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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・術数録 5

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    晴奈の話、第102話。
    新たな戦いの始まり。

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    5.
     晴奈たちのところに戻ろうと、エルスたちが腰を上げたその時だった。
    「エルス! 大変だ!」
     書庫の扉を開け、晴奈がバタバタとエルスたちに近寄ってきた。
    「どうしたんですか、姉さん?」
     面食らった様子で声をかける良太に、晴奈はコホンと咳払いして説明する。
    「先程、黄海から速達で文が届いた。天玄に、天原の手勢が攻め込んだらしい。現在応戦中とのことだ」
    「いつの手紙?」
    「3日前の日付だ。ここから天玄まで、早足で行っても10日はかかる。急がねば、エルス!」
    「ああ、すぐ向かおう」
     急かす晴奈にうなずきつつ、エルスは良太に頭を下げた。
    「ありがとう、リョータ君。助かったよ。奥さんとおじいさんに、よろしく言っておいてね」
    「え、ええ」
     まだ目を丸くしたままの良太を残し、晴奈とエルスは書庫を飛び出す。
    「お姉さま!」
     と、書庫を出たところで、明奈も合流する。
    「明奈、出立の準備はできたか?」
    「ええ。あの、お姉さま。このまま徒歩で行くと、大分かかってしまいます」
    「ああ、急がねば」
     が、踵を返しかける晴奈の手を、明奈が握って引き止める。
    「ですので、わたしに考えが」
    「うん?」
     そのまま明奈に案内され、晴奈とエルスは彼女に付いて行く。
     広間に着いたところで、明奈は大きめの巾着袋から、6畳ほどの大きさの布を引っ張り出した。
    「こんなこともあろうかと、用意しておいたんです」
    「何だ、これは?」
    「黒炎教団に伝わる秘伝、『移動法陣』です」
     明奈は布を広げ、呪文が書かれた紙を手に取る。それを見ていたエルスが、半ば驚いた様子で微笑む。
    「もしかして『テレポート』? すごいねメイナ、そんな術も使えるんだ。僕が聞いた話じゃ、かなり大掛かりな装置がいるって聞いたけど」
     そう尋ねたエルスに、明奈は表情を曇らせた。
    「ええ、教団にいた時にこっそり写しを取っていたんです。脱走目的で。
     でもエルスさんの言う通り、本来ならもっと安定性を高めるために、より大きい魔法陣と人員を必要とするんです。
     恐らくこの状況で運用すると、2人を送るのが精一杯ですし、入口、出口とも、一回で焼き切れてしまうでしょうね」
     これを聞いて、エルスは肩をすくめた。
    「ありゃ、そうか。便利になるかと思ったけど」
    「そもそも、あの……、わたし、未熟なので成功するか、保障が無いんです」
    「……構わないさ。一か八かだとしても、早く行ける手段が使えそうなら、迷わず使う」
     エルスに続き、晴奈も明奈の肩に手を置き、優しく声をかけた。
    「ありがとう、明奈。お前がいてくれて、本当によかった」
    「こちらこそ頼りにしていただけて嬉しいです、お姉さま」
     話している間に明奈の準備が整い、布に描かれた魔法陣が紫色に輝き始める。
    「うまく行きそうです! 1、2の3、で天玄に飛ばします! 二人とも、乗って!」
    「分かった。それじゃ行ってくるね、メイナ」
     エルスは迷い無く、ポンと布の上に乗る。晴奈も明奈から手を離し、エルスに続く。
    「それじゃ……、行きます! 1、2の、……」
     明奈は組んでいた手を解き、布をつかむ。
    「3!」
     次の瞬間、空気が歪んだ。

    「……お、っとっと」
     世界が一瞬で切り替わり、晴奈とエルスは同時によろける。
    「ここは……」
    「天玄館の、客間だ。……へぇ」
     エルスはきょろきょろと部屋を見回し、焦げた床を見て口笛を吹いた。
    「メイナ、本当にいい子だね」
    「何?」
    「変な意味じゃないよ。こうやって無事、成功させてくれたってことだよ。きっと彼女、ものすごく熱心に研究したんだろうね」
    「そうだな。……明奈」
     晴奈は床を撫でながら、妹の名前をつぶやく。
     そしてすぐに立ち上がり、エルスの目を見据えた。
    「さあ、また戦いが始まる。存分に戦い抜こうぞ!」
    「勿論さ。気合入れていこう、セイナ!」
     晴奈とエルスは手をがっしりと組み、互いの闘志に火を入れた。



