「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第3部
蒼天剣・権謀録 5
晴奈の話、第92話。
強敵、出現。
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5.
晴奈はキッと天原を睨みつける。
「天原主席。これで言い逃れはできないぞ。
教団員と思しき黒ずくめ2名はエルスが捕らえ、残った1人もこうして親玉、つまりあなたのところに戻るのを確認した。最早、弁解の余地は無い」
真っ青になった天原は硬直している。が、突然笑い出した。
「ヒ、ヒ……、ヒヒッ、そう思うか、本当にそう思うのか!」
そう叫ぶなり、天原はブツブツと何かを唱える。
「魔術か!」
晴奈は素早く刀を抜き、炎を灯して構える。
「お前らが消えれば証拠なんか、どうとでもできる! 『アイシクルエッジ』!」
天原が向けた掌から、にゅっと氷柱が飛び出す。晴奈はそれを刀で弾き、間合いを詰める。
「それ以上、抗うな」
「断る! 全力で抗う!」
天原はさらに氷柱を撃ち出す。
だが氷は炎と相性が悪く、焔流の剣豪相手では氷の魔術など、大した武器にはならなかった。
「それッ! はいッ! でやあッ!」
次々と打ち出される氷柱を晴奈はいとも簡単に弾き、溶かし、天原との距離を縮めていく。
「観念しろ、天原!」
「いやだッ! 逃げるッ! 『ホワイトアウト』!」
術を唱えた瞬間、辺りに白い煙が立ち込める。敵を幻惑させる、目くらましの術である。
煙が立ち込めると同時に、先程晴奈が通ってきた隠し通路の方から、足音が遠のきつつ聞こえてきた。どうやら敵わないと見て、逃げ出したらしい。
「む……! 逃がさんぞッ!」
晴奈も隠し通路に飛び込み、天原の後を追った。
「ヒィ、ヒィ」
天原は半泣きで天玄館を出た。夜道を駆け、必死で晴奈から逃げようとする。
「誰か、誰かいませんか!」
天原は誰もいないはずの夜道に、声をかける。
《はっ。殿、こちらでございます》
ところが、虚空から低い男の声が返ってきた。
「おお、篠原くん! 来てくれましたか!」
《殿の危急とあらば、どこへでも馳せ参じます》
「流石、流石ですよ! ……そうだ、篠原くん! これから女剣士がやってきます。流派はあの、焔流です」
《……!》
姿は見えないが、息を呑む気配は伝わる。
「あなたの、あなたの剣術、『新生焔流』で、細切れにしてしまいなさい!」
《……御意》
そこでようやく、骸骨のように痩せた、眼の窪んだ男――種族までは頭巾を被っているので分からない――が姿を現す。
と同時に、晴奈が追いついてきた。
「天原ッ! そこになおれ!」
「……ヒヒヒヒ。断る、断りますよ黄さん!」
天原は篠原の後ろに隠れ、居丈高に笑う。
「さあ、やっておしまいなさい! その間に、私は『例の場所』に行きます!」
「承知」
篠原はわずかにうなずき、晴奈と対峙した。
篠原と向かい合った瞬間、晴奈の耳と尻尾が毛羽立った。
(……こやつ、できるな?)
「名乗っておこう」
篠原は大儀そうな低い声で名乗る。
「某、篠原龍明と申す。新生焔流、篠原派開祖だ」
「焔流だと!?」
敵が自分と同じ流派だとは素直に信じられず、晴奈は思わず声を上げる。
(いや……しかし、確かに刀の構えには、焔流の面影があるように見える)
生気の無い目を向けながら、篠原が尋ねてくる。
「殿に聞いたが、貴様も焔流の者だそうだな」
「いかにも。本家焔流免許皆伝、黄晴奈だ」
「なるほど。確かに腕は立つようだが……」
気だるそうに篠原がつぶやいた直後、晴奈は尋常ではない殺気を感じ、一歩退く。
次の瞬間、自分が立っていた場所を斜めに、地割れが走った。
「ふむ、勘もいい。某の『地断』を見切るとは」
篠原の刀から、チリチリとした音が響いている。
(この貫通性……、『火射』の派生形か? 地面がこのように、バッサリ斬れるとは)
と、篠原が晴奈の背後に目を向ける。
「……もう一人、いたか」
するとガサガサと音を立て、茂みからエルスが現れた。
「はは、僕のスニーキング(潜伏術)もまだまだだなぁ」
エルスは晴奈の横に立ち、ト型の武器――トンファー(旋棍)を取り出して構える。
「アマハラさん、逃げちゃったかぁ。えーと、シノハラさんだっけ。一つ提案するけど」
「何だ?」
「僕らの目的はアマハラさんの確保だったけど、逃げられちゃったから目的不達成。で、シノハラさんの目的はアマハラさんが逃げ切るまでの、僕らの足止めでしょ?
