黄輪雑貨本店 新館

双月千年世界 短編・掌編

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    Index ~作品もくじ~

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    晴奈の話、……じゃありません。
    天原棗と梶原謙の恋物語です。

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    蒼天剣番外編 その1
     双月暦507年の、ある夏。
     その日、天原棗は天神川のほとりを歩いていた。目的は無い。ただただ、寂しさを紛らわせているのだ。
    (お父さま……)
     先日、父の天原椹が亡くなった。死因は卒中。……と言うのは表向きの話で、実は殺されていたのだ。
     玄関に上がるなり、父は前のめりに倒れた。首の後ろ、頚椎に矢が刺さっており、その矢には「このことを他言すれば、お前たちの命は無い。自然死とでも理由をつけ、葬るが良い」と文が添えられていた。
     残された天原母娘はひどく悲しみ、そして怯えた。こんな恐ろしいことをするのは従兄弟の天原桂以外には無く、彼の目的は天原家の家督を継ぐことにあったからだ。
    (きっとわたくしも……)
     椹がいなくなった今、天原家の血を継ぐのは桂と自分だけである。近いうち自分も殺されてしまうだろうと、日々不安な生活を続けていた。
     そしてその不安は的中した。
     川沿いの道から路地へと入ったところで、棗は不穏な空気を感じ取った。
    「……!」
     前から2人。後ろからも2人。さらには両側の壁を乗り越え、2人ずつ。8人の黒ずくめが、棗を取り囲んだ。
    「天原棗殿ですね? お命、頂戴いたします」
     前にいた黒頭巾が刀を抜き、乾いた声で棗に死刑宣告をした。
    「ひっ……」
     棗は震え上がり、その場にへたり込んでしまった。

     その時だった。
    「おいおいおいおい、女1人に8人がかりで、何しようってんだ?」
     棗に声をかけた黒ずきんが、突然倒れた。
    「なっ、何者だ!?」
    「名乗るほどの者じゃない。特に、お前らみたいな狼藉者に名乗る名前なんて……」
     もう一人、黒ずくめが倒れる。
    「持ち合わせちゃいない」
     その後はもう、棗にとっては夢か幻のような出来事だった。
     突然現れた侍風の男はまるで何人にも増えたように、一度に2人、3人となぎ倒していく。男が現れてから黒ずくめが全員やられるまで、棗は2、3回くらいしか呼吸をしなかった。
    「あ、あ……」
    「……ほら、可愛い尻尾のお嬢さん。もう大丈夫だ。立てるか?」
    「え、あ……」
     立ち上がろうとしたが、腰が抜けてしまっている。
    「す、すみません。立てません」
    「そっか。……じゃ、ちょっと失礼して」
     男はひょいと、姫君を抱きかかえるように棗を持ち上げる。
    「ひゃっ……」
    「家はどこだい? 連れてってやるよ」
    「あ、……ありがとう、ございます」
     棗はこの男に、一目で惚れ込んでしまっていた。



     この男の名は梶原謙。
     後に棗の夫となる人物であった。

    蒼天剣番外編 その1
    »»  2008.10.20.
    晴奈の話、の幕間。
    バカ二人と、バカが大嫌いな魔術師の話。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    蒼天剣番外編 その2
    「おい、起きろ! 殿下がいない!」
     フォルナの護衛、グリーズはフォルナがいないことに気が付き、慌てて相棒のオルソーを叩き起こした。
    「んが……。がっ!?」
     相棒の言葉に、オルソーは慌てて目を開けた。
    「い、いないって、どう言う、あぁ!?」
    「いないんだよ! どこにも! 部屋にも下にも!」
    「……つまり、いないんだな、どこにも」
    「そう言ってるだろ、お前相当頭悪いな」
    「お前には言われたくない。いや、それよりも」
     二人はどたどたと足音を立て、先ほどまでフォルナがいた部屋を探し回る。
    「いない」「ああ、いない」
     二人は青い顔になり、大声で叫んだ。
    「殿下! フォルナ殿下!」「どちらにいらっしゃるのですか!?」
     巨漢二名の大声は、宿をビリビリと震わせる。
    「な、なんだ?」
    「地震!?」
    「暴動かっ!?」
     たまらず周りの客が廊下に飛び出す。それに構うことなく、「熊」たちは叫び続ける。
    「殿下ぁ~!」「出てきてくださ~い!」
     流石の店主も、この騒ぎを見過ごせずに上がってきた。
    「ちょっと護衛さん、他のお客さんもいらっしゃいますから」
    「そんなことはどうでもいい!」「殿下だ! 殿下がいなければ……!」
     店主の制止も聞かず、「熊」たちは騒ぐ。と、そこに――。
    「うるさいね……!」
     いかにも魔術師風の、よれよれとしたローブを身に纏った男がやってきた。
    「まだ昼前じゃないね。夕べから一睡もしてなかったヤツもいるんだから、黙れって」
    「何だ貴様!」「口を挟むな!」
     この注意も、二人は突っぱねた。魔術師の額に、ピシッと青筋が走る。
    「……もう一度言うね。黙れ」
    「うるさい!」「もしかして貴様か!? 貴様が殿下を……!?」
     魔術師は深いため息をついて、ぽつりとこう言った。
    「だからバカは嫌いだね。話を聞きやしない」

