨夜は何だかんだで入りそびれててさ」
    「そうか。……ん?」
     既に岸へ向かってオールを漕ぎ始めていたが、短耳がぎょっとした顔をし、手を止める。
    「どうした?」
    「ありゃ、何だ?」
     そう返され、ロウは短耳の視線の先に目をやる。
     ようやく明るくなり始めた水平線に、わずかながら黒い影がチラホラと浮かんでいるのが、ロウの目にも確認できた。

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    イラスト;虎獣人

    イラスト練習/実践

    3ヶ月ぶり。

    今回も自分の診断メーカー「ケモノったー(ヒロイン攻略編)」で出た結果を元に、イラストの練習。

    今回の結果はこちら。
    https://twitter.com/au_ring/status/904361187810279427
    黄輪さんが攻略するのは青色の髪で、白・赤・茶の三毛になった毛並みのクール系虎っ娘。
    好きなことは絵を描くこと、嫌いなことはツイッターを見ること。
    次の連休に商店街へ誘うと好感度アップ!
    攻略難易度:★★★★★
    #aukemono
    https://shindanmaker.com/718478


    まず線画版。

    クール系と言うことで、金具がガンガン着いたジャケットとミニスカート。
    ちなみにこのタイプのトップス、クルマのドット絵でもちょくちょくキャラに着せてます。
    これとかこれとか。

    そしてカラー版。

    色もクールな感じをイメージして、灰色味の強い紺色で統一。
    アクセントにギラギラした金色を付けてみました。

    さらに背景と、妄想SS京都風。


    先輩に誘われ、朝早くから大手筋まで来た。
    先輩は「街の風景を絵にしたいんだ」と言っていたし、実際、スケッチブックを入れたかばんも足元に置いてある。
    だけど先輩の、真の目的は分かっている。ミスドとかモスとかおやつ村とか回って、食べ歩きするつもりなんだ。
    好きだもんなぁ。分かります。

    https://twitter.com/au_ring/status/952555957015343104

    大手筋は食べ歩きが楽しい商店街です。
    背景で分かる通り、マクドナルドもありますし。
    その他ケンタッキーとか、不二家とか、ドトールとか、なか卯とか、色々……。
    あー、行きたいなぁ。食べ歩きしたいなぁ。

    話は変わりますが、朝一番にミスタードーナツに行くと、感動しますよ。
    揚げたてのドーナツの美味しさは想像以上です。
    口からビーム出るんじゃないかってくらい。
    そらもう、この虎のお姉さんも朝から行こうって気になります。

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    2018年2月携帯待受

    携帯待受

    JAGUAR XJ(X351)

    JAGUAR XJ(X351)

    JAGUAR XJ(X351)  JAGUAR XJ(X351)

    2018年2月の携帯待受。
    ジャガーのXJ。

    昨年の携帯待受、1点だけ心残りがありまして。
    アンケートでどんな色に塗るか募ったところ、
    かなりの偏りが発生してしまいました。
    赤・白・青だけで2/3を占めてしまい、個人的には不満でした。

    とは言え、アンケートの内容を決めたのは、他でも無い自分。
    折角票を投じてくれた皆さんに文句を言うのは筋違い。
    問題があるなら、こちらで勘案するべきことなわけで。

    と言うわけで、今年は1点、ルールを定めました。
    アンケートで一度選ばれた色は、以降は選択肢に入れないことにします。



    次回もカラーに関して、twitterにてアンケートを行う予定です。
    ブログトップページ、もしくはこちらから、私、黄輪のTLに飛ぶことができます。
    よろしければご参加下さい。



    Calender picture application by Henry Le Chatelier

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 16

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第16話。
    さらなる危機。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    16.
    《……そうか》
     電話の向こうから帰って来たミラー局長の声は、ひどく落ち込んでいた。
    「申し訳ありません、局長」
     答えたダンに、ミラー局長が《いや》と返す。
    《君の責任では無い。と言うよりも、責任を追求できる状況には無い、と言った方が適切だろう》
    「……と、言うと?」
    《結論から言おう。
     連邦特務捜査局はその権限と機能を、連邦政府からの命令によって停止された》
    「な、何ですって? 一体、どう言うことなんですか?」
     思いもよらないことを耳にし、ダンは声を荒げる。
    「トリスタンの確保は、元から失敗の危険が大きかったんですよ? 実際に失敗したと言って、それだけで……」
    《その一件だけでは無いのだ》
     そう前置きし、ミラー局長は話を続ける。
    《実は君たちの他に3件、同時に派遣を行っていたのだ。
     君たちが発つ前後、いくつかの事件の捜査進展、もしくは解決に足る情報が入り、君たちも含めて4チーム、合計64名もの人員を合衆国中部・西部に送っていたのだ。
     だが、……君たちの中にスパイがいたことから、おおよその想像は付くだろう?》
    「……まさか」
     ダンの顔から血の気が失せる。それを見越したかのように、ミラー局長が《そうだ》と答えた。
    《結果から考えるに、特務捜査局には相当数のスパイがいたらしい。君たち以外の3チームはすべて消息を絶ち、誰一人として、ワシントンに戻って来ない。
     事態を重く見た司法省は先程、特務局の業務停止を通達した。こっちに残っていた局員は全員拘束され、監視下に置かれている。私にしても、このオフィスに軟禁されている状態だ。
     これまでの実績の低さから鑑みても、復活が認められることはまず、有り得ないだろう。恐らく君たちが成功していたとしても、覆ることは無い。
     特務捜査局は、もう終わったのだ》
    「そんな……!」
    《……スタンハート捜査官。頼みがある》
     と、ミラー局長の声が、これまでより一層、悲痛なものに変わった。

