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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・来帝記 5

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    フォコの話、221話目。
    急所へ向かう視察団。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     視察団の来訪から1週間が経とうかと言う頃、ついに事態は動いた。
     来訪からこの日まで、視察団は白京市内および近郊の都市を根掘り葉掘りと捜索し、不穏・不安の根をひたすら探っていた。
     しかし、視察団が来ることは事前に伝わっていたし――その時点で「視察」などと言う行為は無意味も同然なのだが――清王朝にとって不利になるような案件、物品は白京周辺から遠ざけている。
     さらには問題の待垣島についても、視察団が来る直前には既に軍備を運び終え、担当の兵士たちが戻ってこないように措置を執っている。そのため、仮に一人ひとり、白京内の兵士たちを詰問しても、何も出てくることはない。
     そもそもこの待垣島の開発が行われ、そして中止されたのは、現在40半ばの穂村少佐がまだ新兵だった頃の話である。20余年、四半世紀が経った現在、書庫の資料をよほど奥深くまで漁りでもしない限り、このちっぽけな島の情報が入ることはまず無かった。

     しかし、この日。
    「ん……?」
     視察団の面々が港へぞろぞろと歩いていくのを、清王朝の文官が発見した。
    「これはこれは、視察団の皆様! 本日はどちらへ……?」
     文官に尋ねられ、官僚の一人が答える。
    「ここより南に、何でも漁業基地として開発されかかった島があると情報が入った。船を出し、そこを調査するのだ」
    「島、……でございますか?」
     清王朝にとっては間の悪いことに、この文官は待垣島のことなどまったく知らなかった。
    「そうだ。何でも、……ま、……まち?」
    「マツガキ島、ですな」
     他の官僚に助け舟を出されつつ、その官僚は説明する。
    「そうそう、そのマチガイ島だ。情報を受け、市井の者に尋ねて回ったが、どうも要領を得ない。どうやら、地元の者にも忘れられた島らしい」
    「はあ」
    「とは言え、物理的に存在するのは確かなようだ。ここも白京の領内であろうし、それならばと言うことで、これから調べに向かう」
    「そうでしたか。では、お気をつけて」
    「うむ」
     文官が去ったところで、官僚たちは小声で相談しあう。
    「……今の文官は、存じていなかったようだな?」
    「そのようで。しかし、情報によれば」
    「ああ。とは言え、文官や兵士の全員が絡んでいるわけでもなかろう。恐らく一部の者だけ、この件に加担しているのだろうな」
    「まあ、どちらにせよ、この一週間で最も臭う情報です。何しろ情報提供者が……」
    「うむ。島にいる兵士、とのことであるしな」



     待垣島のことが露見しないよう、兵士たちが物資を輸送し終えた時点で、輸送船が彼らを置いて島を離れるように手配されていた。
     彼らが街に戻ってこないように、間違っても視察団と会わないようにと言うサザリーの考えだったが、穂村少佐との一件により、その目論見はあっけなく破綻していた。
    「お待ちしておりました、視察団の皆様。準備は既に整っております」
    「うむ」
     港に着いたところで、島に置き去りにされていたはずの兵士のうち数名が、視察団の乗ってきた船からひょい、と降りてきた。
    「案内、よろしく頼んだぞ」
    「お任せください」
     この兵士たちは少佐の説得に感銘を受けた一人であり、締め出された都に忍び込むと言う危険を買って出てくれていた。
    「では、直ちに出港し……」
     と――街の方から、青ざめた顔の重臣が数名、バタバタと走ってきていた。どうやら先程の文官から事情を聞き、慌てて駆けつけたらしい。
    「……いかがなされますか? 構わず出港を?」
    「いや、……言い分を、聞くだけ聞いてみようか」
     彼らが到着したところで、官僚の一人が声をかける。
    「どうされた、皆。何かあったか?」
    「あ、あ、あった、ど、どころではっ」
     重臣たちはブルブルと震えながら、船の出発を止めようとわななく。
    「お、おお、お戻りくださいませ! そっ、そんなところに、何もありはしません!」
    「何もない? 何のことだ?」
     しまったと言う顔をした重臣に畳み掛けるように、官僚はわざとぼかして尋ねてみる。
    「はて、『そんなところ』とは、どこのことを言っているのか?」
    「ま、待垣島の件にございます! あそこはとうの昔に廃棄された……」
    「そうか、そうか。では良からぬ者が棲みついているやも分からんな」
    「あっ、いやっ、そうではなくて……」
    「我々はどんな小さな不穏の種も見逃さぬつもりで、視察に来ている。誰の目にも触れぬ基地跡があると言うなら、むしろそこを探らねば何の意味も無いではないか。
     ……それとも何か? 我々がそこを探ると、諸君らに何か不都合があるのか?」
    「……い、いいえ……」
    「ならば良いではないか。
     では、見送りご苦労であった」
     官僚たちはそそくさと船に乗り、出港した。
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