「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・賭人記 4
フォコの話、178話目。
レートは点=1人。
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4.
フォコとモールが出会って、2時間後。
この国の「王様」――と言えば聞こえはいいが、実質的にはならず者たちの首領である諸悪の根源――狼獣人のイサン・アリバラクは、何かが割れる音で目を覚ました。
「うるせえぞ! 今、何時だと……」
自分の部屋を出てすぐ前にあるテラスへ駆け込み、怒鳴りかけた。しかし、その眼下に広る光景を目にし、彼は絶句する。
「……!?」
そこには自分たちの部下数名が縄で縛られ、その周囲を奴隷たちが取り囲んでいる光景が広がっていた。
と、その中の一人――フォコが、テラスで硬直するイサンに声をかける。
「アリバラク国王! 見ての通りです! たった今、我々がこの『宮殿』を占拠しました!」
「ふ、ふざけるな……ッ! まだまだ外には俺の兵士が大勢いるんだぞ! お前らなんぞ……」
と、またも怒鳴りかけたところで中断させられる。
フォコの横にいたモールが魔術の矢を、イサンのすぐそばを掠めるように放ったからだ。
「やかましい。ちょっと黙って話を聞けってね」
「て、てめえ! ただのイカレ女じゃなかったのか……!」
「陛下、話を聞いてもらっていいですやろか」
もう一度、フォコが口を開く。仕方なく、イサンは話に応じた。
「……なんだ。言ってみろ」
「確かに陛下の仰る通り、あなたが今呼びつければ、すぐに兵士がやってくるでしょう。そうなれば僕たちの命はありません。
でもしかし、兵士たちが突入した時には既に、あなたの命も無い。それはお分かりですやろな?」
「……チッ」
苦い顔をするイサンに、フォコはこんな提案をした。
「そこでですな、お互いに肉体的・生命的損害が起こらないように話を付けたいんですけども、よろしいですやろか」
「……は?」
イサンは唖然としながらも、話に応じ始めた。
「付けるってどう言うことだ? 代わりに何かくれるってのか? 金も何も持ってない、奴隷のお前がか?」
「今は金も何も持ってません。ですけども、知恵はたっぷりと」
「知恵だ? そんなもんが、何の役に立つ? 無くとも俺には金も人も、権力もある」
「それに知恵が加われば、今の百倍金持ち、人持ち、権力持ちになれますで。国王もご存じやないですか、僕のことは?」
「あ……?」
イサンは一瞬きょとんとした目を向けたが、やがて「ああ……」とうなずいた。
「あの猫将軍、確かにそんなこと言ってたな。何だっけか、ロクシルム―ベールの陰の立役者だったとか何だか、そう言ってたか」
「……ええ」
フォコはニヤリと笑い、続けてこう自分を売り込む。
「僕があなたの参謀になれば、きっと南海全域の支配もできるでしょう。今のレヴィア女王がいてはる地位に、あなたが座れるんですよ。
まあ、それが嫌や、信用でけへん、っちゅうことでしたら、さっさと兵士のみなさん、呼んだってください」
自信満々にそう言ってのけたフォコに、イサンは黙り込んだ。
「……」
イサンはしばらく、そのままフォコをにらんでいたが、再び口を開く。
「……お前の望みは?」
「ここから帰りの旅費と保障付きで全員を出してもらうこと。それから今言った『猫将軍の話』、ベール国王に言うたってほしいんですわ」
「呑めるか、そんなもん。猫将軍の件はいいとしても、お前ら奴隷は俺の飯の種だ。簡単に手放せるかよ」
「そこが論点ですな。僕が勝てば、僕の条件を。あなたが勝てば、あなたのやりたいように」
「勝てば……? お前、俺と博打でも打つつもりか?」
「その通り。この通り、チップも用意してありますで」
そう言ってフォコは、周囲に目を向けた。
「……はっ」
イサンは鼻で笑い、フォコの提案に乗った。
「いいだろう! レートは1チップ、1人だ!
