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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・術数録 4

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    晴奈の話、第101話。
    人が堕ちていく様子。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     次の日もエルスは良太を伴い、書庫に篭っていた。
    「今度はシノハラの情報集めだ。どんな人だったのか、それから目的は何か、今はどこにいるのか。その辺りを調べていこう」
    「お会いした時、おじい様から伺いませんでしたっけ?」
     きょとんとする良太に、エルスは「んー……」と低くうなり、ゆっくりと説明した。
    「まあ、もう少し前後関係なり、周辺なりを洗い出しておこうかなってね。
     普段ならあんまりこんなことしないんだけど、対峙した時、ちょこっと嫌なものを感じたんだ。何て言うか、んー……、異常な『昏さ』を見たんだ」
    「昏(くら)さ?」
    「まともな状況判断ができてないんだ。と言うよりも、自分で判断することを放棄しているって感じかな。
     シノハラと会った時、僕は彼に『アマハラは無事逃げたんだから、戦う意味は無い。だからこのまま帰ってくれないか』って交渉してみた。でも結果は×。命令最優先って態度で攻撃してきた。
     現場判断を優先するなら、この場合はさっさと引いた方が話は早いし、後々もし戦うことになった場合、手の内をさらけ出して不利になることも無いのにね。
     もっとも、僕らにすぐ勝てると考えての行動かもしれないけど」
    「そんなものですか」
    「ああ、そんなもんだよ。
     で、この手の人間に一般論は通用しないし、説得はまず無理。かと言って非常に強かったから、真正面から戦うのも骨が折れる。
     だから弱点か、弱点となりそうなものを探そうと思ってね」
    「なるほど……」
     エルスの見解を聞き、良太も彼の考えを理解したらしく、書庫の奥から古びた本を持ってきてくれた。
    「奥に封印してあった、塞に残されていった日記です。人の日記を見せるのは、あまり気が乗りませんが……」
     日記の表紙には、「篠原龍明」と書かれている。エルスは目を丸くし、笑顔を作ってそれを受け取った。
    「これはすごい掘り出し物だ。ありがとう、リョータ君」
    「あ、はい……。あの、あんまり公言は」
    「勿論しないよ。大丈夫、大丈夫」
     エルスは小さく頭を下げながら席に座り、日記を開いた。



    「501年 2月26日
     家元と話す。いつもながら含蓄のあるお言葉に、ただただ感銘するばかりだ。自分もあのような、本物の剣士になりたいものだ。

     501年 3月5日
     楢崎、藤川と稽古をする。藤川は間もなく免許皆伝の試験を受けると言う。内容が内容だけに口を出すことはできないが、せめて無心に打ち込ませることで、焦りを抑えさせてやろう。

     501年 3月7日
     藤川が試験に落第した。ひどく落ち込んでいたが、仕方ない。気を取り直し、もう一度挑んで欲しい」



    「なんか、……普通の日記ですね。エルスさんが言ってたような、昏い感じじゃないです」
     横で見ていた良太が、ぼそっと感想を漏らす。
    「……うーん」
     エルスはそれに答えず、ページをめくった。



    「501年 3月12日
     楢崎も近いうち、試験を受けることになりそうだ。先に免許皆伝を得た身であるし、力量も自分の方が上だから、明日は試験にふさわしいか見てやることにしよう。

     501年 3月15日
     藤川が怒っている。何でも、自分は傲慢だと言うのだ。内省してみたが、自分は傲慢と言われる筋合いが無い。自分の力量は寸分無く把握しているつもりだ。藤川は試験の失敗で少し、疲れているのだろう。年長者の自分に向かってあんな言を吐くとは、前後不覚もはなはだしい。

     501年 3月19日
     家元から訓告を受けた。内容は先日藤川が自分に向けて言い放ったのと同義。愕然とした。家元は自分のことを、寸分も理解してくれていなかったようだ。と言うよりも、家元の頭は藤川と同格だったらしい。なるほど、自分を理解してくれない、いや、できないわけだ。

     501年 3月22日
     家元に対して抱いた感想を風呂の折、楢崎に伝えた。楢崎は困った顔でそのような考えは不遜では無いだろうか、もう少し落ち着いた方がいいと答えてきた。彼も藤川並みだったようだ。

