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黄輪雑貨本店 新館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    「あらすじ」紹介ページ

    双月千年世界 目次 / あらすじ

    • はじめてこのブログに来たので何から読んでいいかよく分かりません!」と言う方へ。
      当ブログ最大量の長編小説、「双月千年世界」へは、こちらのページから各目次へ飛ぶことができます。
      その他の小説については、一度トップページに戻ってから、右の方にある目次を選んで下さい。

    • 目次は連載順に表示されています。「何が何だか分からないけどとりあえず最初から読んでみたい!」と言う方は、
      一番上の「蒼天剣」から読んでいくことをおすすめします。

    • 久々に来たけどどんな話かすっかり忘れた!」と言う方、
      ざっくり説明聞いてから本編を読んでみたい……」と言う方のために、各部にあらすじを設けています。
      各部(『第1部』とか『第2部』とか)にあらすじへのリンクを張っているので、そこから見てみて下さい。


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    央中神学事始 19

    央中神学事始

    ペドロの話、第19話。
    礼を示す。

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    19.
     ペドロもナイジェル博士も、長年の研究でエリザが必ずしも聖人君子の類ではないことを把握していたし、その師とされるモールについても、相応の性格であろうことを察していた。
    「……ふん」
     それ故、ベッドの上でとぐろを巻き、肌着姿で煙草をふかす、退廃的な彼女の姿を目にしても、両者ともたじろいだり愕然としたりするようなことは無かった。
    「半月もこんなトコに閉じ込めといたかと思ったら、今度は坊さんのお説教? あんたら、ケンカ売ってるね? 私を誰だと思ってんのかねぇ、まったく」
     うっすらにらみつけてくるモールに対し、ペドロは床に正座して深々と頭を下げた。
    「長期にわたる不当な拘留で大変なご不便、ご迷惑をおかけいたしましたこと、誠に申し訳無く存じます」
    「あん?」
    「賢者モール・リッチ様。いかようなご叱責も、甘んじて受ける所存です。誠心誠意、お詫び申し上げます」
    「……」
     モールは煙草をぷっと床に吐き捨て、のそりと立ち上がった。
    「アンタが責任者?」
    「そのように捉えていただいて差し支えございません。元を申せば、私のはしたなき欲求故に行われたことです」
    「その言い方だとさ」
     モールは土下座するペドロの前に座り込み、彼の後頭部に視線を落とす。
    「実行犯が他にいるみたいな感じだよね。ってかさアンタ、見た目からしてソコまで金回り良さそうなタイプでも、カネで人を釣ろうってタイプでも無さそうだしね。ソイツはドコにいるね? 後ろの長耳でも無さそうだしさ」
    「ここにはおりません。高齢故、出歩くことが困難な身でして」
    「アンタだって結構なお歳に見えるけどね。アンタ以上にヨボヨボだっての? いや、はっきり言ってやるね。んなもん詭弁さ。ソイツはココまで来る気も無いし、顔も見せたくないワケだ。私をこーして閉じ込めといて、自分は関係ありませんってツラしたいってワケさね。どーせ名前も出すなって言ってんだろ?」
    「いいえ」
     ペドロは顔を上げ、率直に答えた。
    「そのように言い付けられた事実はございませんので、お答えいたします。あなたを拘束するよう命じたのはニコル・フォコ・ゴールドマンその人です」
    「何だって? フォコが? ……あんの野郎」
    「しかし――重ね重ね申し上げますが――元はと申せば、私があなたからお話を伺いたいと願い出たからこそ、行われたことです。すべての責任は私にございます。私にいたせることであれば、どうぞ、何なりとお申し付け下さい」
    「話、話って、アンタ一体私に何を聞きたいね?」
     尋ねてきたモールに、ペドロは正座の姿勢を崩さぬまま答えた。
    「エリザ・ゴールドマンの幼少期について、可能な限り詳しく伺いたいのです」
    「は?」
     けげんな顔をし、モールが続いて尋ねる。
    「なんでそんなコト聞きたいね?」
    「私の生涯を懸けた事業の完成のためでございます」
    「大きく出たもんだね。アンタ、何してる人?」
    「聖書の編纂を行っております」
    「聖書? ……私もソコまで詳しかないけど、エリザの話聞きたいってコトは、央中天帝教ってヤツだろ? エリザの話なんてソコら中探せばいくらでもあるだろうに」
    「山のようにございますが、いずれも事実を事実のまま描いたものではございません。私はひたすらに、真実を求めているのです」
    「そんで私なら、マジでエリザのちっさい頃を見てるはずだろうって? なるほどね」
     モールはベッドに座り直し、胸元から新たな煙草を取り出した。
    「火ちょうだい」
    「はっ……」
     ペドロは言われるがまま、マッチを机から取り、彼女の煙草に火を点けた。
    「はっきり言っとくけどね、私ゃ坊さんみたいな祈って唱えて説教すんのが職業ってヤツは大っキライだし、カネで言うコト聞かそうなんてヤツもクソだと思ってるね。そもそもそんな頼み、受ける理由が無いしね。だから引き受けようなんて気は、さらっさら無い。……だけども」
     モールは紫煙をふーっと天井に向けて吐き、ペドロに顔を向けた。
    「アンタは今、煙草の灰だらけの床に頭こすりつけて頼み込むだなんて最大限の礼儀を示してくれたワケだし、ソレを無碍にするってんじゃ、悪いのは私になるね。
     だからその礼儀に答えて、アンタの願いを聞いてやるね」



     こうしてモールから直接、エリザの幼年時代について聞き出したペドロは――中には荒唐無稽な内容も散見されたが、「礼儀に答える」と言った彼女の言葉を信じて――そのすべてを「モール師事記」として編纂、351年に上梓した。
     奇想天外かつ大言壮語が並ぶモールの話を、当代最高の編集人ペドロが絶妙にまとめ、聖書として昇華させたこの書物は、やはり空前の好評を博した。当然、ペドロの評判も前以上に上がったが、反対に3世には「賢者モールをカネで買おうとした」との悪評が立ち、その人気にはより一層の、深い影が落ちることとなった。

     央北から広まったこの醜聞はやがて3世にも伝わり、彼はまたも激怒した。この醜聞がモール本人が流したものであることは明らかであり――仮にペドロたちが流したのならば、市国で広まるはずであるため――彼はモールにしかるべき制裁を加えるべく、躍起になって彼女の再捜索を命じたが、モールはもう二度と、3世の張った網にかかることは無かった。

     そしてこの暴挙が、3世の命脈を断つ決定点となった。

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    央中神学事始 18

    央中神学事始

    ペドロの話、第18話。
    最後の謎を知る者。

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    18.
     モール・リッチ――央北天帝教において「三賢者」の一角と称される人物であり、「彼」は「旅の賢者」とも呼ばれている。残る二人「時の賢者」ゼロ・タイムズ、そして「幻の賢者」ホウオウ、この三人によって現代における魔術の基本理論が確立されたとされてきたが、克大火や黒炎教団の件もあって、この説は近年、疑問視され始めている。
     便宜上「彼」と呼ばれることが多く、央北天帝教の聖書「降誕記」および「天帝昇神記」においても男性として扱われているが、一方でペドロたちが集めた資料の中では女性であるかのような表現も多数見られ、性別ははっきりしていない。なお、実際に出会ったと言う3世も、女性であったと記憶しているらしい。
     その他、種族も猫獣人であったり長耳であったりとはっきりせず、当然、年齢すらも不詳の人物である。

    「つまり正体不明と」
    「結論的にはそうなるのでしょうね」
     そのモールが央北で発見されたとの知らせを受け、ペドロとナイジェル博士は再び、3世に呼び出されていた。
    「そうなると発見されたその人物が、本当に本物であるか判断が難しいと思われるのだが、3世には何か、証明できる手立てがあると?」
    「エリザが持っとった魔杖があるやろ?」
     尋ねられ、ペドロが答える。
    「ええ。『ロータステイル』ですね」
    「あれと対になった魔杖があるっちゅう話も知っとるな?」
     今度はナイジェル博士が答える。
    「確か『ナインテイル』だったな。エリザの師であったモールが所有していたと、……ふむ。その魔杖を比較照合すれば証明できるわけか」
    「そう言うこっちゃ。ほんで、既に照合も終わっとる。『ロータステイル』はウチの家宝やからな、そう簡単に模造品なんか作られへんよう、厳重に保管されとる。その模造不可能な『ロータステイル』そっくりのもんを持ってはるっちゅうことは……」
    「即ち彼がそのモール本人である、と。……あ、『彼』でよろしかったでしょうか?」
     ペドロに尋ねられ、3世は肩をすくめた。
    「今回は『彼女』やな。ほんで『猫』やて」
    「どのようにして捕捉を? 聖書中でも散々、剣呑な性格であったとされているが、そう簡単に言うことを聞くような性質では無いだろう」
    「お前みたいにな」
     ナイジェル博士にそう返しつつも、3世は説明してくれた。
    「あのお姐ちゃん、ヘボのクセにカジノやら賭場やらで調子に乗って、大金賭けよるお調子もんの性格しとるからな。賭場の立っとるとこ行ってそう言うヤツ探して、さっき言うた杖持っとったらソイツで間違い無いっちゅうわけや。
     で、今回も――私が出会った時もそうやったんやけども――大負けして200万ほど借金しとったとこに声掛けて杖を確認して、どうも本人っぽいっちゅうことでカネ貸したってな」
    「どうせそのカネもスってしまったのだろう。で、借金のカタとして拘束したわけか」
    「ほぼ正解やな」
     3世はニヤッと笑い、こう続けた。
    「貸したカネで当たるんは当たったらしいわ。ほんでも10分で3割増える貸しにしとったからな。1時間ほっとって、1000万近くに増えたところで返しに来よったけども……」
    「勝った分を全額獲られ、それでもまだ残った借金で引っ張って来た、と」
    「そう言うこっちゃ」
    「ひどい方だ」
     ペドロは率直にそう口走ったが、3世はやはり、意に介していないようだった。
    「ま、借金やら何やらは捕まえるための方便みたいなもんやしな。用事済ましたら反故にしたって構わへんわ。ちゅうわけで、や」
     3世は傍らに置いていた杖をつかみ、先端をペドロに向けた。
    「今から会って話してき」
     こうしてペドロと、そしてナイジェル博士の2人は央北へ飛び、モールを訪ねることとなった。

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    央中神学事始 17

    央中神学事始

    ペドロの話、第17話。
    斜陽の大商人。

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    17.
     北方での研究の甲斐あって、「北方見聞記」改訂版は初版以上の好評を博した。そしてその主筆であるペドロも、既に教主の職を辞して10年以上経っているにもかかわらず、その評価と人気は衰えることを知らなかった。

     一方で3世の評判は、次第に陰りを濃くしていた。316年の大交渉で央中を中央政府から独立させ、大規模な再開発計画を打ち出し、央中に見果てぬ希望を与えた頃までは、彼には無限とも思える期待と羨望が寄せられていたが、再開発が終息を迎えて何年も経ち、ペドロをめぐる経済制裁で央北と、央北天帝教を必要以上に痛めつける痴態を世界中に晒して以降は、彼のことを悪し様に罵り、金火狐一族との取引を自ら打ち切る者も現れ始めていた。
     加えてこの経済制裁が、「眠れる獅子」を呼び起こしてしまった。3世、いや、正確には金火狐財団の系列商店・商会との取引・融資が完全停止した期間中、央北の人々も、そして克大火を封じ込めて議会制に移行した中央政府も、ただ手をこまねいていたわけではない。彼らなりに金火狐からの経済的自立・成長を実現させるべく、試行錯誤を繰り返していたのである。その努力は経済制裁が終息して以降も続けられており、347年のこの時には、前述の通り金火狐と手を切ってしまってもどうにかできるだけの経済圏が、央北に形成され始めていたのである。
     かつての栄光が曇り、影響力を失いつつある上、3世もこの頃齢60に達し、いよいよ己の思うままに体を動かすことも難しくなり始めていた。



     そんな斜陽の最中にあった3世が出してきた提案は、ペドロを少なからず困惑させた。
    「幼少期のエリザを?」
    「せや。そこは一番の神秘っちゅうても過言やない。逆に言うたら、そこをみんな、知りたいんとちゃうやろかと思うんよ」
    「仰ることは分かるのですが、しかし、現実的に無理な内容ではないでしょうか」
     この提案に対し、ペドロは当然、難色を示した。
    「『央中平定記』より以前の内容、即ちエリザがゼロの力を借りて故郷の怪物を掃討するより前の話は、そもそも資料自体が存在していません。口伝や詩歌すら、ネール家にほんの数曲あった程度なのです」
    「むしろその謎があるが故に、エリザの神秘性が保たれていると言っても過言では無い」
     二人の話に、この頃ペドロの右腕となり、博士と呼ばれるようになっていたナイジェルも口を挟む。
    「仮にその謎を暴いて、案外何と言うことも無い、平凡でありきたりの幼少期であったことが判明したら、神秘性が損なわれてしまうことになる。折角ここまで築き上げた『狐の女神』像を、わざわざ毀損することは無いはずだ。私はその提案を却下する」
    「お前の言うことなんか聞いてへんねん。黙っとけや」
     ナイジェル博士をにらみつけ、3世はペドロに向き直る。
    「そこの長耳がわちゃわちゃ言うてたけども、あんたは分かるやろ? 謎を謎のまんまで残しとけへんっちゅう気持ちは。それともあんたにはここが限界か? 目の前に横たわる大きな謎に、手ぇも足も出せまへんわとあきらめるんか?」
    「確かに私も研究者のはしくれです。自分の能力で明らかにできる謎があるのならば、己の命を懸けてでも解明したいとは考えております。
     しかし先程申し上げたように、そもそも元となるべき資料が無いとなれば、制作のしようがありません。それでも無理に作るとなれば、それはもう創作、根拠の無い勝手な想像で作られた『ウソ』になってしまいます。それではただの寓話、おとぎ話と同然です。決して人々の尊敬と信仰を集めるような書物にはならないでしょう」
    「ちゅうことはや」
     3世はまったく引き下がらず、こう尋ねてきた。
    「資料があれば作れるわけやな?」
    「論理的に申せばそうなります。……まさか3世、その資料をお持ちであると?」
    「いや、私は持ってへん。せやけど持ってそうなヤツは1人、心当たりがあんねん」
    「なんですって!?」
     驚くペドロに、3世はニヤっと笑みを向けた。
    「ちゅうてもな、住所不定、自称『賢者』の、めちゃめちゃ怪しいお姉ちゃんやけどもな」
    「……そうか、モール・リッチ!」
     3世から怒鳴られ、ふてくされていたナイジェル博士が顔を上げる。
    「彼は央北天帝教の聖書に、エリザの師であったと記されていた。であれば幼少期のエリザを知っていて当然と言うわけか」
    「そう言うこっちゃ」
     今度はナイジェル博士に笑いかけ、3世はさも切り札を出したと言いたげな表情を浮かべた。
    「実は私も昔、彼女に会ったことがあんねん。ちゅうても当時はまだ私もペーペーのヒヨッコで、ホンマに彼女がモール本人やとは思てへんかったけどもな。ほんでも古い付き合いがあることやし、居場所探して私が会いたい言うてると伝えたら、すぐ来てくれるはずや」
    「さ、探す?」
    「では今、彼がどこにいるか分からない、と?」
     一転、ナイジェル博士とペドロはがっかりした声を漏らす。それでも3世は、自信満々に答えた。
    「金火狐の力があったらチョイチョイや。ま、すぐ見つかるはずや。期待して待っとき」

     3世はそんな風に、軽く言い放ったものの――実際にモールが見つかるまでには、2年を要した。

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    央中神学事始 16

    央中神学事始

    ペドロの話、第16話。
    ナイジェル氏との邂逅。

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    16.
     率直に言えば、ナイジェル氏は己の知識をひけらかすことを快感とする類の人間だった。
    「ふむ、そこに気が付いたか。いや、確かに世界中の図書館やら資料庫やらを漁り渡るような人種でなければ、気付くはずもなかろう。確かにここは世界有数の蔵書量を誇っている。いいや、中央政府文化院や神学府など足元にも及ばんほどにだ。それには3つの理由がある」
     ペドロが資料庫について尋ねた途端、それまでのうっとうしがっていた様子はたちまち消え、ニタニタと嬉しそうに笑いながら、まくし立ててきたのである。
    「ほうほう。それは一体?」
     一方で、あらゆる知識・知恵に幅広い興味を示すペドロは、彼の――他の人間であれば辟易し、3分と経たず逃げ出すような、自慢と他者への蔑視に満ちた傲慢な内容の――話にも、真剣に耳を傾けている。
    「1つ、元よりこのジーン王国では数多の軍閥による衝突が絶えない。その中でジーン王家が優位に立つためには、より高次かつ広範な戦略理論を必要とする。あなたは知らないかも知れないが、このジーン王国には戦略研究室なる部署があり、その初代室長となったのはあの『千里眼鏡』ファスタ卿なのだ。彼は戦略を何より重要視しており、ここの蔵書の戦略に関する書物は、ほとんど彼が室長時代に集めた、あるいは自ら執筆したものなのだ」
    「さようでしたか。ええ、確かに『二天戦争における人心掌握策実例集』などにも、ファスタ卿の名前が連なっておりました」
    「ほう! あなたもあれを読んだのか? うむ、あれは実に素晴らしい出来だ。エリザと言えば一般に商売やら魔術やらで語られがちだが、こと戦略においても、一線を画す実績を挙げた人間だ。その手腕が事細かに、かつ、極めて理論的に解析された書は、これ以外には無いと言っても過言ではないからな」
     そしてペドロには、彼の偉ぶった話をしっかり受け止めて適切に返せるだけの鷹揚さと、知力が備わっていた。
    「おっと……、話が逸れてしまったか。あー、と、2つ目だが、この国、と言うよりもこの北方地域は以前、ノルド王国――正確にはノルド『統一』王国と呼ばれるが――による支配がなされていたことはご存知か?」
    「ええ、存じております」
    「では統一王国成立の経緯は?」
    「統一王国初代国王ペテル・ノルドが第4代天帝の姪、メルリナ・タイムズと結託して北方全土を侵略・征服した後、双月暦76年に中央政府からの独立を宣言した、……と言う説が一般的とされているようですね」
    「そう、即ち第4代イオニス帝が姪をペテルに嫁がせたことをきっかけに勃興した統一王国をこらしめんと中央政府が巨兵を差し向けるも、北海での戦いで中央軍がまさかの敗北。その責を第3代ハビエル帝に取らせ帝位を簒奪したと、……ああ、いや、済まない。また脱線したようだな」
    「いえ、そのお話で察しが付きました。イオニス帝が簒奪計画の一環としてメルリナにクラム王国王位を貸し与えた際、まだ若かったメルリナにいわゆる『箔』を付けるべく、数多くの品を贈ったと言われておりますね」
    「おお、それもご存知とは! そう、その通りだ! その寄贈品の中に、中央政府から持ち出された書物も多数含まれているのだ。イオニス帝は暴君だ、邪智暴虐の帝だと酷評されてはいたが、文化面に対する造詣は非常に深かったと言われている。当然、贈った書物も選りすぐりのものばかりだったのだ」
    「道理で、道理で。この世に3冊しか現存していないはずの『天帝教征北記』初版をこの資料庫で見た時は、我が目を疑ったものです。さような経緯でこちらに収まっていたわけですな」
     ペドロの深い知識と話を先読みできる洞察力、そしてどこまでも穏やかに話に耳を傾ける態度に、ナイジェル氏はすっかり気を許したらしい。彼を知る他の者が見れば気味悪がりそうなほどの満面の笑顔で、より一層饒舌に語り出した。
    「それにも気付くとは! 流石と言う他無い。そちらについても話を深めたいところだが……、ともかく続きを話そう。3つ目についてだ。エリザの三大発明と言えば何か、当然ご存知だな?」
    「三大発明、……ふむ、造船技術、金属加工、そして活版印刷でしたか。ああ、つまりエリザが二天戦争に従軍していた頃、こちらで興した出版事業が……」
    「その通り! エリザが去った後も出版業は残っており、当然の結果として、数多くの書物が作られた。無論、時代の経過とともに消失してしまったものもあるだろうが、そもそもの製造点数が多い以上、現存する数も多いと言うわけだ。
     ……いやしかし、これほど話が合う方だったとは思いもよらなかった。今まで邪険にしていて、本当に勿体無いと思う」
    「ではこれから、交流を深めて参りましょう」
    「ああ、是非とも」



     これ以降、両者は親睦を深め、ついには344年、ペドロが研究を終えて帰郷する際、資料庫管理の職を辞して付いて来てしまうほど、ナイジェル氏はペドロに心酔した。ペドロも優秀な研究者が増えることを大いに喜び、以後357年まで、ナイジェル氏は央中正教会で研究に携わることとなった。

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    央中神学事始 15

    央中神学事始

    ペドロの話、第15話。
    北の邦での研究。

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    15.
     央北滞在中に2人の子供に恵まれ、4人家族となっていたペドロ一家は、10年ぶりに央中へと戻って来た。だが、やはり10年前と変わらず、3世はペドロを疎んじていたようだった。戻ってまもなく、3世がこんな提案を持ちかけて来たからである。
    「北方へ……?」
    「せや。ほれ、あの……、『北方見聞記』やったかなんか、君、出したやんか? まあ、あれはあれで問題は無いとは思うねん、思うねんけどもな、何ちゅうか、まあ、もうちょっと、ええ感じにでけるんちゃうかなって」
    「はあ」
     3世が言うには、北方ジーン王国の知り合いが多数の蔵書を有しており、それを調べれば聖書の内容を拡充できるのではないかとのことだったが、この提案は明らかに、ペドロを央中から遠ざけさせようとする意思が見て取れた。
     だが、ペドロはその提案に、素直に従った。
    「承知しました。ではお言葉に従い、北方を訪ねることといたします」
     ペドロ自身、「北方見聞記」に不足した部分を感じていたし、二天戦争が行われた地に向かえば、より精細な描写ができることは確かでもある。どこまでも聖書編纂を第一に考えるペドロは、妻子を置いて単身、北方へ渡った。