     10秒後。オルソーとグリーズは宿の窓を突き破って、外へと吹っ飛んでいった。
    「……ったく、カジノで大負けしてた時に、気分の悪い」
    「お、お客さーん」
     魔術師――モールが店主の方を振り返ると、店主が困った顔で揉み手をしている。
    「窓、弁償お願いします……」
    「……あー」
     モールは左手に持っていた魔杖を壊れた窓に向け、印を結ぶ。
    「戻れ、『ウロボロスポール:リバース』」
     呪文を唱え、杖を振りかざした途端、窓の破片がひょいひょいと元の場所へ帰っていく。
    「お、お……!?」
     窓は何事も無かったかのように、欠片一枚も残さず元の姿に戻った。
    「私にかかりゃ、これくらい朝飯前だね。……あ、本当に朝飯食ってないね、そう言えば。店主、飯の用意頼んでいいね?」
    「あ、はい……。えっと、お部屋にお運びしましょうか?」
    「ん、よろしゅー」
     モールは首をコキコキと鳴らし、部屋へと戻っていった。

    「いてて……」「あたた……」
     宿の3階から落とされたオルソー、グリーズの二人は体中をさすりながら、顔を見合わせる。
    「ど、どうやらあいつは無関係なようだ」
    「そのようだな。……そうであってほしい」
    「しかし、それでは殿下は、どこに行ったと言うのだろう?」
    「もしかしたら、我々が眠っていた隙に抜け出したか……」
    「それしかあるまい。となれば、街中を歩いているはず。急いで探すぞ」
    「ああ」
     二人は立ち上がり、バタバタと市場へ向かって走っていった。



     なお、この時既にフォルナはゴールドコーストを離れ、晴奈たちの後を追っていた。
     初動捜査の空振りと判断の遅れにより、オルソーたち二人がフォルナを見つけることはついに無かった。グラーナ王国がこの二人から報告を受け、央中全土に捜索の手を広げるのは、これから半月後のことになる。

    蒼天剣番外編 その2
    »»  2008.12.26.
    引き続き(略

    籠作り。


    鴉の籠 5
    »»  2009.02.03.
    スピンオフ、残り2話。

    形勢逆転。


    鴉の籠 6
    »»  2009.02.04.
    番外編。
    若き日の総帥。


    KCN 2
    »»  2009.05.14.
    番外編。
    一線を超える。


    KCN 3
    »»  2009.05.15.
    番外編。
    あの人も若かった。


    KCN 5
    »»  2009.05.17.
    番外編。
    焦るべからず。


    KCN 6
    »»  2009.05.18.
    番外編。
    揺らぐ平和。


    KCN 7
    »»  2009.05.19.
    番外編。
    「KCN」とは?


    KCN 8
    »»  2009.05.20.
    番外編。
    尋問。


    KCN 9
    »»  2009.05.21.
    番外編。
    シアンの本性?


