「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・離海記 4
フォコの話、196話目。
組織とトップの有り様。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
南海戦争の終結から、三か月が経った頃。
マフスはビブロンの街外れで、モールと並んで歩くフォコを見かけた。
「あ、……」
声をかけようかと迷ったが、そのままフォコたちに気付かれないように、話を聞くことにした。
フォコたちは港へ出て、堤防の辺りで腰を下ろした。
「……で、これからどうするね?」
モールの問いに、フォコはこう答えた。
「西方へ行こかと思てます。……でも」
「でも?」
フォコはひどく冷めた口調で、こう続ける。
「人手が足りません。もっと役に立つ人材が、必要です」
「私じゃ不足かね」
「いいえ、モールさんは非常に得難い人材です。手放すのは非常に惜しい」
「もっとほしい、ってコトかね」
「ええ。……今回の件で、僕は痛感しました。優れた人材のいない組織は、たやすく崩壊すると。
縁故や馴れ合いで作った組織は、それは確かに居心地はいいし、話もトントン進むから動きもいい。でも、それだけやったら、組織としては不完全なんでしょうな。ちょっとした横槍ですぐに瓦解する。そして、すぐに分裂し、争い、互いに死んでいく。
……僕の目指した理想は、あまりにも独りよがりで、みんなのレベルを考えていなかった。だからこそ、目先の利欲や感情につられてしまったんだろうと思います」
「だねぇ」
フォコは自分の狐尻尾を膝に乗せ、ふかふかと撫でながら、こう結論付けた。
「組織には目的と、そして連帯と人材が必要です。
人材が無ければ目的は達成できない。連帯が無ければ、目的へ進めない。
今回、僕が築き上げたロクシルム―ベールと言う組織には、掲げた目的があまりに高すぎた。そして僕に引っ張られる形であったために、連帯は無かった。……そして、そもそも」
マフスはフォコの、次の言葉に、胸がひどく傷んだ。
「人材も無かった。低俗なアミル、自分勝手なメフルさん、行動力のないマフスさん、そしてずっと傍観者でいたランニャやロックスさん。
振り返れば、ひどい要素が揃っていた。そう思います」
「……っ」
マフスは物陰から立ち上がり、フォコをなじろうとした。
だがマフスが立ち上がりかけたところで、モールが代わりにフォコを叱る。
「君ね、よく考えてモノを言いな。ソレがそもそも、組織をバラバラにした原因かも知れないよ」
「えっ?」
「君が自分で言ったコトだけど、独りよがりすぎるね。自分の理想と都合ばかりを優先させて、他人には無理無理、付いて来いって姿勢。
そりゃ、君から人が離れていくに決まってるさ」
「……そうかも知れません」
「かも知れない、じゃない。そうなんだ。
大体、『もっと人材を』、『ひどい要素が揃ってた』って、自分、ナニサマのつもりさ? 私に言わせりゃ、君だってひどい人材だね。
君はよく、口じゃ謙遜してるけども、本当のところ、自分が誰より一番と思ってるんじゃないね?」
「……」
「なるほど、確かにどん底から何度も這い上がって逆転勝利を決めた、凄腕の博打師。奇想天外なアイデアで国を一つ二つ立ち直させた大々商人サマだ。
でもそれが即ち、全人類の中でランキング立てて、第一位になる器である理由だって? んなバカな話は無いね。そんなコトは、ドコの誰にも決められやしないんだ。
この世にあまねく全人類に言えるコト、それは――自分が一番とか、自分が最悪だとか――そんな順位を決められる権利は、自分自身を含めて、誰にも無いってコトさ。
君はカミサマでもアクマでもない。ただのニンゲンだ。皆もそう思ってるし、だからこそ君がいなくなれば、君の組織は瓦解するのさ」
「……」
フォコは顔を伏せ、黙り込んだ。
「他人を無闇に悪く言っちゃいけないね。誰にだって長所と短所、特長と欠点があって当たり前なんだから。
他人の悪い点ばかりベラベラあげつらう奴がトップにいる組織なんて、誰だって居たくなんかないさ」
モールはポンポンと、フォコの頭を撫でた。
「……『誰も』聞いてなくて良かったね。もし君が、公衆の面前で同じコトを言っていれば、君の人望なんてその瞬間にポン、だね」
「……反省します」
「これからはもっと、自分の身の程と、他人のコトを思いやって組織を作りな。私に言わせりゃ、ソレが組織づくりのコツだね」
「気を付けます……」
「おう」
モールはひょい、と立ち上がり、もう一言付け加えた。
「ま、そんでもさ。確かに人手は多い方がいいね。コレから先、何が起こるかなんて分かりゃしないんだし。
いざって時に誰が活躍するかなんて、賢者の私でも分からないからね。……ま、一緒に来てくれるって奴がいたら、大事にした方がいいね」
そう言って――モールは物陰に隠れていたマフスに、ちょん、とウインクした。
「……あゎゎ」
マフスは慌てて、そのまま港から離れていった。
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4.