    《私は、君たちに対して一つ、裏切りを犯していた》
    「な、……何です、それは?」
     ごくりと唾を呑んだダンに、ミラー局長が恐る恐ると言った口ぶりで答える。
    《何も、私も実はスパイだったなどと、とんでもないことを言うつもりは無い。裏切りと言うのは、言うなれば、人事に関する操作だ。
     私はある者に身分を偽らせ、特務局の捜査員として入局させたのだ。君たちには、その人物の名前は、サミュエル・クインシーと聞かせていた。
     だが、実際には……》
     続く局長の言葉に、ダンは耳を疑った。
    「……はぁ!? あ、あいつがですか!?」
    《そうだ。
     頼む、スタンハート。あいつを助けてくれないか? 頼めるのは現在拘束されておらず、監視も受けていない君たちだけだ。
     もし引き受けてくれれば、私に出来る限りのことは尽くさせてもらうつもりだ。
     だから、……頼む。あいつがいなくなったら、私は、……私は……!》
    「……」
     ダンは黙り込み、その場にしゃがみ込んだ。
    《スタンハート? どうした?》
    「……俺一人でどうにかなる問題じゃ無いのは、分かってますよね?
     残った仲間の中で動けるのは、俺を除けば2人しかいないんです。それと、パディントン探偵局の奴ら3人。
     探偵局の奴らが手を貸してくれたとしても、6人です。たった6人で、サムを助け出せって言うんですか?」
    《法外な頼みであることは、十分に承知している。成功の可能性は極めて低いだろう。
     だが、私には頼むしか無いんだ》
    「……10分、時間を下さい。相談してきます」
     そこで、ダンは電話を切った。

     アデルたちのいる小屋に戻ってきたダンは、ミラー局長から依頼された内容を皆に話した。
    「……は?」
     当然と言うべきか、全員が唖然とした顔になる。
    「い、いや? どう言うことだよ、それ?」
    「言ったままだ。
     特務局は壊滅した。残った局員は全員、拘束・監視されてる。
     そして生き残った奴でサムを助けてこい、……だとさ」
    「前2つはまだ納得できる。当然の処置だろうからな」
    「だがワケ分からんのは3つ目だ」
    「何でわざわざこの状況で、サムを助けに行かなきゃならないんだ?」
     異口同音に尋ねてくる皆に、ダンは苦い顔を向けた。
    「その、……これも今聞かされて、俺自身もマジかよって思ってることなんだが」
     と、ダンをさえぎり、エミルが口を開いた。
    「あたしは知ってたわよ。サムのこと」
    「え?」
     目を丸くするダンに、エミルがこう続けた。
    「本人から聞いたもの。『事情があるから』って。
     あたしは手を貸すわよ。あの子、助けに行きましょう」
     その一言に、アデルが手を挙げる。
    「お前がやるってんなら、俺も行く。坊やには世話になってるしな」
    「ありがと」
     エミルが笑みを返したところで、ロバートも続く。
    「さっきも言った通りっス。お二人が行くなら俺もっス」
    「と言うわけで、これで3人よ。で、話を聞いたあんた自身は?」
     エミルに尋ねられ、ダンは顔を帽子で覆いつつ、うなずいた。
    「やるよ。事情を聞かされたら、嫌って言えねえよ」
    「その事情って結局、何なんだ?」
     残る2人が尋ねたところで、ダンが答えた。
    「結論から言うぜ。
     サミュエル・クインシーは偽名だ。本名はサマンサ・ミラーだとさ」
    「……え」
    「それって、つまり」
     エミルとダンを除く全員が、驚いた様子を見せる。
     それを受けて、エミルがこう続けた。
    「つまり、そう言うこと。『あの子』は局長の娘なのよ」

    DETECTIVE WESTERN 9 ~赤錆びたガンスミス~ THE END

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 15

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第15話。
    急転直下。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    15.
     一同の間に安心感が漂い始めたところで、エミルが背伸びをしつつ、アデルに尋ねる。
    「何だか疲れがドッと出た感じだし、サルーンにでも行ってご飯食べない?」
    「ああ、そうだな。俺も何だかんだ言って、頭がフラフラしてるんだ」
    「致命傷じゃないとは言え、結構血が出たものね」
    「ってことだからダン、俺たちちょっとメシ食いに行ってくるけど、いいか?」
     アデルにそう頼まれ、ダンは快くうなずいた。
    「ああ。どっちみち、そろそろ交代で休憩って体制にしようかって考えてたところだ。
     あんたたちと、それからハリー、スコット、……あと俺も行くか。先に2時間、休憩に入ろう。で、残りで順々に休憩回すって形で」
    「ありがとよ」
     アデルは左腕を挙げ、そのままエミルとロバート、ダン、そして名前を呼ばれた局員2人を連れて小屋を離れた。



