「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・訪南記 2
フォコの話、200話目。
王朝の横暴と商人の影。
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2.
穂村少佐は、ランドに央南の政治事情を詳しく説明してくれた。
「中央政府の本拠は中央大陸北部、即ちウォールロック山脈より北の土地にあることはご存じであろう」
「ええ」
「『向こう』の神話と主張によれば、この世界を統べているのは『天帝』と称される、神の末裔たちであるとのこと。
そして事実、双月暦1世紀の頃に、初代のゼロ・タイムズ帝が中央各地に己の名代を置き、他の大陸との協定を結ぶことで、世界平定を成したと言う。
成程、世界平和は全人類の願いとも言えよう。それをはるか昔に成したと言うのなら、確かに神業。神にしかできぬ、いやむしろ、成した者は神と呼ばれよう。
が、それはそれとして……」
そこで穂村少佐は、顔をくしゃくしゃに歪ませる。
「それから三百余年を経た今、その神の御利益なぞどこにあろうか!
今、我々央南の民の上に居座る名代は、腐り果てている! 特に近年、中央政府の軍事力と、どこぞの商人の財力と武具を笠に着て、下の者を虐げているのだ!」
「ふむ。具体的には、どのようなことを?」
「最も目に付くのが、税だ。この4年の間に、既存の税制は異様に高い率を要求するようになった。最も基盤、民が直に王朝へ納める税は、4年前の5倍にもなる」
「5倍? ……それはまた、無茶苦茶な話ですね」
「それだけではない。商いをしている者への税負担も、3倍、4倍と、落ち着く様子を見せぬ。
さらには各地へ関所や壁を乱立させ、その一つ一つに通行税を設けている。清王朝はどこまでも民を食い物にしようとしているのが、ありありと見えてくる」
「清(せい)?」
「先程述べた、中央政府の名代一族だ。現在の王、清一豊の代になって以降、その税制改悪は進む一方だ」
話を聞いていたランドは、首をかしげる。
「その、集めた税金。恐らくはそのカズトミ国王や、その一族の懐に入ると推察されますが、……何が目的なのでしょうね?」
「現在の一豊王は、はっきり言ってしまえば愚君だ。であるからして、単純に考えればただの遊興目的ではないかとも推察できる。
だが、それだけでは済まない要素が、1年ほど前から発生したのだ」
「それは何です?」
「軍備だ。清王朝の本拠、白京(はくけい)の壁の厚さは、他の地域よりも殊更に重厚長大となっている。それに加え、毎日のように鉄鉱石や木材が運び込まれ、同時に徴兵も頻繁に行われるようになった。
拙者はその光景に不安を感じ、密かに王朝の本意を探った。そこで判明したのが……」
穂村少佐は怒りに満ちた目を、ランドに見せた。
「あろうことか、他地域への侵略を行おうとしていたのだ! そう、中央政府のある央北と、その支配下にある央中へ!」
「なん……、ですって?」
ランドは頭を整理しようと、これまでの話を聞き返した。
「しかし少佐、清王朝は中央政府の名代だと言っていたじゃないですか? それが何故、刃を向けるような行動を?」
「その話も、非常に厄介な事情が絡んでくる。清王朝は近年、さる西方の商人と懇意にしているのだが、その商人が軍備増強と離反とを唆したようなのだ」
「その商人と言うのは……?」
「サザリー・エールと言う兎獣人の男だ。
このサザリーと言う男は中央政府や中央の商人たちに対し、莫大な額の債務を、わざと作っているのだ」
「つまり多額の借金を、貸主を殺すことで踏み倒そうと言うわけですか」
話を聞いたランドは、そのサザリーと言う人物に嫌悪感を覚えた。
「そう言うことだ。だが、この計画が成功するとは、拙者には到底思えぬ。反逆を企てた清家は完膚なきまでに叩かれ、恐らく央南は壊滅的な被害を被ることとなろう。
拙者はそれを、放って見ているつもりも、ましてや、清王朝付きの軍人として加担するつもりもない。拙者は前述の本拠、湯嶺へ私財と家族、配下の兵を移し、近隣の権力者や軍基地へこの情報を流し、清王朝への反乱軍として蹶起(けっき)した。
が――そこからが問題だ。拙者がつかみ、公表したこの情報を、清王朝は当然、否定した。その上で拙者を、『侫言(ねいげん)を流布して清王朝転覆を企む逆賊』とそしり、拙者らを逆に、中央政府の敵だと告げ口したのだ」
「告げ口って……、中央政府に、ですか」
「うむ。それにより、拙者らは清王朝の他に、中央政府とも戦わねばならなくなった。
このままでは物量、世論の面で、拙者らは非常に不利を強いられる。そこで中央政府にも清王朝にも、西方にも関係のない、お主らを頼ったと言うわけだ」
「なるほど、そうですか……、うーん……」
事情を聞き終えたランドは、腕を組んで深くうなった。
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王朝の横暴と商人の影。
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2.
