「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・壊忠記 1
フォコの話、181話目。
仲間同士の戦争。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
フォコがアリバラク王国を掌握する、3週間前。
「では総裁殿。武器・弾薬供給の件、よろしく頼んだぞ」
「ああ」
ベール王国首都、ビブロンにて、ロクシルムから脱退し独自に兵を挙げたアミルが、反メフル派の急先鋒、セノク卿と会談していた。
これは無論、今やアミルとセノクの、共通の敵となった、メフルを倒すためである。
「攻撃の手筈はもう……?」
問いかけたアミルに、セノクは深くうなずく。
「整えている。君からの第一弾供給が済み次第、陸路から2大隊、海路からは4隻の戦艦を差し向けて包囲しつつ、攻撃を行う予定だ」
「なるほど。……それでセノク卿、敵の頭に関してはどうするおつもりで?」
そう尋ねたアミルだったが、セノクはその内心を見抜いたらしい。
「ははは……」
「な、何です?」
「討ち取りたい、君はそう考えているのではないのか?」
「……お見通しでしたか」
「これでも長年、ベール王族の渉外役を引き受けてきた身だ。取引相手の思うことなど、それなりに分かるさ。
いいだろう、私が話を通しておく。陸路からの本隊に、将として参加したまえ。その代わり……」
セノクは貫禄のある笑みを、アミルへ向けた。
「あの小うるさい小僧の首を、きっちり取ってくるようにな」
「……ええ、勿論です」
セノクから直々に討伐の命を受けたアミルは、ますます増長していった。
「いいか! 今回の取引には俺たちシルム武装商会の、最初の大口顧客が獲得できるかがかかってる!
これを成功させ、ベール王国との関係を確固たるものにすれば、俺たちの商業基盤は向こう10年は揺るがないはずだ!
それを足掛かりに、俺たちは南海経済の支配者になるんだ!」
とんでもないことを言ってのけたアミルに、ロクシルムから離反した丁稚と海賊時代の手下たちは唖然とする。
「そ、総裁? 本気ですか?」
「ホコウさんの言ってた話と全然……」
火紅、と耳にし、アミルは苛立った顔を向ける。
「あ? ホコウだと? 知ったことか」
「えっ……」
「こうして俺たちが南海のあっちこっちでバタバタしてたってのに、一向に姿も見せねーし、助言も出してこねー。だったらもう、俺たちに何の関与もしないし、できないってことだ。
そんなもん、死んだも同然だ。いいや、死んだんだ、ホコウは!」
「……っ」
滅茶苦茶な話を展開させるアミルに、部下たちは彼の下を離れようか思案する。それを察し、アミルはこう言ってつなぎとめた。
「おいおい、まさか逃げようってんじゃないだろうな?」
「い、いえ」
「お前らも商人になるってんなら、こんな美味しい話を逃す手なんてないぜ?
あのいけ好かないメフルの野郎をブッ殺すだけで、俺たちには巨万の富と利権がなだれ込むんだ。嫌な奴を堂々と始末できる上に、金も入る。逃げてどうするんだよ?
それにだ、これが成功して商会に金が入り、コネが築ければ、商会は確実に拡大する。3年後、5年後には独立して、ここにいる全員が、それぞれ自分の店も持てるかも知れないんだぜ」
「う……」
アミルの物騒な話に臆する者もいたが、確かにベール王国での地盤固めができれば、アミルの展望が現実化する可能性は高い。
結局、アミル率いるシルム武装商会は、全員体制でメフル討伐に向かうこととなった。
一方、親メフル派の本拠地となっているトリペでも、迎撃の用意が進められていた。
しかし、ベール王族から勘当処分を受け、さらにベール島の西側には、大きな港や集積地が無い。大義・兵站面で非常に不利であり、戦う前からメフルの敗色は濃厚だった。
「確かに我々の置かれる状況は良いとは言えない。後ろ盾を失い、補給も細り、さらには参謀役もいない。
これで勝てるとすれば、我々はよほど神に愛されていると言うことになるな」
「……」
皆を奮い立たせるはずの扇動演説でさえ、精彩を欠いている。メフルのこぼした通り、よほどの奇跡でも起きない限り、彼らが勝利する可能性は非常に低かった。
だが、それでもメフルは諦めた様子はない。
「だが、もしも、ここで勝つことができれば。
今度こそ、我々は民からの確固たる信用、信頼を得られよう。ホコウ氏も言っていたことだが、民を率いる者にとって、彼らからの支持は何よりの武器、何よりの力となる。
非常に厳しい局面ではある。だが、この苦境を脱することができれば、最早我々に敵などいはしない。
これは試練だ――我々は今、神に試されているのだ」
目を真っ赤にしてそう唱えるメフルを、柱の陰から隠れて見ていたマフスは、思わず顔を覆った。
「もし……本当に……神がわたしたちを愛していると言うなら……」
マフスはボタボタと涙を流し、彼の名を呼んだ。
「ホコウさんをここに……、ベール島へ戻して……! このままではわたくしたちは、皆殺しにされてしまう……!」