    KCN 10
    »»  2009.05.22.
    番外編。
    犯行動機。


    KCN 11
    »»  2009.05.23.
    番外編。
    最後の追走。


    KCN 13
    »»  2009.05.25.
    番外編。
    シアンの「最期」。


    KCN 14
    »»  2009.05.26.
    晴奈の話、……じゃありません。
    賢者の約束が実ったお話。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    蒼天剣番外編 その3
     いくつになっても、彼女は人懐っこい性分であるらしい。

    「へぇ……、それじゃ、恋人さんとは長いのね」
    「ええ。周りからは、『いい加減結婚したらどうだ』と言われているんですが」
     央南、紅蓮塞。
     この地での仕事が一段落したジュリアは、晴奈の師匠である焔雪乃に興味を抱き、彼女の部屋を訪れていた。
     部屋にいた彼女はニコニコと笑いながら、取り留めのない話に興じてくれる。
    「言われるわよね、ある程度の歳になってくると」
    「ええ。でもまだ、そんな気分になれなくて。いい人なんですけれど、どうもカリカリしたところが多くて」
    「まだまだ若い、ってことね。
     でも人生の先輩として言っておくと、そう言う風に『ここさえなんとかなればなぁ』って細かい問題点を気にしていると、機会を逃しちゃうこともあるわよ。
     思い切って、えいやっと展開を進めちゃうのも一つの手よ」
    「はは……、ええ、参考にしておきます」
     話しているうちに、ジュリアは目の前の長耳がずっと大人びた、経験豊かな女性であると感じていた。
    (コスズと2歳違いと聞いていたけれど、それより一回り、二回り、いいえ、もっと歳を取っているような雰囲気があるわね。
     何だか、同年代の人と話しているような気がしない)

     ふと、ジュリアは彼女の背後の棚に、物々しい箱が置いてあるのに気が付いた。
     いかにも頑丈そうな、銀色に鈍く光る金属製の箱だ。さらに、その箱は鎖が何重にも巻かれており、それがさらに物々しさを強めている。
    「どうしたの、ジュリアさん?」
     ジュリアの様子に気が付いた彼女は、その目線を追う。
    「ああ、これね」
    「何か危険なものが入ってるんですか?」
    「ええ。この中身一つで、何千、何万の人が不幸になったの。わたしも、その一人」
     彼女はすっと立ち上がり、その箱を手に取った。
    (……あれ?)
     ジュリアはその立ち姿に、わずかな違和感を覚えた。
    (ユキノさん、確かもう少し、背が高かったような……?)
    「中に入っているのは、一冊の本なの」
     彼女は箱を小さく揺らし、カタカタと音を立てる。
    「でも、ただの本じゃない。これは、古代の魔術書なの。ある人に処分をお願いしたんだけど、燃やすことも溶かすこともできなくて、仕方なくこうやって、厳重に封印したのよ」
    「そうなんですか……」
    「……でもね」
     彼女は箱を元の場所に置き、ジュリアの前に座り直した。
    「わたしもこの本を使ったんだけど、……とっても、不思議な体験ができたわ。色々怖くて、悲しい目に遭ったけど、使った価値はあった、……と思う。
     それに、この本とその人のおかげで、わたしは思ってもいなかった幸せを手に入れられたもの。人を不幸にしたこの本だけど、結局は使い方次第じゃないかしら。そう思うの」
    「へえ……」
     一体どんな体験をしたのだろうと、ジュリアが強い興味を惹かれたその時だった。

    「あれぇ?」
     開いていた戸から、雪乃の子供である小雪がぴょこんと顔を出した。
    「あら、小雪ちゃん」
    「……」
     ジュリアの正面にいた彼女が手を振ったが、なぜか小雪は近寄ろうとしない。それどころか、半ば逃げるように離れていってしまった。
    「あら、あら……」
    「どうしたんでしょうか、コユキちゃん」
    「あの子、なかなか勘が鋭いのね、クスクス……」
     少し間を置いて、とたとたと言う子供の足音と、とんとんと言う体重の軽そうな大人の足音が聞こえてきた。
    「ね、お母さんのまねしてるの。変でしょ?」
    「……」
     入ってきたのは小雪と、ジュリアの前に座っているはずの雪乃だった。
    「え、え……、あれ?」
     同じ顔に挟まれ、ジュリアは困惑する。
     と、入ってきた方の雪乃が、今までジュリアを相手していた方の雪乃を見て、呆れた表情を見せた。
    「……母さん。お客さんをからかっちゃダメじゃない」
     その言葉に、彼女は笑い出した。
    「ごめんね、クスクス……」
     母と同じ格好をする彼女を見て、小雪はこうつぶやいた。
    「……雪花おばーちゃんも、変わり者だね」

    蒼天剣番外編 その3
    »»  2009.10.01.

