「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第5部
火紅狐・破渉記 3
フォコの話、243話目。
必死の要請。
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3.
交渉の予定は着々と立てられ、双方とも相手に提示する条件をまとめた。
まず、清王朝側。一番に要求されたのは、焔軍による侵略活動の停止。先述の通り、既に清朝軍は戦える状態になく、これ以上の応戦は清王朝の体制維持に関わるためである。
そしてその代わりに央南西部、黄海と狐弦のある黄州と、湯嶺を含む紅州、そして央南の辺縁地域、屏風山脈東側の麓を含む西辺州を焔軍の領地にすることを認め、当該地域の諸権利を譲渡すると申し出てきた。
対する焔軍側は、自分たちの領土を黄州・紅州・西辺州に加え、さらに青江や三岬、大月を含む青州と、天玄を含む玄州まで主張した。これは央南領土の8割近くに相当し、この条件を呑めば清王朝は央南全土の支配者から、ただの一小国へと転落する。
だが、流石に落ち目の清王朝といえども、そこまでは呑めない。そこで交渉の場で譲歩と提案を行い、最初にランドが見込んでいた条件――央南西部の獲得と、青州・玄州独立に話をまとめよう、と言う計算を立てている。
その準備を整え、後は実際に交渉の場を迎えるだけとなり、双方には「これで戦争が終わる」と言う、安堵の空気が漂い始めていた。
一方、サザリーはまた、「魔術頭巾」を使っていた。
《急に連絡してきたかと思えば、いきなりそんなことを》
「お願いします。緊急を要するんです」
《……》
ケネスと連絡を取り、ある要請を送っていた。
しかし、ケネスはこの要請に対し、難色を示している。
《断る。いたずらにリスクを上げるだけだ。それくらい、君の方で何とか……》「いいんですね?」
サザリーは声を張り上げ、ケネスに食って掛かる。
「このまま僕が手をこまねいている間に交渉がまとまり、双方仲良しになってハイ解決、で、本当にいいんですね?」
《良いわけがなかろう。そうなっては君が困るはずだ。違うかね?》
「違いますね。困るのは、あなただ」
《なに?》
サザリーの反応が予想外だったらしく、ケネスの声が揺らぐ。
「この交渉がまとまって、央南内外の交易が正常化すれば、清王朝はわずかずつでも、どうにか債務を消化するでしょう。そうなれば傾いても国家、これ以上ないくらい、ちゃんとした組織なんですから、信用は回復していくはず。
そうなれば、どうなりますか? あなたが散々画策してきた央中債権踏み倒しと西方への需要転換、その目論見は水泡に帰すでしょうね。
そうなれば困るのは、あなただけだ。僕たちは今まで通り、困窮したままですし、何の変わりも無い」
《ふざけるなよ、サザリー君》
「頭巾」の向こうから、憤った声が聞こえてくる。
《今現在で困窮しているのは、間違いなく君たちだ。私ではない。それを間違えるな》
「ええ、今現在、確かに、僕たちエール家は困ってますよ。でも結局、このまま放っておいては、あなたも同じ穴のムジナだ。
聞いてますよ、債務が弾けた後のために、あなたは莫大な投資をしてるって。あなたがここで『やだやだリスクこわいこわい』なんて尻込みして、もしその投資が、……実らなかったら?
その時の損害は、僕たちエール家の抱える債務の比ではない。下手をすれば、あなたと僕たちの立場が逆転するかもしれないんですよ? それが分かっていての、却下ですか?」
《……》
「もう一度お願いします。暗殺者の手配をお願いします。
このまま僕に何もかも押し付けて、後は何が起ころうが知らんぷりなんて、絶対にさせませんよ……!」
そこでサザリーは言葉を切り、沈黙する。
しばらく間を置いて、ケネスが口を開いた。
《……そこまで言うなら、仕方がない。手配してやろう。何名必要だ?》
「1名でいいです。ただし条件が2つ」
《なんだ?》
「一つは、相当腕の立つ人間を。それこそ、どんな注文にも対応できる、凄腕の暗殺者を用意してください。
もう一つは……」
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必死の要請。
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3.
