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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・来帝記 1

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    フォコの話、217話目。
    天帝視察団、来る。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     双月暦309年、11月の末。
    「ほう、ほう……。ここが央南、か」
     天帝オーヴェルを筆頭とする調査団体、天帝視察団が、白京の港に到着した。
    「お待ちしておりました、天帝陛下」
    「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました」
     対する清王朝の重臣たちは、一様に頭を垂れる。
    「陛下御自ら、このような大陸の端までご足労いただき、感謝の極みにございます」
     その筆頭である国王、一富も例外ではない。普段しないような、露骨にぺこぺことした、へりくだった仕草で、天帝に頭を下げた。
    「うむ」
    「と……、陛下。長い船旅で、大変お疲れでございましょう。宮殿にて、もてなしのご用意をしてございます。公務に当たられる前に、まずはごゆるりと」
    「ふーむ、そうじゃな。朕もこの半月余り、空と海しか見ておらぬ。青色以外の鮮やかなものが見られること、期待しておるぞ」
     オーヴェル帝は大儀そうに鼻を鳴らし、清朝の文官たちに先導される形で港を後にする。
     反面、残った官僚たちは清朝の重臣たちを一瞥し、堅い口調で釘を刺した。
    「万一、懐柔目的で我々を持て成そうと言うおつもりであれば、我々はより厳しく、視察を行う所存です。
     くれぐれも今回の視察を、天帝陛下の単なるお遊び、気紛れなどとは思わぬよう」
    「……ええ、重々承知しております」
     重臣と一富はもう一度、深々と頭を下げた。

     愚君と評されるオーヴェル帝の率いる視察団であるが、今回の件は、天帝が自ら辺境へ赴き視察を行うと言う、近年稀に見る実地的な示威行動である。
     天帝、そして天帝の周囲を固める高級官僚たちの実力と権威を改めて、明確な形で世界に示すまたとない機会であり、彼らの意欲は非常に高かった。
     そのため、官僚たちの意気込みは半端なものではない。また、天帝自身も、なんとしてでも不正、腐敗を見つけ、責め立てようと、港に到着したその時から、いや、船上にいた時から既に、躍起になっていた。

    「本日は訪南を記念いたしまして、央南各地の海の幸、山の幸をたっぷりとご用意させていただきました。どうぞ、今夜は存分に……」「うむ」
     恭しく案内する文官たちをさえぎり、オーヴェル帝はぼそ、とこうつぶやく。
    「うわさに違わぬ金満振りのようじゃな。さぞ国庫は潤っておろう」
    「……あ、いや。今回は、特別に、はい」
    「そうか。特別に搾り取った、贅(ぜい)であるか」
    「い、……いいえ、滅相もございません」
    「……ふん」
     半ばけたたましく持て成していた文官たちは、一瞬にして静まり返ってしまった。



     その夜、一富の側近が視察団を持て成す席を離れ、密かに宮殿を抜け出して、近くの宿に逗留していたサザリーを訪ねた。
    「あの、一体どうなさったんです、こんな夜中に?」
    「いや、なに。あの件について、もう一度確かめようかと」
    「あの件? えーと、あれですか。あの、えっと、……『荷移し』、の」
    「そうだ。もう怪しまれるだけの量は、宮殿や軍本営には無いだろうな?」
    「もちろん、もちろん。怪しまれない分だけはちゃんと残してますし、ご心配は無用です」
    「ならばいいが」
    「あれ、僕のことを信用してないと?」
    「いや、いや。そう言うわけではない。ただ、陛下より『念のために、もう一度確認を』と命じられた故」
     それを聞き、サザリーは苦笑する。
    「あはははは……。つくづく心配性ですね、やんごとない地位にいらっしゃる方は。天帝陛下もご他聞に漏れず、そう言う性分のご様子ですし。
     心配、まーったくございません、です。あの島の存在など、気付く道理が無い。昼は街をご散策されるでしょうし、夜は宮殿に篭りっきり。一体いつ、とうに見飽きた海など見るものですか。無いでしょう?
     それに考えていただきたい。あの島、この僕が進言するまで、誰が記憶していましたか? 誰も覚えてらっしゃらなかったでしょう? この都にずーっと住まわれていたあなた方ですら、とうの昔に忘れていた場所ですよ? 一体どこの誰が、『そう言えば沖の方に丁度良さそうな島が』なーんて漏らしますか! 杞憂も杞憂、まったくもって馬鹿馬鹿しい話です!
     我々があの島についてうっかりと言及しない限り、天帝陛下が島の存在に気付くことなんて、一生起こりませんよ」
    「……そうだな」
     安心した様子の側近を見て、サザリーはいやらしい笑みを浮かべた。
    「まあ、こんなことを何度も確認するよりも、ですよ。とっとと天帝陛下を篭絡しちゃって、『この界隈に不実など何ら存在しなかった』と公表させた方が、話が早いでしょうね。
     僕なんかを相手にするよりも、天帝陛下にお酒の一本でも注いできたらどうです?」
    「……ああ、そうしよう」
     側近たちはそそくさと、サザリーの部屋を後にした。
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