    晴奈の話、……じゃありません。
    天原棗と梶原謙の恋物語です。

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    蒼天剣番外編 その1
     双月暦507年の、ある夏。
     その日、天原棗は天神川のほとりを歩いていた。目的は無い。ただただ、寂しさを紛らわせているのだ。
    (お父さま……)
     先日、父の天原椹が亡くなった。死因は卒中。……と言うのは表向きの話で、実は殺されていたのだ。
     玄関に上がるなり、父は前のめりに倒れた。首の後ろ、頚椎に矢が刺さっており、その矢には「このことを他言すれば、お前たちの命は無い。自然死とでも理由をつけ、葬るが良い」と文が添えられていた。
     残された天原母娘はひどく悲しみ、そして怯えた。こんな恐ろしいことをするのは従兄弟の天原桂以外には無く、彼の目的は天原家の家督を継ぐことにあったからだ。
    (きっとわたくしも……)
     椹がいなくなった今、天原家の血を継ぐのは桂と自分だけである。近いうち自分も殺されてしまうだろうと、日々不安な生活を続けていた。
     そしてその不安は的中した。
     川沿いの道から路地へと入ったところで、棗は不穏な空気を感じ取った。
    「……!」
     前から2人。後ろからも2人。さらには両側の壁を乗り越え、2人ずつ。8人の黒ずくめが、棗を取り囲んだ。
    「天原棗殿ですね? お命、頂戴いたします」
     前にいた黒頭巾が刀を抜き、乾いた声で棗に死刑宣告をした。
    「ひっ……」
     棗は震え上がり、その場にへたり込んでしまった。

     その時だった。
    「おいおいおいおい、女1人に8人がかりで、何しようってんだ?」
     棗に声をかけた黒ずきんが、突然倒れた。
    「なっ、何者だ!?」
    「名乗るほどの者じゃない。特に、お前らみたいな狼藉者に名乗る名前なんて……」
     もう一人、黒ずくめが倒れる。
    「持ち合わせちゃいない」
     その後はもう、棗にとっては夢か幻のような出来事だった。
     突然現れた侍風の男はまるで何人にも増えたように、一度に2人、3人となぎ倒していく。男が現れてから黒ずくめが全員やられるまで、棗は2、3回くらいしか呼吸をしなかった。
    「あ、あ……」
    「……ほら、可愛い尻尾のお嬢さん。もう大丈夫だ。立てるか?」
    「え、あ……」
     立ち上がろうとしたが、腰が抜けてしまっている。
    「す、すみません。立てません」
    「そっか。……じゃ、ちょっと失礼して」
     男はひょいと、姫君を抱きかかえるように棗を持ち上げる。
    「ひゃっ……」
    「家はどこだい? 連れてってやるよ」
    「あ、……ありがとう、ございます」
     棗はこの男に、一目で惚れ込んでしまっていた。



     この男の名は梶原謙。
     後に棗の夫となる人物であった。

    蒼天剣番外編 その1

    2008.10.20.[Edit]
    晴奈の話、……じゃありません。天原棗と梶原謙の恋物語です。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -蒼天剣番外編 その1 双月暦507年の、ある夏。 その日、天原棗は天神川のほとりを歩いていた。目的は無い。ただただ、寂しさを紛らわせているのだ。(お父さま……) 先日、父の天原椹が亡くなった。死因は卒中。……と言うのは表向きの話で、実は殺されていたのだ。 玄関に上がるなり、父は前のめりに倒れた。首の後ろ、頚...

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    晴奈の話、の幕間。
    バカ二人と、バカが大嫌いな魔術師の話。

