「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・猫金記 1
フォコの話、187話目。
敗将蹂躙。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦306年、ベール本島にレヴィア軍が侵攻した年の翌年。
ベール王国側の将軍、セノク・キアン・ベールはビブロン防衛に失敗し、捕虜となっていた。
「ほうほう、こやつがベール護国卿、セノクか。……こう包帯だらけでは、どんな顔か分からぬのう」
数日前まで自分たちのものであった宮殿の地下牢につながれたセノクを見て、現地の視察に来たアイシャはそうつぶやいた。
「……見たいのか、私の醜態を」
牢の奥にうずくまっていたセノクは、鉄格子の向こうに立つ女王に悪態をつく。
「良かろう。見せてみよ」
対するアイシャも、挑発してみせる。
「後悔するなよ」
セノクは頭全面に巻かれた包帯を取り、傷だらけの顔を見せ付けた。
「……ほう」
流石に一瞬閉口したが、アイシャはひるまない。
「なかなか様になっておる。敗残した将には似つかわしい化粧ぞ」
「……っ」
軽くけなされ、セノクは憤る。
と、アイシャはセノクからぷいと顔をそむけ、近くにいる従者にこう命じた。
「両手を後ろで縛った上で、三階の小議事堂へ連れて参れ」
「……?」
いぶかしがるセノクに背を向け、アイシャはそのまま牢を後にした。
小議事堂に連れて来られたセノクは、アイシャとレヴィア王国の大臣数名、そしていかにも賢しく、かつ、傲慢そうな眼鏡の短耳の前に座らされた。
「君が、セノク・キアン・ベール卿かね?」
その男に尋ねられ、セノクは素直に応答する。
「いかにも」
「満身創痍だな。いやいや……、身に染みて、思い知ったことだろうな」
「……?」
男の放った言葉の意図が読めず、セノクはけげんな顔になる。
「ああ……、少しばかり、説明が足りなかったようだね。
セノク君、先の戦いにおいて大敗北を喫したのは、何故だか分かるかね?」
「我々に驕りがあったからだ。相手を小国と見て侮っていた。それが敗因だ」
「ふむ。それもあるだろう。だがもう一つ、大きな理由があるのだ」
男はアイシャの率いていた従者に合図を送り、小さな樽を持って来させた。
「これが何か分かるかね?」
「……いいや?」
樽の中には黒い粉がぎっしりと詰め込まれていたが、セノクにはそれが何なのか、まったく見当がつかない。
「これが、レヴィア王国の勝利した最大の理由だ」
男は黒い粉を一握り取り上げ、セノクの座る机の上に撒く。
「耳をふさいでいたまえ」
「ふざけるな、縛られているのに……」
セノクは文句を言いかけたが、男はそれを無視して粉に火を点けた。
一瞬間を置いて、粉は勢いよく燃え上がり、バン、とけたたましい音を立てて爆ぜた。
「ぐあ、っち、ぅぐっ」
爆ぜた粉が顔に降りかかるが、前述の通りセノクは手を縛られている。振り払うこともできず、セノクは椅子から転げ落ちた。
「ぐ、くっ、うぅぅ」
のた打ち回るセノクを見下ろしながら、男はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。
「どうかね、威力のほどが良く分かっただろう?」
「がっ、……かっ、げほ、ごほっ」
顔全体にじんじんと回る熱に、セノクは悶絶する。
「これだよ。これこそが、レヴィア王国の勝因なのだ。燃える粉、火薬だ。
刀剣より強く、弓矢より遠く、魔術より使いやすい。これまでの戦闘装備は、最早化石、ガラクタも同然だ。
そのガラクタで身を固めた君たちが勝てる道理など、あるはずがなかろう?」
「げほっ、げほっ……」
ようやく息が整ってきたところで、セノクは立ち上がろうとする。だが、男は乱暴に、セノクの肩に足を乗せた。
「うぐ、っ」
「そのままで聞いていたまえ、敗将くん。
いいかね、君は我々に生殺与奪の権利を委ねた存在だ。私やアイ……、レヴィア女王の機嫌を損ねれば即、首をはねられる程度の毛玉だ。
それをよく踏まえた上で、これからの話を、じっくりと吟味してもらおうか」
文字通り蹂躙され、セノクの肩と心はミシミシと軋んでいった。
