「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・賭人記 3
フォコの話、177話目。
地獄からの脱出。
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3.
「杖、ですか? いわゆる、魔杖ってやつですかね」
「そうそう、そーゆーヤツ。『ナインテール』って呼んでるんだけどね」
モールは床の土埃で絵を描きつつ、その魔杖について説明した。
「こんな風に、杖のてっぺんに薄紫の玉が付いてるんだけども、その中に渦が見える。それが九尾の尻尾みたいに見えるから、『ナインテール』。
見た目も綺麗だけども、力もものすごい逸品なんだよね。それこそこの世に二つとない、そう、『神器』と言っていいようなモノさ」
「何でそんなすごいもん、手放したんですか……」
呆れるフォコに、モールは拗ねてみせる。
「……うっかり賭けのレート間違えたんだよね。……二桁ほど」
「なんぼの賭けしたんですか」
「チップ一枚、10万ガニー。1000ガニーのつもりだったんだよ」
「……」
唖然とするフォコをチラチラと横目で見ながら、モールは話を続けた。
「……で、大負けして、500万近い支払いを言い渡されてさー。払えなかったんでこーして、身売りされちゃったってワケだね」
「……アホですな」
「アホって言うなって。……自分でも分かってるね」
「……で、その杖。どこにあるか、分かってるんですか?」
「ココのバカ殿さ。ま、価値にゃ気付いてないだろうけども、それでものんびりしてたら私ともども、売り飛ばされちゃう。
さっさとココから出て、そいつから杖を取り戻さなきゃならないんだよね」
「なるほど。……モールさん、あなた、賢者って言ってましたよね」
「ああ」
「僕に力、貸していただけません?」
「ほぇ?」
フォコはモールに、自分が南海戦争に深く関与していることを説明した。
「なるほど。君がいなきゃ、今起こってる騒ぎ、収められないってコトだね。……そもそも、君の手を借りなきゃ、ココから出られそうもなし。
分かった、協力してやるね。……と、名前教えてもらってもいいね?」
「あ、はい。……えー、と。とりあえず火紅で」
「火紅? ……央南人にゃ見えないけど」
「あ、名付け親が央南人だったもんで」
「ふーん。ま、そんじゃ火紅、よろしゅー」
「よろしゅうお願いします。
……と、まずはここから出る方法ですよね。……んー」
フォコはきょろきょろと辺りを見回し、また、鉄格子の向こう側で番人がまだ眠っているのを確認して、モールに指示を出す。
「モールさん、また鍵、開けてもろてええですか?」
「いいけど……?」
言われた通りに、モールは鍵を開ける。
「どうする気だね?」
「まず、あいつを動けなくしてからですね、話は」
「動けなくって……、君、あいつを倒す気?」
「腕にはちょこっと、覚えありますから」
「待てって。……私がやってやるよ」
フォコとモールは牢を抜け、椅子へ張り付くように眠り込んでいる番人のそばに寄る。
「……ぐっすり眠ってな、『オウルシング』」
「ぐー、ぐー、……すー、……すうぅ、……す、ぅぅ」
いびきをかいて眠っていた番人の寝息が深いものになり、ピクリとも動かなくなる。
「コレでよし。半日は、何が起ころうと目を覚まさないね」
「便利な術持ってはりますね」
「つっても、大勢でかかられたらどうしようもないけどね。……んで、どうするね?」
「幸いなことにここ、外の音が全然聞こえないんですよね。って言うことは、こっちの話も聞こえてこないわけで」
「ま、理屈はそうだね」
フォコは牢の中にいる奴隷たちに、声をかけた。
「皆さんお疲れのところ悪いんですけども、ちょっと起きてもろてええですか?」
「……んん……うるさいな……」
「何だよ……騒々しい……」
「寝かせろよ……明日も早いんだから……」
フォコの声に応え、何人かが目を覚ます。
「……あれ……お前?」
「え……、何でお前、外にいるんだ?」
「もう出勤時間か?」
「いえ」
フォコはカンカンと鉄格子を叩き、全員を起こす。
「見ての通りです。牢、出られますで」
「……何っ!?」
この言葉にようやく、全員が体を起こした。そして牢の外にいるフォコを見て、彼らの目が生気を帯び始める。
「出られる、……のか?」
「はい。ただ、今ここでバラバラに飛び出しても袋叩きがオチなんで、全員で僕に協力してほしいんですけども、よろしいです?」
フォコの申し出に、奴隷たちは一様にうなずく。
「まあ、出られるんなら何でもするさ」
「協力って、何すればいいんだ?」
フォコは――一瞬黙り込み、外に音が漏れていないのを確認して―――話を始めた。
「言い方はちょっと悪いかもなんですけども、皆さん、……僕のお金になってくれます?」
「は……?」
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詳しい説明は省きますが、「火紅狐」第4部での1ガニーは1.7円くらい。
モールは840万円近い負け方をしたようです。
