「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・破鎧記 1
フォコの話、206話目。
釜底抽薪。
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1.
大火の助けを借りて湯嶺へ到着したランド一行は、すぐ穂村少佐と面会した。
「今回のご助力、まことに痛み入ります」
「いえ、そんな堅くならずに。これからしばらく、一緒に仕事をするんですから」
「そうですな……。では、楽に構えさせてもらおう」
そう言って少佐は、正座から胡坐へと姿勢を変え、ランドと最初に会った時のような話し方に戻った。
「現在、拙者らはここより北、黄州平原と西月丘陵との境にある街、弧弦(コゲン)にある清朝軍基地を襲撃しようと計画している。ここは央南西部で五指に入る軍事物資の集積地であり、ここを叩けば清朝軍に大きな打撃を……」「その件につきましては、タイカから伺っています」
少佐の話をさえぎり、ランドはこの作戦を中止させようと説得を始めた。
「しかし、彼や同輩とも協議しましたが、今動くのは得策ではありません」
「ふむ……?」
「今現在、セイコウを初めとして、各主要都市を中央政府から出向いたスパイ、いわゆる間諜がかぎまわっている最中です」
「なるほど。彼奴らが探っている間は、動くべからずと言うことか」
「それだけではありません。『探っている』と言うことは即ち、清王朝はあなた方反乱軍の素性を把握していない、と言うことです」
「と言うと?」
「敵はあなた方がどれだけの強敵であるか、測りかねている状態です。
もしかしたら非常に現実的に、王朝を揺るがす存在かも知れない。はたまた、騒ぎ立てるだけで実は烏合の衆でしかないかも。
そのどちらとも判断できず、『それなら情報を集め、敵の素性を確定させる方が先決だろう』と、恐らく相手はそう考えているでしょう。
もし前者と判断していれば、相手は間諜などではなく、大軍勢を召還しているでしょうし、後者ならば、わざわざ中央政府から人を呼んだりはしない。分からないからこそ、調べているんです」
「ふむ、それは分かった。……だが、何故動いてはならぬと?」
そう尋ねた少佐に、ランドはこんな例えを出した。
「少佐が灯りも持たずに、夜の山に入ったとします。辺りには鳥獣の気配。熊などに襲われず、無事に山から出られると思いますか?」
「それは……、確かに難しいかも知れん」
「しかしこれが夜ではなく、昼だったら? もしくは、灯りを持って入ったら? 恐らく、襲われる気はしない。襲われても、返り討ちにできると考えるでしょう。夜の闇で阻まれるために、通常なら勝てる鳥獣に恐れをなすんです。
人間は情報量が少なければ少ないほど、憶測によって相手を強く見てしまうものです」
「ふむ……。つまり、敵方に素性が知られていない現在、拙者らの軍は事実より強く見せることが可能だ、と言うわけか」
「その通りです。それに失礼ですが、少佐。今現在、反乱軍の規模はどのくらいですか?」
ランドにそう問われ、少佐は指折り数えつつ、こう返した。
「確か……、兵の数は2000。刀剣や弓、魔杖などは、すべて合わせて1000ほどだ。その他馬など……」「それだけで。……では相手の兵力は?」
この問いに、少佐は眉を曇らせた。
「拙者が軍に身を置いていた時は、だが。兵の数は5万弱。武器総数は7万以上だった。中央政府やエール氏の援助などを考えれば、武器はもっと用意されているだろう」
「なるほど。……少佐、重ね重ね進言しますが、今は攻めるべき時ではないでしょう。
よしんば、コゲン襲撃に成功し、王朝軍の軍備の何分の一、何十分の一かを奪ったとしても、他の土地には『何十分の何十引く一』の軍備が残っているわけです。それを以って襲撃されたら、ひとたまりも無い。
力の無い今、不用意に動けば、反乱軍は即、全滅しますよ」
「ううむ……」
