「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・賭人記 6
フォコの話、180話目。
焼き尽くす。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「……~っ」
まだ頭に血が上ったままのイサンは、乱暴にカードを卓へ並べる。
「さっさと切れ!」
「はいはい」
反対に、フォコはゆったりとした、もったいぶった手つきでカードを並べ、なおも挑発を重ねる。
「……」
だが、その目は――怒りで視野の狭まったイサンには分からなかったが――恐ろしく鋭い光を帯びて、卓とイサンとを見渡していた。
「……ぬ、ぐう」
7戦目は、フォコが勝った。しかも――。
「『水』『水』で、三倍付けでしたな。ほな、僕の賭け分3枚の三倍で、9枚。それとあなたの賭け分、10枚。合計で19枚、……いただきます」
そう言って、フォコはニヤリと笑って見せた。
「……ちょっとぐらい勝ったところで、いい気になるんじゃねえぞ」
イサンはギロリと、フォコをにらみ返した。
だが――これをきっかけに、イサンは負け始めた。
「はい、また二倍付け。計16枚、ですな」
「一々うるせえな……! 枚数数えてんじゃねえ!」
フォコの挑発に完全に乗せられ、イサンは顔を真っ赤にして怒り狂う。
(……人間、感情を露わにすると、丸裸になるもんなんや)
しかしその勢いとは裏腹に、イサンはことごとく負けを重ねていく。
(最初は6連勝で大喜びさせて、あんたの手をじっくり見せてもろた。あんた、1とか9とか、数が極端にでかいか小さいかのとこにしか張らへんっちゅうことが、よー分かった。
ほんで怒らせたら、特に『0』に賭ける時が、一番大仰になってきた。卓にめり込むんちゃうかと思うくらい、ガツンと音立ててカードを置いとるし。
そんなもん、……もう博打が打てる頭やあらへんで)
怒りで冷静さを失ったイサンは最早、フォコの餌食だった。
「どうだあッ! ……がーッ!?」
「『冥』と『1』、ですか。残念でしたな」
全20戦余りを経て、フォコはイサンのチップ189枚を、すべて手中に収めた。
この日を以って、アリバラク王国は崩壊した。
「さーて」
フォコはイサンから奪った王冠――とは名ばかりの、汚い軍帽――を頭に載せ、目の前に立つイサンに命じた。
「ほな、ま。この国のクズみたいな商業モデルを造り直すんは、後回しとして。
まずは、ロクシルム―ベールに戻らなあきませんからな。証人として一緒に来てもらおか、イサン」
「……ちくしょう……」
首輪と手枷・足枷を付けられたイサンは、子犬のように震えている。
「返事」
「……仰るままに」
「返事」
「……殿の、仰せのままに」
「返事。『はい』くらい言えへんのか」
「……はい」
と、フォコの横でやり取りを見ていたモールが、ぼそ、とつぶやいた。
「……ドン引きするね。君も大概、外道っ気があるね」
「これは今まで、こいつがやってきたことですで。人間を人間として扱わへん奴なんぞ、こんくらい痛い目見いひんと、骨身に染みるほどの理解なんかでけませんわ」
「……それも一理あるっちゃあるけどさ、……まあ、いいか。杖も戻って来たしね。
とりあえず、南海の事情について情報収集してきた。大変なコトになってるね。君の懸念してた通り、ロクシルム側のシルム代表が離反した上に、ベール側でも親メフル派と反メフル派に分かれて対立。
そして最悪なコトに半月前、ベール島において武力衝突、つまり内戦が勃発した」
「……アホなことを!」
フォコは顔を覆い、大声で嘆いた。
「何でやねん……! 何でみんな、争おうとする!? 力を合わせて南海の平和を、と誓ったやないか……!
それを、僕がいなくなった途端にバラバラになっていがみ合うとか、……アホや! アホの極みやないか! そんなに皆の幸せより、自分の欲が大事か!」
「人間、そんなもんだね。他人の痛みなんて、分からないもの。この『お犬様』と一緒さ」
モールは寂しげな顔で、イサンを杖で指す。だがそう諭されても、フォコは納得しない。
「……どう突き詰めても、そら、分からへんでしょう。
他人は結局他人ですし、自分が取って代わることなんか、絶対にでけへんもんですからな。分からへんのは、確かに仕方ないことでしょう。
……でも、分からへんとしても。隣におる人が痛そうにしとったら、何とかしたらなと思うでしょう、人間やったら……!」
「みんな、君みたいな立派な考えを持った人間じゃないもの。高すぎる理想は、凡人にとっちゃ絵空事、霞か幻みたいなもんだね。自分の、目先の欲の方が、よっぽど現実だ」
「……僕かて、凡人ですよ。3年無意味に放浪するくらいの、うっかり囚われの身になるくらいの、……しがない狐獣人ですよ」
「でもその状況から、いくらでも脱出できる才覚の持ち主でもある。凡人ってことはない」
「……もうええです」
フォコは議論をやめ、屋敷の外へと歩き出した。
「これ以上、口で何言うても始まりません。
……行きましょう。今度こそ、南海に平和を」
火紅狐・賭人記 終
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焼き尽くす。
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6.
