「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・立志録 4
晴奈の話、4話目。
和風魔術剣。
4.
2日歩き通し、晴奈はようやく街道を進んでいた柊に追いついた。
「……!?」
あちこち土で汚れ、擦り傷だらけになった晴奈を見て、柊はとても驚いた目を向ける。
「えっと、……晴奈ちゃん?」
「はい!」
「どうしてここに?」
「柊さん。私を、……私を、弟子にしてください!」
晴奈はいきなり柊の前に座り込み、深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと、晴奈ちゃん。あの、困るわ。私も、修行中の身だから」
「お願いします!」
「いや、あの、うーん……。あ、そうだ、お家の方と相談して……」「縁を切りました」「え!?」
晴奈の言動に柊はまた目を丸くし、言葉を失ってしまった。
柊は何とか説得しようとしたが、結局、晴奈の熱意と意気込みが伝わったらしく、諦め気味にこう答えた。
「私はまだ修行中の身であるし、私が稽古を付けることはできない。それは理解してほしいの。
だからともかく、私の師匠の所へ一緒に行きましょう。その人なら晴奈ちゃんが十分納得するように修行を付けてくれるはずだから」
「……分かりました」
晴奈はこの条件を呑み、柊と共に向かうこととなった。
そして2人で街道をひたすら南へ1週間下り続け、2人は岩山に建つ、巨大な要塞の前に到着した。
「ここが私の属する剣術一派、焔流の総本山であり、央南各地の剣士が修行の場にしている場所――通称『紅蓮塞』よ」
「ここ、が……」
その建物を見上げ、晴奈は思わず息を呑む。建物全体から、ビリビリと迫力が伝わってくるように感じたからだ。
そこはまさに、霊場と言っても過言では無いように思えた。
「さ、入るわよ」「あ、は、はい!」
雰囲気に圧倒されながらも、晴奈は勇気を奮い立たせて柊に付いて行く。
塞の中には修行場やお堂があちこちにあり、どこを見ても剣士たちがたむろしている。何年もここで修行をしていた柊には動じた様子は無いが、初めてここへ入った晴奈は強い威圧感を覚え、不安でたまらなくなりそうだった。
「あ、あの」「ん?」「……いえ、何でも」
だがその不安を口にすれば、柊から「やっぱり無理よ」などと言われ、引き返されてしまうかも知れない。そう思った晴奈はぐっと我慢し、柊の後をひたすら付いて行った。
やがて柊はある部屋の前で立ち止まり、晴奈に振り返った。
「ここが私の師匠――現焔流の家元、焔重蔵先生のお部屋よ。
気さくな方だけど礼儀には厳しいから、気を付けてね」
「はい」
柊は少し間を置き、すっと戸を開けた。
部屋の奥では、短耳の老人が正座して本を読んでいた。
「うん?」
柊たちに気付き、老人は眼鏡を外して顔を上げる。
目が合うまでは一見、ただの好々爺のようにも見えたのだが、目が合った瞬間、晴奈の背筋に汗がつつ、と流れる。
(『熱い』……!? 何だろう、この人? まるで燃え盛る炎が、すぐ近くにあるみたい)
「おお、久しぶりじゃな雪さん」
「ご無沙汰しておりました、家元」
柊は深々と頭を下げ、師匠――焔重蔵に挨拶した。
重蔵は座ったまま、ニコリと笑って応える。
「おう、おう、そんな大仰にせんでもいい。ところで雪さん、その『猫』のお嬢さんはどなたかな?」
「はあ、実は……」
柊は言われるままに足を崩し、晴奈が焔流への入門を希望している旨を告げた。話を聞き終えた重蔵はあごを撫でながら空を見つめ、「ふむ……」とうなる。
「どうでしょうか、家元」
尋ねられ、重蔵は何度か短くうなずきつつ答える。
「まずは試験を受けさせて見なければ、何とも言えんな。何をおいても、まず資質が無ければ、うちの剣術の真髄を身に付けることはできんからのう」
重蔵はそう言って立ち上がり、背後に飾っていた刀を手に取った。
「とは言え、魔力が高いと言われておる『猫』さんじゃったら、その資質も申し分無いじゃろうが――これは、最初に説明しておかなければのう」
重蔵はそこで言葉を切り、柊と晴奈を手招きした。
2人が部屋の真ん中に座り直したところで、重蔵は説明を続ける。
「うちの流派は、その名も『焔流剣術』――読んで字のごとく、焔、つまり火を操る剣術なのじゃ。
このようにな」
途端に、重蔵の構えた刀の切っ先にポン、と火が灯る。
「……!?」
晴奈は声も出せないほど驚いた。
刀に灯った火はそのまま、するすると刃先を走っていき、やがて刀全体が火に包まれる。そのまま重蔵は上段に剣を構え、振り下ろした。
「やあッ!」
振り下ろされた刀から火が飛び、そのまま床を走る。ジュッと床が焦げる音がし、壁際まで火が走り、しかし燃え広がることも無く、すぐに消えた。
「あ……、わ……」
目を白黒させる晴奈を面白がるような口ぶりで、重蔵はこう続けた。
「これこそが焔流剣術の真髄。刀に火を灯し、剣閃に炎を乗せ、敵を焼く。もちろん、本来の剣術の腕も、不可欠。
剣を極め、焔を極める。晴さん、自分にその覚悟と資質はあるかな?」
重蔵は刀を納め、晴奈に笑いかけながら問いかける。
晴奈はまだ動揺していたが、黙ったまま、コクリとうなずいた。
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和風魔術剣。
4.