     そして、2時間後――。
    「戻ったぜ、……!?」
     帰って来た6人が、小屋に入るなり硬直した。
    「……なんだ、こりゃ」
     信じられないと言いたげな声色で、ダンがつぶやく。
     小屋の中にいた、アデルやダンたちを除く局員16名が全て、血まみれの死体になって転がっていたからだ。
     いや――。
    「だ、……ダン、……ぶ、じ、だったか」
     まだ息のある者が数名残っていることに気付き、アデルたちは慌てて手当てを試みた。
     それでも生き残ったのはわずか4名だけとなっており、さらには――。
    「……ローも殺されてる。それにディミトリがいない。トリスタンもだ。
     一体ここで、何があったんだ?」
     ダンの問いかけに、どうにか息を吹き返した局員の一人が、弱々しく答えた。
    「あんたたちが、休憩に入って、1時間、くらい、後かな……。
     縛ってたはずの、トリスタンの、様子を見に行った、ライアンが、叫び声、挙げてさ。何だって思って、銃持って、部屋に入ったら、トリスタンの奴が、立ってたんだ。
     床にはライアンが、首折られた、状態になって、倒れてた。やばいと、思ったんだ、けど、全員で撃てば、抑えられるって、思って。
     でもあいつ、俺たちに飛び掛かって、誰かの銃、奪って、その場で乱れ撃ち、しやがったんだ。それでほとんど、死んだ。俺も撃たれた。
     俺たちを倒した、トリスタンは、そのまま隣の部屋、行って、その後、銃声が3、4回、したんだ。見てないけど、多分、ローを、撃ったんだ。
     その時、トリスタンが、しゃべってた、って言うか、怒鳴ってた。『貴様は何の役にも立たぬ』、『生きる価値の無いゴミめ』とか何とか。返事、無かったし、もう、その時点で、多分、ローは、死んでたんだろう」
    「……そうか」
     ダンは帽子を深く被り、局員の肩をとん、とんと軽く叩く。
    「死ぬんじゃねえぞ、フランク。死んだら許さねえからな」
    「分かってる、分かってるさ、ダン。俺が、こんなところで、くたばるかってんだ」

     一方、アデルたちはトリスタンがいた部屋に戻り、床に散らばった鋼線や鎖を調べていた。
    「流石に引きちぎったような感じじゃない。となると、ディミトリが解いたのか?」
    「あいつだって縛られてたのに、んなことできやしないっスよ」
    「じゃあ、一体誰が……?」
     と、エミルが鋼線を手に取り、ぐにぐにと曲げたり、伸ばしたりしつつ、忌々しげにつぶやく。
    「あのクソ野郎、気絶したフリしてたのね」
    「何だって?」
     目を丸くしたアデルに、エミルは鋼線を見せる。
    「何本か、変にたわんだ跡が付いてる。鎖にも血や、手の皮が付いてるところがあるわ。
     縛られる時、隙を伺って一部を握り込んでたのよ」
    「なるほどな。縛られた後で握った部分を離せば、鎖だろうが鋼線だろうが、勝手に緩むってわけか。……くそッ」
     アデルは床の鎖を蹴り、苛立たしげに叫んだ。
    「これで結局、俺たちはA州くんだりまで出張って、十数名も死人を出しただけで終わったってわけか、畜生!」
    「ええ。『証拠品』も消えてる。トリスタンにとっては、被害は利用価値の無くなったスパイを失っただけ。
     あたしたちの、完敗よ」