丁寧に諭され、最初は意気揚々としていた少佐も、苦い顔をし始めた。
「しかし……、このまま何もせぬわけには行かぬ。それに、今はまだ素性が割れていないとは言え、いつ発覚するやも知れぬ。そうなれば結果は一緒であろう?」
「ええ、その通りです。確かに何か行動を起こさなければ、ジリ貧でしょうね」
「では、拙者らは何をすれば良い? 何をすれば、王朝を倒せるのだ?」
「そこへ行き着くには、順序を立てなければいけません。
何の策も無くいきなり敵陣へ飛び込むのは愚中の愚、そうでしょう?」
「……なるほど、確かに」
少佐の勢いが削がれたところで、ランドは自分の考えを述べた。
「まず、現状を例えるならば、我々反乱軍は、ごくごく一般的な平民が、何とか刀を握りしめているようなもの。
対する清朝軍は屈強な肉体に、中央政府やエール氏から手に入れた頑丈な武具をまとっているようなものです。これではまともにぶつかって、勝てるわけが無い。
まず武具を外させ、その肉体を弱らせなければ、勝つ見込みは生まれないでしょう」
「ふむ。となれば、まず行うべきはそれらの『武具』を、王朝から引き剥がさねばならぬ、と言うわけか」
「ええ。それについて、この戦いの、そもそもの発端を思い返せば……」
「……そうか。中央政府に、此度のエール氏と王朝との企みを密告すれば」
「ええ、それができれば恐らく、中央政府は引き揚げるでしょう。そしてもっと理想的に事が運べば王朝と敵対し、逆に我々に味方してくれるでしょう。
ですが、問題があります。それは少佐も、重々ご承知の通りですよね」
「ああ。……明確な根拠を示さねば、中央政府は信用せん」
「その通り。であれば、我々が執るべき行動は、一つ。
エール氏が中央政府転覆と多重債務の破棄を謀り、それを王朝に教唆している事実を明らかにすることです」
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釜底抽薪。
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大火の助けを借りて湯嶺へ到着したランド一行は、すぐ穂村少佐と面会した。
「今回のご助力、まことに痛み入ります」
「いえ、そんな堅くならずに。これからしばらく、一緒に仕事をするんですから」
「そうですな……。では、楽に構えさせてもらおう」
そう言って少佐は、正座から胡坐へと姿勢を変え、ランドと最初に会った時のような話し方に戻った。
「現在、拙者らはここより北、黄州平原と西月丘陵との境にある街、弧弦(コゲン)にある清朝軍基地を襲撃しようと計画している。ここは央南西部で五指に入る軍事物資の集積地であり、ここを叩けば清朝軍に大きな打撃を……」「その件につきましては、タイカから伺っています」
少佐の話をさえぎり、ランドはこの作戦を中止させようと説得を始めた。
「しかし、彼や同輩とも協議しましたが、今動くのは得策ではありません」
「ふむ……?」
「今現在、セイコウを初めとして、各主要都市を中央政府から出向いたスパイ、いわゆる間諜がかぎまわっている最中です」
「なるほど。彼奴らが探っている間は、動くべからずと言うことか」
「それだけではありません。『探っている』と言うことは即ち、清王朝はあなた方反乱軍の素性を把握していない、と言うことです」
「と言うと?」
「敵はあなた方がどれだけの強敵であるか、測りかねている状態です。
もしかしたら非常に現実的に、王朝を揺るがす存在かも知れない。はたまた、騒ぎ立てるだけで実は烏合の衆でしかないかも。
そのどちらとも判断できず、『それなら情報を集め、敵の素性を確定させる方が先決だろう』と、恐らく相手はそう考えているでしょう。
もし前者と判断していれば、相手は間諜などではなく、大軍勢を召還しているでしょうし、後者ならば、わざわざ中央政府から人を呼んだりはしない。分からないからこそ、調べているんです」
