「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・訪南記 5
フォコの話、203話目。
大火の謎。
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5.
北方から央南までの船旅は、実に二か月以上となった。
そのため、流石に一行の疲労は濃く、青江の宿に着いた途端、(大火を除いて)全員が、ぐったりと横になった。
「少佐も忙しいんだかヒマなんだかな……。こんな船旅、4回もできねーよ」
「いや、少佐の船旅は1往復だけらしいよ。4回立て続けに、陳情に来たらしい」
「ゴリ押ししたわねぇ」
穂村少佐の話が出たところで、ランドは店で聞いた話を取り上げた。
「ところで、スパイがあちこちにいるって話。どう思う?」
「どうって?」
「少佐の居場所を探っている人が大勢いるってことは、まだ清朝側は少佐がトウリョウにいるとは知らないんじゃないかな、と思うんだ。きっとまだ、あちこちで根掘り葉掘り、怪しいものが無いかどうか探ってる段階だと思う。
その上で、僕たちが――政情不安定なこの時期に、同じく政情の安定しきらない北方から来た人間が、本当にただの観光に来てる、と思うだろうか?」
「あ……」
ランドの話に、イールとレブは辺りを見回す。が、ランド自身は特に警戒してはいない。
「まあ、話をすること自体は問題ないと思う。
僕たちの間では北方語で話をしてたし、北方語が分かる人間が、そうそう都合よく、青江へスパイに来てるとは考えにくいもの」
「……まあ、そりゃそうか」
「でも、存在は目立つ。店の人も、『外人さん』って一目で見分けが付くくらいだもの。怪しい奴と見なされて、もう既にマークされていてもおかしくない」
「ありそうね……」
と、レブが眉を曇らせ、こう尋ねてくる。
「じゃあ、これからどうやってトウリョウに行くんだ? 流石にこのまんま船に乗ったら、行く先々でスパイに絡まれるだろうし」
「その点については、……タイカ」
ランドは大火に声をかけ、こう提案した。
「少佐のいるトウリョウまで、『テレポート』を使えないかな?」
「テレポート」とは、大火の持つ魔術である。大火が一度行ったことのある場所や、専用の魔法陣を設置している場所へ、一瞬で移動することができるのだ。
ランドは大火のことを央南人と見ていたし、現地の地理に多少は詳しいだろうと思っての提案だったが――。
「……無理だな」
「え?」
「俺はその、湯嶺と言う場所がどこにあるか知らん。あまり地理にも明るくないし、な」
「そうなの?」
大火の返答に、ランドはまた、彼の出身が気になり始めた。
と、思索にふける前に、大火が代替案を提示した。
「まあ、方法は無いでもない。だが、少しばかり時間がかかる」
「それでもいいよ。とにかく、スパイに見付からずに移動できればいいんだ」
「……分かった」
大火はすっと立ち上がり、脱いでいたコートをまとって部屋から出た。
「長くても一月はかからん。それまでここに、滞在していろ」
「分かった。よろしく、タイカ」
残った三人は、これからどう過ごすかを話し合った。
「最長、一か月か。……どうすっかな」
「まあ、……遊んでるしかないわね。敵のコトも味方のコトも分かんないんじゃ、対策の立てようなんてないし」
両手を挙げてため息をつくイールに、ランドは苦笑しつつ同意した。
「最低限、情報収集だけはしておくつもりだけど、……イールの言う通りだね。他にやりようがないし、やってもむしろ仇、裏目になる可能性もある。何かしようにも、できないね」
「ホントに観光ね、コレじゃ」
「……だなぁ」
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大火の謎。
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5.
北方から央南までの船旅は、実に二か月以上となった。
そのため、流石に一行の疲労は濃く、青江の宿に着いた途端、(大火を除いて)全員が、ぐったりと横になった。
「少佐も忙しいんだかヒマなんだかな……。こんな船旅、4回もできねーよ」
「いや、少佐の船旅は1往復だけらしいよ。4回立て続けに、陳情に来たらしい」
「ゴリ押ししたわねぇ」
穂村少佐の話が出たところで、ランドは店で聞いた話を取り上げた。
「ところで、スパイがあちこちにいるって話。どう思う?」
「どうって?」
「少佐の居場所を探っている人が大勢いるってことは、まだ清朝側は少佐がトウリョウにいるとは知らないんじゃないかな、と思うんだ。きっとまだ、あちこちで根掘り葉掘り、怪しいものが無いかどうか探ってる段階だと思う。
その上で、僕たちが――政情不安定なこの時期に、同じく政情の安定しきらない北方から来た人間が、本当にただの観光に来てる、と思うだろうか?」
「あ……」
ランドの話に、イールとレブは辺りを見回す。が、ランド自身は特に警戒してはいない。
「まあ、話をすること自体は問題ないと思う。
僕たちの間では北方語で話をしてたし、北方語が分かる人間が、そうそう都合よく、青江へスパイに来てるとは考えにくいもの」
「……まあ、そりゃそうか」
「でも、存在は目立つ。店の人も、『外人さん』って一目で見分けが付くくらいだもの。怪しい奴と見なされて、もう既にマークされていてもおかしくない」
「ありそうね……」
と、レブが眉を曇らせ、こう尋ねてくる。
「じゃあ、これからどうやってトウリョウに行くんだ? 流石にこのまんま船に乗ったら、行く先々でスパイに絡まれるだろうし」
「その点については、……タイカ」
ランドは大火に声をかけ、こう提案した。
「少佐のいるトウリョウまで、『テレポート』を使えないかな?」
「テレポート」とは、大火の持つ魔術である。大火が一度行ったことのある場所や、専用の魔法陣を設置している場所へ、一瞬で移動することができるのだ。
ランドは大火のことを央南人と見ていたし、現地の地理に多少は詳しいだろうと思っての提案だったが――。
「……無理だな」
「え?」
「俺はその、湯嶺と言う場所がどこにあるか知らん。あまり地理にも明るくないし、な」
「そうなの?」
大火の返答に、ランドはまた、彼の出身が気になり始めた。
と、思索にふける前に、大火が代替案を提示した。
「まあ、方法は無いでもない。だが、少しばかり時間がかかる」
「それでもいいよ。とにかく、スパイに見付からずに移動できればいいんだ」
「……分かった」
大火はすっと立ち上がり、脱いでいたコートをまとって部屋から出た。
「長くても一月はかからん。それまでここに、滞在していろ」
「分かった。よろしく、タイカ」
残った三人は、これからどう過ごすかを話し合った。
「最長、一か月か。……どうすっかな」
「まあ、……遊んでるしかないわね。敵のコトも味方のコトも分かんないんじゃ、対策の立てようなんてないし」
両手を挙げてため息をつくイールに、ランドは苦笑しつつ同意した。
「最低限、情報収集だけはしておくつもりだけど、……イールの言う通りだね。他にやりようがないし、やってもむしろ仇、裏目になる可能性もある。何かしようにも、できないね」
「ホントに観光ね、コレじゃ」
「……だなぁ」
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