「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・異軍記 5
フォコの話、238話目。
契約の悪魔、約束を保留する。
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5.
大火が居間に着いたところで、玄蔵がほっとした顔をして彼を出迎えた。
「おう、克。遅かったではないか」
「済まない。野暮用で、な」
玄蔵が立ち上がり、三縞知事たち二人を青江へ戻すよう促す。
「さあ、話は付いた。二人を戻し、作戦を進めよう」「……いや」
が、大火は小さく首を横に振った。
「少し、……そうだな、2時間ばかり待ってもらえないか」
「何?」
「もう一つ、野暮用だ。気にかかることがある」
「後にできんのか、それは? 二人がこちらに来て、もう丸一日経とうとしている。そろそろ戻らねば、軍や青州の制御が……」
「それどころではない、……ことになるかも知れんのだ」
「な……」
面食らう玄蔵と三縞知事たちを尻目に、大火はその場から姿を消した。
「……ふぁ、ファスタ卿! ファスタ卿!?」
「どうしました?」
呼ばれたランドが、そのまま隣の部屋からやって来る。
「一体、どう言うことだ!? 克が、消えたぞ!?」
「はい?」
「知事たちを送る約束だったではないか! それがいきなり、『それどころではない』などと抜かし、消えおったぞ!」
「……ふむ」
事情を聞いたランドはあごに手を当て、静かにこう諭した。
「彼はここに戻る前から、何かを気にかけている様子でした。
普段から飄々と、他人や物事に執着しない彼が、あんな様子を見せるのは極めて稀なこと。僕自身、彼のあんな姿は初めて見ました。
であれば、それだけのことが起こっているのでしょう。それこそ、青州との同盟話が瓦解、雲散霧消しかねないくらいの、異常な事態が」
「むう」
まだ憮然としている玄蔵に、ランドは続けてこう尋ねた。
「彼はすぐ戻ると?」
「ああ。2時間と言っていた」
「なら、待ちましょう。
彼は約束を何よりも重んじる男です。彼が2時間で片を付けると言うのなら、2時間で解決するでしょう。
何も今日、明日戻らなければ、青州が滅亡するわけでもなし。2時間くらい、待って問題もないでしょう」
「……分かった。では、待つとしようか」
ようやく折れてくれた玄蔵に内心ほっとしながら、ランドもまた、大火の行動に不安を抱いていた。
(彼が約束を保留するなんて……?
本当にそれほどの事件が、起こっているんだろうか。……まあ、タイカなら何とでもするだろうし、僕も平気な振りをしていよう)
基地内に将校の姿をした怪物たちが侵入してから、2時間が経過していた。
「これで粗方、片付いたか……?」
虎尻尾の先からポタポタと汗を垂らしながら、レブがそうつぶやく。
「多分、ね」
一方、イールもびっしょりと、額に汗を浮かべている。
二人は基地内にまだ残っていた兵士たちに、あの「将校」たちの正体を報せて回りつつ、併せて退治も行っていた。
そして今、主不在の司令室でぼんやりと直立していた「将校」を倒し、一息ついたところだった。
「一体何だったんだ、こいつら?
どいつもこいつも、倒した途端に、なんかプルプルした石ころになって崩れ落ちた。何なんだろうな、この石」
レブは刀の先で、その半透明の、柔らかい石をぷにぷにとつつく。
「やめときなさいよ。何があるか分かんないわよ、その石」
「……そうだな。呪いでもかけてありそうだ」
イールに諭され、レブは素直に刀を納めた。
と――。
「……お、おいおい」
「ん?」
「外、海っ、見てみろ」
青ざめた顔で窓を眺めるレブを見て、イールも窓の方に目をやった。
「……う、そ」
「冗談じゃねえぞ……」
窓の外に見えていた軍艦から、「将校」たちを乗せた小船が次々とやって来るのが、二人の目に映った。
「あんなに来られたら、いくらなんでも相手しきれないわよ!?」
「ふざけんな、本当に一体なんなんだよ、あいつら……!」
二人は呆然と、立ち尽くすしかなかった。
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契約の悪魔、約束を保留する。
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5.
