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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・魔剣録 1

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    晴奈の話、第94話。
    幸せ一杯なご夫婦。

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    1.
     新たに現れた謎の敵、「新生」焔流剣士の篠原の素性を探るため、晴奈は焔流の総本山、紅蓮塞へと戻って来ていた。
    「へぇー、ここが紅蓮塞かぁ。厳格な場所だって聞いてたけど、意外にのどかな街なんだね」
     市街地を見回すエルスに、晴奈はぱたぱたと手を振る。
    「いや、ここはまだ市街だ。修行場はあっちにある」
     晴奈の示す方を見て、エルスと明奈は同時に声を上げた。
    「……へぇ」「何だか、物々しいですね」
    「霊場だからな。それに、敵に攻め込まれることを想定し、迷路のような造りになっている。私から離れると、迷い込んでしまうぞ」
    「はは、それは気を付けないとね」
     ちなみに晴奈が紅蓮塞へ戻るにあたって、エルスと明奈が同行していた。
     情報収集と分析、そしてその応用・活用にかけては、エルスの右に出る者はいない。エルス自身も「一度行ってみたい」と申し出ていたため、こうして随行したのである。
     また、明奈も同じように願い出ていたことと、晴奈の師匠である雪乃からも、かねてから「会ってみたい」と言っていたこともあり、エルス同様に付いてきていた。



    「まあ、本当に……」
     雪乃は明奈を見るなり、興味深そうな声を上げた。
    「似てるわね、あなたに。一回りちっちゃい晴奈、って感じ。後ろで髪をまとめたら、本当にそっくりかも」
    「はは……、明奈が戻ってきてからずっと、そう言われております。子供の時分はあまり、そう評されることは無かったのですが」
     晴奈は照れ臭くなり、しきりに猫耳をしごいている。一方、エルスも興味深そうに雪乃を眺めていた。
    「それで、こちらの外人さんは?」
    「あ、申し遅れました」
     エルスはぺこ、と頭を下げて自己紹介をする。
    「僕はセイナの友人で、エルス・グラッドと申します。お会いできて光栄です、ユキノさん」
     つられて雪乃も会釈する。
    「あ、はい。焔雪乃と申します。晴奈の師匠で、この紅蓮塞で師範を勤めております」
    「いやぁ、セイナの師匠と聞いて、美しい人を想像していましたが、それ以上ですね。非常にお優しい印象を受けます。とても柔らかな美しさが出ていますね」
     エルスの口が妙に回り出したことに気付き、晴奈が後ろから小突く。
    「おい、エルス。言っておくが……」
    「ああ、分かってる分かってる。僕は人妻を口説いても、小さい子のいるお母さんは口説かないよ」
    「あら……?」
     エルスの言葉に、雪乃は戸惑った様子を見せた。
    「なぜわたしに、子供がいると? まだ晴奈にも言ってなかったのに」
    「え? 師匠、お子さんが? い、いつ?」
     今度は晴奈が目を丸くする。
     雪乃は顔を赤らめ、嬉しそうに、しかしまだ疑問の残った顔でうなずいた。
    「ええ、1ヶ月前に産まれたの。あなたが塞を離れた頃には、まだわたしたちもできたことに気付いてなかったんだけどね。
     あーあ、驚かせようと思ったのに。どうして分かっちゃったのかしら」
     エルスが苦笑しつつ、種明かしをする。
    「はは、折角の吉報に水を差してしまいまして、申し訳ありません。
     まず、夫さんがいると言うことは、その指輪で分かりました。そしてお子さんがいらっしゃると言うことは……」
     エルスは自分の服をトントンと叩く。
    「その着物、胸周りや帯の位置がこれまで着ていたであろう位置と若干、合っていらっしゃいませんね。となると、この数ヶ月で何か、大きく体型が変わるようなことがあったと言うことです。
     その点とご結婚されていると言うことと合わせて、そう予想しました」
    「まあ……」
     雪乃は口に手を当て、驚いた様子を見せた。
    「随分、名探偵でいらっしゃるのね。……でも」
     雪乃はエルスに笑いかけ、たしなめた。
    「人妻も、口説いちゃダメよ」
    「はは、失礼しました」
     これもエルスの人心掌握術なのか、それとも雪乃が特別人懐っこいのか――二人は会って数分もしないうちに、すっかり打ち解けていた。

     続いて晴奈たちは雪乃に連れられ、良太と、雪乃たちの子供のいるところに向かった。
    「良太は今、書庫に?」
    「ううん、家元のところにいるわ」
    「ふむ、家元にも用事があったところです。丁度良かった」
     晴奈たちは焔流家元、重蔵の部屋の前に立ち、戸を叩いた。
    「失礼します、家元」
    「お、その声は晴さんじゃな。久方ぶりじゃの、入りなさい」
    「はい」
     戸を開けると、重蔵が耳の長い赤ん坊を抱いて座っていた。横には良太もいる。
    「姉さん。お久しぶりです」
    「久しぶりだな、良太。……家元、長らく留守にいたしまして」
    「おうおう、構わん構わん。……して、後ろのお二人は?」
     晴奈の後ろにいたエルスと明奈が前に出て、揃って挨拶する。
    「お初にお目にかかります。エルス・グラッドと申します。諸事情あって、北方からこちらに移住しました。現在、対黒炎教団隊の総司令を務めております」
    「初めまして、焔先生。黄晴奈の妹の、明奈と申します」
    「ほうほう、大将さんに晴さんの妹さんとな? これはまた、興味深い面々が参られましたな」
     重蔵は子供を良太に渡し、立ち上がって一礼した。
    「拙者、焔流家元、焔重蔵と申します。
     して、晴さん。ここに戻ってきたのは単に、良太たちの娘を見に来ただけではあるまい? 顔にそう書いてあるぞ」
    「はい、その通りです」
     晴奈は表情を改め、重蔵にゆっくりと尋ねた。
    「家元、篠原龍明と言う剣士について、何かご存知ではありませんか?」
    「……篠原じゃと?」
     その名前を聞いた途端、重蔵の目が険しく光る。
    「ご存知でいらっしゃいましたか」
    「存じている、どころか……」
     重蔵は吐き捨てるように答えた。
    「あやつはこの紅蓮塞を潰そうとしたのじゃ。忘れるわけがなかろう!」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.10 転載
    2016.03.13 修正
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