「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・戦宣記 4
フォコの話、168話目。
暴君の矜持。
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4.
「お、恐れながら!」
大臣の一人が手を挙げる。
「申してみよ」
「債務履行の問題はありますが、現状からの打破と考え、エンターゲート氏からの援助を甘んじて受けるべきです!」
「それはならぬ」
「いいえ、戦局の維持には不可欠でございます! どうかお考えを……!」
「他の策は」
「彼の資金援助が無ければ到底、戦費の捻出が不可能であることは、ご承知の通りでしょう!?」
「他の策は、無いのか」
「……」
凍りついたような顔でそう返すアイシャに、大臣は何も言えなくなってしまった。
と、今度は将軍たちの中から手が挙がる。
「平和的に国債で、などと言うから払わんのです! 無理矢理にでも徴発なさるべきかと!」
「なるほど……」
納得しかけたアイシャに、ほとんどの大臣から異議が上がる。
「いやいやいやいや、無茶でございます!」
「ただでさえ評判を落としている最中にそんなことをされては、304年初めのように国民、領地民から叛意が湧き上がるのは確実!」
「そうなれば戦費の捻出やベールへの応戦どころではなく、軍や王室政府の維持すら不可能になってしまいますぞ!」
「……そうじゃな。他に策は」
また、大臣からの意見が出る。
「え、エンターゲート氏からの援助が駄目であれば、スパス系はどうでしょうか!?
彼らには我が国の領地内で優先的に商業諸権利を与えておりますし、こんな時にこそ、手を貸してもらわねば!」
この意見にも、反対が並ぶ。、
「この戦いの発端である、ロクシルム連合によるスパス系の追い出しを受け、彼らは大きな赤字を出している。そんな折に10億、20億の援助など、断るに決まっている」
「そもそもスパス系の代表であるアバント・スパス氏は、エンターゲート氏の下請け、子飼いの身だ。
彼に頼むと言うことは即ち、エンターゲート氏に頼むのと同じことになる」
「その通りじゃ。……他に策は」
「……」「……」「……」
論じる材料が無くなり、会議の場は停滞する。
「……妾は」
と、アイシャがぼそりとつぶやいた。
「妾は、妾なりにこの国の、そして一族の興隆、発展のために動いてきた、つもりじゃ。民に多少の犠牲を強いても、必ずやそれが報われるようにと、それを忘れることは無かった。
じゃが、どこで道を間違えたものか――あの男の介入により、妾が有していたものは何もかも、乗っ取られた。この城も領土も、国庫の金は、ほとんどあいつの出資じゃ。実質あの男の抵当になっておる。軍も、今ここで論じ合っている皆の身代、政治を司る権限も。
そして我が血筋に至るまで奪われた……!」
「陛下……」
「万策は尽きた。この国は最早妾のものではなくなる。
借金の形に一切を奪い去られるか、火薬によって跡形もなく燃やされるか。取る道はその二つしか無くなった……!」
その場に屈み、悔しげなうめきを挙げる女王に、大臣たちは何も言えなかった。
だが――。
「……うん?」
会議室の扉がノックされ、伝令らしき兵士が恐る恐る入ってきた。
「どうした?」
「あの……、伝言でございます。『魔術頭巾』による会話を希望されています」
「『頭巾』を? ……誰か術の心得がある者は」
大臣が手を挙げ、頭巾を頭に巻きつけた。
「……はい。……ええ。ご無沙汰を、……ええ、丁度今、会議をしておりまして。
……いえ、予算の問題で、……ええ、国庫が、……はあ、……ええ、停戦を申し込むのが最善策であると、……いえ、……いえ?」
と、大臣が妙な声を挙げた。
「それは一体、……そのまま? そのままの、意味であると? ……つまり、その、……閣下、あなたが我々に、救いの手を差し伸べると?」
「閣下? ……あいつか?」
座り込んでいたアイシャが反応し、頭巾を大臣から奪って自分の頭に巻く。
「この騒々しい時に、何の用じゃ。……ふむ、……ふむ、……何?」
アイシャは猫耳をピクピクとさせ、「閣下」と呼ばれた者の話を聞く。
「ならば手を貸しても、……、ほう。つまりお主は、……予想通り、であったと。……何じゃと?」
青い顔をしていたアイシャに、笑みが戻ってきた。
「つまり、これはお主が予想した展開であると、そう言うのじゃな。であれば、対策も講じておる、そう考えてよいのか? ……ふむ、……ふむ、……なるほど。……ほほう。
勿論じゃとも。この件がうまく運べば、妾にできることは何でも叶えようぞ。
よろしく頼む、閣下殿よ」
通信を終えたアイシャは、先程の落ち込みようが嘘のような、張りのある声でこう命じた。
「状況を立て直すぞ、皆の者! 一挙に攻め落とす!」
「攻め落とす、ですと?」
「最大の転機が今、訪れた! 今年以内にベールを撃破し、この苦境を打破しようぞ!
勝ってしまえばこっちのものよ! 死人どもに政や商いはできぬ! 信用が無かろうと忌み嫌われようと、民は残った者にしか追従できぬ!
