「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・離海記 3
フォコの話、195話目。
島流しのラブストーリー。
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3.
ベール王国にとって最大の反逆者となったセノクもまた、アリバラク刑務所に収監されていた。
本来ならばアミル同様に終身刑を言い渡され、そのまま死ぬまで牢の中にいるはずだったが――。
「そうもいかんでしょうな。そら、敵国の女王に求婚し、裏切りよったアホですが……」
ベール王国、宮殿において、フォコとマフス、そしてシャフルとが、セノクの処遇を検討していた。
「護国卿としての、南海戦争勃発までの働きは確かであった。そして、ベール王国がトリペ撤退以上の憂き目を見なかったのも結局、セノクの功績によるところが大きい」
「戦争以前にも、南海諸国との連携・協調など、叔父様の外交力に助けられた事例は数多くあります。
確かに今回の一件は許されざるべきものですけれど、その一件のみを追及し、取り沙汰すのは……」
「ええ、分かってます。……となると、まあ、どこかの島へ軟禁、と言うのが妥当な刑やろかと思います」
フォコの意見に、全員が同意した。
「ふむ。わしもそれが、適当かと思う」
「……それなら、一つ案がございます。もう一つ、懸念していた件に関して」
「と言うと……?」
数日後、セノクは刑務所から出され、すぐ船へ乗せられた。
「……」
淀んだ目をするセノクに、同乗したフォコとマフスが話を始める。
「あの、叔父様。終戦後、敵国レヴィアの領地を占領する際に、敵の方と交渉したり、事情を聞いたりする機会が何度かあったのですが」
「……」
「そん中で聞いたで、女王に求婚したっちゅう話」
「……」
セノクは無表情なままだ。そこで軽く、フォコが挑発する。
「残念やったな。うまく行けば、世紀の略奪婚になったやろうに」
「……っ」
そこでようやく、セノクが顔を挙げた。
「貴様にそんなことを言われる筋合いは無い……ッ」
「せやろな。僕があんたの目論見、潰したんやし。
ま、こっちもこっちで信念を通させてもろたんや。……もう全部終わったんやし、何がいいとか何が悪いとか、もう言わんとき」
「勝手なことを抜かすなッ! ……貴様さえ、貴様さえいなければ!」
セノクは両手足に枷をはめられたまま、無理矢理に立ち上がる。だがフォコにつかみかかろうにも、手を伸ばしきれず、ばたりと床へ倒れ込む。
「く、……くそっ、くそおッ!」
「同じことは、いくらでも言えるやろ?
あんたがおらんかったらメフルさんは死なへんかったし、アミルもアホなことせえへんかったやろうし。
な、もう言わんとき。キリが無いで」
「……ッ」
セノクはフォコをにらみつけたまま席へ戻り、それきり口を閉ざした。
やがて船は、ある小島に到着した。
「改めて叔父様、……いいえ、セノク卿。あなたに、罪状と処罰を言い渡します。
セノク・キアン・ベール。あなたはベール王国に対する重反逆罪と人身売買、そして敵国との密約を結んでいた罪により、実刑として、この島に50年の軟禁とします」
「……」
そこでマフスがセノクの拘束を解き、続けてこう言った。
「そしてもう一つ、護国卿としてのこれまでの功績に免じ、この地において要人の監視を行ってください。
それがあなたに命じられた、最後の任務です」
「……要人の、監視?」
怪訝な顔をしたセノクに、マフスはぼそ、と耳打ちする。
「……!」
セノクが目を丸くしている間に、マフスとフォコ、そして護送船は島を離れていった。
セノクは姪に耳打ちされたことが事実であるか確かめようと、島の北へと急いだ。
元々、島は観光用に開発されていたらしく、あちこちにその頃の名残を残す廃墟が並んでいた。
(恐らくはあの『狐』が、南海からスパス系を追い出していた頃に買い取り、そのまま廃業させたのだろうな)
それでも道は荒れておらず、北の丘にある大きな廃宿に到着するまで、5分とかからなかった。
「……? この景色、……どこかで」
マリーナ跡や廃墟では気付かなかったが、丘を上りきったところで、セノクは既視感を覚える。
そして、丘の上にぽつぽつと立つ蜜柑の木から来る香りが、セノクの記憶を蘇らせた。
(……彼の、……クリオの名残がある。
そうか、ここはナラン島だったのか。……確かに、一度来たことがある。恐らくこの建物、元は彼の屋敷――砂猫楼が建っていた場所か)
と、廃宿の奥から声が飛んでくる。
「……お主、か?」
その声にセノクの、先の千切れた尻尾がピンと立った。
「……アイシャ!」
「やはりお主であったか」
奥から出てきたのは、化粧も豪奢な身なりもしていない、平民の服を着たすっぴんのアイシャだった。
「……その姿」
「ははは……。敗北した国の王族なぞ、この扱いで十分じゃ。週に一度は物も届くと言うし、妾は却って、この生活に満足しておる」
城にいた時とは打って変わって、アイシャはコロコロとよく笑っている。
「もう国の体面を保つ重責にも耐えることはないし、何よりケネスの下品な顔も見ないで済むのは、とても良い。
その上、妾の愛らしい子供たちと引きはがされることもなく、共に暮らせる、と。さらには……」
アイシャはセノクの手を取り、嬉しそうに微笑んだ。
「こんな良い男が、妾を守ってくれると言うのじゃ。何の不満があろうか」
「……」
セノクは突然、アイシャを強く抱きしめた。
「お、おお? なんぞ、突然」
「……見守る者は誰一人いないし、祝福もされない。何ひとつ、与えることができない。……しかし、それでも。
アイシャ・レヴィア女王陛下。お願いだ、私と結婚してくれ」
「……うふふふ」