「……~っ」
まだ頭に血が上ったままのイサンは、乱暴にカードを卓へ並べる。
「さっさと切れ!」
「はいはい」
反対に、フォコはゆったりとした、もったいぶった手つきでカードを並べ、なおも挑発を重ねる。
「……」
だが、その目は――怒りで視野の狭まったイサンには分からなかったが――恐ろしく鋭い光を帯びて、卓とイサンとを見渡していた。
「……ぬ、ぐう」
7戦目は、フォコが勝った。しかも――。
「『水』『水』で、三倍付けでしたな。ほな、僕の賭け分3枚の三倍で、9枚。それとあなたの賭け分、10枚。合計で19枚、……いただきます」
そう言って、フォコはニヤリと笑って見せた。
「……ちょっとぐらい勝ったところで、いい気になるんじゃねえぞ」
イサンはギロリと、フォコをにらみ返した。
だが――これをきっかけに、イサンは負け始めた。
「はい、また二倍付け。計16枚、ですな」
「一々うるせえな……! 枚数数えてんじゃねえ!」
フォコの挑発に完全に乗せられ、イサンは顔を真っ赤にして怒り狂う。
(……人間、感情を露わにすると、丸裸になるもんなんや)
しかしその勢いとは裏腹に、イサンはことごとく負けを重ねていく。
(最初は6連勝で大喜びさせて、あんたの手をじっくり見せてもろた。あんた、1とか9とか、数が極端にでかいか小さいかのとこにしか張らへんっちゅうことが、よー分かった。
ほんで怒らせたら、特に『0』に賭ける時が、一番大仰になってきた。卓にめり込むんちゃうかと思うくらい、ガツンと音立ててカードを置いとるし。
そんなもん、……もう博打が打てる頭やあらへんで)
怒りで冷静さを失ったイサンは最早、フォコの餌食だった。
「どうだあッ! ……がーッ!?」
「『冥』と『1』、ですか。残念でしたな」
全20戦余りを経て、フォコはイサンのチップ189枚を、すべて手中に収めた。
この日を以って、アリバラク王国は崩壊した。
「さーて」
フォコはイサンから奪った王冠――とは名ばかりの、汚い軍帽――を頭に載せ、目の前に立つイサンに命じた。
「ほな、ま。この国のクズみたいな商業モデルを造り直すんは、後回しとして。
まずは、ロクシルム―ベールに戻らなあきませんからな。証人として一緒に来てもらおか、イサン」
「……ちくしょう……」
首輪と手枷・足枷を付けられたイサンは、子犬のように震えている。
「返事」
「……仰るままに」
「返事」
「……殿の、仰せのままに」
「返事。『はい』くらい言えへんのか」
「……はい」
と、フォコの横でやり取りを見ていたモールが、ぼそ、とつぶやいた。
「……ドン引きするね。君も大概、外道っ気があるね」
「これは今まで、こいつがやってきたことですで。人間を人間として扱わへん奴なんぞ、こんくらい痛い目見いひんと、骨身に染みるほどの理解なんかでけませんわ」
「……それも一理あるっちゃあるけどさ、……まあ、いいか。杖も戻って来たしね。
とりあえず、南海の事情について情報収集してきた。大変なコトになってるね。君の懸念してた通り、ロクシルム側のシルム代表が離反した上に、ベール側でも親メフル派と反メフル派に分かれて対立。
そして最悪なコトに半月前、ベール島において武力衝突、つまり内戦が勃発した」
「……アホなことを!」
フォコは顔を覆い、大声で嘆いた。
「何でやねん……! 何でみんな、争おうとする!? 力を合わせて南海の平和を、と誓ったやないか……!
それを、僕がいなくなった途端にバラバラになっていがみ合うとか、……アホや! アホの極みやないか! そんなに皆の幸せより、自分の欲が大事か!」
「人間、そんなもんだね。他人の痛みなんて、分からないもの。この『お犬様』と一緒さ」
モールは寂しげな顔で、イサンを杖で指す。だがそう諭されても、フォコは納得しない。
「……どう突き詰めても、そら、分からへんでしょう。
他人は結局他人ですし、自分が取って代わることなんか、絶対にでけへんもんですからな。分からへんのは、確かに仕方ないことでしょう。
……でも、分からへんとしても。隣におる人が痛そうにしとったら、何とかしたらなと思うでしょう、人間やったら……!」
「みんな、君みたいな立派な考えを持った人間じゃないもの。高すぎる理想は、凡人にとっちゃ絵空事、霞か幻みたいなもんだね。自分の、目先の欲の方が、よっぽど現実だ」
「……僕かて、凡人ですよ。3年無意味に放浪するくらいの、うっかり囚われの身になるくらいの、……しがない狐獣人ですよ」
「でもその状況から、いくらでも脱出できる才覚の持ち主でもある。凡人ってことはない」
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オイチョカブとは恐ろしいバクチですな……。
ところでリレー小説、「3」と「4」はできたので、「5」の黄輪さんの番ですよ~♪
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リレー小説、「5」できました。
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