FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・荷移記 4

     ←火紅狐・荷移記 3 →火紅狐・荷移記 5
    フォコの話、214話目。
    克大火の弟子;剣と魔術に愛されし者。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     浴場に着いたところで、今度は大火の方から、少佐に話しかけてきた。
    「玄蔵。魔術剣、と言うものを聞いたことはあるか?」
    「まじゅつ、けん……? いいや、初めて聞く」
    「簡単に言えば、剣術と魔術を混合、連携させたものだ」
     大火は汲んだ湯を浴びながら、その聞きなれない技について説明する。
    「元々、俺の弟子の一人に、『克窮奇(かつみ きゅうき)』と言う男がいてな。そいつは俺に比肩する、……いや、俺を凌ぐほどの剣術の才を持っていた。
     だが俺のいた、……国では、あまり剣術と言うものは、注目されていなかった」
    「ほう、何故に……?」
    「これも簡単にしか説明できんが、剣術よりも間合いに長け、はるかに威力のある武器があったからだ。
     ゆえに俺は窮奇を弟子に取るまで、魔術を軸にして戦っていた」
     そう語る大火の体には、確かに数々の修羅場を潜り抜けたと思わせる古傷が、あちこちに付いていた。
     いや、良く見れば胸や背中、脇腹などの急所に、人間であれば決して付いてはならないような傷跡が、いくつも付けられている。
     それを見て、少佐は――湯気のため、大火には悟られていなかったであろうが――思わず身震いした。
    (この傷の、大きさと数……! 一つだけでも、死んでおかしくないと言うのに……?
     こやつ、本当に人間か?)
    「だが敵もさるもの、対魔術用の装備を用意したり、そもそも魔術に強い抵抗力を持つ人間を投入したりと、一筋縄で行くような相手ではなかった。
     そこで窮奇は、俺から教わった魔術を元にし、魔術剣を編み出した」
    「ふむ」
    「本当に窮奇と言う男は、こと剣術に関しては、俺の才をはるかに凌駕していた。
     ……そうだな、例えば」
     大火はすっと立ち上がり、浴場の隅に立てかけられていた湯かき棒を手に取った。
    「湯船を見ていろ」
    「うむ」
     大火は棒を刀のように構え、湯船の表面に向けて振り払った。
    「『一閃』」
     大火と湯船とは3メートルほど離れていたが、不思議なことに――。
    「……!」
     湯船の端から端にかけ、鋭い波が立った。
    「素振り、……にしては、異様な間合いと威力だ」
    「ああ、魔力による力、打撃の発生だ。……理論を聞きたいか?」
     大火に見せつけられた技に、少佐はゴクリと喉を鳴らした。
    「……う、うむ。いち魔術教官、剣術教官として、非常に興味をそそられた。お主さえよければ、今すぐにでも教わりたいところだ」
    「いいだろう。それならこの後……」
    「……あ、いや。すまぬが今晩は、ファスタ卿に頼まれた用事を済まさねばならぬ。明日、いや、明後日に頼めるだろうか?」
    「承知した」



     一方、ランドはイールの案内を受け、別の浴場に到着した。
    「ここかぁ。案内ありがとう、イール」
    「いーえいえ」
     先程の動悸も何とか落ち着き、イールは平然としている。
    「んじゃ、あたしは戻るわね」
    「うん。……あ、そうだイール」
     イールが踵を返しかけたところで、ランドが呼び止める。
    「ん、何?」
    「明日の夕方くらい、暇かな?」
    「えっ?」
    「明日、少佐との会議が終わった後、次の作戦への準備を進めたくってさ。手伝ってくれないかな?」
    「あ、うん、いいわよ、あたしで良かったら」
     それを聞いて、ランドはほっとした顔を返してきた。
    「良かった、ありがとう。それじゃ明日夕方くらいに、離れの前で」
    「うん、分かった。そんじゃ、ね」
     イールはそのままランドにくるりと背を向け、少佐宅へと向かった。

     戻ってきたところで、イールは大火、少佐とすれ違った。
    「お主も風呂帰りか」
    「うん、そう。少佐たちも?」
    「ああ。……どうした、サンドラ卿?」
    「え?」
     少佐は不思議そうな顔で、こう尋ねてきた。
    「妙に上機嫌な様子であるが、何ぞ吉事でもあったか?」
    「ん、……ううん、何にも? それじゃ、ね」
     そう言ってパタパタ手を振りながら廊下を歩き去るイールの尻尾は、嬉しそうにくるくると揺れている。
    「……若さは、いい。何につけても、楽しそうだ」
    「……」
     少佐の一言に、大火は何も言わず肩をすくめた。
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【火紅狐・荷移記 3】へ
    • 【火紅狐・荷移記 5】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【火紅狐・荷移記 3】へ
    • 【火紅狐・荷移記 5】へ