「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・四壊記 3
フォコの話、172話目。
敵前逃亡。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
反目の直後、さらに事態は悪化した。
ベール側の陣営、ベール王族内でも、南海戦争において戦果を挙げ、明らかに次代国王を狙うメフルにいち早く追従しようとする者、抹殺しようとする者とで二分され、ベール島では内乱が起こっていた。
「この戦いにおいて、明らかに次代国王の座を狙うメフラードをこのままのさばらせては、いずれベール家はあいつに乗っ取られるでしょう。
兄上、ここはひとつ、心を鬼にして、メフラードと、彼に付き従うマフシードとを離縁・勘当し、一族から追い出すべきでしょう」
そう進言したセノクに、現国王であるシャフルは表情を曇らせた。
「しかし……、余にはそこまですべきだろうかと、疑念がある。
確かに最近のメフルには独断専行の気はある。だが、すべては南海の平和のため……」「それが怪しうございますぞ」
セノクはばっさりと、フォコが唱えた平和展望を切り捨てた。
「現実的に考えれば、我々が戦争で活躍すればするほど、皆が――王国外の者まで――付いてくるなど、虫のいい話。
現地の者にしてみれば、何度も何度も場を引っ掻き回す者として、にっくきレヴィアと同然に見られているでしょう。そんな彼らが、我々になびいているはずがない。
平和? 皆の信頼を得る? そんな美辞麗句など、机上の理論もいいところ! だまされておるのです、メフラードたちは! そして既にホコウなる者がいない今も、彼らはその侫言(ねいげん)に惑わされ続けている! 最早、正気に戻すことはできぬでしょうな」
「そ、そこまで断言できる話では……」「早々にご決断いただきたい、兄上!」
セノクはガン、と机を叩き、シャフルの反論をねじ伏せる。
「このまま手をこまねいていては、早晩自分の息子に命を狙われますぞ!」
「……む、うう。致し方、……なしか」
セノクの鬼気迫る説得に、シャフルはうなずくしかなかった。
反メフル派の筆頭であるセノクが国王を味方に付けたことで、親メフル派は窮地に陥った。
「なんだと……!? 父上が我々を勘当し、宮殿より締め出した、だと!?」
まだ辛うじてレヴィア軍との戦いを続けていたメフルは、戦地の最前線でその報告を受けた。
「老いぼれめ……! 一体誰のおかげで、その玉座に座っていられると思っているのだ!」
「どう致しましょう、お兄様?」
「どうもこうも無い……! こんなところでうかうかしていられるか! すぐベール島に戻り、我々の行動と理念を釈明せねば!
放っておいても勝てる戦いに精を出すより、戦後の地盤固めだ!」
大局観のないメフルは目の前の敵を放って、大慌てでベール島へと戻ってしまった。
しかし時既に遅く、メフル兄妹が戻って来た時には、セノクの説得により王族の大半が、反メフル派に転んだ後であった。
ベール島に戻ってきたメフルたちは一切釈明することもできず、やむなく以前、王族が本拠地にしていたトリペの館へ落ち延びることになった。
「……許さんぞ、叔父上……!」
「お兄様……」
地位を奪われ激昂したメフルの頭には、自分をこの窮地に追い込んだセノクを倒すことしかなく、レヴィア軍との戦闘のことなど、どこかへ吹き飛んでしまっていた。
そしてマフスにしても、頭に血の上った兄を抑えられることが到底できそうになく、また、今さら兄を見限って反メフル派に寝返ることもできず、打つ手をなくしてしまった。
仕方なくマフスは、暴走する兄を野放しにしたまま、トリペの館に引き籠ってしまった。
この展開に喜んだのは、レヴィア軍である。
何しろ敵が、目の前からすっかりいなくなってしまったのだ。となれば無理に進軍して領土を先取りする必要もなく、陣地を奪い返される心配もない。
これまでの7~8分の1ほどの費用で悠々と侵略活動を行うことができたため、懸念されていた戦費の増大と、それによる財政破綻の危機は、完全に回避されてしまった。
フォコが狙った勝利は、味方同士の反目により、水泡に帰した。