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仲間同士の戦争。
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フォコがアリバラク王国を掌握する、3週間前。
「では総裁殿。武器・弾薬供給の件、よろしく頼んだぞ」
「ああ」
ベール王国首都、ビブロンにて、ロクシルムから脱退し独自に兵を挙げたアミルが、反メフル派の急先鋒、セノク卿と会談していた。
これは無論、今やアミルとセノクの、共通の敵となった、メフルを倒すためである。
「攻撃の手筈はもう……?」
問いかけたアミルに、セノクは深くうなずく。
「整えている。君からの第一弾供給が済み次第、陸路から2大隊、海路からは4隻の戦艦を差し向けて包囲しつつ、攻撃を行う予定だ」
「なるほど。……それでセノク卿、敵の頭に関してはどうするおつもりで?」
そう尋ねたアミルだったが、セノクはその内心を見抜いたらしい。
「ははは……」
「な、何です?」
「討ち取りたい、君はそう考えているのではないのか?」
「……お見通しでしたか」
「これでも長年、ベール王族の渉外役を引き受けてきた身だ。取引相手の思うことなど、それなりに分かるさ。
いいだろう、私が話を通しておく。陸路からの本隊に、将として参加したまえ。その代わり……」
セノクは貫禄のある笑みを、アミルへ向けた。
「あの小うるさい小僧の首を、きっちり取ってくるようにな」
「……ええ、勿論です」
セノクから直々に討伐の命を受けたアミルは、ますます増長していった。
「いいか! 今回の取引には俺たちシルム武装商会の、最初の大口顧客が獲得できるかがかかってる!
これを成功させ、ベール王国との関係を確固たるものにすれば、俺たちの商業基盤は向こう10年は揺るがないはずだ!
それを足掛かりに、俺たちは南海経済の支配者になるんだ!」
とんでもないことを言ってのけたアミルに、ロクシルムから離反した丁稚と海賊時代の手下たちは唖然とする。
「そ、総裁? 本気ですか?」
「ホコウさんの言ってた話と全然……」
火紅、と耳にし、アミルは苛立った顔を向ける。
「あ? ホコウだと? 知ったことか」
「えっ……」
「こうして俺たちが南海のあっちこっちでバタバタしてたってのに、一向に姿も見せねーし、助言も出してこねー。だったらもう、俺たちに何の関与もしないし、できないってことだ。
そんなもん、死んだも同然だ。いいや、死んだんだ、ホコウは!」
「……っ」
滅茶苦茶な話を展開させるアミルに、部下たちは彼の下を離れようか思案する。それを察し、アミルはこう言ってつなぎとめた。
「おいおい、まさか逃げようってんじゃないだろうな?」
「い、いえ」
「お前らも商人になるってんなら、こんな美味しい話を逃す手なんてないぜ?
あのいけ好かないメフルの野郎をブッ殺すだけで、俺たちには巨万の富と利権がなだれ込むんだ。嫌な奴を堂々と始末できる上に、金も入る。逃げてどうするんだよ?
それにだ、これが成功して商会に金が入り、コネが築ければ、商会は確実に拡大する。3年後、5年後には独立して、ここにいる全員が、それぞれ自分の店も持てるかも知れないんだぜ」
「う……」
アミルの物騒な話に臆する者もいたが、確かにベール王国での地盤固めができれば、アミルの展望が現実化する可能性は高い。
結局、アミル率いるシルム武装商会は、全員体制でメフル討伐に向かうこととなった。
一方、親メフル派の本拠地となっているトリペでも、迎撃の用意が進められていた。
しかし、ベール王族から勘当処分を受け、さらにベール島の西側には、大きな港や集積地が無い。大義・兵站面で非常に不利であり、戦う前からメフルの敗色は濃厚だった。
「確かに我々の置かれる状況は良いとは言えない。後ろ盾を失い、補給も細り、さらには参謀役もいない。
これで勝てるとすれば、我々はよほど神に愛されていると言うことになるな」
「……」
皆を奮い立たせるはずの扇動演説でさえ、精彩を欠いている。メフルのこぼした通り、よほどの奇跡でも起きない限り、彼らが勝利する可能性は非常に低かった。
だが、それでもメフルは諦めた様子はない。
「だが、もしも、ここで勝つことができれば。
今度こそ、我々は民からの確固たる信用、信頼を得られよう。ホコウ氏も言っていたことだが、民を率いる者にとって、彼らからの支持は何よりの武器、何よりの力となる。
非常に厳しい局面ではある。だが、この苦境を脱することができれば、最早我々に敵などいはしない。
これは試練だ――我々は今、神に試されているのだ」
目を真っ赤にしてそう唱えるメフルを、柱の陰から隠れて見ていたマフスは、思わず顔を覆った。
「もし……本当に……神がわたしたちを愛していると言うなら……」
マフスはボタボタと涙を流し、彼の名を呼んだ。
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