「ふむ、それは分かった。……だが、何故動いてはならぬと?」
そう尋ねた少佐に、ランドはこんな例えを出した。
「少佐が灯りも持たずに、夜の山に入ったとします。辺りには鳥獣の気配。熊などに襲われず、無事に山から出られると思いますか?」
「それは……、確かに難しいかも知れん」
「しかしこれが夜ではなく、昼だったら? もしくは、灯りを持って入ったら? 恐らく、襲われる気はしない。襲われても、返り討ちにできると考えるでしょう。夜の闇で阻まれるために、通常なら勝てる鳥獣に恐れをなすんです。
人間は情報量が少なければ少ないほど、憶測によって相手を強く見てしまうものです」
「ふむ……。つまり、敵方に素性が知られていない現在、拙者らの軍は事実より強く見せることが可能だ、と言うわけか」
「その通りです。それに失礼ですが、少佐。今現在、反乱軍の規模はどのくらいですか?」
ランドにそう問われ、少佐は指折り数えつつ、こう返した。
「確か……、兵の数は2000。刀剣や弓、魔杖などは、すべて合わせて1000ほどだ。その他馬など……」「それだけで。……では相手の兵力は?」
この問いに、少佐は眉を曇らせた。
「拙者が軍に身を置いていた時は、だが。兵の数は5万弱。武器総数は7万以上だった。中央政府やエール氏の援助などを考えれば、武器はもっと用意されているだろう」
「なるほど。……少佐、重ね重ね進言しますが、今は攻めるべき時ではないでしょう。
よしんば、コゲン襲撃に成功し、王朝軍の軍備の何分の一、何十分の一かを奪ったとしても、他の土地には『何十分の何十引く一』の軍備が残っているわけです。それを以って襲撃されたら、ひとたまりも無い。
力の無い今、不用意に動けば、反乱軍は即、全滅しますよ」
「ううむ……」
丁寧に諭され、最初は意気揚々としていた少佐も、苦い顔をし始めた。
「しかし……、このまま何もせぬわけには行かぬ。それに、今はまだ素性が割れていないとは言え、いつ発覚するやも知れぬ。そうなれば結果は一緒であろう?」
「ええ、その通りです。確かに何か行動を起こさなければ、ジリ貧でしょうね」
「では、拙者らは何をすれば良い? 何をすれば、王朝を倒せるのだ?」
「そこへ行き着くには、順序を立てなければいけません。
何の策も無くいきなり敵陣へ飛び込むのは愚中の愚、そうでしょう?」
「……なるほど、確かに」
少佐の勢いが削がれたところで、ランドは自分の考えを述べた。
「まず、現状を例えるならば、我々反乱軍は、ごくごく一般的な平民が、何とか刀を握りしめているようなもの。
対する清朝軍は屈強な肉体に、中央政府やエール氏から手に入れた頑丈な武具をまとっているようなものです。これではまともにぶつかって、勝てるわけが無い。
まず武具を外させ、その肉体を弱らせなければ、勝つ見込みは生まれないでしょう」
「ふむ。となれば、まず行うべきはそれらの『武具』を、王朝から引き剥がさねばならぬ、と言うわけか」
「ええ。それについて、この戦いの、そもそもの発端を思い返せば……」
「……そうか。中央政府に、此度のエール氏と王朝との企みを密告すれば」
「ええ、それができれば恐らく、中央政府は引き揚げるでしょう。そしてもっと理想的に事が運べば王朝と敵対し、逆に我々に味方してくれるでしょう。
ですが、問題があります。それは少佐も、重々ご承知の通りですよね」
「ああ。……明確な根拠を示さねば、中央政府は信用せん」
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さあパルチザンを募ってゲリラ戦だ! 革命戦線だ! と考えてしまうゲリラ戦大好き男(笑)
ランドの策はなにかな?
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今回、前半部はまさにゲリラ戦。深く地下へ潜り、強大な敵の土台を突き崩していく遊撃戦・局地戦が続いていきます。