@au_ringさんをフォロー
敗将蹂躙。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦306年、ベール本島にレヴィア軍が侵攻した年の翌年。
ベール王国側の将軍、セノク・キアン・ベールはビブロン防衛に失敗し、捕虜となっていた。
「ほうほう、こやつがベール護国卿、セノクか。……こう包帯だらけでは、どんな顔か分からぬのう」
数日前まで自分たちのものであった宮殿の地下牢につながれたセノクを見て、現地の視察に来たアイシャはそうつぶやいた。
「……見たいのか、私の醜態を」
牢の奥にうずくまっていたセノクは、鉄格子の向こうに立つ女王に悪態をつく。
「良かろう。見せてみよ」
対するアイシャも、挑発してみせる。
「後悔するなよ」
セノクは頭全面に巻かれた包帯を取り、傷だらけの顔を見せ付けた。
「……ほう」
流石に一瞬閉口したが、アイシャはひるまない。
「なかなか様になっておる。敗残した将には似つかわしい化粧ぞ」
「……っ」
軽くけなされ、セノクは憤る。
と、アイシャはセノクからぷいと顔をそむけ、近くにいる従者にこう命じた。
「両手を後ろで縛った上で、三階の小議事堂へ連れて参れ」
「……?」
いぶかしがるセノクに背を向け、アイシャはそのまま牢を後にした。
小議事堂に連れて来られたセノクは、アイシャとレヴィア王国の大臣数名、そしていかにも賢しく、かつ、傲慢そうな眼鏡の短耳の前に座らされた。
「君が、セノク・キアン・ベール卿かね?」
その男に尋ねられ、セノクは素直に応答する。
「いかにも」
「満身創痍だな。いやいや……、身に染みて、思い知ったことだろうな」
「……?」
男の放った言葉の意図が読めず、セノクはけげんな顔になる。
「ああ……、少しばかり、説明が足りなかったようだね。
セノク君、先の戦いにおいて大敗北を喫したのは、何故だか分かるかね?」
「我々に驕りがあったからだ。相手を小国と見て侮っていた。それが敗因だ」
「ふむ。それもあるだろう。だがもう一つ、大きな理由があるのだ」
男はアイシャの率いていた従者に合図を送り、小さな樽を持って来させた。
「これが何か分かるかね?」
「……いいや?」
樽の中には黒い粉がぎっしりと詰め込まれていたが、セノクにはそれが何なのか、まったく見当がつかない。
「これが、レヴィア王国の勝利した最大の理由だ」
男は黒い粉を一握り取り上げ、セノクの座る机の上に撒く。
「耳をふさいでいたまえ」
「ふざけるな、縛られているのに……」
セノクは文句を言いかけたが、男はそれを無視して粉に火を点けた。
一瞬間を置いて、粉は勢いよく燃え上がり、バン、とけたたましい音を立てて爆ぜた。
「ぐあ、っち、ぅぐっ」
爆ぜた粉が顔に降りかかるが、前述の通りセノクは手を縛られている。振り払うこともできず、セノクは椅子から転げ落ちた。
「ぐ、くっ、うぅぅ」
のた打ち回るセノクを見下ろしながら、男はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。
「どうかね、威力のほどが良く分かっただろう?」
「がっ、……かっ、げほ、ごほっ」
顔全体にじんじんと回る熱に、セノクは悶絶する。
「これだよ。これこそが、レヴィア王国の勝因なのだ。燃える粉、火薬だ。
刀剣より強く、弓矢より遠く、魔術より使いやすい。これまでの戦闘装備は、最早化石、ガラクタも同然だ。
そのガラクタで身を固めた君たちが勝てる道理など、あるはずがなかろう?」
「げほっ、げほっ……」
ようやく息が整ってきたところで、セノクは立ち上がろうとする。だが、男は乱暴に、セノクの肩に足を乗せた。
「うぐ、っ」
「そのままで聞いていたまえ、敗将くん。
いいかね、君は我々に生殺与奪の権利を委ねた存在だ。私やアイ……、レヴィア女王の機嫌を損ねれば即、首をはねられる程度の毛玉だ。
それをよく踏まえた上で、これからの話を、じっくりと吟味してもらおうか」
文字通り蹂躙され、セノクの肩と心はミシミシと軋んでいった。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~