「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・来帝記 6
フォコの話、222話目。
軍備隠し、露見。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
沖へと進んでいく視察団の船を真っ青な顔で見ていた重臣の一人が、ばっと身を翻した。
「エール氏だ! 彼なら何か、手を打ってくれているはず!」
「そ、そうだ!」
彼らは大急ぎでサザリーのいる宿へ駆け込み、まだ高いびきで眠っていた彼を起こし、事情を説明した。
「ふあ、あ……、なるほど、うーん、そりゃ確かにまずい」
「何を悠長な!」
「どうにかしてくれ!」
わめく重臣たちを横目でチラ、と眺め、サザリーはにへら、と不気味な笑いを浮かべた。
「ご安心を。こんなこともあろうかと、取って置きをね、……うへへへ」
サザリーは枕元のかばんから、巻物を取り出した。
「何だ、それは……?」
「魔法陣を記したものです。と言っても、これはまだ完璧じゃないです」
「は……?」
「完成させるとあら不思議、と言う奴ですよ。こうして、ここにちょい、っと」
サザリーは指を墨壷に漬け、魔法陣に点を打つ。
「これでマツガキ島は大爆発、跡形もなくドカンです」
「何だと?」
「いわゆる『魔術頭巾』の技術の応用でしてね。火の術を発動させるよう、その命令をマツガキ島の軍備に紛れ込ませていた魔法陣へ送ったんです。
もうそろそろ、沖の方から……」
そう言ってサザリーは、よれよれの兎耳を窓へと向ける。重臣たちもつられて、窓に目をやった。
が。
「……」
「……」
「……エールさん?」
1分ほど経っても、爆発音など聞こえてこない。
「……ちょっと遠すぎましたかね。流石に音なんて聞こえないみたいで。
ま、ご安心ください。魔術はちゃんと発動してますし、証拠は全部……」
と、サザリーがペラペラと魔法陣の描かれた巻物を振ったその時だった。
突然、その巻物が燃え上がった。
「……!?」
当然、巻物を持っていたサザリーの寝巻きの袖に火が移る。
「う、……わ、あち、あちちっ!?」
「エールさん!?」
慌てふためく重臣に応じる余裕もなく、サザリーは手をバタバタと振って火を消そうともがく。
何とか火は消えたが、サザリーの左袖はブスブスと黒い煙を上げ、腕に軽い火傷を負ってしまった。
「な……、何が……? なんで……?」
つい先程まで余裕綽々だったサザリーは、腕を押さえて呆然とするしかなかった。
同時刻、湯嶺。
「クク……、愚か者め。こんな三流、子供の落書きのような魔術で証拠を消そうとは。クククク……、笑わせてくれる、ククク」
島に乗り込んだ際、大火がサザリーの仕込んだ魔法陣の存在に気付き、持ち帰って細工をしたのだ。
そして今、術が発動したことを、大火は笑いながら教えてくれたのである。
「今頃は、仕掛けた相手の方が燃えているだろうな」
「へー、そんなコトできんの?」
イールの問いに、大火はクックッと笑いながらうなずく。
「術によるが、な。単純なものほど、効果や対象を反転させやすい」
「流石ねー」
「ククク……」
この1時間後、視察団は何の妨害も受けず、待垣島に上陸した。
そして大量の軍備と、現地に留められていた兵士たちから事情を聞き、彼らは戦慄した。
「なんと……、本当に、政府転覆を狙っていたとは!」
「単なる風説と思っていたが、まさか……」
「証拠も証言も十分すぎるほどあるな。……これはのんびりしていられん!」
官僚たちは兵士にこう声をかけ、共に連れて行こうとした。
「我々はこのことを正式に糾弾するため、一度白京へ戻り陛下をお連れした後、央北へ戻ることにする。
お前たちについてだが……、このまま白京へ戻れば、ただでは済むまい。そこで此度の貢献を高く評価し、中央軍にて厚遇しようかと思うが、どうだ?」
ところが兵士たちは一様に、横に首を振った。
「いえ、お気持ちは大変嬉しいのですが、我々は央南の地に残ります」
「ほう……?」
「と言っても、我々を裏切った清朝に仕える気は既に、毛頭無く。このままこの地に残り、戦おうと考えております」
「なるほど。……とは言え、天帝陛下にこの件をお伝えせねばならん。もう一度だけ我々と共に、船に乗ってもらうが、それでも良いか?」
「分かりました」
こうして309年の暮れ、清王朝の企みは、中央政府に知られることとなった。
