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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第5部

    火紅狐・破渉記 1

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    フォコの話、241話目。
    和平への光明。

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    1.
     双月暦311年6月。
     央南西部、中部、そして北東部を奪われた清王朝は、進退を窮めていた。
    「もう無理、……ですね」
     サザリーからの通達に、一豊王はへたり込んだ。
    「なん……だと……」
    「これをお伝えするのは非常に心苦しいですが、どうあがいても、あと3か月ほどで戦費は底を付きます。
     それ以上戦うとなれば、王朝を維持するための諸費用――例えば人件費ですとか、公益施設の維持費ですとか、その他諸々の歳出を、戦費へと回さなければならないでしょう。
     そしてそれを行えば、完全に清王朝の命脈は尽きます。だってそれは、人間に例えれば手足を切り売りするようなもの。いくらお金が入っても、その後使うことなんか……」「ふざけるなあああ……ッ!」
     痩せ細り、フラフラとした所作で構えていた一豊王だったが、サザリーのこの言には、猛烈に憤った。
    「お前が、お前が戦えと言ったのだぞ!? お前が、戦費の管理を任されていたのだぞ!? それが、それが……っ、もう、手は無いと言うのか!?」
    「え、ええ。八方手を尽くしたんです。それでも、もう借入れは限界額に達しており、どこからも借りる当てが無いんです。
     重ねて、税収も最早王朝の維持費を下回りつつあります。この上さらに戦うとなれば、王朝の維持は不可能。本当に、清王朝は破綻します。
     ですから……、執るべき道はもう、一つしか」
    「……降伏せよと言うのか、奴らに」
    「隠し金山の三つや四つあると言うのなら、別なんですけど」
    「ぐう、……う、ぅぅ……っ」
     それを聞いて、一豊王は倒れてしまった。

     倒れた一豊王は最早、政務に就ける状態ではなく、急遽その息子、一善が即位し、今後の政務に当たることとなった。
    「此度の戦いの件、常々どうにかしなければ、と思っていたが、まさか私に鉢が回って来るとは思わなかった」
    「そうですか、そうですか。いや、大変でしたねぇ」
     突然の代替わりには多少驚いてはいたが、サザリーはさほど慌ても困りもしていなかった。
     何故なら、先代一豊の代で既に、軌道修正が不可能なほどに債務を抱えさせていたし、それで自分の仕事は八割方終わっていたからである。
     後はどのようにして白京を陥落させ、かつ、自分が肉体的・経済的に無傷で央南を脱出するかが課題だったが――。
    「エール殿。頼みたいことがあるのだが、聞いてくれるか」
    「なんなりと。降伏ですか? それとも失地回復に?」
    「敵軍総大将、穂村玄蔵氏との交渉だ。
     このまま降伏しては、我が清家の名折れであり、清王朝は後の歴史に大きな汚点を残すこととなる。
     かと言って君が言っていた通り、徹底抗戦などに踏み切っては、万が一勝てたとしても、その代償があまりにも大きすぎる。
     臣民の大事を考え、かつ、我が清王朝の体面を維持するには、敵方と交渉を重ね、我らの傘下に入ってもらうか、あるいは領土を正式に割譲し、央南を二分して治めるよう協議するか。
     どちらにしても、今が好機なのだ」
    「好機……、ですか?」
     この辺りで、サザリーは自分の計画進行に対し、不穏なものを感じた。
    「ああ。元々、この戦いが始まったのは、父の代で犯した傲慢・強欲がきっかけだ。
     言わば国民は、父に対して不信感を持っており、それを穂村氏が焚き付けたために、国を揺るがす一大事へと発展していったのだ。
     そこに来て今回の、私の即位だ。これならば前述の件に関し、申し開きもいくらかできるだろう。先方も『王が変わったとなれば、話し合う余地もあるだろう』と、矛を収めてくれるかも知れない」
    「なるほど、そうですか、うーん……」
     サザリーは言葉を濁しながら、この行動がどんな影響を及ぼすか検討していた。
    (このまんま進めるとまずいかな……?
     重要なのは、このままこの国が潰れて債務不履行になって、あちこちの商人が貸し付けた金が全部返ってこなくなっちゃう、って展開になってくれることだ。
     そこに、この案。もしうまく行って、債務が綺麗に返されたら? ……そうなるとまずくないか? 結局、央中商人は大儲け。僕らには手間賃しか残らない。
     あー……、そんなの、『あいつ』が認めるわけ無い。……となれば、僕の身も危ない。絶対こいつに、そんなことさせちゃダメだ!)
    「……どうされた、エール殿?」
     黙りこくったサザリーに、一善王が声をかけてくる。
    「あ、ああ。ええ、まあ、何とか、声をかけてみようかと」
    「そうか。では、よろしく頼んだぞ」
     そう言って、一善王はポンと、サザリーの肩を叩いた。
    「君が頼りだ。どうか、見捨てないでほしい」
    「……は、い。勿論、です、とも」
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