「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・訪南記 6
フォコの話、204話目。
異国の地でバカンス。
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6.
大火がいない間、ランドたちは仕方なく、青江で過ごしていた。
「ランド、引いてる引いてる!」
「え、……おっとと」
ランドとイールは、北にある岬でのんびりと釣りを楽しんでいた。
「はい、網っ」
「とと……、と。ありがとう、イール」
まずまずの釣果を上げ、ランドは釣竿をしまい始めた。
「もういいの?」
「……いやぁ。流石にさ、一週間、二週間もやってると」
「そーね。魚、嫌いじゃないけど、流石に飽きたかも」
イールも釣竿を引き上げ、宿に戻る支度を始めた。
「レブは……、どうしてるだろう?」
「いつも通り、街外れで素振りとか、腕立て伏せとかしてるんじゃない?」
「そっか。……しかし、長いなぁ」
半月以上に渡って大火が戻らないことに、鷹揚(おうよう)に構えていたランドも、多少不安になってくる。
イールも不安だったらしく、こうつぶやいた。
「何してるのかしらね、アイツは」
「うーん……、タイカのことだし、行ったんじゃないかな、トウリョウまで」
「え?」
「『テレポート』は行ったことのある場所に飛ぶことのできる術だし、それなら一旦向こうまで行って、そこからこっちに戻ってくれば……」
「あたしたちもトウリョウに行ける、ってワケね」
荷物をまとめ終え、二人は宿へと戻る。
その途中の、海沿いの道を歩きながら、イールはぽつりとつぶやいた。
「コレがホント、観光だったら良かったのにな」
「うん?」
「のーんびり釣りして、のーんびり海を眺めて、のーんびりご飯食べながら、おしゃべりしてさ。
タイカの話が出て来なかったら、コレから戦争に加担するなんて、ウソにしか思えないわよ」
「確かに」
不意に会話が途切れ、二人はそのまま道を進む。
「……」
能弁なランドだが、沈黙することは苦痛ではない。特にストレスを感じず歩いていたが、イールの方はランドの方を見たり、海を見たりと、そわそわしている。
「イールって」
「ぅへ? な、何?」
「人といる時、会話が途切れると嫌なタイプなの?」
「え、……あー、そうかも、うん。そうかも」
「やっぱり。なんか、落ち着きが無かったし」
「人をコドモみたいに……」
「ああ、ごめんね。……じゃあ、何か話でもしようか?」
ランドにそう返され、イールはあごに指を当てながら思案する。
「んー……、そーね。じゃ、センリャクの話とか。……なるべく、できるだけ、簡単にお願い」
「はは……、いいよ。
まあ、昔も言ったかも知れないけど、戦略って言うのは、『いかに損害を出さず、戦いを進めていくか』って言うのが重要になってくるんだ。
例えば、自分たちの本拠地に敵が攻めてくるって情報が入った。さあ、君ならどうする?」
「そりゃ、迎撃するしかないでしょ。それか、敵いそうに無かったら逃げる」
「まあ、妥当なところかな」
「妥当? じゃ、一番いいのは?」
「敵が攻める目標を変えさせる。それも、敵同士でいがみ合う方向に」
「なーるほど……。そうすればあたしたちは、何の損害も無く勝ちを拾える、ってワケね。でもどうやって?」
「そこは、色んな手を使って。ま、その辺は、戦略じゃなくて戦術の範疇(はんちゅう)になるかな。
戦略って言うのは、例えて言うなら『あのお城に行きたい』『あのお店に行きたい』って、目標を定めることなんだ。その上で、『どの道を進もうか』『徒歩で行こうか、馬車を使おうか』って決めていくのが、戦術になる」
「ふーん……。まあ、分かった気がするわ」
「それなら良かった」
と、ランドがにっこりと笑ったところで――。
「……あ」
ランドは道の向こうから、知った顔がやって来るのに気付いた。
「レブ、何でここに?」
レブは手を挙げ、二人に応じる。
「ん、いや。……戻ってきたぜ、あいつ」
「あいつ? タイカが?」
「おう。で、お前らを呼んできて欲しいっつって」
と、そこでレブが言葉を切る。
「……邪魔したかな」
「え? 何の?」
レブの言っている意味が分からず、ランドは首をかしげる。
一方、イールは分かったらしい。
「違うわよ? ふつーに釣りしてただけだし」
「そっか。変な勘繰りして悪かったな」
「いいわよ、別に」
「……?」
会話の内容が見えず、ランドはきょとんとしていた。
宿に戻ったところで、ランドは半月ぶりに見る大火に会釈した。
「やあ、おかえり。どう?」
「問題ない。すぐにでも、向こうへ飛べるぞ」
「そっか。じゃ、……まあ、魚釣ってきたし、これ食べてから行こうか。タイカはお腹空いてる?」
