「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・四壊記 4
フォコの話、173話目。
亀裂を入れた黒幕。
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4.
ロクシルム側においても、トップたちの関係に深いひびが入っていた。
「君は何を考えているんだ……! 今ここにニコルぼっちゃ、……ニコル卿がいらっしゃったら、きっと君は叱咤されるぞ!」
「……るせえなぁ、どいつもこいつも! 今いない奴の話なんかしてどうするんだよ!」
フォコと言う矯正の柱を失ったアミルは、以前のならず者のような精神状態に戻りつつあった。
いや、大商会の主と言う地位を得た分、さらにその性根は修正しようのない根腐れを起こしてしまっている。
「あなた、ロックスさんの言う通りじゃない……」
「マナ、お前もユーレイの言うことが正しいってのか!」
「ゆっ、幽霊!? 何てことを言うんだ! まだ死んだと決まったわけじゃ……」
「じゃあここに出してみろよ、ホコウの奴をよぉ!? ほら、出せよ! 出してみろ!」
滅茶苦茶なアミルの物言いに、マナもファンも呆れ返る。
「バカ言ってんじゃないわよ! ……ロックスさん、この人、もうどうしようもないわ」
「全くだ……! よもや正道、まともな理も見えていない」
「見えてないのはどっちだよ!? 今ここにいる俺の方が、確実な存在だろうが!
もういい、俺は勝手にやる! まずは俺にケンカを売りやがったベールの奴らに目に物見せてやる! ……邪魔するなよ、二人とも」
アミルは肩を怒らせ、ダマスク島の砦から――ロクシルム本拠地から出て行った。
こうしてレヴィア王国への勝利を目前にして、ロクシルム―ベールは四つに分裂してしまった。
アイシャはこの展開に、狂喜していた。
「ふ、はははは……っ! なんとまあ、愚かな者どもよ!」
この散々な状況を報告した「閣下」は、肩をすくめてみせる。
「ホコウ氏が言っていた言葉ですが――『レヴィア10万に対し、南海の民すべてを味方に付けたロクシルム―ベールの200万で挑めば、必ず勝つ』とのことでしたが、……今やその中核が四散してしまったわけですからね。
最早向こうの側が、戦えるような状況にない。その鉾は、元・味方たちへ向けられることになる」
「く、くくっ、く……、滑稽、滑稽!」
笑い声を挙げて喜ぶアイシャに、「閣下」も顔をほころばせた。
「そこまで喜んでいただけて、私も手を汚した甲斐があったと言うものです」
「……そうじゃの。お主にとっては、国を裏切ったことになるのじゃしな。……なんぞ、褒美を取らせねばな。
あー、と……。何を望んでおったかな。我がレヴィア王国における領地と要職、……そして、我が一族との婚姻、……であったな」
「その通りです、陛下」
「その、3つ目の頼みであるが」
と、アイシャは怪訝な目を「閣下」に向けた。
「一体誰を伴侶に? お主に見合うような年頃の、独り身の女なぞ、我らが身内におったかの……?」
「失礼ながら、陛下」
「閣下」はそっとアイシャに顔を近付け、こう耳打ちした。
「仲が冷えている、と耳にしましたぞ」
「うん? ……妾のことか? ……なに、まさか」
「ええ。私はあなたを、妻に迎えたい」
「……阿呆か、お主は」
アイシャは目を丸くしつつ、「閣下」をなじる。
「よりにもよって、一国の主を、それも夫のいる女を、堂々と娶りたいと申すか。そんな無謀で妄想じみた願いなぞ、無理なことと自重できぬのか」
「恐れながら陛下、私はロクシルム―ベールを破った男ですぞ」
「その戦果に報いて、と言いたいのか?」
「いいえ、あなたに不可能なことを、それこそ『無理』と思われたことを成し遂げた男です。私に対して『無理だ』と諭すことなど、無意味に等しい」
「……かっ」
アイシャののどから妙な音が漏れる。どうやら呆れに呆れ、言葉が出ないようだ。
「それに陛下、もしこの戦いに勝利し、南海を制覇すれば、わざわざ遠方にいる浮気性な旦那殿に媚を売る必要もなくなるわけです。
私はその理想の未来に、確実にあなたを近付けさせることができます。伴侶に迎えるには、それでは不服でしょうか?」
「……け、卿よ」
アイシャは声を若干震わせながら、こう返事した。
「妾は、……欲に目を奪われて結婚した身じゃ。……もし、……仮に、また結婚することがあった時には、……欲ではなく、愛で結ばれたいと考えておった。
……妾を口説くと言うなら、……利益ではなく、……もっと、……愛を以って接してたもれ」
「……それは、同意と受け取ってよいのですな?」
「であるから、……口説き落としてみせよ、妾を」
「かしこまりました、陛下。……いいえ、アイシャ」
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亀裂を入れた黒幕。
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ロクシルム側においても、トップたちの関係に深いひびが入っていた。
「君は何を考えているんだ……! 今ここにニコルぼっちゃ、……ニコル卿がいらっしゃったら、きっと君は叱咤されるぞ!」
「……るせえなぁ、どいつもこいつも! 今いない奴の話なんかしてどうするんだよ!」
フォコと言う矯正の柱を失ったアミルは、以前のならず者のような精神状態に戻りつつあった。
いや、大商会の主と言う地位を得た分、さらにその性根は修正しようのない根腐れを起こしてしまっている。
「あなた、ロックスさんの言う通りじゃない……」
「マナ、お前もユーレイの言うことが正しいってのか!」
「ゆっ、幽霊!? 何てことを言うんだ! まだ死んだと決まったわけじゃ……」
「じゃあここに出してみろよ、ホコウの奴をよぉ!? ほら、出せよ! 出してみろ!」
滅茶苦茶なアミルの物言いに、マナもファンも呆れ返る。
「バカ言ってんじゃないわよ! ……ロックスさん、この人、もうどうしようもないわ」
「全くだ……! よもや正道、まともな理も見えていない」
「見えてないのはどっちだよ!? 今ここにいる俺の方が、確実な存在だろうが!
