「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・発火記 2
フォコの話、225話目。
火の魔術剣。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「つまりは、中央は様子見と言う結果か」
「そう言うことです」
湯嶺、穂村少佐の家。
中央政府の、清王朝に対する処置を聞いた少佐は、残念そうにうなった。
「むう……。それでも、中央軍が手を出さぬだけは、ましか」
「この展開も十分あると予見できていましたし、僕からしてみればまずまず、と言うところですね。
それに、国内の展開は良くなってきています。かねてからの重税と徴発が長期化していることに加え、その理由が明らかになり、また、兵士たちが数名離反したことと、中央との関係が悪化したことから、世論では清王朝非難、打倒の声が大きくなっています。
清王朝も態勢立て直しに奔走しているでしょうし、今なら、かつて少佐が実行しようとしていた作戦――コゲンの備蓄基地攻撃も、大きな成果を挙げるでしょう」
「ふむ……」
ランドの見解に、少佐は深くうなずいた。
「攻めて良し、と言うのならば、攻めてみようか。
丁度克からも、技を教わったからな」
「技?」
その技を見せてもらうため、ランドは少佐に連れられ、家の裏手、雑木林の生い茂る山へ入った。
「ふう、ふう……、それで、どんな技なんです?」
短めではあるが山道を登り、軽く息を切らしているランドに、少佐はニヤリと笑って見せた。
「おう。しからば、お見せ致そう」
そう言って、少佐はひゅん、と軽い音を立てて刀を抜き、正眼に構える。
「……『火刃』」
次の瞬間、少佐が持っていた刀の切っ先に、ぽん、と火が点いた。
「火、……ですか?」
「ただの火にはござらん。魔術による炎だ」
「へぇ……?」
話しているうちに、刀に付いた火は、刃全体に回る。
「とくと見よ、ファスタ卿。……りゃあッ!」
火の点いた刀が、近くの木をざくり、と斬る。
そしてそのまま、木には火が回り、あっと言う間に燃え尽きた。
「うむ、上出来だ」
少佐は満足げに笑みを浮かべつつ、刀を納めた。
「なるほど……。近接戦、白兵戦には有効そうですね」
「であろう? これを拙者は、教条化した。我々反乱軍の兵士たちにも魔術の心得がある者は多いし、使える者は何人かいるだろう。
戦う準備は、いつでも整っている」
「……ふむ」
少佐の言葉に、ランドは引っかかるものがあった。
「少佐。あなたはいつも、戦うと言う選択をされますが」
「うむ」
「あなたは平和に話し合い、敵を引き入れることもできる方だ。それなのに何故、まず戦おうと? まず話そう、と言う姿勢を前面に出すことはできないんですか?」
「なるほど。……それは、机上の理屈であるな」
「え?」
少佐は刀の柄をさすりながら、遠い目をして尋ねた。
「お主、実際に人と争ったことは無かろう?」
「いえ、戦闘地域に赴いたこともありますし、口論になることも……」
否定しようとしたランドの弁をさえぎり、少佐はこう付け加える。
「そうではなく、実際に殴ったり、殴られたりの喧嘩になった、と言う話だ」
「……それは、確かに無いですね」
「実際にそうなった場合、相手は拙者の話など聞かぬ。何が何でも、拙者を殴りつけ、蹴り飛ばし、打ち倒そうと、頭の中はそれで満杯になる。
そこへ『待て待て、まずは話し合おうではないか』などと声をかけたとて、憤怒がパンパンに詰まった頭に入ろうはずも無し。
呑気に『自分は口達者だから、話し合いに持ち込みさえすれば何とでもなる』などと、無防備に構えていたら、……真正面から斬られて死ぬぞ、お主」
「……」
少佐はランドに向き直り、渋い表情を緩めた。
「まあ、そんなところだ。……いや、拙者とて、話し合いができるに越したことはない。
であるから、先の待垣島では刀を抜かなかったのだ。あの時の兵士は、戸惑いを見せていたからな」
「戸惑い?」
「あの時の彼らは、武器を構え、拙者らに対し警戒してはいても、すぐに襲撃しようとはしなかった。
何故なら、襲撃に足る理由を持ち合わせていなかったからだ。納得の行かぬ軍務に就き、何が自分たちの敵であるかも定まっていなかった。
であるからこそ、彼らは拙者の話に耳を貸したのだ。……こんなことは、稀有な例と心得てほしい、ファスタ卿」
「……分かりました。参考にします」
