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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・戦宣記 3

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    フォコの話、167話目。
    思わぬ窮地。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     緒戦、ハリス海域とカフール海域における戦闘の結果は、どちらも素早く人々のうわさに上った。
    「聞いたか? こないだの戦い」
    「ああ。カフール海域で、ベール王国側が完全勝利したらしいな。主力戦艦まで出るほどの戦いだったとか」
    「らしいですね。それはもう、大迫力の戦いぶりだったとか」
    「見た奴がいるのか?」
    「はい、大勢いたみたいですよ。かく言う私も、見た口だったり」
    「どうだったんだ?」
    「もう……、感動的と思えるくらいでしたね! 次々にレヴィア軍の船が沈むさまを見て、見ていた人たちみんな、拍手してましたもん」
    「へえ……。そりゃ一度、見てみたかったな」
    「で、さ」
    「ん?」
    「ハリス海域の方はどうだったんだ? 俺、あんまり詳しいこと、誰にも聞いてないんだ。レヴィア軍が勝ったとは聞いたが、それ以上のことは何も……」
    「あー、……目撃者、あんまりいないみたいですよ」
    「そうなのか?」
    「良く分からないうちに撃ち合い、斬り合いしてて、いつの間にか決着が付いてた、って感じ。みんな、そう言ってます」
    「なんだそりゃ」



     フォコはこの戦いの方針として、「宣伝することが我々の勝利につながる」と、しきりに繰り返していた。
    「人が殺し合いしとるとこなんて、誰も好んで見たくありませんし、巻き込まれたら嫌ですから、そうそう戦地に近付く人はおりません。でも結果がどうなったかは知りたい。それが心理っちゅうもんですわ。
     で、こないだの二つの海戦ですけども、どっちも遠巻きに見てる人はいてたわけです。特に、近隣に人が多く住んどるカフール海域。『観戦』しとる人も、多かったやろうと思います」
    「そこへ軍艦を多数引き入れ、大掛かりに叩き伏せるさまを見せ付けたわけか」
     メフルの言葉に、フォコは大きくうなずいた。
    「そう言うことです。一方で、『適当に処理しといて』と言っておいたハリス海域での戦いですけども、巷のうわさにはまったく上っとりません。
     今皆がうわさしとるんは、『カフール海域でベール側が圧倒的な戦いぶりをしていた』っちゅうことだけですわ。
     そしてうわさっちゅうもんには、尾ひれが付いたり取れたりするもんでしてな……」
    「そのうちにうわさは、……例えば『ベール側が圧倒的な強さを見せている』とか、『ベール側の軍が優勢』とか、そう変わるって言いたいのか?」
     アミルの問いに、フォコはまた大きくうなずく。
    「ええ。そうなればどうなると思います? 商業的、財政的に言って」
     今度はフォコから問いかけ、それにファンが答える。
    「そうですな……、例えば国債ですか、勝っている国のものであれば喜んで買うでしょうし、敗色濃厚であれば、よほどの一発逆転を狙う者でもない限り、買おうとはしないでしょう。
     その他取引に関しても、勝っている国を優先し、負けている国に対しては渋ることになるでしょうな」
    「でしょうね。今はまだうわさ上は、僕たちロクシルム―ベールが強い、ってだけですけども、そのうちにうわさが現実を捻じ曲げることになるでしょう。
     一年以内に、この戦いの決着は着きます」



     フォコのこの宣言は半年後、確かに現実味を帯び始めた。
    「何……? 2億が限度じゃと?」
     半年が過ぎ、潤沢だった資金にも多少の陰りが見え始めていたレヴィア王国は、ケネスの出資に頼らず――アイシャはこれ以上ケネスと会うのも、借りを作るのも嫌だったからだ――支配している、あるいは中立の地域に対し、国債を発行することにした。
     だが財務大臣からの報告によれば、当初20億ガニーの歳入を見込んでいた国債は買い取り手が現れず、結局は10分の1、2億ガニー程度にしかならなかったのだと言う。
    「ふざけおって! 2億程度で戦えるかッ! 主力艦を2、3度動かせば、あっと言う間に尽きてしまうような額ではないか!」
    「し、しかし陛下。市場での動きを見るに、我が国の戦評は非常に悪く、買い手がどうやっても現れないのが現状でございます」
    「何を申すか!? 各地の海域や島をいくつも抑え、此度においてもあの、因縁深きセヤフ海域を制圧したばかり! 我々の勝利は、微塵も緩いではおらぬはずじゃ!」
    「し、……しかし、ですな、陛下」
     女王の剣幕に対し、大臣は泣きそうな顔をした。
    「これまでの破竹の勢いはいわば、金に飽かせたものでありまして。
     その、陛下の旦那様、……エンターゲート氏のお力と言いますか、財力と言いますか、それに……、その、助けられていたようなもの、……でして」
    「な、んじゃ、と」
     顔を真っ青にしてにらみ付けるアイシャに平伏しつつ、大臣はさらに述べた。
    「その、ですな、……最早我が国の国庫や信用では、この戦局を維持することは、……はっきり申し上げまして、不可能です。
     このまま戦費がかさめば、我が国は年内に、……財政破綻します。本来の、我が国の国力に見合う戦費で戦うとなると、……いえ、これまでの過剰な戦費を穴埋めする形で全歳出を見直した場合、到底戦える状態ではないのです」
    「……」
     思ってもみなかった急所を見せ付けられ、アイシャの顔色はさらに悪くなった。
    「……つまりは、停戦を申せと言うのか」
    「財政面から言えば、それが最も理想的でございます。……今ならまだ、我々にさほど悪くない条件での停戦条約を結ぶことができます」
    「それが、お前の最善策、……なのじゃな?」
    「は、はい」
     アイシャはふらりと席を立ち、苦渋の表情を浮かべる財務大臣の横を通り抜け、卓から少し離れたところで振り返り、大臣や将軍たちに向かってぼそ、と尋ねた。
    「停戦なぞもっての外じゃ。ケネスがこれまでに買った債権は既に、300億ガニーに及ぶ。今、停戦を申せば、あの男は嬉々として債務不履行となった我が国を買い叩くじゃろう。そうなれば、何もかもがおしまいじゃ。
     ……他に策は?」
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