交渉の予定は着々と立てられ、双方とも相手に提示する条件をまとめた。
まず、清王朝側。一番に要求されたのは、焔軍による侵略活動の停止。先述の通り、既に清朝軍は戦える状態になく、これ以上の応戦は清王朝の体制維持に関わるためである。
そしてその代わりに央南西部、黄海と狐弦のある黄州と、湯嶺を含む紅州、そして央南の辺縁地域、屏風山脈東側の麓を含む西辺州を焔軍の領地にすることを認め、当該地域の諸権利を譲渡すると申し出てきた。
対する焔軍側は、自分たちの領土を黄州・紅州・西辺州に加え、さらに青江や三岬、大月を含む青州と、天玄を含む玄州まで主張した。これは央南領土の8割近くに相当し、この条件を呑めば清王朝は央南全土の支配者から、ただの一小国へと転落する。
だが、流石に落ち目の清王朝といえども、そこまでは呑めない。そこで交渉の場で譲歩と提案を行い、最初にランドが見込んでいた条件――央南西部の獲得と、青州・玄州独立に話をまとめよう、と言う計算を立てている。
その準備を整え、後は実際に交渉の場を迎えるだけとなり、双方には「これで戦争が終わる」と言う、安堵の空気が漂い始めていた。
一方、サザリーはまた、「魔術頭巾」を使っていた。
《急に連絡してきたかと思えば、いきなりそんなことを》
「お願いします。緊急を要するんです」
《……》
ケネスと連絡を取り、ある要請を送っていた。
しかし、ケネスはこの要請に対し、難色を示している。
《断る。いたずらにリスクを上げるだけだ。それくらい、君の方で何とか……》「いいんですね?」
サザリーは声を張り上げ、ケネスに食って掛かる。
「このまま僕が手をこまねいている間に交渉がまとまり、双方仲良しになってハイ解決、で、本当にいいんですね?」
《良いわけがなかろう。そうなっては君が困るはずだ。違うかね?》
「違いますね。困るのは、あなただ」
《なに?》
サザリーの反応が予想外だったらしく、ケネスの声が揺らぐ。
「この交渉がまとまって、央南内外の交易が正常化すれば、清王朝はわずかずつでも、どうにか債務を消化するでしょう。そうなれば傾いても国家、これ以上ないくらい、ちゃんとした組織なんですから、信用は回復していくはず。
そうなれば、どうなりますか? あなたが散々画策してきた央中債権踏み倒しと西方への需要転換、その目論見は水泡に帰すでしょうね。
そうなれば困るのは、あなただけだ。僕たちは今まで通り、困窮したままですし、何の変わりも無い」
《ふざけるなよ、サザリー君》
「頭巾」の向こうから、憤った声が聞こえてくる。
《今現在で困窮しているのは、間違いなく君たちだ。私ではない。それを間違えるな》
「ええ、今現在、確かに、僕たちエール家は困ってますよ。でも結局、このまま放っておいては、あなたも同じ穴のムジナだ。
聞いてますよ、債務が弾けた後のために、あなたは莫大な投資をしてるって。あなたがここで『やだやだリスクこわいこわい』なんて尻込みして、もしその投資が、……実らなかったら?
その時の損害は、僕たちエール家の抱える債務の比ではない。下手をすれば、あなたと僕たちの立場が逆転するかもしれないんですよ? それが分かっていての、却下ですか?」
《……》
「もう一度お願いします。暗殺者の手配をお願いします。
このまま僕に何もかも押し付けて、後は何が起ころうが知らんぷりなんて、絶対にさせませんよ……!」
そこでサザリーは言葉を切り、沈黙する。
しばらく間を置いて、ケネスが口を開いた。
《……そこまで言うなら、仕方がない。手配してやろう。何名必要だ?》
「1名でいいです。ただし条件が2つ」
《なんだ?》
「一つは、相当腕の立つ人間を。それこそ、どんな注文にも対応できる、凄腕の暗殺者を用意してください。
もう一つは……」
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