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敵前逃亡。
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反目の直後、さらに事態は悪化した。
ベール側の陣営、ベール王族内でも、南海戦争において戦果を挙げ、明らかに次代国王を狙うメフルにいち早く追従しようとする者、抹殺しようとする者とで二分され、ベール島では内乱が起こっていた。
「この戦いにおいて、明らかに次代国王の座を狙うメフラードをこのままのさばらせては、いずれベール家はあいつに乗っ取られるでしょう。
兄上、ここはひとつ、心を鬼にして、メフラードと、彼に付き従うマフシードとを離縁・勘当し、一族から追い出すべきでしょう」
そう進言したセノクに、現国王であるシャフルは表情を曇らせた。
「しかし……、余にはそこまですべきだろうかと、疑念がある。
確かに最近のメフルには独断専行の気はある。だが、すべては南海の平和のため……」「それが怪しうございますぞ」
セノクはばっさりと、フォコが唱えた平和展望を切り捨てた。
「現実的に考えれば、我々が戦争で活躍すればするほど、皆が――王国外の者まで――付いてくるなど、虫のいい話。
現地の者にしてみれば、何度も何度も場を引っ掻き回す者として、にっくきレヴィアと同然に見られているでしょう。そんな彼らが、我々になびいているはずがない。
平和? 皆の信頼を得る? そんな美辞麗句など、机上の理論もいいところ! だまされておるのです、メフラードたちは! そして既にホコウなる者がいない今も、彼らはその侫言(ねいげん)に惑わされ続けている! 最早、正気に戻すことはできぬでしょうな」
「そ、そこまで断言できる話では……」「早々にご決断いただきたい、兄上!」
セノクはガン、と机を叩き、シャフルの反論をねじ伏せる。
「このまま手をこまねいていては、早晩自分の息子に命を狙われますぞ!」
「……む、うう。致し方、……なしか」
セノクの鬼気迫る説得に、シャフルはうなずくしかなかった。
反メフル派の筆頭であるセノクが国王を味方に付けたことで、親メフル派は窮地に陥った。
「なんだと……!? 父上が我々を勘当し、宮殿より締め出した、だと!?」
まだ辛うじてレヴィア軍との戦いを続けていたメフルは、戦地の最前線でその報告を受けた。
「老いぼれめ……! 一体誰のおかげで、その玉座に座っていられると思っているのだ!」
「どう致しましょう、お兄様?」
「どうもこうも無い……! こんなところでうかうかしていられるか! すぐベール島に戻り、我々の行動と理念を釈明せねば!
放っておいても勝てる戦いに精を出すより、戦後の地盤固めだ!」
大局観のないメフルは目の前の敵を放って、大慌てでベール島へと戻ってしまった。
しかし時既に遅く、メフル兄妹が戻って来た時には、セノクの説得により王族の大半が、反メフル派に転んだ後であった。
ベール島に戻ってきたメフルたちは一切釈明することもできず、やむなく以前、王族が本拠地にしていたトリペの館へ落ち延びることになった。
「……許さんぞ、叔父上……!」
「お兄様……」
地位を奪われ激昂したメフルの頭には、自分をこの窮地に追い込んだセノクを倒すことしかなく、レヴィア軍との戦闘のことなど、どこかへ吹き飛んでしまっていた。
そしてマフスにしても、頭に血の上った兄を抑えられることが到底できそうになく、また、今さら兄を見限って反メフル派に寝返ることもできず、打つ手をなくしてしまった。
仕方なくマフスは、暴走する兄を野放しにしたまま、トリペの館に引き籠ってしまった。
この展開に喜んだのは、レヴィア軍である。
何しろ敵が、目の前からすっかりいなくなってしまったのだ。となれば無理に進軍して領土を先取りする必要もなく、陣地を奪い返される心配もない。
これまでの7~8分の1ほどの費用で悠々と侵略活動を行うことができたため、懸念されていた戦費の増大と、それによる財政破綻の危機は、完全に回避されてしまった。
フォコが狙った勝利は、味方同士の反目により、水泡に帰した。
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