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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・異軍記 7

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    フォコの話、240話目。
    青州問題の解決と余波。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     青江に戻ってきた三縞知事と楊少将は、兵士とイールたちから改めて事情を説明され、目を丸くした。
    「謎の戦艦がやってきて、青江を襲った、……だって?」
    「確かに懸念していたことではあるが、その襲った者が何者とも知れぬ、怪物であるとは」
    「敵は清朝軍だけではない、と言うことか」
     知事のその言葉に、イールが大火に起因するものであると、補足しようとする。
    「あ、えっと、今回の件ですが……」
     が、言おうとしたところで、大火がそれをさえぎった。
    「どこにでも邪や妖、魔は現れ立つ、と言うことだろうな。つくづく油断のできん世の中だ」
    「ええ、確かに。まさか戦争に加え、こんな怪事まで起こるとは。
     え、と。克さん、サンドラ卿、そしてギジュン卿。今回の手助け、真に痛み入ります。あなた方がいなければ、青江は成すすべも無く陥落していたでしょう。
     湯嶺にてお話した件と共に、我々一同、あなた方に深い感謝と、できる限りの支援を行いたいと存じます」
    「ありがとうございます、閣下」
     イールとレブは、知事と少将に深々と頭を下げた。



     青州が焔軍と結託したことで、青玄街道における戦いは終息した。
     それと同時に央南北部沖における海路も全面的に焔軍が掌握し、これにより軍事面だけではなく、経済面においても大きなアドバンテージ、主導権を握ることとなった。
     反面、清王朝はこの一件により、より一層の苦境に立たされた。主要な軍事拠点がまた一つ陥落し、軍事的に劣勢になっただけではない。大きな港と州一つを奪われたために、域内外における商取引の、その半分近くが清王朝の手から離れてしまったからだ。
     当然、税収なども大幅に減ることとなり、いよいよ清王朝の財政は逼迫(ひっぱく)し始めた。

    「食事がまた、一段と寂しくなったのう」
     スカスカの食膳を見た一富王が、ぽつりとそう漏らした。
    「仕方無きことです、陛下。今や前年、一昨年の4分の1ほどしか税を集められぬ状態でございます故」
    「分かっておる。わしが言いたいのは、いつ、この食卓が豊かになるか、だ。
     彼奴の言によれば、確かに多少の出費はやむを得ない、しかしいずれは勝利し、元が取れるだろう、とのことであった。
     だが、その『いずれ』とは一体、いつのことなのか。もうその言自体、1年も昔の話だ」
    「……一刻も早く、勝利をつかまねばなりますまい」
    「うむ」

     物陰で話を聞いていたサザリーは、じっと自分の掌を見つめていた。
    (僕は一体、何をやってるんだろうか。
     いつだっけか、父さんはこう言っていた。『真の商人とは、己の私腹を肥やす者にあらず。相手を、市場全体を肥やす者である』と。
     父さんの、その言葉を借りるなら、……僕は商人じゃないじゃないか。市場を肥やす? 取引相手を肥やす? ……できてない、できてないよ、ちっとも!
     取引相手、カズトミ王は、日に日に痩せていっている。この央南も、財政難とそのための重税で、どんどん貧しくなってくる。しかもケネスの計画が実れば、央中市場も壊滅する。
     それ以前に、……僕も、貧しくなってきたよ。元からガイコツ顔なんて言われてるのに、……もう手触りが、ゴリゴリしちゃってるもの)
     サザリーは自分の頬に手を当て、深いため息をつく。
    (僕は商人になれてない。もっと別の、わけの分からない、どうしようもない、滅茶苦茶なものになりかかってる。
     ……やっぱり僕は、エール家の器じゃ無かったんだな。ごめんよ、ルシアン兄さん。あんたを追い出さなきゃ、エール家はもっと、いい感じになってただろうに)
     サザリーは誰にも気付かれぬよう、そっと王の間から去った。



     大火は一人、思案に暮れていた。
    「……」
     今回の怪異を、自分なりに検討していたのだが――。
    「……分からん。何故あいつは、青江を襲おうとしたのか。何故俺の前に、益体も無いものどもを差し向けたのか。
     難訓め――どこまでも俺に刃向かう、『白い妖魔』めが。一体何を……、考えているのか?」
     答えは、出なかった。

    火紅狐・異軍記 終
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