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 14

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第14話。
    天才ディミトリの傑作拳銃。

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    14.
    「にしても」
     横たわるトリスタンを引き気味に見下ろしつつ、アデルがうなる。
    「これじゃまるで、鉄製の繭(まゆ)だな」
    「当然の配慮さ」
     隣に立っていたダンが、苦々しげに返す。
    「エミルの姐さんから再三、忠告されたからな。『こいつはここまでしなきゃならない相手よ』っつってな」
     トリスタンが気を失っている間に、どうにか生き残った局員たちが総出で周囲から鋼線や鎖を集め、彼をがんじがらめに縛り上げたのだ。
     当然この際に、トリスタンの武装も解除されており――。
    「こんなデカい弾で撃ったら、そりゃ頭もブッ飛ぶっスよねー……」
     隣の部屋では、エミルたちが彼の所持していた武器を検分していた。
    「11ミリって言うと、えーと、何口径くらいなんスかね?」
    「44口径相当ね。人どころか、それこそ野牛でも一撃よ」
     エミルの言葉に、依然拘束されたままのディミトリが嬉しそうにニヤついている。
    「傑作だろ? ウフ、フフ、フフフ」
    「ふん。……それよりあたしが気になるのは、こっちの銃の方ね」
     そう言いながら、エミルはシリンダーの無い、奇妙な形の拳銃を手に取った。
    「そもそも、どこに弾込めるのかから、良く分からないわね。今時、先込め式ってことも無いでしょうし」
    「ああ、そいつ?」
     半ば一人言にも聞こえるエミルの問いに、ディミトリが喜々として食いつく。
    「それはものっすごぉぉぉい発明さ。銃の常識が変わるくらいのね。
     左横のボタンを押してみな。弾倉が出て来る。ガトリング銃みたいなアレさ。ただ、あんな落下式の、安っぽい作りじゃない。バネで持ち上げて機関部に弾を押し込めるようになってる。で、弾倉を入れたら上のトグルレバーを引いて……」
    「ふーん……?」
     説明もそこそこに、エミルはその奇妙な拳銃をかちゃかちゃと操作し、引き金を引く。
     次の瞬間、パン、と音を立てて、弾丸がディミトリのすぐ右にある壁に突き刺さり、彼は顔を真っ青にした。
    「あ、あ、あわっ、あっ、……あんた、マジで僕を殺す気か!? 死んだらどうすんだよ!?」
    「へぇ、次の弾が自動で装填されるのね。空になった薬莢まで勝手に出してくれるみたいだし。なかなか便利ね」
     ディミトリの抗議に耳を貸さず、エミルはその拳銃をあれこれといじってみる。
    「弾倉にはいくつ弾が入るの? 7発?」
    「……ああ、そうだよ」
     憮然とした顔で答えたディミトリに、エミルがまた、拳銃を向ける。
    「な、や、やめろって、マジで」
    「心配しなくても、もう弾、入って無いわよ」
     そう言って、エミルはかち、かちと引き金を引いて見せる。
    「言うなれば自動装填・自動排莢拳銃? ……言いにくいわね。縮めて自動拳銃(オートマチック)ってところね」
    「ああ、僕もそう呼んでたよ。
     使い方に慣れりゃ、ガンファイトが劇的に変わること、間違い無しさ。弾倉を複数持ってりゃ、リボルバーとは比べ物にならないくらいの速さで再装填(リロード)できるからね」
    「そうみたいね」
     エミルは弾の入った弾倉を手にし、自動拳銃に弾を装填する。
    「これ、あたしがガメちゃおうかしら」
    「ダメだって」
     ダンが苦い顔のまま、エミルに振り返る。
    「そいつもM1874も、特務局が押収する。トリスタン・アルジャンおよびディミトリ・アルジャン兄弟の、犯罪行為の証拠の一つとしてな」
    「残念ね。……っと、そう言えば」
     エミルが辺りを見回し、首を傾げる。
    「さっきから見てないと思ったけど、やっぱりいないわね」
     その一人言じみたつぶやきに、アデルが応じる。
    「誰がだ?」
     そう言いつつも、アデルも部屋の中を確認し、アーサー老人の姿が無いことに気が付いた。
    「ボールドロイドさんか?」
    「ええ。ま、元々局長経由で無理言って、こっちに来てもらってたんだもの。イクトミと一緒って言ってたし、これから二人でギルマン確保に向かうんでしょうね」
    「イクトミと、か。……しかし、何でボールドロイドさんとイクトミが、一緒にいたんだろうな? って言うか、いつの間に知り合ったんだか」
     首を傾げるアデルに、エミルも手をぱたぱたと振って返す。
    「あたしにもさっぱり。
     でも、思い当たる節は、あると言えばあるわね。こないだ局長とイクトミがカフェで二人っきりで話してたでしょ? あの時に紹介してもらった、とか」
    「なるほど、そうかもな。……ま、経緯はどうあれ、もう彼がいなくても大丈夫だろう」
     そう言って、アデルは部屋の隅にいるディミトリとローを指差す。
    「二人はあの通りだし、トリスタンも鎖でぐるぐる巻きって状態だ。後は移送場所が決まり次第、そこへ送るだけだ」
    「そうね」

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 13

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第13話。
    子猫と猛火牛の交錯。

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    13.
    「……う……!?」
     アデルは自分の右腕から血煙が上がるのを目にしたものの、それが何を意味するのか、一瞬では理解できなかった。
     だが、ボタボタと滝のように流れる血と、そして右腕から発せられる激痛が、アデルにその意味を、無理矢理に理解させた。
    「……あっ、が、……ぎゃああああっ!」
     こらえ切れず、アデルはその場に倒れ込む。
    「あ……、兄貴ッ!?」
     ロバートが駆け寄ってくるが、アデルに応じる余裕は全く無い。
    「うああ……うあ……いで……え……痛ええ……うあ……ああ……」
     口を閉じようとしても、勝手に悲鳴が漏れていく。
    「ヤバいっスって、これ、血、あのっ、姉御、そのっ……」
     ロバートが顔を真っ青にし、エミルに助けを求めるが、エミルは既にその場にいない。
     その時、エミルはトリスタンに向かって駆け出しながら、弾を撃ち続けていた。
    「Merde! Un salop! Quelle terrible chose tu lui fais!?(このクソ野郎! なんてことすんのよ!?)」
     その間にもトリスタンは、ダンの隣にいたもう一人を撃ち、残った1挺をエミルに向けていた。
    「S'il te plaît, pardonne-moi,mademoiselle(お許しを、お嬢)」
     そして前回対峙した時と同様、トリスタンは7発目の銃弾を発射する。
     しかし――エミルはそれを事も無げにかわし切り、お返しとばかりに2発、反撃した。
    「Je ne suis jamais surpris par un tel tour deux fois,un stupide(そんな手品で二度も驚きやしないわよ、おバカ)」
     流石のトリスタンもこれはかわせなかったらしく、1発は右肩を貫通し、そしてもう1発は額を削り、そのまま倒れさせた。