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    蒼天剣番外編 その2
    「おい、起きろ! 殿下がいない!」
     フォルナの護衛、グリーズはフォルナがいないことに気が付き、慌てて相棒のオルソーを叩き起こした。
    「んが……。がっ!?」
     相棒の言葉に、オルソーは慌てて目を開けた。
    「い、いないって、どう言う、あぁ!?」
    「いないんだよ! どこにも! 部屋にも下にも!」
    「……つまり、いないんだな、どこにも」
    「そう言ってるだろ、お前相当頭悪いな」
    「お前には言われたくない。いや、それよりも」
     二人はどたどたと足音を立て、先ほどまでフォルナがいた部屋を探し回る。
    「いない」「ああ、いない」
     二人は青い顔になり、大声で叫んだ。
    「殿下! フォルナ殿下!」「どちらにいらっしゃるのですか!?」
     巨漢二名の大声は、宿をビリビリと震わせる。
    「な、なんだ?」
    「地震!?」
    「暴動かっ!?」
     たまらず周りの客が廊下に飛び出す。それに構うことなく、「熊」たちは叫び続ける。
    「殿下ぁ~!」「出てきてくださ~い!」
     流石の店主も、この騒ぎを見過ごせずに上がってきた。
    「ちょっと護衛さん、他のお客さんもいらっしゃいますから」
    「そんなことはどうでもいい!」「殿下だ! 殿下がいなければ……!」
     店主の制止も聞かず、「熊」たちは騒ぐ。と、そこに――。
    「うるさいね……!」
     いかにも魔術師風の、よれよれとしたローブを身に纏った男がやってきた。
    「まだ昼前じゃないね。夕べから一睡もしてなかったヤツもいるんだから、黙れって」
    「何だ貴様!」「口を挟むな!」
     この注意も、二人は突っぱねた。魔術師の額に、ピシッと青筋が走る。
    「……もう一度言うね。黙れ」
    「うるさい!」「もしかして貴様か!? 貴様が殿下を……!?」
     魔術師は深いため息をついて、ぽつりとこう言った。
    「だからバカは嫌いだね。話を聞きやしない」

     10秒後。オルソーとグリーズは宿の窓を突き破って、外へと吹っ飛んでいった。
    「……ったく、カジノで大負けしてた時に、気分の悪い」
    「お、お客さーん」
     魔術師――モールが店主の方を振り返ると、店主が困った顔で揉み手をしている。
    「窓、弁償お願いします……」
    「……あー」
     モールは左手に持っていた魔杖を壊れた窓に向け、印を結ぶ。
    「戻れ、『ウロボロスポール:リバース』」
     呪文を唱え、杖を振りかざした途端、窓の破片がひょいひょいと元の場所へ帰っていく。
    「お、お……!?」
     窓は何事も無かったかのように、欠片一枚も残さず元の姿に戻った。
    「私にかかりゃ、これくらい朝飯前だね。……あ、本当に朝飯食ってないね、そう言えば。店主、飯の用意頼んでいいね?」
    「あ、はい……。えっと、お部屋にお運びしましょうか?」
    「ん、よろしゅー」
     モールは首をコキコキと鳴らし、部屋へと戻っていった。

    「いてて……」「あたた……」
     宿の3階から落とされたオルソー、グリーズの二人は体中をさすりながら、顔を見合わせる。
    「ど、どうやらあいつは無関係なようだ」
    「そのようだな。……そうであってほしい」
    「しかし、それでは殿下は、どこに行ったと言うのだろう?」
    「もしかしたら、我々が眠っていた隙に抜け出したか……」
    「それしかあるまい。となれば、街中を歩いているはず。急いで探すぞ」
    「ああ」
     二人は立ち上がり、バタバタと市場へ向かって走っていった。



     なお、この時既にフォルナはゴールドコーストを離れ、晴奈たちの後を追っていた。
     初動捜査の空振りと判断の遅れにより、オルソーたち二人がフォルナを見つけることはついに無かった。グラーナ王国がこの二人から報告を受け、央中全土に捜索の手を広げるのは、これから半月後のことになる。

    蒼天剣番外編 その2

    2008.12.26.[Edit]
    晴奈の話、の幕間。バカ二人と、バカが大嫌いな魔術師の話。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -蒼天剣番外編 その2「おい、起きろ! 殿下がいない!」 フォルナの護衛、グリーズはフォルナがいないことに気が付き、慌てて相棒のオルソーを叩き起こした。「んが……。がっ!?」 相棒の言葉に、オルソーは慌てて目を開けた。「い、いないって、どう言う、あぁ!?」「いないんだよ! どこにも! 部屋にも下にも!」「……...

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    からすのかご 1

    2009.01.30.[Edit]
    予告通りスピンオフ。童話。……と見せかけて、明日は双月世界のお話に移ります。黒いあの人の話です。...

