「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・来帝記 4
フォコの話、220話目。
熱い侍の説得。
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4.
少佐の呼びかけに、集まってきた兵士たちが立ち止まる。
「……?」
松明で照らされた兵士たちの顔は、一様にけげんな表情を浮かべていた。
対するイールたちも同様に、呆気に取られている。
「少佐?」
「何する気だ?」
「まあ、待て。拙者に考えがある」
「え……」
少佐はイールたちの前に立ち、大声で兵士たちに呼びかけた。
「拙者、元清朝軍は魔術教官、穂村玄蔵である! 諸君らの中にも、拙者に指南を受けた者がいるであろう?」
「……」
兵士たちの何名かが、困惑した様子ながらもうなずく。
「では、拙者が軍を離れた理由を存じているか?」
「……ええ、まあ」
と、さらに何名かが返事をした。
「ならば話は早い! 拙者らに協力せぬか?」
「えっ」
「今、諸君らがこの島に乗り込み、行っていることは、何か分かっているか?」
「それは……、まあ」
「言ってみろ」
少佐は大声を出しつつ、刀を捨て、じりじりと歩み寄っていく。
「少佐!?」
「任せておけ」
少佐はイールたちに振り返らず、そのまま話を続ける。
「さあ、言ってみろ。ここへ軍備を運んだのは、一体何のためだ?」
「……上層部からは、軍倉庫の建て替えのため、一時的にここへ移送するようにと」
「それは、おかしいと思わんか? 単なる建て替えであれば、わざわざこんな、都より遠く離れた小島などに移すなぞ、手間がかかるばかりではないか!
諸君らも、とっくに気付いているだろう? これはそんな、簡単な話ではないと」
「……!」
少佐の言葉に、兵士たちの表情がこわばる。
「拙者がはっきり、言ってやろう! 今、世界の宗主たる天帝が直々に、この央南の地へ赴いている! それは何故か? そう、王朝の叛意を見抜いたからに他ならぬ!
それをごまかすために、単なる都の守護、防衛と言う名目では余りある、その莫大な軍備を、ここへ隠そうとしているのだ! 何と意地の汚いことであると、そうは思わんか!?」
「う……」
「さらにはその汚れ仕事を諸君らに押し付けておいて、その上層部やら国王陛下やら、その取り巻きやらは都にこもり、天帝へ酒や馳走を振る舞い、のうのうと相伴しているはず! それ即ち、彼奴らにとって、既に諸君らのことなぞ他人事も同然と言うことだ!
考えてもみろ! もし、諸君らのこの行動が視察団に露見すれば、国王はどう弁解するだろうか!? 恐らく、諸君らを『軍備を横流ししようとした奸賊』などど蔑み、にべもなく切り捨てるであろう!」
「……」
兵士たちの顔に不安の色が広がり、互いに顔を見合わせ、ぼそぼそと何かを話し始めた。
「悔しくはないのか、お前たち!?
こんな誇りのない仕事をするために、お前たちは軍人になったのか!?
こんな、国のためにならぬ、くだらぬ汚れ仕事のために、お前たちは宮仕えの身になったのかッ!?」
「それは……」
叱咤され、兵士たちは悔しそうな顔になる。
「違うだろう!? 拙者らは国のため、この央南の地に住む皆のために、軍人となったはずだ!