僕らの目的は達成できなかったし、シノハラさんの目的は達せられた。双方にとって最善の策は、ここで僕らと戦わず、このまま離れることだと思うんだけど」
エルスの提案を聞いた篠原は、馬鹿にしたように口角を上げた。
「愚論だ。某、黄の殺害を命じられている」
それだけ言うと篠原は晴奈との距離を詰め、斬りかかってきた。篠原が踏み込んだ瞬間、晴奈も反応する。
「りゃあッ!」
晴奈と篠原、二人の刀がぶつかり合い、高い金属音が夜道に響き渡る。篠原は意外そうにぴくりと片眉を上げ、晴奈に声をかける。
「ふむ……、弾き飛ばすつもりだったのだが。女と侮ったが、思ったより胆力がある」
「この黄晴奈、なめてもらっては困る」
晴奈はトンと後ろに下がり、刀に火を灯す。
「『火射』!」
「むうっ」
晴奈の放った「飛ぶ剣閃」は、確実に篠原を捉える。だが――。
「『火閃』!」
篠原は「爆ぜる剣閃」で晴奈の技を跳ね返した。
「な……ッ!?」「危ない、セイナ!」
エルスが晴奈の腕をつかみ、横に投げる。それと同時に、迫り来る炎を魔術で防ぐ。
「『マジックシールド』!」
エルスの作った魔術の盾に自分の技が防がれたのを見て、篠原は顔をしかめた。
「なるほど、お前の言う通りのようだ。この状況では一向に、決着するまい」
篠原は刀を納め、身をひるがえした。
「黄。そして、グラッドと言ったか。この決着は、いずれ付けさせてもらおう」
「待て、篠原ッ!」
晴奈が呼び止めたが、篠原はそのまま闇に紛れ、姿を消した。
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晴奈はキッと天原を睨みつける。
「天原主席。これで言い逃れはできないぞ。
教団員と思しき黒ずくめ2名はエルスが捕らえ、残った1人もこうして親玉、つまりあなたのところに戻るのを確認した。最早、弁解の余地は無い」
真っ青になった天原は硬直している。が、突然笑い出した。
「ヒ、ヒ……、ヒヒッ、そう思うか、本当にそう思うのか!」
そう叫ぶなり、天原はブツブツと何かを唱える。
「魔術か!」
晴奈は素早く刀を抜き、炎を灯して構える。
「お前らが消えれば証拠なんか、どうとでもできる! 『アイシクルエッジ』!」
天原が向けた掌から、にゅっと氷柱が飛び出す。晴奈はそれを刀で弾き、間合いを詰める。
「それ以上、抗うな」
「断る! 全力で抗う!」
天原はさらに氷柱を撃ち出す。
だが氷は炎と相性が悪く、焔流の剣豪相手では氷の魔術など、大した武器にはならなかった。
「それッ! はいッ! でやあッ!」
次々と打ち出される氷柱を晴奈はいとも簡単に弾き、溶かし、天原との距離を縮めていく。
「観念しろ、天原!」
「いやだッ! 逃げるッ! 『ホワイトアウト』!」
術を唱えた瞬間、辺りに白い煙が立ち込める。敵を幻惑させる、目くらましの術である。
煙が立ち込めると同時に、先程晴奈が通ってきた隠し通路の方から、足音が遠のきつつ聞こえてきた。どうやら敵わないと見て、逃げ出したらしい。
「む……! 逃がさんぞッ!」
晴奈も隠し通路に飛び込み、天原の後を追った。
「ヒィ、ヒィ」
天原は半泣きで天玄館を出た。夜道を駆け、必死で晴奈から逃げようとする。
「誰か、誰かいませんか!」
天原は誰もいないはずの夜道に、声をかける。
《はっ。殿、こちらでございます》
ところが、虚空から低い男の声が返ってきた。
「おお、篠原くん! 来てくれましたか!」
《殿の危急とあらば、どこへでも馳せ参じます》
「流石、流石ですよ! ……そうだ、篠原くん! これから女剣士がやってきます。流派はあの、焔流です」
《……!》
姿は見えないが、息を呑む気配は伝わる。
「あなたの、あなたの剣術、『新生焔流』で、細切れにしてしまいなさい!」
《……御意》
そこでようやく、骸骨のように痩せた、眼の窪んだ男――種族までは頭巾を被っているので分からない――が姿を現す。
と同時に、晴奈が追いついてきた。
「天原ッ! そこになおれ!」
「……ヒヒヒヒ。断る、断りますよ黄さん!」
天原は篠原の後ろに隠れ、居丈高に笑う。
「さあ、やっておしまいなさい! その間に、私は『例の場所』に行きます!」
「承知」
篠原はわずかにうなずき、晴奈と対峙した。
篠原と向かい合った瞬間、晴奈の耳と尻尾が毛羽立った。
(……こやつ、できるな?)