     ペドロの評判は北方にも届いていたらしく、彼は到着するなり、王国付の文官に笑顔で出迎えられた。
    「ようこそおいで下さいました、ラウバッハ卿。私はジーン王国財務大臣補佐官の、オットー・フロトフと申します。今回、あなたのご案内を仰せつかりました。よろしくお願いいたします」
    「よろしくお願いいたします。……財務大臣のお付きの方がご案内を?」
    「ええ。ゴールドマン卿は以前、財務大臣補佐に相当する役職に就いておられた経験がございまして。その縁で、私の方に話が来た次第です」
    「さようでしたか」
    「ただ、それを抜きにしましても、あなたのおうわさはかねがね伺っております。よろしければ詳しくお話をさせていただきたいのですが……」
    「私の拙い話でよろしければ、いくらでも構いません」
     ペドロの返答に、フロトフ補佐官はぴょこんと熊耳を立てた。
    「いえいえ、とんでもない! 実は私も『北方見聞記』を拝読いたしまして……」
     こうして王国首都フェルタイルに着くまでの間に、ペドロとフロトフ補佐官はすっかり親密になった。

     フェルタイルに到着し、王国の資料庫に通されたところで、ペドロはもう一人、ある男に出くわした。
    「あなたがゴールドマン卿から紹介されたラウバッハ卿か?」
    「ええ、私がペドロ・ラウバッハで……」「自己紹介は結構。あなたに興味は無い。私はエイハブ・ナイジェル。この資料庫の管理を任されている。その内転属するつもりだがね。どこでも勝手に見て構わないが庫外への持ち出しは禁ずる。貸与もしない。閲覧は9時から18時まで。整理整頓を心がけてくれ。以上」
     半ばまくし立てるように説明し、そのナイジェル氏はどこかに立ち去ってしまった。
    「あ、あの……?」
    「ああ言う人です。悪い人では無いとは思うのですが、あまり話はされない方がよろしいかも知れません、……精神衛生上の意味で」
    「はあ……」
     戸惑いはしたが、ともかくフロトフ補佐官の言う通り、ペドロはナイジェル氏と極力接触しないよう気を付けつつ、資料を集めることにした。

     ジーン王国の資料庫はペドロにとって、非常に有益だった。質の高い資料が山のようにあり、神学府での研究だけでは不足していた情報を、十分に補完することができた。
    「しかし何故、これだけの書物がここにあるのでしょうか? いえ、不似合いと言うわけではありません。私の目からすれば、ここは神学府にも引けを取らない蔵書量です。一体誰がどのようにして、これだけの収集をなさったのか、と」
    「さあ……? 申し訳ありませんが、私もあまり学の深い方ではないので……」
     ペドロを気に入り、度々彼の元を訪ねてきていたフロトフ補佐官に聞いても、要領を得ない答えが返って来るばかりである。
    「もしかしたらナイジェルさんが詳しいのかも知れませんが、……正直に言って、あまり声をかけない方がいいでしょう。相当偏屈な人のようですから」
    「ふーむ……」
     フロトフ補佐官に止められたものの、元来好奇心旺盛な性質のペドロは、ある時ついに、ナイジェル氏に話しかけることにした。

     この何と言うことも無さそうなペドロの行動が、後に央中全土を混乱に陥れた大事件――「子息革命」のきっかけとなる。

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    央中神学事始 14

    央中神学事始

    ペドロの話、第14話。
    正教会の内乱と、新たな宗教の台頭。

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    14.
     339年、ペドロに対し苛烈な要求を突きつけ、央北天帝教に対して歪んだ制裁を続ける3世を諌めるべく、マルティーノ師は最期の力を振り絞って抗議行動に出た。
    「あなた方がこうして人々の模範、標(しるべ)となれたのは誰のおかげですか? 他ならぬラウバッハ君の功績によるものでしょう? その恩を忘れたのですか? あなた方が聞くべきは神のおことば、エリザ・ゴールドマンのおことばではないのですか? 決してニコル・フォコ・ゴールドマンのおことばでは無いはずです。
     彼女はこう言ったはずです。『我々は戦うべからず。戦う者らがいればその仲立ちをし、互いに矛を収めさせよ』と。しかるに今、ニコル3世が行っていることは一体何ですか? 自ら戦いを仕掛け、世間が燃える様をニタニタと笑いながら眺めているのです。もしエリザがこの街に降臨されれば、必ずやニコル3世のほおを叩き、叱りつけるでしょう。『アンタなにアホなコトしよるんや』と」
     マルティーノ師は央中正教会の人々を集めてこう叱咤し、3世にこれ以上付き従わぬよう皆を説得した。そしてその翌日――激怒した3世が彼の拘束に動く前に、マルティーノ師はこの世を去った。
     マルティーノ師の、命を懸けたこの行動と説得の言葉に心動かされぬ者はおらず、これ以降、央中正教会の一部で、3世への抗議集会を繰り返す者が続出した。3世も過敏に反応し、市国の警察権力である公安局を操り集会を襲わせたが、それも却って市民に、3世への反感を強めさせる結果となった。

     加えて翌340年、央中天帝教を根底から揺るがす出来事が起こった。
     ゴールドコースト市国からほど近いカーテンロック山脈にて、あの克大火を現人神として信奉する者たちが、新たに宗教を拓いたのである。彼らは「黒炎教団」と呼ばれ、わずかずつではあるが、しかし確実に、信者数を増やしていた。当然、市国にもその波が押し寄せ、3世の言いなりとなっていた央中正教会を見限り、改宗する者も現れ始めた。
     これは央中正教会にとって、致命的とも言える状況であった。黒炎教団の信者数が増加すれば、本拠地が侵されることになる。団結し、彼らを追い出さなければ、逆に自分たちが逐われる羽目になりかねない。
     そして3世本人にとっても、これは危機に他ならなかった。自分の息がかかった人間ばかりであれば、いくら反感を抱かれようと危害が及ぶ可能性は少ないが、自分の力が及ばぬ人間ばかりが集まれば、いつ何時、襲撃を受けてもおかしくない。ましてや30年前に、3世が「大交渉」の場で克大火を下した事実がある。それを「3世が克大火を侮辱した」と曲解した乱暴な信者が、いわれの無い仇討ちに及ぶ可能性もある。
     何としてでも市国に、黒炎教団の勢力を招いてはならなかったのである。



     市国内で高まる反発と黒炎教団の脅威――内憂外患を抱えた3世は、正教会の結束を高めるため、いともあっさりと経済制裁を解除し、ペドロへの要求を取り下げた。その上で「北方見聞記」を第3の聖書として認めた上、ペドロを央中正教会に引き戻し、教主に復位させることを提案した。
     この厚顔無恥な対応に、市国の市民たちも央中正教会も、そして神学府も呆れ返ったが、ただ一人、ペドロは柔和に応じた。
    「経緯がどうあれ、私の書物が聖書として認められることは、大変な名誉です。提案を全面的に受け入れます。
     ただし、教主への復位は丁重にお断りしたします。3世と私の距離が再び近づけば、またこのような騒ぎが起こるかも知れませんから」
     ペドロは央中正教会に戻ってからも、特別研究員として引き続き、聖書の編纂に当たることとなった。

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    央中神学事始 13

    央中神学事始

    ペドロの話、第13話。
    聖書をめぐる騒動。

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    13.
     神学府に出戻って以降も、ペドロは央中天帝教の聖書編纂を続けていた。正教会を追い出された身であるため、例え聖書が完成したとしても、それは外典扱い、まともな書物として扱ってもらえないのは明らかであったが、それでも彼は没頭していた。神学者、聖職者として以前に、彼自身がエリザと言う存在に惹かれていたからである。
     そして妻ロレーナや、異教であるはずの神学府からも厚い協力を得て336年、ペドロは3冊目となる聖書、「北方見聞記」を上梓した。これはエリザが二天戦争に従軍した頃の記録を元にしたものであり、単に生活の規範となる聖書としてだけではなく、英雄譚、戦記としての面白さも併せ持っていた。
     神学府から刊行されたこの本は央北、央中を問わず人気を博し、神学府にとっては空前の収益を記録し、ペドロは大いに感謝された。一方で央中正教会の人間も、これ以上聖書となる書物が製作されることは無いだろうと諦めていたところへの、この発刊である。3世の手前、この書物を大っぴらに持てはやすことはできなかったが、それでも密かに誰もが所有し、着実に広まっていた。

     勿論、この状況でただ一人、業を煮やしたのは3世である。放逐したはずのペドロが、この期に及んでまだ聖書を書いていたこと、そしてその聖書が新たな人気を博したこと、さらには徹底的に評判を貶めたはずのペドロが再評価されてしまったことに、3世は憤慨した。
     そして翌年の337年、3世は実力行使に出た。「『北方見聞記』は正教会を追い出された破戒僧が正当な権利無く製作した、正教会を貶める書物である」と、正教会に主張させたのである。さらにはこの書物で得た利益に対しても、ペドロ及び天帝教教会に受け取る権利は無いとし、それまで得た収益全額と、その20倍に相当する巨額の賠償金、さらにペドロの逮捕・処刑までをも請求させた。
     当然、こんな法外な額を天帝教教会が支払えるはずも無く、ましてや当代最高の神学者、聖書編纂の第一人者であるペドロに罰を与えてよしとするはずも無い。天帝教教会側はこれらの無法な請求が正教会の主張とは到底考えられない、3世の利己的な要求でしかないとして、断固反対した。
     これを受けて3世は、主張が自分自身のものであると悪びれる様子も無く認めた上で、この要求が通るまで央北天帝教信者、及び央北天帝教に通じる商会・商店との取引と融資をすべて停止すると答えた。当然、こんなことをされては天帝教教会の収入は激減してしまう。慌てた天帝教教会は神学府に、ペドロを引き渡すよう命令したが――。
    「そんなことはできるはずもございません」
     神学府のトップ、サラテガ枢機卿はその要求をきっぱり跳ね除けた。
    「考えてもみて下さい。その要求を呑むことは即ち、我々が央中天帝教の、いや、ゴールドマンの言いなりになったと、世界中から認識されると言うことです。もし要求を呑めば、以後、我々がどれほど努力を重ねたとしても、決して人々は、天帝教を神聖なもの、規範とすべきものとは見なさないでしょう。あの悪逆非道の『狐』に、いや、カネの力に屈した、単なる拝金主義者の集団として嘲られ、軽んじられる日々が待つのみです」
     この主張ももっともなものであり、天帝教教会も考えを改め、3世の要求を再度退けた。だが一方、3世が温情など見せるはずも無く、彼は宣言通りに経済制裁を実行した。



     以後、340年までの3年間、央北の経済は大幅に冷え込むこととなったが――それでも天帝教教会も、神学府も、そしてペドロも屈服することは無かった。
     そしてその内に、2つの転機が訪れることとなった。

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    央中神学事始 12

    央中神学事始

    ペドロの話、第12話。
    3世の罠。

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    12.
     2冊目の聖書が刊行され、央中天帝教の支持者、信奉者が増加するに伴い、その教主であるペドロに対する信用と信頼は、右肩上がりに増していった。
     こうなってくると――実に勝手なことに――3世は一転、ペドロの存在を疎み始めた。

    「独立……ですか?」
     331年、ペドロは3世の屋敷に呼び出され、彼から央中正教会を金火狐財団の一部門から、完全に独立した組織に改編してはどうかと打診された。
    「せや。何やかんや言うても、央中正教会もこの10年で相当大きくなったからな。もう十分、寄進でやりくりでける状況になっとるはずや。このまんま私がカネ出しっぱの状態も、君にはきゅうくつやろからな。君も私からやいやい言われて聖書書くより、自分の思うままにやってみたいやろ?」
    「いや……しかし……今まで3世が私の編纂事業に口を出されたことはございませんよね?」
    「ま、ま、今まではな。ほんでも歳食ってくるとな、色々いらん口出したくなるもんやねん。下手したら今まで書いてきたヤツまでケチ付けたなるかも分からん。そこできっちり財団から離れて、独立性を保てるようにした方がええんとちゃうやろか、と」
    「はあ」
     元来人の良いペドロは、3世の本心・本意に気付くことも無く、その提案を受け入れた。

     しかしこの提案がかえって正教会の独立性を損ね、より一層、3世による支配を強める結果となってしまった。
    「寄進で正教会の運営をまかなえる」として独立を果たしたものの、実際はそこまでの収入は得られなかった。と言うよりも獲得できる収入に対し、支出が大きすぎたのだ。即ち、財団から資金を与えられていた頃と同様の、大々的な活動を行ったために、あっと言うまに赤字経営に陥ってしまったのである。
     まもなく債務超過となり、1冊目の聖書を上梓した際にペドロが得た報酬10億クラムを投じてもなお足りず、事実上破綻した正教会が頼れるのは、3世を置いて他に無かった。だが3世は「あんたらがでける言うて独立したんやろ? 自分で何とかせえや」と冷たくあしらい、それでもなおすがってきた彼らに、「情け」と称して多額のカネを貸し付け、同時に金火狐商会の銀行・金融部門から、会計監査員・財務指導員を大量に出向させた。
     これにより正教会は莫大な負債で縛られ、完全に3世の言いなり、傀儡の存在となってしまった。その上で3世は正教会をそそのかして、この負債の原因が教主ペドロの資金濫用にあると糾弾させて、ペドロを教主の座から追い出してしまったのである。



     ふたたび野に下ることとなったペドロではあったが、それでも20年前のように、誰一人手を差し伸べる者の無い、不遇の中に落ちるようなことにはならなかった。関係修復を果たした神学府から招かれたのである。
     流石に異教徒となったペドロを正規雇用することは難しかったが、それを差し引いても、彼の見識と神学研究に対する姿勢は神学府の規範、鑑とするにふさわしかったことから、ペドロは客員教授として在籍することとなった。また、ペドロの恩師であるマルティーノ師も、同様の待遇で招聘されたのだが――。
    「どうしても、来てはいただけませんか……?」
    「ええ。山や海を渡るには、最早歳を取りすぎました。この老体では残念ながら、央北へ行くことはできないでしょう」
     マルティーノ師は市国に残ることを選び、ペドロに別れを告げた。その代わり――。
    「孫のロレーナを連れて行って下さい。私の欲目を差し引いても、優秀な娘です。きっと君の助けとなってくれるでしょう。彼女もこのまま市国に住み、3世の意向に沿うような研究をさせられるよりは、君の下に付いて真理を追求する道を選びたいと言っていましたから」
    「分かりました」
     こうしてペドロはマルティーノ師の孫娘、ロレーナを伴い、央北へと戻った。

     マルティーノ師は、未だ独身のペドロに娶(めあわ)せるつもりでロレーナを随行させた節があり、また、ロレーナの方も――20歳以上の年の差はあったものの――ペドロを敬愛しており、二人は央北に渡って2年後、結婚することとなった。

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    央中神学事始 11

    央中神学事始

    ペドロの話、第11話。
    異教の聖人、信愛を説く。

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    11.
     克大火によって天帝教教会は、世界の中枢であるクロスセントラルから、辺境の港町マーソルへと放逐された。当然、神学府も追従する形となったのだが、その蔵書を移動させるだけでも、大変な苦労と出費を強いられた。
     前体制下――天帝教が中央政府の中核に位置し、存分に税を吸い上げていた頃であれば、資金面の問題など取るに足らぬ話であっただろうが、巨大な資金源から切り離された今となっては、それは重くのしかかってくる苦難に他ならなかった。彼らはこの十数年にわたって、新たな書籍も上梓できないばかりか、前述の蔵書に関しても、まともに管理できるはずもなく、クロスセントラルにまだ相当数の書籍が残されているような有様だった。
     それだけにニコル3世からの報酬は、のどから手が出るほど欲しかったのである。であるからこそ彼らは、3世の傍若無人な振る舞いに嫌な顔一つ見せず、粛々と従っていた。

     しかし当然ながら、陰ではしきりに憤慨し、彼に対する呪詛が吐き散らされていた。
    「今日も嫌味を言われたよ。『本の手入れはよおでけても、人には茶ぁ出す気遣いもでけませんねんな。随分しつけのおよろしいことで』だと」
    「まったく嫌な奴だ」
    「カネを出す話が無ければ、即刻叩き出してやるものを!」
    「……そこが問題だ。奴にはカネがあって、我々には無い。である以上、従うしか無い」
    「くそっ……」
     と、ペドロが偶然、そこへ通りかかる。
    「あ……」
     この時は3世が居はしなかったものの、彼らは顔をこわばらせ、一斉に頭を下げる。
    「申し訳ございません、ラウバッハ猊下」
    「あっ、いえ、そんな、とんでもないです!」
     元より腰の低いペドロも深々と低頭し、こう返した。
    「皆様には常ならぬご苦労をおかけしてしまい、大変申し訳無く存じます。どうか、せめて、私などには気兼ねなどなさらず、共に真理を追究する者として、対等の立場で接して下さい」
    「い、いや、しかし」
     まだわだかまった顔をしている彼らに、ペドロはもう一度頭を下げ、続けてこう述べた。
    「私は元々、神学府に拾われた身です。諸々の事情により追放されはしましたが、それでも私はあなた方に、並々ならぬ感謝の意を抱いています。そんな大恩ある方々にきゅうくつな思いをさせては、私は神に誹られるでしょう。かつて我が主であったゼロ・タイムズからも、そして新たに私を迎えて下さったエリザ・ゴールドマンにも」
    「……ラウバッハ猊下、お尋ねいたします」
     一人が、恐る恐る手を挙げる。
    「あなたの神は、一体どちらなのですか?」
    「それは、どちらをのみ信仰すべきと考えているのか、と仰りたいのでしょうか」
     尋ね返した上で、ペドロは落ち着いた声で答えた。
    「ゼロとエリザ、どちらか一方を信じた者は、もう一方への信仰を捨てなければならないものなのでしょうか? 私は違うと考えています。『北港奪還記』第5章において、ゼロはエリザに対し不信感を抱いていた節の発言を連ねていましたし、『大卿行北記』の端々においても、二人の間に確執があったことが語られています。しかし結局のところ、二人の関係が破綻をきたし、争ったとされることばは、全ての聖書のどこにも記されていません。である以上、ゼロを信じた者がエリザを疎む必要は無く、エリザを信じた者がゼロを軽んじる理由もまた、無いのです。
     故に私は、二柱の神のどちらをも信じ、どちらをも愛していると、はっきりと答えます」
    「ですが、3世は明らかに我々を、天帝教を軽んじ、嘲っています。なのにあなたは、違うと答えるのですか?」
     そう反論する者にも、ペドロは理知的に回答した。
    「ええ。重ねてお答えしますが、神を、そして人の信仰を侮辱すべき正当な理由など、この世にありはしません。『北港奪還記』第7章第2節第2項にもこうあります。ハンニバルは部下に説いた、己が常識を世界の常識と錯覚するなかれ、……と。3世にはまだ、神のおことばが真には理解できておらず、己の狭い了見で物事を判断してしまっている。たった今あなた方が尋ねたように、一方の神のみを信じるべし、もう一方を憎むべしと考えてしまっているのです」
    「あ……!」
     ペドロに説き伏せられ、彼らは目を見開く。
    「ですから、どうか神学の徒、有識の人であるあなた方には、より広く、より深く、そしてより明るく、神とそのおことばに、真摯に向き合っていただきたく存じます」
    「……仰る通りです。感服しました」
    「蒙が啓けた心地です」
    「ありがとうございます、ラウバッハ猊下」
     その場にいた者たちは、揃ってペドロに頭を下げた。



     ペドロの謙虚かつ、神学に対してどこまでも真剣な態度は――3世の態度があまりにも剣呑だったこともあいまって――神学府の者たちを心服させた。
     また、ペドロは「聖書編纂にはすべての蔵書を勘案しなければならない」と3世を説得して資金と人員を捻出させ、まだクロスセントラルに放置されたままだった書物と資料をすべて、マーソルへと移動させた。これにより神学府からは絶大な感謝と信頼を寄せられ、ペドロは神学府、そして天帝教教会でも再び、一目置かれる存在となった。

     そしてペドロの所期の目的であった新たな聖書編纂も330年、神学府の助力を得て完成にこぎつけた。この時まとめられた書は「二神交易記」と名付けられ、第2の聖書として公表された。こちらも「央中平定記」同様、並々ならぬ人気を博し、央中天帝教の者たちから絶大な支持を得た。

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    央中神学事始 10

    央中神学事始

    ペドロの話、第10話。
    暴君の如く。

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    10.
     ペドロは3世に要請し、彼を伴って古巣の神学府を訪ねた。
    「ようこそゴールドマン卿、そしてラウバッハ卿」
     一見、にこやかに応じているようではあったが、ペドロは相手が複雑な思いを抱いて自分たちに接していることを察していた。
    「どうも、サラテガ枢機卿。お忙しい中、お手数おかけしますで」
     一方の3世は、言葉こそやんわりとしたものではあったが、その態度からは明らかに、相手を軽んじている気配がにじみ出ていた。その態度をたしなめる様子も無く、サラテガ卿はすっと頭を下げ、笑顔を作って応じてきた。
    「お気遣い、痛み入ります。本日のご用件について確認させていただきますが、我々の書庫を確認いたしたいとのお話でしたか」
    「ええ。央中天帝教の聖書編纂には、あなた方の持っとる資料が不可欠ですからな」
     ピク、とサラテガ卿の目尻が動いたが、3世に動じた様子は無い。
    「さようでございますか。私個人といたしましては、探求心のある方を応援することはやぶさかではございません。しかしですな、原則的に神学府の書庫は、一般開放を行ってはおりません。ですので私の一存では、すぐにはお返事がいたしかね……」
     と、サラテガ卿の返答をさえぎるように、3世はがしゃ、がしゃんと金袋を机に置いた。
    「本日中に色良いお返事がいただけるようでしたら、こちらを今すぐ寄進いたします。また、書庫の使用期間中は使用料をお支払いいたします。どうぞ、よろしくご検討なさって下さい」
    「……っ」
     金袋を見た瞬間のサラテガ卿の顔色を見て、ペドロも顔をひきつらせた。
    「3世、あの……」
     ペドロは思わず声を上げていたが、3世は彼をにらみつけて黙らせる。
    「今は私が話してんねん。君は大人しく座っとき」
    「……」
     それ以上何も言えず、ペドロは口をつぐむ。と、その間にサラテガ卿は人を呼び、二言、三言耳打ちした。
    「少々お待ち下さい。管理責任者を呼んでおります」
    「そうでっか」
     3世は机に出された紅茶をぐい、と一息に飲み、金袋をつかんだ。
    「ほんで、お次はなんです? その管理者さんが鍵番さん呼ばはるんですか? ほんで鍵番さんが『ちょうど今、鍵貸しとるとこなんですわ』とか言うて、その人探し回って2日、3日待って下さい言うて、ほんでそれっぽい人仕立ててその人に『鍵無くしましたわー』言わせて、いやーこれやと開けられませんなー、鍵作るんでもう1ヶ月待って下さーい、……ってとこですか。ずいぶん気ぃ長いことで」
    「えっ!? い、いや、私はそんな……」
    「あんたはやらんでも、他の誰かがいらん気ぃ利かしてやらはるかも知れませんな。ええですか、私は単純明快に話を進める方が好きですし、ありがたいんですわ。ヒマやありまへんからな。次々人呼んで人呼んであれやこれやグダグダグダグダしょうもない工作やらはるより、サラテガ枢機卿、あなたが今ここでスパっと動いてもろてええですか? それがでけへんっちゅうんやったら話はここまでです。当然お金は払いませんし、このまま帰らせてもらいます。
     ほなお茶、ごちそうさんでした。ラウバッハ卿、失礼しましょか」
     金袋をしまい込み、そそくさと席を立とうとしたところで、サラテガ卿は血相を変えた。
    「おっ、お待ち下さい! お待ち下さい! 分かりました! ご、ご案内いたします!」
    「そらどうも。ちゃっちゃとやって下さい」
     慌てて立ち上がり、僧衣の裾を持ち上げて、自ら応接室の扉を開け頭を垂れたサラテガ卿にぺら、と手を振って続いた3世に対し、ペドロはまだ、椅子から立ち上がれずにいた。
    「何をボーッとしてんねや。行くで」
     そのペドロに対しても、3世は横柄に声をかけ、動くよう促した。