    「……やった……?」
     地面に伏せていたダンが顔を挙げ、恐る恐るトリスタンに近付く。
    「……ど、……どうだ?」
     拳銃を構えたまま、おっかなびっくりと言った様子でトリスタンの体を蹴り、動かないことを確認し、そのまま二歩、三歩と下がる。
    「……やったぞ!」
     そう叫び、ダンはその場に座り込んだ。
     エミルも一瞬、ほっとした表情を浮かべかけたが――。
    「……アデル! あんた、生きてる!?」
     エミルが振り向いたところで、ロバートが困り果てた声を上げる。
    「あ、姉御、姉御、兄貴が、兄貴が……」
    「……まさか」
     エミルが慌てて駆け寄り、アデルの側に座り込む。
    「バカ! こ、こんなところで、あんな奴のせいで、……そんな……」
    「あー、と」
     と、真っ青な顔をしていたエミルの肩に、とん、と手が置かれる。
    「俺のために感動的に泣いてくれるのはすげー嬉しいが、まだ死んでねーよ」
    「……え」
     むくりとアデルが上半身を起こし、左腕でロバートを小突く。
    「腕を貫通したから心底痛いっちゃ痛いが、指は普通に動かせるし、出血もヤバいってほどじゃない。骨だとか血管だとか、致命傷になりそうなところはそれてくれたらしい。
     だからロバート、お前も泣いてないで、さっさと手当てしてくれ。痛すぎて、マジで気ぃ失いそうだ」
    「へっ? ……あ、兄貴? 生きてるんスか?」
    「死んでてほしいのかよ、てめーは?」
    「いやいやいやいやそんなそんな、んなこと無いっスって! あ、えーと、手当てっスね? すんません、すぐ!」
     ロバートにたどたどしく止血を施してもらいながら、アデルはニヤニヤとエミルに笑って見せる。
    「ほれ、エミル。俺にいつまでも構ってないで、さっさとトリスタンを確保してこいよ。殺したとは言え、奴なら死んでも生き返ってきそうだからな」
    「……そう、ね。一応、縛るくらいのことはしておきましょうか」
     そう言って振り返ったところで、ダンが既に、トリスタンを縛っているのが確認できた。
    「こっちも死んでないみたいだぜ。脈があるのを確認した。気絶はしてるがな」
    「あら? 額を撃ったのに?」
    「それなんだが、骨がちこっと見えてる程度の銃創だ。どうやらかすめただけらしい」
    「……流石に『猛火牛』と言うべきかしら。あたしに反撃されてなお、紙一重でかわしてたのね」
     ため息をつくエミルに、止血を終えたアデルが軽口を叩く。
    「どっちもどっちだな。お前だってトリスタンの最後の1発、ひらっとかわしてたじゃないか」
    「あいつが7発撃てる特殊拳銃を持ってるってことは、前回の時点で分かってたことだもの。今回だって土壇場で使ってくるだろうってことは、予測できてたわ。
     ま、自爆覚悟でM1874を使われてたら、どうなってたか分からないけど」
     そこで3人同時にため息をつき――今回の大捕物は、一応の収束を迎えた。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 12

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第12話。
    三方包囲作戦。

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    12.
     2基のガトリング銃が動き始めたところで、エミルたちも小屋を出る。
    「分かってると思うけど、T字に囲まないようにね。囲むならY字によ」
    「勿論さ。俺たちとあんたたちで同士討ちになっちまうからな。
     じゃ、……気を付けてな」
     ダンたちに背を向け、エミルたち3人は路地を駆ける。
    「ガトリングのおかげで足音は聞こえちゃいないと思うけれど、気を抜かないようにね。ボールドロイドさんも言ってたけど、あいつならこうやって囲むことも、予想するだろうから」
    「了解っス」
     路地の端まで進み、アデルが大通りの様子をうかがう。
    「いるぜ。ビル跡の真ん前に立ってやがる。……ガトリングは当たってねーのか?」
     苦い顔をするアデルの横に立ち、エミルが肩をすくめる。
    「あいつなら当たっても跳ね返しそうな気がするわね」
    「無茶言うなよ」
    「……ま、それは冗談だけど。
     実際、ガトリング銃に命中精度なんか求めるもんじゃないわよ。あれは弾幕を張ることはできても、一発一発を全部目標に命中させられるほど、取り回しは良くないもの」
    「ま、言われりゃ確かにそうだ。デカいビルには当てられても、人間1人だけ狙って撃ち込みまくってみたところで、そうそう当たりゃしないわな。
     その上、周りの瓦礫やら地面やらに着弾しまくってるせいで、肝心のトリスタンが土煙に紛れちまってる。そうでなくでもガトリングから大量に硝煙が上がってるせいで元から視界が悪いだろうし、狙おうにも狙えないってわけか」
     実際、トリスタンにはほとんど命中していないらしく――土煙越しでもそれと分かる程度に――行動不能になるようなダメージを受けた様子は見られない。
     ロバートも2人に続いて覗き込みつつ、不安げに尋ねてくる。
    「で、どうするんスか? このままノコノコ出てきたんじゃ、狙い撃ちされるだけっスよ?」
    「だからこその包囲作戦だ」
     それに対し、アデルが得意げに説明する。
    「左と右、両方から同時に攻め込まれたら、どんな奴だって少なからず戸惑う。その一瞬を突き、3方向から仕掛けられるだけの攻撃を仕掛ける。
     ただ、この作戦でも最悪、誰か1人、2人は犠牲になるかも知れん。それでもやらなきゃ、もっと殉職者が出るか、あるいは逃げられるおそれがある。
     だから、行くしか無いってことだ。覚悟決めろよ、ロバート」
    「……うっす」
     ロバートはごくりと固唾を呑み、拳銃を腰のホルスターから抜く。アデルも小銃を肩から下ろし、レバーを引く。
    「エミル。お前の合図で行く」
    「いいわよ」
     そう返しつつ、エミルも拳銃の撃鉄を起こす。ほぼ同時にガトリングのけたたましい射撃音がやみ、トリスタンが拳銃を上方に構えた。
     その瞬間、エミルが短く叫ぶ。
    「今よ!」
     エミルたち3人は、あらん限りの全速力で路地を飛び出し、大通りに躍り出た。

