「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・戦宣記 2
フォコの話、166話目。
緒戦の結果と醒めた愛情。
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2.
レヴィア王国本拠、レヴィア城。
二人の将軍が、アイシャの前に並び立ち、報告を行っていた。
「陛下! ハリス海域において、我が軍がロクシルム―ベールを追い払い、撃退に成功しましたぞ!」
一方の将軍の報告を受け、アイシャはほくそ笑む。
「そうか、そうか。大儀であったぞ、将軍」
だが、もう一方の将軍は苦い顔をしている。
「申し訳ございません、陛下。カフール海域における海戦において、我が軍は後れを取り、撤退せざるを得ませんでした」
「むう……」
喜ばしくない結果ではあるが、それでもアイシャは算術的に考える。
「……まあ、1勝1敗、差し引き0であるか。……ならばよし。
両名とも引き続き、各地の制圧・防衛に当たれ」
「はっ……」
将軍たちが敬礼し、踵を返してその場を離れようとしたところで、アイシャはもう一つ声をかけた。
「のう、お前たち」
「は、何でしょうか?」
「今後の展望はどう考えておる? 簡単で良い、申してみよ」
「はい」
勝利を収めた方の将軍は、こう語った。
「あくまで先程の戦いにおいて抱いた感想でしかありませんが……、敵に覇気はありませんでした。
やはり陛下が以前にご推察なされた通り、敵方は頼みの綱である雨を降らす術が使えぬ時期に差し掛かっていることや、既に南海ほぼ全域に渡る影響力を持つ我々の強大さに、苦しい思いをしているのではないかと存じております」
「いや……」
一方、敗北した方の将軍は、まるで正反対の意見を述べた。
「吾輩が相対した敵どもは皆、勢いあふれる難敵でございました。
まず装備や陣容からして、気合の入れようが半端なものではございません。ベール軍主力艦『マリアム』を初めとし、護衛艦や突撃艦がぞろぞろと現れ、さらにはその一つ一つに、尋常ではない数の砲台が積んであると言う、攻防ともに侮れぬ構え。
とても同輩が述べたような、胡乱(うろん)な対応とは言えず……」
「……ふーむ?」
まったく違う二つの意見に、アイシャは首をかしげた。
「一方はさして攻め立てる様子もなく、もう一方は全力攻勢で挑んできたわけ、……か。気になるのう」
アイシャはぱた、と手を打ち、大臣を一人呼び寄せた。
「お呼びでございますか、陛下」
「うむ。すまぬがちと、ハリス海域とカフール海域の、明確な違いを何点か教えてくれぬか」
「は……。
どちらも南海西部寄りの海域であり、海運の要である点は共通しております。
違いと申しますと、どちらかと言えば前者は南海北部および北西部へも通じており、交通の面で言えば非常に後の利益につながるかと。
一方後者は、敵であるロクシルム―ベールの本拠地、ベール島との通行が容易でございます。恐らくは、主力艦の速やかな航行を狙ったものではないかと……」「誰がそこまで論ぜよと言うた?」「……失礼しました」
話を聞き終えたアイシャは大臣と将軍たちを退かせ、もう一度考察する。
「……確かに大臣の言う通りか。恐らくは今後、主力艦を軸に攻略の方策を立てていくつもりじゃろうな。
とあれば……、我々はそれを避け、こちらの主力艦を以って各地を周る策を執るとするか」
そう結論付けたところで、アイシャはケネスにこの結果を報告しておくべきか、ふと考えてみた。
(ケネスに伝えておくべき件ではあるが、……しかし)
ケネスの持つ財力と兵器に魅了され、彼と結ばれたアイシャだったが、最近になって、彼に対する想いはすっかり冷え込んでいた。
(妾の顔をつかみ、その顔面に唾をまき散らしながら怒鳴りつけるような男なぞ最早、声もかけとうないわ。
そもそも。もうあの男は、妾にとって必要な存在であるのか? 反対に、妾の存在は、あの男に必要不可欠なものじゃろうか?
……どちらも、否、じゃ。仮に今、妾があの男との取引を打ち切ったとて、既に存分に戦い抜けるほどの軍備は溜め込んでおる。
反面、妾がもしここで崩御しても、もうアズラがおる。妾と、ケネスの血を引く子が。もしそのような事態になったとて、ケネスはアズラを新たな女王に仕立て上げ、これまで通りに我が国を動かし、操るじゃろう。
……そう、操られておる。妾があの男に下ったその日から、我がレヴィア王国はあいつの言いなりじゃ。妾の存在なぞ、ただの目付役に過ぎぬ。この国があの男の意に沿わぬことをせぬかと見張る役、それが今の妾に押し付けられた地位じゃ。
なんとまあ、落ちぶれたものよ。これが我が一族が望んだ道か? アズラに歩ませたい道であるのか?)
そう考えるうちに、アイシャの本来の姿――自尊心と征服欲にあふれた、勝気な性格の彼女が、己の中によみがえってきた。
「……いつまでも妾がお前の飼い猫であると思うなよ、ケネス」
アイシャは一人、憎々しげにそうつぶやいた。
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緒戦の結果と醒めた愛情。
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2.