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    鴉の籠 2

    2009.01.31.[Edit]
    昨日の続き。「蒼天剣」より大分昔のお話。...

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    鴉の籠 3

    2009.02.01.[Edit]
    昨日の続き。もう一匹の悪魔。書いてて思ったこと。「『おばちゃん』書くの面白いなぁ」昔おばちゃんだらけのところで働いていたせいか、どうもおばちゃん然としたキャラがよく登場します。ワッツさん書いてた時も、脳内CVが森○子さんでした。看病の合間にお味噌汁出してきそうで困る。とか言いつつも、次の話で出てくるキーパーソンもおばちゃん。脳内CVは標準語で話す中村○緒さんでした。おばちゃんだらけのスピンオフ。...

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    鴉の籠 4

    2009.02.02.[Edit]
    引き続き(略小鈴のひいおばあちゃん。...

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    鴉の籠 5

    2009.02.03.[Edit]
    引き続き(略籠作り。...

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    鴉の籠 6

    2009.02.04.[Edit]
    スピンオフ、残り2話。形勢逆転。...

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    鴉の籠 7

    2009.02.05.[Edit]
    今回のスピンオフ、終了。明日からまた、「蒼天剣」再開です。あの杖の由来。...

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    KCN 1

    2009.05.13.[Edit]
    さてさて、予告していた番外編。「蒼天剣 非道録」でちょこっと出ていた、伝説の事件のお話。...

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    KCN 2

    2009.05.14.[Edit]
    番外編。若き日の総帥。...

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    KCN 3

    2009.05.15.[Edit]
    番外編。一線を超える。...

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    KCN 4

    2009.05.16.[Edit]
    番外編。プロファイリングと飛び込み営業。...

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    KCN 5

    2009.05.17.[Edit]
    番外編。あの人も若かった。...

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    KCN 6

    2009.05.18.[Edit]
    番外編。焦るべからず。...

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    KCN 7

    2009.05.19.[Edit]
    番外編。揺らぐ平和。...

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    KCN 8

    2009.05.20.[Edit]
    番外編。「KCN」とは?...

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    KCN 9

    2009.05.21.[Edit]
    番外編。尋問。...

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    KCN 10

    2009.05.22.[Edit]
    番外編。シアンの本性?...

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    KCN 11

    2009.05.23.[Edit]
    番外編。犯行動機。...

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    KCN 12

    2009.05.24.[Edit]
    番外編。ヘレンの、そして公安の逆襲。...

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    KCN 13

    2009.05.25.[Edit]
    番外編。最後の追走。...

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    KCN 14

    2009.05.26.[Edit]
    番外編。シアンの「最期」。...

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    KCN 15

    2009.05.27.[Edit]
    番外編、おしまい。昔のつながり、今のつながり。さてさて、番外編も一段落着いたところで、またキャラ紹介をはさみつつ、いよいよ第6部に突入です。明後日の更新から開始の予定です。ご期待いただければ幸いです(*゚ー゚)...

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    晴奈の話、……じゃありません。
    賢者の約束が実ったお話。

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    蒼天剣番外編 その3
     いくつになっても、彼女は人懐っこい性分であるらしい。

    「へぇ……、それじゃ、恋人さんとは長いのね」
    「ええ。周りからは、『いい加減結婚したらどうだ』と言われているんですが」
     央南、紅蓮塞。
     この地での仕事が一段落したジュリアは、晴奈の師匠である焔雪乃に興味を抱き、彼女の部屋を訪れていた。
     部屋にいた彼女はニコニコと笑いながら、取り留めのない話に興じてくれる。
    「言われるわよね、ある程度の歳になってくると」
    「ええ。でもまだ、そんな気分になれなくて。いい人なんですけれど、どうもカリカリしたところが多くて」
    「まだまだ若い、ってことね。
     でも人生の先輩として言っておくと、そう言う風に『ここさえなんとかなればなぁ』って細かい問題点を気にしていると、機会を逃しちゃうこともあるわよ。
     思い切って、えいやっと展開を進めちゃうのも一つの手よ」
    「はは……、ええ、参考にしておきます」
     話しているうちに、ジュリアは目の前の長耳がずっと大人びた、経験豊かな女性であると感じていた。
    (コスズと2歳違いと聞いていたけれど、それより一回り、二回り、いいえ、もっと歳を取っているような雰囲気があるわね。
     何だか、同年代の人と話しているような気がしない)