    「……!」
     トリスタンがエミルたちに気付き、構えた拳銃をエミルたちに向けかける。
     だが振り返った直後、今度は反対側からダンたちが飛び出してくる。
    「っ……」
     わずかながら、トリスタンがうめく声がアデルの耳に入ってくる。
     岩のように動かなかった相手からにじみ出た、その明らかな動揺を感じ取り、アデルは勝利を確信した。
    (獲った……ッ!)
     中途半端な位置で拳銃を掲げたまま、トリスタンの動きが止まる。
     6人は一斉に引き金を絞り、トリスタンに集中砲火を浴びせた。



     だが、その直後――エミルが終始懸念し、警戒し、そして恐れていたことは、決して彼女の杞憂ではなかったのだと言うことを、アデルはその身を以て知ることとなった。
    「……なめるなあああああッ!」
     トリスタンは拳銃を掲げていた右手を、そのまま左側に倒す。
     それと同時に、懐からもう一挺の拳銃を抜き取り、そのまま右側に向ける。
     瞬時に3発、4発と連射し、ダン側の1名と――そしてアデルの体から、血しぶきが上がった。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 11

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第11話。
    活路を見出せ。

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    11.
     まだ戦々恐々としつつも、アーサー老人の極めて冷静な振る舞いに、局員たちの頭も冷えてきたらしい。
    「じゃあつまり、トリスタンは立て続けに攻撃してこれないってことなのか?」
     尋ねたダンに、ディミトリはうなずいて返す。
    「そうだよ。これは僕の経験から来る予測だけども、あの銃は多分、続けて6、7発も撃ったらシリンダー部分が熱膨張を起こし、残ってる弾がぎゅうぎゅうに締め付けられ、一斉に破裂しちまう。そんなことになったら、流石の兄貴でも腕が千切れ飛ぶだろう。
     そもそも弾自体、僕の特製なんだ。そこいらの店じゃ売ってるはずも無い。あんたたちがブッ壊してくれた店の中に、24発あるだけさ」
    「さっきビルから2回、銃声が聞こえたな。それに加えて、こっちは2名やられたし、窓際には2つ銃痕ができた。
     とすると――あいつが外して無い限り――残りの弾は18発ってことになるな」
     いつの間にか、アーサー老人とディミトリを除く全員が円陣を組むように集まり、対策を練り始める。
    「加えて、ディミトリの言葉を信じるとすれば、もう6発撃ってることになるから、銃には相当熱がこもってるはずだ」
    「冷やそうったって、そう簡単に冷えやしないだろう。となれば別の得物で攻撃してこざるを得ないだろうな」
    「おいディミトリ、奴は他にどんな武器を持ってる?」
     アーサー老人に止血を施してもらいつつ、ディミトリが答える。
    「いつも持ってるのは、普通のM1873と、カスタムしたやつの2挺だ。と言ってもこっちは通常の11ミリ×17ミリ弾を使う奴だけどね」
    「となればM1874が使えるようになるまで、その2挺で戦うしかないわけだ」
    「2人やられはしたが、まだこっちにはガトリング銃も、他の武器もある。
     奴の姿が見え次第、もういっぺん総攻撃だ」
    「待って」
     と、エミルが手を挙げる。
    「いくら何でも、こいつの言うことを素直に信用しすぎじゃない?」
    「馬鹿言うな」
     エミルの指摘に、ディミトリが憤った声を漏らす。
    「そりゃ確かに、あんたたちなんかに情報を渡す義理なんか無い。でも嘘ついたら間違い無くあんた、僕を撃ち殺すだろ?」
    「そりゃそうよ。こんな切羽詰まった時に騙すようなクズ、あたしが許すわけ無いじゃない」
    「だから、今まで言ったことは全部本当だよ。
     そもそもガンスミスの僕が、銃に関することでデタラメ言ったりなんかするもんか。その点はプライドがあるからね」
    「じゃ、あんたの言うことが本当だとして」
     そう前置きし、エミルは話を続ける。
    「それでも相手は、あの崩れ落ちるビルの中から生還した上、あの距離から一瞬で2人撃ち殺した奴よ? どんなに警戒したって、しすぎるってことは無いわ。
     二手に別れましょう。半分はここで奴の注意を引き付け、残り半分が左右から囲む。それならどうにか、あのトリスタンを抑えられるかも知れない」
     エミルの提案に、アーサー老人も賛成する。
    「私もその案を推そう。このままここで全員が固まっていては、トリスタンが逃げる可能性もある。そうなればスティーブ君とマシュー君は、ただの犬死にになってしまう」
     二人の意見に、局員たちは顔を見合わせ、揃ってうなずく。
    「分かった。じゃあ、誰が奴の左右に回り込む?」
     再度顔を見合わせるが、誰も答えない。
     眺めていたエミルが、はあ、とため息を付き、手を挙げる。
    「あたしが行く。他には?」
    「じゃ、……じゃあ、俺も」
     続いて、アデルがそろそろと手を挙げる。
    「お二人が行くなら、もちろん俺も行くっスよ」
     顔を青ざめさせつつも、ロバートが続く。
     3人手を挙げたことで、ようやく局員たちも覚悟を決めたらしい。
    「分かった。俺もやるよ」
     ダンと他2名が手を挙げたところで、エミルがうなずく。
    「オーケー。この6人で行くわよ。
     あたしたちはここを出て、右側に回る。あんたたちは左側からお願い」
    「分かった」

