「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・猫金記 4
フォコの話、190話目。
彼なりの報復。
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4.
レヴィア軍から解放され、ベール王国へ戻ったセノクは、元の通り護国卿として復帰した。
だが、ケネスと取り交わした「不可侵条約」の通り、ベール軍を立て直して逆襲するようなことはしなかった。
その代わりにセノクは、ケネスが約束した通りに、レヴィア王国が占領した島いくつかと当地の生産物、そして年に数千万ガニーの賄賂を得ることができた。
その報酬を着々と貯め、軍資金としつつ――セノクは密かに、ケネスを出し抜く計画を練り続けていた。
そこへ、一つの不穏な事態が生じた。
火紅と言う胡散臭い狐獣人の青年が、南海を支配しつつあったレヴィア王国と、ケネスの腹心に対して反旗を翻し、その動きに乗らないかと打診してきたのである。
この申し出に対し、セノクは当然断った。受ければ条約を破ることになり、ケネスから報復を受けるのは確実だからだ。まだ計画もまとまらない現況でそんなことになれば、野望の実現は絶望的になる。
セノクは無理矢理に火紅氏を追い返し、この話をご破算にしようとした。ところが――。
「なんだと!? メフラードとマフシードが、勝手に挙兵した!?」
「ええ! 成果は上々、ビブロンやその他の街にいたレヴィア軍は撤退し……」「勝手なことをッ!」「か、閣下?」
甥のメフルとその妹マフスが、ホコウ氏の提案に乗ってしまったのだ。
これにより、事態は急変した。
「どう言うことかな、セノク卿。私は君と、不可侵条約を結んでいたはずだったがね……?」
現地視察に来たケネスに呼び出され、セノクは詰問を受けた。
だが、セノクはのらりくらりと追及をやり過ごす。
「ええ、その通り。『私は』挙兵などしていない」
「そんな方便が通用すると思うのかね」
にらみつけるケネスに、セノクはやり返す。
「方便? これは異なことを。条文はこうだったではないか、『私の軍がレヴィア王国領に侵攻することが無いように』と。
私が統括している軍は確かに、誰一人として動いていない。何なら、確認してみればいい」
「そうやってふざけていられるのも、今のうちだ。
いいかね、今回の件は条約破棄と見なす。君に与えていた土地と資源、そして金は、すべて返還してもらうぞ」
「それこそ私ではなく、貴君が一方的に破棄するのではないか。私は条約を守ったぞ。
……と、まあ。こんな水掛け論など、しても意味は無い。エンターゲート君、私の方で打開策を考えている」
「打開策だと?」
セノクは苛立つケネスに構わず、自分の話を展開する。
「確かに、私の甥と姪が今回の騒ぎを起こした。その点については一族を抑えられなかったのは確かであるし、謝罪もしておこう。
しかし逆に言えば、まだベール王族のほとんどは彼らになびききっていないのだ。彼ら二人がいなくなればまた、ベール軍は抵抗・反乱の原動力を失う」
「つまり、二人を消すと?」
「その通りだ。それで条約云々の件は、不問としてほしい」
「……ふむ」
ケネスはしばらく思案していたが、やがてうなずいた。
「いいだろう。私も何かと忙しい身であるし、来年末まで待ってやろう。それまでに、その兄妹を殺せ」
「承知した」
ケネスの詰問から解放されたところで、セノクの前にアイシャが現れた。
「話は、聞いておったぞ」
アイシャは顔を蒼くし、セノクに詰め寄る。
「お主、まさか同族を手にかけるつもりか?」
「致し方なし、と言うことです。……それがあなたのためになるのだから」
「妾の……?」
怪訝な顔をしたアイシャに、セノクはふと思いついたことを提案した。
「そうだ……。陛下、一つお願いがあるのですが」
「何じゃ?」
「私の持つ領土を担保に、3億ほどお貸しいただきたいのですが」
「3億も? ……一体どうするのじゃ」
「なに、ちょっとした利殖です」
そして、現在。
「あの時貸した金が、8億にも増えたのか!? 一体どうやって……?」
レヴィア王国を訪れたセノクからの報告に、アイシャは驚かされた。
「失礼ながら開戦して少し経った頃、レヴィア王国の発行した国債の価値が、大きく損なわれた時がございましたな」
「あ、ああ」
「その少し前に、いくつかの国や商会の発行した債権を購入し、その直後に安くなった戦時国債と交換したのです。
そして交換したこの債権、一定の期間後にもう一度、元々の状態に交換し直すと約束を結んでいまして。
まあ、商人などの言う商売の基本、『安く買って高く売る』を実行した、と思っていただければ」
「ははあ……。そして今、我が国の信用が高まり、国債も価値を高めているから……」
「ええ、最近になってもう一度交換し、最終的には8億と言う額に。
そして今日、その差額の一部を現物にし、持って参りました」
「現物、と言うと……?」
セノクはにっこりと笑い、宮殿の外に見える自分の船を指差した。
「金塊、約5トンです。いやいや、船の底が抜けるのではないかとヒヤヒヤしましたが」
「ははは……」
アイシャはニコニコと笑い、セノクの袖を引っ張った。
「頼もしいことじゃ、新しい旦那様は」
「……光栄です、アイシャ」
二人は見つめ合い、互いを抱きしめようとして――。
その時だった。
宮殿の外、まさに今話題に上げていた船が、突然爆ぜた。
「……な、なに!?」
「なんじゃ!? 一体、何が!?」
二人は並んで、窓の外に顔を出す。
「な、何故だ!? 何故彼らがここに……!?」
もくもくと黒煙を上げる船から、ぞろぞろとベール王国の兵士たちが飛び出していくのが、二人の目に映った。
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彼なりの報復。
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4.
