「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・訪南記 7
フォコの話、205話目。
フシギな気持ち。
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7.
ランドたちは食堂に向かい、宿の店主に釣ってきた魚を渡し、席に座った。
「で、向こうはどうだった?」
「特に何も、と言うほか無いな。まだ敵方も、本拠地を見つけてはいないらしい。表向きには、普通の温泉街でしかなかった。
だが、近いうちに近隣の街を襲撃する、とは言っていた。何でも、軍備の集積地があるとか」
「ちょっと不安だな……。早いうちに向かった方がいいかもね」
「だろうな。俺が見ても、甚だ意義のある行動には見えん」
「そうか? 敵の備蓄を叩くわけだし、何もしないよりはいいんじゃないか?」
尋ねたレブに、大火が答える。
「敵がまだ、明確に本拠を捉えていないと言うのならば、できるだけ隠しておいた方がいい。それだけ、敵は捜索に時間と人員を費やすわけだからな。
公衆の面前にのこのこと姿を表すとなれば、後を追跡されて本拠地を発見される可能性もある。そうなれば後は、大軍の物量を以って本拠地に総攻撃を仕掛け、それで終局だ」
続いて、ランドも説明する。
「それに、相手の素性が分からないって言う要素は大きい。今動けば、反乱軍の力量はあっけなく露呈してしまうだろう。
それよりも相手に『見えざる敵』と認識させて振り回しておいた方が、どれだけ効果を挙げるか。少なくとも、ハクケイから遠く離れたトウリョウ近辺の集積地を叩くより、よっぽど効果はある」
「ふーん……、そんなもんか」
論じている間に、店主が新鮮な魚料理を運んできた。
「お待ちどう。旦那さん、腕がいいねぇ。こんなに脂が乗った魚、なかなか出ないよ」
「はは、どうも。……旦那?」
首をかしげるランドに、店主は「おっと」と口を抑えてつぶやく。
「違ったか。じゃ、あっちが旦那さんかい?」
「へっ?」
今度はレブが首をかしげる。
「旦那って?」
「あれ? ……いやー違ったか。いやほら、そこの『猫』さんとずっと一緒にいるから、どっちかが旦那さんなのかなって思ってたんだけど」
この発言に、イールが目を丸くした。
「え、ちょっ、違うわよ! あたしまだ独身! って言うかおじさん、そんな風にあたしたち見てたの!?」
「道理でおかしいなーとは思った、あはは……。俺、『もしかしたら旦那さん二人?』とか思ってたりしてたよ」
「ふっ、二人って、んなワケないじゃない! こいつらは仕事仲間!」
顔を真っ赤にするイールに、店主はぱたぱたと手を振って謝った。
「いやーごめんごめん、悪い悪い。……そんじゃ、まあ、ごゆっくりっ」
店主は照れ笑いを浮かべながら、その場を去った。
「……あ」
と、ランドが岬でのことを思い出した。
「レブ、君がさっき言ってたのって」
「ん?」
「……ああ、まあ、いいか。疑いは晴れたし」
食事後、ランドたちは湯嶺に向かうため、荷造りを始めた。
「んー……、釣竿はもういらないな」
「いいでしょ。必要になるコトがあったら、またあっちで買うか作るかすればいいし」
「そうだね」
二人で並んで不要な物を処分している間、イールはこの半月を思い返していた。
(ホント、遊びっぱなしだったわね。ランドと二人で釣りしたり、買い物したり。……そう言や、あたしってあんまり、遊んだコト無いのよね。
ちっさい頃はアルコンがずーっとあたしの側に張り付いてたから、同年代の子が全然寄ってきてくれなかったし、って言うか、寄らせてもらえなかったし。反乱軍を立ち上げてからは、あっちこっち飛び回りっぱなしだったから、余計に遊ぶ機会なんて無かったし。
こうして何の気兼ねも無くブラブラしたのって、……ホントに、生まれて初めてじゃないかしら)
そう思ってみると、この半月の間に買った、他愛も無い玩具やアクセサリが、愛おしく感じられてくる。
(……コレ、北方に持って帰りたいな)
そう思い、イールはランドに顔を向けた。
「ねえ、ランド」
「ん? どうかした?」
「コレ、持って帰っていい?」
「え?」
ランドはけげんな顔を返してくる。
「好きにすればいいじゃないか。何で僕に聞くの?」
「あ」
イールは照れ、パタパタと手を振ってごまかした。
「そうよね、何で聞いたのかしら、あははは……」
と――ごまかしているうちに、イールの心に何か、切ないものが染み出した。
「……っ」
それを感じ取った途端、イールは黙り込んでしまった。
「どうしたの? 変な顔して」
「……なんでもない。……うん」
「……イール?」
ランドが心配そうな目を向けてくる。
「そんなに気にしなくても……。持って帰りたいなら、そうすればいいじゃないか。そのネックレス、似合ってるし」
「そ、そう? 似合う? ……うん、じゃ、持って帰る」
「うん」
ランドにほめられた途端、今度は心の中が温かくなった。
(……変ね、あたし。旅の疲れ、今頃出たのかしら)