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軍備隠し、露見。
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沖へと進んでいく視察団の船を真っ青な顔で見ていた重臣の一人が、ばっと身を翻した。
「エール氏だ! 彼なら何か、手を打ってくれているはず!」
「そ、そうだ!」
彼らは大急ぎでサザリーのいる宿へ駆け込み、まだ高いびきで眠っていた彼を起こし、事情を説明した。
「ふあ、あ……、なるほど、うーん、そりゃ確かにまずい」
「何を悠長な!」
「どうにかしてくれ!」
わめく重臣たちを横目でチラ、と眺め、サザリーはにへら、と不気味な笑いを浮かべた。
「ご安心を。こんなこともあろうかと、取って置きをね、……うへへへ」
サザリーは枕元のかばんから、巻物を取り出した。
「何だ、それは……?」
「魔法陣を記したものです。と言っても、これはまだ完璧じゃないです」
「は……?」
「完成させるとあら不思議、と言う奴ですよ。こうして、ここにちょい、っと」
サザリーは指を墨壷に漬け、魔法陣に点を打つ。
「これでマツガキ島は大爆発、跡形もなくドカンです」
「何だと?」
「いわゆる『魔術頭巾』の技術の応用でしてね。火の術を発動させるよう、その命令をマツガキ島の軍備に紛れ込ませていた魔法陣へ送ったんです。
もうそろそろ、沖の方から……」
そう言ってサザリーは、よれよれの兎耳を窓へと向ける。重臣たちもつられて、窓に目をやった。
が。
「……」
「……」
「……エールさん?」
1分ほど経っても、爆発音など聞こえてこない。
「……ちょっと遠すぎましたかね。流石に音なんて聞こえないみたいで。
ま、ご安心ください。魔術はちゃんと発動してますし、証拠は全部……」
と、サザリーがペラペラと魔法陣の描かれた巻物を振ったその時だった。
突然、その巻物が燃え上がった。
「……!?」
当然、巻物を持っていたサザリーの寝巻きの袖に火が移る。
「う、……わ、あち、あちちっ!?」
「エールさん!?」
慌てふためく重臣に応じる余裕もなく、サザリーは手をバタバタと振って火を消そうともがく。
何とか火は消えたが、サザリーの左袖はブスブスと黒い煙を上げ、腕に軽い火傷を負ってしまった。
「な……、何が……? なんで……?」
つい先程まで余裕綽々だったサザリーは、腕を押さえて呆然とするしかなかった。
同時刻、湯嶺。
「クク……、愚か者め。こんな三流、子供の落書きのような魔術で証拠を消そうとは。クククク……、笑わせてくれる、ククク」
島に乗り込んだ際、大火がサザリーの仕込んだ魔法陣の存在に気付き、持ち帰って細工をしたのだ。
そして今、術が発動したことを、大火は笑いながら教えてくれたのである。
「今頃は、仕掛けた相手の方が燃えているだろうな」
「へー、そんなコトできんの?」
イールの問いに、大火はクックッと笑いながらうなずく。
「術によるが、な。単純なものほど、効果や対象を反転させやすい」
「流石ねー」
「ククク……」
この1時間後、視察団は何の妨害も受けず、待垣島に上陸した。
そして大量の軍備と、現地に留められていた兵士たちから事情を聞き、彼らは戦慄した。
「なんと……、本当に、政府転覆を狙っていたとは!」
「単なる風説と思っていたが、まさか……」
「証拠も証言も十分すぎるほどあるな。……これはのんびりしていられん!」
官僚たちは兵士にこう声をかけ、共に連れて行こうとした。
「我々はこのことを正式に糾弾するため、一度白京へ戻り陛下をお連れした後、央北へ戻ることにする。
お前たちについてだが……、このまま白京へ戻れば、ただでは済むまい。そこで此度の貢献を高く評価し、中央軍にて厚遇しようかと思うが、どうだ?」
ところが兵士たちは一様に、横に首を振った。
「いえ、お気持ちは大変嬉しいのですが、我々は央南の地に残ります」
「ほう……?」
「と言っても、我々を裏切った清朝に仕える気は既に、毛頭無く。このままこの地に残り、戦おうと考えております」
「なるほど。……とは言え、天帝陛下にこの件をお伝えせねばならん。もう一度だけ我々と共に、船に乗ってもらうが、それでも良いか?」
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