お前の『持ち金』、一人残らず搾り取ってやるぞ!」
「望むところですわ。……こっちも骨一かけら残さんつもり、してますで」
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レートは点=1人。
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フォコとモールが出会って、2時間後。
この国の「王様」――と言えば聞こえはいいが、実質的にはならず者たちの首領である諸悪の根源――狼獣人のイサン・アリバラクは、何かが割れる音で目を覚ました。
「うるせえぞ! 今、何時だと……」
自分の部屋を出てすぐ前にあるテラスへ駆け込み、怒鳴りかけた。しかし、その眼下に広る光景を目にし、彼は絶句する。
「……!?」
そこには自分たちの部下数名が縄で縛られ、その周囲を奴隷たちが取り囲んでいる光景が広がっていた。
と、その中の一人――フォコが、テラスで硬直するイサンに声をかける。
「アリバラク国王! 見ての通りです! たった今、我々がこの『宮殿』を占拠しました!」
「ふ、ふざけるな……ッ! まだまだ外には俺の兵士が大勢いるんだぞ! お前らなんぞ……」
と、またも怒鳴りかけたところで中断させられる。
フォコの横にいたモールが魔術の矢を、イサンのすぐそばを掠めるように放ったからだ。
「やかましい。ちょっと黙って話を聞けってね」
「て、てめえ! ただのイカレ女じゃなかったのか……!」
「陛下、話を聞いてもらっていいですやろか」
もう一度、フォコが口を開く。仕方なく、イサンは話に応じた。
「……なんだ。言ってみろ」
「確かに陛下の仰る通り、あなたが今呼びつければ、すぐに兵士がやってくるでしょう。そうなれば僕たちの命はありません。
でもしかし、兵士たちが突入した時には既に、あなたの命も無い。それはお分かりですやろな?」
「……チッ」
苦い顔をするイサンに、フォコはこんな提案をした。
「そこでですな、お互いに肉体的・生命的損害が起こらないように話を付けたいんですけども、よろしいですやろか」
「……は?」
イサンは唖然としながらも、話に応じ始めた。
「付けるってどう言うことだ? 代わりに何かくれるってのか? 金も何も持ってない、奴隷のお前がか?」
「今は金も何も持ってません。ですけども、知恵はたっぷりと」
「知恵だ? そんなもんが、何の役に立つ? 無くとも俺には金も人も、権力もある」
「それに知恵が加われば、今の百倍金持ち、人持ち、権力持ちになれますで。国王もご存じやないですか、僕のことは?」
「あ……?」
イサンは一瞬きょとんとした目を向けたが、やがて「ああ……」とうなずいた。
「あの猫将軍、確かにそんなこと言ってたな。何だっけか、ロクシルム―ベールの陰の立役者だったとか何だか、そう言ってたか」
「……ええ」
フォコはニヤリと笑い、続けてこう自分を売り込む。
「僕があなたの参謀になれば、きっと南海全域の支配もできるでしょう。今のレヴィア女王がいてはる地位に、あなたが座れるんですよ。
まあ、それが嫌や、信用でけへん、っちゅうことでしたら、さっさと兵士のみなさん、呼んだってください」
自信満々にそう言ってのけたフォコに、イサンは黙り込んだ。
「……」
イサンはしばらく、そのままフォコをにらんでいたが、再び口を開く。
「……お前の望みは?」
「ここから帰りの旅費と保障付きで全員を出してもらうこと。それから今言った『猫将軍の話』、ベール国王に言うたってほしいんですわ」
「呑めるか、そんなもん。猫将軍の件はいいとしても、お前ら奴隷は俺の飯の種だ。簡単に手放せるかよ」
「そこが論点ですな。僕が勝てば、僕の条件を。あなたが勝てば、あなたのやりたいように」
「勝てば……? お前、俺と博打でも打つつもりか?」
「その通り。この通り、チップも用意してありますで」
そう言ってフォコは、周囲に目を向けた。
「……はっ」
イサンは鼻で笑い、フォコの提案に乗った。
「いいだろう! レートは1チップ、1人だ!
お前の『持ち金』、一人残らず搾り取ってやるぞ!」
「望むところですわ。……こっちも骨一かけら残さんつもり、してますで」
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