「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・壊忠記 5
フォコの話、185話目。
賢者のいじめ。
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5.
ボン、と言う音と噴き出した煙を確認し、アミルはニヤリと笑う。
「……これで良し。もう書状を出そうが何しようが、後の祭りだ」
「ところがどっこい」
と、隙間からブスブスと煙を噴き出していた扉が、乱暴に蹴り開かれる。
「……なにぃ!?」
「この通り、ピンピンしてるね」
「だ、誰だお前は!?」
扉から出てきたのは、いかにも古臭い魔術師然としたローブを身にまとった、赤毛のエルフだった。
「私かい? 私の名はモール・リッチ。旅の賢者とは私のコトだね」
「知らねえな、んなこと。大方、マフスの雇った用心棒だろ。まだ生きてんのか、あの小言女」
「勿論生きてるさ。ホコウの奴が、ちゃんと守ってやったしね」
「ほ、……ホコウ?」
その名を耳にし、アミルの顔色が変わる。
「嘘、だろ」
「嘘なんか言うもんかね。ほれ、ホコウ。君を裏切ったバカが、顔見てみたいってさ」
「そうでっか」
続いて、フォコも霊廟から出てきた。
「……マジ……かよ」
「アミルさん、……いや、アミル・シルム」
フォコはフードに着いた煤をぱたぱたとはたきながら、ギロリとアミルをにらみつけた。
「よおやってくれたな、ホンマに」
「う……」
「こないなくだらない真似、よおやったもんやな、ホンマに、なあ!?
聞いたで、うわさ。『シルム武装商会』やて!? 『我が商会の経営理念は人を殺すことですー』ってか、ああ!? ふざけんのも大概にせえや、このボケがッ!
僕が必死に訴えかけ、熱心に唱えた平和への思いも、お前には無駄やったわけやな! コロっと忘れて、自分の欲のために、一緒に戦ってきた仲間をヘラヘラ喜んで殺したとか、最低最悪の、ド外道所業や!
クズの塊っちゅうのんは、お前みたいな奴のことを言うんや!」
「ぐ……」
苦い顔をするアミルに、フォコはたたみかけた。
「お前の底、見えたわ。
お前はどんなに人の良さそうに取り繕うても、所詮は小悪党にしかなれへん器や。おやっさんも冥府の向こうで嘆いてはるで……!」
「……う、るせ、え」
だが、アミルは反省するどころか、曲刀を構えて怒鳴り返した。
「今さらお前に親分面されたかねえんだよ! 年下の、わけ分からんことばかり抜かす、ひょろひょろのお前なんかになぁ!
俺が上なんだ……! お前の夢や妄想なんざ、知ったこっちゃねえ……! 俺の、俺自身の、俺のこの手にすぐ入る利益の方が、俺に取っちゃ切実、上等なんだ……!
俺が大して得もしない南海の平和なんざ、どうだっていいんだよ……!」
本音を漏らしたアミルに、フォコの怒りは頂点に達した。
「……モールさん。とりあえず口が利ける状態やったら、それで構いません。
目一杯、ボッコボコにしたってください」
フォコの願いに、モールはぐっと握り拳を作って応える。
「おう。……私もあいつの思い上がったバカっぷりには、心底腹が立つね。
一回や二回、痛い目見させるくらいじゃ、ぜんっぜん足りないね」
アミルは曲刀を片手に、モールとの間合いを詰める。
「どけよ、そこ……!」
「ヤだね」
モールも魔杖を構え、開け放たれた扉の前に陣取る。
「どかねーなら叩っ斬るぞ、コラッ!」
アミルは曲刀を振り上げ、モールに斬りかかろうとした。
ところが――。
「……あん?」
気付けばアミルは、フォコの話を聞いていた時点の位置に戻されていた。
「な、……なん、だ? ……クソッ!」
もう一度、アミルはモールへ向かって駆け出す。
だが、また元の位置に戻されている。
「……!?」
もう一度駆け出す。そして、また元の位置に。
「な、……何しやがった!?」