2日歩き通し、晴奈はようやく街道を進んでいた柊に追いついた。
「……!?」
あちこち土で汚れ、擦り傷だらけになった晴奈を見て、柊はとても驚いた目を向ける。
「えっと、……晴奈ちゃん?」
「はい!」
「どうしてここに?」
「柊さん。私を、……私を、弟子にしてください!」
晴奈はいきなり柊の前に座り込み、深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと、晴奈ちゃん。あの、困るわ。私も、修行中の身だから」
「お願いします!」
「いや、あの、うーん……。あ、そうだ、お家の方と相談して……」「縁を切りました」「え!?」
晴奈の言動に柊はまた目を丸くし、言葉を失ってしまった。
柊は何とか説得しようとしたが、結局、晴奈の熱意と意気込みが伝わったらしく、諦め気味にこう答えた。
「私はまだ修行中の身であるし、私が稽古を付けることはできない。それは理解してほしいの。
だからともかく、私の師匠の所へ一緒に行きましょう。その人なら晴奈ちゃんが十分納得するように修行を付けてくれるはずだから」
「……分かりました」
晴奈はこの条件を呑み、柊と共に向かうこととなった。
そして2人で街道をひたすら南へ1週間下り続け、2人は岩山に建つ、巨大な要塞の前に到着した。
「ここが私の属する剣術一派、焔流の総本山であり、央南各地の剣士が修行の場にしている場所――通称『紅蓮塞』よ」
「ここ、が……」
その建物を見上げ、晴奈は思わず息を呑む。建物全体から、ビリビリと迫力が伝わってくるように感じたからだ。
そこはまさに、霊場と言っても過言では無いように思えた。
「さ、入るわよ」「あ、は、はい!」
雰囲気に圧倒されながらも、晴奈は勇気を奮い立たせて柊に付いて行く。
塞の中には修行場やお堂があちこちにあり、どこを見ても剣士たちがたむろしている。何年もここで修行をしていた柊には動じた様子は無いが、初めてここへ入った晴奈は強い威圧感を覚え、不安でたまらなくなりそうだった。
「あ、あの」「ん?」「……いえ、何でも」
だがその不安を口にすれば、柊から「やっぱり無理よ」などと言われ、引き返されてしまうかも知れない。そう思った晴奈はぐっと我慢し、柊の後をひたすら付いて行った。
やがて柊はある部屋の前で立ち止まり、晴奈に振り返った。
「ここが私の師匠――現焔流の家元、焔重蔵先生のお部屋よ。
気さくな方だけど礼儀には厳しいから、気を付けてね」
「はい」
柊は少し間を置き、すっと戸を開けた。
部屋の奥では、短耳の老人が正座して本を読んでいた。
「うん?」
柊たちに気付き、老人は眼鏡を外して顔を上げる。
目が合うまでは一見、ただの好々爺のようにも見えたのだが、目が合った瞬間、晴奈の背筋に汗がつつ、と流れる。
(『熱い』……!? 何だろう、この人? まるで燃え盛る炎が、すぐ近くにあるみたい)
「おお、久しぶりじゃな雪さん」
「ご無沙汰しておりました、家元」
柊は深々と頭を下げ、師匠――焔重蔵に挨拶した。
重蔵は座ったまま、ニコリと笑って応える。
「おう、おう、そんな大仰にせんでもいい。ところで雪さん、その『猫』のお嬢さんはどなたかな?」
「はあ、実は……」
柊は言われるままに足を崩し、晴奈が焔流への入門を希望している旨を告げた。話を聞き終えた重蔵はあごを撫でながら空を見つめ、「ふむ……」とうなる。
「どうでしょうか、家元」
尋ねられ、重蔵は何度か短くうなずきつつ答える。
「まずは試験を受けさせて見なければ、何とも言えんな。何をおいても、まず資質が無ければ、うちの剣術の真髄を身に付けることはできんからのう」
重蔵はそう言って立ち上がり、背後に飾っていた刀を手に取った。
「とは言え、魔力が高いと言われておる『猫』さんじゃったら、その資質も申し分無いじゃろうが――これは、最初に説明しておかなければのう」
重蔵はそこで言葉を切り、柊と晴奈を手招きした。
2人が部屋の真ん中に座り直したところで、重蔵は説明を続ける。
「うちの流派は、その名も『焔流剣術』――読んで字のごとく、焔、つまり火を操る剣術なのじゃ。
このようにな」
途端に、重蔵の構えた刀の切っ先にポン、と火が灯る。
「……!?」
晴奈は声も出せないほど驚いた。
刀に灯った火はそのまま、するすると刃先を走っていき、やがて刀全体が火に包まれる。そのまま重蔵は上段に剣を構え、振り下ろした。
「やあッ!」
振り下ろされた刀から火が飛び、そのまま床を走る。ジュッと床が焦げる音がし、壁際まで火が走り、しかし燃え広がることも無く、すぐに消えた。
「あ……、わ……」
目を白黒させる晴奈を面白がるような口ぶりで、重蔵はこう続けた。
「これこそが焔流剣術の真髄。刀に火を灯し、剣閃に炎を乗せ、敵を焼く。もちろん、本来の剣術の腕も、不可欠。
剣を極め、焔を極める。晴さん、自分にその覚悟と資質はあるかな?」
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晴奈はまだ動揺していたが、黙ったまま、コクリとうなずいた。



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はじめまして
blackoutと申します
私のブログにお越しいただき、ありがとうございました
晴奈の行動、非常に潔いですねw
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ようこそお越しいただきました。
思い立ったら突っ走るタイプですからね、晴奈。
思い切りの良さは相当です。