「それなりに、だな。『テレポート』は消耗が激しい」
「じゃ、一緒に食べよう」
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大火がいない間、ランドたちは仕方なく、青江で過ごしていた。
「ランド、引いてる引いてる!」
「え、……おっとと」
ランドとイールは、北にある岬でのんびりと釣りを楽しんでいた。
「はい、網っ」
「とと……、と。ありがとう、イール」
まずまずの釣果を上げ、ランドは釣竿をしまい始めた。
「もういいの?」
「……いやぁ。流石にさ、一週間、二週間もやってると」
「そーね。魚、嫌いじゃないけど、流石に飽きたかも」
イールも釣竿を引き上げ、宿に戻る支度を始めた。
「レブは……、どうしてるだろう?」
「いつも通り、街外れで素振りとか、腕立て伏せとかしてるんじゃない?」
「そっか。……しかし、長いなぁ」
半月以上に渡って大火が戻らないことに、鷹揚(おうよう)に構えていたランドも、多少不安になってくる。
イールも不安だったらしく、こうつぶやいた。
「何してるのかしらね、アイツは」
「うーん……、タイカのことだし、行ったんじゃないかな、トウリョウまで」
「え?」
「『テレポート』は行ったことのある場所に飛ぶことのできる術だし、それなら一旦向こうまで行って、そこからこっちに戻ってくれば……」
「あたしたちもトウリョウに行ける、ってワケね」
荷物をまとめ終え、二人は宿へと戻る。
その途中の、海沿いの道を歩きながら、イールはぽつりとつぶやいた。
「コレがホント、観光だったら良かったのにな」
「うん?」
「のーんびり釣りして、のーんびり海を眺めて、のーんびりご飯食べながら、おしゃべりしてさ。
タイカの話が出て来なかったら、コレから戦争に加担するなんて、ウソにしか思えないわよ」
「確かに」
不意に会話が途切れ、二人はそのまま道を進む。
「……」
能弁なランドだが、沈黙することは苦痛ではない。特にストレスを感じず歩いていたが、イールの方はランドの方を見たり、海を見たりと、そわそわしている。
「イールって」
「ぅへ? な、何?」
「人といる時、会話が途切れると嫌なタイプなの?」
「え、……あー、そうかも、うん。そうかも」
「やっぱり。なんか、落ち着きが無かったし」
「人をコドモみたいに……」
「ああ、ごめんね。……じゃあ、何か話でもしようか?」
ランドにそう返され、イールはあごに指を当てながら思案する。
「んー……、そーね。じゃ、センリャクの話とか。……なるべく、できるだけ、簡単にお願い」
「はは……、いいよ。
まあ、昔も言ったかも知れないけど、戦略って言うのは、『いかに損害を出さず、戦いを進めていくか』って言うのが重要になってくるんだ。
例えば、自分たちの本拠地に敵が攻めてくるって情報が入った。さあ、君ならどうする?」
「そりゃ、迎撃するしかないでしょ。それか、敵いそうに無かったら逃げる」
「まあ、妥当なところかな」
「妥当? じゃ、一番いいのは?」
「敵が攻める目標を変えさせる。それも、敵同士でいがみ合う方向に」
「なーるほど……。そうすればあたしたちは、何の損害も無く勝ちを拾える、ってワケね。でもどうやって?」
「そこは、色んな手を使って。ま、その辺は、戦略じゃなくて戦術の範疇(はんちゅう)になるかな。
戦略って言うのは、例えて言うなら『あのお城に行きたい』『あのお店に行きたい』って、目標を定めることなんだ。その上で、『どの道を進もうか』『徒歩で行こうか、馬車を使おうか』って決めていくのが、戦術になる」
「ふーん……。まあ、分かった気がするわ」
「それなら良かった」
と、ランドがにっこりと笑ったところで――。
「……あ」
ランドは道の向こうから、知った顔がやって来るのに気付いた。
「レブ、何でここに?」
レブは手を挙げ、二人に応じる。
「ん、いや。……戻ってきたぜ、あいつ」
「あいつ? タイカが?」
「おう。で、お前らを呼んできて欲しいっつって」
と、そこでレブが言葉を切る。
「……邪魔したかな」
「え? 何の?」
レブの言っている意味が分からず、ランドは首をかしげる。
一方、イールは分かったらしい。
「違うわよ? ふつーに釣りしてただけだし」
「そっか。変な勘繰りして悪かったな」
「いいわよ、別に」
「……?」
会話の内容が見えず、ランドはきょとんとしていた。
宿に戻ったところで、ランドは半月ぶりに見る大火に会釈した。
「やあ、おかえり。どう?」
「問題ない。すぐにでも、向こうへ飛べるぞ」
「そっか。じゃ、……まあ、魚釣ってきたし、これ食べてから行こうか。タイカはお腹空いてる?」
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