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 10

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第10話。
    カスタム・リボルバー。

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    10.
    「ディミトリ君」
     と、アーサー老人がディミトリの襟をぐい、と引き、無理矢理に顔を向けさせる。
    「……何だよ」
     憮然とした顔で応じたディミトリに、アーサー老人が小銃を向ける。
    「君の兄について知っていることを、可能な限り詳細に聞かせたまえ。特に装備についてだ。
     誰かがショットガンだと叫んでいたが、あのビルからここまでは、優に50ヤードは離れている。到底、ショットガンの弾が届くような距離では無い。だが威力に関しては、確かにショットガン並みだ。人の頭が粉々になった程だからな。
     一体どんな武器を使えば、ショットガンの威力とライフルの有効射程が両立できるのだ? それを把握せねば、我々に勝利は無い」
    「ヘッ」
     だが、ディミトリは悪態をつくばかりで、質問に応じようとはしない。
     それを受けて、ダンも拳銃をディミトリに向ける。
    「言えよ。言わなきゃ俺も、マジで撃つぜ」
    「そんなこと言っちまったら、兄貴にとって不利になる。それじゃ僕が助からない。
     じゃあ言わない方が、僕にとって得だろ?」
     ディミトリがふてぶてしく、そう答えた瞬間――パン、と火薬の弾ける音が、ダンからではなく、エミルの拳銃から放たれた。
    「ぎあっ……」
     続いてディミトリの短い悲鳴が部屋に響き、その場の全員が彼に注目する。
    「ひっ、ひいっ、はっ、……な、……に、……するんだ」
     ディミトリが左耳の辺りを押さえているが、指の隙間からボタボタと、血がこぼれている。
    「聞く耳持ってないみたいだから、千切ってあげたのよ。右耳も行っとく?」
     かちり、と拳銃の撃鉄を起こし、エミルがこう続ける。
    「このまま放っておいたら、確かにあたしたちは全滅するでしょうね。でもそれまで10分はあるでしょ? あんたを拷問にかけるだけの時間は十分にあるわ。
     ま、あと10分辛抱できるって言うなら、強情張って黙ってればいいだけだけどね」
    「ひ……」
     まだ硝煙をくゆらせるスコフィールドの銃口を右手の甲に当てられ、ディミトリの顔面は蒼白になる。
    「今すぐ素直に言うなら、手は勘弁してあげるわよ。職人だもの、利き手は命より大事よね……?」
    「あ、あっ、う、……い、言う、言うっ。言うよっ」
     ディミトリは泣きそうな顔で、トリスタンの情報を話し始めた。
    「兄貴は基本的に、銃身の長い銃は使わない。ピストルに比べて携行しにくく、接近戦では不利になるからだ。だからライフルとかショットガンは持ってない。
     今、兄貴が使ったのは、店に置いてたM1874シャメロー・デルビン式リボルバーだろう。ただしカスタムしてある」
    「どんな改造を?」
     尋ねたアーサー老人に、ディミトリは一転――耳を撃たれた直後にも関わらず――どこか恍惚(こうこつ)とした表情で語る。
    「一番の特徴はホットロード(強装弾)化さ。シリンダー部分を18ミリ伸長し、通常使用される11ミリ×17ミリ弾より9ミリも薬莢長を伸ばした僕特製の11ミリ×26ミリ弾を使用できる。当然、火薬量も増やしてあるから、至近距離で撃てば機関車の車輪をブチ抜くくらいの威力は出せる。まるで大口径ライフルみたいだろ?
     ただし、そんなものを考え無しにブチかましてたら、そこらの人間じゃ肩を外すだけじゃ済まないし――まあ、兄貴ならそんなマヌケなことは起きないだろうけど――そうでなくとも、銃本体に相当のダメージが返って来る。
     だから兄貴には、『こないだのAカスタムみたく、調子に乗って連射したりするなよ』とは何度か伝えてある。今撃ってこないのは、多分そのせい」
    「ふむ」
     アーサー老人は深くうなずき、窓越しに様子を見ている局員に声をかける。
    「窓から離れていた方がいい。ディミトリ君の話からすれば、こんな20ミリにも満たぬ漆喰の壁くらいは、容易に貫通しうる代物のようだ。
     彼奴からすれば、窓際に潜んでいるくらいのことは見越すだろう。そこにいては、撃ってくれと言っているようなものだ」
    「は、はいっ」
     外部の人間であるはずのアーサー老人に、局員たちは素直に従う。
     直後、確かにアーサー老人の予見した通り、窓付近がぼご、ぼごっと鈍い音を立てて砕けた。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 9