もういい、俺は勝手にやる! まずは俺にケンカを売りやがったベールの奴らに目に物見せてやる! ……邪魔するなよ、二人とも」
アミルは肩を怒らせ、ダマスク島の砦から――ロクシルム本拠地から出て行った。
こうしてレヴィア王国への勝利を目前にして、ロクシルム―ベールは四つに分裂してしまった。
アイシャはこの展開に、狂喜していた。
「ふ、はははは……っ! なんとまあ、愚かな者どもよ!」
この散々な状況を報告した「閣下」は、肩をすくめてみせる。
「ホコウ氏が言っていた言葉ですが――『レヴィア10万に対し、南海の民すべてを味方に付けたロクシルム―ベールの200万で挑めば、必ず勝つ』とのことでしたが、……今やその中核が四散してしまったわけですからね。
最早向こうの側が、戦えるような状況にない。その鉾は、元・味方たちへ向けられることになる」
「く、くくっ、く……、滑稽、滑稽!」
笑い声を挙げて喜ぶアイシャに、「閣下」も顔をほころばせた。
「そこまで喜んでいただけて、私も手を汚した甲斐があったと言うものです」
「……そうじゃの。お主にとっては、国を裏切ったことになるのじゃしな。……なんぞ、褒美を取らせねばな。
あー、と……。何を望んでおったかな。我がレヴィア王国における領地と要職、……そして、我が一族との婚姻、……であったな」
「その通りです、陛下」
「その、3つ目の頼みであるが」
と、アイシャは怪訝な目を「閣下」に向けた。
「一体誰を伴侶に? お主に見合うような年頃の、独り身の女なぞ、我らが身内におったかの……?」
「失礼ながら、陛下」
「閣下」はそっとアイシャに顔を近付け、こう耳打ちした。
「仲が冷えている、と耳にしましたぞ」
「うん? ……妾のことか? ……なに、まさか」
「ええ。私はあなたを、妻に迎えたい」
「……阿呆か、お主は」
アイシャは目を丸くしつつ、「閣下」をなじる。
「よりにもよって、一国の主を、それも夫のいる女を、堂々と娶りたいと申すか。そんな無謀で妄想じみた願いなぞ、無理なことと自重できぬのか」
「恐れながら陛下、私はロクシルム―ベールを破った男ですぞ」
「その戦果に報いて、と言いたいのか?」
「いいえ、あなたに不可能なことを、それこそ『無理』と思われたことを成し遂げた男です。私に対して『無理だ』と諭すことなど、無意味に等しい」
「……かっ」
アイシャののどから妙な音が漏れる。どうやら呆れに呆れ、言葉が出ないようだ。
「それに陛下、もしこの戦いに勝利し、南海を制覇すれば、わざわざ遠方にいる浮気性な旦那殿に媚を売る必要もなくなるわけです。
私はその理想の未来に、確実にあなたを近付けさせることができます。伴侶に迎えるには、それでは不服でしょうか?」
「……け、卿よ」
アイシャは声を若干震わせながら、こう返事した。
「妾は、……欲に目を奪われて結婚した身じゃ。……もし、……仮に、また結婚することがあった時には、……欲ではなく、愛で結ばれたいと考えておった。
……妾を口説くと言うなら、……利益ではなく、……もっと、……愛を以って接してたもれ」
「……それは、同意と受け取ってよいのですな?」
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