「さあね」
「ふざけやがってッ!」
今度は駆け出そうとはせず、懐に忍ばせていた爆弾に火を点けた。
「あーらら」
それを見て、モールが呆れた声を出した。
「いいのかな? いいのかなー? そーんなコトして、いいのかなー?」
「……ブッ殺す!」
アミルは怒りに任せ、爆弾を力一杯投げつけた。
「『ウロボロスポール:リバース』」
だが、モールが術を発動させた途端――全力で投げつけた爆弾は、同じ速度で自分の元へと戻ってきた。
「……は!?」
アミルが逃げる間もなく、爆弾は炸裂した。
ズドンと言う爆音が辺りに轟き、アミルも吹き飛ばされる。
「がは……っ、げぼっ」
アミルの両腕は半分以上吹き飛び、腹にも大穴が空いている。放っておけば絶命するのは明らかだった。
「だから言ったのにねぇ」
血まみれになったアミルを見下ろし、モールは術を唱える。
「『ウロボロスポール:リバース』」
すると、吹き飛んだアミルの両腕が、何事も無かったかのように元の形に戻っていく。腹に開いた大穴も、綺麗に塞がっていた。
「な……え……なにが……おこ……って……る……?」
「バカには分からないコトだね」
モールは魔杖の先をアミルの襟に引っかけ、無理矢理に立たせた。
「ま、でも。カンタンな説明くらいはしてあげようかね。
今使ったのは、モノを元の形、元の位置に戻す術さ。10メートル進んだモノは、10メートル戻す。力一杯投げつけたモノは、力一杯で戻ってくる。
そして破裂したモノも、ほれ、この通り」
モールはアミルの足元に、ぽいっと爆弾を投げ捨てる。
その導火線には、パチパチと火が点いていた。
「点けた火も、元通りだったり、ね」
「ひ……い……っ」
モールは自身に術をかけ、霊廟のところまで戻る。
その間に爆弾は破裂し、アミルはまた粉微塵になって吹き飛んだ。
モールの宣言通り、アミルは十数回も、体をちぎられる痛みを味わわされた。
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賢者のいじめ。
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ボン、と言う音と噴き出した煙を確認し、アミルはニヤリと笑う。
「……これで良し。もう書状を出そうが何しようが、後の祭りだ」
「ところがどっこい」
と、隙間からブスブスと煙を噴き出していた扉が、乱暴に蹴り開かれる。
「……なにぃ!?」
「この通り、ピンピンしてるね」
「だ、誰だお前は!?」
扉から出てきたのは、いかにも古臭い魔術師然としたローブを身にまとった、赤毛のエルフだった。
「私かい? 私の名はモール・リッチ。旅の賢者とは私のコトだね」
「知らねえな、んなこと。大方、マフスの雇った用心棒だろ。まだ生きてんのか、あの小言女」
「勿論生きてるさ。ホコウの奴が、ちゃんと守ってやったしね」
「ほ、……ホコウ?」
その名を耳にし、アミルの顔色が変わる。
「嘘、だろ」
「嘘なんか言うもんかね。ほれ、ホコウ。君を裏切ったバカが、顔見てみたいってさ」
「そうでっか」
続いて、フォコも霊廟から出てきた。
「……マジ……かよ」
「アミルさん、……いや、アミル・シルム」
フォコはフードに着いた煤をぱたぱたとはたきながら、ギロリとアミルをにらみつけた。
「よおやってくれたな、ホンマに」
「う……」
「こないなくだらない真似、よおやったもんやな、ホンマに、なあ!?
聞いたで、うわさ。『シルム武装商会』やて!? 『我が商会の経営理念は人を殺すことですー』ってか、ああ!? ふざけんのも大概にせえや、このボケがッ!
僕が必死に訴えかけ、熱心に唱えた平和への思いも、お前には無駄やったわけやな! コロっと忘れて、自分の欲のために、一緒に戦ってきた仲間をヘラヘラ喜んで殺したとか、最低最悪の、ド外道所業や!