@au_ringさんをフォロー
火の魔術剣。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「つまりは、中央は様子見と言う結果か」
「そう言うことです」
湯嶺、穂村少佐の家。
中央政府の、清王朝に対する処置を聞いた少佐は、残念そうにうなった。
「むう……。それでも、中央軍が手を出さぬだけは、ましか」
「この展開も十分あると予見できていましたし、僕からしてみればまずまず、と言うところですね。
それに、国内の展開は良くなってきています。かねてからの重税と徴発が長期化していることに加え、その理由が明らかになり、また、兵士たちが数名離反したことと、中央との関係が悪化したことから、世論では清王朝非難、打倒の声が大きくなっています。
清王朝も態勢立て直しに奔走しているでしょうし、今なら、かつて少佐が実行しようとしていた作戦――コゲンの備蓄基地攻撃も、大きな成果を挙げるでしょう」
「ふむ……」
ランドの見解に、少佐は深くうなずいた。
「攻めて良し、と言うのならば、攻めてみようか。
丁度克からも、技を教わったからな」
「技?」
その技を見せてもらうため、ランドは少佐に連れられ、家の裏手、雑木林の生い茂る山へ入った。
「ふう、ふう……、それで、どんな技なんです?」
短めではあるが山道を登り、軽く息を切らしているランドに、少佐はニヤリと笑って見せた。
「おう。しからば、お見せ致そう」
そう言って、少佐はひゅん、と軽い音を立てて刀を抜き、正眼に構える。
「……『火刃』」
次の瞬間、少佐が持っていた刀の切っ先に、ぽん、と火が点いた。
「火、……ですか?」
「ただの火にはござらん。魔術による炎だ」
「へぇ……?」
話しているうちに、刀に付いた火は、刃全体に回る。
「とくと見よ、ファスタ卿。……りゃあッ!」
火の点いた刀が、近くの木をざくり、と斬る。
そしてそのまま、木には火が回り、あっと言う間に燃え尽きた。
「うむ、上出来だ」
少佐は満足げに笑みを浮かべつつ、刀を納めた。
「なるほど……。近接戦、白兵戦には有効そうですね」
「であろう? これを拙者は、教条化した。我々反乱軍の兵士たちにも魔術の心得がある者は多いし、使える者は何人かいるだろう。
戦う準備は、いつでも整っている」
「……ふむ」
少佐の言葉に、ランドは引っかかるものがあった。
「少佐。あなたはいつも、戦うと言う選択をされますが」
「うむ」
「あなたは平和に話し合い、敵を引き入れることもできる方だ。それなのに何故、まず戦おうと? まず話そう、と言う姿勢を前面に出すことはできないんですか?」
「なるほど。……それは、机上の理屈であるな」
「え?」
少佐は刀の柄をさすりながら、遠い目をして尋ねた。
「お主、実際に人と争ったことは無かろう?」
「いえ、戦闘地域に赴いたこともありますし、口論になることも……」
否定しようとしたランドの弁をさえぎり、少佐はこう付け加える。
「そうではなく、実際に殴ったり、殴られたりの喧嘩になった、と言う話だ」
「……それは、確かに無いですね」
「実際にそうなった場合、相手は拙者の話など聞かぬ。何が何でも、拙者を殴りつけ、蹴り飛ばし、打ち倒そうと、頭の中はそれで満杯になる。
そこへ『待て待て、まずは話し合おうではないか』などと声をかけたとて、憤怒がパンパンに詰まった頭に入ろうはずも無し。
呑気に『自分は口達者だから、話し合いに持ち込みさえすれば何とでもなる』などと、無防備に構えていたら、……真正面から斬られて死ぬぞ、お主」
「……」
少佐はランドに向き直り、渋い表情を緩めた。
「まあ、そんなところだ。……いや、拙者とて、話し合いができるに越したことはない。
であるから、先の待垣島では刀を抜かなかったのだ。あの時の兵士は、戸惑いを見せていたからな」
「戸惑い?」
「あの時の彼らは、武器を構え、拙者らに対し警戒してはいても、すぐに襲撃しようとはしなかった。
何故なら、襲撃に足る理由を持ち合わせていなかったからだ。納得の行かぬ軍務に就き、何が自分たちの敵であるかも定まっていなかった。
であるからこそ、彼らは拙者の話に耳を貸したのだ。……こんなことは、稀有な例と心得てほしい、ファスタ卿」
「……分かりました。参考にします」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~