     501年 3月27日
     若い門下生の稽古に付き合った。女ながら筋が良い。休憩中に細々とした話をする。自分を慕ってくれているらしく、久々に心が澄んだ。

     501年 4月2日
     またあの門下生に出会い、稽古をつけた。「猫」だからだろうか、恐ろしく俊敏で鋭い太刀捌きを見せる。名前を聞いてみたところ、竹田朔美と名乗った。さくみ……、珍しい名前だ。また休憩中に話をする。つい、休憩時間を大幅に超えてしまった。なかなか面白い考えをする娘だった」



    「これは恋の話、ですかねぇ? ……なんちゃって」
     横でまた、良太が口を挟む。
    「はは、面白いね。でももっと面白いことがずっと書かれていたこと、気付いてるかな?」
    「え? と言うと、……何でしょうか?」
    「偉そうだと思わなかった?」
    「ああ、まあ、それは少し」
    「だろう? 僕には、彼の人物像がありありと浮かんできた。
     自分では真面目で厳格な、みんなから目標とされる人物だ、……と思っているようだけど、実際はひどく頑固で、他人を常に自分より下に見ている。
     さらに幻想を抱きやすく、思い込みが多い。そしてその幻想が現実と食い違う場合、ひどい拒否反応、否定的感情を抱く。
     他人の意見を受け入れず、自分の思い込みで行動する。そして他人に否定されると、例え相手がつい先ほどまで尊敬していた人物であろうと、強い拒絶感を抱く」
    「はあ……」
     エルスは首をコキコキと鳴らしつつ、話を続ける。
    「でもね、こう言う人も心のどこかでやっぱり、『人に良く見られたい』と感じている。自分が正しいのは疑わないけれど、それが人に受け入れられないと、ひどく不安になる」
    「ああ、それは感じました。3月下旬の日記は少し、情緒不安定って感じでしたよね」
    「うん。で、ここからが少し、怖いところだ。
     このまま誰からも相手にされず、孤立したらきっと、『自分が悪かったのかも知れない』と寂しがる。そこでようやく、本当に内省しただろう。結局のところ、人間は他人がいないと安心できない生き物だから、他人とある程度はすり合わせないと生きていけない。
     でも彼は、その傲慢な考えを理解し、応援してくれる人に出会ってしまった……、と言うわけだねぇ」
     そう言ってページをめくったところで、エルスは苦笑した。
    「……ああ、ダメなパターンに入っちゃったよ。
     もしもこのサクミさんと言う女性が、頭が良く、洞察力に長け、さらに野心を持っていたとしたら、シノハラは陥落させられ、彼女の手先になっちゃうだろうね。
     会って話し込まれでもしたら、一発で堕ちる」



    「501年 4月7日
     朔美は本当に自分を分かってくれている。出会ってまだ一月も経っていないと言うのに、自分は彼女に心酔してしまっている。これではいけない。剣の腕が鈍ってしまう。気を引き締めなければ。朔美とは会わない方がいいだろう。

     501年 4月8日
     嗚呼! この馬鹿めが! 朔美と、会って、……嗚呼!

    (501年 4月9~12日まで、何も書かれていない)

     501年 4月13日
     自分は何とくだらぬことで惑うていたものか。朔美がいてくれるのだ。彼女が付いていてくれるならば、自分にできぬことなど何も無い。

     501年 4月15日
     朔美と計画を練った。やはり、あのじじいを消さねばならぬだろう。

     501年 4月17日
     朔美があの計画に賛同する門下生たちを集めてきてくれた。何と頼もしいことか。是が非でもあのじじいを殺し、この紅蓮塞を乗っ取らねば」



    「……この1ヵ月後に、シノハラの謀反か。
     ワルラス卿とアマハラの野心、そしてシノハラとサクミさんの邂逅、焔流の内紛――これは、ひどく複雑な話だったんだねぇ」
     日記を閉じ、エルスはしばらく天井を見上げ、考え込む。
    (しかしあと一つ、いや二つか、謎が残る。アマハラとシノハラが出会った理由ときっかけ、それから現在に至っても、シノハラがアマハラのところに身を置いている、その理由。
     ああ、もう一つあった。彼の弱点……。まあ、これについては、ヒントくらいは得たかな)

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.10 転載
    2016.03.20 修正
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