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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・壊忠記 2

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    フォコの話、182話目。
    最低の茶番。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     マフスの願いも空しく、ベール王家を二分して勃発したこの戦いは、ベール島中央から少し西に寄った丘陵地帯、アルズン平野において最大の衝突を迎えた。
    「メフル派の軍だ! 向かってくるぞ……!」
     進軍していたセノクの大隊が、敵陣の影を確認する。相手も気付いたらしく、途中で動きを止めた。
    「止まった……?」
    「大砲を構え、掃射してくるつもりだ!」
    「させるかーッ!」
     止まったメフル側に対し、セノク側はドッと兵士をなだれ込ませる。
     その動きに狼狽し、大砲の発射準備を整えていたメフル側が、慌てて大砲を向けようとする。
    「ま、待て! まだ撃つな……」
     メフルが制止しようとするが、その声は火薬の炸裂音でかき消された。
    「……ッ! ば、バカ者!」
     嘆くメフルの目に、敵陣から完全に外れ、何もない地面にどすどすと弾が着弾する様子が映った。
    「す、すみませ……、っ」
     謝ろうとする兵士の声が、途中で止まる。
     倒れ込むその兵士の背には、矢が何本も突き刺さっていた。
    「……ぐ、ぬぬ」
     大砲の狙いを定め直す間もなく、敵は弓矢や魔杖を手に迫ってくる。
    「退け、退けえッ! 砲台は捨て置け! 追ってくる奴のみ叩くのだ!」
     メフルは崩れかけた自陣を立て直そうと、必死に叫び倒す。
     と、そこへ荒々しく、殺意に満ちた声が投げかけられた。
    「メフラード! メフラード・ベール! そこを動くんじゃねえッ!」
    「……シルム」
     メフルが敵陣へ振り返ると、そこには多数の兵を背にした馬上に、アミルが立っているのが見えた。

     メフルは自軍の兵を逃がしつつ、アミルの様子を伺う。
    「……」
     なおもアミルは何かを叫んでいるが、メフルの耳にはぼんやりとしか聞こえてこない。
    (……何故だ)
     自陣全体が後退するのを確認し、メフルもその場から離れる。
    (何故あいつが、敵陣の先頭に立っている? 何故あいつは、私を狙っている?
     ……すべては奴の利益のためか。恐らくは父上やセノク叔父と結託し、新たな商業コネクションを得ようと言うつもりだろうな)
     アミルが兵と共に追いかけてくるが、メフルは素早く馬に乗り、その場から立ち去ろうと試みた。
    (我々は一体、何をしている?
     我々は、南海全域の平和のために戦ってきたのではなかったのか? 我々の敵は、南海支配を企むレヴィア王国ではなかったのか?
     それが何故、こうして元々味方だった者同士が争っている? 何故このように、つい数ヶ月前まで共に食卓を囲み、共に遊戯に興じ、共に、……共に、崇高な理念を追いかけていた私たちが、争わねばならぬのだ?
     一体、……一体、ホコウの唱えた、南海の、南海全域の平和と言う崇高な、素晴らしき理念は、どこへ行ってしまったのか……!)
     逃げ去る途中で、メフルの中でずっと抱えられていたわだかまりが噴き上がる。
    「……シルム! アミル・シルム!」
    「気安く呼ぶんじゃねえッ!」
    「どうか聞いてくれ、アミル! 何故なんだ!? 何故、我々は争っているのだ!?」
    「気でも狂ってんのか!? こうなって当然だろうがよ!」
    「当然だと!? そんな言葉で締めくくっていいことか!? 我々は共に戦ってきただろう!? それが何故、こうして仲違いを……」「うるっせえええええッ!」
     メフルの問いかけに、アミルは怒声を以って答えた。
    「お前が死ねば俺の利益になるんだ! だから死ね、クソ猫ッ!」
    「……!?」
     その形相を肩越しに見たメフルは、愕然とした。
    「……そんなことを、言うのか……」
     メフルの心中に、ひどく冷たいものが流れ込む。
    「……あいつを……あいつと手を組んだのは……」
     そして同時に、憤りを感じる。
    「まったく……誤りであったか……ッ」
     メフルはギリギリと歯噛みし、馬に鞭を入れ、その場から走り去った。

    「……っと、逃がすかよッ!
     お前ら、一斉攻撃だ! ありったけ撃ち込んでやれッ!」
     アミルの命令に従い、彼の背後で構えていた兵士たちが弓を引き、砲台に弾を込める。
    「……撃てッ!」
     号令と共に、空が一瞬暗くなるほどの量の矢と砲弾が、メフル目がけて飛んで行く。
    「く……ッ」
     メフルは歯を食いしばりながら、魔術で壁を作って防ごうとした。
    「『フレイムシールド』、私に加護を!」
     メフルと馬を包み込むように、炎の膜が広がっていく。
     矢も砲弾もその膜に遮られ、そのほとんどは焼失した。

     そのほとんどは。



     1時間後、トリペ。
    「お兄様!」
     兵の半分ほどが戻っても、まだ帰ってこなかった兄を心配したマフスが屋敷の外に出たところで、ようやくメフルも到着した。
     しかし、馬の背に倒れ込む兄の姿に、マフスは蒼ざめた。
    「……誰か! 誰か兄を馬から降ろして! 手当てしなければ!」
     と、狼狽する妹に向けて、メフルはよろよろと、矢の刺さった右手を挙げた。
    「……マフシード……我が妹よ……」
    「お兄様……」
    「……すまない……こんな茶番に……付き合わ……せ……」
     どさ、と音を立て、メフルは地面に落ちた。
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