南海戦争の終結から、三か月が経った頃。
マフスはビブロンの街外れで、モールと並んで歩くフォコを見かけた。
「あ、……」
声をかけようかと迷ったが、そのままフォコたちに気付かれないように、話を聞くことにした。
フォコたちは港へ出て、堤防の辺りで腰を下ろした。
「……で、これからどうするね?」
モールの問いに、フォコはこう答えた。
「西方へ行こかと思てます。……でも」
「でも?」
フォコはひどく冷めた口調で、こう続ける。
「人手が足りません。もっと役に立つ人材が、必要です」
「私じゃ不足かね」
「いいえ、モールさんは非常に得難い人材です。手放すのは非常に惜しい」
「もっとほしい、ってコトかね」
「ええ。……今回の件で、僕は痛感しました。優れた人材のいない組織は、たやすく崩壊すると。
縁故や馴れ合いで作った組織は、それは確かに居心地はいいし、話もトントン進むから動きもいい。でも、それだけやったら、組織としては不完全なんでしょうな。ちょっとした横槍ですぐに瓦解する。そして、すぐに分裂し、争い、互いに死んでいく。
……僕の目指した理想は、あまりにも独りよがりで、みんなのレベルを考えていなかった。だからこそ、目先の利欲や感情につられてしまったんだろうと思います」
「だねぇ」
フォコは自分の狐尻尾を膝に乗せ、ふかふかと撫でながら、こう結論付けた。
「組織には目的と、そして連帯と人材が必要です。
人材が無ければ目的は達成できない。連帯が無ければ、目的へ進めない。
今回、僕が築き上げたロクシルム―ベールと言う組織には、掲げた目的があまりに高すぎた。そして僕に引っ張られる形であったために、連帯は無かった。……そして、そもそも」
マフスはフォコの、次の言葉に、胸がひどく傷んだ。
「人材も無かった。低俗なアミル、自分勝手なメフルさん、行動力のないマフスさん、そしてずっと傍観者でいたランニャやロックスさん。
振り返れば、ひどい要素が揃っていた。そう思います」
「……っ」
マフスは物陰から立ち上がり、フォコをなじろうとした。
だがマフスが立ち上がりかけたところで、モールが代わりにフォコを叱る。
「君ね、よく考えてモノを言いな。ソレがそもそも、組織をバラバラにした原因かも知れないよ」
「えっ?」
「君が自分で言ったコトだけど、独りよがりすぎるね。自分の理想と都合ばかりを優先させて、他人には無理無理、付いて来いって姿勢。
そりゃ、君から人が離れていくに決まってるさ」
「……そうかも知れません」
「かも知れない、じゃない。そうなんだ。
大体、『もっと人材を』、『ひどい要素が揃ってた』って、自分、ナニサマのつもりさ? 私に言わせりゃ、君だってひどい人材だね。
君はよく、口じゃ謙遜してるけども、本当のところ、自分が誰より一番と思ってるんじゃないね?」
「……」
「なるほど、確かにどん底から何度も這い上がって逆転勝利を決めた、凄腕の博打師。奇想天外なアイデアで国を一つ二つ立ち直させた大々商人サマだ。
でもそれが即ち、全人類の中でランキング立てて、第一位になる器である理由だって? んなバカな話は無いね。そんなコトは、ドコの誰にも決められやしないんだ。
この世にあまねく全人類に言えるコト、それは――自分が一番とか、自分が最悪だとか――そんな順位を決められる権利は、自分自身を含めて、誰にも無いってコトさ。
君はカミサマでもアクマでもない。ただのニンゲンだ。皆もそう思ってるし、だからこそ君がいなくなれば、君の組織は瓦解するのさ」
「……」
フォコは顔を伏せ、黙り込んだ。
「他人を無闇に悪く言っちゃいけないね。誰にだって長所と短所、特長と欠点があって当たり前なんだから。
他人の悪い点ばかりベラベラあげつらう奴がトップにいる組織なんて、誰だって居たくなんかないさ」
モールはポンポンと、フォコの頭を撫でた。
「……『誰も』聞いてなくて良かったね。もし君が、公衆の面前で同じコトを言っていれば、君の人望なんてその瞬間にポン、だね」
「……反省します」
「これからはもっと、自分の身の程と、他人のコトを思いやって組織を作りな。私に言わせりゃ、ソレが組織づくりのコツだね」
「気を付けます……」
「おう」
モールはひょい、と立ち上がり、もう一言付け加えた。
「ま、そんでもさ。確かに人手は多い方がいいね。コレから先、何が起こるかなんて分かりゃしないんだし。
いざって時に誰が活躍するかなんて、賢者の私でも分からないからね。……ま、一緒に来てくれるって奴がいたら、大事にした方がいいね」
そう言って――モールは物陰に隠れていたマフスに、ちょん、とウインクした。
「……あゎゎ」
マフスは慌てて、そのまま港から離れていった。
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