穂村少佐は、ランドに央南の政治事情を詳しく説明してくれた。
「中央政府の本拠は中央大陸北部、即ちウォールロック山脈より北の土地にあることはご存じであろう」
「ええ」
「『向こう』の神話と主張によれば、この世界を統べているのは『天帝』と称される、神の末裔たちであるとのこと。
そして事実、双月暦1世紀の頃に、初代のゼロ・タイムズ帝が中央各地に己の名代を置き、他の大陸との協定を結ぶことで、世界平定を成したと言う。
成程、世界平和は全人類の願いとも言えよう。それをはるか昔に成したと言うのなら、確かに神業。神にしかできぬ、いやむしろ、成した者は神と呼ばれよう。
が、それはそれとして……」
そこで穂村少佐は、顔をくしゃくしゃに歪ませる。
「それから三百余年を経た今、その神の御利益なぞどこにあろうか!
今、我々央南の民の上に居座る名代は、腐り果てている! 特に近年、中央政府の軍事力と、どこぞの商人の財力と武具を笠に着て、下の者を虐げているのだ!」
「ふむ。具体的には、どのようなことを?」
「最も目に付くのが、税だ。この4年の間に、既存の税制は異様に高い率を要求するようになった。最も基盤、民が直に王朝へ納める税は、4年前の5倍にもなる」
「5倍? ……それはまた、無茶苦茶な話ですね」
「それだけではない。商いをしている者への税負担も、3倍、4倍と、落ち着く様子を見せぬ。
さらには各地へ関所や壁を乱立させ、その一つ一つに通行税を設けている。清王朝はどこまでも民を食い物にしようとしているのが、ありありと見えてくる」
「清(せい)?」
「先程述べた、中央政府の名代一族だ。現在の王、清一豊の代になって以降、その税制改悪は進む一方だ」
話を聞いていたランドは、首をかしげる。
「その、集めた税金。恐らくはそのカズトミ国王や、その一族の懐に入ると推察されますが、……何が目的なのでしょうね?」
「現在の一豊王は、はっきり言ってしまえば愚君だ。であるからして、単純に考えればただの遊興目的ではないかとも推察できる。
だが、それだけでは済まない要素が、1年ほど前から発生したのだ」
「それは何です?」
「軍備だ。清王朝の本拠、白京(はくけい)の壁の厚さは、他の地域よりも殊更に重厚長大となっている。それに加え、毎日のように鉄鉱石や木材が運び込まれ、同時に徴兵も頻繁に行われるようになった。
拙者はその光景に不安を感じ、密かに王朝の本意を探った。そこで判明したのが……」
穂村少佐は怒りに満ちた目を、ランドに見せた。
「あろうことか、他地域への侵略を行おうとしていたのだ! そう、中央政府のある央北と、その支配下にある央中へ!」
「なん……、ですって?」
ランドは頭を整理しようと、これまでの話を聞き返した。
「しかし少佐、清王朝は中央政府の名代だと言っていたじゃないですか? それが何故、刃を向けるような行動を?」
「その話も、非常に厄介な事情が絡んでくる。清王朝は近年、さる西方の商人と懇意にしているのだが、その商人が軍備増強と離反とを唆したようなのだ」
「その商人と言うのは……?」
「サザリー・エールと言う兎獣人の男だ。
このサザリーと言う男は中央政府や中央の商人たちに対し、莫大な額の債務を、わざと作っているのだ」
「つまり多額の借金を、貸主を殺すことで踏み倒そうと言うわけですか」
話を聞いたランドは、そのサザリーと言う人物に嫌悪感を覚えた。
「そう言うことだ。だが、この計画が成功するとは、拙者には到底思えぬ。反逆を企てた清家は完膚なきまでに叩かれ、恐らく央南は壊滅的な被害を被ることとなろう。
拙者はそれを、放って見ているつもりも、ましてや、清王朝付きの軍人として加担するつもりもない。拙者は前述の本拠、湯嶺へ私財と家族、配下の兵を移し、近隣の権力者や軍基地へこの情報を流し、清王朝への反乱軍として蹶起(けっき)した。
が――そこからが問題だ。拙者がつかみ、公表したこの情報を、清王朝は当然、否定した。その上で拙者を、『侫言(ねいげん)を流布して清王朝転覆を企む逆賊』とそしり、拙者らを逆に、中央政府の敵だと告げ口したのだ」
「告げ口って……、中央政府に、ですか」
「うむ。それにより、拙者らは清王朝の他に、中央政府とも戦わねばならなくなった。
このままでは物量、世論の面で、拙者らは非常に不利を強いられる。そこで中央政府にも清王朝にも、西方にも関係のない、お主らを頼ったと言うわけだ」
「なるほど、そうですか……、うーん……」
事情を聞き終えたランドは、腕を組んで深くうなった。
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200話到達。
一見順調と見えますが、実は4部で苦労してました。
4部は乱暴な展開が多く、書いた本人が辟易してました。
200話到達。
一見順調と見えますが、実は4部で苦労してました。
4部は乱暴な展開が多く、書いた本人が辟易してました。



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