     神学府への滞在中、3世は始終こんな調子で、我が物顔に振る舞っていた。当然、神学府の人間からは蛇蝎のごとく嫌われたが――。
    「滑稽やな」
     3世はそれを、鼻で笑っていた。
    「そんなに私が嫌やったら、さっさと追い出したったらええねん。それがでけへんのんは、私のカネが目当てやからや。まったく、『聖職者』が聞いて呆れるっちゅうもんや。なあ、ペドロ君?」
    「……」
     ペドロはマルティーノ師からの言葉を思い出し、3世をいさめようかとも考えたが、結局それはできなかった。それをすれば自分も3世からの制裁を受け、聖書編纂事業から外されてしまうおそれがあったからだ。
     この時代――誰も彼も3世に逆らうことはおろか、意見することすらもできなかった。

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    央中神学事始 9

    央中神学事始

    ペドロの話、第9話。
    聖書の誕生と正教会の成立。

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    9.
     聖書編纂事業の第一歩は、金火狐一族の人間らがそれぞれ所有していた古書を蒐集(しゅうしゅう)し、比較検討することから始まった。
     エリザは金火狐一族の開祖であり、双月暦1世紀を代表する偉人中の偉人、まさに「女神」である。彼女を記し、崇め、そして称える書物には事欠かなかったが、客観的かつ現実的に、彼女を一人の人間として分析している資料となると、ほぼ皆無に等しかった。それでも天才神学者ペドロと、老練の歴史学者マルティーノ師をはじめとする優秀な編纂チームが綿密に比較検討と考察を重ね、粉飾だらけの書物の山から、どうにかひとしずくの真実を絞り出すことに成功した。
     そして編纂事業を始めてから10年近くもの歳月が経過した327年、ようやくペドロたちは第1冊目となる央中天帝教の聖書、「央中平定記」を刊行したのである。

     この頃既に、ペドロは37歳となっていた。仕事漬けの日々のせいか、それとも生来の気質のせいか、未だに独身であったが、編纂チームの主筆としてリーダーシップを発揮し続けてきたこともあり、年相応の貫禄を身に着けてはいた。
     そのこともあって、「央中平定記」が刊行されてまもなく、ペドロは3世から新たな地位を打診された。
    「きょ、教主ですって? 私が?」
    「あんた以外おらんやろ」
     この10年間の間にさらに己が力を強め、誰一人逆らえぬほどの権勢を誇るようになった3世は、執務室の椅子にふんぞり返ったままで、ぴしゃりと言い切った。
    「央中天帝教の聖書について最も詳しく、最も研究しとるんは、間違い無くあんたや。そのあんたがやらな、誰がやるっちゅうんや」
    「3世、あなたの方が……」
     その提案に、3世はぺらぺらと手を振って返した。
    「そんなヒマも徳もあらへんからな。私がでけるんはカネ出して後ろ楯になることくらいや。ともかく、あんたが今日から『央中正教会』の教主、最高責任者や」
    「しかし……」
     口ごもるペドロをさえぎるように、3世は短く、しかし誰にも逆らえぬ語調で、こう続けた。
    「それで、ええな?」
    「……承知しました」



     こうして3世の強引な指名により、ペドロは央中天帝教を取りまとめる宗教組織、央中正教会の教主に任ぜられた。正教会は金火狐財団の管轄下にあり、依然としてペドロが3世の下に属する事実は変わりなかったが、それでも一組織の長である。ペドロには並々ならぬ信頼と敬意が向けられた。
     だが、それでもペドロは不満を抱いていた。それは地位に対してでも、3世に従属している境遇に対してでもなく、ひたすら己の仕事――聖書編纂に対してであった。
    「不足、……と考えているのですか?」
     すっかり髪も毛並みも真っ白になり、杖無しでは歩けぬほど老いさばらえたマルティーノ師に尋ねられ、ペドロは深くうなずいた。
    「ええ。エリザがゼロから姓を賜ってから、央中随一の権力者となるまでの経緯は、我々に可能な限りまとめ上げることができたと考えています。しかし逆に言えば、それだけなのです」
    「つまりラウバッハ君、君はそれ以前と以後の記録を集め、新たな聖書を作りたいと、そう考えているのですね」
    「その通りです」
    「ふーむ……」
     マルティーノ師は杖をいじりながら、思案にふける様子を見せる。
    「しかしそれ以前の記録、即ちエリザが『旅の賢者』モールに師事した頃については、全くと言っていいほど資料が存在しません。10年をかけてあれだけ探し回ったのです、その上で新たな資料を探ろうにも、見つけることはまず不可能でしょう。
     ですが一方で、エリザが央中の権力者となった後、中央政府との取引を本格化して以降についてであれば、恐らく央北を訪ねてみれば、多少なりとも集められるでしょう」
    「その点は私も考えていました。10年前であれば3世の力を以てしてもまだ、央北に強く働きかけることは難しかったでしょう。しかし世界全域に影響力を持つ立場となった今なら、例え央北天帝教であっても、3世の要請を断ることは、容易にできないはずです」
    「なるほど。……ラウバッハ君」
     マルティーノ師は笑みを浮かべながらも、しかし、どこかに毅然としたものをにじませる目で、ペドロにこう言った。
    「君は今や央中正教会の教主となり、央中天帝教を代表する立場にあります。である以上、央中天帝教を優位視する気持ちがあるのは、仕方の無いことです。そもそも、それ自体は咎められるようなことではありません。己の心の内は、誰にも侵されざるべき領域なのですから。
     ですが一方で、相手の内心には相手の信じるものが確固として存在することもまた事実であり、そしてそれは、誰にも咎め得ぬこと。それを侵すことは誰にも許されない、恥ずべき行いです。
     どうかそれを、忘れないようにして下さい」
    「……そうですね。銘肝します」

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    央中神学事始 8

    央中神学事始

    ペドロの話、第8話。
    恩師との再会。

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    8.
     央中、ゴールドコースト市国に着いたペドロを待っていたのは、かつての恩師だった。
    「お久しぶりです、ラウバッハ君」
    「え? ……あっ、もしかして!?」
     驚くペドロに、その老いた狐獣人はにこりと微笑む。
    「ええ、私です」
    「お久しぶりです、マルティーノ先生。……あっ、じゃあ3世が仰っていた『神学に詳しい情報筋』って」
    「そう言うこっちゃ」
     3世もニコニコしながら、経緯を説明してくれた。



     ペドロは元々、央北の小さな農村の生まれであったが、幼い頃から非凡な才能を現していた彼に大成の機会を与えるべく、両親は彼を学校のある大きな街へ住まわせた。そこで出会ったのが、このヘイゼス・マルティーノ師だった。
     彼は歴史学者であり、厳密には神学の徒ではなかったが、それでも4世紀の双月世界において「歴史」とは、即ち「宗教史」である。少なからず神学にも通暁していたマルティーノ師は、神学者を志したペドロに手厚い指導・鞭撻を施し、のみならず、神学府への仕官の道まで手配してくれた。ペドロにとっては、他ならぬ恩師である。だがペドロが投獄された後、彼の研究内容を徹底的に隠蔽・抹消しようと天帝教教会が画策していること、彼の関係者や知人が次々狙われていることを人づてに聞いたマルティーノ師は、息子一家を伴って央中へと逃れた。
     央中へ移ったマルティーノ師は、この地でも己の研究を続けるべく、央中の実力者・名家を頼ろうとした。央中の名家と言えばゴールドマン家とネール家が双璧であるが、折り悪く双月暦306年のこの時、両家は熾烈な争いを繰り広げている最中であり、どちらに付くこともできなかった。そこでマルティーノ師は両家よりいくらか格が落ちるものの、中央政府から「大公」の爵位を賜っており、名目的には央中における天帝の名代である第三の名家、バイエル家を訪ねた。
     結果的にこれは、マルティーノ師にしばしの平穏をもたらした。前述の通りバイエル家はゴールドマン家、ネール家に比べて何かと格下に見られる存在である。何かの形で隆興しようと常に図っていた同家は、歴史学の分野において高名なマルティーノ師を破格の待遇で召し抱え、研究を続けさせたのである。

     ところがこの安息も、310年代のはじめ頃に崩れた。この頃から央中では深刻な不景気、いわゆる恐慌が発生しており、バイエル家もこの不況の波に呑まれてしまったのである。とても不急の事業に予算を割り当てられるような状況ではなくなってしまい、当然、マルティーノ師も解雇されてしまった。それでもいつかもう一度召し抱えられることを願いつつ、数年分の蓄えと息子の収入でどうにか細々と研究を続けていたマルティーノ師だったが、ついに315年、彼の人生最大の好機が訪れた。

     この2年前、ニコル3世は前金火狐商会総帥を追い出し、ネール家息女との結婚によって両家の和平を実現させ、新たな総帥となっていた。そして総帥としての事業の第一歩として、ゴールドコーストにて金火狐財団を創設し、大商人としての基盤を確立した。
     己の地盤を固めた3世は、続いて央中恐慌からの脱出、そして央中全域を中央政府から独立させるべく、十重二十重の工作を仕掛けた。その一環として大公位を譲り受けるべく、彼はバイエル家を訪ね、ここでマルティーノ師と出会ったのである。
     既にこの頃から央中天帝教の興隆を考えていた3世は、マルティーノ師を聖書編纂事業の主筆、最高責任者として招こうとしたが、マルティーノ師はこう答えて辞去した。
    「聖書を一から作るとなれば、5年、10年で終わるような仕事にはならないでしょう。自分は既に高齢で、事業の完遂まで生きながらえることができるとは思えません。もっと若い人間を主筆に据えるべきでしょう。
     そもそも私は歴史学者であり、神学者ではありません。である以上、私が書く書物が『聖書』として扱われることは無いでしょう。聖書をお作りになりたいのであれば、本職の神学者に依頼されるべきではないでしょうか」
     そしてさらに、「仮に央北天帝教の神学府へご依頼なさったとしても、央中天帝教の聖書を作るなどと言う話に、快く手を貸すはずがありません。依頼するとすれば、神学府と関わりの無い人間でなければならないでしょう」と付け加えた上で、ペドロの話を伝えたのである。



    「……と、そこまではまだええとしても」
     3世は肩をすくめ、ペドロに目を向けた。
    「あんたが釈放されてからの足取りを追うんは、ホンマに苦労しましたで。雲隠れしたんちゃうかと思うくらい、どこに行ってしもたんか全然分かりませんでしたからな。ほんでもこうしてここまで連れて来たわけですし、これからは張り切って仕事してもらいますで」
    「は……はい」
     この時、ペドロはそこはかとなく嫌な予感を覚えはしたものの――自分を主筆に据えての新たな聖書編纂事業と言う、己のすべてを懸けるに値する未曾有の大仕事を目の前にしては、その予感に目をつむらざるを得なかった。

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    央中神学事始 7

    央中神学事始

    ペドロの話、第7話。
    神話の血筋。

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    7.
     ニコル3世は確かに、多忙の人であるらしかった。
    「……うん、ほんなら500万で事足りるやろ、送金するわ。……ほんでな、南海のアレやけど……さよか、それやったらロクミンさんとこに一筆書いたら十分やな。……ホンマかいな、ほな私の方から先方さんに連絡しとくから……」
     3世の本拠地、ゴールドコースト市国に戻る船の上でも、彼はずっと魔術頭巾を頭に巻き、あちこちと連絡を取り合っていた。
    「ほんでな、……あ、ちょいゴメンな、10分くらいしてからまた連絡するわ」
     と、手持ち無沙汰で甲板に突っ立っていたペドロと目が合い、3世は頭巾を外してちょいちょいと手招きした。
    「な、なんでしょうか?」
     やって来たペドロに、3世は「あんな」と前置きしてから、こう続けた。
    「君、ホンマに青春丸ごとドブに捨てたんやなって」
    「な、……何ですって?」
    「連れて来てから毎日ずっと、甲板の上で朝から晩までボーッとしっぱなしやないか。海鳥かてもうちょっと表情あるで?」
    「そう言われたって……」
     ペドロがまごついている間に、3世は近くの長椅子に腰掛け、ペドロにも座るよう促す。
    「ま、ちょいお話しようや」
    「はあ」
     素直にペドロが座ったところで、3世は渋い表情を浮かべつつ腕を組む。
    「素直なんはええ。ええけどもな、27歳の態度やないな、それ」
    「そうですか」
    「何ちゅうかな、君、ええ意味での『クセ』が無いねんな。淡白っちゅうか、単調っちゅうか。こんな言い方したらアレやろけども、ムショ暮らし終わってからずっと、他人の言うこと片っ端からハイ、ハイ言うて過ごしてきたんやろ」
    「そうですね」
    「その理由は? 『特に反対する理由も無いですから』とか、そんなんか?」
    「ええ、まあ」
    「そやろなぁ」
     3世は空を仰ぎ、それからペドロの肩をポンと叩く。
    「人が反対する理由は大抵、自分が持っとる考えと合わへんからや。その『自分の考え』ちゅうもんは、これまでの人生で積み重ねてきた経験が素になる。君が反対も何もせえへんのは、その積み重ねがほとんどあらへんからやろうな。ま、流石に央中天帝教の聖書作ってって話は断りかけたけど、逆に言うたら、君が今持っとるもんはそれ、ただ一つなわけや。
     私がこんなこと言うんは図々しいやろけども、央中に来たら、君には絶対、色んな経験さしたる。私に対しても、面と向かって嫌や言えるくらいにな」
    「はあ……」
     と、3世の狐耳がピク、と動く。どうやら耳に付けていた飾りが、通信術を検知したらしい。
    「なんやな、10分待てっちゅうたのに……。ほな仕事に戻るわ」
    「あ、はい」
     3世はそそくさと立ち上がり、また頭巾を頭に巻き始めた。
    「『トランスワード:リプライ』。はいよ、ゴールドマンや。……あのな、あのとかそのとかいらんから、ちゃっちゃと用件言うてや。……うん、うん、……あーはいはいはい、それか。ほんならな……」
     話しながら、3世はどこかに歩き去って行く。彼の付き人たちも、それに追従してぞろぞろと移動していった。
    (やっぱり僕なんかとは、生きてる世界が違うんだなぁ。それとも、彼が相当の変わり者なのか)
     長椅子に座ったままでその後姿を見送りつつ、ペドロはため息をついた。
    (そう言えばゴールドマン家は、エリザを開祖とする一族だったっけ。エリザも相当な変わり者だったらしいけど、……ああ言う性格は血筋なのかな? 何しろエリザは、悪口を言われても笑って返したって話だし。『大卿行北記』第3章で、ゼロ帝から密かに誹(そし)られていることをハンニバルから伝えられたエリザが『悪口は手立ての一切を失った者の、最後の悪あがきだ』と笑って返した、と。
     多分3世も、その逸話を引用したんだろう。彼は彼で敬虔なんだろうな、……多分)

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    央中神学事始 6

    央中神学事始

    ペドロの話、第6話。
    カネモチの力技。

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    6.
     ペドロが酒場を出たところで、ニコル3世は単刀直入に尋ねてきた。
    「どこで働いてはるんです?」
    「今はゴメス運送って言って、えっと、この通りを西に」
    「案内してもろてええです?」
    「あっ、はい」
     連れ立って歩き出したところで、3世は彼にいくつか質問する。
    「歳は?」
    「27です」
    「奥さんとか付き合うてる子とか、いてます?」
    「全然いません」
    「家は? ここには出稼ぎしとるとかそう言う話は?」
    「ありません。実家も追い出されました」
    「他に資産は、……あるわけあらへんな。ほな身一つっちゅうことですな」
    「そうなります」
    「なるほどなるほど」
     3世はチラ、とペドロを一瞥する。
    「あんたの話は、神学に詳しいある情報筋から聞いとります。『ヘンな研究していきなり投獄されよった子供がおる』と。旧政府下では期待の神童や何やと持てはやされとったけども、思想犯として10年に渡って投獄。ほんで3年前にタイカさん、……いや、カツミ氏の思想犯一斉恩赦を受けて釈放された、……っちゅうとこまではすぐ分かったんですが、その後の行方をたどるのには、ホンマ苦労しましたで」
    「はあ」
    「ほんでもさっきの答えを聞く限り、どうやら私の依頼を請けられるだけの力はちゃんと残っとるみたいですな。となれば後の心配は、身辺整理だけですな」
    「そうですね。でも」
     懸念を口にしかけたペドロをさえぎるように、ニコル3世が続ける。
    「私もそうヒマやありまへんから、ちゃっちゃと済ましてしまいましょ。……っと、ここですな?」
    「あ、はい。でもゴールド……」「邪魔しますでー」
     心配するペドロをよそに、3世はずかずかと事務所の中に入る。
    「なんだ? 今日はもう閉めてんだけど」
     事務所の奥から出てきた商会主に、3世が会釈する。
    「単刀直入にお話さしてもらいますで。ここのラウバッハ君ですけども、今日で契約期間、終わりにしたって下さい」
    「はあ?」
     途端に、商会主の顔に朱が差す。
    「何を寝言抜かしてやがる? そいつはあと3ヶ月はウチで……」「ほれ」
     相手の言葉をさえぎるように、3世はかばんから袋を取り出し、事務机にどかっと置く。袋の口からじゃらじゃらと音を立てて銀貨があふれてきた途端、商会主は目を点にした。
    「んなっ……!?」
    「これでどないです? 他に何や言うときたいこと、あらはりますか?」
    「……へ、へっへへへ」
     商会主はころっと態度を変え、ペドロにぎこちない笑みを向けた。
    「ご、ごくろうさん、ラウバッハ君! ありがとう! じゃあね!」
     商会主は袋をひったくるようにして抱え込み、そのまま事務所の奥へ走り去ってしまった。
    「はい一丁上がり。ほんで次、宿でしたな」
    「……え、……えー、……えええ?」
     ペドロは目の前で行われたことが現実とはとても思えず、呆然とするしかなかった。

     その後、宿屋でも同様のことを行い、ペドロの身辺はあっさり片付けられてしまった。3年間を素寒貧で過ごしてきたペドロには、「カネで言うことを聞かせる」などと言う話はどこか絵空事、自分には一生縁の無い、別世界の寓話程度にしか思っていなかったが、こうして実際に、ニコル3世が二度、三度とその「力技」を行使するところを見せ付けられ、すっかり辟易してしまった。
    「……なんか……その……何て言うか……汚い……って言うか……」
     思わず、ペドロはそんなことを口走ってしまったが、3世は意に介した様子をチラリとも見せない。
    「さっき言うた通りです。私は忙しい身ですからな、ごちゃごちゃ悪口陰口減らず口叩かれながらぐだぐだ交渉するより、二つ返事で了解してくれる方がええんですわ。向こうさんにしても、長々とごねられるよりも100万、200万をポンともらえる話をしてもろた方がありがたいでしょうしな。双方に利のある提案を、形として見せただけですわ」
    「……はあ」
     そう説明されても、ペドロにはまだ納得が行かない。しかし、彼の依頼を請けると言ってしまった以上は、彼のやることを黙って見ているしかなかった。

