「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・四壊記 5
フォコの話、174話目。
要の人間。
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5.
南海戦争は新たな局面を見せていた。
瓦解したロクシルム―ベールが互いを敵視し合い、反目したことで、南海人民の彼らに対する信用度と期待は大きく下落することとなった。
そして相対的に、レヴィア王国は信用を集め始めていた。
「ほう……、国債の買い付けが増加しておるのか」
フォコの予想であればとうに破綻を迎えていたはずの311年10月初め、レヴィア王国の財政には回復の目が見えてきていた。
「やはり敵方の混乱が、市場に大きく響いたようでして」
「うむ、うむ。して、その敵方は今、どうなっておるのじゃ?」
「ロクシルムから離反したシルム代表は、独力にて人材と資金を集め『シルム武装商会』を立ち上げ、反メフル派と結託しました。しかし『閣下』の手引きにより、現在その活動はまだ、空転した状態になっているとのことです。
また親メフル派に関しましてはトリペに兵と資金を集め直し、反メフル派との徹底抗戦に臨む模様、とのことです」
「残ったロックス代表の動きは?」
「静観しております。と言うより、動く道標を失い、本拠地に籠るしかない、と言うのが現状のようです」
「なるほど。……ならば我々のみが、南海全域へ自由に手を伸ばすことができる、と言うわけじゃの」
「ええ。財政危機の折に提案していた軍縮を行い、このまま静観を続けていれば、一年後には向こうの方が自滅するでしょう」
「……しかし、何じゃな」
アイシャは急に、神妙な顔になった。
「向こうもホコウとか言う男がいなくなった途端に瓦解。我々もケネスの力添えを蹴った途端に進退を窮める体たらく。
まったく恐ろしいことじゃ――本営に人ひとりいるかいないかで、こうも戦局が激変するものなのか」
アイシャは傍らに座る「閣下」を見て、ほんのりと笑った。
「真に此度の働き、いくら感謝を重ねても足りぬ。……いよいよもって、お主には約束を果たしてやらねばならぬのう」
「はは……、ありがたき幸せです」
この頃既に、大臣や将軍たち、側近の間では、アイシャと「閣下」との仲がうわさされており、この時女王が口走った「約束」と言う言葉が何を意味しているか、それとなく察していた。
「……失礼ながら、陛下」
それを案じた大臣が、アイシャに声をかけた。
「何じゃ?」
「エンターゲート氏との、……その、ご関係は、どうされるおつもりでしょうか」
「決まっておる。離縁じゃ。もはやあいつに情も利も無い」
「しかし、それでは……」
「何かあると言うのか? ……いいや、分かっておる。きっとあいつは何のかんのと理由を付けてごね、恐らくは中央政府まで引っ張り出して、妾を糾弾しようとするじゃろうな」
「であれば……」
諌めようとする大臣に、「閣下」がこう返した。
「心配はいらん。南海での利権を手にすれば、そのケネスとか言う商人には、十分に対抗できるはずだ。
……いや、そんなことを考えるよりもだ。彼をだましてこの城におびき寄せ、暗殺して身柄を消してしまえば、事は足りる。
どうせ世界の憎まれ者である死の商人――死んで悲しむ者など、居はしまい」
「……っ」
恐ろしく、そして下卑た「閣下」の発言に、卓に着いていた者たちの額に、一様に冷や汗が浮き出した。
「……そうじゃ、そう言えば」
と、アイシャがくる、と「閣下」に顔を向ける。
「そのホコウと言う男。お主がさらった後、どのような処置を? 殺したのか?」
「いえ……。下手に殺して、その証拠や遺体が発見されるようなことがあれば、却って結束を固めることになるでしょうから、彼はあるところへ送っておきました。二度と、その顔を見ることは無いでしょう」
「あるところ?」
きょとんとするアイシャに、「閣下」は笑いをこらえつつ、こう言ってのけた。
「ふ、ふふ、ふっふ……。彼には、22万3230ガニーの値が付きました。
いやいや、案外安い男でしたよ」
火紅狐・四壊記 終