アイシャは小さく笑い、こう返した。
「『女王』や『陛下』はもうよい。……以後は普通にアイシャと呼ぶがよい、旦那様よ」
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ベール王国にとって最大の反逆者となったセノクもまた、アリバラク刑務所に収監されていた。
本来ならばアミル同様に終身刑を言い渡され、そのまま死ぬまで牢の中にいるはずだったが――。
「そうもいかんでしょうな。そら、敵国の女王に求婚し、裏切りよったアホですが……」
ベール王国、宮殿において、フォコとマフス、そしてシャフルとが、セノクの処遇を検討していた。
「護国卿としての、南海戦争勃発までの働きは確かであった。そして、ベール王国がトリペ撤退以上の憂き目を見なかったのも結局、セノクの功績によるところが大きい」
「戦争以前にも、南海諸国との連携・協調など、叔父様の外交力に助けられた事例は数多くあります。
確かに今回の一件は許されざるべきものですけれど、その一件のみを追及し、取り沙汰すのは……」
「ええ、分かってます。……となると、まあ、どこかの島へ軟禁、と言うのが妥当な刑やろかと思います」
フォコの意見に、全員が同意した。
「ふむ。わしもそれが、適当かと思う」
「……それなら、一つ案がございます。もう一つ、懸念していた件に関して」
「と言うと……?」
数日後、セノクは刑務所から出され、すぐ船へ乗せられた。
「……」
淀んだ目をするセノクに、同乗したフォコとマフスが話を始める。
「あの、叔父様。終戦後、敵国レヴィアの領地を占領する際に、敵の方と交渉したり、事情を聞いたりする機会が何度かあったのですが」
「……」
「そん中で聞いたで、女王に求婚したっちゅう話」
「……」
セノクは無表情なままだ。そこで軽く、フォコが挑発する。
「残念やったな。うまく行けば、世紀の略奪婚になったやろうに」
「……っ」
そこでようやく、セノクが顔を挙げた。
「貴様にそんなことを言われる筋合いは無い……ッ」
「せやろな。僕があんたの目論見、潰したんやし。
ま、こっちもこっちで信念を通させてもろたんや。……もう全部終わったんやし、何がいいとか何が悪いとか、もう言わんとき」
「勝手なことを抜かすなッ! ……貴様さえ、貴様さえいなければ!」
セノクは両手足に枷をはめられたまま、無理矢理に立ち上がる。だがフォコにつかみかかろうにも、手を伸ばしきれず、ばたりと床へ倒れ込む。
「く、……くそっ、くそおッ!」
「同じことは、いくらでも言えるやろ?
あんたがおらんかったらメフルさんは死なへんかったし、アミルもアホなことせえへんかったやろうし。
な、もう言わんとき。キリが無いで」
「……ッ」
セノクはフォコをにらみつけたまま席へ戻り、それきり口を閉ざした。
やがて船は、ある小島に到着した。
「改めて叔父様、……いいえ、セノク卿。あなたに、罪状と処罰を言い渡します。
セノク・キアン・ベール。あなたはベール王国に対する重反逆罪と人身売買、そして敵国との密約を結んでいた罪により、実刑として、この島に50年の軟禁とします」
「……」
そこでマフスがセノクの拘束を解き、続けてこう言った。
「そしてもう一つ、護国卿としてのこれまでの功績に免じ、この地において要人の監視を行ってください。
それがあなたに命じられた、最後の任務です」
「……要人の、監視?」
怪訝な顔をしたセノクに、マフスはぼそ、と耳打ちする。
「……!」
セノクが目を丸くしている間に、マフスとフォコ、そして護送船は島を離れていった。
セノクは姪に耳打ちされたことが事実であるか確かめようと、島の北へと急いだ。
元々、島は観光用に開発されていたらしく、あちこちにその頃の名残を残す廃墟が並んでいた。
(恐らくはあの『狐』が、南海からスパス系を追い出していた頃に買い取り、そのまま廃業させたのだろうな)
それでも道は荒れておらず、北の丘にある大きな廃宿に到着するまで、5分とかからなかった。
「……? この景色、……どこかで」
マリーナ跡や廃墟では気付かなかったが、丘を上りきったところで、セノクは既視感を覚える。
そして、丘の上にぽつぽつと立つ蜜柑の木から来る香りが、セノクの記憶を蘇らせた。
(……彼の、……クリオの名残がある。
そうか、ここはナラン島だったのか。……確かに、一度来たことがある。恐らくこの建物、元は彼の屋敷――砂猫楼が建っていた場所か)
と、廃宿の奥から声が飛んでくる。
「……お主、か?」
その声にセノクの、先の千切れた尻尾がピンと立った。
「……アイシャ!」
「やはりお主であったか」
奥から出てきたのは、化粧も豪奢な身なりもしていない、平民の服を着たすっぴんのアイシャだった。
「……その姿」
「ははは……。敗北した国の王族なぞ、この扱いで十分じゃ。週に一度は物も届くと言うし、妾は却って、この生活に満足しておる」
城にいた時とは打って変わって、アイシャはコロコロとよく笑っている。
「もう国の体面を保つ重責にも耐えることはないし、何よりケネスの下品な顔も見ないで済むのは、とても良い。
その上、妾の愛らしい子供たちと引きはがされることもなく、共に暮らせる、と。さらには……」
アイシャはセノクの手を取り、嬉しそうに微笑んだ。
「こんな良い男が、妾を守ってくれると言うのじゃ。何の不満があろうか」
「……」
セノクは突然、アイシャを強く抱きしめた。
「お、おお? なんぞ、突然」
「……見守る者は誰一人いないし、祝福もされない。何ひとつ、与えることができない。……しかし、それでも。
アイシャ・レヴィア女王陛下。お願いだ、私と結婚してくれ」
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