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    央中神学事始 5

    央中神学事始

    ペドロの話、第5話。
    大商人からの依頼。

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    5.
     狐獣人が名前を告げた瞬間、店内がより一層、しんと静まり返る。何故ならその男の名はあの克大火すら黙らせたと言う、世界最高の大商人のものだったからである。
    「……え……あ、あの、……あの、『ニコル3世』!?」
     世情に疎いペドロでも、流石に彼の名と評判は知っている。
    「そうそう、そのニコル3世です」
     男はこくりとうなずき、話を続けた。
    「ちょっとあんたに、聖書作ってもらいたいんですわ」
    「せ、聖書を作る、ですって?」
     おうむ返しに尋ねたペドロに、3世はもう一度うなずく。
    「ええ。ちゅうてもあんたが全巻覚えとるのんとはちゃいますねん。私が言うてるんは『央中』天帝教の聖書ですわ」
    「おう、……央中? と言うとあのニセモ、……あ、い、いえ」
     偽物、と言いかけて、ペドロは慌てて口をつぐむ。何故ならその言葉を耳にしかけた3世が、彼をうっすらとではあるがにらんできたからである。
    「まあ、熱心な央北天帝教の人からしたらそう思てはりますやろけども、こっちはこっちでちゃんとしたもんやと思てますからな?」
    「す、すみません」
     ペドロが深々と頭を下げ、ようやく3世は相好を崩した。
    「ほんでも確かに、ニセモンや、パチモンやと思われても仕方無いっちゅう面があることは事実です。その最たる理由の一つがズバリ、まともな教義が無い、聖書らしきもんが無いっちゅうことにある。私はそう思とるんですわ」
    「だから聖書を作る、と?」
    「そう言うことですわ。ほんでもこんな話を央北天帝教の、神学府におる正規の学者先生らに頼むわけに行かへんっちゅうことは分かりますやろ?」
    「そりゃまあ……そうですよね。間違い無く断るでしょう」
    「央中天帝教を本格的な宗教に仕立てていくっちゅう話ですからな。言い換えたら、相対的に央北天帝教の地位を貶めるっちゅう話になりますから、そら『まともな』神学者やったら誰かてええ顔はしはりませんやろな」
    「それで『まともじゃない』僕を、ですか」
     ペドロなりに、精一杯の皮肉を込めてそう返したが、どうやら3世は意に介していないらしい。
    「ええ。あんた以上の適任はまず、おりませんやろな」
    「……」
     閉口するペドロに構わず、3世は話を進める。
    「どないです? やってみはります?」
    「こっ、断ると言ったら?」
    「ほーぉ」
     3世は頬杖を付き、斜に構えている。
    「ほんなら何ですか、このまんま明日も明後日もその次の日も、マメとベーコンひと皿だけの日を繰り返したいっちゅうんですな?」
    「……いや、……言ってみただけ、……です」
    「ですやろなぁ」
     女将が大急ぎで運んできた酒と料理にチラ、と目を向け、軽く手を振って応じながら、3世は続ける。
    「そらまあポーズでも何でも、一応は断っとかへんと央北天帝教信者としての面目が立ちませんわな。ええ、承知しとります。……で、その上でですけども、ちゃんと引き受けてしかる程度の条件を提示さしてもらいます。編纂中は月給として5万クラム、完成した暁には10億クラムをお渡しします。それでどないですやろ?」
    「じゅ……10億っ!?」
     3世の言葉に、店内は三度静まる。その成功報酬額は、そこにいる全員が生涯遊んで暮らせるだけの、途方も無い金額であったからだ。
    「め……めちゃくちゃだ!」
     思わず、ペドロは叫ぶ。
    「なんで僕なんかに、そんなめちゃくちゃな金額を出そうとするんですか!?」
    「単純な話です」
     3世はまたもニヤ、と笑う。
    「この仕事は10億の価値があるからです。ほんなら10億出すんは当然ですやろ?」
    「本気で言ってるんですか?」
    「本気も本気、大マジですわ」
    「で、でもっ」
     自分でもそれが何故なのか分からないまま、ペドロは抗弁しようとする。それをさえぎるように、3世が声を上げた。
    「もっぺん言いますで。あんた、明日も明後日もその次の日も、また次の日も、そして10年後も20年後も、マメとベーコンひと皿の生活でええんですか?
     いや、もっとはっきり言うたりましょか。あんたは死ぬまで『僕は何のために生きとるんやろか』とグダグダ考えて過ごすつもりですか? あんた、ええ加減その問いに答え出したいんとちゃいますか?」
     この3年、心の中に渦巻いていた苦悩を言い当てられ、ペドロは絶句する。
    「……!」
    「それともペドロさん、あんたは悩むこと自体が大好きっちゅうことですか? 答えを出せへんまま死ぬまで頭ん中で悶々し続けたいっちゅうんやったら、もうこれ以上は言いまへん。このまま帰らせてもらいますわ」
    「……っ、あっ、あのっ、ニコルさ、えっと、あ、3世っ」
     また、ペドロは立ち上がっていた。
    「ぼっ、僕は、……僕は、……僕は……答えを……出したいです……!」
    「ほんなら契約成立っちゅうことでええんですな?」
    「そ、それはもう、是非、……あっ、で、でもまだ月雇いの契約とか宿のこととか」
    「あー、はいはい」
     3世も立ち上がり、店の入り口を指し示した。
    「ほんならちゃっちゃと済ませてしまいましょか。……っと、女将さん。後で彼、また来ますやろから、席とご飯はこのまんまにしといてや。お会計と騒がせ賃は今出しときますさかい。ほな、よろしゅう」
     そう言って懐から袋いっぱいの金貨を出し、ニコル3世はさっさと店から出て行く。ペドロも慌てて、彼の後に付いて行った。

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    央中神学事始 4

    央中神学事始

    ペドロの話、第4話。
    堕落した神童。

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    4.
     自由の身となったペドロであったが、残念ながらその前途が多難であることに変わりは無かった。
     若き英才、期待の新星であった神学者が一転、思想犯として10年も獄中で過ごしていたのである。当然の如く、故郷からは戻ることを拒否されたし、学問一筋で生きてきた24歳が今更、どこかの職人に弟子入りすることも難しい。ましてや古巣の神学府が、天帝教の根幹を揺るがしかねない研究をしていた男を再雇用するはずもない。
     自身の持つ知識を活かせる場を得られぬまま、ペドロは央北の町を転々としつつ、二束三文の日雇い、月雇いで口を糊する放浪者として、さらに3年を無為に過ごした。

     その日の晩も、10時間にわたってただただ物を左から右、右から左に運ぶ――としかペドロには感じられなかった――労働を終えたペドロは、場末の安酒場の隅っこで縮こまるようにして、マメとベーコンをぼんやりと口に運んでいた。
    (……僕は一体……何をやってるんだろうか……)
     本来なら飲酒の習慣を身に着けるであろう時期を丸ごと牢獄で過ごしたため、ペドロには酒の飲み方も楽しみ方も、頼み方すらも分からない。テーブルの上に乗っている飲み物はワインでもビールでもなく、ただの水である。
    (何が楽しいんだろう……?)
     チラ、とカウンターに目をやると、いかにも上機嫌そうな狼獣人と短耳の男がげらげらと笑っている様子が見える。ペドロは自身の短い耳をそばだて、彼らの言葉を切れ切れながらも拾ってみたが――。
    「……でよ、……馬が……大穴……」
    「マジかよ……ぎゃははは……」
     ペドロの偏った知識では、彼らが何について話しているのか、皆目見当が付かなかった。
    (馬が穴に落ちて何がおかしいんだろう……?)
     それ以上彼らの会話を聞く気にもならず、ペドロはテーブルに視線を戻した。途端に今日の稼ぎの半分を使って注文した、乾いたマメとしなびたベーコンが視界に入り、ペドロはげんなりした。
    (僕は何がしたい? 何ができるんだ……?)
     ちなみに稼ぎの残り半分も、宿代と朝食代を払えば消えてしまう。己の手に残るものが何一つない生活を3年続けてきたことに――そして恐らくは、これからの10年、20年、あるいは死ぬまで同じ生活がひたすら続くことに――絶望し、ペドロは無意識にフォークを握りしめていた。
    (……僕がもうこの世から消えちゃっても……何も変わらないよな……)

     繰り返すが、ペドロが今いるここは、場末の安酒場である。決して王侯貴族や大富豪の類が出入りするような、品のいい場所では無い。
     なので――ペドロがフォークを握りしめたとほぼ同時に、その赤いメッシュの入った金髪の狐獣人が酒場の入口に現れた時、酒場にいた客たちも、カウンターに立っていた女将も、揃って息を呑み、黙り込んでしまった。その「狐」の毛並みは間違い無く世界最大の豪商一族、ゴールドマン家のものだったからである。
    「あ、すんまへんな。お邪魔しますで」
     癖のある口調で断りを入れつつ、狐獣人は酒場の中を一瞥する。
    「……んー」
     どうやら誰かを探している様子だが、見付けられなかったらしい。あごに手を当て思案した様子を見せた後、彼はいきなりこう叫んだ。
    「大卿行北記、第5章1節!」
    「は?」
     いきなりそんなことを言われても、そこにいた客も女将も、誰にも答えられるはずが無い――ペドロ以外は。
    「えっ、……エリザはシェロを訪ねた!」
     なので、ペドロはフォークを放り出して立ち上がり、思わず回答していた。
    「シェロは戸惑い尋ねた! 何故あなたが今になって、私を訪ねた、のか、……と」
     店中の視線が自分に集まっていることに気付き、ペドロは口をつぐみかけたが、狐獣人は促してくる。
    「続き言うて」
    「はっ、はい! ……エリザは言われた。あなたはくじけてはならない。また、逃げてもならない。あなたの後ろを見よ、あなたには幾百の、幾千の兵士が付いている。彼らは皆、あなたが命を下すことを望んでいる。繰り返し、はっきりと言う。あなたは逃げてはならない。シェロは決意した。エリザ、私はあなたのことばに従う。どんな頼みも引き受けよう。エリザは微笑まれた」
    「完璧ですな」
     狐獣人はにぃ、と口の端を上げ、ペドロの対面に腰掛けた。
    「なんですのん、ええ歳したお兄ちゃんがこんなシケたご飯食べはって……。もっと精の付くもん食べよし。女将さん、酒とご飯出したって。どっちも一番高いのん出してや」
    「しょ、少々お待ちを!」
     女将が血相を変え、大慌てで料理を作り出す。狐獣人はペドロに向き直り、もう一度ニヤ、と笑ってきた。
    「あんた、ペドロ・ラウバッハさん?」
    「え!? そ、そうですが」
     名前を言い当てられ戸惑うペドロに、狐獣人は己の名前を告げた。
    「私はニコル・フォコ・ゴールドマンっちゅうもんですわ。ちょとあんたに、頼みたいことがありましてな」

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    央中神学事始 3

    央中神学事始

    ペドロの話、第3話。
    「悪魔」の治世、その実情。

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    3.
     男がいなくなった後、ペドロは密かに、独房で聖書の暗誦を始めた。最初はほとんど思い出せず、己の衰えに愕然としたが、それでもかつて神童と謳われた青年である。
    「……第5項、ハンニバルは嘆き、己の情況を呪った。第6項、ハンニバルの前に狐の女が現れた。エリザであった。第7項、エリザはハンニバルを救い、ハンニバルに告げた。第8項、ハンニバル、剣を収めよ。敵は皆、昏倒させた。戦いは終わったのだ。第9項、ハンニバルはエリザに礼を述べた。エリザはハンニバルを抱きしめ、その苦労をねぎらった。第4章第1節第1項、……」
     記憶の糸を必死にたぐり、悪戦苦闘していたのもほんの2、3ヶ月の間であり、一度思い出してしまえば、聖書はペドロの頭の中に、ふたたびしっかりとしまい込まれた。
    「……ゼロはハンニバルに命じた。兵を率い、ノースポートを奪還せよと。……あ、もう日が暮れるな」
     明かり取りの狭い窓から差し込む光が赤みを帯びていることに気付いたところで、ペドロはぴたりと黙り込んだ。

     神学への希望と意欲を取り戻したペドロは、自らに「行」を課した。牢獄に日の光が差すと同時に聖書の暗誦を始め、日が落ちるまで延々と、休み無く続ける。その行が何の意味を成すのか、何が報われるのかは、彼本人にも分からない。それでも彼は、己の心に現れた希望の光を絶やさぬため、そして己が会得した唯一の技術を失わないために、毎日暗誦し続けた。



     その祈りが天に通じたのか――あるいは悪魔に通じたのかも知れないが――ついに双月暦314年、報われる時が訪れた。
     この年、中央政府は反乱組織によって首都への攻撃を受けた。その混乱の最中、最高権力者であったオーヴェル帝は部下に背かれ、暗殺された。首脳を失った中央政府は反乱軍に無条件降伏を決定し、反乱軍のリーダーであった元中央政府政務大臣、ファスタ卿に全権を明け渡した。ところがこのファスタ卿も謎の失踪を遂げてしまい、彼の側近であった「黒い悪魔」――克大火がその全権を奪取した。
     これにより、二世紀半にわたって神の威光を背にしてきた中央政府は崩壊。克大火を主権・最高意思決定者とする、一種の君主制に移行したのである。

     悪魔と畏れられた克大火であったが、政治運営のみに限定して述べるのであれば、彼は悪魔どころか民衆の英雄であった。
     まず彼は天帝一族と天帝教総本山を央北のはずれの街、マーソルに追いやり、また、中央政府の要職に就いていた高僧らも、軒並み罷免。中央政府全体にはびこっていた天帝教勢力を、完全に排除した。これにより「寄進」と称した悪質かつ無法な徴発・徴税は一切行われなくなり、人民の暮らしは大いに安定・向上した。
     その他、信教の自由を約束する、央中・央南の独立を承認するなど、彼は中央政府の主権でありながら、その中央政府の絶対的地位を自ら揺るがし、小規模化させるような――言い換えれば、人民を絶対的権力による支配体制から解放させ、その自由と権利を大いに認めるような施策を次々に行った。結局はそれがために316年、克大火は中央政府から「特別顧問」として主権の地位から退くように要請されてしまったが、この2年間に行われた政策は悪魔的どころか、後年の政治学においても「歴史上稀に見る善政」とまで評されるものであった。

     そして天帝教の敬虔な信者たるペドロにとっても、克大火は悪魔ではなかった。
     この2年間の自由主義的施策の一環として、克大火は政治犯・思想犯の恩赦を命じていた。即ち「黒い悪魔」の鶴声によって、ペドロは10年ぶりに、太陽の下に出ることができたのである。

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    央中神学事始 2

    央中神学事始

    ペドロの話、第2話。
    牢の中の信仰。

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    2.
     ほとんど外の光も入って来ない、常にひんやりとした湿気に包まれた牢獄の中で、ペドロは絶望していた。
    (僕の……僕の人生は……神学の世界で業績を挙げ、神学史に名を残すと言う僕の夢は……全部終わってしまった)
     中央政府の下では死刑、もしくは終身刑に課せられた人間には、慈悲も温情も一切与えられることは無い。一日二度の食事以外には、本も新聞も、紙一枚すらも与えられず、ましてや牢から出て自由行動や運動の機会が与えられることも、決して無い。
     ペドロもその例に漏れず、たった3メートル四方の、昼とも夜ともつかない、永遠に続くようにも思える無の世界に閉じ込められていた。そんな虚無にあっては、どんな知性もどんな意欲も、まるで意味を成さない。外の世界では常に聖書に触れ、その一言一句と真摯(しんし)に向き合ってきた神童ペドロも、この何も無い空間では何一つ、物を成すことはできなかった。



     そうして絶望に飲み込まれ、毎日をただ寝て過ごすばかりだったペドロの短い耳に――ある時、若い男の声が、切れ切れながらも届いた。
    「……そんな非道が……世界中が犠牲に……」「おい、うるさいぞ!」
     どうやら政治か何かを憂う男が、世の不条理に対して嘆き叫んだらしかったが、すぐに看守の怒声と、分厚い扉を蹴る音にさえぎられる。
    (無駄なことを)
     既に何ヶ月も独房の中で過ごし、最早聖書の文言を何一つ思い出せなくなっていたペドロは、その男の行いをただの愚行とあざけった。
     しかし男の声は、その後も度々続いた。他に聞くものも無いため、ペドロは男の話をぼんやり聞いていた。既に知性を失いかけていたペドロではあったが、それでも男の言葉に、錆び付きかけていた脳を動かし、思考を巡らせていた。
    (どうやら政治家だったらしい。誰か偉い人に逆らったか何かしたようだ。陛下と言っていた。まさか、天帝に楯突いたのだろうか? 馬鹿だな。逆らったらどうなるか、子供でも分かるだろうに。
     他にも誰か……エンターゲートとかバーミーとか……知らない名前だ。世界がその二人に牛耳られるとか何とか……もしかしてこの人、発狂でもしていたのだろうか? 僕にだって、世界が広いと言うことは分かっている。この大きな世界が、たった二人のモノにされてしまうなんてことが、あるはずが無い。誇大妄想もいいところだ。
     でも……何だか、声は真剣そのものだ。聞く限り、狂っているようには思えない。……彼は彼で、頭のいい人なのかも知れない。その頭の良さで、僕みたいな政治の門外漢にはさっぱり理解できない、何かを悟ったのか。
     でも、……だとしたら、何? こんな独房の中でどんな真理に行き着いたって、結局は無駄になるだけじゃないか。やっぱり、彼は馬鹿なんだろうな)

     しかし男の声が聞こえ始めてから、何週間か経った頃――突然、牢獄に爆音が轟き、ペドロは驚いて目を覚ました。
    「なっ……何!?」
     ペドロは分厚い扉に張り付き、高さ5センチもない窓に顔を押し付けて、音がしたらしい方を凝視した。
    「な、な……!?」
     男の声がする。そして彼に応じるように、別の男の声が聞こえてきた。
    「二度も言わせるな」
    「あ、う、うん」
    「さっさと逃げるぞ」
     もうひとりの男の言葉に、ペドロは驚愕した。
    (『逃げる』……!? だ、脱獄した!?)
     聞き間違いではないかと自分の耳を疑い、ペドロは耳を澄ませたが――それきり、どちらの声も聞こえなくなった。



     その後のことを知る術(すべ)はペドロにはなく、また当然ながら、誰かから伝えられるようなこともなかったが、それでもその日以来、あの男の声が聞こえなくなったことから、彼が脱獄したらしいことだけは確かだった。
     そしてそれが、ペドロの心にも一筋の光をもたらしたのだ。
    (あの男は毎日……毎日、世界を憂う言葉を口にしていた。毎日、己の身ではなく、この世にあまねく人々のことを思っていた。僕はそれを愚行だ、馬鹿な行いだとあざけっていたけれど、……果たして本当に、本当に、そうだったのか? あの男は己の境遇に絶望することなく、世界を救うことを本当に願っていた。こんな闇の中にあって、それでも世界を救わんとしていた。だからこそ神が――違うのかも知れないけれど、とにかく何かが――手を差し伸べたのだろう。
     僕はどうだ? 何かを成したか? いいや、成そうとしたのか? あきらめていたじゃないか。何も出来やしないと、すべてを捨てて寝転がっていただけじゃないか!
     僕も、……僕も何かをやろう。今、自分にできる、何かを)

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    央中神学事始 1

    央中神学事始

    新連載。
    若き天才の転落。

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    1.
     ペドロ・ラウバッハは神童であった。齢12の時には既に天帝教の聖書すべてを諳(そら)んじていたどころか、当時既に定番の議題となっていた「ゼロ帝の閏週矛盾問題」に新たな説を提示し、神学府をざわつかせていたのである。
     それだけの稀有な才能と優秀な頭脳の持ち主を、絶大な権勢を奮い世界の支配者として振る舞う中央政府、そしてその中枢に位置する天帝教教会が放っておくはずもなく、彼は13歳にして神学府の研究者としての地位を与えられた。
     そして翌14歳の時、彼は要請を受けて、晩年のゼロ帝についての研究に着手した。「ゼロ帝は崩御の数年前から魔物にすり替わっていた」と言う聖書最後部の寓話――あの有名な「ゼロ帝偽勅事件」がどこまで真実であるのかを探ろうとしたのである。と言っても彼は寓話そのものを創作上のものだと疑っていたわけではなく、あくまで「どの勅令を発したところまでが本物のゼロ帝であったのか、即ち晩年に発された勅令には天帝としての正当性があったのか」を見極めるためである。

     これは中央政府の、いや、正確には代々の天帝の権威・権能に関わる、重大かつ重要な研究であると言えた。何故なら天帝の勅令と言動は、原則的に古い代に絶対的正当性があるとされており、古代の天帝が下した決定・決断を後世の天帝が覆すことは、決して許されていないからだ。
     だが当然、過去と現在では慣習・風習は異なる。古代の常識と習慣に則って行われたことが現代でも通用するとは限らず、むしろ文明・文化発展の妨げとなることも、往々にしてある。天帝本人にしても、一々馬鹿正直に代々天帝の言葉を忠実に守っていては、まともな施政・施策など行えるはずもない。そこで新たな天帝は、古い天帝たちの言動にどれほど正当性があるか――いや、「どこまで正当性を疑えるか」「どこまで正当性を廃せるか」を、専門家たる神学者たちに論じさせ、言質を取るのである。
     加えて、時代は双月暦305年――8代目天帝、オーヴェル帝が即位した直後である。彼ははっきり言えば愚鈍の類であったが、それでも彼なりに正義感を燃やしており、腐敗にまみれた政治を憂いていた。そこで即位してまもなく、彼は大改革を志し積極的な行動に出ようとしていたのだが、周囲の大臣たちはその行動の一つひとつを「それは初代の考えに反します」「4代の時に禁止令が出ております」などと言葉を立て並べ、ことごとく中止・撤回させていた。
     その度重なる妨害に業を煮やしたオーヴェル帝は、ついにはこう怒鳴った。「おことば、おことばと申すが、そのおことばは果たして本当にお歴々の帝たちが発されたことか!? 周囲の有象無象が神聖なるおことばを曲解し、己に都合良く書き換えたのではないのか!? 明確なる論拠を示さねば、朕は絶対に納得せぬぞ!」
     こうしたオーヴェル帝からの鶴声も受け、ペドロは意気揚々と自分の研究に没頭していったのである。

     ペドロは中央政府の古書庫に遺されていたゼロ帝の勅令状を確認し、彼のサインを鑑定した。その筆跡から、どの辺りまでがゼロ帝本人で、どの辺りから魔物にすり替わっていた偽物であるのかを見極めようとしたのである。そして700通以上にわたる勅令状を一つ残らず鑑定し終え――そのサインがすべて同一人物によって書かれたものであること、即ちこれら700あまりの勅令すべてを、間違い無く本物のゼロ帝が発していたことが分かってしまった。
     結論から言えば、この事実の発覚は天帝教にとって非常に好ましくないことであった。何故なら晩年のゼロ帝が下した勅令には苛烈かつ非人道的、加えて非常識なものも少なくなく、これを本当にゼロ帝本人が発したものであると天帝教教会が正式に認めれば、それまで完全無欠、無常の仁愛に満ちあふれた天帝教主神としてのイメージが、大きく損なわれてしまう。そうなれば、ただでさえ中央政府の腐敗で傾きかけている天帝教の評価・権威が、決定的に失墜しかねないからである。



     天帝教教会は大慌てで、完成直前であったその論文を焼却した。のみならず中央政府に働きかけてペドロを拘束させ、彼に「天帝家の権威失墜を企んだ思想犯」としての濡れ衣を着せ、それまでの輝かしい経歴をすべて真っ黒に塗り潰した挙げ句、終身刑を課して牢獄へと追いやったのである。
     ペドロの命運は、14歳にして尽きてしまった。

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    2021年3月携帯待受

    携帯待受

    nissan silvia k's s13

    nissan silvia k's s13

    nissan silvia k's s13  nissan silvia k's s13

    2021年3月の携帯待受。
    日産の'89年式シルビア。

    '90年代までの日産スポーツカー御三家と言えば、
    スカイライン、フェアレディZ、そしてこのシルビアかなと思います。
    今のところ3台とも描く予定はしていますが、
    もし「それは御三家とは言えない」「もっと似つかわしいクルマがある」
    など、ご意見があれば是非お寄せ下さい。
    リクエストもお待ちしています。



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    双月千年世界 徒然考察;『宗教・2』

    世界観・補足・考察

    小鈴「はーい1ヶ月ぶりー」

    パラ「正確には28日経過しております」

    小鈴「似たよーなもんよ。んで、よーやく短編まとまったから、
    来週月曜から連載ですって」


    エリザ「ふっふっふ」

    小鈴「なーんか得意げなカオしてるわね」

    エリザ「アタシがチョコチョコ出る話やからな。
    ちゅうてもアタシ本人やないけども」


    パラ「正確には聖書中の人物として描写されるとのことです」

    エリザ「つまり女神サマや、ふっふっふ……」

    小鈴「へーへー」

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    小鈴「ま、そんなワケで前回の続きやるわよ」

    エリザ「前回は大体こんな感じやったな」

    1. 双月世界の宗教はほぼほぼ「天帝教」
    2. その天帝教も央北派と央中派に分かれとる
    3. その他の宗教、無くは無いけど目立たへん


    小鈴「ま、そんな感じかしらね。
    んで、前回の終わり際に『黒炎教団』の名前が出たトコで区切ったワケだけど」


    パラ「その話に移る前に、黒炎教団の『現人神』について説明いたします。
    教団において神格視されたのは、克大火様。世界最強の剣士兼魔術師であり、
    双月千年世界においては、全編においてジョーカーと言う位置付けがなされております」


    エリザ「なんや、ゼロさんとは別系統の魔術を使てるっちゅう話やったな。
    性格はやられたらやり返す、善意も悪意もみんな倍返しやー、な感じ」


    小鈴「色々すごいんだか胡散臭いんだか、……な人物像だけど、
    ソレが却ってカリスマに映ったんでしょーね。
    実際、『火紅狐』じゃ中央政府のトップになって政治を動かしたコトもあるし」


    パラ「その際に天帝家一族と総本山が僻地に追いやられる、中央政府内の要職から高僧を一掃するなど、
    克大火様は央北天帝教の徹底的な無力化政策を執っております」


    エリザ「ソレが央北天帝教の勢力減退の一因になったワケやな」

    パラ「そして双月暦340年、黒炎教団の誕生により、宗教界における勢力図はさらに激変いたしました。
    特に影響を受けたのは央中天帝教です」


    エリザ「なんで?」

    小鈴「央中天帝教の(本来の意味での)メッカはゴールドコースト市国。
    んで、黒炎教団が総本山を構えたのがソコからほど近いカーテンロック山脈なのよ」


    エリザ「ちゅうコトはアレか、目の前にライバル店みたいな感じになったんやな」

    小鈴「そーゆーコト。ココら辺の話は短編で詳しく説明するけど、
    色々あって央中天帝教の中で揉めてた時期に、丁度教団ができちゃったのよ。
    となれば、いっそのコト改宗しちゃおうって動きも出るワケで」


    パラ「その結果、黒炎教団は誕生まもなく勢力を拡大し、
    双月世界の宗教勢力図における、天帝教の一強体制が崩れることとなります」


    エリザ「つまり克くんが央北のんも央中のんもまとめて、
    天帝教をヘコましてもうたんやな」


    小鈴「そーなるわね。その後も黒炎教団は時代が進むにつれてさらに勢力を強め、
    『白猫夢』では西方とか、中央大陸外にも手を広げる大組織に成長。
    つくづく克さんの影響力、半端無いわね」


    エリザ「流石のアタシでもソコまで人気獲得でけるか分からんな。
    ……(チラッ)」


    小鈴「(チラッ)」

    パラ「(同様に音調室の方をチラッ)」

    天狐(……なんだよ?)