……だから、皆の者」
少佐は突然その場に座り込み、深く頭を下げた。
「……!?」
「頼む! 拙者らに協力してくれ!」
「……」
少佐の説得とこの土下座に、心を動かされない者はいなかった。
「へぇ……、そんなことが」
戻ってきたイールから顛末を伝え聞いたランドは、素直に驚いていた。
「なるほど、戦下手でも人心掌握に長けていたわけか。確かに反乱軍のリーダーの資質はあるんだね」
「ほめてないでしょ、ソレ」
呆れるイールに、ランドは小さく首を振る。
「いやいや、評価してるよ。確かに人を率いる器だ。
……と、じゃあつまり、今現在はマツガキ島を、掌握してあるんだね?」
「ええ、バッチリよ」
イールの報告に、ランドは、今度は深くうなずく。
「よし。それじゃ、次の手を進めようか」
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少佐の呼びかけに、集まってきた兵士たちが立ち止まる。
「……?」
松明で照らされた兵士たちの顔は、一様にけげんな表情を浮かべていた。
対するイールたちも同様に、呆気に取られている。
「少佐?」
「何する気だ?」
「まあ、待て。拙者に考えがある」
「え……」
少佐はイールたちの前に立ち、大声で兵士たちに呼びかけた。
「拙者、元清朝軍は魔術教官、穂村玄蔵である! 諸君らの中にも、拙者に指南を受けた者がいるであろう?」
「……」
兵士たちの何名かが、困惑した様子ながらもうなずく。
「では、拙者が軍を離れた理由を存じているか?」
「……ええ、まあ」
と、さらに何名かが返事をした。
「ならば話は早い! 拙者らに協力せぬか?」
「えっ」
「今、諸君らがこの島に乗り込み、行っていることは、何か分かっているか?」
「それは……、まあ」
「言ってみろ」
少佐は大声を出しつつ、刀を捨て、じりじりと歩み寄っていく。
「少佐!?」
「任せておけ」
少佐はイールたちに振り返らず、そのまま話を続ける。
「さあ、言ってみろ。ここへ軍備を運んだのは、一体何のためだ?」
「……上層部からは、軍倉庫の建て替えのため、一時的にここへ移送するようにと」
「それは、おかしいと思わんか? 単なる建て替えであれば、わざわざこんな、都より遠く離れた小島などに移すなぞ、手間がかかるばかりではないか!
諸君らも、とっくに気付いているだろう? これはそんな、簡単な話ではないと」
「……!」
少佐の言葉に、兵士たちの表情がこわばる。
「拙者がはっきり、言ってやろう! 今、世界の宗主たる天帝が直々に、この央南の地へ赴いている! それは何故か? そう、王朝の叛意を見抜いたからに他ならぬ!
それをごまかすために、単なる都の守護、防衛と言う名目では余りある、その莫大な軍備を、ここへ隠そうとしているのだ! 何と意地の汚いことであると、そうは思わんか!?」
「う……」
「さらにはその汚れ仕事を諸君らに押し付けておいて、その上層部やら国王陛下やら、その取り巻きやらは都にこもり、天帝へ酒や馳走を振る舞い、のうのうと相伴しているはず! それ即ち、彼奴らにとって、既に諸君らのことなぞ他人事も同然と言うことだ!
考えてもみろ! もし、諸君らのこの行動が視察団に露見すれば、国王はどう弁解するだろうか!? 恐らく、諸君らを『軍備を横流ししようとした奸賊』などど蔑み、にべもなく切り捨てるであろう!」
「……」
兵士たちの顔に不安の色が広がり、互いに顔を見合わせ、ぼそぼそと何かを話し始めた。
「悔しくはないのか、お前たち!?
こんな誇りのない仕事をするために、お前たちは軍人になったのか!?
こんな、国のためにならぬ、くだらぬ汚れ仕事のために、お前たちは宮仕えの身になったのかッ!?」
「それは……」
叱咤され、兵士たちは悔しそうな顔になる。
「違うだろう!? 拙者らは国のため、この央南の地に住む皆のために、軍人となったはずだ!
……だから、皆の者」
少佐は突然その場に座り込み、深く頭を下げた。
「……!?」
「頼む! 拙者らに協力してくれ!」
「……」
少佐の説得とこの土下座に、心を動かされない者はいなかった。
「へぇ……、そんなことが」
戻ってきたイールから顛末を伝え聞いたランドは、素直に驚いていた。
「なるほど、戦下手でも人心掌握に長けていたわけか。確かに反乱軍のリーダーの資質はあるんだね」
「ほめてないでしょ、ソレ」
呆れるイールに、ランドは小さく首を振る。
「いやいや、評価してるよ。確かに人を率いる器だ。
……と、じゃあつまり、今現在はマツガキ島を、掌握してあるんだね?」
「ええ、バッチリよ」
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