「名乗っておこう」
篠原は大儀そうな低い声で名乗る。
「某、篠原龍明と申す。新生焔流、篠原派開祖だ」
「焔流だと!?」
敵が自分と同じ流派だとは素直に信じられず、晴奈は思わず声を上げる。
(いや……しかし、確かに刀の構えには、焔流の面影があるように見える)
生気の無い目を向けながら、篠原が尋ねてくる。
「殿に聞いたが、貴様も焔流の者だそうだな」
「いかにも。本家焔流免許皆伝、黄晴奈だ」
「なるほど。確かに腕は立つようだが……」
気だるそうに篠原がつぶやいた直後、晴奈は尋常ではない殺気を感じ、一歩退く。
次の瞬間、自分が立っていた場所を斜めに、地割れが走った。
「ふむ、勘もいい。某の『地断』を見切るとは」
篠原の刀から、チリチリとした音が響いている。
(この貫通性……、『火射』の派生形か? 地面がこのように、バッサリ斬れるとは)
と、篠原が晴奈の背後に目を向ける。
「……もう一人、いたか」
するとガサガサと音を立て、茂みからエルスが現れた。
「はは、僕のスニーキング(潜伏術)もまだまだだなぁ」
エルスは晴奈の横に立ち、ト型の武器――トンファー(旋棍)を取り出して構える。
「アマハラさん、逃げちゃったかぁ。えーと、シノハラさんだっけ。一つ提案するけど」
「何だ?」
「僕らの目的はアマハラさんの確保だったけど、逃げられちゃったから目的不達成。で、シノハラさんの目的はアマハラさんが逃げ切るまでの、僕らの足止めでしょ?
僕らの目的は達成できなかったし、シノハラさんの目的は達せられた。双方にとって最善の策は、ここで僕らと戦わず、このまま離れることだと思うんだけど」
エルスの提案を聞いた篠原は、馬鹿にしたように口角を上げた。
「愚論だ。某、黄の殺害を命じられている」
それだけ言うと篠原は晴奈との距離を詰め、斬りかかってきた。篠原が踏み込んだ瞬間、晴奈も反応する。
「りゃあッ!」
晴奈と篠原、二人の刀がぶつかり合い、高い金属音が夜道に響き渡る。篠原は意外そうにぴくりと片眉を上げ、晴奈に声をかける。
「ふむ……、弾き飛ばすつもりだったのだが。女と侮ったが、思ったより胆力がある」
「この黄晴奈、なめてもらっては困る」
晴奈はトンと後ろに下がり、刀に火を灯す。
「『火射』!」
「むうっ」
晴奈の放った「飛ぶ剣閃」は、確実に篠原を捉える。だが――。
「『火閃』!」
篠原は「爆ぜる剣閃」で晴奈の技を跳ね返した。
「な……ッ!?」「危ない、セイナ!」
エルスが晴奈の腕をつかみ、横に投げる。それと同時に、迫り来る炎を魔術で防ぐ。
「『マジックシールド』!」
エルスの作った魔術の盾に自分の技が防がれたのを見て、篠原は顔をしかめた。
「なるほど、お前の言う通りのようだ。この状況では一向に、決着するまい」
篠原は刀を納め、身をひるがえした。
「黄。そして、グラッドと言ったか。この決着は、いずれ付けさせてもらおう」
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晴奈が呼び止めたが、篠原はそのまま闇に紛れ、姿を消した。



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