ベールを打ち滅ぼし、生き残った我々こそが、南海すべてを制するのじゃ!」
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暴君の矜持。
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「お、恐れながら!」
大臣の一人が手を挙げる。
「申してみよ」
「債務履行の問題はありますが、現状からの打破と考え、エンターゲート氏からの援助を甘んじて受けるべきです!」
「それはならぬ」
「いいえ、戦局の維持には不可欠でございます! どうかお考えを……!」
「他の策は」
「彼の資金援助が無ければ到底、戦費の捻出が不可能であることは、ご承知の通りでしょう!?」
「他の策は、無いのか」
「……」
凍りついたような顔でそう返すアイシャに、大臣は何も言えなくなってしまった。
と、今度は将軍たちの中から手が挙がる。
「平和的に国債で、などと言うから払わんのです! 無理矢理にでも徴発なさるべきかと!」
「なるほど……」
納得しかけたアイシャに、ほとんどの大臣から異議が上がる。
「いやいやいやいや、無茶でございます!」
「ただでさえ評判を落としている最中にそんなことをされては、304年初めのように国民、領地民から叛意が湧き上がるのは確実!」
「そうなれば戦費の捻出やベールへの応戦どころではなく、軍や王室政府の維持すら不可能になってしまいますぞ!」
「……そうじゃな。他に策は」
また、大臣からの意見が出る。
「え、エンターゲート氏からの援助が駄目であれば、スパス系はどうでしょうか!?
彼らには我が国の領地内で優先的に商業諸権利を与えておりますし、こんな時にこそ、手を貸してもらわねば!」
この意見にも、反対が並ぶ。、
「この戦いの発端である、ロクシルム連合によるスパス系の追い出しを受け、彼らは大きな赤字を出している。そんな折に10億、20億の援助など、断るに決まっている」
「そもそもスパス系の代表であるアバント・スパス氏は、エンターゲート氏の下請け、子飼いの身だ。
彼に頼むと言うことは即ち、エンターゲート氏に頼むのと同じことになる」
「その通りじゃ。……他に策は」
「……」「……」「……」
論じる材料が無くなり、会議の場は停滞する。
「……妾は」
と、アイシャがぼそりとつぶやいた。
「妾は、妾なりにこの国の、そして一族の興隆、発展のために動いてきた、つもりじゃ。民に多少の犠牲を強いても、必ずやそれが報われるようにと、それを忘れることは無かった。
じゃが、どこで道を間違えたものか――あの男の介入により、妾が有していたものは何もかも、乗っ取られた。この城も領土も、国庫の金は、ほとんどあいつの出資じゃ。実質あの男の抵当になっておる。軍も、今ここで論じ合っている皆の身代、政治を司る権限も。
そして我が血筋に至るまで奪われた……!」
「陛下……」
「万策は尽きた。この国は最早妾のものではなくなる。
借金の形に一切を奪い去られるか、火薬によって跡形もなく燃やされるか。取る道はその二つしか無くなった……!」
その場に屈み、悔しげなうめきを挙げる女王に、大臣たちは何も言えなかった。
だが――。
「……うん?」
会議室の扉がノックされ、伝令らしき兵士が恐る恐る入ってきた。
「どうした?」
「あの……、伝言でございます。『魔術頭巾』による会話を希望されています」
「『頭巾』を? ……誰か術の心得がある者は」
大臣が手を挙げ、頭巾を頭に巻きつけた。
「……はい。……ええ。ご無沙汰を、……ええ、丁度今、会議をしておりまして。
……いえ、予算の問題で、……ええ、国庫が、……はあ、……ええ、停戦を申し込むのが最善策であると、……いえ、……いえ?」
と、大臣が妙な声を挙げた。
「それは一体、……そのまま? そのままの、意味であると? ……つまり、その、……閣下、あなたが我々に、救いの手を差し伸べると?」
「閣下? ……あいつか?」
座り込んでいたアイシャが反応し、頭巾を大臣から奪って自分の頭に巻く。
「この騒々しい時に、何の用じゃ。……ふむ、……ふむ、……何?」
アイシャは猫耳をピクピクとさせ、「閣下」と呼ばれた者の話を聞く。
「ならば手を貸しても、……、ほう。つまりお主は、……予想通り、であったと。……何じゃと?」
青い顔をしていたアイシャに、笑みが戻ってきた。
「つまり、これはお主が予想した展開であると、そう言うのじゃな。であれば、対策も講じておる、そう考えてよいのか? ……ふむ、……ふむ、……なるほど。……ほほう。
勿論じゃとも。この件がうまく運べば、妾にできることは何でも叶えようぞ。
よろしく頼む、閣下殿よ」
通信を終えたアイシャは、先程の落ち込みようが嘘のような、張りのある声でこう命じた。
「状況を立て直すぞ、皆の者! 一挙に攻め落とす!」
「攻め落とす、ですと?」
「最大の転機が今、訪れた! 今年以内にベールを撃破し、この苦境を打破しようぞ!
勝ってしまえばこっちのものよ! 死人どもに政や商いはできぬ! 信用が無かろうと忌み嫌われようと、民は残った者にしか追従できぬ!
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