大火が居間に着いたところで、玄蔵がほっとした顔をして彼を出迎えた。
「おう、克。遅かったではないか」
「済まない。野暮用で、な」
玄蔵が立ち上がり、三縞知事たち二人を青江へ戻すよう促す。
「さあ、話は付いた。二人を戻し、作戦を進めよう」「……いや」
が、大火は小さく首を横に振った。
「少し、……そうだな、2時間ばかり待ってもらえないか」
「何?」
「もう一つ、野暮用だ。気にかかることがある」
「後にできんのか、それは? 二人がこちらに来て、もう丸一日経とうとしている。そろそろ戻らねば、軍や青州の制御が……」
「それどころではない、……ことになるかも知れんのだ」
「な……」
面食らう玄蔵と三縞知事たちを尻目に、大火はその場から姿を消した。
「……ふぁ、ファスタ卿! ファスタ卿!?」
「どうしました?」
呼ばれたランドが、そのまま隣の部屋からやって来る。
「一体、どう言うことだ!? 克が、消えたぞ!?」
「はい?」
「知事たちを送る約束だったではないか! それがいきなり、『それどころではない』などと抜かし、消えおったぞ!」
「……ふむ」
事情を聞いたランドはあごに手を当て、静かにこう諭した。
「彼はここに戻る前から、何かを気にかけている様子でした。
普段から飄々と、他人や物事に執着しない彼が、あんな様子を見せるのは極めて稀なこと。僕自身、彼のあんな姿は初めて見ました。
であれば、それだけのことが起こっているのでしょう。それこそ、青州との同盟話が瓦解、雲散霧消しかねないくらいの、異常な事態が」
「むう」
まだ憮然としている玄蔵に、ランドは続けてこう尋ねた。
「彼はすぐ戻ると?」
「ああ。2時間と言っていた」
「なら、待ちましょう。
彼は約束を何よりも重んじる男です。彼が2時間で片を付けると言うのなら、2時間で解決するでしょう。
何も今日、明日戻らなければ、青州が滅亡するわけでもなし。2時間くらい、待って問題もないでしょう」
「……分かった。では、待つとしようか」
ようやく折れてくれた玄蔵に内心ほっとしながら、ランドもまた、大火の行動に不安を抱いていた。
(彼が約束を保留するなんて……?
本当にそれほどの事件が、起こっているんだろうか。……まあ、タイカなら何とでもするだろうし、僕も平気な振りをしていよう)
基地内に将校の姿をした怪物たちが侵入してから、2時間が経過していた。
「これで粗方、片付いたか……?」
虎尻尾の先からポタポタと汗を垂らしながら、レブがそうつぶやく。
「多分、ね」
一方、イールもびっしょりと、額に汗を浮かべている。
二人は基地内にまだ残っていた兵士たちに、あの「将校」たちの正体を報せて回りつつ、併せて退治も行っていた。
そして今、主不在の司令室でぼんやりと直立していた「将校」を倒し、一息ついたところだった。
「一体何だったんだ、こいつら?
どいつもこいつも、倒した途端に、なんかプルプルした石ころになって崩れ落ちた。何なんだろうな、この石」
レブは刀の先で、その半透明の、柔らかい石をぷにぷにとつつく。
「やめときなさいよ。何があるか分かんないわよ、その石」
「……そうだな。呪いでもかけてありそうだ」
イールに諭され、レブは素直に刀を納めた。
と――。
「……お、おいおい」
「ん?」
「外、海っ、見てみろ」
青ざめた顔で窓を眺めるレブを見て、イールも窓の方に目をやった。
「……う、そ」
「冗談じゃねえぞ……」
窓の外に見えていた軍艦から、「将校」たちを乗せた小船が次々とやって来るのが、二人の目に映った。
「あんなに来られたら、いくらなんでも相手しきれないわよ!?」
「ふざけんな、本当に一体なんなんだよ、あいつら……!」
二人は呆然と、立ち尽くすしかなかった。
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