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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・異軍記 6

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    フォコの話、239話目。
    とりあえずの事態収拾。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     その時だった。
    「……え!?」
     軍港へと向かってくる舟の一つが突然爆発、炎上した。
    「こ、今度は何なんだよ!?」
    「……あ、もしかして」
     イールは司令室の窓を開け、外に出る。
    「やっぱり!」
     基地の屋根に目を向けると、そこには大火が立っていた。
    「タイカ! 戻ってきたのね!」
    「ああ、待たせたな。片を付けるから、そこで待っていろ」
    「あたしも手伝うわ!」
     イールの申し出に、大火は素直にうなずく。
    「分かった。では舟に電撃を放ち、迎撃してくれ。奴らは雷の術に弱い。
     俺はその間に、戦艦を沈めてくる。頼んだぞ」
     それを聞いて、イールの心中に疑問が生じる。
    (え……? タイカ、あいつらの正体を知ってるの?)
     聞こうとしたが、大火は既に、敵の本陣である戦艦へと飛んで行ってしまった。
    「……まあ、今はそれどころじゃないわね。
     じゃ、張り切っていくわよ……ッ! 『スパークウィップ』!」
     イールは雷の術を唱え、迫り来る舟を迎撃し始めた。

     沖合に停まっていた戦艦に降り立った大火は、軽くため息をついた。
    「予想通りか。……あまりこの類の予想など、当たってほしくも無いのだが」
     戦艦の甲板には、裕に500を越える「将校」が、整然と並んで立っていた。
     大火はそのうちの一体を捕まえ、雷の術を当てる。
    「『サンダーボルト』」
     パン、と破裂音を立て、「将校」の体に電撃が走る。
    「ぐぐぐがががごごごご」
     やはり人間とは思えない声を漏らし、「将校」は細かい石になって四散した。
     その柔らかく、半透明な小石の一つをつかみ、ぐにぐにと硬さを確かめながら、大火はつぶやく。
    「これも予想通り、ミスリル化珪素の一種か。
     ミスリル化珪素の精製はゴーレム製造の、基礎中の基礎。やはり『あいつ』が絡んでいると見て、間違いないだろう。
     だが、妙なのは」
     大火は石を握り潰し、甲板を見渡して、もう一度ため息をついた。
    「『あいつ』の姿も、気配も無い。これを率いてきたのは、一体誰だ?」
    「わたくしでございます」
     と、大火の独り言に応じる者がいる。
     大火が声のした方へ向くと、そこには黄と黒のストライプ柄の、あのピエロ服が立っていた。
    「お前は? コブラやヴァイパーと同じような奴か?」
    「その通りでございます。名前は、スパイダー」
    「今回こいつらを率いたのは、何のためだ?」
     大火の問いに、スパイダーはニヤニヤと笑うばかりで答えない。
    「もう一度聞くぞ。何のために、こいつらを青江へ送った?」
    「クスクスクスクス」
    「ふざけるな。いいから、答えろ。答えなければ、お前もコブラたちと同じ目に遭わせるぞ」
     刀を抜いた大火に対し、スパイダーはなおも笑い続ける。
    「クスクスクスクス」
    「……あるいは」
     大火は刀を構えながら、こう尋ね直した。
    「お前も知らされていない、と言うことか?」
    「クスクスクスクス」
     スパイダーは小さく頭を下げ、ぽつりと答えた。
    「その通りでございます」



     「将校」たちの乗る舟を粗方沈め、余裕のできたイールは戦艦に目をやった。
    「あ」
     それと同時に、戦艦から火が上がるのを確認する。
    「終わり、……か?」
    「そうみたい。……あ、戻ってきた」
     炎上する戦艦から飛んできた黒い点――大火をを見つけ、イールは手を振った。
    「おかえり、タイカ」
    「ああ」
     自分たちの横にすとんと着地した大火に、イールはいくつか質問をぶつけてみた。
    「あいつら、なんなの?」
    「いわゆるゴーレムと言う奴だ。簡単に言えば、石の塊を魔術で動かしていたのだ」
    「石の塊? あの、プルプルした半透明なヤツ?」
    「そうだ。ミスリル化珪素と言う」
    「けーそ?」
    「簡単に言えば、石ころだ。鉱物の磁力を操る土の術を以て組成、合成されている。それ故、磁力を阻害する雷の術に対して、非常に弱い」
    「あいつら清朝軍の軍服着てたけど、清王朝が差し向けてきたってコト?」
    「それは考えられん。生半可な魔術師に、あれほどの規模のゴーレム製造と操作はできんからな。もし清朝軍にそんな手練がいれば、戦局は今とは大きく変わっているはずだ」
    「じゃあ、一体誰が?」
     それまで丁寧に返答してくれた大火は、その質問に対しては言葉を濁した。
    「……俺も確証は無い。それについては明言できない」
    「ミシマ知事たちは?」
    「まだ湯嶺にいる。あのまま青江に戻すのは、危険と判断したからな」
    「じゃああんた、こうなるって知ってたの? セイコウが襲われるって、分かってたの?」
     イールのこの問いに、大火は背を向けてこう答えた。
    「いや、予想も出来なかった。俺も先程、別の筋で襲われ、それでこの件を察知したのだ」
    「襲われたって……、あんたが?」
    「ああ。……話は後にしてくれ。そろそろ知事たちをこちらへ帰さねば、な」
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