「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・猫金記 5
フォコの話、191話目。
王宮への帰還。
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5.
時間は、フォコたちがアミルを返り討ちにした直後に戻る。
セノクの暗躍を見破ったフォコたちはアミルを従え、ビブロンへと戻った。
だが、すぐ宮殿に入ろうとはせず、フォコは街の外れで皆を止めた。
「どうしたんだ、ホコウ? どうしてこんなところへ……?」
「例えばまっすぐ、宮殿へ行ったとします。ほんで、国王陛下に『あんたの弟さん、最低の悪人やで』と暴露して、それが広まったとしますわ。
セノクは、どうしはるでしょうな」
「まあ、逃げるだろうな。大人しく捕まってくれれば、上々だけど」
「何が上々や。そんなもん、下の下やて」
トリペ以降、アミルは散々フォコにこき下ろされており、アミルは憮然とした表情を浮かべる。
「……はいはい、どうせ俺の意見なんてダメだってことだろ」
「ダメなことばっかり言うからや。
ま、ともかく。このまま逃がしても捕まえても、それは何の得にもなりません。単に、レヴィアへの直行ルートが閉じるだけですわ」
「……あ、なるほど」
フォコの言いたいことに気付き、マフスが手を挙げる。
「普通なら敵国の船など、自国に入れたりはしませんものね。でもセノク叔父様であれば、向こうと密通しているから……」
「体面上、航行の途中で多少の代理や隠れ蓑は使うでしょうが、最終的にはすんなり、自国内に入れてくれるはずです。
これを利用せえへん手はありません。少し策を講じて、ベール軍をレヴィア島内にねじ込ませられへんか、検討しよかと思いまして」
「ってコトは、セノクに見つからず、かつ、軍を動かせる最大の権限を持つ人間、平たく言や国王サマに、直で会う必要があるってコトだね」
モールの回答に、フォコは深くうなずいた。
「その通りです。そして同時にもう一つ、僕たちがやるべきことがあります」
「と言うと?」
「セノクは十中八九、利殖で得た金をレヴィア王国へ持って行ってます。
ベールがこのまま戦争に負け、崩壊した後、確実にセノクはレヴィアへ亡命するでしょうし、折角得た大金を持って行かへんわけがない。
とは言え、僕の試算では恐らく、その額は4億か、5億ガニーと思われます。そんな額を一回で持って行ける大きさの船は、ベールの主力艦クラスくらいです。しかし護国卿の地位にあるとは言え、セノクが私用で、しかも敵地へホイホイ行くなんちゅう滅茶苦茶な用事で、主力艦を使えるわけがありません。
となれば金塊やら何やら、もっと小さなものに換えて私有の船に乗せ、何回かに分けてレヴィアへ……、っちゅうのんが、妥当な線ですやろな」
「その船を抑えろ、と言うことですね。……そして、利用する、と」
「その通りです。何しろセノクが自ら、敵地のど真ん中へと案内してくれる直行便――こんな美味しいものを利用せえへんとか、ありえませんわ」
フォコとマフス、イサンの三人は、密かにベール宮殿へ侵入した。
「とにかくセノクと、セノクの配下に見つかったらおしまいですからな。そーっと、王様んところへ行かなあきません」
「それならいい場所があります。宮殿の西側にある中庭。ここは父上以外、立ち入ることを許されていません。わたしや、他の王族でも入るのを嫌う場所です」
「そりゃ、うってつけだ」
情勢が混乱しているためか、宮殿内には至る所に兵士たちが集まっている。
「おっとと」
角を一つ曲がる度、兵士と鉢合わせしそうになる。
「めんどくせえなぁ。やっちまうか?」
「アホ、騒ぎを増やしてどないすんねん。……しゃーないなぁ」
そのままでは到底、中庭に辿り着けそうにない。
仕方なくフォコは、兵士を一人捕まえた。
「なあ、ちょっとお願いあるんやけど」
「な、何者だ!?」
「お小遣い、欲しない?」
「……はあ?」
「服、1万ガニーで買わせてもろてええやろか」
「……い、1万?」
フォコは通りすがりの兵士から装備を買い、それを着込んでマフスたちを先導することにした。
「これなら、とっても自然ですね」
「これですんなり進めるでしょう」
マフスの言葉通り、その後はすれ違う兵士に怯えることもなく、三人は宮殿西側の庭園に到着できた。
中庭に入ったところで、三人は水路べりに置かれた椅子に、国王シャフルが沈鬱な表情を浮かべて座っているのを見つけた。
「なんじゃ、騒々しい。ここには誰も入るなと……」
顔を挙げ、注意しようとしたシャフルの声が、途中で止まる。
「……マフシード! 無事であったか!」
シャフルは椅子から立ち上がり――かけて、椅子に足を引っかけてしまう。
「う、おぉ、……おわぁっ」
シャフルは体勢を崩し、水路の中に尻餅をついてしまった。
「ち、父上!」
「……だ、大丈夫だ、我が娘よ。……ははは、これは情けないところを見せてしまったわい」
駆け寄ってきたマフスに手を借りながら、シャフルは水路から這い上がる。
「……うん? 君の顔は……、見覚えがある。確か、メフルと、あの狼商人たちと話していたような……」
フォコは軍帽を脱ぎ、シャフルに会釈してみせた。
「ええ、火紅・ソレイユです。
諸事情により、このベール島から、島流しに遭いまして」
「島流し……?」
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王宮への帰還。
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5.