    三人「ニコニコ」

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    小鈴「双月世界についての宗教はこんなトコかしらね」

    エリザ「他んトコも掘り下げてもええかもやけど、ほぼほぼマイナーやしな。
    あんまりおもろいコトにはならんやろな」


    パラ「双月世界の宗教に関しては、現状で天帝教と黒炎教団の2系統を押さえていれば、
    不足が無いものと思われます」


    小鈴「ってワケで来週月曜、2月15日から双月世界短編、『央中神学事始』を開始するわよ」

    エリザ「中身どんなん?」

    パラ「とある神学者の生涯を通して、2つの天帝教の変遷を追う物語です」

    小鈴「詳しいコトは次週! 乞うご期待ってコトでよろしく」

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    覚書;2021年2月現在のPC構成

    雑記



    前回から約半年、PCにちょっと手を加えたりなんだりしたので、改めて現在の状況を紹介。

    前回からの変更点。
    1. 水冷PCの水路をソフトチューブからハードチューブに換装。
      かわいいきつねストラップをアクセサリに加えました。
    2. リザーブタンクを中華性のやっすいのから自作品に換装。
    3. グラフィックボードがASUS ROG-STRIX-RX580-O8G-GAMING(以下、RX580)から
      ASUS ROG-STRIX-RX570-O4G-GAMING(以下、RX570)にダウングレード

    なお3.についてですが、ハラの立つ出来事がありまして。
    以下、その経緯。
    • amazonでRX580を購入。

    • 使い始めて3ヶ月もしないうちに故障。

    • 製造元に問い合わせたところ「当該製品は日本輸出版ではないので
      日本法人では対応できない」との返事をもらう。

    • どうやら海外の業者がamazonに出品したもの(海外版)を買ってしまった模様。
      当然、日本法人の対応対象外。

    • どうしようもないので以前使用していたRX570と取り替える。

    • amazonは海外の製品も買えてしまいますからね……。
      今後は十分に気をつけて購入しないといけませんね。
      おかげで3万円をドブに捨ててしまいました。



      また変更があれば、報告する予定です。

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    イラスト;シュウ(双月千年世界、4回目) & 小鈴(蒼天剣、6回目) / なんでわたしが運ぶんですかー

    双月千年世界

    チャイナドレス描きたい発作に襲われました。



    うちでチャイナドレスと言えば小鈴。着てもらいました。
    ついでにシュウにも。



    小鈴「はい、桃まん。アンタの次回作出演祝いよ。みんなで食べましょ」
    シュウ「じゃなんでわたしが運ぶんですかー。しかも店員さんのカッコまでして……」
    小鈴「いーじゃん。気分出るでしょ」
    シュウ「少なくともわたしのお祝いの気分じゃないですよぉ」
    小鈴「はいはい文句言わない。さー運んだ運んだ」
    シュウ「はぁーい」

    ランニャ「アレって何かさ、女主人と丁稚って感じだよな」
    パラ「シュウと小鈴の体格差がそのように想起させているものと推察されます」
    エリザ「天狐ちゃんも着てみるか? どっちも似合うで、きっと」
    天狐「やめろよ……」

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    そうかー、にゃーんかー

    今日の旅岡さん

    今回は黄輪雑貨店内での、セルフクロスオーバー。
    そして年賀状の回答編。



    旅岡「アンタドコから来たん?」
    ねこ車掌「にゃーん」
    旅岡「そうかー、にゃーんかー。アンタなんで駅長さんみたいな帽子被ってんのん?」
    ねこ車掌「にゃーん!」
    旅岡「触ったらアカンかー、ゴメンゴメン」
    ねこ車掌「にゃーん」
    旅岡「帽子に手ぇ出さんかったらアンタ、ホンマ大人しいコやね。ほれ、こちょこちょ~」
    ねこ車掌「ごろごろ……」



    旅岡さんは「他人の『されて嫌なこと』」がピンと来る娘である。
    なので基本的に、他人が嫌う行動はまず執らない。
    それが誰とでも仲良くなる秘訣なのだろう。

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    2021年2月携帯待受

    携帯待受

    honda city turbo ii

    honda city turbo ii

    honda city turbo ii  honda city turbo ii

    2021年2月の携帯待受。
    ホンダのシティ・ターボII。
    以前にも待受にしましたが、今年のテーマである
    「80年代日本スポーツカー」の条件に適うクルマだったので、今回2度目の採用。

    3,420×1,625×1,470mmの小さめボディに1.2Lのターボエンジンを搭載した、
    かなり趣味の尖ったクルマ。
    2000年以前のホンダの悪いクセが出たと言うか、
    斬新なコンセプトの意欲作と言うべきか……。

    リクエストはまだまだ受け付けてますので、
    「コレが見たい!」と言うものがあれば、コメントをお願いします。



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    双月千年世界 徒然考察;『宗教・1』

    世界観・補足・考察

    小鈴「久々の考察始めるわよ。
    何でも『前回やったのが半年前なのでそろそろやっとかないと設定全部忘れそうだから』ですって」


    ランニャ「なーんだそれ」

    パラ「前回考察が行われたのは2020年6月1日。正確には224日ぶりとなります」

    小鈴「そんだけ前だと色々忘れるわよね」

    ランニャ「やるって言うならやるんだけどさ、今日は何話すの?
    また適当に話して思いついたら、みたいな感じ?」


    パラ「今回は事前に議題が用意されているようです」

    小鈴「そ、そ。今書いてる小説が『宗教』をテーマにしたヤツらしいんだけど、
    双月世界の宗教って天帝教しか無いのかってコトを考えたいらしいわよ」


    ランニャ「無くなくない? だって『蒼天剣』で神道とか禅とか言ってたし、小鈴は巫女服着てるし

    小鈴「ソコら辺を、小説掲載前にまとめときたいんですって。
    『いつかやりたいなーとは思ってましたし、丁度いい機会か』っつって」


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    パラ「現在、即ち『蒼天剣』から『琥珀暁』までの4作品終了時点において、
    最も多い宗教人口を獲得しているのは、天帝教とされております。
    また、その天帝教も、央北天帝教と央中天帝教に二分されております


    ランニャ「央北天帝教ってのがゼロ・タイムズを主神とするヤツで、
    央中天帝教はエリザが主神ってヤツだよな」


    小鈴「現実世界で言うカトリックプロテスタントみたいなもんね」

    パラ「また、その他の宗教は、天帝教に比べて非常に少数派となっております」

    小鈴「コレは1世紀に天帝教が世界進出してたって理由が大きいわね。
    土着の宗教が発展して権力握る前に、天帝教が幅を利かせて潰しちゃったって感じ」


    ランニャ「他の地域でデカい船造れるかどうかって技術しか無いのに、
    魔術って武器を引っさげて押しかけたら、そりゃそうなるよな」


    小鈴「ソレも現実世界で例えるなら、日本に来た宣教師が火縄銃じゃなく、
    マシンガンとロケットランチャー持って来たよーなもんよね。しかも実質、弾数無制限で撃ち放題のヤツ」


    ランニャ「戦国時代どころの騒ぎじゃないよなぁ、それ」

    小鈴「下手したら宣教師が天下統一しちゃうわよね。
    ソレくらいの戦力差なんだから、現地の人たちが持ってた文化なんて消し飛んじゃうわね」


    パラ「とは言え、他の宗教がすべて根絶されたわけではございません。
    ごく少数ながらも、存在する描写が散見されます」


    小鈴「つってもやっぱりメジャーじゃないけどね。残ってるのは央南と西方くらい」

    パラ「前者は天帝教勢力がいわゆるハーツ&マインドに失敗した結果と考えられます」

    ランニャ「はーつあんどまいんど?」

    小鈴「元は軍事用語よ。
    ざっくり言うと、進攻しようとしてるトコに住んでる人たちと仲良くなって、
    戦闘せずに進軍を完了させようって作戦ね。
    エリザが『琥珀暁』でやたらやってたアレよ」


    ランニャ「あー、なるほど。央南の時はエリザいなかったもんな」

    パラ「後者については――いずれ本編ないし現在制作中の番外編で言及する可能性もございますが――
    天帝教の西方進出が芳しくなかったことが原因とされます」


    小鈴「コレもまだ設定段階の話だけど、
    西方進攻したのは1世紀後半か2世紀くらいで、エリザ没後の話。
    やっぱりハーツ&マインドが徹底されてなかったのよ。
    で、外国人大嫌いな現地のヒトたちと大喧嘩になって、
    西方の端っこの国と友好関係結ぶのが精一杯って結果になった、と」


    ランニャ「で、それ以外の国に元からあった宗教は、そのまんま残ったってことか。
    あたしもその話、どっかで聞いたかも


    小鈴「そんなワケだから、『火紅狐』時点までは、天帝教が世界のシェア9割って感じね。
    残る1割はどうにか残ったけど、他の地域に進出するほどの力も無いって感じ」


    パラ「しかしその後の時代にて、宗教の勢力図は大きな転換点を迎えることとなります。
    克大火様を主神、現人神とする、黒炎教団の出現です」


    小鈴「ソコも話してくとなると、一回じゃ足んないわね。
    ココら辺で区切って、次回に続くって感じかしら」

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    可愛いっちゃ可愛いけど

    今日の旅岡さん

    昨年暮れから、クリスタの仕様把握を続けています。
    使えば使うほど、フォトショップとは比べ物にならないくらいの便利さを感じます。
    3Dデッサンモデルまで付属してるって……すごいなぁこれ。

    そんなわけで今回描いたのがこちら。

    「あつまれ どうぶつの森」で作ったマイデザインを元に、
    夜狼さんを描いてみました。

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    虎海さん家にお招きされた夜狼さん。
    共通の趣味である「ミリタリーもの」の新作が仕上がったと聞かされ、喜び勇んで試着に応じたものの――。

    夜狼「ねえ、ミヤ?」
    虎海「はい」
    夜狼「あんた、『軍服ワンピの新作で』可愛いのって言ったわよね?
    いや、そりゃ可愛いのは確かに可愛いんだけどさ、でもこれふつーにただのドレスじゃないの。
    どこにミリタリー感あんのよ? 可愛いけど」
    虎海「……やはり、そうですわよね。わたくしも妙と感じておりましたけれど」
    夜狼「いちお、ブーツも履いてみたけどさ、まあ、似合わなくも無いっちゃ無いわよ?
    でもあんたさ、これ着てサバゲは無理でしょ」
    虎海「さようですわね。仕立てた方も、そのような用途は考慮されていらっしゃらないでしょう。
    恐らく発注の折に、何かの行き違いがあったのではないかと」
    夜狼「で、どーすんのよこれ? 可愛いっちゃ可愛いけど」
    虎海「そうですわね、……では、そちらは奈々に差し上げます」
    夜狼「へっ?」
    虎海「恐らく仕立て直しを命じたとしても、そのドレスは廃棄されてしまうでしょうし。
    廃品を押し付けるような形で申し訳無く存じますけれど、
    もし奈々がお気に召したようであれば、是非お使いいただいた方が喜ばれるでしょう」
    夜狼「いや、でも、……マジで言ってんの? そりゃもらえるなら嬉しいっちゃ嬉しいけどね」

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    色違い。



    虎海さんと夜狼さんはミリタリー界隈の、同好の士。
    予定が合えば二人でエアガン担いでサバイバルゲームに参戦する仲。
    ちなみに虎海さんの愛銃はシグのSG552。最前線に乗り込んで暴れ撃ちするため、
    仲間内では『突撃姫』と呼ばれて頼りにされる。
    そして夜狼さんの愛銃はH&KのPSG-1。吶喊した虎海さんを迎え撃とうと動いた相手を次々仕留めるため、
    仲間内では『狙撃騎士』と呼ばれて畏れられている。

    そんな二人の最近のブームは、軍服ワンピでサバゲしつつ撮影する女子会。
    「意外と同じ趣味の『同志』が多くてね、最近このジャンル、アツいのよ」



    ……とか何とか顔を上気させた夜狼さんに聞かされたものの、
    興味の無いことは全力でスルーする旅岡さんは、聞いて3秒で忘れた。

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    2021 あけましておめでとうございます

    雑記



    新年、あけましておめでとうございます。
    本年もよろしく、お願いいたします。

    例年通り、謹賀のご挨拶としてドット絵イラストを掲載します。
    今回の舞台はどこでしょう?

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    そのまんまお正月までこもる気やわ

    今日の旅岡さん

    年の暮れ。
    旅岡さん家も、大掃除やらおせちの準備やらで大忙し。



    旅岡さん「おかん、こっちのレンコンさんは全部輪切りでええんやな?
    ほんでもういっこは乱切りやんな、おっけおっけ」



    ちなみに何やかやと言い訳を付け、円さんは年末も大江さんを引き連れて、旅岡さん家に押しかけています。
    その分、お年玉は弾んでくれるようですが……。
    「せやないと困るわ。今も掃除手伝わんと、おこたで双葉とゲームしとるし。
    あれ多分、そのまんまお正月までこもる気やわ」

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    イラスト;小鈴(蒼天剣、6回目) & エリザ(琥珀暁、7回目) / アンタそーゆーヤツだったわね

    双月千年世界

    DWも無事に一段落したので、考察メンバーのイラストリレーを再開。

    今回はエリザと小鈴。

    小鈴「なんかさー、こっちの世界でくり……きんとん? みたいな名前のイベントあるみたいよ」
    エリザ「甘そうな名前やな」
    小鈴「天狐ちゃんに聞いたら、『なんだっけ、こっちの偉い人の生誕祭だってさ。オレも良く分かんねーけど』だってさ」
    エリザ「さよか」
    小鈴「みんなパーティしたいって言ってたけど、アンタどーする?」
    エリザ「言うても知らん人の誕生日祝いやんなぁ」
    小鈴「ま、そーよね。んじゃ……」
    エリザ「お祝い事やったら乗っかったらええやんか」
    小鈴「……アンタそーゆーヤツだったわね。んじゃあたし、ケーキか何か作るわ」



    黄「あのテーブルのヒトたち、なーんか聞いたコト無い言葉でしゃべってるのよね」
    兎波「え、マジすか?」
    兎倉「姐さん、確か6ヶ国語行けましたよね?」
    黄「7よ、7。でも全然分かんないねー。一体ドコの国のヒトたちなの……?」

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    宣伝;三度「DW」を書籍化しました

    雑記

    https://www.amazon.co.jp/dp/B08R35BKQ3

    完結から1週間、早くも最終作を含めた電子書籍「DW III」が発売されました。
    今回も書籍化に合わせて加筆修正を行うと共に、
    書き下ろし小説「OUTLAW WESTERN 3」を掲載しています。



    ……どっちも誰だか分からない?
    そんな方は、「妄想の荒野」の代表作、「荒野の放浪娘」を全編チェックしましょう。
    そう、今回は矢端さんにお願いし、あちらのサイトのキャラクタに出演していただきました!
    完全に僕のオリジナルとはなっていますが、このキャラが好きと言う方にも、
    きっと楽しんでいただけるような内容になっていると思います。
    (ただ、「荒野の放浪娘」シリーズは、矢端さんの作品の中でもかなりハードでセンシティブな内容が含まれるので、
    初めて読む方には相応の注意が必要ですが)
    そしてもう一人の正体については、……読んでからのお楽しみ、と言うことで。

    今回も価格は600円。ぜひお買い求めを!

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    2021年1月携帯待受

    携帯待受

    toyota ae86

    toyota ae86

    toyota ae86  toyota ae86

    何だか色んなことが下半期にバタバタと終わったせいで、
    今現在、大作RPGのエンディングを見終わったような、
    いわゆる燃え尽きた気分ではありますが、
    そんな気分も今年いっぱいまでのつもりです。
    来年に向けて、新たな活動をじゃんじゃん始めて行きます。



    と言うわけで2021年1月の携帯待受。
    トヨタの83年式スプリンタートレノ。いわゆる「ハチロク」。

    2021年の待受テーマは「80年代日本のスポーツカー」としました。
    その第一弾として、これ以上ふさわしいクルマは無いと思います。
    何だかんだでものすごく有名ですからね……。

    実は10年前にも同じ題材で描きましたが、
    今回は自分の画力向上を確かめる意味合いも含め、一から描き直しました。
    併せて、今回よりドット絵の描き方を一部変更しています。
    どこが変わったか分かる人は、まずいないと思いますが……。



    次回もグラデーションの組み合わせについて、twitterにてアンケートを行う予定です。
    ブログトップページ、もしくはこちらから、私、黄輪のTLに飛ぶことができます。
    よろしければご参加下さい。

    Calender picture application by Henry Le Chatelier

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    「DETECTIVE WESTERN」完結記念イラスト ~ 矢端想さんより

    他サイトさんとの交流

    と言うわけで、7年間連載してきたウエスタン小説、
    「DETECTIVE WESTERN」が昨日完結しました。

    そのお祝いとして、これまでイラストを提供していただいた「妄想の荒野」の矢端想さんから、
    イラストをいただきました!

    カラー。


    そして19世紀らしい、セピア色仕様。


    矢端さん、本当にありがとうございました!
    一キャラ、一キャラを眺めると、実に感慨深いですね……。

    (双月千年世界でやってるみたいに、
    あとがきインタビューとかやっても良かったんですが、
    あの世界とこっちの世界をつなげるのは、個人的には違和感しか無くて……。
    それにあとがき自体は書籍版に書いたので、
    同じことをこっちに書くと、書籍版の意味が無くなってしまいますからね)

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 15

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、最終話。
    新世界へ!