クズの塊っちゅうのんは、お前みたいな奴のことを言うんや!」
「ぐ……」
苦い顔をするアミルに、フォコはたたみかけた。
「お前の底、見えたわ。
お前はどんなに人の良さそうに取り繕うても、所詮は小悪党にしかなれへん器や。おやっさんも冥府の向こうで嘆いてはるで……!」
「……う、るせ、え」
だが、アミルは反省するどころか、曲刀を構えて怒鳴り返した。
「今さらお前に親分面されたかねえんだよ! 年下の、わけ分からんことばかり抜かす、ひょろひょろのお前なんかになぁ!
俺が上なんだ……! お前の夢や妄想なんざ、知ったこっちゃねえ……! 俺の、俺自身の、俺のこの手にすぐ入る利益の方が、俺に取っちゃ切実、上等なんだ……!
俺が大して得もしない南海の平和なんざ、どうだっていいんだよ……!」
本音を漏らしたアミルに、フォコの怒りは頂点に達した。
「……モールさん。とりあえず口が利ける状態やったら、それで構いません。
目一杯、ボッコボコにしたってください」
フォコの願いに、モールはぐっと握り拳を作って応える。
「おう。……私もあいつの思い上がったバカっぷりには、心底腹が立つね。
一回や二回、痛い目見させるくらいじゃ、ぜんっぜん足りないね」
アミルは曲刀を片手に、モールとの間合いを詰める。
「どけよ、そこ……!」
「ヤだね」
モールも魔杖を構え、開け放たれた扉の前に陣取る。
「どかねーなら叩っ斬るぞ、コラッ!」
アミルは曲刀を振り上げ、モールに斬りかかろうとした。
ところが――。
「……あん?」
気付けばアミルは、フォコの話を聞いていた時点の位置に戻されていた。
「な、……なん、だ? ……クソッ!」
もう一度、アミルはモールへ向かって駆け出す。
だが、また元の位置に戻されている。
「……!?」
もう一度駆け出す。そして、また元の位置に。
「な、……何しやがった!?」
「さあね」
「ふざけやがってッ!」
今度は駆け出そうとはせず、懐に忍ばせていた爆弾に火を点けた。
「あーらら」
それを見て、モールが呆れた声を出した。
「いいのかな? いいのかなー? そーんなコトして、いいのかなー?」
「……ブッ殺す!」
アミルは怒りに任せ、爆弾を力一杯投げつけた。
「『ウロボロスポール:リバース』」
だが、モールが術を発動させた途端――全力で投げつけた爆弾は、同じ速度で自分の元へと戻ってきた。
「……は!?」
アミルが逃げる間もなく、爆弾は炸裂した。
ズドンと言う爆音が辺りに轟き、アミルも吹き飛ばされる。
「がは……っ、げぼっ」
アミルの両腕は半分以上吹き飛び、腹にも大穴が空いている。放っておけば絶命するのは明らかだった。
「だから言ったのにねぇ」
血まみれになったアミルを見下ろし、モールは術を唱える。
「『ウロボロスポール:リバース』」
すると、吹き飛んだアミルの両腕が、何事も無かったかのように元の形に戻っていく。腹に開いた大穴も、綺麗に塞がっていた。
「な……え……なにが……おこ……って……る……?」
「バカには分からないコトだね」
モールは魔杖の先をアミルの襟に引っかけ、無理矢理に立たせた。
「ま、でも。カンタンな説明くらいはしてあげようかね。
今使ったのは、モノを元の形、元の位置に戻す術さ。10メートル進んだモノは、10メートル戻す。力一杯投げつけたモノは、力一杯で戻ってくる。
そして破裂したモノも、ほれ、この通り」
モールはアミルの足元に、ぽいっと爆弾を投げ捨てる。
その導火線には、パチパチと火が点いていた。
「点けた火も、元通りだったり、ね」
「ひ……い……っ」
モールは自身に術をかけ、霊廟のところまで戻る。
その間に爆弾は破裂し、アミルはまた粉微塵になって吹き飛んだ。
モールの宣言通り、アミルは十数回も、体をちぎられる痛みを味わわされた。
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