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第9話。
    怪物。

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    9.
     ロー拘束から時間は進み、同日、夜7時。
     じりりん、と鳴った電話を、ディミトリが取った。
     いや――。
    「はい、こちらレッドラクーン・ガンスミス。……ああ、いやいや、マドモアゼルでしたか」
     ディミトリの姿をした男は、相手の声を聞くなり、己の声色をガラリと変えた。
    「……ええ、ええ。問題はありません。たまに来る組織かららしき電話も、適当にあしらっております。……ええ、疑っている様子など、まったく。と言うより、そんなことは端から想定していないのでしょう。
     まさかディミトリが既に、我々の手に落ちているなどとは、……ね」
     そう言いつつ、ディミトリ――に変装したイクトミは、目の前に座らされている、本物のディミトリを見下ろす。
    「……」
     拘束されたディミトリが忌々しげな目で見つめていることに気付き、イクトミは彼に対し、恭しく会釈して返す。
    「では予定通り、明日3時に。……はい、……はい、では」
     電話を終え、イクトミはディミトリに尋ねる。
    「如何されましたか、ディミトリ?」
    「……その気取ったしゃべり方をやめろ、アレーニェ。気に障る」
    「ははは」
     突然、イクトミは乾いた笑い声を上げる。
    「なっ、何だ?」
    「じゃあ僕からも提案だ、ディミトリ。僕のことをアレーニェと呼ぶのはやめろ」
    「何だって?」
    「その名前は強制的に与えられた、僕にとって嫌な思い出しか無いものだ。
     今の僕は、イクトミだ。僕のことを呼ぶのなら、そう呼べ」
    「……何だっていい、お前が名乗りたい名前なんか、僕の知ったことじゃない。
     とにかくこんな馬鹿げた真似は、すぐにやめるべきだ。組織の恐ろしさは、いや、兄貴の恐ろしさは、あんたが一番、身を以て知ってるはずだ。
     特にその右目に、しっかりと刻まれてるはずだよな?」
     ディミトリのその一言に、イクトミの笑顔が凍りつく。
    「あんたはけったいな白スーツで現れたり気持ち悪いしゃべり方したり、道化芝居が随分上手みたいだけど、その目だけはごまかせないみたいだな。
     その右目、兄貴にやられてるって聞いたぜ。一応目玉は残ってるみたいだけど、ほとんど見えやしないんだろ? へへ、へ、へっ」
    「……」
     次の瞬間――ディミトリの右膝から、血しぶきが飛び散る。
    「はぐぁ……っ」
    「僕を愚弄することこそ、やめるべきことだ。今の君は、僕に生殺与奪のすべてを握られているのだから」
    「はぁ……はぁ……」
     ディミトリが顔を真っ青にしたところで、イクトミの背後から「やめたまえ」と声がかけられる。
    「他ならぬエミル嬢の頼みで、わざわざギルマン捜索を延期してまで確保した人質だ。殺しては、全てが水の泡だ。
     君の冷静は、うわべや演技では無いだろう?」
    「……ええ」
     イクトミはアーサー老人にす、と頭を下げ、それからディミトリに止血を施した。
    「弾はかすらせただけです。死に直結するようなものではございません」
    「うむ、いつもの君だ。
     さて、ディミトリ君。明日には君の兄、トリスタン・アルジャンがここへ到着するわけだが、君は兄にどの程度勝算があると思っているかね?」
    「……100%だ。兄貴がこの程度の策や罠なんかで、やられたりするもんか」
    「論理性を重視する君のことだ、何か明確な根拠があるのだろう? 言ってみたまえ」
     アーサー老人に尋ねられ、ディミトリは脂汗の浮いた顔でニヤっと笑った。
    「論理だって? あの人に論理なんか、何の意味も成さないよ」



     突然頭が吹き飛んだ同僚を目の当たりにし、局員たちの顔が恐怖で凍りつく。
    「なっ、あ……」
    「す、スティーブ、……スティーブ!?」
    「ち、……畜生ッ!」
     振り向こうとしたその直後、さらにもう一人、ぼごんと胸に大穴が空き、大量の血しぶきを上げる。
    「ひっ……」
    「しょっ、ショットガンだ! 隠れろ!」
     どうにか壁に潜み、局員たちは混乱を抑えようとする。
    「何でだ!? あれだけ撃ち込んで、何故生きてる!?」
    「そもそも変だろ!? 反撃してくるなんてよぉ!? できるわけねーじゃねーか!」
    「ひっ……ひっ……はっ……ダメだ、ダメだ、ダメだ……」
     だが、一瞬の内に同僚2名が惨殺され、彼らは半ば錯乱しかかっていた。
    「……怪物(モンスター)……!」
     誰からともなく漏れ出たその言葉に、その場にいた全員の絶望感が表れていた。

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