「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・賭人記 1
フォコの話、175話目。
悪の巣窟。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
南海にはいくつかの、悪の巣窟がある。
海によって徒歩や馬車などの細かな交通が遮断されていることや、各国・各島に共通した倫理意識がなく、また、それに則って動く警察機構が存在しないために、これまで述べてきた「ならず者の軍事国家」レヴィア王国をはじめとして、孤立した陣地で好き放題に暴虐と悖乱(はいらん)の限りを尽くす輩が後を絶たないのだ。
ここ、南海の南にあるアリバラク王国も、そんな悪の巣窟の一つだった。
「はい44万、44万! 他にいないか!
おおっと出た、46万! さあどうだどうだ、46万! もっと出す奴は!
よっしゃ来たな、49万! おっとここで刻んできたか、49万3000! どうだ、もっと上! もっと上、いないか!?
……よーしよしよし、大台の50万! 50万出たぞ、50万だ! お、ここでも刻むかおっさん、51万3000! おっと向こうの兄ちゃんも刻み始めた、52万5000!
どうだ、もう一回値を上げる奴はいないのか! いないか!? いなきゃ決定、……よしよし、ドンと出たな兄ちゃん、57万!
さあどうだ! もっと上、いるか! いないか!? いないかっ! いないな!
はい決定、このべっぴんさんは57万ガニーで落札だ!」
威勢のいい主催者の売り声と対照的に、生気のない顔をした、首輪を付けられたエルフが、主催者に57万を支払った青年に首輪の鎖を引かれ、連れられて行った。
「はい、今日の競りは終了だ! また来週、来週! さ、帰った帰った!」
こうしてその日も、奴隷市場は盛況のまま幕を閉じた。
その賑わいを壁越しに聞きつつ、ボロボロになった布きれを着た男たちが、ぼそぼそとつぶやき合っていた。
「57万か。……やっぱり女は高く売れるんだな」
「だろうな」
彼らはのろのろと手を動かしながら、「宮殿」と名の付いたボロ屋敷の柱を磨いていた。
「……次は誰が売られるんだろうな」
「さあな」
「宮殿」の床をのろのろと拭いていた男たちも、話に加わる。
「そう言えば、つい最近……、妙な女が仕入れられたらしいぜ」
「妙? いい女なのか?」
「いや、それはまあ、いいっちゃいいらしいんだけど、……何て言うか、声が変なんだ」
「どんな風に?」
「見た目、30近い感じの長耳なんだけどさ、……男の子みたいな声してるんだって。『王様』も扱いかねてるらしい。性格もドが付くくらい変、……と言うか、頭がおかしいらしいし」
「ひひ……、そりゃ、値は付かないだろうな」
「かもな。俺たちと同じように、『宮殿』の掃除屋になるかもな」
「そりゃいい。目の保養に……」
と、屋敷の上から怒鳴り声が降ってきた。
「てめえら! 何をゴチャゴチャしゃべっていやがる!」
怒鳴り声に続いて、レンガが降ってくる。
「ぎゃ……」「ぐふっ……」
レンガは男二人に当たり、粉々に割れる。
「また無駄口叩いたら、こんなもんじゃ済まないと思え!」
声の主はそう言って、テラスの奥へ消えていった。
「……大丈夫か?」
頭にレンガを受けた二人に、周りの男が近付く。
「……」
が、床に倒れた二人はピクリとも動かない。
「……ダメだ」
「はあ……。また仕事が増えたか」
「面倒くさい……」
残った奴隷たちは、人が死んだことよりも、自分たちの余計な仕事が増えたことに悲しみ、ため息をついた。
「……あかん」
離れてその惨状を見ていた彼は、そうつぶやいた。
(一刻も早く、ここ出なあかん。こんなところおったら、いつ死んでもおかしない)
彼――フォコは、誰にも聞かれないように、小声でぼそ、とつぶやいた。
「……こんな、人の命が金や汚れ仕事より薄っぺらいとこ、長うおったら頭がおかしなる」
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悪の巣窟。
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南海にはいくつかの、悪の巣窟がある。
海によって徒歩や馬車などの細かな交通が遮断されていることや、各国・各島に共通した倫理意識がなく、また、それに則って動く警察機構が存在しないために、これまで述べてきた「ならず者の軍事国家」レヴィア王国をはじめとして、孤立した陣地で好き放題に暴虐と悖乱(はいらん)の限りを尽くす輩が後を絶たないのだ。
ここ、南海の南にあるアリバラク王国も、そんな悪の巣窟の一つだった。
「はい44万、44万! 他にいないか!
おおっと出た、46万! さあどうだどうだ、46万! もっと出す奴は!
よっしゃ来たな、49万! おっとここで刻んできたか、49万3000! どうだ、もっと上! もっと上、いないか!?
……よーしよしよし、大台の50万! 50万出たぞ、50万だ! お、ここでも刻むかおっさん、51万3000! おっと向こうの兄ちゃんも刻み始めた、52万5000!
どうだ、もう一回値を上げる奴はいないのか! いないか!? いなきゃ決定、……よしよし、ドンと出たな兄ちゃん、57万!
さあどうだ! もっと上、いるか! いないか!? いないかっ! いないな!
はい決定、このべっぴんさんは57万ガニーで落札だ!」
威勢のいい主催者の売り声と対照的に、生気のない顔をした、首輪を付けられたエルフが、主催者に57万を支払った青年に首輪の鎖を引かれ、連れられて行った。
「はい、今日の競りは終了だ! また来週、来週! さ、帰った帰った!」
こうしてその日も、奴隷市場は盛況のまま幕を閉じた。
その賑わいを壁越しに聞きつつ、ボロボロになった布きれを着た男たちが、ぼそぼそとつぶやき合っていた。
「57万か。……やっぱり女は高く売れるんだな」
「だろうな」
彼らはのろのろと手を動かしながら、「宮殿」と名の付いたボロ屋敷の柱を磨いていた。
「……次は誰が売られるんだろうな」
「さあな」
「宮殿」の床をのろのろと拭いていた男たちも、話に加わる。
「そう言えば、つい最近……、妙な女が仕入れられたらしいぜ」
「妙? いい女なのか?」
「いや、それはまあ、いいっちゃいいらしいんだけど、……何て言うか、声が変なんだ」
「どんな風に?」
「見た目、30近い感じの長耳なんだけどさ、……男の子みたいな声してるんだって。『王様』も扱いかねてるらしい。性格もドが付くくらい変、……と言うか、頭がおかしいらしいし」
「ひひ……、そりゃ、値は付かないだろうな」
「かもな。俺たちと同じように、『宮殿』の掃除屋になるかもな」
「そりゃいい。目の保養に……」
と、屋敷の上から怒鳴り声が降ってきた。
「てめえら! 何をゴチャゴチャしゃべっていやがる!」
怒鳴り声に続いて、レンガが降ってくる。
「ぎゃ……」「ぐふっ……」
レンガは男二人に当たり、粉々に割れる。
「また無駄口叩いたら、こんなもんじゃ済まないと思え!」
声の主はそう言って、テラスの奥へ消えていった。
「……大丈夫か?」
頭にレンガを受けた二人に、周りの男が近付く。
「……」
が、床に倒れた二人はピクリとも動かない。
「……ダメだ」
「はあ……。また仕事が増えたか」
「面倒くさい……」
残った奴隷たちは、人が死んだことよりも、自分たちの余計な仕事が増えたことに悲しみ、ため息をついた。
「……あかん」
離れてその惨状を見ていた彼は、そうつぶやいた。
(一刻も早く、ここ出なあかん。こんなところおったら、いつ死んでもおかしない)
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