「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・猫金記 2
フォコの話、188話目。
妥当な飴と陰惨な鞭。
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2.
男はセノクから足を離し、とうとうと語り出す。
「私は商人でね。レヴィア王国に、軍事物資の供給を行っていたのだよ。最新鋭のものをね。
結果はこの通り。我が商会にとって、今回の戦闘は大きな宣伝となった。何しろ南海における最大武力組織、ベール王国軍を駆逐してしまったのだからね」
「く……」
セノクは憎々しげに男をにらみ、立ち上がろうともがく。
だが、男はそれを許さない。もう一度、セノクに蹴りを入れて妨害する。
「ぐは……っ」
「それは許可しかねるよ、セノク卿。立ち上がってもらっては困る。
君も、君の国もだ」
「なん、だ、と?」
「今回、私はレヴィアに武器の供給は行ってはいた。だが、その代価は得ていない。宣伝費と割り切っての供給だったのだよ。
だが少し、君たちの抵抗がしつこかったのでね。ほんの少々だが、予定していた額以上の出費がかさんでいる。これ以上抵抗し、その額を増やされては困る。
そこでだ、セノク卿。取引をしようじゃないか」
「……取引?」
男はセノクから再度離れ、自分の席に着き直した。
「不可侵条約を結んでもらう。今後一切、君の軍がレヴィア王国の領土に踏み込むことがないようにしてもらいたい。そうすれば、これ以上の侵略は容赦してやろう。
今現在、ベール王族および王国軍、そして王室政府の中枢は西の街、トリペにあることは把握している。そこを攻め出されれば、最早ベール王国としての体面は保てまい」
「……っ」
「それを勘弁してやろう、と言うのだ。悪い話ではあるまい?」
「……ふざけ」「ああ、そうそう」
男の一方的な言い分に激怒しようとしたセノクの声は、男の次の言葉でさえぎられる。
「勿論、ただでとは言わない。それなりの報酬を約束しよう。
そうだな……、レヴィア王国領下の島、いくつか。それと、そこで産出される資源の所有権も。後は、いくらばかりかの金か」
「やっ、安く見るな……ッ!」
何とか席に着き直したセノクは声を荒げ、その申し出を拒否しようとした。
「そんなもの、願い下げだ! 不可侵条約なぞも、結ぶものか!
我らベール王国は、誰にも屈しないぞッ!」
そう言ってみせたが、男はフンと鼻を鳴らすだけだった。
「威勢がいいのは結構。だが、冷静に考えた方が身のためだ。
君は今現在、私の申し出を受ける以外の選択肢を与えられていない。それが分かっているかね?」
「お前の申し出なぞ、知ったことか! そんなものを呑むくらいなら、死んだ方がましだ!」
「ほう、そうかね」
折れないセノクに、男は嘲るような笑みを見せた。
「右耳」
「なに?」
聞き返したが、男は答えない。
その代わりに、自分の猫耳の右片方から、焼けるような痛みが広がった。
「ぎ……っ!?」
「いかに歴戦の武人といえども、自分の体を失うのは辛かろう」
右耳のあった場所から、ドクドクとした痛みと血が噴き出す。押さえて止血しようとしたが、両手は縛られたままだ。
「呑むかね?」
「こ、ことわ……」「尻尾の先を一つまみ」
ぶつっ、と音を立て、尻尾の先からもこらえきれない刺激が走る。
「うああああ、っ」
「呑むかね、セノク卿?」
「こ、……う、ううあああ」
「もう一つまみ」
再度、尻尾に痛みが来る。
「ぎっ、き、……ぎいいいいいあああ」
あまりの痛みに、喉から勝手に音が漏れていく。
「次はもう片方の耳だ。それでも嫌なら、尻尾を丸ごと。
それでも我を通すと言うなら、左足を足首から。次は右足首。そして膝、肘、肩と……」「や、やめてくれええ……っ!」
顔を血で赤く濡らしながら、セノクは泣き叫んだ。
「分かった! もうやめてくれ! その申し出を受ける、受けさせてくれ……っ」
そう答えたセノクに満足し、男は傍らのアイシャにこうささやいた。
「おや、君よりよほど素直なようだ。頼み方も心得ている」
「……」
アイシャは何も言わず、蒼ざめた顔で、体のあちこちを切り落とされたセノクを、じっと見ていた。
