「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・壊忠記 3
フォコの話、183話目。
借刀殺人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「敵将」メフルが討たれたと言う報告を受け、セノクは大喜びした。
「ふははは……、そうか! 討ってくれたか!」
「ええ、抜かりなく。1週間もすれば、妹のマフシードもいずれ、後を追うでしょう。
もしそうしなければ、実力行使で後を追わせて差し上げます」
悪辣な笑みを浮かべるアミルに、セノクは深々とうなずいてみせる。
「うむ、うむ。頼もしいことだ。流石に『武装』商会と名乗るだけのことはある。
どうかな、シルム総裁。今後も我々のために、力を貸してくれるかね」
「勿論でございます、閣下」
従順な受け答えに、セノクはますます顔をほころばせた。
「よしよし、それでは今後の……」「やめんかーッ!」
と、横で話を聞いていた国王シャフルが、突然二人を怒鳴りつけた。
「いい加減にせんか! わしの、わしの息子が死んだのだぞ! それを嬉々として『敵を討った』『マフスも後を追うだろう』だと!?
気でも違っておるのか、そなたらは! 人を無下、無残に殺しておいて、よくもそんな軽口を叩いていられるな……!」
「……これは失敬。そうでしたな、勘当したとはいえ、彼ら二人は兄上、あなたの子供たち。……此度の戦いが終わったら、丁寧に弔ってやらねば。勘当も、解くべきでしょうな」
「今からでもよい。一人残ったマフスを戻してやらねば。もう身内での戦いなぞ、したくない」
確かに反メフル派のトップが死んだ今、マフスを遠ざける意味はない。
ところが――セノクは何故か、それをよしとしない。
「いいえ、兄上。生きているうちは、決して許してはなりませぬ」
「……なんだと?」
「これは見せしめでもあるのですよ。今後、みだりに王位を狙う者が現れ、和を乱すことが無いようにと、十分に配慮せねばなりません。
だからしてメフラードを討ったのであり、同じ理由から、マフシードも決して、生かしてはおけぬのです」
「何を言うか……! これ以上、無駄な血を流せと言うのか!?」
「無駄ではありません。我らベール王族の地位を、揺らがせぬためです」
セノクの言葉に、シャフルの顔が真っ赤になる。
「……セノク、貴様ぁ」
と、シャフルは立ち上がり、ゆらゆらとセノクへ近付き――。
「そんなに同族の血を見たいのかッ!」
「ぐっ!?」
手にしていた杖で、セノクの頭を引っぱたいた。
「な、何をっ」
「血が見たいのなら、己の血を存分に見れば良かろう!
何が王族の地位を、だ! 元々零落した我々の地位を引き上げたのは、他ならぬメフルとマフスの尽力あってこそではないか!
その恩を忘れ、国賊に仕立て上げただけでは収まらず、なおも命を付け狙うのか! この恥知らずめッ!」
散々杖で打ち据えられ、武人であるセノクも流石に顔を歪ませる。
「……分かりました、分かりましたから、兄上。確かに少し、極端な物言いをしてしまいました」
「ゼェ、ゼェ……」
シャフルも激しい運動と怒りのためか、肩で荒く息をしている。
「……とにかく! 最早マフスに罪は無い! 明日にでも書状を送り、復縁を申し渡した上で、投降してもらう。
親しかった兄を失い絶望している我が娘に、これ以上苦痛を与えてなるものか」
シャフルは額の汗をぬぐい、尻尾を怒らせたまま、その場を離れていった。
「……いたた、たた」
シャフルがいなくなったのを見て、床に伏していたセノクがフラフラと立ち上がる。
「耄碌(もうろく)したな、兄上も」
「……」
シャフルの見せた剣幕に、アミルは呆然としていた。
「あ、あの」
「何かな?」
「……俺も、その」
「兄上の言うことがもっともらしく聞こえたのか? だとすれば、君はとんだへっぽこ商人だな」
「えっ?」
「いいか、……確かに、最早マフシードには抵抗の余地も、意思もないだろう。……今はな」
「今は?」
セノクは椅子に着き、頭から垂れてきた血を拭いながら、こんな屁理屈をこねてみせた。
「考えてみなさい。すぐ上の、とても親しかった兄を討たれたのだ。当然、怒りを覚えているだろう。
そこで我々が救いの手を差し伸べれば、一体どうなる? 感謝するか? いいや、するまい。その差し伸べた手に噛みついてくるのは、目に見えている。
下手に情けをかければ、大怪我を負うだけでは済まないぞ。……徹底的に、芽は摘まねばならんのだ」
「……」
納得の行かなそうな顔をするアミルを見て、セノクはふーっ、とため息をつく。
「やれやれ……、やりたくない、これ以上血は見たくない、と? ……もしそう思っているなら」
セノクは両手をテーブルの上に組み、隻眼でギロリとにらみつけた。
「今すぐ、『武装』商会などと名乗るのはやめにした方がいい。看板に負けている。嘘をつく商人など、誰が相手にするものか」
「う……」
「それにだ。君がメフルを殺したのだろう? 真っ先に狙われるのは、君だ。殺したくないなどと、悠長に構えている場合ではない。
殺るか殺られるか、だよ」
そう言って、セノクは席を立とうとする。
「ま、待ってください!」
それを制止し、アミルはこう宣言してしまった。
「分かりました。……国王陛下からの書状が、トリペへ届く前に。
俺が、マフシードを殺してきます」
@au_ringさんをフォロー
借刀殺人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「敵将」メフルが討たれたと言う報告を受け、セノクは大喜びした。
「ふははは……、そうか! 討ってくれたか!」
「ええ、抜かりなく。1週間もすれば、妹のマフシードもいずれ、後を追うでしょう。
もしそうしなければ、実力行使で後を追わせて差し上げます」
悪辣な笑みを浮かべるアミルに、セノクは深々とうなずいてみせる。
「うむ、うむ。頼もしいことだ。流石に『武装』商会と名乗るだけのことはある。
どうかな、シルム総裁。今後も我々のために、力を貸してくれるかね」
「勿論でございます、閣下」
従順な受け答えに、セノクはますます顔をほころばせた。
「よしよし、それでは今後の……」「やめんかーッ!」
と、横で話を聞いていた国王シャフルが、突然二人を怒鳴りつけた。
「いい加減にせんか! わしの、わしの息子が死んだのだぞ! それを嬉々として『敵を討った』『マフスも後を追うだろう』だと!?