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    15.
    「むぐ、もぐ……。一体何で、兄貴を追い出すようなことしたんスか?」
     ベーコンをかじりながら尋ねたロバートに、エミルはクスクス笑いながら答える。
    「気ままな旅に一つ、スパイスが欲しくてね」
    「スパイス?」
    「本当に単なる一人旅じゃ、退屈だもの。あたしを追いかけるような奴が一人くらいいてくれなきゃ、面白くないじゃない」
    「ひっでーなぁ、姉御は」
     そう返しつつも、ロバートの目は笑っている。
    「ま、それにね。ある程度の期限も作っとかなきゃ、いつまで経っても終わりそうにないってのもあるし。だから旅は、あいつがあたしに追いついたらそこでおしまい。それから先は、もう二度と旅しないって決めたわ」
    「あら。そんなこと、もう決めちゃっていいの?」
     尋ねたトリーシャに、エミルは肩をすくめて返す。
    「決めちゃうって言うか、きっと、決まっちゃうのよ。あいつがあたしに惚れてるってこと、十分分かってるつもりだし。あいつがあたしに追い付いたらきっと、それはもう熱烈なプロポーズをしてくれるはずよ。あたしが思わず一発オーケーしちゃうような、すっごいのをね。だからその時が、旅の終わりってわけ」
    「今、素直にオーケーすりゃいいじゃないっスか。兄貴が可哀想っスよ」
     突っ込んだロバートに、エミルはパチ、とウインクする。
    「残念だけど今のあいつは、あたしの好みにまだほんのちょっと届かないのよ。未熟って感じなの」
    「それで彼も放浪させて、熟成させようと言うわけか」
    「なかなかに手ひどいことをするね、君は」
     アーサー老人と局長も笑いながら、エミルをなじって来る。
    「しかしまあ、私の目から見ても、アデルには今ひとつ貫禄が足りていないと感じることも事実だ。この旅を通じて、ちょっとくらいは成長してもらいたいものだ。と言うわけで、私も君の行動を評価する。恐らくここにいる皆もそうだろう」
    「うむ。率直に言って今の赤毛君では、君には到底釣り合わん。君を射止めたいと彼が切に願っているのならば、是非とも荒野の風と砂で、彼自身の器を磨いてもらわねばな」
    「俺も同感っス。ぶっちゃけ今の兄貴と姉御って、お姉ちゃんと弟って感じっスもん。似合いのカップルって感じじゃ……」
     同調しかけたロバートの鼻を、エミルがぎゅっとつまむ。
    「あへっ!?」
    「あんたが言う筋合い無いでしょ? アデルに輪を掛けてヒヨッコのくせに。あたしやアデルのことをあれこれ言う前に、まず自分の相手探しなさいよ」
    「……はひ。ふんまへん」
     ロバートから手を離したところで、エミルは食卓を離れた。
    「じゃ、もう行くわね。後片付けは任せちゃっていいかしら?」
    「ええ、お安い御用よ。……じゃ、気を付けてね、フェアリー」
    「あんたも無理しないようにね、エンジェル」
     ぱし、とトリーシャと手を交わし、エミルは彼女の家を後にした。

    「さて、と」
     厩(うまや)に向かおうとして振り向いたところで、アレンが馬を引いてエミルのところへやって来た。
    「エミル・ミヌー。あなたには、とても感謝しています」
    「どーも」
     ぺら、と手を振って答えたが、アレンは首をぶんぶんと横に振る。
    「最後まで言わせて下さい」
    「……どーぞ」
    「あなたがいなければ、私はきっと、何一つ成し遂げられぬまま、荒野の土となっていたでしょう。あなたが助けてくれたからこそ、私は今、ここにいる。愛する女(ひと)と家族になれた。その御恩、一生忘れません」
    「はぁ」
     エミルは肩をすくめ、アレンの片眼鏡をひょい、と奪った。
    「あっ」
    「あたしから一つだけ忠告よ。こんな西部の真っ只中に、ヨーロピアンな片眼鏡なんて似合わないわ」
     そう言いつつ、エミルは懐から眼鏡のフレームを取り出して片眼鏡のレンズをはめ込み、アレンの顔にかけた。
    「結婚祝いよ。これからはそれ付けて過ごしなさい、アレン・キャリコ」
    「……ありがとう」
     頭を下げるアレンに構わず、エミルはアレンが引いてきた馬に乗った。
    「じゃ、さよなら」
    「あ、あの!」
     アレンが慌てて顔を上げ、ずれた眼鏡を直しながら尋ねた。
    「あなたは、これからどこへ?」

     エミルは馬上でパチ、とウインクし、こう答えた。
    「新しい世界よ」

    DETECTIVE WESTERN 15 ~新世界の誘い~ THE END

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 14

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第14話。
    無期限捜索命令。

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    14.
     翌朝――。
    「エミル! どこだ、エミル!?」
     アデルが慌てた顔でサルーンを右往左往し、部屋のドアを片っ端から叩いて回っていた。
    「何かね、騒々しい。察するにエミルが行方不明にでもなったかね?」
     まだ寝間着姿の局長に看破され、アデルはようやく立ち止まる。
    「そ、そうなんです! あいつ、俺の部屋にこれ挟んで……」
     説明しつつ、アデルは握りしめてすっかりくしゃくしゃになってしまった手紙を差し出した。

    「相棒へ
     これを読んでる頃には、あたしは既に町を出てる頃でしょうね。
     あたしもトリーシャの気楽さを見習って、もう一度、西部の荒野を気ままに旅することにしたわ。
     それじゃ、さよなら。
    エミル・ミヌー」

    「これって、つまりその、やっぱり」
    「書いてある通りだろう」
     局長にぴしゃりと言い切られ、アデルの顔は真っ青になる。
    「そ、そんなぁ……」
     そのままずるずるとへたり込んだところで、局長と同じ部屋に泊まっていたアーサー老人が一喝する。
    「ぼんやりしている場合かね、情けない!」
    「ふへっ?」
     呆然とした様子のアデルに、局長が続けた。
    「Aの言う通りだ。アデル、君は何だ?」
    「な、何って、何がです?」
    「君は何者だと聞いているのだ。哀れな道化師か? 悲劇を演ずる俳優かね? そうじゃあないだろう? 君は探偵だ。私がABCを仕込んだ、一端の探偵のはずだ」
    「は、はあ?」
    「探偵なら『ホシ』が逃げたらどうする? 嘆いて終わりにするのか? それとも最初からいなかったんだと、とぼけてごまかすのかね?」
    「……お、追いかけます! 地の果てまでも!」
    「うむ」
     局長は寝癖を直しながら、厳格な口調で言い付けた。
    「アデルバート・ネイサン。君に無期限の捜索任務を命ずる。捜索対象はエミル・ミヌー。彼女を発見し次第、探偵局まで安全に護送すること。それまで局に帰って来ることは厳禁とする。いいな?」
    「は、……拝命いたしましたあっ!」
     アデルは慌てて立ち上がり、敬礼して答える。局長は満足げにうなずき、サルーンの入口を指差した。
    「では行け!」
    「了解っ!」
     アデルはバタバタと足音を立て、自室から自分のかばんと小銃を引ったくるようにして持ち出して、そのままサルーンの外へと走り去って行った。
    「……さて」
     局長はふう、と一息付き、アーサー老人に振り返った。
    「朝食はどうする?」
    「ミズ・キャリコが用意してくれているだろう。『彼女』と一緒にな」
    「だろうな。ビアンキ君、起きているかね?」
     アデルがいた部屋に声を掛けると、眠たそうな声が返って来た。
    「ふあ~い」
    「身支度して、キャリコ農場に向かうぞ。朝食をご馳走になろう」
    「うーっス」

     10分後――3人はもう一度、キャリコ農場を訪れていた。
    「おはよう、局長さん、ボールドロイドさん、それからビアンキ君」
     トリーシャに出迎えられ、局長は会釈しつつ、こう尋ねる。
    「朝食をご馳走になりに来たよ。人数分あるかね?」
     この質問に、トリーシャはいたずらっぽく笑って返した。
    「ええ、6人分」
    「6、……って言うと」
     ロバートが指折り数え、推理を見せる。
    「俺でしょ、局長でしょ、ボールドロイドさんでしょ。んで、ミズ・キャリコとイク、……じゃなかった、アレンだっけ。んで、あと一人ってアレっスよね? 姉御も勘定に入れてんスよね?」
    「素晴らしい。成長したな、ビアンキ君」
     局長にほめられ、ロバートは顔を赤くする。
    「へっへへ……」
     と、家の奥からそのエミルが現れる。
    「流石なのはあなたもね、局長。確か、朝ご飯の約束はしてなかったはずだけど」
    「したようなものだろう? あんな芝居がかった置き手紙があれば、ちょっと賢い者なら誰だって、後の展開がピンと来ると言うものさ」
    「で、ピンと来なかったあいつは?」
    「慌ててサルーンを出て行ったよ。今頃は町を回って、馬を買っている頃じゃあないかな」
    「予想通りね。多分そのまま、あたしが撒いた偽の手がかりを元に、南へ5~60マイルくらいすっ飛んで行くでしょうね」
    「残念な男だ。君に追い付くのは、いったいいつになることやら」
    「20世紀になるまでには見付けられるといいわね。……さ、ご飯冷めちゃうわ。早く食べましょ」

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 13

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第13話。
    これからのこと。

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    13.
     トリーシャはエミルたちに、自分の農場を案内してくれた。
    「今は牧畜と酪農を主軸にやってるけど、最近、周りを本格的に開墾(かいこん)してるの。頑張ればマメとかトウモロコシとかいっぱい作れそうだから。上手く行けばもう一儲けできるかもね」
    「今だって相当儲けてるんでしょ? まだおカネがいるの?」
     尋ねたエミルに、トリーシャはにこっと笑って返した。
    「おカネの問題じゃないわ。あたしはこの町を、大きくしたいのよ。西部一番の、大きな町にね」
    「立派な目標ですな」
     局長の言葉に、トリーシャはまた笑みを向ける。
    「ええ。人生一度きりですもの、夢は大きく持ちたいじゃない?」
    「そしていくつも、ですか?」
     そう返されてトリーシャは微笑んだが、他の者は首をかしげている。
    「どう言う意味です?」
    「気付いていないのかね、アデル? 彼女の左手をよく観察してみたまえ」
     局長が示すと同時に、トリーシャは左手を掲げ、その薬指を見せてくれた。
    「あ、指輪。……ってことは」
     一同は後ろに付いて来ていたイクトミ――改め、アレンの手も見てみる。そこにも同じデザインの指輪がおごられていることを確認し、エミルはトリーシャの、その手を取る。
    「そうだったのね。おめでとう、でいいのかしら?」
    「ええ。10年越しの恋が実ったんですもの。とってもおめでたいことだわ」
    「ってなると、次の夢は大家族って感じっスか?」
     口を挟んで来たロバートにも、トリーシャは笑ってくれた。
    「ええ。あの家がとっても狭く感じるくらい、いっぱい子供が欲しいわね」
    「君ならそのすべてを叶えてしまえるだろう。それだけの活力と、強い意志を感じるよ」
     滅多に人をほめないアーサー老人でさえ、彼女には感服したらしかった。
    「ありがとう。……それでエミル、あんたはこれからどうするの?」
    「あたし?」
     話題を振られ、エミルは面食らう。
    「ええ。過去は全部、太平洋の沖合いで吹き飛んだ。後はもう、未来のことだけ考えて生きていられる。その上で、あんたはこれからどうするのかしら、って」
    「考えたことも無かったわね。そっか、これから、……か」
     エミルは考えを巡らせようとしたが、すぐに頭を横に振った。
    「全然思い付かないわ」
    「ま、とりあえずそれでいいんじゃない?」
     今度はトリーシャがエミルの手を取り、楽しそうに笑った。
    「人生、まだまだ長いんだもの。一から十までぴっちり決まってたら、きゅうくつで仕方無いわ。分かんないなら分かんないなりに、適当に進めばいいのよ」
    「あんた……ものすごく、楽観的なのね」
    「そうじゃなきゃやってらんないし、楽しくないもの。あんたも気楽に生きてみなさいよ。ねっ?」
    「気楽に、……か」
     その後、エミルたち一行はトリーシャの家で料理をご馳走になった後、町のサルーンに泊まることになった。
    「流石にお客さん5人もいると、うちに泊められないもの。ごめんね、エミル」
    「いいわよ、あんたのおかげでタダにしてもらったんだから。感謝してるわ」
    「こちらこそ。それじゃ、また明日ね」
     サルーンの手前で礼を告げ、トリーシャと別れ――ようとしたところで、エミルがそっと、他の皆に知られないようにトリーシャの手を引いた。
    「どうしたの?」
     察してくれたらしく、彼女は小声で尋ねる。
    「あとで、……お邪魔していいかしら」
    「ええ」
     うなずいてから、トリーシャはこう続けた。
    「あんたの頼み事なら、なんだって聞くわよ」
    「……ありがとう」

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 12

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第12話。
    フェアリーとエンジェル(Fairy and Angel)。

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    12.
    「はぁ……はぁ……」
    「ぜぇ……ぜぇ……」
     組織のあった廃村が火の手に包まれ、JJの屋敷が音を立てて崩れるのを背中越しに聞き付けながら、二人は肩を貸し合う形で、よろよろとその場を後にした。
    「あんた……大丈夫……?」
    「こっちの……セリフよ……」
     たった2人で300人以上の手勢がいた組織を壊滅させると言う、超人的な働きを見せたアンジェとフィーだったが、それでも多勢に無勢だったらしい。二人は全身傷だらけになり、どうにか生き残っていた馬に乗って、荒野へと出た。
    「撃たれた?」
    「かすり傷。あんたは?」
    「あたしも。でも痛い」
    「そうね。町、どこ行く?」
    「50キロ西、……は、行っちゃダメよ。確かアンリ=ルイが基地作ってた」
    「分かってる。反対方向ね」
    「でも町は、80キロも向こうよ」
    「大丈夫。……大丈夫、きっと」
     切れ切れに言葉を交わしていたが、やがて二人は力尽き、途中で見付けた小屋に転がり込んだ。
    「傷の手当て……しなきゃ……」
    「……うん……あたし……大丈夫だから……あんたから……」
     フィーが促したが、アンジェは答えず、フィーのシャツをまくった。
    「……やっぱり……!」
     フィーの肩には大穴が空いており、そこからどくどくと、血が噴き出していた。
    「……大丈夫……どうってこと……無いわ……」
    「バカ、放っといたら死んじゃうわよ!」
     慌ててフィーの止血を施そうとしたが――アンジェも既に限界に達していたらしく、途中で強い疲労感に襲われ、包帯代わりのシャツの切れ端を握ったまま、意識が途切れてしまった。

    「……!」
     ふっと目を覚まし、アンジェは飛び起きた。
    「フィー? どこ?」
     辺りを見回したが、フィーの姿はどこにも無い。
    「フィー! あんな傷でうろうろしてたら、マジに死んじゃうわよ! どこにいるのよ?」
     小屋を飛び出し、アンジェは馬がいなくなっていることに気付いた。そして馬がいたところに、おびただしい血が残っていたことにも。
    「……フィー……!?」



    「……ってところまでが、あたしとあんたが一緒にいた思い出ね」
     トリーシャの話が終わってもなお、エミルは真っ青な顔でうずくまっていたが、いつの間にか彼女は自分の肩をつかんでいた。
    「……そうね。そこを大ケガしてたのよね、あんた」
    「でも……でも……思い出せない……」
     エミルはもう一方の手をこめかみに当て、震えている。
    「あんたは……あんたは……誰?」
    「あんたがあたしに言ってくれたことよ」
     トリーシャはエミルの頭を優しく抱きしめ、こう続けた。
    「あたしもあんたも、妖精(Fairy)みたいに木のうろから産まれたのよ。それか、天使(Angel)みたいに神様が遣わしたってことでもいいんだし。過去のことなんてもう、思い出す必要なんか無いわ」
    「……でも……」
     顔を上げたエミルに、トリーシャはにこ、と微笑みかけた。
    「だから――はじめまして。あたしはトリーシャ・“エンジェル”・キャリコ。あなたのお名前は?」
    「……エミル。エミル・“フェアリー”・ミヌー、よ」
    「よろしくね。あたしに良く似た、さっきまで名前も知らなかった人」
    「……うん。……よろしく、トリーシャ」
    「ってことで、……いいでしょ?」
     エミルから離れ、もう一度にこっと微笑んだトリーシャに、エミルは小さくうなずいて返した。
    「そう、……そうね。あたしたちの過去はもう、どこにも無いってことで、いいのよね」
    「そう言うことよ。誰だって、人の『本当の』過去のことなんか分からない。今話したことだって誰も――あたし本人でさえも――証明することなんか、永遠にできやしないわ。あたしたちの手に、いま確実にあるのは、未来だけ。まっさらな、新しい世界だけよ。
     誰も知らない新しい世界で、あたしたちはあたしたちの人生を始めるのよ」

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 11

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第11話。
    終末の日。

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    11.
     襲い掛かって来た手下たちを、まずは6人倒す。一瞬で半数がやられ、手下たちはぎょっとしたが、すぐに迫って来る。
    (6発撃ったらもう終わりだろ、……って? バカにすんじゃないわよ)
     アンジェは倒れた手下たちの手から小銃をもぎ取り、残った者たちも一掃する。10秒と経たない内に敵を全滅させ、アンジェはさらにもう一人の死体から、小銃を奪った。
    (……今なら殺れる……ッ!)
     手下たちに始末を任せ、悠然とその場を去って行くJJの後頭部めがけて、アンジェは小銃を撃ち込んだ。だが――。
    「閣下、危ない!」
     JJに追従していたトリスタンがとっさに気付き、体を張ってJJをかばった。
    「うぐ……っ」
     ギン、と金属音が鳴るのを聞き、アンジェは舌打ちする。
    (クソッ……! 腰のホルスターに当たった!? 邪魔すんじゃないわよッ!)
     アンジェは小銃のレバーを引き、もう一発撃ち込もうとする。だがこの時には既にJJは逃げ去っており、トリスタンが立ちはだかっていた。
    「あんた、邪魔するつもり!?」
    「無論だ。閣下を殺させてなるものか!」
     よどみなく答えたトリスタンに、アンジェは小銃を向けながら尋ねる。
    「悔しくないの!? お父さんが吊るされたのよ!?」
    「当然の結果だ」
    「当然!?」
    「閣下のご意向に従えぬ者、背く者には死あるのみだ」
    「何をバカなこと……!」
     言葉を交わしつつも、アンジェは相手と意思の疎通ができないことを察していた。
    (狂ってるわ……何もかも!)
     小銃を撃つが、あろうことかトリスタンは弾丸をかわし、アンジェに肉薄する。
    (アタマもおかしけりゃ、動きもケダモノ並み。こいつ、マジにイカレてるわね。
     いいや、こいつのことだけじゃない。ここにいる誰も彼も、みんなあのクソジジイを信奉してる、異常者だらけ。あいつの言うことがカミサマの言葉より尊いと信じ込んでる。人を殺せって言われれば迷いなく殺しに来るし、襲えって命じられれば、ついさっきまで姫だ何だって持てはやしてた相手だって、構いやしない。
     異常よ! ここは何もかも狂ってるわ!)
     羽交い締めにしようとしたトリスタンを紙一重で避け、アンジェは小銃の銃床をトリスタンのほおに叩き付ける。
    「ぬおっ!?」
     自分の4分の3ほどしか無い体躯の少女に弾き飛ばされ、トリスタンは倒れ込みつつも、感心したような声を漏らす。
    「やはり素晴らしい! やはり閣下の血を引いておられるだけは」「黙れ!」
     アンジェは小銃を構え直し、トリスタンに怒鳴る。
    「もううんざり! 何が閣下よ! 何が組織よ! こんな狂った世界、あたしが全部ブチ壊してやる!」
    「何と残念なことを申されるのだ」
     トリスタンはすっと立ち上がり、アンジェを見下ろす。
    「誠に残念だが、最早あなたは組織にとって害にしかならぬようだ。排除せねばならぬ」
    「やってみなさいよ!」
     アンジェとトリスタンが対峙した、その瞬間――。
    「や、……やらせないぞッ!」
     空中から突然、肌の浅黒い青年が割り込み、トリスタンの顔を蹴り飛ばした。
    「おう……っ!?」
     再び倒れ込んだトリスタンの前に降り立ち、彼はアンジェに声を掛ける。
    「ここは僕が何とかする! トリーシャ、あなたは、……あなたは、自分のしたいことを!」
    「アレーニェ! ……ううん、アレン! ありがとう!」
     助けてくれたアレーニェに礼を言い、アンジェはその場から離れた。その間に立ち上がったトリスタンが、アレーニェをにらみつける。
    「血迷ったな、アレーニェ。女ごときのために、己の未来と栄光をドブに捨てたか」
    「その女のためなら、……愛する女(ひと)のためなら、何だってやってやるさ」



     JJの、そして組織の人間全員の誤算は、2つあった。1つは、男10人がかりで襲わせれば屈服すると考えていたトリーシャが、その10人を事も無げに屠れるほどの手練に成長していたこと。そしてそのトリーシャが、2人いたことだった。
     アンジェがJJを討つべく動き出したことをフィーも察知し、この戦闘に参加した結果、組織は完全に翻弄され、引っ掻き回されることとなった。
    「姫は兵器廠(へいきしょう)で破壊工作中! 総員、兵器廠へ集合せよ!」
    「何言ってやがる!? 姫は今、閣下のお屋敷に油を撒いて……」
    「寝ぼけてんのか!? 兵器廠だっつってんだろ!?」
    「いいや、屋敷だ! 俺は実際に見て来たんだぞ!?」
    「見間違いだろ!? 逃げて来たって奴が何人もいるんだぜ!」
     1人と認識している相手が2ヶ所で同時に現れたために、組織の誰も彼もが、右往左往するばかりでまともな行動が執れなくなった。JJでさえも、どこに人を集めればよいのかさえ見当が付かなくなり、狼狽するばかりだった。
    「ええい、姫は、トリーシャは一体どこにおると言うのだ!? こ、このままでは、このままでは……っ!」

     JJの恐れていたことは3時間後、現実のものとなった。
     この日、JJが20年近い年月を掛けて築き上げてきた組織は、その孫娘「たち」の手によって崩壊した。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 10

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第10話。
    袂別。

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    10.
     自分たちの父親の、その醜い素顔を知ってしまった二人は、重い足取りでアジトへの帰路に就いていた。
    「このまま帰ったらまずいわよね。まだ2人だってバラすわけには行かないもの」
    「そうね……。まずあたしが先に帰るわ。いい?」
    「ええ。夜になったら玄関開けてね」
    「分かってる。……ねえ、フィー。この16年、言わないようにしてたけど、でも、どうしても今、聞きたい」
     アンジェはフィーの手をぐっと握り、不安そうな目で見つめる。
    「あんたは、どっちが、誰の子だと思う?」
    「分かんないわよ、そんなの。どうだっていいことだし」
     フィーは手を優しく握り返し、アンジェに向き直る。
    「そもそもの話だけど、あんた、あのろくでなしが本当のこと言ってたと思う? あんなハッパ臭い奴の話、真に受けるわけ?」
    「……そうね。普通に考えたら嘘か妄想よね、あんなの」
    「あのクズはありもしない、とんでもない大ボラを吹いてあんたを油断させ、襲おうとした。あの晩のことは、それが全てよ」
    「うん……」
     しゅんとなるアンジェの肩を、フィーは優しく抱きしめる。
    「ね、こうしましょうよ。あたしもあんたも、あのろくでなしの子供じゃなく、妖精(Fée)みたいに木のうろから産まれたってことにするのよ。それか、天使(Ange)みたいに神様が遣わしたってことでも、……ね?」
    「マジに言ってんの? それこそ妄想じゃないの」
    「いいじゃない。あんた、組織にいる奴が誰から産まれたか、全員知ってるわけ?」
    「……知らないけど」
    「でしょ? 他人が誰からどんな風にして産まれたかだなんて、見て分かんないのよ。じゃあもう適当ブッこいてごまかせばいいじゃない。だからもう、この話はおしまい。いいわよね?」
    「分かった。とりあえず、……今は、考えない」

     フィーといったん別れ、アンジェはアジトに戻った。と、アジトの中央、元は町の広場であったところに、何かが立っていることに気付く。
    「……!」
     とっさに近寄り、アンジェはそれが、この16年間自分とフィーを育ててくれた義父、ジュリウスを吊るした絞首台であることを理解した。
    「な……んで……!?」
    「戻ったな、トリーシャ」
     と、絞首台を挟んで反対側からJJが、ジュリウスの実の息子であるトリスタンを伴って現れた。
    「一体どこへ行っていたのだ?」
    「あ……あたしの、ことよりっ」
     アンジェは風に揺られているジュリウスを指差し、ほとんど絶叫に近い声で尋ねる。
    「どうして、ジュリウスおじさまが吊るされているのよ!?」
    「責任を取ってもらったのだ。お前が逃げた罪を問うたのだが、皆目見当も付かんと、とぼけたことを抜かしたものでな。監督不行き届きも甚(はなは)だしい。であるが故、その命を以て償ってもらった。
     さあ、トリーシャ。何日も講義を怠っているだろう? すぐに続きを……」
    「ふ……ふざけないでッ!」
     アンジェは拳銃を抜き、JJに向けた。
    「あたした、……あたしは、あたしの意志で外出しただけよ! 殺すことないじゃない!」
    「それが監督不行き届きだと言っておるのだ。ジュリウスにはお前の管理を命じていた。こうして逃げ出す隙があった以上、その責務を全うできておらんと言うことだ。であれば生きる資格など無い」
    「なんですって……!?」
     JJの、あまりにも心無い、自分とジュリウスを見下した物言いに、アンジェは激昂する。
    「『管理』って何よ!? あたしを家畜扱いするの!?」
    「なんだ? 自覚しておらんかったのか?」
     JJは呆れた目を、アンジェに向けた。
    「お前は籠の鳥、単なる牛馬と同列に過ぎん身だ。ちょっと血統書が付いていると言うだけのな。地位を渡す、跡を継がせると言う話も、仮に余亡き後のことだ。生きている間は、お前にはびた一文やりはせん。そんなことも分かっておらんとはな。身の程を知れ、カスめが」
     JJが杖を振り上げると同時に、どこからか手下たちが10名ほど、ぞろぞろと現れる。
    「あの女に自分がただの卑しい雌豚に過ぎんことを、体で分からせてやれ」
    「はっ……」
     言われるがまま、手下たちは得物を手に、アンジェへと近付いて来た。その光景を見て、アンジェはすべてのことを、瞬時に理解する。
    (……結局……)
     アンジェは拳銃を構え、手下たちに発砲した。
    (徹頭徹尾、最初から最後まで、何もかもこいつが――この大閣下なんて呼ばれていい気になってるクソジジイが、諸悪の根源だったのよ。こいつがいなきゃ、あたしとフィーが16年閉じ込められることだって、ジュリウスおじさまが死ぬことだって、絶対に無かった。
     こいつを殺さなきゃ、あたしにも、フィーにも、未来なんて永遠にやって来やしない!)