    《皆さん、今が絶好の機会です!》
     黒装束に身を包んだ者たちの頭に、天原のキンキンとした声が響く。
    《陽動作戦の効果は絶大でした! 今、天玄は混乱状態にあります! ここで天玄館を襲い、街を制圧すれば作戦は完了です!
     さあ今一度、僕に天玄を贈りなさい! 何の遠慮も、躊躇いもいりません! 街を燃やしても気にしません! 家中から盗んじゃってもいいです! 何なら50人や100人くらい殺しちゃっても、一向に構いません!
     何が何でも、作戦を成功させるのですよっ!》
     天原の偏執的な叫びを聞き、先頭に立っていた篠原はため息をつく。
    「皆の者。殿はああ言っているが、剣士の誇りを忘れるな。誇り高く、任務を全うしろ。それが真の忠義と言うものだ。
     では、作戦を開始する」
     篠原の抑揚の無い号令に、黒装束たちは深々とうなずき、四方に散っていった。残った篠原は、すぐ背後にいた二名の黒装束に声をかける。
    「……朔美、霙子。俺を、どう思う」
    「どう、とは?」
     霙子と呼ばれた少女が尋ねると、篠原は低い声をさらに重たく落して答える。
    「バカ殿にこびへつらい、録を食む毎日。隠密行動で、見たくも無い人の粗を探す毎日。あれほど憎んでいた黒炎教団に与し、あの黒狼の欲求を満たす毎日――俺は今、己を恐ろしく恥じている」
     肩を落とす篠原に、竹田が手を添える。
    「あなた、疲れてらっしゃるのよ。大丈夫、目的はもうすぐ叶うわ」
    「そう、かな」
    「そうよ。わたしたちの力があればいずれ、あのバカ殿の裏をかける。
     ワルラス卿だって、いつも央南にいるならまだしも、普段はあの『屏風裏』に隠れているのだから、きっとやり込めることができるわ。
     もう少しで悲願が叶うのよ、あなた」
     竹田の声援に、うなだれていた篠原は胸を張って応える。
    「……そうだな。この恥辱も、いずれは報われる。そのはずだ。
     さあ、今は道化でいるとしよう。あの館を落とし、殿のご機嫌取りをせねばな」
    「その調子よ、あなた。さ、霙子ちゃんも行きましょう」
    「はい、義母様」
     篠原たち三名も、天玄へと足を進め始めた。

    蒼天剣・術数録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.10 転載
    2016.03.20 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    エルスが思い付いた手段は、残念ながら実現には至りませんが、
    ヒントは次の次、「霊剣録」の中にあります。

    篠原は「自分で決定を下せない人間」になってしまっています。
    ある「誰か」に命じられないと、まともな行動が取れない。
    そんな、非常に意志薄弱な人間になっています。
    エルスが使おうとした作戦は、それを利用したものです。

    NoTitle 

    エルスくんの考えはもしかしたらこうですかな。

    「そうだ! プライドの高いやつは、おだてるに限る」

    わたしはほかに手段が思いつきませんでしたが。

     

    随分読んでいただけて、ありがたい限りです(*´∀`)
    これからもよろしくお願いします。

    この時点で、第1部開始から10年経っちゃってますからねぇ。
    一人二人、親になっていてもおかしくない年数。

     

    100話を超えた!!……といっても、私の小説も総合計すると100以上ありますね。お互いに長編連載は大変ですね。。。と思います。どうも、LnadMです。とりあえず、100話以上読めました~~。結構長くかかりましたね、スイマセン。

    良太がお父さんになっているというのも、歴史を感じますね。

    私信ですが、新連載始まりました。また、今回もよろしくお願いします。
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