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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・連帯記 2

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    フォコの話、230話目。
    道を間違えた商家。

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    2.
     夜、サザリーは密かに、「魔術頭巾」で兄――エール家の現当主、ミシェル・エールと会話を交わしていた。
    《口先で大臣と軍人をへこました、か。お前もなかなか、できるようになってきたな》
    「ありがとう兄さん、……へへへ」
    《だが、その締まりの無い笑い方は何とかすべきだ。それはあまり、信用に結びつかない》
    「まあ、その、努力はしてるんですけどね」
     久々に肉親と話し、サザリーは上機嫌に振舞っている。
     だが急に語調を落とし、サザリーは眉をひそめながら兄に尋ねる。
    「ああそうだ、兄さん。……あいつのこと、どう思います? あの、短耳眼鏡」
    《ゴールドマン総帥か?》
    「そう、そいつですよ。……僕にしてみれば、あいつは商人なのか疑わしいんです」
    《……ほう。それは何故だ?》
    「何故って、あいつはあんまりにも非道だからですよ。
     今、僕がこの央南で進めている作戦は、完遂すれば確実に、央南を経済危機に晒します。これでもかって戦費を増やし、その一方で、借り入れ額もどんどんと増えていってます。
     そう、借金を膨らましてるのも、あいつの指示と裁量です。そりゃ、月たったの4%複利、そう説明されたら、数字に弱い奴は美味しい話だと思って乗っかりますよ。でもこれ、年複利に直したら約60%の複利、滅茶苦茶な利子になります。
     それで、これも奴の指示ですけど、月が変わって利子が付いてから出撃するように、って。……こんなアコギなこと、僕たちだって進んでやろうとは思いませんよ」
     弟の意見に、ミシェルはすぐには、何も言わなかった。
    《……》
    「兄さん?」
    《……サザリー。私の意見としては、彼は商人である、と、……思う。
     思うが、しかし。確かにお前の言うように、彼は客や商売敵に対して苛烈すぎる面があることは、否定できない。
     いくら我々の仕事が、結局は『いかにして他者より早く、多く、客から金を巻き上げるか』であるとは言え、彼はその度が過ぎる。あれではまるで、種籾も残さず小麦を刈り取ってしまうようなものだ。後に残るものが、何も無い。
     だが弟よ、それでも私は……》
     と、そこで言葉が途切れる。
    「……兄さん? どうしたんです?」
    《……いや、サザリー。今の言葉、私が言ったことは、忘れてくれ。
     名目的にも、実質的にも、彼は我々エール家の親密なるパートナー、共同経営者だ。それを悪く言うことは、彼との提携を切ることになる。
     そうなれば我々も、おしまいだ。彼の協力によってこの座を、エール商会総裁の座を得た私は、彼の援護無しには、……ここには居られないのだから。
     では、お休み、サザリー》
     それきり、「頭巾」から声は途絶える。
    「……兄さん……」
     あまり倫理観、道徳観念の鋭くないサザリーにも、兄の苦悩は感じられた。

     通信を終えたミシェルは、自室の窓から屋敷を見下ろした。
     その眼下には、庭師が解雇されたため、荒れ果てた庭が広がっている。
    「……これが私の得たかったものか」
     後ろを向けば、そこには膨大な書類が並んでいる。
     その半分が借用書であり、残る半分は、これまで進めてきた央南買収計画、そして西方商業網独占計画に関わるものだ。
    「『いかにして他者より早く、多く、客から金を巻き上げるか』、……か。
     私がなりたかったのは、そんな下劣な人間だったのか」
     彼は今にも叫び出したい衝動をこらえ、書類だらけの机に着席する。
    「……父さん。私は多くの手を、打ち間違えた。
     今はもう、進むも地獄、戻るも地獄。どう動いても、あいつに吸い尽くされそうなんだ」
     彼はガリガリと頭をかきむしる。それ以外に、気を紛らわせる方法が思い付かないのだ。
    「こんな風には、なりたくなかったよ」
     ガリガリと頭をかきむしる彼の前には、一枚の新聞が置かれていた。
     そこには南海の事情――突如現れた商業組合ロクシルムがスパス系を駆逐した、と言うニュースが報じられていた。
    「くく、ふははは……、なんだ、これはっ……!
     どう見ても我々が悪役、この、ロクシルムと言う相手が英雄扱いだ!
     私は……、私は……、悪者になんてなりたくなかったのに! 私はただ、ただ単に、この西方で一番の権力者、ただの金持ちになりたかっただけなんだ!」
     彼は自分の血にまみれた手で、その新聞を引き裂いた。
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