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 9

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第9話。
    最低の男。

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    9.
     フィーもアンジェも、自分とそっくりな相手の顔のことを、それなりに美人な方だと互いに認識していたし、ジュリウスを始めとする、周囲の評価も高いものだった。だから何となく、自分たちのそれぞれの親――どちらかの母であるミカエルと、そしてもう一方の父であるルシフェルのことも、美しい顔立ちなのだろうと夢想していた。
    「……っ」
     だが今、目の前でフラフラとおぼつかない足取りでよろけているこのみすぼらしい中年男からは、美しいと評価できる要素を、どこにも感じ取ることができなかった。
    「もう一度、聞くわよ。あんた、ルシフェル?」
    「るし……? ふあぁあぁ? どうして知ってる? おぉ、俺の名前じゃねぇか! すごいな、何で分かったんだぁ~……?」
     焦点の定まらぬ目をぎょろぎょろと動かし、ルシフェルは目の前にいる少女たちを眺めている。
    「で、一人いくらだ? 2ドル? 3ドルか? いくらでも出すぜ。げへへ、いっぱい出すぜ。何回でも行けるぜぇ」
    「あんたに聞きたいことがある」
     思わず、アンジェの口からそんな言葉が漏れた。
    「アンジェ?」
     予定に無い行動を取ったアンジェを、フィーが止めようとする。
    「何してんのよ? さっさと……」
    「いいから。……ねえ、ルシフェル。あんた、なんで組織を抜けたのよ?」
    「そぉーしきー? 行くわけねぇじゃねえか。誰が死んだなんてぇ、どぉだって~えよおぉ」
    「葬式じゃない。組織よ。あんたが16年前にいた組織」
    「そし……き? んあ、ぁ?」
     何を聞いてもとぼけた返答しかせず、どうやらルシフェルはこの16年間の間に、すっかり廃人同然になってしまったようだった。
    「何聞いても無駄って感じね。早く殺しましょ」
    「待って。……ねえ、あたしたちのこと、分かる?」
    「かわいいお嬢ちゃんたちだろぉ?」
    「どーも。ねえ、16年前、あんたが組織を離れた直後くらいに、『なにか』無かったかしら?」
    「なにか? なにが?」
    「あたし、16歳なの。ピンと来るでしょ?」
    「16歳……16年……」
     ルシフェルはもごもごと何かをつぶやいていたが、突然目を見開いた。
    「……お前……まさか」
    「分かった? そうよ、あたし、……かあっちのあの娘のどっちかは、あんたの娘よ」
    「娘? 俺の、娘? マジなのか?」
     とろんとしていたルシフェルの目が、驚愕の色を帯びる。
    「……へー……」
     JJに似た、下卑た笑みを浮かべたルシフェルに、アンジェは危険を感じた。
    「変なこと考えないでよ?」
    「わ……分かってる、へへ、分かってるさ。だけどよ、あっちの娘も似てるなぁ、お前と。そいつも俺の娘か?」
    「あんた、他にも子供作ってたの?」
    「俺が知ってる限りじゃ5、6人はいるぜぇ、へっへへ。全部母親違いだけどな」
    「クズね。……あっちはあんたの娘じゃないわよ。あんたの妹の娘よ」
    「そんなら似たようなもんだ」
     ルシフェルはにやぁ、と気持ちの悪い笑みを浮かべた。
    「知ってるか? ミカエルが誰の子を産んだのか」
    「は?」
    「俺は知ってる。いや、俺だけしか知らない。……言ってる意味、分かるか?」
    「なにを、……!」
     思わず、アンジェはフィーの方を振り返る。その瞬間――。
    「げへへ……っ」
     ルシフェルがアンジェに抱きつき、そのまま組み敷いてきた。
    「たまんねぇなぁ、ええ、おい? いい匂いだぜぇ、いひっ」
    「な、……何すんのよ!?」
    「母親が誰か知らねえけどよ、きっと母親似だろうぜ、お前。俺の好みだもんなぁ」
    「……っ」
     言葉にできないほどの嫌悪感を覚え、アンジェは抵抗する。
    「離れなさいよ、この……っ!」
    「ふへ、ふへ、へへへぇ……」
     どうやらこの時完全に、ルシフェルは感情と本能だけで行動しており、理性が一切働いていないようだった。何故なら3メートルと離れていないはずのフィーのことをもう、すっかり忘れている様子だったからである。
     なので――ルシフェルは簡単に、フィーが放った弾丸を食らった。
    「ぷきゅ」
     荒い息を吐き出していた口と鼻から気味の悪い音を吹きながら、ルシフェルはアンジェの横にごろんと転がり、そのまま息絶えた。
    「ひっ……ひっ……」
     涙混じりの、引きつった呼吸をしていたアンジェに、フィーが声を掛ける。
    「大丈夫?」
    「……だ……だい、じょう、……っ」
     アンジェは立ち上がりかけ、自分のシャツが破られていることに気付き、息を詰まらせた。
    「……こ、の」
     頭の中に噴き出した様々な感情を、アンジェは拳銃を抜いて発散した。
    「このクズ野郎! この! このッ! このおおおッ!」
     既に死んでいるルシフェルの体に、アンジェは弾丸を撃ち込み続けた。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 8

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第8話。
    狂い始めた歯車。

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    8.
    「どうしたのだ、トリーシャ? 今のは前回、お前が仕掛けた手ではないか」
     アンジェがアレーニェと出会って1週間後、とうとうJJがチェスの席で詰問してきた。
    「えっ? そう……だったかしら」
    「忘れたと言うのか? 頭脳明晰なお前らしくない。つい3日、いや、4日前のことを覚えておらんとは。いや、と言うよりも……」
     フィーが倒した白いキングをつかみ、JJはじろ、と彼女の顔を疑い深そうな目で見つめて来た。
    「まるで初めてこの展開を見た、と言うような打ち筋だったぞ。いつもの機知に富んだお前ならば、見抜いて仕掛けをかわすなり何なりできたであろうに」
    「す……すみません、おじいさま。あたし、ちょっと、考え事をしていて」
    「考え事だと? それは余との勝負と会話をないがしろにするほどのことか?」
    「……いえ……」
    「ふん、まあ良い。……興が冷めてしまったわい。今日はもう下がれ」
    「……は、はい」

    「いい加減にしてよ、アンジェ!」
     離れに戻ったところで、フィーはアンジェを怒鳴り付けた。
    「やめてよ、フィー。あんまり大声出さないでよ。こんなことでバレたら、元も子も……」
    「もう寸前よ! 今日なんかおじいさまに怪しまれたのよ!? 何とかごまかしたけど、これ以上こんなのが続いたら、全部おしまいになっちゃうわ!」
    「……そ、そうね。どうにか、しなきゃね」
     それだけ返し、アンジェはベッドの上で膝を抱えてしまった。そのまま動かないアンジェをにらみ、フィーはまた声を荒げる。
    「あんた、どうにかする気あんの!?」
    「……」
    「ねえ?」
    「……」
    「ねえってば!」
     何度も苛立たしげに声を掛けられ、アンジェはようやく顔を上げた。
    「……とりあえず、いっこずつ、片付けない?」
    「いっこずつ?」
    「あたしたちの問題。あたしたちの周りには、問題が多すぎるわ」
    「そうね。一番の問題は、あんたがおかしくなってるってことよね」
    「違う」
     アンジェはベッドを離れ、フィーの肩をつかんだ。
    「ちょっと、アンジェ? 何よ?」
    「元々無茶だったのよ。2人で1人を演じるだなんて。16年もそんな無茶しなきゃならなくなったのは、誰のせいなのよ?」
    「……あんた、まさか」
    「そのまさかよ。でも」
     アンジェは爛々(らんらん)と目を光らせ、フィーに提案した。
    「おじいさまから教えられたわよね――脅威は小勢から潰せ、って」



     2日後、アンジェとフィーは密かにアジトを抜け出し、ルシフェルを狙ってO州とC州の境に向かった。
    「この辺りかしらね」
    「いるとしたら、だけど」
     二人の計画はこうだった。まずルシフェルを「トリーシャ1人」で討ち、JJの信頼を得る。その上で寝首を掻き、自分たちが組織のトップに就く、と言うものである。自分たちに相当都合良く展開が動くことを期待した、杜撰で幼稚な計画ではあったが、今の二人にはこれ以上の案を思い付くことも、これ以外の案にすがることもできなかった。
    「確かなの?」
    「組織の情報よ? 間違いなんてそうそう……」
     幼く、アジトの外に出た経験すら無い、世間知らずの彼女たちではあったが、それでも運は人一倍に強かったらしい。彼女たちの前に、その男は現れた。
    「……」
     男の目はせわしなく、まるで彼女たちの全身をぬらぬらと舐め回すように動いている。
    「あなた……シャタリーヌ? ルシフェル・ブラン・シャタリーヌかしら?」
     アンジェが尋ねたが、相手は応じない。
    「答えなさいよ」
     フィーがしびれを切らし、拳銃を向けたところで、男はようやく口を開いた。
    「よお、お姉ちゃん方。こんなところで商売か? 精が出るねぇ、げひゃひゃひゃひゃ」
     その口からは甘ったるく、鼻腔にまとわりつくような、気持ちの悪い植物臭が漂って来る。どうやらマリファナの類を、大量に吸っているようだった。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 7

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第7話。
    妄執と情熱と。

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    7.
     フィーとアンジェは組織の者たちに知られぬようこっそりとルシフェルのことを探り、そして程無く、「ルシフェルがアジトの付近をうろついているらしい」と言う情報を、組織がつかんでいることを知った。
    「だからおじいさまは、迷ったってわけね」
    「今更ノコノコと戻って来るくらいだから、相手なりに改心したんじゃないか、……って考えたのね、多分」
    「でもそれ、相当甘くて都合いい考えよね」
     アンジェの言葉に、フィーはクスクスと笑って返す。
    「ええ、そうよね。おじいさまだって有り得ないと思ったはずよ。だから否定した。でも可能性は1%でもあるんだったら、潰した方がいい。そう思うでしょ、アンジェ?」
    「そりゃ、ね」

     どちらからともなくルシフェル暗殺を仄めかした二人だったが、とは言えまだ青臭さの残る16歳である。戦闘訓練では抜群の成績を叩き出していたものの、実際の戦闘や、ましてや殺人の経験など、まだ一度も無かった。そのため実際にルシフェルの元へ向かおうとするだけの覚悟ができず、決意から数日が経っても、二人は何の行動も起こせずにいた。
    (スコアは満点。冷静に、落ち着いて引金を引けば、あたしが仕留められない相手なんかいやしない。……『その瞬間』に冷静でいられれば、だけどね)
     その日も寸分違わず的の中央に全弾を命中させたところで、アンジェは訓練を切り上げた。
    (……あーあ、頭ん中グチャグチャって感じ。今日はもうこれ以上、ベストを維持できそうにないわね。帰りましょ)
     半ば放り投げるように拳銃を棚に戻し、訓練場の出口に向かいかけたところで――。
    「あ、あのっ」
     白人とインディオのハーフらしき青年に声をかけられ、アンジェはきょとんとする。
    「何かしら?」
    「あの、えっと、そのですね、お嬢様」
    「トリーシャでいいわよ」
     やんわり許可を与え、アンジェはにこっと会釈してやる。
    「あたしに何か用かしら?」
    「え、えっと、……トリーシャ、さん、その、いつも訓練、ご一緒してます」
    「そうね。何度か顔、見た覚えあるわ。えっと……アレーニェ、だったかしら」
     名前を呼ばれ、彼は顔を紅潮させた。
    「はっ、はい! あの、それでその、いつもすごいなって思ってて」
    「どーも。それじゃ」
     半ば邪険に扱い、話を切り上げようとしたが、アレーニェは食い下がって来る。
    「あの、この後、お時間ありますか?」
    「……あるけど?」
     そう答えた途端、アレーニェは心底嬉しそうな顔をした。
    「よ、良ければぼっ、僕と、お、お、おちっ、お茶でも、ど、どう、ですか!? ……なん、……て、……は、はは」
    「ぅえ? あっ、あの、……あたしと?」
     思いも寄らないその提案に、ついさっきまで悶々と考えていたことは、すべてアンジェの心の中から吹き飛んでしまった。

     6時間後――。
    「遅かったわね」
     日が暮れる頃になってようやく戻って来たアンジェに、フィーが声をかけたが、彼女はすっかり上の空になっていた。
    「あ……うん……」
    「今日は何があったの?」
    「えっ!? な、何がって?」
     顔を真っ赤にするアンジェに、フィーは呆れた目を向ける。
    「何がじゃないわよ。いつもの報告してちょうだいって言ってんのよ」
    「あっ、そ、そうね」
     が、口を開くなり、アンジェはめちゃくちゃな説明を始めた。
    「え、えーと、今日はね、マクファーソンさんが射撃を教わって、午後は射撃場で乗馬して」
    「なんでマクファーソンさんが射撃の講義受けてんのよ。化学の先生じゃない。で、射撃場で乗馬って何よ? 撃ち殺されたいの、あんた?」
    「あっ、えーと、射撃場じゃなくてね、その」

     結局、この日の説明は支離滅裂で理解不能なものとなってしまい――そしてこの日以降、二人の同期と連携は乱れて行った。そうなれば当然、「一人のトリーシャ」としての行動にも矛盾が生まれることとなり、次第に彼女の様子を怪しむ者が現れ始めた。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 6

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第6話。
    大閣下の後継者。

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    6.
     彼女との会話を交わすにつれ、どうやらJJはトリーシャのことを、「ろくでなしが作った子供」ではなく、「愛しい孫娘」と認識し直したらしい。彼女が16歳になった頃には、JJはトリーシャを、己の正当な後継者として扱うことを明言した。
    「チェックメイトです、おじいさま」
    「なんと!?」
     白黒の盤面に視線を落として苦々しげにうなり、やがてJJは黒いキングをことん、と倒した。
    「見事だ、トリーシャ。余がチェスで後塵を拝したのは半世紀ぶりだぞ」
    「ありがとうございます」
    「こちらこそ。……うーむむむ」
     JJは腕を組んでもう一度うなり――倒したキングをす、とトリーシャの前に置いた。
    「決めたぞ、トリーシャ。余の後を継ぐのはやはり、お前を置いて他にはおらぬ」
    「えっ?」
     驚くトリーシャに背を向け、JJは語り出した。
    「思えば余の人生には、今ひとつ、ふたつと、運が足らなかったものよ。祖国では共和政府を相手に八面六臂、跳梁跋扈の活躍を繰り広げるも、ついに日の目を見られなかった。この国を訪れてからも、娘が裏切り者と心中するわ、ろくでなしの息子にカネを持ち逃げされるわ。その上、戦中に稼いだ大金も、ほとんどが南部のドルばかり! おかげでこの地に本拠地を築き上げてから約20年、何度も何度も苦杯を喫したものだ。
     それでもどうにか軍資金を北部のカネに換え切り、千に届く兵を集めて鍛え上げ、ようやく我が組織は合衆国と戦える水準に達した。本当に、本当に長かった。余の寿命が先に尽きてしまうのではないかと危惧するほどにな。いや、実際のところ、余も既に齢80に達した身だ。いつ何時、ふとしたはずみで死神が家の戸を叩くか分からん。もしそうなった時、後継者を定めておらんと言うのは、混乱の元でしか無い。
     故にトリーシャ! 余がもし死んだら、お前が余の後を継ぐのだ」
    「でも、おじいさま」
     いくら聡明で胆力のあるトリーシャでも、ティーンエイジャーの身でいきなりそんな話を振られては、狼狽するばかりである。
    「あたしはまだ、そんなこと、考えられません」
    「いいやトリーシャ、お前以外には絶対に無い!」
     JJはきっぱりと断言し――ようとしたようだが、次の一瞬、ぽろっとこぼした。
    「……いや、ブランが先日、……いやいやいや! やはりお前だけだ! お前しかおらん!」
    「あの、ブランとは?」
    「お前が知る必要の無いことだ。いいかトリーシャ、早い内に覚悟を決めておくように。いいな!」
     半ばまくし立てるように言葉を並べて、JJはそそくさと立ち去ってしまった。

     離れに戻ったトリーシャは――本日外に出たのは、「アンジェ」の方だった――中でひっそり籠もっていた「フィー」に、その日の講義内容とチェスの勝敗、そして会話の中でJJがこぼしていた、「ブラン」と言う人物のことを伝えた。
    「ブラン? 誰かしら」
    「分からないわ。あたしも、一度も聞いたこと無いもの」
    「おじいさまが後継者にしようと、一瞬でも考えるような相手ってことよね?」
     フィーにそう尋ねられ、アンジェは首をかしげて返す。
    「そんな人、いるかしら。例えばジュリウスおじさまは? 幹部陣の中では筆頭だと思うけれど」
    「おじいさまは偏屈な方ですもの。よほど近しい人間でない限り、後継者に指名しようなんて思わないでしょうね。それが例え30年以上共に戦った人間、ジュリウスおじさまであっても。でも今までに一度だって、おじいさまは『後継者はジュリウスだ』だとか、そんなことを仰ってた覚えは無いわ。あんたもそうでしょ?」
    「そうね。となるとそれは、ジュリウスおじさまよりもさらに近しい人間ってことよね」
    「……ねえアンジェ、あたし今、ピンと来たんだけど」
    「そうね、フィー。あたしもよ」
     二人は顔を見合わせ、異口同音にその予想を口に出した。
    「肉親、……でしょうね」
    「そうね。そして孫のあたしより優先的に、指名を考えさせるくらいの近さの」
    「つまり、……父親の、ことよね」
    「……多分、ね」
     JJからは、父親の名前や思い出などは聞かされて来なかったが、評価についてはあらゆる悪口雑言と共に散々聞かされていたため、二人はその予想を同時に否定しようとした。
    「ありえるの? だっておじいさまは……」
    「そうよね、だってあれほど嫌っていたもの」
    「ええ、本当に。フランス語の悪口辞典って感じで徹底的に罵ってたんだから、例え地獄が凍り付くようなことがあっても絶対、後継者にしようなんて、……ねえ?」
    「でも、アンジェ。あたしたちだって、何年か前まではとっても嫌われていたじゃない。でもたった一度、ちょっとフランス喜劇の台詞を引用したってだけで、おじいさまはころっと態度を変えた。今だってもしかしたら、そうなるんじゃない?」
    「つまり10年以上忌み嫌っていた息子がひょっこり帰って来て話し込んだら、途端に『やはり後継者にするなら息子か』って心変わりするかもってこと?」
    「かも、だけどね。あんた、それで納得する?」
    「……」
     尋ねられ、アンジェは黙り込んだ。それを眺めていたフィーが、こう続けた。
    「あんたはあたし。あたしはあんた。あんたが考えてること、あたしだって考えてるわ、きっと」
    「……そうね」

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 5

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第5話。
    フィーとアンジェ(Fée et Ange)。

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    5.
     大変な秘密を一人で抱える羽目になったジュリウスだったが、彼の献身の甲斐あって、二人のトリーシャは聡明かつ物分りの良い、それでいて勇ましい娘たちに成長した。
     二人はジュリウスの苦労を幼い身で良く理解してくれたし、離れに住まわされて何年か経ち、どうにかJJの怒りも冷め、アジト内に限定しての外出許可を与えられた後でも、同時に離れを出るようなことはせず、きちんと1人ずつで出歩くようにしていた。
     当然、出歩けば他の人間と会うことになるのだが、その点も「彼女たち」は上手く合わせていた。どこでいつ、誰とどんな話をしたか、二人はそれぞれ事細かに覚えており、かつ、詳細に伝え合っていたので、出歩いた先での会話に矛盾が生じたことは一度も起こらなかった。その内容は単なる日常会話だけに留まらず、銃の扱い方や戦闘技術、乗馬術、礼儀作法、そして戦術論や化学知識に至るまで、あらゆることを完璧に共有した。
     そしてダビッドがかつて見立てていた通り、容姿に関してもほとんど瓜二つであり――二人並べて立ってようやく2、3インチほど背丈が違うことが分かる程度だった――真実を知る唯一の人間であるジュリウスでさえも、外を出歩く彼女が「どちらの」トリーシャであるのか、判別できないほどだった。
    「おはよう、トリーシャ。今日の気分は?」
    「パステルブルーってところね」
     なのでジュリウスと彼女たちは、合言葉を決めていた。こうして機嫌を尋ね、青系の色を答えた方が「フィー」、赤系ならば「アンジェ」と言った具合である。
    「そうか。ではシェフにクレープを注文するとしよう」
    「ありがとう、おじさま」
     ジュリウスも彼女たちの好みを良く分かっているので、機嫌を尋ねた後は決まって、朝食にデザートの追加注文をしてくれた。
    「今日の予定は?」
    「この後ダルトンさんに算数を、午後はハーディングさんに射撃を習う予定よ」
    「算数か……。トリスがどうにも駄目でな。ディムと違って、手を使わんとモノが数えられんのだ」
    「まあ、可愛らしい」
     共に朝食を取りながら、二人はまるで父娘のように仲睦まじく会話を交わしていた。と――。
    「誰だ、こんな時間まで呑気に朝食を取っておる輩は」
     いやみったらしい声を上げて、JJが食堂に現れた。
    「女子供ではあるまいし、飯なぞ口の中にちゃっちゃと放り込めば良いのだ」
    「じゃあゆっくり食べさせていただきます、おじいさま。あたし、女で子供だもの」
     トリーシャにそう返され、JJは「うぬっ?」と虚を突かれたような声を上げた。