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要の人間。
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南海戦争は新たな局面を見せていた。
瓦解したロクシルム―ベールが互いを敵視し合い、反目したことで、南海人民の彼らに対する信用度と期待は大きく下落することとなった。
そして相対的に、レヴィア王国は信用を集め始めていた。
「ほう……、国債の買い付けが増加しておるのか」
フォコの予想であればとうに破綻を迎えていたはずの311年10月初め、レヴィア王国の財政には回復の目が見えてきていた。
「やはり敵方の混乱が、市場に大きく響いたようでして」
「うむ、うむ。して、その敵方は今、どうなっておるのじゃ?」
「ロクシルムから離反したシルム代表は、独力にて人材と資金を集め『シルム武装商会』を立ち上げ、反メフル派と結託しました。しかし『閣下』の手引きにより、現在その活動はまだ、空転した状態になっているとのことです。
また親メフル派に関しましてはトリペに兵と資金を集め直し、反メフル派との徹底抗戦に臨む模様、とのことです」
「残ったロックス代表の動きは?」
「静観しております。と言うより、動く道標を失い、本拠地に籠るしかない、と言うのが現状のようです」
「なるほど。……ならば我々のみが、南海全域へ自由に手を伸ばすことができる、と言うわけじゃの」
「ええ。財政危機の折に提案していた軍縮を行い、このまま静観を続けていれば、一年後には向こうの方が自滅するでしょう」
「……しかし、何じゃな」
アイシャは急に、神妙な顔になった。
「向こうもホコウとか言う男がいなくなった途端に瓦解。我々もケネスの力添えを蹴った途端に進退を窮める体たらく。
まったく恐ろしいことじゃ――本営に人ひとりいるかいないかで、こうも戦局が激変するものなのか」
アイシャは傍らに座る「閣下」を見て、ほんのりと笑った。
「真に此度の働き、いくら感謝を重ねても足りぬ。……いよいよもって、お主には約束を果たしてやらねばならぬのう」
「はは……、ありがたき幸せです」
この頃既に、大臣や将軍たち、側近の間では、アイシャと「閣下」との仲がうわさされており、この時女王が口走った「約束」と言う言葉が何を意味しているか、それとなく察していた。
「……失礼ながら、陛下」
それを案じた大臣が、アイシャに声をかけた。
「何じゃ?」
「エンターゲート氏との、……その、ご関係は、どうされるおつもりでしょうか」
「決まっておる。離縁じゃ。もはやあいつに情も利も無い」
「しかし、それでは……」
「何かあると言うのか? ……いいや、分かっておる。きっとあいつは何のかんのと理由を付けてごね、恐らくは中央政府まで引っ張り出して、妾を糾弾しようとするじゃろうな」
「であれば……」
諌めようとする大臣に、「閣下」がこう返した。
「心配はいらん。南海での利権を手にすれば、そのケネスとか言う商人には、十分に対抗できるはずだ。
……いや、そんなことを考えるよりもだ。彼をだましてこの城におびき寄せ、暗殺して身柄を消してしまえば、事は足りる。
どうせ世界の憎まれ者である死の商人――死んで悲しむ者など、居はしまい」
「……っ」
恐ろしく、そして下卑た「閣下」の発言に、卓に着いていた者たちの額に、一様に冷や汗が浮き出した。
「……そうじゃ、そう言えば」
と、アイシャがくる、と「閣下」に顔を向ける。
「そのホコウと言う男。お主がさらった後、どのような処置を? 殺したのか?」
「いえ……。下手に殺して、その証拠や遺体が発見されるようなことがあれば、却って結束を固めることになるでしょうから、彼はあるところへ送っておきました。二度と、その顔を見ることは無いでしょう」
「あるところ?」
きょとんとするアイシャに、「閣下」は笑いをこらえつつ、こう言ってのけた。
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いやいや、案外安い男でしたよ」
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