     ふと、ジュリアは彼女の背後の棚に、物々しい箱が置いてあるのに気が付いた。
     いかにも頑丈そうな、銀色に鈍く光る金属製の箱だ。さらに、その箱は鎖が何重にも巻かれており、それがさらに物々しさを強めている。
    「どうしたの、ジュリアさん?」
     ジュリアの様子に気が付いた彼女は、その目線を追う。
    「ああ、これね」
    「何か危険なものが入ってるんですか?」
    「ええ。この中身一つで、何千、何万の人が不幸になったの。わたしも、その一人」
     彼女はすっと立ち上がり、その箱を手に取った。
    (……あれ?)
     ジュリアはその立ち姿に、わずかな違和感を覚えた。
    (ユキノさん、確かもう少し、背が高かったような……?)
    「中に入っているのは、一冊の本なの」
     彼女は箱を小さく揺らし、カタカタと音を立てる。
    「でも、ただの本じゃない。これは、古代の魔術書なの。ある人に処分をお願いしたんだけど、燃やすことも溶かすこともできなくて、仕方なくこうやって、厳重に封印したのよ」
    「そうなんですか……」
    「……でもね」
     彼女は箱を元の場所に置き、ジュリアの前に座り直した。
    「わたしもこの本を使ったんだけど、……とっても、不思議な体験ができたわ。色々怖くて、悲しい目に遭ったけど、使った価値はあった、……と思う。
     それに、この本とその人のおかげで、わたしは思ってもいなかった幸せを手に入れられたもの。人を不幸にしたこの本だけど、結局は使い方次第じゃないかしら。そう思うの」
    「へえ……」
     一体どんな体験をしたのだろうと、ジュリアが強い興味を惹かれたその時だった。

    「あれぇ?」
     開いていた戸から、雪乃の子供である小雪がぴょこんと顔を出した。
    「あら、小雪ちゃん」
    「……」
     ジュリアの正面にいた彼女が手を振ったが、なぜか小雪は近寄ろうとしない。それどころか、半ば逃げるように離れていってしまった。
    「あら、あら……」
    「どうしたんでしょうか、コユキちゃん」
    「あの子、なかなか勘が鋭いのね、クスクス……」
     少し間を置いて、とたとたと言う子供の足音と、とんとんと言う体重の軽そうな大人の足音が聞こえてきた。
    「ね、お母さんのまねしてるの。変でしょ?」
    「……」
     入ってきたのは小雪と、ジュリアの前に座っているはずの雪乃だった。
    「え、え……、あれ?」
     同じ顔に挟まれ、ジュリアは困惑する。
     と、入ってきた方の雪乃が、今までジュリアを相手していた方の雪乃を見て、呆れた表情を見せた。
    「……母さん。お客さんをからかっちゃダメじゃない」
     その言葉に、彼女は笑い出した。
    「ごめんね、クスクス……」
     母と同じ格好をする彼女を見て、小雪はこうつぶやいた。
    「……雪花おばーちゃんも、変わり者だね」

    蒼天剣番外編 その3

    2009.10.01.[Edit]
    晴奈の話、……じゃありません。賢者の約束が実ったお話。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -蒼天剣番外編 その3 いくつになっても、彼女は人懐っこい性分であるらしい。「へぇ……、それじゃ、恋人さんとは長いのね」「ええ。周りからは、『いい加減結婚したらどうだ』と言われているんですが」 央南、紅蓮塞。 この地での仕事が一段落したジュリアは、晴奈の師匠である焔雪乃に興味を抱き、彼女の部屋を訪れていた。 部...

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    黒エルフの騎士団 1

    2009.10.12.[Edit]
    さてさて、蒼天剣スピンオフの始まりです。あの三人組のお話。...

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    黒エルフの騎士団 2

    2009.10.13.[Edit]
    スピンオフ、2話目。仲間の見た夢。...

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    黒エルフの騎士団 3

    2009.10.14.[Edit]
    スピンオフ、3話目。ペルシェの出自。...

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    黒エルフの騎士団 4

    2009.10.15.[Edit]
    スピンオフ、4話目。いざ、南海へ。...

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    黒エルフの騎士団 5

    2009.10.16.[Edit]
    スピンオフ、5話目。南海の町並み。...

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