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妥当な飴と陰惨な鞭。
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男はセノクから足を離し、とうとうと語り出す。
「私は商人でね。レヴィア王国に、軍事物資の供給を行っていたのだよ。最新鋭のものをね。
結果はこの通り。我が商会にとって、今回の戦闘は大きな宣伝となった。何しろ南海における最大武力組織、ベール王国軍を駆逐してしまったのだからね」
「く……」
セノクは憎々しげに男をにらみ、立ち上がろうともがく。
だが、男はそれを許さない。もう一度、セノクに蹴りを入れて妨害する。
「ぐは……っ」
「それは許可しかねるよ、セノク卿。立ち上がってもらっては困る。
君も、君の国もだ」
「なん、だ、と?」
「今回、私はレヴィアに武器の供給は行ってはいた。だが、その代価は得ていない。宣伝費と割り切っての供給だったのだよ。
だが少し、君たちの抵抗がしつこかったのでね。ほんの少々だが、予定していた額以上の出費がかさんでいる。これ以上抵抗し、その額を増やされては困る。
そこでだ、セノク卿。取引をしようじゃないか」
「……取引?」
男はセノクから再度離れ、自分の席に着き直した。
「不可侵条約を結んでもらう。今後一切、君の軍がレヴィア王国の領土に踏み込むことがないようにしてもらいたい。そうすれば、これ以上の侵略は容赦してやろう。
今現在、ベール王族および王国軍、そして王室政府の中枢は西の街、トリペにあることは把握している。そこを攻め出されれば、最早ベール王国としての体面は保てまい」
「……っ」
「それを勘弁してやろう、と言うのだ。悪い話ではあるまい?」
「……ふざけ」「ああ、そうそう」
男の一方的な言い分に激怒しようとしたセノクの声は、男の次の言葉でさえぎられる。
「勿論、ただでとは言わない。それなりの報酬を約束しよう。
そうだな……、レヴィア王国領下の島、いくつか。それと、そこで産出される資源の所有権も。後は、いくらばかりかの金か」
「やっ、安く見るな……ッ!」
何とか席に着き直したセノクは声を荒げ、その申し出を拒否しようとした。
「そんなもの、願い下げだ! 不可侵条約なぞも、結ぶものか!
我らベール王国は、誰にも屈しないぞッ!」
そう言ってみせたが、男はフンと鼻を鳴らすだけだった。
「威勢がいいのは結構。だが、冷静に考えた方が身のためだ。
君は今現在、私の申し出を受ける以外の選択肢を与えられていない。それが分かっているかね?」
「お前の申し出なぞ、知ったことか! そんなものを呑むくらいなら、死んだ方がましだ!」
「ほう、そうかね」
折れないセノクに、男は嘲るような笑みを見せた。
「右耳」
「なに?」
聞き返したが、男は答えない。
その代わりに、自分の猫耳の右片方から、焼けるような痛みが広がった。
「ぎ……っ!?」
「いかに歴戦の武人といえども、自分の体を失うのは辛かろう」
右耳のあった場所から、ドクドクとした痛みと血が噴き出す。押さえて止血しようとしたが、両手は縛られたままだ。
「呑むかね?」
「こ、ことわ……」「尻尾の先を一つまみ」
ぶつっ、と音を立て、尻尾の先からもこらえきれない刺激が走る。
「うああああ、っ」
「呑むかね、セノク卿?」
「こ、……う、ううあああ」
「もう一つまみ」
再度、尻尾に痛みが来る。
「ぎっ、き、……ぎいいいいいあああ」
あまりの痛みに、喉から勝手に音が漏れていく。
「次はもう片方の耳だ。それでも嫌なら、尻尾を丸ごと。
それでも我を通すと言うなら、左足を足首から。次は右足首。そして膝、肘、肩と……」「や、やめてくれええ……っ!」
顔を血で赤く濡らしながら、セノクは泣き叫んだ。
「分かった! もうやめてくれ! その申し出を受ける、受けさせてくれ……っ」
そう答えたセノクに満足し、男は傍らのアイシャにこうささやいた。
「おや、君よりよほど素直なようだ。頼み方も心得ている」
「……」
アイシャは何も言わず、蒼ざめた顔で、体のあちこちを切り落とされたセノクを、じっと見ていた。
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