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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・訪南記 4

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    フォコの話、202話目。
    大大陸の南の地。

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    4.
     穂村少佐がジーン王国を訪ねてから、2か月後。
    「……あー、蒸し暑っ!」
     船を降りるなり、イールは上着をはぎ取った。
    「確かに暑いね。まあ、北方からあれだけ南下すれば、当然と言えば当然だけど」
     ランドも額の汗を拭きつつ、イールに応じる。
    「空の青色が濃いね。何て言うか、熱気が凝縮してる感じだ」
    「そうね。向こうの3倍くらい、『夏っ』って感じ」

     ランド一行がまず到着したのは、央南最北端の街、青江(せいこう)である。
     この街は西大海洋――中央大陸東沖と、北方大陸の南に広がる大きな海に面しており、他の国や地域との玄関、交易地となっている。
     ここからまた海路を使い、穂村少佐の本拠である湯嶺へ向かうのだが――。

    「あぢぃ……」
    「うへぁー……」
     北国出身のイールとレブは、央南の地に着くなりへばってしまった。
    「……うーん、もっと涼しい格好をすれば良かったかな」
     ランドも長い間北方にいたため、久々の強い日差しに多少辟易している。
    「……」
     一方、大火はいつも通りに黒いコートに身を包み、平然としていた。
    「暑くないの?」
     イールにそう尋ねられたが、大火は無言で、肩をすくめて返す。
    「やっぱあんた、央南人なのね。故郷の空気だから、そんなに気になんないんでしょ」
    「さあな」



     ともかく、北方で着ていたような服装では、暑くてたまらない。
     一行は近くの店を回り、央南の服――一般に、「和装」と呼ばれる衣服――を買った。
    「……頼りねぇー」
    「そうね。ベルトに金具付いてないし、なんかスカスカするし」
     と、ランドたち三人の着こなしを見ていた店員が、ケラケラと笑っている。
    「外人のお客さん、帯の位置が高すぎるよ。それは腰で巻くんだ。後、結び方も変」
    「え?」
    「ここ、ここ。ここで結ぶの」
     店員に和装の着付けを習っている間、ランドは一人、壁に寄り掛かって押し黙る大火に目をやる。
    「……」
     大火は特に、どこに目をやろうともせず、腕を組んで目をつむっている。
    (……全然懐かしそうな感じじゃないな。ここはまだ彼の故郷から遠いのか、……それとも、央南自体が全然、彼の故郷じゃないのか)
     と、ランドの視線に気付いたらしく、大火が顔を向ける。
    「なんだ?」
    「君は、……央南のどこ、出身なの?」
    「……」
     聞いた途端、大火は珍しく、ほんの少しだが困ったような顔をした。
    「……」
    「あ、言いたくなければ別にいいんだ。さして重要な話じゃないし」
    「ああ」
     大火はいつもの仏頂面に戻り、また目を閉じた。
    (……? なんだろう、今の反応?
     まあ、簡単に人を斬れるタイプの人間だし、故郷で一悶着あったんだろうって言うのは、想像に難くない。
     でもその話が事実であったとして、……タイカがそれを隠すだろうか? 彼なら『ああ。少しばかり、人を斬り過ぎてしまって、な』とか何とか、ストレートに言いそうなもんだけど。
     彼でも言いにくいような話があるんだろうか? 気になるなぁ……)
     そうこうしているうちに、三人は和装に着替え終えた。
    「どう? 似合う、ランド?」
     イールにそう問われ、思索にふけっていたランドは生返事で答える。
    「ああ、うん。いいんじゃない」
    「そ、ありがとっ」
     イールはニコニコと笑って返し、続いてレブに目を向けた。
    「あんたもサマになってるわよ。伊達に将軍やってるワケじゃないわね」
    「へへっ。……ん?」
     と、レブは店員が、不安そうな目をしているのに気付いた。
    「どうした?」
    「あの、……外人さん、もしかして中央のお方だったり?」
    「あん? ……いいや、俺たちは北方の人間だ。こっちには、……まあ、観光目的だな」
     レブの返答に、店員はほっとしたように虎耳を伏せた。
    「ああ、そうでしたか。いやね、最近はもう、あっちこっちに中央の方がいるみたいで」
    「へぇ?」
     虎獣人の店員は、最近の央南事情を語ってくれた。
    「まあ、何でしたっけ、穂村少佐だかって方が、清王朝転覆を企んでるとかで。
     で、ゆくゆくは中央へも攻め込もうとしてるんじゃないかって話もあって、清王朝の人たちが中央政府に助けを求めたみたいなんですよ」
    「ふーん」
     穂村少佐からこの辺りの顛末は聞いているが、ランドは知らない振りをした。
    「で、中央の方が白京にドッと来て、少佐探しを始めたんですよ。
     だもんで、央南のあっちこっちに、間諜(かんちょう)がいるとかいないとか。で、お客さん外人さんみたいだし、もしかしたらなーって思ったんですよ」
    「へぇ、そうなんだ。いやいや、最近はみょんに物騒だよね」
     そこで話を切り上げ、一行は店を出た。
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