「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・壊忠記 6
フォコの話、186話目。
忠なき将の謀略。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「すみません……かんべんしてください……もうしません……」
何度も体をバラバラにされ、アミルの精神はすっかり参ってしまったらしい。
体は元通りに治されたものの、身を屈めてガタガタと震えており、ブツブツと謝罪の言葉を唱え続けている。
「やりすぎたかねぇ」
「いや、これくらいで丁度でしょう。放っとけばそのうち戻ります、……多分」
アミルの惨状を目の当たりにしていたイサンは、ぼそっとつぶやいた。
「……勝てる気がしねえ……」
フォコの言う通り、1時間も放っておくうち、どうにかアミルの情緒は安定した。
「なあ、アミル。知っとったか」
「な、何を……?」
「味方同士が争い、殺し合ったこの茶番。原因は、僕がさらわれたからや。
……いいや、その後も。『そいつ』がシャフル国王やらお前やらを操って、こうなるように仕組んどった、っちゅうことも原因やったんや」
「何、……だって? そんなバカな、……っ」
反論しようとしたアミルだったが、途中で口をつぐむ。どうやら、思い当たる節があったらしい。
「『そいつ』も相当の悪人や。自分ではまったく手を汚そうとせず、お前にメフルさんを殺させ、そしてまた、マフスさんも殺させようとした。何やかや、適当な理由を付けてな」
「……彼が、……セノク卿が、この、一連の事件の主犯だって言うのか」
「そうや。なあ、イサン」
フォコに話を振られ、イサンは小さくうなずいた。
「ああ。このベール王国の護国卿、セノク・キアン・ベール自身が、殿を俺のところへ身売りしたんだ」
「人身売買だと……。そんなことまでしてたのか、卿は」
「それだけやあらへん。ここに戻る前にちょいちょい調べてみたら、おかしい話がぽろぽろ出てきよる。
ベール内戦でレヴィアとの戦いが止まってしもた後、レヴィアが発行した国債の買い手がドバっと増えた。まあ、それはしゃあない話や。こうして戦う相手が内輪もめしとるんやから、向こうに信用が移るんは当然の話やしな。
ほんで、このレヴィア王国の発行した戦時国債な。ベールが圧勝しとった時は、レヴィアの国債にはほとんど買い手が付かんかったんや。
まあ、債券っちゅうのんは、平たく言えば『今お金がないけど、後でノシ付けて返すアテがあるから、ちょっと貸しといて』っちゅう約束の手形や。せやから後で払えそうにない、負けが見えてきとるような国の国債なんか、誰も買うわけがないねん。
せやけど、今レヴィアは勝ちそうな気配がしとるからな。確実に高い利子が付いて返ってきそうや、っちゅう市場判断が強まり、買い手が続々出てきとる。
で、最近の話になるけども。既発分の、元々は安かった国債に高値が付いて、大量に売り出されとる。さっき言うた理由から、既に買い手あまたの状態や。既発分を持っとった奴は、安く買って高く売るっちゅう状態になるし、一儲けできるわけや。
このキナ臭い話も調べてみたら、代理人を通してはおったけども、大元の債権者はセノクやったっちゅうわけや」
「……つまり、セノク卿は」
「元からベール王国への忠義なんか吹っ飛んでたんや。
すべては自分の利益のため、自分の私腹を肥やし、自分の出世にとって邪魔な奴らをとことん排除するために、僕らとメフルさん、マフスさん、お前、そしてレヴィア王国まで利用しとったんや。
まったく……、とんだ伏兵や。思いも寄らへんとこに、最低の敵が潜んどったわ」
「……」
アミルは呆然とした顔で、マフスに振り返った。
「……なん、ですか?」
「……俺は……」
アミルの目から、ボタボタと涙がこぼれ出す。
「俺はっ……何てことを……! セノク卿に言いくるめられて、いい気になって、……結局、馬鹿な海賊やってた時と、何にも変わらないじゃないか……!