気でも違っておるのか、そなたらは! 人を無下、無残に殺しておいて、よくもそんな軽口を叩いていられるな……!」
「……これは失敬。そうでしたな、勘当したとはいえ、彼ら二人は兄上、あなたの子供たち。……此度の戦いが終わったら、丁寧に弔ってやらねば。勘当も、解くべきでしょうな」
「今からでもよい。一人残ったマフスを戻してやらねば。もう身内での戦いなぞ、したくない」
確かに反メフル派のトップが死んだ今、マフスを遠ざける意味はない。
ところが――セノクは何故か、それをよしとしない。
「いいえ、兄上。生きているうちは、決して許してはなりませぬ」
「……なんだと?」
「これは見せしめでもあるのですよ。今後、みだりに王位を狙う者が現れ、和を乱すことが無いようにと、十分に配慮せねばなりません。
だからしてメフラードを討ったのであり、同じ理由から、マフシードも決して、生かしてはおけぬのです」
「何を言うか……! これ以上、無駄な血を流せと言うのか!?」
「無駄ではありません。我らベール王族の地位を、揺らがせぬためです」
セノクの言葉に、シャフルの顔が真っ赤になる。
「……セノク、貴様ぁ」
と、シャフルは立ち上がり、ゆらゆらとセノクへ近付き――。
「そんなに同族の血を見たいのかッ!」
「ぐっ!?」
手にしていた杖で、セノクの頭を引っぱたいた。
「な、何をっ」
「血が見たいのなら、己の血を存分に見れば良かろう!
何が王族の地位を、だ! 元々零落した我々の地位を引き上げたのは、他ならぬメフルとマフスの尽力あってこそではないか!
その恩を忘れ、国賊に仕立て上げただけでは収まらず、なおも命を付け狙うのか! この恥知らずめッ!」
散々杖で打ち据えられ、武人であるセノクも流石に顔を歪ませる。
「……分かりました、分かりましたから、兄上。確かに少し、極端な物言いをしてしまいました」
「ゼェ、ゼェ……」
シャフルも激しい運動と怒りのためか、肩で荒く息をしている。
「……とにかく! 最早マフスに罪は無い! 明日にでも書状を送り、復縁を申し渡した上で、投降してもらう。
親しかった兄を失い絶望している我が娘に、これ以上苦痛を与えてなるものか」
シャフルは額の汗をぬぐい、尻尾を怒らせたまま、その場を離れていった。
「……いたた、たた」
シャフルがいなくなったのを見て、床に伏していたセノクがフラフラと立ち上がる。
「耄碌(もうろく)したな、兄上も」
「……」
シャフルの見せた剣幕に、アミルは呆然としていた。
「あ、あの」
「何かな?」
「……俺も、その」
「兄上の言うことがもっともらしく聞こえたのか? だとすれば、君はとんだへっぽこ商人だな」
「えっ?」
「いいか、……確かに、最早マフシードには抵抗の余地も、意思もないだろう。……今はな」
「今は?」
セノクは椅子に着き、頭から垂れてきた血を拭いながら、こんな屁理屈をこねてみせた。
「考えてみなさい。すぐ上の、とても親しかった兄を討たれたのだ。当然、怒りを覚えているだろう。
そこで我々が救いの手を差し伸べれば、一体どうなる? 感謝するか? いいや、するまい。その差し伸べた手に噛みついてくるのは、目に見えている。
下手に情けをかければ、大怪我を負うだけでは済まないぞ。……徹底的に、芽は摘まねばならんのだ」
「……」
納得の行かなそうな顔をするアミルを見て、セノクはふーっ、とため息をつく。
「やれやれ……、やりたくない、これ以上血は見たくない、と? ……もしそう思っているなら」
セノクは両手をテーブルの上に組み、隻眼でギロリとにらみつけた。
「今すぐ、『武装』商会などと名乗るのはやめにした方がいい。看板に負けている。嘘をつく商人など、誰が相手にするものか」
「う……」
「それにだ。君がメフルを殺したのだろう? 真っ先に狙われるのは、君だ。殺したくないなどと、悠長に構えている場合ではない。
殺るか殺られるか、だよ」
そう言って、セノクは席を立とうとする。
「ま、待ってください!」
それを制止し、アミルはこう宣言してしまった。
「分かりました。……国王陛下からの書状が、トリペへ届く前に。
俺が、マフシードを殺してきます」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~