「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・破渉記 2
フォコの話、242話目。
已んぬる哉。
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2.
サザリーの、央南におけるコネクションを通じて、停戦交渉の旨が焔軍側に伝えられた。
これを聞いた玄蔵とランドは、すぐに対応を協議した。
「どうする、ファスタ卿?」
「どうしたいですか、統領」
「無論、拙者は応じるつもりだ。これ以上無闇な争いが無くなるならば、それに越したことは無い」
「僕も同意見です。では、交渉の場を設けるよう、先方に答えておきましょう」
「頼んだ」
サザリーからの使いを返したところで、ランドが尋ねる。
「交渉には応じる、とのことでしたが、具体的な落としどころはどうしましょう?」
「落としどころ? ……ふむ、確かに我々の勢力は思っていた以上に拡大した。このまま一つの国として動いても、何ら問題のないくらいにな。最早『焔軍』とは単なる賊軍、王朝に反旗を翻す組織ではなくなってきている。
仮に清王朝側が『これまでのことは一切許してやるから、我々の傘下に収まってくれ』などと申してきても、到底それを呑むことはできぬ」
「でしょうね。恐らくそれは、央南の皆も納得されないでしょう。相手も余程傲慢でない限り、それは理解しているでしょうし、もっとこちらに阿った条件を提示してくるでしょう」
「だろうな。例えば……」
「そうですね、最大で『天神側以西における軍事・政治的諸権利の移譲と、相互不可侵条約の締結』、と言うところでしょう。まあ、これを提示されたなら、呑む方が賢明ですね。
央南も狭い土地ではありません。ここでもし、央南全土を全て手中に……、などと望み、万が一それが実現したとしても、恐らく体制の維持は20年、30年とは続かないでしょう。そうなればまた、戦乱の世になるでしょうし、それを望む民衆はいないでしょう」
「ふむ、確かに。そう考えれば、妥当な落としどころではあるな」
「後は玄州や青州の知事らと相談して、彼らの要望も織り込んで交渉するのが、最も望ましいでしょう」
「なるほど。確かに玄州の早田知事や青州の三縞知事らは、清王朝から独立したいと言っていたし、それ故にこれまで協力してくれたのだ。
彼らの要望も伝えねば、交渉の場を設ける意味も無し」
「では、早速彼らと連絡を取り、意見調整を行いましょう」
こうしてランドたちは、停戦交渉に対して早急に、かつ、合理的に動いた。
一方、サザリーは――。
「僕は、……正直、どうしようかと悩んでいるんです」
《そうか……》
このままケネスの命令・思惑通りに事を進めれば、清王朝は崩壊する。そうなれば、確かにケネスと、彼の傀儡と化したエール商会の懐は潤うことになる。
だが、間違いなく自分の、商人としての評判は地に墜ちることとなる。ケネスの踏み台にされ、商人社会から完全に抹殺されることになるのだ。
いくら自分が商人に向いていないと痛感していても、自らその道を捨てることなどできないと、サザリーはこの局面に至ってようやく、兄に相談したのだ。
《確かに、このまま進めていけば、お前は商人の道を諦めざるを得なくなるだろう。
いくら私やエンターゲート氏からの援助でこの先暮らしていけるとしても、それが、お前が死ぬまで確実に続くとは、……言い難い》
「でしょう? だからもう、僕はここで、エンターゲート氏と手を切って、央南で身を立ててみようかと……」《サザリーよ》
「魔術頭巾」の向こうから兄、ミシェルのため息が聞こえてくる。
《その判断は、遅すぎたな》
「えっ……」
《もう事態は引き返せない、軌道変更できないところまで来てしまっている。
仮にお前が氏と手を切り、央南のために尽力したとしよう。だが、それがどうなる? 最早清王朝は死に体、今回の交渉がどう運ぼうとも、信用は取り戻せん。10年を待たずして、清王朝は焔軍に吸収されるだろう。
さらに言えば、氏はお前の裏切りを許さないだろう。あらゆる手を使い、お前の取引を妨害するに違いない。そうなればどちらにせよ、お前の未来は無い》
「でも、じゃあ、どうすれば……」
《覚悟を決めることだ、サザリー。もう逃げられはしない。
お前の行く道は破滅へ向かっている。それはもう、エンターゲート氏に手を貸した時点で決定していたことだ。
そこから軌道修正する努力を、お前は何らしてこなかったのだ。であれば、この結末は至極、必然。もう受け入れるしか、……あるまい》
「そんな……」
《弟よ。……私が、できる限りお前を助けてやる。……だから、進め。
もう執るべき道は、一つしかない。清王朝を潰し、利潤を生み出し、それを氏と、私に吸わせるしかないのだ。
それ以外に道は無い。このまま清王朝が生きながらえれば、利潤は生まれない。そうなれば、氏は私たちを助けないだろう。
進むしか、無いのだ。例えお前の命脈が尽きようとも》
そこで通信が切れる。
「……兄さん……」
