「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・荷移記 2
フォコの話、212話目。
本尊を動かしたからくり。
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2.
反乱軍の本拠地、湯嶺・穂村少佐の邸宅。
「情報が入った。天帝が視察団を結成し、こちらへ来るそうだ」
少佐から話を聞き、ランドは満足げにうなずいた。
「狙い通りですね」
「ああ。……しかし、どうやって天帝を動かしたのだ?」
「元々僕は、306年まで中央政府の中核、政務院で大臣を務めていました。天帝の志向や世界情勢には、詳しいんです。それに、天帝に付く高級官僚も何名か、記憶しています。
その何名かに、匿名で手紙を送ったんです。『央南において不穏な動きあり。最悪の場合、中央に対し強い叛意ありと見られる』と。
元々、清王朝が自らスパイを要請する動きまであったんですから、これを揉み消すためのパフォーマンスと捉える人がいてもおかしくない。そう言う人に、ダイレクトに密書を送ったわけで」
「疑念が増え、調べてみてはどうかと意見する人間が増える、……と言うわけか。
だが、それだけでは天帝は動かせまい?」
腑に落ちない顔を向ける少佐に、ランドはニヤッと笑いかけた。
「まあ、動かせまいって言うか……、早晩、相手の方から動くんじゃないかと狙ってはいました」
「ふむ?」
「現天帝、オーヴェル・タイムズは猜疑心と自意識過剰の塊みたいな人です。そして何より、天帝と言う自分の血筋、歴史に、非常に強い誇りとこだわりを持っている。
そんな彼が、近年の世界情勢の不安を聞いて、何も行動しないわけが無い。かと言って、指示を出すだけでは、彼は納得しないでしょう」
「それは何故だ?」
「彼の父、先代のソロン・タイムズ帝が、まさにそう言うタイプだったからです。
長年、健康状態が不安定だったために、主立って動くことはせず、重臣と意見交換、もしくは命令を下すことで、間接的に政治の舵取りをしていた。
そうやって長年進めてきた先代の政治活動の結果が、自分の代に回ってきているわけですから。今、誰もが『世界は平和であるとは到底言えない』と感じている現在、果たしてオーヴェル帝は、先代の仕事ぶりを評価するかどうか……?」
「なるほど。指示を送るだけでは父親と同じ。そこからもう一歩、何か踏み込む要素は無いかと考えていたわけか」
「そうです。そこへ周囲から、『央南がどうも怪しいぞ』と聞かされれば、彼は非常に関心を寄せる。
結果は上々、彼自らが視察団を率いてやって来ることになった。まあ、もしも彼が来なくても、彼が独自にスパイを動かして内情を探ることは、したはずでしょう。何せ、今まさにスパイが現地をウロウロしてるわけですから」
「その流れになっても、我々としては得であるな。……ううむ」
突然、少佐は深々と頭を下げた。
「やはり貴君を参謀と頼んで正解であった! 拙者らが動くより何倍も、効果を挙げたものよ!」
「いや、いや」
反面、ランドは恐縮するでもなく、ぱたぱたと手を振っている。
「まだです。今はまだ、『最も政治に影響力を与える天帝が、自らやって来る』と言うだけ。
重要なのは天帝に、清王朝が反逆の準備を整えていることを認識させることです」
「……そうであったな」
少佐はひょいと頭を上げ、続けて尋ねた。
「して、この次に執る策は?」
「考えてあります。
少佐、確か央南内の中央軍指定備蓄供与基地は、全部で5ヶ所でしたね?」
「うむ。央南中部には、白京と天玄。北部では青江と大月。西部には弧弦。この5つだ」
「恐らく、エール氏はここに集められた大量の軍備を、どこかへ移すはずです」
「なるほど。確かにそのまま置いていては、露骨に叛意が見え透いてしまうからな」
「そこで少佐に伺いますが、この5基地からその大量の軍備を移し、隠すのに最適な場所はどこか、見当が付きますか?」
「ふむ……。調べてみよう。一両日中には返答できるだろう」
「分かりました。では、今日の軍議はこの辺りで」
ランドはすい、と立ち上がり、静かに部屋を離れた。
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本尊を動かしたからくり。
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2.