    「お前は、……あー、……えーと、と、と、とり、……トリスタン?」
    「それは我が息子の名前です」
     ジュリウスが立ち上がり、彼女を実の祖父に紹介する。
    「彼女はエミル・トリーシャ・シャタリーヌ。あなたの……」「分かっておるわ! 皆まで言わんでよろしい!」
     JJはむっとした顔をジュリウスに向け、続いてその顔を孫娘に向けた。
    「フン、もったいぶってデザートまで取りおって。お前は貴族か何かか?」
    「いいえ、断じて。握手でもしておきますか?」
    「ほほう?」
     一転、目を輝かせ、JJはつかつかとトリーシャの前に寄って来た。
    「『町人貴族』か! そんな機知に富んだ台詞を、とっさによく諳(そら)んじたものよ! なかなか教養があると見た」
    「この程度であれば、一通り修めております」
    「C’est magnifique!(素晴らしい!)」
     数年前、殺せとまで命じた自分の孫娘に向かって、JJはにたぁ、と気味の悪い笑みを浮かべて見せた。
    「興が乗ったわい。この後は空いておるのか?」
    「算術と射撃を学ぶ予定です」
    「と言うことはダルトン牧師とハーディング曹長か。よろしい、彼らには余から講義の取りやめを伝えておく。今日はこの余が自ら、教鞭を振るってやろうではないか」
    「え?」
    「余が半世紀に渡って研鑽(けんさん)した帝王学を、お前だけにじっくりと学ばせてやろう。9時に余の部屋へ来るが良い」
    「わ、……分かりました」
     面食らうトリーシャに背を向け、JJは嬉しそうな足取りで食堂を後にした。残ったトリーシャとジュリウスは顔を見合わせ、どちらからともなくつぶやいた。
    「あたし、気に入られたのかしら?」
    「どうやらそうらしい」

     この日以降、トリーシャの習い事が1つ増えると共に、それまで邪険にされ続けてきた祖父と話す機会が増えるようになった。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 4

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第4話。
    奇妙な相談。

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    4.
     悪の道に堕ちた身ではあるが、ジュリウス・アルジャンは元々貴族の出であり、高潔と品行方正を己の誇りにする男である。親を失った赤ん坊を荒野のあばら家に放っておくような、非道で恥ずべき行いをするはずも無く、彼は赤ん坊を、組織のアジトにしている廃坑そばのゴーストタウンに連れ帰った。
     と――。
    「おお、ジュリウス! 久しぶりじゃねえか、……って、そいつは?」
     自分と同様に赤ん坊を抱えた相棒、ダビッド・ヴェルヌと出会い、互いに面食らった顔を見せた。
    「お前も、……それは誰の子供だ? お前のか?」
     尋ねたジュリウスに、ダビッドは辺りを見回しつつ、肩をすくめて返す。
    「大っぴらにゃ言えねえ話だ。ちっと人のいないトコ行こうぜ」
    「ああ」
     人気の無い場所に移り、ダビッドは声を潜めて話し始めた。
    「ほら、閣下から若、……いや、もうそんな呼び方しなくていいか、あのバカ息子の討伐命令を俺が受けてただろ? で、あいつあっちこっち逃げ回ってたもんでよ、どうにか始末付けるまでにほとんど1年かかっちまったんだわ。聞いた話だけどお前も姫とマイヨンの行方、1年かけてあっちこっち探して回ってたんだってな」
    「そうだ。だが姫もマイヨンも、私が探し当てた時には既に心中していてな」
     あらかじめ作っておいた言い訳を聞かせつつ、ジュリウスも自分の腕の中で眠る赤ん坊の事情を話した。
    「……じゃあ、その子は姫の娘ってことになんのか」
    「間違い無いだろう」
    「まずいな、ソレ」
     そう返され、ジュリウスはまたも面食らった。
    「何だと?」
    「何となく察してるだろうけどな、コイツも孫なんだよ、閣下の」
     そう言ってダビッドは、抱きかかえていた赤ん坊の背中をトントンと叩く。
    「つまり若、……いや、ルシフェルの?」
    「って話だ」
     妙な言い回しに、ジュリウスは首をかしげた。
    「話が見えて来ないな。確かではないのか?」
    「かいつまんで説明すると、だ。1ヶ月前、俺たちの部隊はルシフェルのアジトを見付けて強襲した。アイツはろくでなしだったからな、カスみてえな取り巻きと、あとは女を何人か囲ってたんだが、ソイツらは襲撃ん時に巻き添え食っちまってな、全員死んだ。で、そのうちの一人が死ぬ前に『ルシフェルの子だ』つって、俺にこの娘を渡したんだよ」
    「ルシフェル本人は?」
    「逃げやがったよ。取り巻きを囮にしてな。だがもう、俺たちが追う必要も無いだろう。
     アイツ、はっきり言ってバカだからさ。北にも南にも無節操にケンカ売りまくってるらしくてな、今や南北併せて賞金5千ドルを超えるお尋ね者だ。俺たちが追わなくても、その内どっちかに殺されるだろうさ」
    「だといいが。……それでダビッド、まずいと言ったのは?」
    「ああ」
    ダビッドは赤ん坊を撫でながら、げんなりした顔を見せた。
    「連れて帰って来たワケだからよ、とりあえず報告するわな、閣下に。そしたらよ、顔を真っ赤にしてブチ切れたってワケよ。『あの穀潰しの娘だと!? 顔も見たくないわ! 殺してしまえ!』つって」
    「やはりそうなるか……」
     赤ん坊を抱えながら、自分の頭も抱えたジュリウスに、ダビッドは「ま、ま」と続ける。
    「そんでも幹部総出でなだめすかしてな、どうにか育てるってコトで話はまとめた。流石にこんな赤ん坊を殺すなんてよ、いくら俺たちが筋金入りの無法者だっつっても、やりたかねーもんなぁ。
     だけどもジュリウスよ、お前さんも赤ん坊連れて来たってなると、閣下がもっぺん爆発しちまうぜ」
    「ああ、想像に難くない」
    「そしたらまた殺せだの何だのって怒鳴られちまうぜ。下手すりゃこの娘まで殺せって命令しかねないだろ?」
    「だろうな」
    「んで、今ちっと思い付いたんだがよ」
     ダビッドはジュリウスの横に立ち、赤ん坊を並べて見比べた。
    「歳も近そうだし、従姉妹ってコトになるから顔立ちもソレなりに似ちゃいる。ちっとごまかせば、1人ってコトにできるんじゃねえか?」
    「なに?」
    「ソレしか無いぜ、ジュリウス。娘が2人いましたって正直に言うのは、少なくとも今は絶対にまずいだろ? しばらくの間は、1人だっつってごまかすしかねえよ」
    「……やむなしだな」



     こうして2人の赤ん坊は「エミル・トリーシャ・シャタリーヌ」と言う1人の娘として扱われ、座敷牢同然の離れに住まわせた上で、ダビッドとジュリウスが交代でお守りをすることとなった。このことは組織の者はおろか、ジュリウスたちの実の息子にさえ、真実が知らされることは無かった。
    「ドコから話が漏れるか分からんからな。ま、閣下も相当なお歳だし、そう遠くない内にポックリ逝くだろうさ。その後で皆に明かせば、万事問題無しってワケだ」
     ダビッドはそう言って気楽に構えていたが――娘を引き取ってからわずか2年後、逆にダビッドの方が腸チフスにかかり、病死してしまったのである。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 3

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第3話。
    ジュリウスの討伐劇。

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    3.
     ようやくジュリウスがマイヨンのところに行き着いたところ、彼はジュリウスの前にひざまずき、深々と頭を垂れた。
    「申し訳ございません、アルジャン様! どうかこのまま、何も見なかったことにして、お帰りいただけませんか」
    「それは無理な相談だ。こうして見付け出した以上、私は任務を遂行する義務がある」
     マイヨンの願いをにべもなく却下し、ジュリウスは小銃を彼の頭に向けた。
    「君はやってはならぬことをしでかした。閣下は命を持って償うことを望まれている」
    「……では、せめて」
     マイヨンは顔を上げ、涙を流しながら懇願する。
    「姫のことは、見逃しては」
    「それもならぬ」
     ジュリウスは大きくかぶりを振り、淡々と告げた。
    「姫は連れて帰るように申し付けられている。君がこの1年、姫とどんな生活を送っていたか、想像に難くない。だからこそ、閣下は君のことを絶対に許しはしないし、何があろうとも、命令は撤回しないだろう。そして君からのどんな要望も、私は聞き届けることはできない。私は下された命令を、忠実にこなすのみだ」
    「……せめて」
     マイヨンはもう一度頭を下げるが――。
    「姫のむす……」
     その言葉は、途中で発砲音にさえぎられた。
    「すまない、マイヨン」
     血溜まりに沈んだマイヨンの背中を眺め、ジュリウスは最後まで淡々と述べた。
    「君がどんな頼みごとをしようと、私がそれを聞くことはできぬのだ」
     マイヨンを仕留めたジュリウスはそのまま、彼の背後にあった家屋へと足を向けた。
    (大草原の小さな家、……か。この国の大多数の西部民と同様に、慎ましく暮らしていたと見える。姫にこんな不自由をさせてまで、お前は自分の勝手を通そうとしたのか? ……いや、違うな)
     背後から漂う血の臭いをわずかに感じながら、ジュリウスはあばら家同然のその家の様子を眺める。
    (組織が、そして閣下が恐ろしかったのだろう。そして姫も恐らくは、同じ感情を抱いていたに違いない。だからこそ組織での地位も、生活も全て捨てて、二人でこんな僻地にまで逃げて来たのであろう)
     あばら家の前に到着したところで、ジュリウスはまたも、血の臭いが漂っていることに気付いた。
    (マイヨンの……? いや、恐らくは)
     玄関の戸を開け、ジュリウスはその予感に誤りが無かったことを確かめ、そして嘆いた。
    「……おいたわしや」
     テーブルに突っ伏す形で、ミカエルは事切れていた。その右手に握られた拳銃からはまだ、硝煙が立ち上っている。
    (マイヨンの最期を見て、後を追った形か。……心苦しいが、そう言う経緯であれば、私にはどうすることもできなかっただろう)
     たった5メートル四方の、小ぢんまりとした居間を周り、ジュリウスは閣下への言い訳を考える。
    (ありのままを伝えるべきか? となれば『マイヨンを仕留めたところで姫も後を追った』となるが、……閣下からは姫を止めなかったことを咎められるだろう。余計な罰を負う羽目になりかねんな。であれば『私が訪ねた時には既に心中していた』とでも言っておくか。
     ……しかし何だ? この、妙な違和感は)
     居間を何度か見渡し、ジュリウスは首をかしげた。
    (1年寝食を共にしていた男女の家にしては、生活感に乏しい。衣服も道具も、こんな荒野にそぐわぬほどに、異様にぴっちりと整頓されている。よそよそしさすら感じるほどだ。この家からは到底、仲睦まじい男女の空気を嗅ぎ付けることができぬ。
     それにマイヨンの言葉遣いも妙だった。自分が愛した女であったならば『ミカエル』と、名前で呼んだはずだ。だが奴は『姫』と呼んでいた。やはりそこにも、愛を匂わせるものが一切無い。これではまるで、マイヨンが組織にいた時と一切変わらず、単なる従者として姫に接し続けていたかのようだ。
     一体、二人はこの1年、どう過ごしていたのだ? 姫とマイヨンは駆け落ちするような間柄では無かったのか? だと言うのならば何故、姫はマイヨンと心中したのだ?)
     と、その時だった。隣の部屋から、赤ん坊の泣く声が聞こえてきたのである。
    「ぬ……?」
     ジュリウスは隣に移り、片隅にあった揺り籠に近付いた。
    「お前は……」
     中にいた赤ん坊の顔を見て、ジュリウスの脳裏にマイヨンが言いかけた、最期の言葉がよぎる。
    (『姫のむす……』と言っていたか。あれは娘と言いたかったのだな。……それもまた妙だ。他人行儀にも程がある。姫とマイヨンの間に産まれた娘であったのならば、『姫の娘』などとは決して言うまい。『私の娘』、あるいは『私たちの娘』と言うはずだ。となると……)
     そこまで思案したところで、その娘がわんわんと、一際けたたましく泣き出した。
    「……新たな言い訳を考えねばならんな」
     仕方無く、ジュリウスは手と両袖をぱんぱんとはたき、その娘を揺り籠の中から抱き上げた。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 2

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第2話。
    天使と悪魔。

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    2.
     JJが合衆国の地に足を踏み入れた時、手下はわずか――腹心のジュリウス・アルジャンと、ダビッド・ヴェルヌ。パトロンであり、アメリカへの逃走ルートを用意したアルテュール・リゴーニ。そして下僕のアンリ=ルイ・ギルマンと、エイミッシュ・マイヨンの5人しか残っていなかった。
     そして彼の家族も元々、子供がわずかに2人――兄のルシフェル・ブラン・シャタリーヌと、妹のミカエル・マルーン・シャタリーヌだけしかおらず、このまま何事も起きなければきっと、彼の野望は西部の土の下に埋もれるばかりだっただろう。

     ところがやはり、JJには未曾有の強運が取り憑いていたらしい。彼が渡米した翌年から、合衆国南北の情勢が悪化。瞬く間に合衆国を二分する内戦、南北戦争が勃発したのである。
     これに乗じ、JJは一挙に人員と資金を獲得した。北部の海上封鎖の間隙を突いて闇取引を繰り返し、北部から武器を横流しし、さらには南部の大物代議士をたばかり、総資産価値300万ドル強に及ぶ、強大な地下帝国を築き上げたのである。
     そして5人の部下も少なからず、その恩恵を受けることとなった。アルテュールは組織への出資した以上の莫大な収益を獲得し、手柄を立てたジュリウスたちもそれぞれ、大勢の部下を従える部隊長の地位を与えられた。さらに息子のルシフェルもまた、この頃から頭角を現し始め、戦乱の最中にある合衆国各地を荒らし回る、恐るべき犯罪者(テロリスト)となっていった。



     だがこの過程で2つ、JJにとって好まざることが起こった。1つは、そのルシフェルが自分の制御を外れ始め、不必要な略奪・殺戮を行い始めたことだった。
    「いい加減にせぬか、ブラン! 戦時中といえども、警察が動いておらんわけでは無いのだぞ!?」
    「知ったことじゃないさ」
     顔を真っ赤にして怒鳴り散らす父親に目もくれず、ルシフェルは拳銃を磨いている。
    「それより親父、M州にまた北軍が来てるらしいぜ。懲りもせずによくもまあ、ノコノコやって来るもんだ。そう思わないかい?」
    「何の話だ?」
     自分の話をさえぎられ、憤るJJに、ルシフェルはやはり目を合わせず話を続ける。
    「分からないの? ブン捕るチャンスだって言ってるのさ」
    「そんな必要はもう無い!」
     JJは声を荒げ、息子の提案を却下した。
    「既に人員も物資も十分確保してある。現状は襲撃と略奪より、練兵と拠点構築を優先すべき状態にある。むしろ、これ以上物資を集めても無駄にしかならん」
    「そんなもんかねぇ」
     ルシフェルはニタニタと下品な薄ら笑いを浮かべながら、拳銃を腰のホルスターに収める。その態度に、JJはますます怒り出した。
    「いいかブラン、しばらくアジトの外には出るな! これは余の……」「命令だ、って?」
     と、ルシフェルは収めたばかりの拳銃を抜き、JJの顔に向けた。
    「うっ……!?」
    「実の息子にまで『命令』すんのかい、親父? そんな調子だからあんた、フランスを追い出されたんだぜ?」
    「な、何を言うかッ!」
    「図星だからってそんなに怒んなよ。残り少ない寿命があっと言う間に燃え尽きるぜ」
    「貴様……!」
    「話は終わりだろ? じゃあな」
     ルシフェルはくるんと拳銃を戻し、JJの前から去り――どうやらこの時点で既に、自身が疎まれていることを察していたらしく――集めた資金の一部を盗み、行方をくらましてしまったのである。
     親である自分に対して憎たらしい態度を執るだけに留まらず、組織にとって害をなすルシフェルを、JJが許すはずは無かった。JJはダビッドに命令を下し、ルシフェルの討伐に向かわせた。



     そしてもう一つの誤算は、地位を引き上げ、取り立てたばかりのマイヨンが、ミカエルと共に姿を消したことだった。
    「なんたることだ! 折角余が目をかけてやったものを……!」
     憤慨し、禿げ上がった頭のてっぺんまで真っ赤に染めるJJの前に、ジュリウスがかしずく。
    「閣下。私が娘御とマイヨンを連れ戻して参ります」
    「……」
     申し出たジュリウスを半ばにらみつけるように見つめて、JJはこう返した。
    「娘は、……連れ戻せ。マイヨンは殺せ」
    「承知」

     ジュリウスがミカエルとマイヨンの行方を探り当てるまでに、実に1年近くを費やすこととなった。そしてその結果、JJにとって想定外の事態が、新たに1つ起こることとなった。

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    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 1

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、最終作。
    闇の叡智、新大陸へ。

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    1.
     19世紀のヨーロッパ大陸は、ほとんど常にフランスの動向に左右されていたと言っても過言では無い。2度の帝政と王政の復古、そしてその合間、合間に立ち上がってくる共和制と、フランスと言う国家そのものが目まぐるしく形を変え、その度に、周辺国は翻弄され続けてきた。

     そして当時既に60の大台を超えていたこの小男もまた、フランスに翻弄された者の一人と言えた。
    「忌々しい……! まったくもって忌々しいわッ!」
     遠ざかっていく自分の故郷をにらみつけながら、彼は船上で呪詛(じゅそ)を吐き散らしていた。
    「なにがナポレオンだ! なにが新たな皇帝だ! 一枚皮を剥けば、そこいらの凡百と変わらぬ浪人風情ではないか! ほんのちょっと運が良かっただけの、ただのチンピラだ! なのに何故、彼奴などよりもっと才と実力を持つこの余が、割りを食わねばならぬと言うのだ!?」
    「まあ、まあ、閣下。そのへんで……」
     下卑た顔をくしゃくしゃに歪めつつ、わめき散らしていた老人――数日前までフランスの裏社会で名を馳せていた悪の首魁、「大閣下」ジャン=ジャック・ノワール・シャタリーヌの周りに、やはり品の無さげな男たちが集まって来る。
    「確かに国を追われる形となってしまったのは残念でなりませんが、いい機会ととらえればよろしいではないですか」
    「なんだと!?」
     顔を真っ赤にして憤るJJに、カイゼルひげをたくわえた、恰幅のいい男がこう続ける。
    「アメリカにはチャンスが山のようにあります。旧大陸はおろか、アフリカやアジアからもヒトとカネが集まる東部、そして黄金眠る西部! そのくせ結束力に乏しく、東部と西部では最早異国、異邦、いいえ、異世界と言っていいほど、国としてのまとまりはバラバラに等しい。当然、警察力などと言ったものは皆無。我々のような者が取り入り財と権力を成すには、絶好の土地ではないですか」
    「しかしアルテュールよ……」
     渋い顔をするJJに、身長2メートルはありそうな大男が、幼い子供を胸に抱きながら声をかける。
    「閣下のことですから、祖国に馴染みのない土地は好まれないのではと察しております。ですがルイジアナは元々、我がフランスのものだったではないですか。少なからず我々に縁(ゆかり)ある土地と考えて、何の問題もございますまい」
    「……ふーむ、ふむ」
     途端に、JJの顔が嬉しそうににやける。
    「なるほどジュリウス、お前の言う通りだ。そもそもそのルイジアナ自体、ナポレオンが相場に釣り合わぬ端金(はしたがね)で売り払ったのだ。そのナポレオンも祖国に背を向けられたことであるし、その三世だの何だのを名乗るあの醜男もまた、フランスを代表する権利なぞ無いクズだ。
     よって結論として――ルイジアナ売却に正当性があるなど、正当なるフランス国民、旧大陸の闇の叡智と畏(おそ)れられたこの余は、断固として認めん。であればルイジアナは余がその手中に収めたとて、何の問題も無かろう。いいや、その買収も半世紀以上昔のこと。その半世紀分の利子を付けて、フランス国民の手に返してもらうべきだ」
    「つまり閣下」
     アルテュールはカイゼルひげを指先で撫で付けながら、JJにニヤニヤと笑みを向けた。
    「奪(と)る気ですな、アメリカ全土を」
    「うむ」
     それまでの憮然とした態度を一転させ、JJは握っていた杖の先を西へ向けた。
    「征くぞ、新大陸へ! 征くぞ、新世界へ! アメリカは余のものだ! ぐふっ、ぐふっ、ぐふふふふっ……!」

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    クルマのドット絵 その83

    クルマのドット絵

    クルマのドット絵紹介。
    これで今年分は最後。

    ・シボレー インパラ(2014)
    CHEVROLET IMPALA

    ・ダッジ チャージャー(2014)
    DADGE CHARGER SRT HELLCAT

    今年はアメ車を11種描いたため、
    昨年言っていた日本車・欧州車・米国車の割合が大きく変わりました。
    昨年11月時点では48:46:6でしたが、
    現時点では46:43:11と、当然ながらアメ車のウェイトが増しました。
    ……が、来年の待受のテーマは「80年代日本スポーツカー」のため、
    また日本車の比率が増える予定です。

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