サザリーの口の中は、からからに乾いていた。
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已んぬる哉。
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サザリーの、央南におけるコネクションを通じて、停戦交渉の旨が焔軍側に伝えられた。
これを聞いた玄蔵とランドは、すぐに対応を協議した。
「どうする、ファスタ卿?」
「どうしたいですか、統領」
「無論、拙者は応じるつもりだ。これ以上無闇な争いが無くなるならば、それに越したことは無い」
「僕も同意見です。では、交渉の場を設けるよう、先方に答えておきましょう」
「頼んだ」
サザリーからの使いを返したところで、ランドが尋ねる。
「交渉には応じる、とのことでしたが、具体的な落としどころはどうしましょう?」
「落としどころ? ……ふむ、確かに我々の勢力は思っていた以上に拡大した。このまま一つの国として動いても、何ら問題のないくらいにな。最早『焔軍』とは単なる賊軍、王朝に反旗を翻す組織ではなくなってきている。
仮に清王朝側が『これまでのことは一切許してやるから、我々の傘下に収まってくれ』などと申してきても、到底それを呑むことはできぬ」
「でしょうね。恐らくそれは、央南の皆も納得されないでしょう。相手も余程傲慢でない限り、それは理解しているでしょうし、もっとこちらに阿った条件を提示してくるでしょう」
「だろうな。例えば……」
「そうですね、最大で『天神側以西における軍事・政治的諸権利の移譲と、相互不可侵条約の締結』、と言うところでしょう。まあ、これを提示されたなら、呑む方が賢明ですね。
央南も狭い土地ではありません。ここでもし、央南全土を全て手中に……、などと望み、万が一それが実現したとしても、恐らく体制の維持は20年、30年とは続かないでしょう。そうなればまた、戦乱の世になるでしょうし、それを望む民衆はいないでしょう」
「ふむ、確かに。そう考えれば、妥当な落としどころではあるな」
「後は玄州や青州の知事らと相談して、彼らの要望も織り込んで交渉するのが、最も望ましいでしょう」
「なるほど。確かに玄州の早田知事や青州の三縞知事らは、清王朝から独立したいと言っていたし、それ故にこれまで協力してくれたのだ。
彼らの要望も伝えねば、交渉の場を設ける意味も無し」
「では、早速彼らと連絡を取り、意見調整を行いましょう」
こうしてランドたちは、停戦交渉に対して早急に、かつ、合理的に動いた。
一方、サザリーは――。
「僕は、……正直、どうしようかと悩んでいるんです」
《そうか……》
このままケネスの命令・思惑通りに事を進めれば、清王朝は崩壊する。そうなれば、確かにケネスと、彼の傀儡と化したエール商会の懐は潤うことになる。
だが、間違いなく自分の、商人としての評判は地に墜ちることとなる。ケネスの踏み台にされ、商人社会から完全に抹殺されることになるのだ。
いくら自分が商人に向いていないと痛感していても、自らその道を捨てることなどできないと、サザリーはこの局面に至ってようやく、兄に相談したのだ。
《確かに、このまま進めていけば、お前は商人の道を諦めざるを得なくなるだろう。
いくら私やエンターゲート氏からの援助でこの先暮らしていけるとしても、それが、お前が死ぬまで確実に続くとは、……言い難い》
「でしょう? だからもう、僕はここで、エンターゲート氏と手を切って、央南で身を立ててみようかと……」《サザリーよ》
「魔術頭巾」の向こうから兄、ミシェルのため息が聞こえてくる。
《その判断は、遅すぎたな》
「えっ……」
《もう事態は引き返せない、軌道変更できないところまで来てしまっている。
仮にお前が氏と手を切り、央南のために尽力したとしよう。だが、それがどうなる? 最早清王朝は死に体、今回の交渉がどう運ぼうとも、信用は取り戻せん。10年を待たずして、清王朝は焔軍に吸収されるだろう。
さらに言えば、氏はお前の裏切りを許さないだろう。あらゆる手を使い、お前の取引を妨害するに違いない。そうなればどちらにせよ、お前の未来は無い》
「でも、じゃあ、どうすれば……」
《覚悟を決めることだ、サザリー。もう逃げられはしない。
お前の行く道は破滅へ向かっている。それはもう、エンターゲート氏に手を貸した時点で決定していたことだ。
そこから軌道修正する努力を、お前は何らしてこなかったのだ。であれば、この結末は至極、必然。もう受け入れるしか、……あるまい》
「そんな……」
《弟よ。……私が、できる限りお前を助けてやる。……だから、進め。
もう執るべき道は、一つしかない。清王朝を潰し、利潤を生み出し、それを氏と、私に吸わせるしかないのだ。
それ以外に道は無い。このまま清王朝が生きながらえれば、利潤は生まれない。そうなれば、氏は私たちを助けないだろう。
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