許してくれ、マフス……!」
「……」
黙り込むマフスに代わり、フォコが話を続ける。
「ともかく、これ以上セノクを放ってはおかれへん。
敵国から大量に債権を買っとったっちゅうことは、向こうさんと深く通じとるはずや。それと、大量に売りさばいたとは言え、自分の利殖のためにもまだ債権は持っとるやろうし、セノクにとっては、何が何でもレヴィア側が勝ってもらわな困るはずや。
今すぐビブロンへ戻って、セノクを止めなあかん。そうせな僕らの勝利は――ひいては、南海に平和が訪れることは、もうあらへん」
フォコは話をそう締めくくり、皆に動き出すよう促した。
火紅狐・壊忠記 終
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忠なき将の謀略。
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「すみません……かんべんしてください……もうしません……」
何度も体をバラバラにされ、アミルの精神はすっかり参ってしまったらしい。
体は元通りに治されたものの、身を屈めてガタガタと震えており、ブツブツと謝罪の言葉を唱え続けている。
「やりすぎたかねぇ」
「いや、これくらいで丁度でしょう。放っとけばそのうち戻ります、……多分」
アミルの惨状を目の当たりにしていたイサンは、ぼそっとつぶやいた。
「……勝てる気がしねえ……」
フォコの言う通り、1時間も放っておくうち、どうにかアミルの情緒は安定した。
「なあ、アミル。知っとったか」
「な、何を……?」
「味方同士が争い、殺し合ったこの茶番。原因は、僕がさらわれたからや。
……いいや、その後も。『そいつ』がシャフル国王やらお前やらを操って、こうなるように仕組んどった、っちゅうことも原因やったんや」
「何、……だって? そんなバカな、……っ」
反論しようとしたアミルだったが、途中で口をつぐむ。どうやら、思い当たる節があったらしい。
「『そいつ』も相当の悪人や。自分ではまったく手を汚そうとせず、お前にメフルさんを殺させ、そしてまた、マフスさんも殺させようとした。何やかや、適当な理由を付けてな」
「……彼が、……セノク卿が、この、一連の事件の主犯だって言うのか」
「そうや。なあ、イサン」
フォコに話を振られ、イサンは小さくうなずいた。
「ああ。このベール王国の護国卿、セノク・キアン・ベール自身が、殿を俺のところへ身売りしたんだ」
「人身売買だと……。そんなことまでしてたのか、卿は」
「それだけやあらへん。ここに戻る前にちょいちょい調べてみたら、おかしい話がぽろぽろ出てきよる。
ベール内戦でレヴィアとの戦いが止まってしもた後、レヴィアが発行した国債の買い手がドバっと増えた。まあ、それはしゃあない話や。こうして戦う相手が内輪もめしとるんやから、向こうに信用が移るんは当然の話やしな。
ほんで、このレヴィア王国の発行した戦時国債な。ベールが圧勝しとった時は、レヴィアの国債にはほとんど買い手が付かんかったんや。
まあ、債券っちゅうのんは、平たく言えば『今お金がないけど、後でノシ付けて返すアテがあるから、ちょっと貸しといて』っちゅう約束の手形や。せやから後で払えそうにない、負けが見えてきとるような国の国債なんか、誰も買うわけがないねん。
せやけど、今レヴィアは勝ちそうな気配がしとるからな。確実に高い利子が付いて返ってきそうや、っちゅう市場判断が強まり、買い手が続々出てきとる。
で、最近の話になるけども。既発分の、元々は安かった国債に高値が付いて、大量に売り出されとる。さっき言うた理由から、既に買い手あまたの状態や。既発分を持っとった奴は、安く買って高く売るっちゅう状態になるし、一儲けできるわけや。
このキナ臭い話も調べてみたら、代理人を通してはおったけども、大元の債権者はセノクやったっちゅうわけや」
「……つまり、セノク卿は」
「元からベール王国への忠義なんか吹っ飛んでたんや。
すべては自分の利益のため、自分の私腹を肥やし、自分の出世にとって邪魔な奴らをとことん排除するために、僕らとメフルさん、マフスさん、お前、そしてレヴィア王国まで利用しとったんや。
まったく……、とんだ伏兵や。思いも寄らへんとこに、最低の敵が潜んどったわ」
「……」
アミルは呆然とした顔で、マフスに振り返った。
「……なん、ですか?」
「……俺は……」
アミルの目から、ボタボタと涙がこぼれ出す。
「俺はっ……何てことを……! セノク卿に言いくるめられて、いい気になって、……結局、馬鹿な海賊やってた時と、何にも変わらないじゃないか……!
許してくれ、マフス……!」
「……」
黙り込むマフスに代わり、フォコが話を続ける。
「ともかく、これ以上セノクを放ってはおかれへん。
敵国から大量に債権を買っとったっちゅうことは、向こうさんと深く通じとるはずや。それと、大量に売りさばいたとは言え、自分の利殖のためにもまだ債権は持っとるやろうし、セノクにとっては、何が何でもレヴィア側が勝ってもらわな困るはずや。
今すぐビブロンへ戻って、セノクを止めなあかん。そうせな僕らの勝利は――ひいては、南海に平和が訪れることは、もうあらへん」
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