時間は、フォコたちがアミルを返り討ちにした直後に戻る。
セノクの暗躍を見破ったフォコたちはアミルを従え、ビブロンへと戻った。
だが、すぐ宮殿に入ろうとはせず、フォコは街の外れで皆を止めた。
「どうしたんだ、ホコウ? どうしてこんなところへ……?」
「例えばまっすぐ、宮殿へ行ったとします。ほんで、国王陛下に『あんたの弟さん、最低の悪人やで』と暴露して、それが広まったとしますわ。
セノクは、どうしはるでしょうな」
「まあ、逃げるだろうな。大人しく捕まってくれれば、上々だけど」
「何が上々や。そんなもん、下の下やて」
トリペ以降、アミルは散々フォコにこき下ろされており、アミルは憮然とした表情を浮かべる。
「……はいはい、どうせ俺の意見なんてダメだってことだろ」
「ダメなことばっかり言うからや。
ま、ともかく。このまま逃がしても捕まえても、それは何の得にもなりません。単に、レヴィアへの直行ルートが閉じるだけですわ」
「……あ、なるほど」
フォコの言いたいことに気付き、マフスが手を挙げる。
「普通なら敵国の船など、自国に入れたりはしませんものね。でもセノク叔父様であれば、向こうと密通しているから……」
「体面上、航行の途中で多少の代理や隠れ蓑は使うでしょうが、最終的にはすんなり、自国内に入れてくれるはずです。
これを利用せえへん手はありません。少し策を講じて、ベール軍をレヴィア島内にねじ込ませられへんか、検討しよかと思いまして」
「ってコトは、セノクに見つからず、かつ、軍を動かせる最大の権限を持つ人間、平たく言や国王サマに、直で会う必要があるってコトだね」
モールの回答に、フォコは深くうなずいた。
「その通りです。そして同時にもう一つ、僕たちがやるべきことがあります」
「と言うと?」
「セノクは十中八九、利殖で得た金をレヴィア王国へ持って行ってます。
ベールがこのまま戦争に負け、崩壊した後、確実にセノクはレヴィアへ亡命するでしょうし、折角得た大金を持って行かへんわけがない。
とは言え、僕の試算では恐らく、その額は4億か、5億ガニーと思われます。そんな額を一回で持って行ける大きさの船は、ベールの主力艦クラスくらいです。しかし護国卿の地位にあるとは言え、セノクが私用で、しかも敵地へホイホイ行くなんちゅう滅茶苦茶な用事で、主力艦を使えるわけがありません。
となれば金塊やら何やら、もっと小さなものに換えて私有の船に乗せ、何回かに分けてレヴィアへ……、っちゅうのんが、妥当な線ですやろな」
「その船を抑えろ、と言うことですね。……そして、利用する、と」
「その通りです。何しろセノクが自ら、敵地のど真ん中へと案内してくれる直行便――こんな美味しいものを利用せえへんとか、ありえませんわ」
フォコとマフス、イサンの三人は、密かにベール宮殿へ侵入した。
「とにかくセノクと、セノクの配下に見つかったらおしまいですからな。そーっと、王様んところへ行かなあきません」
「それならいい場所があります。宮殿の西側にある中庭。ここは父上以外、立ち入ることを許されていません。わたしや、他の王族でも入るのを嫌う場所です」
「そりゃ、うってつけだ」
情勢が混乱しているためか、宮殿内には至る所に兵士たちが集まっている。
「おっとと」
角を一つ曲がる度、兵士と鉢合わせしそうになる。
「めんどくせえなぁ。やっちまうか?」
「アホ、騒ぎを増やしてどないすんねん。……しゃーないなぁ」
そのままでは到底、中庭に辿り着けそうにない。
仕方なくフォコは、兵士を一人捕まえた。
「なあ、ちょっとお願いあるんやけど」
「な、何者だ!?」
「お小遣い、欲しない?」
「……はあ?」
「服、1万ガニーで買わせてもろてええやろか」
「……い、1万?」
フォコは通りすがりの兵士から装備を買い、それを着込んでマフスたちを先導することにした。
「これなら、とっても自然ですね」
「これですんなり進めるでしょう」
マフスの言葉通り、その後はすれ違う兵士に怯えることもなく、三人は宮殿西側の庭園に到着できた。
中庭に入ったところで、三人は水路べりに置かれた椅子に、国王シャフルが沈鬱な表情を浮かべて座っているのを見つけた。
「なんじゃ、騒々しい。ここには誰も入るなと……」
顔を挙げ、注意しようとしたシャフルの声が、途中で止まる。
「……マフシード! 無事であったか!」
シャフルは椅子から立ち上がり――かけて、椅子に足を引っかけてしまう。
「う、おぉ、……おわぁっ」
シャフルは体勢を崩し、水路の中に尻餅をついてしまった。
「ち、父上!」
「……だ、大丈夫だ、我が娘よ。……ははは、これは情けないところを見せてしまったわい」
駆け寄ってきたマフスに手を借りながら、シャフルは水路から這い上がる。
「……うん? 君の顔は……、見覚えがある。確か、メフルと、あの狼商人たちと話していたような……」
フォコは軍帽を脱ぎ、シャフルに会釈してみせた。
「ええ、火紅・ソレイユです。
諸事情により、このベール島から、島流しに遭いまして」
「島流し……?」
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