レヴィア王国本拠、レヴィア城。
二人の将軍が、アイシャの前に並び立ち、報告を行っていた。
「陛下! ハリス海域において、我が軍がロクシルム―ベールを追い払い、撃退に成功しましたぞ!」
一方の将軍の報告を受け、アイシャはほくそ笑む。
「そうか、そうか。大儀であったぞ、将軍」
だが、もう一方の将軍は苦い顔をしている。
「申し訳ございません、陛下。カフール海域における海戦において、我が軍は後れを取り、撤退せざるを得ませんでした」
「むう……」
喜ばしくない結果ではあるが、それでもアイシャは算術的に考える。
「……まあ、1勝1敗、差し引き0であるか。……ならばよし。
両名とも引き続き、各地の制圧・防衛に当たれ」
「はっ……」
将軍たちが敬礼し、踵を返してその場を離れようとしたところで、アイシャはもう一つ声をかけた。
「のう、お前たち」
「は、何でしょうか?」
「今後の展望はどう考えておる? 簡単で良い、申してみよ」
「はい」
勝利を収めた方の将軍は、こう語った。
「あくまで先程の戦いにおいて抱いた感想でしかありませんが……、敵に覇気はありませんでした。
やはり陛下が以前にご推察なされた通り、敵方は頼みの綱である雨を降らす術が使えぬ時期に差し掛かっていることや、既に南海ほぼ全域に渡る影響力を持つ我々の強大さに、苦しい思いをしているのではないかと存じております」
「いや……」
一方、敗北した方の将軍は、まるで正反対の意見を述べた。
「吾輩が相対した敵どもは皆、勢いあふれる難敵でございました。
まず装備や陣容からして、気合の入れようが半端なものではございません。ベール軍主力艦『マリアム』を初めとし、護衛艦や突撃艦がぞろぞろと現れ、さらにはその一つ一つに、尋常ではない数の砲台が積んであると言う、攻防ともに侮れぬ構え。
とても同輩が述べたような、胡乱(うろん)な対応とは言えず……」
「……ふーむ?」
まったく違う二つの意見に、アイシャは首をかしげた。
「一方はさして攻め立てる様子もなく、もう一方は全力攻勢で挑んできたわけ、……か。気になるのう」
アイシャはぱた、と手を打ち、大臣を一人呼び寄せた。
「お呼びでございますか、陛下」
「うむ。すまぬがちと、ハリス海域とカフール海域の、明確な違いを何点か教えてくれぬか」
「は……。
どちらも南海西部寄りの海域であり、海運の要である点は共通しております。
違いと申しますと、どちらかと言えば前者は南海北部および北西部へも通じており、交通の面で言えば非常に後の利益につながるかと。
一方後者は、敵であるロクシルム―ベールの本拠地、ベール島との通行が容易でございます。恐らくは、主力艦の速やかな航行を狙ったものではないかと……」「誰がそこまで論ぜよと言うた?」「……失礼しました」
話を聞き終えたアイシャは大臣と将軍たちを退かせ、もう一度考察する。
「……確かに大臣の言う通りか。恐らくは今後、主力艦を軸に攻略の方策を立てていくつもりじゃろうな。
とあれば……、我々はそれを避け、こちらの主力艦を以って各地を周る策を執るとするか」
そう結論付けたところで、アイシャはケネスにこの結果を報告しておくべきか、ふと考えてみた。
(ケネスに伝えておくべき件ではあるが、……しかし)
ケネスの持つ財力と兵器に魅了され、彼と結ばれたアイシャだったが、最近になって、彼に対する想いはすっかり冷え込んでいた。
(妾の顔をつかみ、その顔面に唾をまき散らしながら怒鳴りつけるような男なぞ最早、声もかけとうないわ。
そもそも。もうあの男は、妾にとって必要な存在であるのか? 反対に、妾の存在は、あの男に必要不可欠なものじゃろうか?
……どちらも、否、じゃ。仮に今、妾があの男との取引を打ち切ったとて、既に存分に戦い抜けるほどの軍備は溜め込んでおる。
反面、妾がもしここで崩御しても、もうアズラがおる。妾と、ケネスの血を引く子が。もしそのような事態になったとて、ケネスはアズラを新たな女王に仕立て上げ、これまで通りに我が国を動かし、操るじゃろう。
……そう、操られておる。妾があの男に下ったその日から、我がレヴィア王国はあいつの言いなりじゃ。妾の存在なぞ、ただの目付役に過ぎぬ。この国があの男の意に沿わぬことをせぬかと見張る役、それが今の妾に押し付けられた地位じゃ。
なんとまあ、落ちぶれたものよ。これが我が一族が望んだ道か? アズラに歩ませたい道であるのか?)
そう考えるうちに、アイシャの本来の姿――自尊心と征服欲にあふれた、勝気な性格の彼女が、己の中によみがえってきた。
「……いつまでも妾がお前の飼い猫であると思うなよ、ケネス」
アイシャは一人、憎々しげにそうつぶやいた。
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ブログの記事数がなんと1000件目、4桁突入です。
改めて、築いてきた小説の大きさに驚かされます。
次は2000件目指して頑張ります。
と、「もし」の話ですが。
その2000件目の記事に初めてコメントを付けてくれた方には、何かお礼をば差し上げたいと思います。
具体的には小説に登場とか。
ブログの記事数がなんと1000件目、4桁突入です。
改めて、築いてきた小説の大きさに驚かされます。
次は2000件目指して頑張ります。
と、「もし」の話ですが。
その2000件目の記事に初めてコメントを付けてくれた方には、何かお礼をば差し上げたいと思います。
具体的には小説に登場とか。



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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 1;蒼天剣

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記事1000件目おめでとうございます。
いつも楽しいお話を読ませていただいております。
2000件目も楽しみにさせていただきますが、
どうかお体には気を付けくださいね。
いつも楽しいお話を読ませていただいております。
2000件目も楽しみにさせていただきますが、
どうかお体には気を付けくださいね。
- #365 ぺら
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- 2011.03/15 00:42
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前作「蒼天剣」の話数が597話。
今作「火紅狐」は、恐らくもっと短めになって400話に届くか届かないか。
そう考えると、2000件目に到達するのは次作か、次々作になるかも。
まだまだ大変な道のりを、自分も、読者の皆さんも進むことになりそうですが、これからも頑張りますので、よろしく応援をば。