反乱軍の本拠地、湯嶺・穂村少佐の邸宅。
「情報が入った。天帝が視察団を結成し、こちらへ来るそうだ」
少佐から話を聞き、ランドは満足げにうなずいた。
「狙い通りですね」
「ああ。……しかし、どうやって天帝を動かしたのだ?」
「元々僕は、306年まで中央政府の中核、政務院で大臣を務めていました。天帝の志向や世界情勢には、詳しいんです。それに、天帝に付く高級官僚も何名か、記憶しています。
その何名かに、匿名で手紙を送ったんです。『央南において不穏な動きあり。最悪の場合、中央に対し強い叛意ありと見られる』と。
元々、清王朝が自らスパイを要請する動きまであったんですから、これを揉み消すためのパフォーマンスと捉える人がいてもおかしくない。そう言う人に、ダイレクトに密書を送ったわけで」
「疑念が増え、調べてみてはどうかと意見する人間が増える、……と言うわけか。
だが、それだけでは天帝は動かせまい?」
腑に落ちない顔を向ける少佐に、ランドはニヤッと笑いかけた。
「まあ、動かせまいって言うか……、早晩、相手の方から動くんじゃないかと狙ってはいました」
「ふむ?」
「現天帝、オーヴェル・タイムズは猜疑心と自意識過剰の塊みたいな人です。そして何より、天帝と言う自分の血筋、歴史に、非常に強い誇りとこだわりを持っている。
そんな彼が、近年の世界情勢の不安を聞いて、何も行動しないわけが無い。かと言って、指示を出すだけでは、彼は納得しないでしょう」
「それは何故だ?」
「彼の父、先代のソロン・タイムズ帝が、まさにそう言うタイプだったからです。
長年、健康状態が不安定だったために、主立って動くことはせず、重臣と意見交換、もしくは命令を下すことで、間接的に政治の舵取りをしていた。
そうやって長年進めてきた先代の政治活動の結果が、自分の代に回ってきているわけですから。今、誰もが『世界は平和であるとは到底言えない』と感じている現在、果たしてオーヴェル帝は、先代の仕事ぶりを評価するかどうか……?」
「なるほど。指示を送るだけでは父親と同じ。そこからもう一歩、何か踏み込む要素は無いかと考えていたわけか」
「そうです。そこへ周囲から、『央南がどうも怪しいぞ』と聞かされれば、彼は非常に関心を寄せる。
結果は上々、彼自らが視察団を率いてやって来ることになった。まあ、もしも彼が来なくても、彼が独自にスパイを動かして内情を探ることは、したはずでしょう。何せ、今まさにスパイが現地をウロウロしてるわけですから」
「その流れになっても、我々としては得であるな。……ううむ」
突然、少佐は深々と頭を下げた。
「やはり貴君を参謀と頼んで正解であった! 拙者らが動くより何倍も、効果を挙げたものよ!」
「いや、いや」
反面、ランドは恐縮するでもなく、ぱたぱたと手を振っている。
「まだです。今はまだ、『最も政治に影響力を与える天帝が、自らやって来る』と言うだけ。
重要なのは天帝に、清王朝が反逆の準備を整えていることを認識させることです」
「……そうであったな」
少佐はひょいと頭を上げ、続けて尋ねた。
「して、この次に執る策は?」
「考えてあります。
少佐、確か央南内の中央軍指定備蓄供与基地は、全部で5ヶ所でしたね?」
「うむ。央南中部には、白京と天玄。北部では青江と大月。西部には弧弦。この5つだ」
「恐らく、エール氏はここに集められた大量の軍備を、どこかへ移すはずです」
「なるほど。確かにそのまま置いていては、露骨に叛意が見え透いてしまうからな」
「そこで少佐に伺いますが、この5基地からその大量の軍備を移し、隠すのに最適な場所はどこか、見当が付きますか?」
「ふむ……。調べてみよう。一両日中には返答できるだろう」
「分かりました。では、今日の軍議はこの辺りで」
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