彼女がこの不思議な気持ちが何なのか理解するのは、ずっと後のことになる。
火紅狐・訪南記 終
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ランドたちは食堂に向かい、宿の店主に釣ってきた魚を渡し、席に座った。
「で、向こうはどうだった?」
「特に何も、と言うほか無いな。まだ敵方も、本拠地を見つけてはいないらしい。表向きには、普通の温泉街でしかなかった。
だが、近いうちに近隣の街を襲撃する、とは言っていた。何でも、軍備の集積地があるとか」
「ちょっと不安だな……。早いうちに向かった方がいいかもね」
「だろうな。俺が見ても、甚だ意義のある行動には見えん」
「そうか? 敵の備蓄を叩くわけだし、何もしないよりはいいんじゃないか?」
尋ねたレブに、大火が答える。
「敵がまだ、明確に本拠を捉えていないと言うのならば、できるだけ隠しておいた方がいい。それだけ、敵は捜索に時間と人員を費やすわけだからな。
公衆の面前にのこのこと姿を表すとなれば、後を追跡されて本拠地を発見される可能性もある。そうなれば後は、大軍の物量を以って本拠地に総攻撃を仕掛け、それで終局だ」
続いて、ランドも説明する。
「それに、相手の素性が分からないって言う要素は大きい。今動けば、反乱軍の力量はあっけなく露呈してしまうだろう。
それよりも相手に『見えざる敵』と認識させて振り回しておいた方が、どれだけ効果を挙げるか。少なくとも、ハクケイから遠く離れたトウリョウ近辺の集積地を叩くより、よっぽど効果はある」
「ふーん……、そんなもんか」
論じている間に、店主が新鮮な魚料理を運んできた。
「お待ちどう。旦那さん、腕がいいねぇ。こんなに脂が乗った魚、なかなか出ないよ」
「はは、どうも。……旦那?」
首をかしげるランドに、店主は「おっと」と口を抑えてつぶやく。
「違ったか。じゃ、あっちが旦那さんかい?」
「へっ?」
今度はレブが首をかしげる。
「旦那って?」
「あれ? ……いやー違ったか。いやほら、そこの『猫』さんとずっと一緒にいるから、どっちかが旦那さんなのかなって思ってたんだけど」
この発言に、イールが目を丸くした。
「え、ちょっ、違うわよ! あたしまだ独身! って言うかおじさん、そんな風にあたしたち見てたの!?」
「道理でおかしいなーとは思った、あはは……。俺、『もしかしたら旦那さん二人?』とか思ってたりしてたよ」
「ふっ、二人って、んなワケないじゃない! こいつらは仕事仲間!」
顔を真っ赤にするイールに、店主はぱたぱたと手を振って謝った。
「いやーごめんごめん、悪い悪い。……そんじゃ、まあ、ごゆっくりっ」
店主は照れ笑いを浮かべながら、その場を去った。
「……あ」
と、ランドが岬でのことを思い出した。
「レブ、君がさっき言ってたのって」
「ん?」
「……ああ、まあ、いいか。疑いは晴れたし」
食事後、ランドたちは湯嶺に向かうため、荷造りを始めた。
「んー……、釣竿はもういらないな」
「いいでしょ。必要になるコトがあったら、またあっちで買うか作るかすればいいし」
「そうだね」
二人で並んで不要な物を処分している間、イールはこの半月を思い返していた。
(ホント、遊びっぱなしだったわね。ランドと二人で釣りしたり、買い物したり。……そう言や、あたしってあんまり、遊んだコト無いのよね。
ちっさい頃はアルコンがずーっとあたしの側に張り付いてたから、同年代の子が全然寄ってきてくれなかったし、って言うか、寄らせてもらえなかったし。反乱軍を立ち上げてからは、あっちこっち飛び回りっぱなしだったから、余計に遊ぶ機会なんて無かったし。
こうして何の気兼ねも無くブラブラしたのって、……ホントに、生まれて初めてじゃないかしら)
そう思ってみると、この半月の間に買った、他愛も無い玩具やアクセサリが、愛おしく感じられてくる。
(……コレ、北方に持って帰りたいな)
そう思い、イールはランドに顔を向けた。
「ねえ、ランド」
「ん? どうかした?」
「コレ、持って帰っていい?」
「え?」
ランドはけげんな顔を返してくる。
「好きにすればいいじゃないか。何で僕に聞くの?」
「あ」
イールは照れ、パタパタと手を振ってごまかした。
「そうよね、何で聞いたのかしら、あははは……」
と――ごまかしているうちに、イールの心に何か、切ないものが染み出した。
「……っ」
それを感じ取った途端、イールは黙り込んでしまった。
「どうしたの? 変な顔して」
「……なんでもない。……うん」
「……イール?」
ランドが心配そうな目を向けてくる。
「そんなに気にしなくても……。持って帰りたいなら、そうすればいいじゃないか。そのネックレス、似合ってるし」
「そ、そう? 似合う? ……うん、じゃ、持って帰る」
「うん」
ランドにほめられた途端、今度は心の中が温かくなった。
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