博打はおそろしい。
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地獄からの脱出。
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「杖、ですか? いわゆる、魔杖ってやつですかね」
「そうそう、そーゆーヤツ。『ナインテール』って呼んでるんだけどね」
モールは床の土埃で絵を描きつつ、その魔杖について説明した。
「こんな風に、杖のてっぺんに薄紫の玉が付いてるんだけども、その中に渦が見える。それが九尾の尻尾みたいに見えるから、『ナインテール』。
見た目も綺麗だけども、力もものすごい逸品なんだよね。それこそこの世に二つとない、そう、『神器』と言っていいようなモノさ」
「何でそんなすごいもん、手放したんですか……」
呆れるフォコに、モールは拗ねてみせる。
「……うっかり賭けのレート間違えたんだよね。……二桁ほど」
「なんぼの賭けしたんですか」
「チップ一枚、10万ガニー。1000ガニーのつもりだったんだよ」
「……」
唖然とするフォコをチラチラと横目で見ながら、モールは話を続けた。
「……で、大負けして、500万近い支払いを言い渡されてさー。払えなかったんでこーして、身売りされちゃったってワケだね」
「……アホですな」
「アホって言うなって。……自分でも分かってるね」
「……で、その杖。どこにあるか、分かってるんですか?」
「ココのバカ殿さ。ま、価値にゃ気付いてないだろうけども、それでものんびりしてたら私ともども、売り飛ばされちゃう。
さっさとココから出て、そいつから杖を取り戻さなきゃならないんだよね」
「なるほど。……モールさん、あなた、賢者って言ってましたよね」
「ああ」
「僕に力、貸していただけません?」
「ほぇ?」
フォコはモールに、自分が南海戦争に深く関与していることを説明した。
「なるほど。君がいなきゃ、今起こってる騒ぎ、収められないってコトだね。……そもそも、君の手を借りなきゃ、ココから出られそうもなし。
分かった、協力してやるね。……と、名前教えてもらってもいいね?」
「あ、はい。……えー、と。とりあえず火紅で」
「火紅? ……央南人にゃ見えないけど」
「あ、名付け親が央南人だったもんで」
「ふーん。ま、そんじゃ火紅、よろしゅー」
「よろしゅうお願いします。
……と、まずはここから出る方法ですよね。……んー」
フォコはきょろきょろと辺りを見回し、また、鉄格子の向こう側で番人がまだ眠っているのを確認して、モールに指示を出す。
「モールさん、また鍵、開けてもろてええですか?」
「いいけど……?」
言われた通りに、モールは鍵を開ける。
「どうする気だね?」
「まず、あいつを動けなくしてからですね、話は」
「動けなくって……、君、あいつを倒す気?」
「腕にはちょこっと、覚えありますから」
「待てって。……私がやってやるよ」
フォコとモールは牢を抜け、椅子へ張り付くように眠り込んでいる番人のそばに寄る。
「……ぐっすり眠ってな、『オウルシング』」
「ぐー、ぐー、……すー、……すうぅ、……す、ぅぅ」
いびきをかいて眠っていた番人の寝息が深いものになり、ピクリとも動かなくなる。
「コレでよし。半日は、何が起ころうと目を覚まさないね」
「便利な術持ってはりますね」
「つっても、大勢でかかられたらどうしようもないけどね。……んで、どうするね?」
「幸いなことにここ、外の音が全然聞こえないんですよね。って言うことは、こっちの話も聞こえてこないわけで」
「ま、理屈はそうだね」
フォコは牢の中にいる奴隷たちに、声をかけた。
「皆さんお疲れのところ悪いんですけども、ちょっと起きてもろてええですか?」
「……んん……うるさいな……」
「何だよ……騒々しい……」
「寝かせろよ……明日も早いんだから……」
フォコの声に応え、何人かが目を覚ます。
「……あれ……お前?」
「え……、何でお前、外にいるんだ?」
「もう出勤時間か?」
「いえ」
フォコはカンカンと鉄格子を叩き、全員を起こす。
「見ての通りです。牢、出られますで」
「……何っ!?」
この言葉にようやく、全員が体を起こした。そして牢の外にいるフォコを見て、彼らの目が生気を帯び始める。
「出られる、……のか?」
「はい。ただ、今ここでバラバラに飛び出しても袋叩きがオチなんで、全員で僕に協力してほしいんですけども、よろしいです?」
フォコの申し出に、奴隷たちは一様にうなずく。
「まあ、出られるんなら何でもするさ」
「協力って、何すればいいんだ?」
フォコは――一瞬黙り込み、外に音が漏れていないのを確認して―――話を始めた。
「言い方はちょっと悪いかもなんですけども、皆さん、……僕のお金になってくれます?」
「は……?」
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モールは840万円近い負け方をしたようです。
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