レヴィア軍から解放され、ベール王国へ戻ったセノクは、元の通り護国卿として復帰した。
だが、ケネスと取り交わした「不可侵条約」の通り、ベール軍を立て直して逆襲するようなことはしなかった。
その代わりにセノクは、ケネスが約束した通りに、レヴィア王国が占領した島いくつかと当地の生産物、そして年に数千万ガニーの賄賂を得ることができた。
その報酬を着々と貯め、軍資金としつつ――セノクは密かに、ケネスを出し抜く計画を練り続けていた。
そこへ、一つの不穏な事態が生じた。
火紅と言う胡散臭い狐獣人の青年が、南海を支配しつつあったレヴィア王国と、ケネスの腹心に対して反旗を翻し、その動きに乗らないかと打診してきたのである。
この申し出に対し、セノクは当然断った。受ければ条約を破ることになり、ケネスから報復を受けるのは確実だからだ。まだ計画もまとまらない現況でそんなことになれば、野望の実現は絶望的になる。
セノクは無理矢理に火紅氏を追い返し、この話をご破算にしようとした。ところが――。
「なんだと!? メフラードとマフシードが、勝手に挙兵した!?」
「ええ! 成果は上々、ビブロンやその他の街にいたレヴィア軍は撤退し……」「勝手なことをッ!」「か、閣下?」
甥のメフルとその妹マフスが、ホコウ氏の提案に乗ってしまったのだ。
これにより、事態は急変した。
「どう言うことかな、セノク卿。私は君と、不可侵条約を結んでいたはずだったがね……?」
現地視察に来たケネスに呼び出され、セノクは詰問を受けた。
だが、セノクはのらりくらりと追及をやり過ごす。
「ええ、その通り。『私は』挙兵などしていない」
「そんな方便が通用すると思うのかね」
にらみつけるケネスに、セノクはやり返す。
「方便? これは異なことを。条文はこうだったではないか、『私の軍がレヴィア王国領に侵攻することが無いように』と。
私が統括している軍は確かに、誰一人として動いていない。何なら、確認してみればいい」
「そうやってふざけていられるのも、今のうちだ。
いいかね、今回の件は条約破棄と見なす。君に与えていた土地と資源、そして金は、すべて返還してもらうぞ」
「それこそ私ではなく、貴君が一方的に破棄するのではないか。私は条約を守ったぞ。
……と、まあ。こんな水掛け論など、しても意味は無い。エンターゲート君、私の方で打開策を考えている」
「打開策だと?」
セノクは苛立つケネスに構わず、自分の話を展開する。
「確かに、私の甥と姪が今回の騒ぎを起こした。その点については一族を抑えられなかったのは確かであるし、謝罪もしておこう。
しかし逆に言えば、まだベール王族のほとんどは彼らになびききっていないのだ。彼ら二人がいなくなればまた、ベール軍は抵抗・反乱の原動力を失う」
「つまり、二人を消すと?」
「その通りだ。それで条約云々の件は、不問としてほしい」
「……ふむ」
ケネスはしばらく思案していたが、やがてうなずいた。
「いいだろう。私も何かと忙しい身であるし、来年末まで待ってやろう。それまでに、その兄妹を殺せ」
「承知した」
ケネスの詰問から解放されたところで、セノクの前にアイシャが現れた。
「話は、聞いておったぞ」
アイシャは顔を蒼くし、セノクに詰め寄る。
「お主、まさか同族を手にかけるつもりか?」
「致し方なし、と言うことです。……それがあなたのためになるのだから」
「妾の……?」
怪訝な顔をしたアイシャに、セノクはふと思いついたことを提案した。
「そうだ……。陛下、一つお願いがあるのですが」
「何じゃ?」
「私の持つ領土を担保に、3億ほどお貸しいただきたいのですが」
「3億も? ……一体どうするのじゃ」
「なに、ちょっとした利殖です」
そして、現在。
「あの時貸した金が、8億にも増えたのか!? 一体どうやって……?」
レヴィア王国を訪れたセノクからの報告に、アイシャは驚かされた。
「失礼ながら開戦して少し経った頃、レヴィア王国の発行した国債の価値が、大きく損なわれた時がございましたな」
「あ、ああ」
「その少し前に、いくつかの国や商会の発行した債権を購入し、その直後に安くなった戦時国債と交換したのです。
そして交換したこの債権、一定の期間後にもう一度、元々の状態に交換し直すと約束を結んでいまして。
まあ、商人などの言う商売の基本、『安く買って高く売る』を実行した、と思っていただければ」
「ははあ……。そして今、我が国の信用が高まり、国債も価値を高めているから……」
「ええ、最近になってもう一度交換し、最終的には8億と言う額に。
そして今日、その差額の一部を現物にし、持って参りました」
「現物、と言うと……?」
セノクはにっこりと笑い、宮殿の外に見える自分の船を指差した。
「金塊、約5トンです。いやいや、船の底が抜けるのではないかとヒヤヒヤしましたが」
「ははは……」
アイシャはニコニコと笑い、セノクの袖を引っ張った。
「頼もしいことじゃ、新しい旦那様は」
「……光栄です、アイシャ」
二人は見つめ合い、互いを抱きしめようとして――。
その時だった。
宮殿の外、まさに今話題に上げていた船が、突然爆ぜた。
「……な、なに!?」
「なんじゃ!? 一体、何が!?」
二人は並んで、窓の外に顔を出す。
「な、何故だ!? 何故彼らがここに……!?」
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