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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・破鎧記 5

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    フォコの話、210話目。
    欠け始めた豪商の算盤。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     309年の半ば、中央政府の本殿、ドミニオン城。
    「は……? 視察、ですか?」
     天帝に付いている官僚たちが、現天帝・オーヴェル帝の言葉に、一様に首をかしげた。
    「何故、突然そのようなことを……?」
    「朕の耳に、あれこれと話が入っておるのだ。朕に仇なそうと言う、有象無象の輩のうわさが」
    「はあ……」
     オーヴェル帝は憮然とした顔で、ここ数年の世界情勢をなじった。
    「まず北方大陸! これまで我が中央政府、我が『天帝の世界』と懇意にしていたノルド王国が崩壊し、はるか昔に英傑、シモン大卿とロッソ大卿が打ち滅ぼしたはずの悪魔、レン・ジーンの末裔が征服したと言うではないか! これを朕ら天帝一族に対する反逆、冒涜と言わずして、一体何であると言うのか!
     そして南海地域、ここも一向に治まらぬ! 折角、我が中央政府を挙げて仲裁や指導をしていると言うのに、戦火は激しくなるばかりと言うではないか! 巷にはぞろぞろと、件のレヴィア王国と名乗るならず者の軍やその出先の商人が闊歩し、南海征服を企んでいるとさえ言われている! バーミー卿を信じ任せていたが、状況は悪化するばかりだ!
     そしてその、出先の商人だが、西方の者だそうだ。そう、西方! ここも、中央政府に対する敵意が見え透いている! ここ数年で、西方商人の関わる商業が一様に、市場の値を吊り上げさせていると言う! 我が中央政府と、その下に付く者たちから金を搾り取ろうと言う、さもしい魂胆がありありと見えるのだ!」
    「ふむ……」
    「確かに、そう言った報告は寄せられておりますね」
     愚君オーヴェル帝といえども、政治の中枢の、さらに中心点にいる存在である。世界各地からの報告は、各院トップの大臣に伝えられると共に、彼の耳にも届けられるのだ。その報告を受けて、彼なりに思索し、行動しようとするのは何の不思議や不可解も無い。
     そして何より、己の血筋と権勢を重要視するオーヴェルである。太祖が成した「世界平定」を脅かし、侵害する者たちに対し、並々ならぬ敵愾心を燃やすのは、当然の流れと言えた。
    「そこで朕は視察団を結成し、諸国にさらなる反逆の芽がないかどうか、見て回ろうかと考えておるのだ」
    「へ、陛下ご自身で、でございますか?」
     オーヴェルの発言に、官僚たちは唖然とする。
    「何か問題があると言うのか?」
    「あ、いえ」
    「朕は父上、先代ソロン帝のようにひょろひょろと官僚や大臣に寄生し、ドミニオン城の玉座にへばりつくような政治を行うつもりは、毛頭ない。
     帝位に就く前から父上の所業を見てきたが、あれは情けないにも程がある! 何から何まで人任せにし、すべてが決まった後でボソボソと口出しをして場をかき乱す、性根の汚さ!
     このまま玉座にのさばるだけでは、いずれ朕も先代と同じそしりを受けよう。そうなる前に、朕自らが下々に、ただのお飾りでは無いと知らしめるのだ」
    「なる、……ほど」
    「では、各院から官僚を若干名ずつ集めるよう手配いたしましょうか」
    「うむ。よきにはからえ」
     こうして、天帝視察団の結成が進められることとなった。

     このうわさを軍務大臣、バーミー卿から聞きつけ、ケネスは苦い顔をした。
    「バカ殿め、面倒臭い真似を」
    「まったくだ」
     オーヴェルが視察団結成のために挙げた事例は、どれもケネスとその腹心たちが絡んだものである。
     南海征服や西方商人らの競争激化はケネスの考える世界征服に沿って進められた計画の結果であり、それを咎められたり介入されたりしては、元も子もない。
    「バーミー卿、陛下へ口添えをお願いしても?」
    「構わんが……、何と言えば?」
    「そうですな、……こうしましょう。
     現在の世界情勢は陛下が考えているよりも危険であり、中央大陸から離れるのは薦められない、と。
     それよりも中央政府の圏内、中央大陸内に不穏の種が無いか視察し、ご自身の地盤を固められた方が得策では無いかと。そうお願いします」
    「分かった」

     だが――。
    「何ですって? もう既に、中央大陸内の視察が決定していた、と?」
     バーミー卿から結果を聞き、ケネスは首をかしげた。
    「ああ。詳しいことは聞かなかったが、推挙があったそうだ。恐らくはケネス、君が私に伝えたのと同じ考えに至った者がいたのだろう」
    「……ふーむ」
     ケネスはその話に少し、言いようの無い不安を覚えた。
     しかし、自分の考え通りに事が運んではいるし、それに異論を唱えるのも自分自身、気持ちが悪い。
    「まあ、いいでしょう。それで詳しくは、どこを?」
    「央南だそうだ。どう言うわけか、陛下は西方商人を毛嫌いしていてな」
    「ほう」
    「最近、央南と央北・央中をしきりに渡る西方商人がいるとのことだ。陛下にしては、放っては置けん、と言うわけだ」
    「なるほど」
     これを聞いて、ケネスは心中、これまで執ってきた行動を検討した。
    (流石にこの数年、動きが露骨すぎたか……? まあ、バカ殿のこと、私の真意になど及んではいまいが、それでもうろちょろされれば迷惑だ。
     いかにオーヴェル帝が目立ちたがり、血筋とメンツにこだわる馬鹿だとしても、権力を持っているからな。ごねられて全てを引っくり返されでもすれば、私の計画は頓挫しかねない。
     ……少し、腹心たちとは距離を置いておくか。オーヴェル帝があげつらったと言う事件に私が関わっていると知れれば、けして良い結果にはなり得まい。『関係が無い』、とポーズを執っておかねばな)



     ケネスが権力を得た理由は、政治・軍事・経済のトップを押さえ、操ったことにある。
     だが、その操作・誘導が後々、彼に牙をむくことになるなど、彼が思い至ることはできなかった。

    火紅狐・破鎧記 終
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